神野区編の(1)から地獄の氷叢さん家(2)までをリメイクしました。
大まかな流れは変わっていませんが、いくつか変更点がございます。
前のストーリーを楽しんでいただいた方には大変申し訳ございませんが、神野区編の(1)から遡って読んでいただくことをお勧めします。
殻木 side
「まさか先生でも奪えん代物とはのぉ……誤算も誤算じゃよ」
氷叢六花の様子をモニターで監視しながらデータを取っていた儂は、研究データを見ながら呟く。
先生は当初、氷叢六花の“個性”を欲しがっておった。
ただでさえ希少な第七世代、それも氷叢家の末裔ときた。
拉致した直後、先生は氷叢六花の“個性”を奪おうとした。
だが、氷叢六花に触れた瞬間に一瞬で体温を奪われ、凍死寸前に追い込まれた。
凍死する前に氷叢六花を転送したおかげで助かったが、あと数秒転送が遅かったら凍死しておったわい。
先生が奪えなかった“個性”なんて、ワン・フォー・オールを除けば初めてじゃろうて。
「こうなったら、
儂は、部屋の隅に設置された培養ポッドを見ながら呟く。
ポッドの中に浮かんだ肉片には、氷の花が咲いておる。
あの子の“個性”を再現するには、特殊な氷でできた心臓が要る。
儂が今まで先生の為に培養してきた“個性”達とは訳が違う。
それ故儂は、氷叢六花の血液から採取した細胞を培養して、心筋細胞を造るという手段に出た。
あとは細胞の移植さえ成功すれば、理論上は再現が可能なはずじゃ。
あの“個性”が手に入れば、先生の体を治せるどころか、全盛期以上の力が手に入る。
ホホッ、想像しただけで笑いが止まらんわい。
「そういえば、氷叢雪代から貰ったウイスキーがあったな」
儂は、ついさっき氷叢雪代から送られてきたウイスキーが届いたのを思い出した。
『余市』か……
よりにもよって初代ワン・フォー・オールと同じ名前のウイスキーを寄越してくるとは、全くいい性格をしとるのぉ。
「
先生が全盛期以上の力を手に入れて暗躍する姿を想像しながら、ロックグラスにウイスキーを注ぎ、オン・ザ・ロックを作った。
グラスを手に取りスワリングしていると、ウイスキーの中に、小さなゴミのようなものが浮いとる事に気がついた。
「……ホ?」
よく見てみるとそれは、白い花の形をしていた。
ただのゴミではない。
ウイスキーの中で、少しずつ大きくなっとる。
それに、やけに冷えるのが早い。
その原因が、紛れ込んだゴミ……否、
「…………ゴホッ!?」
……何じゃ?
全身が寒い……震えが止まらん……
息が出来ん……!!
見ると、儂の体には、霜が降りておった。
やがて震えが止まり、指先が壊死して黒く変色する。
肺にも霜が入り込んでいるのか、呼吸すらままならん。
「ヒュッ……ヒッ……!」
拙い、拙い拙い……!!
体が言うことをきかん……
何がどうなっとる!?
まさか、ウイスキーに何か仕掛けておったのか!?
そうとしか考えられん……!!
しかし、何故じゃ……!?
氷叢雪代からも、贈ってきたシンパからも、虚偽や殺意は感知できなかった。
こんなバカな話があってたまるか……!!
まるで生身で冷凍庫に入っているような極寒の中、儂は暖を取りに行こうとする。
だがその時、急に全身に力が入らなくなって転び、無様に床に這いつくばる羽目になった。
目の焦点が合わず、手は枯れ枝のように萎れておる。
まさか、体温が下がりすぎて、“個性”が維持できなくなったのか……!?
「ヒッ……ヒッ…………!」
嫌じゃ、嫌じゃ……!!
儂はこんなところで死ねん……!!
死柄木弔を先生の後継者にするまでは……!!
「あ、やっとかかりました? 私の罠に」
突然、儂の精神に誰かが入り込んでくる。
儂を見下して愉快そうに笑っておるのは、氷叢雪代じゃった。
まさか、此奴が……!?
「あなたに贈ったウイスキーに、私の因子を混ぜておいたんですよ。あなたのことは、どうしても殺しておきたかったので」
何故じゃ……!?
儂や先生をもってしても、裏切るそぶりは感知できなかった。
ずっと儂と先生の従順な側近だったはず……
此奴、一体いつから儂等を裏切っておった……!?
