「かわいそうに、誰も助けてくれなかったんだね。もう大丈夫。僕が来た」
全てに絶望した私に声をかけてきたのは、オール・フォー・ワンだった。
いや、正確には、動き回れない彼の代わりにメッセージを伝える為に、彼が精神を乗っ取ったシンパだった。
彼は、私の事を何でも知っていた。
私の生い立ちも、迫害されている理由も。
「家族に見放され、裏切られ、世間から見捨てられ、それでも腐ることなく真面目に生きていたというのに、加害者の家族というだけの理由で、世間は君を迫害した。それは決して許されることじゃない」
「あ、ありがとうございます……」
「そこでだ、氷叢雪代。僕から提案がある」
オール・フォー・ワンは、私に手を差し伸べて言った。
「僕と一緒に、この世界を壊さないかい?」
「…………え?」
「君は今まで、充分苦しんだ。だからこの世界に復讐するんだ。君には、その資格がある。このまま迫害され続けて、死ぬよりつらい目に遭っても、それでも真っ当な人生を望むか。それとも君を捨てたこの世界に一矢報いるか。賢い君なら、考えるまでもないと思うがね」
確かに、私には選択肢がなかった。
私は迷わず、この世界に復讐する事を選んだ。
今まで散々地獄を見てきて、学んだ事がある。
それは、人間の本質は悪だという事。
人は、叩く理由を見つければどこまでも残酷になれる。
社会のレールから一歩でも外れれば、正義の味方ヅラしたクズに蔑まれて、傷つけられて、最後は正義を免罪符に殺される。
どんなに繕ったって、人の本質はそう簡単には変わらない。
どちらの道を歩んでも待っているのは地獄なら、せめて一度くらいはこの世界に一矢報いたい。
だけど同時に、こうも思った。
この人は、なんでこんなに私の事を知っているんだろう、と。
彼が知っていた私の素性は、マスゴミすら知らない情報ばかりだった。
私の事を徹底的に調べたのか、そういう“個性”の持ち主なのか。
あるいは、私が地獄を見る事を
彼に全てを捧げる前に、見極めるべきじゃないのか。
私は、表向きはオール・フォー・ワンに従うフリをしつつも、彼を探ってみる事にした。
「それで……私は何をすれば良いのでしょうか? 先生が私にわざわざ声をかけてきたということは、私にしかできない役割がある……ということですよね?」
「さすが、君は優秀だね。僕が君に声をかけたのはね、君の孫の氷叢六花の“個性”が欲しいからなんだよ。君には、六花を監視してもらって、そして頃合いになったら僕のもとへ連れてきてほしい」
「あの……六花の“個性”が欲しいなら、私を介すなんて回りくどいことをせずに、直接あの子を攫えばよろしいのでは?」
「まずは君を味方にした方がやりやすいだろう? それに、生憎僕は今動ける状態じゃなくてね……万が一“個性”の奪取に失敗して暴れられた時、今の僕じゃ彼女を止められないんだ。だから自由に動ける君に、彼女を制御してほしいんだ。それと、君をスカウトしたのは何も氷叢六花の“個性”が欲しいからだけじゃない。君の“個性”と頭脳を、我々の為に役立ててほしい」
それから私は、黒霧さんの“個性”で転移させられ、先生と初めての対面を果たした。
「先生、氷叢雪代をお連れしました」
「やぁ、よく来てくれたね」
そこにいたのは、生命維持装置を身につけた黒いスーツ姿の大男だった。
彼と対面した瞬間、私は心臓を鷲掴みにされるような錯覚に陥った。
だけど動揺を悟られないように、汗ひとつかかずに耐えた。
「はじめまして、先生。私は氷叢雪代です。お目に掛かれて光栄です」
「これは素晴らしい。普通、僕と話す時は皆、最初は声すら出ないんだけどね」
「……ありがとうございます」
「君の能力は高く評価しているよ。これからはその力を、我々の為に使ってほしい」
