地獄の氷叢さん家   作:M.T.

61 / 74
大変お待たせしました。
神野区編の(1)から地獄の氷叢さん家(2)までをリメイクしました。
大まかな流れは変わっていませんが、いくつか変更点がございます。
前のストーリーを楽しんでいただいた方には大変申し訳ございませんが、神野区編の(1)から遡って読んでいただくことをお勧めします。


第58話 地獄の氷叢さん家(3)

殻木 side

 

「まさか先生でも奪えん代物とはのぉ……誤算も誤算じゃよ」

 

 氷叢六花の様子をモニターで監視しながらデータを取っていた儂は、研究データを見ながら呟く。

 先生は当初、氷叢六花の“個性”を欲しがっておった。

 ただでさえ希少な第七世代、それも氷叢家の末裔ときた。

 

 拉致した直後、先生は氷叢六花の“個性”を奪おうとした。

 だが、氷叢六花に触れた瞬間に一瞬で体温を奪われ、凍死寸前に追い込まれた。

 凍死する前に氷叢六花を転送したおかげで助かったが、あと数秒転送が遅かったら凍死しておったわい。

 先生が奪えなかった“個性”なんて、ワン・フォー・オールを除けば初めてじゃろうて。

 

「こうなったら、も(・)う(・)ひ(・)と(・)つ(・)の(・)方(・)法(・)を試すしかないかのぉ」

 

 儂は、部屋の隅に設置された培養ポッドを見ながら呟く。

 ポッドの中に浮かんだ肉片には、氷の花が咲いておる。

 あの子の“個性”を再現するには、特殊な氷でできた心臓が要る。

 儂が今まで先生の為に培養してきた“個性”達とは訳が違う。

 それ故儂は、氷叢六花の血液から採取した細胞を培養して、心筋細胞を造るという手段に出た。

 あとは細胞の移植さえ成功すれば、理論上は再現が可能なはずじゃ。

 あの“個性”が手に入れば、先生の体を治せるどころか、全盛期以上の力が手に入る。

 ホホッ、想像しただけで笑いが止まらんわい。

 

「そういえば、氷叢雪代から貰ったウイスキーがあったな」

 

 儂は、ついさっき氷叢雪代から送られてきたウイスキーが届いたのを思い出した。

 『余市』か……

 よりにもよって初代ワン・フォー・オールと同じ名前のウイスキーを寄越してくるとは、全くいい性格をしとるのぉ。

 

「敵(ヴィラン)連合の未来に、乾杯」

 

 先生が全盛期以上の力を手に入れて暗躍する姿を想像しながら、ロックグラスにウイスキーを注ぎ、オン・ザ・ロックを作った。

 グラスを手に取りスワリングしていると、ウイスキーの中に、小さなゴミのようなものが浮いとる事に気がついた。

 

 

「……ホ?」

 

 よく見てみるとそれは、白い花の形をしていた。

 ただのゴミではない。

 ウイスキーの中で、少しずつ大きくなっとる。

 それに、やけに冷えるのが早い。

 その原因が、紛れ込んだゴミ……否、雪(・)の(・)結(・)晶(・)だという事に気がつく。

 

 

「…………ゴホッ!?」

 

 ……何じゃ?

 全身が寒い……震えが止まらん……

 息が出来ん……!!

 

 見ると、儂の体には、霜が降りておった。

 やがて震えが止まり、指先が壊死して黒く変色する。

 肺にも霜が入り込んでいるのか、呼吸すらままならん。

 

「ヒュッ……ヒッ……!」

 

 拙い、拙い拙い……!!

 体が言うことをきかん……

 何がどうなっとる!?

 まさか、ウイスキーに何か仕掛けておったのか!?

 そうとしか考えられん……!!

 しかし、何故じゃ……!?

 氷叢雪代からも、贈ってきたシンパからも、虚偽や殺意は感知できなかった。

 こんなバカな話があってたまるか……!!

 

 まるで生身で冷凍庫に入っているような極寒の中、儂は暖を取りに行こうとする。

 だがその時、急に全身に力が入らなくなって転び、無様に床に這いつくばる羽目になった。

 目の焦点が合わず、手は枯れ枝のように萎れておる。

 まさか、体温が下がりすぎて、“個性”が維持できなくなったのか……!?

 

「ヒッ……ヒッ…………!」

 

 嫌じゃ、嫌じゃ……!!

 儂はこんなところで死ねん……!!

 死柄木弔を先生の後継者にするまでは……!!

 

 

「あ、やっとかかりました? 私の罠に」

 

 突然、儂の精神に誰かが入り込んでくる。

 儂を見下して愉快そうに笑っておるのは、氷叢雪代じゃった。

 まさか、此奴が……!?

 

「あなたに贈ったウイスキーに、私の因子を混ぜておいたんですよ。あなたのことは、どうしても殺しておきたかったので」

 

 何故じゃ……!?

 儂や先生をもってしても、裏切るそぶりは感知できなかった。

 ずっと儂と先生の従順な側近だったはず……

 此奴、一体いつから儂等を裏切っておった……!?

