地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第53話 氷叢さんと神野の決戦(1)

オールマイト side

 

 時は二日前に遡る。

 林間合宿襲撃の翌日。

 我々雄英教師陣は、会議室で今回の事件に関する会議を開いていた。

 

「敵(ヴィラン)との戦闘に備える為の合宿で襲来…恥を承知でのたまおう。“敵(ヴィラン)活性化の恐れ”……という我々の認識が甘すぎた。奴らは既に戦争を始めていた。ヒーロー社会を壊す戦争をさ」

「認識できていたとしても防げていたかどうか…これ程執拗で矢継ぎ早な展開……オールマイト以降組織立った犯罪はほぼ淘汰されてましたからね…」

『要は知らず知らずの内に平和ボケしてたんだ、俺ら。“備える時間がある”っつー認識だった時点で』

 

 校長とミッドナイトに続けて、プレゼント・マイクも今の警戒態勢に対して指摘をした。

 

「己の不甲斐なさに心底腹が立つ…彼らが敵(ヴィラン)に襲われていた頃、私は…半身浴に興じていた…っ!!」

 

 私は、顔の前で両手の指を重ね合わせて俯きながら、己の失態を悔いていた。

 私がその場に居さえすれば、爆豪少年と氷叢少女を……皆を救えたかもしれないのに……!!

 

「襲撃の直後に体育祭を行う等…今までの『屈さぬ姿勢』はもう取れません。生徒の拉致、雄英最大の失態だ。奴らは爆豪や氷叢と同時に我々ヒーローへの信頼も奪ったんだ」

「現にメディアは雄英の非難でもちきりさ。氷叢くんを狙ったのは強力な“個性”を狙ってのことだろうし、爆豪くんを狙ったのも恐らく体育祭で彼の粗暴な面が少なからず周知されていたからだね。もし彼等が敵(ヴィラン)に懐柔されでもしたら、教育機関としての雄英はお終いだ」

 

 スナイプが言うと、校長は見出しに『雄英大失態』と書かれた新聞と、同様のネットニュースが表示されたタブレットを取り出しながら言った。

 すると唐突にプレゼント・マイクも口を開く。

 

『信頼云々ってことでこの際言わせてもらうがよ…今回で決定的になったぜ。いるだろ、内通者』

 

 プレゼント・マイクが、この場にいる全員に疑いの目を向けながら言った。

 

『合宿先は教師陣とプッシーキャッツしか知らなかった! 怪しいのはこれだけじゃねえ。ケータイの位置情報なり使えば生徒にだって───……』

「マイク、やめてよ」

『洗おうぜ、この際てってー的に!!』

 

 ミッドナイトの制止も無視して、プレゼント・マイクが犯人探しをしようとする。

 するとスナイプが、冷静にプレゼント・マイクを諭す。

 

「お前は自分が100%シロという証拠を出せるか? ここの者をシロだと断言出来るか?」

『Umm…』

「お互い疑心暗鬼となり内側から崩壊していく。内通者探しは焦って行うべきじゃない」

 

 スナイプが諭すと、プレゼント・マイクは腕を組みながら押し黙る。

 

「少なくとも私は君達を信頼してる。その私がシロだとも証明しきれないワケだが。とりあえず学校として行わなければならないのは生徒の安全保証さ。内通者の件もふまえ…かねてより考えていたことがあるんだ。それは…」

『でーんーわーがー来た!』

 

 校長が話を続けようとした時、私の携帯から着信音が鳴る。

 

「すみません、電話が」

『会議中っスよ! 電源切っときましょーよ!』

 

 プレゼント・マイクのツッコミに謝りながら、私は会議室を出て、通話を開始した。

 

「…すまん、何だい? 塚内くん」

『今イレイザーヘッドとブラドキングから調書を取っていたんだが、思わぬ進展があったぞ! 敵(ヴィラン)連合の居場所、突き止められるかもしれない』

 

 何だって……!?

