エンデヴァー side
「『凍て曇』」
「『ヘルスパイダー』!!」
俺は、
奴の背後には、二体の脳無が控えている。
一方は、腹部だけが太った餓鬼のような見た目の青い肌の脳無で、『凝縮』、『タンク』、『放水』の“個性”を持っているらしい。
もう一方は、ちょうど目の位置から氷でできた蓮の花のようなものが生えた黒い肌の脳無で、少なくとも『超再生』、『六本腕』、『氷雪操作』、『冷却』、『氷化』、『耐熱』の六つの“個性”を持っている。
さらには、崩壊した壁の断面から剥き出しになった配管からは大量の水が噴き出ている。
奴は、脳無をけしかけて時間を稼ぎつつ、地下施設内に満ちた水を片っ端から凍らせ、無数の武器を作り出していた。
奴の“個性”は、何も無いところから氷を出す力は無いが、水分を凍らせたり、元からある氷を自在に操ったりする事ができる。
脳無がなだれ込んできた今、この独房内は、完全に奴に有利なフィールドと化した。
「『蔓蓮華』」
氷叢雪代が、配管から噴き出した水を凍らせ、氷の蔓を作って攻撃を仕掛けてくる。
俺は炎で氷の蔓を焼き切ったが、焼き切ったところから生えては伸びる。
四方八方から伸びてくる氷の蔓を対処しつつ、氷叢雪代に攻撃を仕掛けようとすると、今度は氷でできた人形が襲いかかってくる。
「『結晶ノ御子』」
俺を囲んだ六体の人形が、氷の刃で斬りかかってくる。
俺が攻撃を避けつつ氷叢雪代に線状の炎を放つと、氷叢雪代は上に跳んで回避し、頭上から無数の鋭利な氷柱を飛ばしてくる。
俺は、氷叢雪代を相手に決定打を与えられずにいた。
それどころか、俺や炎のサイドキッカーズを相手にしても、奴は息切れすらしていない。
奴に有利なフィールドや、後ろに控えている脳無どもを差し引いても、総合的な実力は俺とほぼ互角。
俺の炎で確実にダメージを与えたにもかかわらず張り合われている時点で、むしろ向こうの方が一枚上手だ。
どうなっている……!?
武道の心得はあるようだが、“個性”を使った対人戦闘の訓練などしていないはず……
だとすると、生まれ持った才能だけで俺と渡り合っているというのか……!?
「くっ……!! バーニン、人質を連れて退避!!」
「ラジャ!!」
俺は、バーニンに指示を出して氷叢六花を施設の外へ逃がそうとした。
すると水の脳無が、両腕を広げて二人に飛び掛かる。
「邪魔だ!!」
俺は、二人を襲おうとした脳無に炎を浴びせた。
上半身が丸焦げになった脳無が、その場にうつ伏せに倒れ込む。
その間に、バーニンが氷叢六花を連れて施設の外に逃げ出した。
だがその時、氷叢雪代が、俺の死角に潜り込み、花弁のような形の氷を飛ばして斬撃を放ってきた。
俺は、咄嗟に体から炎を出し、氷の刃が触れる前に全て焼こうとしたが、全て焼き尽くす前に、鋭利な刃物が俺の腕や頬を掠めた。
「ぐ…………!!」
馬鹿な……!
まさかこいつ……本物の刃物を氷の刃に紛れ込ませたのか……!?
「余所見するなんて、随分と余裕ですね」
◆◆◆
爆豪 side
俺は、次々と飛んでくるクソ
こいつらも緊急事態……
さっきまでと違って、強引にでも俺を連れてく気だ。
9対1…とりあえず、このクソ仮面には触られちゃいけねー!
「オラァ!!」
俺は、物を圧縮する“個性”を持つクソ仮面を爆破して遠ざけた。
「今行くぞ!!」
オールマイトは、俺を助けに行こうとした。
だけどそれをマスク野郎が阻む。
「させないさ。その為に僕がいる」
マスク野郎は、指の先から伸ばした棘でオールマイトを引っ掛け、俺から離れたところへ投げ飛ばした。
クソが……!
オールマイト、俺のせいで本調子で戦えてねぇんだ!
さっさとこいつら撒きてぇとこだが……
なんて考えていると、クソ女とクソスーツが刃物とメジャーを持って俺に襲いかかってくる。
そいつらの攻撃を避けるのに気を取られている隙に、クソ仮面が俺に手を伸ばしてきた。
しまっ……!!