そこで私は、先生から直接仕事を説明された。
最初の私の仕事は、六花の見張りと、最低限先生の駒として使えるようになる為の訓練だった。
“個性”の訓練や対人格闘術、あとは自主的に狙撃や情報収集、ハッキング、爆発物処理、医療技術なんかのスキルも齧った。
医療や拷問の技術は、私と夫の店を潰したクソを実験台にして高めた。
「今日は君に会わせたい人がいる。僕の友人が、君に会いたいと言っていてね」
私が先生に会った翌日、目隠しをされて黒霧さんの“個性”でどこかへと連れて行かれた。
連れて行かれた先は、ドクターの研究所だった。
ドクターはとても警戒心の強い人のようで、位置情報を私に特定されないように、私に目隠しをした上でワープで連れてきたらしい。
「氷叢雪代じゃな。先生から話は聞いておるよ。まずは君のことをちと調べさせてくれんかの」
私はまず、ドクターの研究所で検査を受けた。
IQテスト、ポリグラフ、その他“個性”数値や体質等の肉体データの測定。
「IQ145か……優秀な頭脳じゃのう。“個性”因子の活動量も軒並み高い数値を示しとる」
「……ありがとうございます」
「お主には、儂の可愛い脳無達のテストに付き合ってもらおうかの」
私に割り振られた仕事は、ドクターの研究の手伝いだった。
私は、ドクターの研究所で、脳無という存在についての知識を得た。
よほど馴染みの深い“個性”でない限り、一人の人間が複数の“個性”を持つ事はほぼ不可能だ。
だけどドクターは、人間の死体を使って肉体を改造する事で、そんな不可能を可能にしたとの事。
脳無は、“個性”所有数と改造強度によって下位、中位、上位というレベルがあって、その中でも一番レベルの高いハイエンドという個体がいるらしい。
最初は気味悪いと思ったけど、正直あまり驚きはなかった。
ドクターを一目見た時の印象から、『この人ならやりそうなことだ』と思っていた。
脳無のデータをチェックしていると、研究室の奥に、ポッドから出されている脳無がいる事に気がついた。
目の部分から蓮の花の形をした氷のようなものが生えていて、腕が六本ある黒い脳無だ。
部屋の隅で膝を抱え込んで体育座りをしていて、何かを考えているようだった。
よく見るとその脳無の周りは白く凍っていて、同じ氷の“個性”を持つ身としては、なぜか目が離せなかった。
「ドクター、あの個体は?」
「ああ、レンゲちゃんじゃな。儂の可愛いハイエンドじゃよ。ついさっき調整を終えたばかりでな。強さは申し分ないんじゃが、困ったことに、儂の言うことを聞いてくれなくてのぉ」
「へぇ……」
ドクターの説明を聞きながら、他の脳無のデータを取っていた、その時だった。
「マ、マ……?」
突然、レンゲちゃんが私の方を向いて話しかけてきた。
その子は確かに、私の事を『ママ』と言った。
気付けば私は、その子に近づいて話しかけていた。
「……氷花?」
そんなわけがない。
氷花は確かに、死んだのをこの目で確認して、火葬にも立ち会った。
だけど、この子の胸から出ている氷や体の冷気は、間違いなく氷花の“個性”によるものだし、何よりこの子は私を『ママ』と呼んだ。
近づいてみると、レンゲちゃんは私の匂いを嗅いで、まるで飼い犬のように私に抱きついてきた。
やっぱりこの子は、私の娘の氷花だ。
「ほっほっほ、レンゲちゃんはお主が気に入ったようじゃな」
「ドクター、この子、私が貰ってもいいですか?」
「構わんよ。レンゲちゃんも、儂よりお主に懐いとるようじゃからの」
「ありがとうございます」
私はその日から、レンゲちゃんの世話係を任された。
ついでに、私と相性がいい脳無をもう一体貸してもらった。