 

『二週間程前、“顔中ツギハギの男がテナントの入ってないハズのビルに入っていった”という情報を入手していた。20代くらいだというので過去の犯罪者を焦ってみるも目ぼしい者はおらず、又、ビルの所有者に確認したところいわゆる隠れ家的なバーがちゃんと入ってるという話だった為、捜査に無関係だと流していたんだが……そのバーの場所が、イレイザーの見つけた情報提供者が示す位置情報と一致した!』

「情報提供者……? 一体誰が……」

『チィ』

 

 塚内くんに代わって、小鳥のような鳴き声が聴こえる。

 ……ん?

 小鳥……?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

相澤 side

 

 遡る事10時間前。

 死柄木がアップした動画を見た俺は、爆豪と氷叢を攫い生徒達を爆破したクソどもと、生徒達を守れなかった自分への怒りに打ち震えていた。

 だがその時、不意に右足を何かに突かれた。

 

「チィチィ」

 

 見ると、片方の翼が欠けた白い小鳥が、俺の足元で鳴いていた。

 こいつは確か、氷叢の……

 

「氷叢の使い魔か……どうしてこんなところに……?」

「ジュリリリ、ジュリリリジュリリジュリリリジュリリリ、ジュリリリジュリリリジュリリ。ジュリリリジュリリジュリリリリ、ジュリリジュリリリリジュリリリジュリリリジュリリリリ」*1

 

 小鳥が、意味のある鳴き声で状況を俺に伝えてきた。

 人の言葉の発音には似つかない囀りのはずなのに、何故か喋っている内容を理解できた。

 何やら一匹だけ生き残ったらしい小鳥は、欠けていない方の翼を広げて俺に話しかけてくる。

 

「ジュリリリ、ジュリリリ。ジュリリ、ジュリリリジュリリリリ、ジュリリリリ」*2

「……何!? 本当か!?」

「ジュリ。ジュリリ、ジュリリリジュリリジュリリリ。ジュリリリ、ジュリリジュリリリリ」*3

 

 俺は、氷叢の使い魔の小鳥のユキちゃんから詳しい話を聞いた。

 普段の俺なら、小鳥の言葉を信じるなんて合理的じゃないと考えるだろうが、彼女が嘘をついているようには思えなかった。

 何より、とにかく少しでも情報が欲しかった。

 爆豪と氷叢は、横浜の神野区にある連合のアジトに連れて行かれてしまったらしい。

 氷叢は今、“個性”を封じられていて、戦える状況じゃないそうだ。

 さらにユキちゃんは、重大な事実を俺に告白してきた。

 

「……ジュリリ、ジュリリリジュリリリリ。ジュリリジュリリリ、ジュリリ。ジュリリリ、ジュリリジュリリリジュリリリリ」*4

「っ……!?」

 

 『連合のスパイは氷叢雪代』、ユキちゃんは確かにそう言った。

 俺も、その可能性を考えなかったわけじゃない。

 生徒にGPSか何かでも仕込んでおけば、生徒の家族にも密告が可能だ。

 だが、いざ真相を打ち明けられると、衝撃を隠せなかった。

 

「ジュリリ、ジュリリジュリリリリジュリリリ。ジュリリリリリジュリリジュリリリリ。ジュリリリリ、ジュリリジュリリリリ」*5

 

 ユキちゃんが、目を潤わせながら悲しそうに鳴く。

 俺は、ユキちゃんを安心させようと、彼女を掌に乗せて言った。

 

「安心しろ。氷叢と爆豪は、何があっても救け出す」

 

 仮に俺のクラスに内通している奴がいたとしても、俺にはそいつを切り捨てるという選択肢は無い。

 むしろ氷叢は、育ての親に利用された被害者だ。

 母親に裏切られた事を知って、ショックを受けているかもしれない。

 必ず救け出して、担任として、ケアをしてやらなきゃいけない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

オールマイト side

 

『ユキちゃんの情報によると、氷叢さんは爆豪くんと一緒に神野区のバーに運ばれ、それから5km西の倉庫を経由して、そこからさらに5km西に離れた地下施設に運ばれたそうだ。事態が事態だ、裏が取れ次第すぐにカチ込む! これは極秘事項、君だから話してる。今回の救出・掃討作戦、君の力も貸してくれ!』

 

 塚内くんの言葉を聞いた瞬間、私は全身から力が湧き上がる。

 マッスルフォームに変身した私は、ニッと笑って宣言した。

 