「一体いつから裏切っていたのかって顔してますね。結構前からですよ。六花が雄英を受験した時には、既にあなたを殺す算段を立てていました」
何故じゃ……
何故、そんな事を……
「私は、私から家族を奪ったオール・フォー・ワンが憎い。だから復讐することにしたんです。聞けば、本物の『オール・フォー・ワン』の因子は、弔くんに移植する為にあなたが保管しているそうじゃないですか。それって要は、あなたが死ねば、あいつの計画は破綻するってことですよね? 貴重な情報をどうもありがとう」
この女、儂らを裏切るつもりで研究に加担しておったのか……!!
いや、そんな事より、儂が死んだら、せっかくここまで積み上げたマスターピース計画が水の泡となってしまう!!
そうじゃ、ジョンちゃんに先生のもとへ転送してもらって……
……いや、無理じゃ。
この距離じゃ、先生の元へは転送できん。
ここには、儂を救える“個性”を持った脳無はおらん。
「今のあなたに打つ手が無いことは把握済みです。さっさと死んでください」
「ぐぅっ……」
いかん、もう体が動かん……
嫌じゃ、嫌じゃ嫌じゃ!!
儂は先生の為にここまで尽くしてきたんじゃ!!
こんな無様に死ねるものか!!
せめて、先生にこの事を伝えねば……
肺が凍りついて喋れなくなる前に……!!
「ヒュッ……ゴホッ…………」
◆◆◆
No side
「会長。病院地下の研究施設に保管されていたと思われる研究データですが、全て破損しており、復元は困難を極めています。地下で培養中だったと思われる脳無に関しても、全て頭部が粉々に砕け散り、生体機能が全て停止していました」
「……そう」
公安本部では、公安委員会会長が、ウィングヒーロー《ホークス》からの報告を聞いていた。
表向きは実力派のトップヒーローだが、裏の顔は、公安委員会直属のプロヒーローだ。
公安委員会会長の命令で動き、社会の秩序を保つ為に、危険因子を排除するのが彼の役目だ。
会長から殻木の研究データの押収を命じられていたホークスは、ミルコらと共に、蛇腔総合病院の奇襲作戦に参加していた。
だが、蓋を開けてみれば、研究施設内では殻木球大と思しき老人が凍死しており、培養中だった脳無は一体残らず脳を吹き飛ばされて死亡していた。
研究データも、ミルコが突入した瞬間に全て爆破され、復元は不可能な状態となっていた。
研究データについての報告を終えたホークスは、次に死体の鑑定結果が書かれた資料をプロジェクターで映し出す。
「そしてこちらが、研究施設で見つかった凍死体の鑑定結果です。検出された“個性”因子と過去の“個性”届を照らし合わせた結果、殻木球大本人のものと断定。それともう一点、気になることが……」
「……何です?」
「殻木の死体の側に置いてあったウイスキーから、ヒトの細胞が大量に検出されたのですが……その細胞のDNAが、氷叢雪代のものと一致しました」
「氷叢雪代……」
ホークスからその名前を聞いた会長は、顎に手を当てて考え込む。
雪代は自分が切り捨てられる事を見越して、オール・フォー・ワンに一矢報いるために殻木を殺害したのではないかと、会長は予想していた。
「……だとしたら、因果応報ね」
会長は、殻木と雪代の資料を見ながら口を開く。
オール・フォー・ワンと殻木球大は、一人の女性の人生を弄び、散々いいように利用した挙句、最後には切り捨てた。
そのツケを払う時が来た、ただそれだけの事だ。
◆◆◆
死柄木 side
黒霧に転送された俺は、気がついたら廃ビルの中にいた。
戦いはどうなった……!?
先生は……!?