「もしや、気付いたのか? いや、まさかのぉ……なあに、仮に気付いたとしても、今更どうすることもできんわい」
去り際にドクターが放った独り言を、私は聞き逃さなかった。
それを聞いた瞬間、私の中で疑念が確信に変わった。
ドクターは、氷花の遺体を偽物とすり替えて、本物の遺体を脳無の材料に使った。
きっと六花が生まれる前から、氷花の“個性”に目をつけていたのだろう。
そして、私が先生とドクターを怪しいと思う出来事は、まだあと二つあった。
ドクターのもとで研究を手伝っていた時に気付いた事だけれど、ドクターが脳無の調整に使っていた薬物と、氷太郎の体内から検出された大量の薬物の成分がほとんど同じだった。
それに気づいた時、私の中で、先生やドクターが氷太郎の非行に何か関わっているんじゃないかと疑念を抱いた。
そしてもう一つが、氷太郎自身の証言だった。
氷太郎が強姦殺人の現行犯として逮捕された時、私は拘置所に面会に行った。
その時の氷太郎との会話が、脳裏に浮かぶ。
「ねぇ氷太郎。覚えてる? 子供の頃はね、あなたは優しい子だったのよ。よくウチの蕎麦屋を手伝ってくれてね……それでね、氷花が泣いたら、あやしてあげてたの」
「あぁ? 蕎麦屋? さっきから何の話してんだババァ」
その時は特に気に留めていなかったけど、あの時の会話が気になって、私はもう一度氷太郎のもとへ面会に行って話をした。
すると、ある事がわかった。
氷太郎には、私が蕎麦屋をやっていた頃……正確には、夫の四十九日の法要より前の記憶が全く無かった。
氷太郎の記憶がない期間は、ちょうど氷太郎が家族想いの優しい子だった時期と重なる。
その時、恐ろしい事実に気づいてしまい、思わずゾッとした。
私は今まで、あまりにも荒唐無稽すぎて、その可能性を一度も疑った事がなかった。
私が産んだ時の氷太郎と、事件を起こした時の氷太郎は、全くの別人だ。
おそらく、憑依系の“個性”で精神を他人に乗っ取られていたのだろう。
私は十年間、息子だと思っていた他人と過ごしていたのだ。
今思えば、氷花が氷太郎にひどい目に遭わされたのに、最後まで氷太郎を恨んでいなかった理由も頷ける。
あの子は、はじめから知ってたんだ。
自分に暴力を振るって凌辱したのが、本物の氷太郎じゃないって事を。
だから本物の氷太郎が戻ってくるのを、ずっと待ってたんだ。
そして、疑念が確信に変わった決定的な出来事があった。
私がレンゲちゃんの世話をしていると、突然映像が頭の中に流れ込んできた。
それは、レンゲちゃんが生まれてから今に至るまでの記憶そのものだった。
あの子の記憶に干渉できたのは、“個性”を伸ばし続けた事で、氷の因子にも干渉できるようになったからかもしれない。
そのほとんどが、非人道的な実験を受けた記憶だったけれど、その中に、先生とドクターの会話を聞いていたであろう記憶が混じっていた。
『いやぁ、しかし予想以上の収穫じゃのぉ、先生』
『氷叢雪代のことは、前から
『ホホッ、先生も人が悪いのぉ。そもそも
『ははは、そうだったかな』
全ては、先生……オール・フォー・ワンが仕組んだ事だった。
父が私を捨てた挙句、私の店に嫌がらせをしたのは、オール・フォー・ワンに私への嫉妬心を刷り込まれたから。
氷太郎が氷花を犯して、さらに事件を起こして捕まったのも、オール・フォー・ワンが氷太郎に新たな人格を植え付けて操っていたせい。
氷太郎は、夫の四十九日の時にオール・フォー・ワンに会っていて、その時に人格を消されて殺された。
ずっと氷太郎が見つからなかったのは、オール・フォー・ワンがあの子を回収したから。
あいつは、あの子を回収してから、ずっと脳無化の実験をしていたんだ。
だけどあの子の脳無化が思うように行かなかったから、途中で手放す事にした。