「…私は…素晴らしい友を持った……奴らに会ったらこう言ってやるぜ…私が反撃に来たってね」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

雪代 side

 

「ゲホッ、ゲホッ……!」

 

 私は、炎で焼けた自分の体を“個性”で冷やしながら、目の前にいるエンデヴァーを睨む。

 

「俺達に一切情報を与えずに襲撃をしたつもりでいたんだろうが……ぬかったな。貴様はここで終わりだ」

 

 エンデヴァーは、炎を纏いながら私に一歩ずつ近づいてくる。

 あーあ、ホント嫌になるわ……相性最悪じゃない。

 エンデヴァーがこっちに来たのって、絶対私への対策よね。

 

「終わり? 私を捕まえようっていうの? やれるもんならやってみなさいよ」

「っ……!」

 

 私は、エンデヴァーを煽りながら、六花を立たせて盾にした。

 するとエンデヴァーの目元がピクリと動く。

 人質を盾にされたら、流石に最大火力は出せないはず。

 その隙を突いて……

 

 

 

 WHAM!!!

 

 

 

「っ…………!?」

 

 エンデヴァーが、迷わず私のもとへ突っ込んでいくと、左手で六花を回収して後ろにいるサイドキックに投げ渡しつつ、炎を纏った右の拳を振り抜いてきた。

 私は、咄嗟に左腕で顔をガードした。

 こいつ、私にダメージを与え、かつ人質を巻き込まないように、右の拳に炎を集中させて……!?

 サイドキックとの連携も、流石No.2……といったところね。

 

「…………ふっ」

「!?」

 

 ……でも、中和しきれないほどの熱量じゃない。

 やっぱり、人質がいると最大火力は出せないみたいね。

 それだけ分かれば、こっちのものよ。

 

「妻と同じ顔をした女に殴りかかるとか、あなたそれでもヒーローなの? あぁ、できて当然か。だってあなた、長男を死なせて妻をおかしくしたクズだものね?」

「なっ……!?」

 

 私が煽ると、エンデヴァーが激しく動揺する。

 なんで知ってるんだって顔してるわね。

 ……バカね。

 私、これでも冷ちゃんの親戚なのよ?

 燈矢くんの事も、彼女自身の事も全部聞いてるのよ。

 

「あぁ、そうそう。あなたにいいこと教えてあげましょうか? あなたの息子の燈矢くん、生きてるわよ」

「っ………………!?」

 

 動揺してるねぇ。

 そりゃそうだ、死んだはずの息子が生きてたなんて聞かされたらね。

 

「あの子、お父さんに会いたがってたわよ? 今すぐ降伏してくれるなら、居場所を教えてあげてもいいけど」

「ほざけ!!!」

 

 私がエンデヴァーを煽ると、エンデヴァーが激昂しながら拳を振り抜いてくる。

 怒りのせいか、動きが単調で読みやすい。

 私は、エンデヴァーの炎の出力を読み切って、氷で中和しながら受け流した。

 

「ダメじゃない、戦闘中に隙を見せちゃ」

「貴様……!!」

「ところでエンデヴァー。あなたの相手は、私だけじゃありませんよ?」

 

 そう言って私がポケットに隠し持っていたスイッチを押した瞬間。

 

 

 

 CRASH!!!

 

 

 

「なっ……!?」

 

 壁を突き破って、隣の部屋から二体の脳無が乱入してくる。

 ……さて、大暴れといきますか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

オールマイト side

 

「オールマイト…これが、ステインの求めた…ヒーロー…」

「終わりだと…? ふざけるな…始まったばかりだ。正義だの…平和だの…あやふやなモンで蓋されたこの掃き溜めを、ブッ壊す…その為にフタを取り除く。仲間も集まり始めた。ふざけるな…ここからなんだよ…………」

 

 死柄木が、私を恨めしそうに睨みながら言い放つ。

 そんな死柄木に対して、グラントリノが話しかける。

 

「なァ死柄木弔。聞きてぇんだが…お前さんのボスはどこにいる?」

「……………………………………………………………………………………こんな…呆気なく…ふざけるな…失せろ………消えろ…」

 