「黒霧、先生は……!?」
「……たった今、死亡が確認されました。オールマイトの手によって、体を砕かれたそうです」
「なっ……!? 嘘だ、先生が……」
嘘だ、先生がオールマイトに殺されるなんて……
俺が信じられずにいると、黒霧がネットニュースを見せてきた。
……クソッ、何がヒーローだ。
正義だ何だと言っておいて、結局てめぇの身が危なくなれば敵を殺すんじゃねぇか。
「……死柄木弔」
「何だよ」
「ノウメンから、『もし私がヒーローに捕まるか死ぬかしたら、代わりに死柄木弔に伝えて欲しい』と伝言を頼まれています」
黒霧は、俺にノウメンからの伝言を伝えてきた。
「…………は?」
俺は、黒霧の言っている事が理解できなかった。
黒霧が伝えてきたのは、あいつがドクターを殺して、先生の計画を台無しにした事。
あいつは、先生とドクターに人生をメチャクチャにされたから、二人に復讐する為に、ずっと従順な従者のフリをしていた事。
黒霧が何言ってんのかまるでわからなかったが、ノウメンが裏切り者だって事だけは理解できた。
「おい黒霧……お前、あいつが裏切り者だって前から知ってたのか? だったら、なんで止めなかった? 説明次第じゃ、今すぐお前を塵にしてやるからな」
「話を最後まで聞いてください。確かに彼女は、復讐の為に先生とドクターを裏切りました。ですが死柄木弔、それはあなたの為にやったことでもあるのです」
「は? 俺の為だと?」
「ノウメンは、最初こそ復讐の為に
…………は?
なんだそれ……
意味がわかんねぇよ。
何が『好きに生きてね』、だ。
好き勝手やって、勝手にいなくなりやがって……
「それで黒霧……お前も先生を裏切って、あいつを黙って見過ごすことにしたのか?」
「私は死柄木弔を守る者。あなたを救う為に行動した人の味方をしたまでです」
「…………そうかよ」
黒霧の言葉を聞いて、さっきまで頭に上っていた熱が冷めていく。
ノウメンが来てから、あいつにうざいくらい話しかけられて、俺なりに色々考えるようになった。
先生は、俺を導いているように見えて、本当は俺をいいように利用したいだけなんじゃないかって、心のどこかで引っ掛かってた。
ヒーローをぶっ殺して世界を壊したいって目的も、俺が自分で考えたものじゃなくて、全部先生に教えられて、植え付けられた目的だった。
それに対して、ノウメンは、今まで俺に命令してきた事は一度もなかった。
俺がゲームしてる時に割り込んできたり、俺が本当に危なくなった時に助けたり、俺に干渉してくる事はあったが、俺に自分の意見を押し付けてくる事はなかった。
あいつは俺の事を、対等な仲間として見ていた。
一言余計なババァだったが、あいつと話した時の方が、自分の言葉で話せたって今になって気がついた。
ヒーローを殺して世界を壊すっていう先生に植え付けられた目的は、あいつにぶっ壊された。
だからって、俺の過去も、この世界に対する憎しみも消えたわけじゃない。
何より、仲間の仇だ。
俺の仲間を追い詰めて居場所を奪うような世界なんざ、一回壊れてなくなった方がいい。
俺が壊すのは、誰かに言われたからじゃない。
ここからは、俺が自分で、自分の目的を果たす。
俺がこの手で、全部ぶっ壊してやる。
「弔くん、これからどうするんですか?」
「……決まってんだろ。
俺は、振り向いてスピナー達に尋ねた。
俺は、先生に植え付けられた目的の為に、こいつらを仲間にした。
だけど、こいつらを仲間だと思っているのは、自分の意思だ。
「聞くまでもねぇよ。俺はお前についてくって決めたんだ」
「私もよ。私は、自由に生きる為にここにいるの」
「私も全部ぶっ壊して、生きやすい世界にしたいです!」
「死柄木が全部ぶっ壊すっつーんなら俺もやるぜ! 俺は嫌だね!」
「しゃあねぇ。最後まで付き合うぜ、リーダー」
「俺は元々全部ぶっ壊すつもりだったぜ」
「俺は好きに暴れられりゃ何だっていいぜ!」
「そうだね……こんな世界、一回壊した方がいいよ」
「にくめん……にくめんん……」
俺の仲間は、誰も連合から抜けるとは言わなかった。
「……決まりだな。おい黒霧、俺達をここへ飛ばせ。やることがある」
「かしこまりました」
俺が携帯の画面を見せながら言うと、黒霧が“個性”を発動してワープゲートを広げる。
ここからだ。
仲間の幸せの為、そして俺の為に。
今の世界を、全部ぶっ壊してやる。
書き直しverの主な変更点は以下の四点です。
・六花ちゃんの転送先を、蛇腔からAFOの泥ワープの転送圏内に変更
・雪代さんが泥ワープでAFOに攫われて対オールマイト用の捨て石として爆破され、六花ちゃんが助けに行くお話に変更
・AFOの最期を、雪代さんの“個性”を奪った事で反逆され凍殺される自業自得エンドに変更
・AFOとドクターの断末魔の描写を追加