これは私が自力で突き止めた事だけど、氷太郎が殺した女性は、オール・フォー・ワンを裏切って警察に逃げ込もうとしていた元内通者の一人だった。
裏切り者と失敗作を処分するついでに、私の心を壊して復讐を決意させる為に、ダメ押しと言わんばかりに氷太郎を操って事件を起こさせたのだ。
そもそも私の祖父が建設事業で成功したのも、オール・フォー・ワンが裏で手を回していたのだ。
分家に力を持たせる事で氷叢家の近親婚を深刻化させ、より強い氷の因子を持った子供を産ませる為に。
真相を知った時、私は不思議と全く驚かなかった。
むしろ、全部オール・フォー・ワンの仕組んだ事だと考えれば辻褄が合う。
元はといえば、その可能性も織り込み済みで、自分の目で真偽を確かめる為にオール・フォー・ワンの側近になったのだ。
真相を知ってからの切り替えは、自分でも驚くほどに早かった。
無論、真相を知ったところで、世界への復讐はやめない。
私の夫と子供達を死なせたクソ家と、苦しんでいた私や子供達を見捨てたクソどもには絶対復讐する。
だけど、目の前の人に復讐する前に、まずは原因に復讐するべきだと私は思う。
全ての元凶は、オール・フォー・ワンとその腹心の殻木球大だ。
まずはこいつらを殺そう。
私は、私の家族を奪ったこいつらに復讐する為に、忠誠を誓った側近のフリをして、爪を研ぎ澄ました。
“個性”を医療に使う訓練をした事で、私の“個性”は、“個性”因子や精神に干渉できるレベルにまで磨かれていた。
オール・フォー・ワンと殻木には嘘が通用しないから、氷を脳内に埋め込んで自分の精神を操作し、二人の前では忠実な下僕を演じた。
そして水面下では、こいつらの計画を台無しにする為の準備を進めていた。
まずはアメリカの圧縮機構技術を盗用して作ったマイクロチップ型爆弾を大量生産し、殻木の研究を手伝う過程で爆弾を氷で包んで脳無の脳に埋め込み、いつでも解凍して起爆できるようにした。
この時期には私はある程度あいつらに信用されていたから、脳無に爆弾を埋め込むのは難しくなかった。
「先生、誰だこの女」
『僕の友人だよ、弔。僕に代わって、君にいい知恵を与えてくれる』
「死柄木弔、君が先生の後継者ですか……はじめまして」
「誰だって聞いてんだよ。名乗れ」
「生憎、名乗る名前はありません。そうですねぇ……お面をつけているので、『ノウメン』とでも呼んでください」
USJ事件の数日前、私は初めて死柄木弔という青年に出会った。
どうやらオール・フォー・ワンは、弔くんを後継者にして、彼の体を乗っ取って世界を手中に収めるつもりらしい。
実際に弔くんに会ってみたら、何というか、大人子どもという印象だった。
彼は、ヒーローへの憎悪を植え付けたのがオール・フォー・ワンだという事も知らずに、オールマイトを憎みまくっていた。
オール・フォー・ワンにいいように利用されている弔くんに対しては、同情を禁じ得なかった。
最初はオール・フォー・ワンへの復讐の為に奴を殺してから
「あら弔くん、またゲームですか」
「うるせぇ、今話しかけんな」
「たまには私も混ぜてくれませんか? 私、弔くんとは気が合う気がするんです。私も子供の頃、友達がいなかったんですよ」
私は、暇さえあれば弔くんに話しかけた。
弔くんには、腐れ梅干しの思い通りになんかならずに好きに生きてほしい。
もちろんクソ二人とクソ家にはきっちり復讐するけど、この頃の私は、世界への復讐よりも、弔くんを救いたいという気持ちの方が強くなっていた。
「オールマイトが雄英の教師になるそうだ。氷叢六花を雄英に入れなさい」
「……かしこまりました」
オールマイトが雄英の教師になるという噂を聞いたオール・フォー・ワンは、六花を雄英に入れるよう私に命じてきた。