 グラントリノが尋ねると、死柄木が何かをブツブツと呟いた。

 再度尋ねようとするグラントリノを制し、私が代わりに死柄木に尋ねる。

 

「奴は今どこにいる、死柄木!!」

「お前が!! 嫌いだ!!」

 

 死柄木が叫んだ、その瞬間。

 臭気を帯びた黒い液体が、何も無いところから噴き出す。

 そしてその中から、脳無が現れた。

 

「脳無!? 何も無い所から…! あの黒い液体は何だ!」

「イレイザー! 黒霧は──」

「ちゃんと視てます。こいつの仕業じゃありません」

「どんどん出てくるぞ!!」

「シンリンカムイ、絶対離すんじゃないぞ!!」

 

 私は、突然現れた脳無に対処しようと、一瞬死柄木達から目を離してしまった。

 その一瞬が、命取りだった。

 

「お゛!!?」

「!!! 爆豪少年! No!」

 

 爆豪少年の口から、黒い液体が噴き出した。

 

「っだこれ、体が…飲まっれ…」

 

 それはたちまち爆豪少年の体を飲み込み……

 

「Nooo!!」

 

 私が掴もうとした時には遅く、爆豪少年は跡形もなく消え去ってしまった。

 ワープだと……!?

 

「俊典、こいつぁ…」

「ワープなど…持っていなかった筈…!! 対応も…早すぎる…!」

 

 グラントリノとオールマイトは今起こっている事態の原因に薄々気付いている様子だった。

 

「先……生」

 

 死柄木は、爆豪少年を包み込んでいた黒い液体を見ながらポツリと呟いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

Mt.レディ side

 

「うええ〜〜、これ本当に生きてんのぉ…? こんな楽な仕事でいんですかね、ジーニストさん。オールマイトの方行くべきだったんじゃないですかね。メッチャ勢い良く突入しましたけど」

「難易度と重要性は切り離して考えろ、新人。機動隊、すぐに移動式牢(メイデン)を! まだいるかもしれない、ありったけ頼みます」

 

 私が両手に脳ミソ剥き出しの化け物を掴みながら文句を言うと、ジーニストさんが私を注意してから機動隊に指示を出した。

 さっすがNo.4……

 なんて考えていた、その時だった。

 

 

「これはこれは……随分と豪華なメンツが揃っているようだね」

「!?」

 

 突然どこからか、冷たい声が聴こえてきた。

 悪寒がするのを感じつつも、声が聴こえてきた方を振り向く。

 

「止まれ動くな!」

 

 ギャングオルカさんの警告も無視して、奥から誰かが一歩ずつ近づいてくる。

 

「連合の者か」

「誰かライトを…」

「こんな体になってから、ストックも随分と減ってしまってね…」

 

 そう言って誰かが一歩踏み出した瞬間、ジーニストさんが“個性”を発動して動きを止める。

 え、ちょちょちょ、この人何してんの!?

 

「ちょ、ジーニストさん、もし民間人だったら…」

「状況を考えろ、その一瞬の迷いが現場を左右する。敵(ヴィラン)には何もさせるな!」

 

 私の意見を一蹴して、ジーニストさんが警戒心を強めた。

 その直後、突然私の意識が途絶えた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

オールマイト side

 

「ぼえ!!!」

 

 爆豪少年がどこかへ連れて行かれた直後、敵の少女の口からも黒い液体が溢れ出した。

 それを皮切りに、他の連合のメンバーの口からも黒い液体が溢れ出す。

 

「マズい全員持っていかれるぞ!!」

「おんのれ、私も連れて行け!!」

 

 私達は一斉に連合に飛びかかったが、一歩間に合わず、連合はどこかへ転送されてしまった。

 

「すみません皆様ァ!!!」

「お前の手落ちじゃない! 俺達も干渉できなかった。黒霧の『空間に道を開く』ワープじゃなく『対象のみを転送する』系と見た!」

「オールマイト!!」

 

 シンリンカムイのフォローをするエッジショットの言わんとする事を理解したその時、四体の脳無が私に群がってくる。

 

「Oklahoma…」

 

 私は、その場で飛び上がって独楽のように自身の体を横回転させ……

 

「SMASH!!!」

 