「……あれ? “個性”出ね……」
クソ仮面の間抜けな声に、ハッとする。
その時、何かが羽ばたくような音が上空から聴こえる。
見上げると、巨大なドラゴンが上空を飛んでいた。
あいつ、No.9の……
「来い、爆豪!!」
ドラゴンの背中には、身を乗り出して俺に向かって手を伸ばしている相澤先生がいた。
先生の指示を瞬時に察した俺は、両掌から爆破を放って上空に飛び上がり、先生に向かって右手を伸ばした。
すると先生が、俺の右腕を捕縛武器でキャッチして引っ張り上げてくる。
俺がドラゴンの背中に乗ると、相澤先生が俺の肩に手を置いて話しかけてきた。
「遅くなってすまなかった。もう大丈夫だ」
◆◆◆
六花 side
「おじさん……っ」
私の目の前で、おじさんがママと戦っている。
おじさんは、ママにつけられた傷から血を流している。
周りのみんなも、血を流していた。
私のせいで……
私がママに気を許して油断したから、バクゴーさんまで捕まった。
私が捕まったりなんかしなければ、みんなが大怪我する事はなかったし、おじさんもママに怪我させられずに済んだ。
そもそもママが
私は今まで、ママのためにがんばってきた。
ヒーローになって、ママを助ければ、ママが喜んでくれると思ったから。
でもそれは、ママが望んでた事じゃなかった。
だったら私は、何のために……
「ぐぁっ!!」
「キドウ!! オニマー!!」
「私は六花を回収しに行きたいだけです。邪魔しないでください」
おじさんの仲間の人が、ママの起こした吹雪で吹っ飛ばされた。
みんなが、私を助けるためにボロボロになってる。
ずっと信じてきたものが全部ひっくり返って、この先何のために生きていけばいいのかわからなくなった。
だけどひとつだけ、はっきりわかった事がある。
私の目の前で、誰かが傷つくのはいやだ……!!
「おねえさん……っ、お、おねがいが、あるんですけど……っ」
私は、私をここまで連れてきてくれた、炎の髪のおねえさんの腕を掴んで話しかけた。
「何だ!?」
「わたしの首の後ろを、思いっきり焼いてください」
「ハァ!?」
私が後ろ髪を持ち上げて首を見せながら言うと、おねえさんが驚く。
「わたし……ママに氷の針を刺されてて、“個性”が使えないんです……自分で抜けないから、焼き切ってほしくてっ……」
「焼き切るって……そんなことして、あんたは大丈夫なの!?」
「だいじょうぶ……です……“個性”さえ元に戻れば、ちゃんと治る……はず、です……このままだと、ママからは逃げきれないです……おねがい、します……っ」
私は今、ママの氷の針のせいで“個性”が使えない。
でもママの氷は、炎に弱い。
炎で針をとかせば、“個性”が使えるようになるはず。
火傷しちゃうけど、“個性”が使えるようになれば、自分の体を氷にして治せる。
今はこれしか方法がない。
私が説明すると、おねえさんが頷く。
「……わかった、それしか方法は無いね!? すぐ終わらせるから、我慢しなよ!」
「はいっ……」
おねえさんは、炎の髪で私の首の後ろを思いっきり焼いた。
ジュウっと熱い髪を押しつけられて、体に刺さった氷の針が融けていく。
だけど、その時だった。
「何勝手に氷を融かしてるの?」
大きな氷に乗ったママが、私達のもとへ飛んでくる。
そのまま大きな氷の塊を、私に向かって振り下ろそうとしてくる。
「『ジェットバーン』!!」
ママを追いかけてきたおじさんが、拳から炎を放ってママを止めた。
ママは、氷の塊で炎を打ち消すと、面倒くさそうにおじさんを見る。
「しつこい」
「それはこちらの台詞だ!!」
ママとおじさんがぶつかり合って、氷と炎がぶつかり合う。
おねえさんは、おじさんがママを引きつけてくれている間に、私の“個性”を封じている氷をとかしてくれた。
だけどその時、後ろから、氷の蔓が伸びてきて襲いかかってくる。
「しまっ……!!」
私達が氷の蔓に覆われた、その瞬間。
私の“個性”が、元に戻った。
私は、すぐに“個性”を使って周りの蔓を砕いた。
「なっ……!?」
“個性”が戻った私を見て、ママが驚いていた。
「……おねえさん、ありがとうございます。あとは大丈夫です」
そう言って私は、ママのもとへと飛んでいく。
ママは、大量の氷を私にぶつけてくる。
私は、掌から吹雪を起こして、ママの氷を薙ぎ払った。
「ママ、もうこんなことやめて! こんなことして、何になるの?」