六花が無事に合格してからは、氷の髪飾りで雄英内部の情報を盗聴して、それを連合に流した。
マスゴミも、USJも、ショッピングも、合宿も、全部私が手引きした。
「氷太郎。今日も一緒にお話ししようか」
体育祭明け、オール・フォー・ワンの指示でステインを連合に勧誘する前、私は久々に氷太郎の面会に行っていた。
氷太郎の態度は相変わらずだったけれど、途中でハッと我に帰ったような顔をして、周りをキョロキョロと見渡した。
「…………あれっ? 母ちゃん……? 氷花? ここはどこ? オレ、今までなにして……」
「氷太郎……?」
「母ちゃん、氷花はどこ……? オレ、氷花にあやまらなきゃいけないんだよ……父ちゃんのおはかまいりのとき、すぐもどるってやくそくしたのに、しらないおじさんにはなしかけられて……きがついたら、びょういんみたいなとこつれてかれて……っ、はやく、氷花のところにもどらなきゃ……」
正気に返った氷太郎は、自分のやった事を何も覚えていなかった。
氷花を散々いじめた挙句、妊娠させて死なせた事も、女性を暴行して殺した事も。
それどころか、氷太郎の精神年齢は5歳で止まっていた。
何かのきっかけで、元の人格に戻ったのだろう。
だけど元に戻った息子と一緒に話せた時間は、永くはなかった。
「ノウメン、氷叢氷太郎を殺しなさい」
ある日突然、オール・フォー・ワンが私に命令してきた。
「……え?」
「氷叢氷太郎の死体が是非とも欲しい。面会を許されている君なら、難しくないだろう? まあでも、出来ないというなら無理強いはしないさ。君を苦しめた元凶といえど、君にとっては実の息子だからね」
オール・フォー・ワンは、私に実の息子を殺せと命じてきた。
死体を奪う事を口実にしているけど、本当の理由は、氷太郎が元の人格を取り戻したからだ。
おおよそ、想定外にも氷太郎が正気に戻って余計な事を喋ったから、口封じと他の内通者への見せしめの為に殺処分する事にした、といったところか。
今思えば、わざわざ私に殺すよう命令したのは、私の自分への忠誠を試す意味もあったのだろう。
「……いえ、やらせてください」
私は、迷わずその命令を請け負った。
元々、ドクターに薬物を投与された事が分かった時点で、氷太郎の事はこの手で殺すつもりだった。
違法な薬物を大量に投与されて、体を弄られて、あの子はもう永くなかった。
あいつらに殺されるくらいなら、私がこの手で引導を渡したかった。
それに、自分が氷花にした仕打ちを知って後で絶望するくらいなら、何も知らないまま死なせてあげたかった。
「母ちゃん、氷花はどこにいるの……? 氷花に会いたいよ……」
「大丈夫よ。すぐに会えるわ」
私は、次の面会の時に氷の針を氷太郎の心臓に埋め込み、心臓を刺して殺した。
氷太郎は、最期まで自分が氷花にした仕打ちを知らずに死んだ。
この子は、人生のほとんどを赤の他人に奪われて、薬漬けにされて体を壊された。
私は、息子の人生を壊したオール・フォー・ワンと殻木に必ず一矢報いると心に決めた。
「ゆっくり休んでね、氷太郎。お母さんが、仇を取ってあげるからね……全部終わったら、お母さんもそっちに行くね」
それから私は、私達の人生をぶち壊した奴等に復讐する為に動いた。
まずはステインの知名度を利用して、仲間を集めた。
荼毘くん、トガちゃん、トゥワイスくん、スピナーくん、ミスター、マグネさん、マスキュラー、ムーンフィッシュ、マスタードくん。
喧嘩を売ってきた子には上下関係を教え込みつつ、皆と弔くんの仲を取り持った。
「先生、氷叢六花をお連れしました」
「よくやったね。彼女をこちらに」
「はい」