 回転の遠心力で、脳無を吹き飛ばした。

 壁を突き破って外へ吹き飛ぶ脳無に続いて、私も外に出ようとすると……

 

「景気のいいぶっ壊しぶりだな…!!」

「事が事だからだ! 敵(ヴィラン)に集中しろ!」

「こいつら…あ(・)っ(・)ち(・)から流れて来てるのか…!?」

「ジーニストらと連絡がつかない! 恐らくあっちが失敗した!」

「嘘でしょ!? どうなってるの……!?」

 

 リューキュウとクラストが中心となって、大量の脳無を食い止めていた。

 私は、壁に開いた穴から身を乗り出して、外で戦っている皆に呼びかける。

 

「大丈夫か!?」

「行ってくれオールマイト!! ここは我々だけで充分だ!!」

「ああ…任せる!」

 

 クラストの声に後押しされ、私はジーニスト達の元へ向かった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ベストジーニスト side

 

「ハッ……ハッ……」

 

 目の前には、信じ難い光景が広がっていた。

 周囲のビルが跡形もなく吹き飛び、黒いスーツを着た大男を中心に巨大なクレーターができていた。

 

 それは、瞬きよりも短い刹那の出来事だった。

 目の前にいる男が私達ごと辺り一体を吹き飛ばし、周囲を更地にしたのだ。

 Mt.レディとギャングオルカ、プッシーキャッツ達は、私が咄嗟に『ファイバーマスター』で逃がしたおかげで重傷を免れていたが、直撃を喰らった私は、ダメージが大きすぎて身動きが取れない。

 そんな私に、男が拍手を送る。

 

「さすがNo.4!! ベストジーニスト!! 僕は全員を吹き飛ばしたつもりだったんだ!! 皆の衣服を操り瞬時に端へ寄せた! 判断力、技術…並の神経じゃない!」

「……こいつ…」

 

 作戦会議の時、敵(ヴィラン)連合を裏で操っているであろう親玉がどんな奴かを塚内刑事から聞いた。

 オールマイトに匹敵する強さだが、狡猾で用心深く、自身の安全が保証されるまで決して表には出てこないという話だった。

 

 話が違う…!!

 

 …からなんだ!?

 

 一流は!!

 そんなモノを、失敗の理由にしない!!

 

 私は、己を奮い立たせ、最後の力を振り絞ってコスチュームの繊維を操り敵に一矢報いようとした。

 だが──

 

「相当な練習量と実務経験故の強さだ。君のは…要らないな。弔とは、性の合わない“個性”だ」

 

 ダメ押しと言わんばかりに放たれた衝撃波によって、私の意識は刈り取られた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

爆豪 side

 

「ゲッホ!! くっせぇぇ…んっじゃこりゃあ!!」

 

 俺は、クソ敵(ヴィラン)のアジトからどこかへと転送された。

 見ると、周囲には巨大なクレーターができていて、クレーターの中心には変なマスクをつけた野郎が立っていた。

 その近くには、ボロボロになって腹部に穴が開いたジーパンが倒れている。

 

「悪いね。爆豪くん」

「あ!!?」

 

 マスク野郎が声をかけてきた、その直後。

 また臭え泥みてえなもんが、俺の後ろから湧き出てくる。

 

「げええ…」

「おぇ、何だこれ…」

 

 中から出てきたのは、バーにいた連中だ。

 

「また失敗したね、弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り返した、この子達もね。君が大切な駒だと考え、判断したからだ。いくらでもやり直せ。そのために僕がいるんだよ。全ては君の為にある」

 

 そう言ってマスク野郎は、死柄木とかいう野郎に手を差し伸べる。

 その異様な雰囲気に、思わず背筋がゾクっと震えるのを感じた。

 すると、その時だった。

 

「………やはり…来てるな…」

 

 

 

 ガンッ

 

 

 

「!?」

 

 突然、上空からオールマイトが拳を振るい、マスク野郎がオールマイトの拳を受け止めた。

 

「全て返して貰うぞ、オール・フォー・ワン!!」

「また僕を殺すか、オールマイト」

 

 オールマイトとマスク野郎は、手を組み合っていがみ合う。

 二人がぶつかり合った衝撃波で、地面が二人を中心に抉れ、クレーターができる。

 

「随分と遅かったじゃないか」

 

 マスク野郎は、そのままオールマイトを弾き飛ばした。

 

「うおお!!!」

 

 俺とクソどもは、二人がぶつかり合った衝撃波で吹き飛ばされる。

 俺は、態勢を立て直して二人の方を見る。

 

 オールマイトを素手で弾きやがった…!!