「うるさい!! 人殺しがヒーロー気取るな気持ち悪い!!」
ママが、大声で怒鳴りながら、大きな氷の仏像を操って攻撃してくる。
「お前なんかを産まなきゃ、氷花は死ななかった!! お前があの子を殺したんだ!! わかってんのか人殺し!!!」
ママが、怒りを氷に込めて攻撃しながら私を責め立てる。
確かに、お姉ちゃんは私を産んだから死んだ。
私がいなかったら、お姉ちゃんは死なずに済んで、ママが
それでも……
「だったら、なんで私を育てたの?」
「っ!!」
「困ってる人を助けてあげられる人になってねって、ママが言ったんだよ? だから私は、ヒーローになるって決めたんだよ」
私がヒーローになりたいと思った最初のきっかけは、ママの言葉だった。
それは、私の中にある、一番古い記憶。
あれは私が4歳の頃、あの頃はおばあちゃんがまだ生きていて、ママと二人で病院によくおみまいに行っていた。
病院に行くと、おばあちゃんはいつも絵本を読み聞かせしてくれて、テレビを見せてくれた。
――そぉだおそれないーでみーんなのために♪ あいとゆうきだけーがとーもだちさー♫
何十回も聞いた、アニメのテーマソング。
何百回も読んだ、古い絵本の物語。
それは、百何十年も前に描かれた、ヒーローの絵本だった。
――六花ちゃんは本当にアンパンマンが好きねぇ。氷花ちゃんの小さい頃にそっくりだわぁ。
私が笑うと、おばあちゃんとママが笑った。
その絵本のヒーローは、すごいパワーを使って悪い
私は、そんなヒーローが好きだった。
――ねぇ六花。ママもね、子供の頃はアンパンマンが好きだったのよ。困ってる人のところにすぐに駆けつけて助けてくれるところが、かっこいいと思ってたの。
――だから六花も、アンパンマンみたいに、困ってる人を助けてあげられるような優しい人になるんだよ。
そう言ってママが、私の頭を撫でてくれた。
昔の事はあんまり覚えてないけど、この言葉だけは、今でもはっきりと覚えている。
私がヒーローになろうと決めたのは、入試の1年前に見た夢がきっかけだった。
あの頃は、学校のみんなや町の人達が私やママにいじわるしてて、ママはいつも無理して笑っていた。
私は、ママが無理して笑ってるのを見るのが嫌だった。
私が困っていると、夢の中におばあちゃんが出てきて、私に言った。
――六花ちゃん。ママは今、すごく悲しい思いをしているの。だから六花ちゃんがヒーローになって、ママを助けてあげて。
私は、ママを守るためにヒーローになるって決めた。
だから今まで、ママのために頑張ってきた。
だけど、今は違う。
私がヒーローになる理由は、明日を笑って生きるため。
みんなと一緒に授業を受けて、おいしいごはんを食べて、たまには恋バナで盛り上がったりして……
そんな明日が来なくなるのはイヤだ。
それと同じくらいに、誰かの明日を来なくするのもイヤ。
だから、私はみんなを守りたい。
ママに嫌われたって、これまでも、これからも、そこだけは曲がらない。
「何言われたって、私の気持ちは変わらないよ。私は、ヒーローとして、ママを止める」
「うるさい、今更何を止めようっていうのよ!!」
ママが、氷の仏像で私を押し潰そうとしてくる。
その時、おじさんが前に出てきて、炎を放った。
「赫灼熱拳・『プロミネンスバーン』!!」
おじさんの炎で、氷の仏像がとけて通り道ができる。
「行け!!」
おじさんの掛け声と同時に、私はママのもとへと飛んでいった。
私がママの間合いに入ると、ママは氷を纏った拳を振り抜いてくる。
今までで一番殺意のこもった攻撃だ。
だけど私は、迎撃せずにそのままママの懐に飛び込んだ。
「止まれるよ。だって、私がいるから」
私はママに抱きついて、体温を奪って凍結させた。
ママは、拳を突き出した体勢のまま動かなくなった。
もうこれ以上、ママに誰かを傷つけさせない。
みんなが笑って生きる明日を、守ってみせる。
そのために、ヒーローになるって決めたから。
空手と柔道の黒帯持ってるだけの主婦なのにエンデヴァーとガチ殴り合いができる才能オバケの雪代さんw
AFOさんがあと1年早く雪代ママを連合に勧誘していれば、エンデヴァー達は六花ちゃんの奪還に失敗していました。
ちなみに雪代ママの“個性”は、外典くんちゃんのような『氷を操る』タイプの“個性”です。
範囲攻撃では劣るものの、操作性は雪代ママの方が上です。