そして合宿襲撃当日、六花を攫った私は、オール・フォー・ワンのもとへ六花を送りつけた。
オール・フォー・ワンなら、必ず六花の“個性”を奪いに来る。
その時六花をけしかけて、オール・フォー・ワンを殺してやるつもりだった。
だけどオール・フォー・ワンの『超再生』の発動と六花の転送が間に合ったから、その時はオール・フォー・ワンを殺せなかった。
もう一度チャンスが訪れたのは、六花がオール・フォー・ワンを凍らせた時だった。
私は、オールマイトがトドメの一撃を叩き込む瞬間、オール・フォー・ワンの体を覆う氷を操って、奴の息の根を完全に止めた。
『ところで、ついさっき先生のシンパが届けに来た土産なんじゃが……これは君が送ってきた物かの?』
「あぁ……はい。いつもお世話になっているドクターと先生にお礼をと思いまして。『余市』、私の地元のウイスキーなんですよ。雄英の生徒が二人こちらの手に堕ちたことですし、連合の勝利に一杯いかがですか?」
『ほっほっほ、君もいい性格しとるのぉ』
殻木には、私の氷の因子を混ぜたウイスキーを送りつけた。
一口でも飲んだ瞬間に一瞬で体が凍りついて死に至るし、開けただけでも冷気がじわじわと肺を蝕んで、最終的には1時間もせずに低体温症で死に至る。
弔くん達を遠くに逃がして、シンパをこちら側に引き込んで、クソ二人への復讐を果たした。
クソ家への復讐も、既に準備を終えてある。
私が自殺する間際、クソ家の悪事をメディアに流出させた。
あとは私が何もしなくても、正義の味方ヅラした偽善者どもが、勝手にクソ家を袋叩きにしてくれる。
「……大丈夫よ。独りじゃないから。一緒にいこう」
私はレンゲちゃん……いや、氷花と一緒に、体内に仕込んだ爆弾を起爆させて、ヒーローに連行される前に自爆した。
他の脳無も、クソどもの思い通りにさせない為に、みんな纏めて爆破した。
弔くんの情報を、ヒーローなんかには渡さない。
壊れた世界をこの目で見届けられなかった事が心残りだけど、誰にも弔くんの邪魔はさせない。
◆◆◆
死柄木 side
黒霧に転送された俺は、気がついたら廃ビルの中にいた。
戦いはどうなった……!?
先生は……!?
「黒霧、先生は……!?」
「……たった今、死亡が確認されました。オールマイトの手によって、体を砕かれたそうです」
「なっ……!? 嘘だ、先生が……」
嘘だ、先生がオールマイトに殺されるなんて……
俺が信じられずにいると、黒霧がネットニュースを見せてきた。
……クソッ、何がヒーローだ。
正義だ何だと言っておいて、結局てめぇの身が危なくなれば敵を殺すんじゃねぇか。
「……死柄木弔」
「何だよ」
「ノウメンから、『もし私がヒーローに捕まるか死ぬかしたら、代わりに死柄木弔に伝えて欲しい』と伝言を頼まれています」
黒霧は、俺にノウメンからの伝言を伝えてきた。
「…………は?」
俺は、黒霧の言っている事が理解できなかった。
黒霧が伝えてきたのは、実は先生を殺したのは、オールマイトじゃなくてノウメンだという事。
先生だけじゃなくて、ドクターも殺した事。
あいつは、先生とドクターに人生をメチャクチャにされたから、二人に復讐する為に、ずっと従順な従者のフリをしていた事。
黒霧が何言ってんのかまるでわからなかったが、ノウメンが裏切り者だって事だけは理解できた。
「おい黒霧……お前、あいつが裏切り者だって前から知ってたのか? だったら、なんで止めなかった? 説明次第じゃ、今すぐお前を塵にしてやるからな」
「話を最後まで聞いてください。確かに彼女は、復讐の為に先生とドクターを裏切りました。ですが死柄木弔、それはあなたの為にやったことでもあるのです」
「は? 俺の為だと?」
「ノウメンは、最初こそ復讐の為に
…………は?