 こいつが敵(ヴィラン)のボス…!!

 

「バーからここまで5km余り…僕が脳無を送り優に20秒は経過しての到着……衰えたねオールマイト」

「貴様こそ何だその工業地帯のようなマスクは!? だいぶ無理してるんじゃあないか!? 五年前と同じ過ちは犯さん、オール・フォー・ワン。爆豪少年と氷叢少女を取り戻す! そして貴様は今度こそ刑務所にぶち込む! 貴様の操る敵(ヴィラン)連合諸共!!」

 

 オールマイトが拳を振りかぶって猛スピードで飛び出すと、マスク野郎が軽く左手を挙げる。

 

「それは…やることが多くて大変だな。お互いに」

 

 マスク野郎の左腕が膨らみ、手を振り下ろした次の瞬間、マスク野郎の掌から衝撃波が放たれる。

 直撃を喰らったオールマイトが、周囲のビルを薙ぎ倒しながら、吹っ飛んでいった。

 俺も、衝撃波に巻き込まれて数メートル吹き飛ぶ。

 

「『空気を押し出す』+『筋肉発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3、この組み合わせは楽しいな…増強系をもう少し足すか…」

「オールマイトぉ!!!」

 

 俺は、その場ですぐに立ち上がると、土煙を両腕で掻き分けながら叫んだ。

 

「心配しなくてもあの程度じゃ死なないよ。だから… ここは逃げろ弔。この子達を連れて。黒霧、皆を逃がすんだ」

「……はい!」

 

 マスク野郎が命令すると、モヤの野郎がワープゲートを開いた。

 

「さあ、行け」

「先生は…」

 

 その時、吹き飛ばされたオールマイトが戻ってくる。

 

「逃がさん!!」

「常に考えろ弔、君はまだまだ成長できるんだ」

 

 そう言ってマスク野郎は、空高く飛び上がる。

 その直後、オールマイトの拳が振り下ろされ、マスク野郎はそれを片腕で受け止める。

 

「行こう死柄木! あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれてる間に! コ(・)マ(・)持ってよ」

 

 そう言ってクソどもが、俺に向かってきた。

 チッ……やっぱそう来るかよ……!

 

「めんっ…ドクセー」

「爆豪少年…!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

相澤 side

 

「これで全部か……」

 

 バーに残った俺達は、大量に湧き出した脳無を一掃した。

 気絶した脳無を、機動隊がメイデンに入れて拘束していく。

 

「早いとこ、オールマイトと合流しに行きましょう」

「ああ!」

 

 リューキュウがそう言って、翼を広げて空を飛ぼうとする。

 エッジショットやクラストをはじめとした手練のヒーロー達が、彼女の背中に乗る。

 俺も、目薬を点してからゴーグルをかけ直し、彼女の背中に乗り込んだ。

 

「俺も行きます」

 

 オールマイトの向かった先には、爆豪がいるはずだ。

 俺は何としてでも、あいつの元へ行ってやらなきゃいけない。

 担任として、ヒーローとして。

 

 

 

 

 

*1:
六花が、昼間の訓練で私達を作ったのを、そのまま出しっぱなしにしてたの。他の子はみんな燃やされちゃったけど、私だけ炎から遠いところにいたから生き残ったのよ。

*2:
それより、相澤先生。私、爆豪くんと六花の居場所、知ってるわ。

*3:
ええ。私、離れてても六花の居場所がわかるの。爆豪くんも、今は同じ場所にいるわ。

*4:
……それとね、言わなきゃいけないことがあるの。連合のスパイは、雪代よ。雪代が、六花から情報を盗んでたの。

*5:
六花は、雪代がスパイだってことを知らなかったわ。ただいい子にしてて雪代の言うことを聞いてただけなの。お願いだから、あの子を恨まないであげて。

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