なんだそれ……
意味がわかんねぇよ。
何が『好きに生きてね』、だ。
好き勝手やって、勝手にいなくなりやがって……
「それで黒霧……お前も先生を裏切って、あいつを黙って見過ごすことにしたのか?」
「私は死柄木弔を守る者。あなたを救う為に行動した人の味方をしたまでです」
「…………そうかよ」
黒霧の言葉を聞いて、さっきまで頭に上っていた熱が冷めていく。
ノウメンが来てから、あいつにうざいくらい話しかけられて、俺なりに色々考えるようになった。
先生は、俺を導いているように見えて、本当は俺をいいように利用したいだけなんじゃないかって、心のどこかで引っ掛かってた。
ヒーローをぶっ殺して世界を壊したいって目的も、俺が自分で考えたものじゃなくて、全部先生に教えられて、植え付けられた目的だった。
それに対して、ノウメンは、今まで俺に命令してきた事は一度もなかった。
俺がゲームしてる時に割り込んできたり、俺が本当に危なくなった時に助けたり、俺に干渉してくる事はあったが、俺に自分の意見を押し付けてくる事はなかった。
あいつは俺の事を、対等な仲間として見ていた。
一言余計なババァだったが、あいつと話した時の方が、自分の言葉で話せたって今になって気がついた。
ヒーローを殺して世界を壊すっていう先生に植え付けられた目的は、あいつにぶっ壊された。
だからって、俺の過去も、この世界に対する憎しみも消えたわけじゃない。
何より、仲間の仇だ。
俺の仲間を追い詰めて居場所を奪うような世界なんざ、一回壊れてなくなった方がいい。
俺が壊すのは、誰かに言われたからじゃない。
ここからは、俺が自分で、自分の目的を果たす。
俺がこの手で、全部ぶっ壊してやる。
「弔くん、これからどうするんですか?」
「……決まってんだろ。
俺は、振り向いてスピナー達に尋ねた。
俺は、先生に植え付けられた目的の為に、こいつらを仲間にした。
だけど、こいつらを仲間だと思っているのは、自分の意思だ。
「聞くまでもねぇよ。俺はお前についてくって決めたんだ」
「私もよ。私は、自由に生きる為にここにいるの」
「私も全部ぶっ壊して、生きやすい世界にしたいです!」
「死柄木が全部ぶっ壊すっつーんなら俺もやるぜ! 俺は嫌だね!」
「しゃあねぇ。最後まで付き合うぜ、リーダー」
「俺は元々全部ぶっ壊すつもりだったぜ」
「俺は好きに暴れられりゃ何だっていいぜ!」
「そうだね……こんな世界、一回壊した方がいいよ」
「にくめん……にくめんん……」
俺の仲間は、誰も連合から抜けるとは言わなかった。
「……決まりだな。おい黒霧、俺達をここへ飛ばせ。やることがある」
「かしこまりました」
俺が携帯の画面を見せながら言うと、黒霧が“個性”を発動してワープゲートを広げる。
ここからだ。
仲間の幸せの為、そして俺の為に。
今の世界を、全部ぶっ壊してやる。
ここからは、魔王の物語ではなく、死柄木弔という一人の青年の復讐の物語です。
弔くんが雪代さんに救われた上で自分の意思で破壊に踏み切ってるので、デクに救われるルートが完全に潰えてしまったという。
むしろ腐れ梅干しの干渉が無くなって精神的に成長して隙がなくなった事で、原作より厄介度が増してるまであります。
ちなみに雪代さんの名前には、ちゃんと意味があります。
雪代って雪解け水の事で、春の季語だそうです。
氷叢家に復讐する=氷叢を終わらせるという意味で、あえて春の季語を名前にしました。
面白いと思っていただけましたら、高評価・お気に入り・感想等よろしくお願いします( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
作者は単純ですので、高評価・お気に入り・感想をいただけましたらモチベーションになります。