 

「一体いつから裏切っていたのかって顔してますね。結構前からですよ。六花が雄英を受験した時には、既にあなたを殺す算段を立てていました」

 

 何故じゃ……

 何故、そんな事を……

 

「私は、私から家族を奪ったオール・フォー・ワンが憎い。だから復讐することにしたんです。聞けば、本物の『オール・フォー・ワン』の因子は、弔くんに移植する為にあなたが保管しているそうじゃないですか。それって要は、あなたが死ねば、あいつの計画は破綻するってことですよね? 貴重な情報をどうもありがとう」

 

 この女、儂らを裏切るつもりで研究に加担しておったのか……!!

 いや、そんな事より、儂が死んだら、せっかくここまで積み上げたマスターピース計画が水の泡となってしまう!!

 そうじゃ、ジョンちゃんに先生のもとへ転送してもらって……

 ……いや、無理じゃ。

 この距離じゃ、先生の元へは転送できん。

 ここには、儂を救える“個性”を持った脳無はおらん。

 

「今のあなたに打つ手が無いことは把握済みです。さっさと死んでください」

「ぐぅっ……」

 

 いかん、もう体が動かん……

 嫌じゃ、嫌じゃ嫌じゃ!!

 儂は先生の為にここまで尽くしてきたんじゃ!!

 こんな無様に死ねるものか!!

 せめて、先生にこの事を伝えねば……

 肺が凍りついて喋れなくなる前に……!!

 

 

 

「ヒュッ……ゴホッ…………」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

「会長。病院地下の研究施設に保管されていたと思われる研究データですが、全て破損しており、復元は困難を極めています。地下で培養中だったと思われる脳無に関しても、全て頭部が粉々に砕け散り、生体機能が全て停止していました」

「……そう」

 

 公安本部では、公安委員会会長が、ウィングヒーロー《ホークス》からの報告を聞いていた。

 表向きは実力派のトップヒーローだが、裏の顔は、公安委員会直属のプロヒーローだ。

 公安委員会会長の命令で動き、社会の秩序を保つ為に、危険因子を排除するのが彼の役目だ。

 会長から殻木の研究データの押収を命じられていたホークスは、ミルコらと共に、蛇腔総合病院の奇襲作戦に参加していた。

 

 だが、蓋を開けてみれば、研究施設内では殻木球大と思しき老人が凍死しており、培養中だった脳無は一体残らず脳を吹き飛ばされて死亡していた。

 研究データも、ミルコが突入した瞬間に全て爆破され、復元は不可能な状態となっていた。

 研究データについての報告を終えたホークスは、次に死体の鑑定結果が書かれた資料をプロジェクターで映し出す。

 

「そしてこちらが、研究施設で見つかった凍死体の鑑定結果です。検出された“個性”因子と過去の“個性”届を照らし合わせた結果、殻木球大本人のものと断定。それともう一点、気になることが……」

「……何です?」

「殻木の死体の側に置いてあったウイスキーから、ヒトの細胞が大量に検出されたのですが……その細胞のDNAが、氷叢雪代のものと一致しました」

「氷叢雪代……」

 

 ホークスからその名前を聞いた会長は、顎に手を当てて考え込む。

 敵(ヴィラン)連合の幹部として追っていた要注意人物だが、オール・フォー・ワンの手によって爆破され、生死の境を彷徨っていると聞いていた。

 雪代は自分が切り捨てられる事を見越して、オール・フォー・ワンに一矢報いるために殻木を殺害したのではないかと、会長は予想していた。

 

「……だとしたら、因果応報ね」

 

 会長は、殻木と雪代の資料を見ながら口を開く。

 オール・フォー・ワンと殻木球大は、一人の女性の人生を弄び、散々いいように利用した挙句、最後には切り捨てた。

 そのツケを払う時が来た、ただそれだけの事だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

死柄木 side

 

 黒霧に転送された俺は、気がついたら廃ビルの中にいた。

 戦いはどうなった……!?

 先生は……!?

 

「黒霧、先生は……!?」

「……たった今、死亡が確認されました。オールマイトの手によって、体を砕かれたそうです」

「なっ……!? 嘘だ、先生が……」

 

 嘘だ、先生がオールマイトに殺されるなんて……

 俺が信じられずにいると、黒霧がネットニュースを見せてきた。

 

 ……クソッ、何がヒーローだ。

 正義だ何だと言っておいて、結局てめぇの身が危なくなれば敵を殺すんじゃねぇか。

 

「……死柄木弔」

「何だよ」

「ノウメンから、『もし私がヒーローに捕まるか死ぬかしたら、代わりに死柄木弔に伝えて欲しい』と伝言を頼まれています」

 

 黒霧は、俺にノウメンからの伝言を伝えてきた。

 

「…………は?」

 

 俺は、黒霧の言っている事が理解できなかった。

 黒霧が伝えてきたのは、あいつがドクターを殺して、先生の計画を台無しにした事。

 あいつは、先生とドクターに人生をメチャクチャにされたから、二人に復讐する為に、ずっと従順な従者のフリをしていた事。

 黒霧が何言ってんのかまるでわからなかったが、ノウメンが裏切り者だって事だけは理解できた。

 

「おい黒霧……お前、あいつが裏切り者だって前から知ってたのか? だったら、なんで止めなかった? 説明次第じゃ、今すぐお前を塵にしてやるからな」

「話を最後まで聞いてください。確かに彼女は、復讐の為に先生とドクターを裏切りました。ですが死柄木弔、それはあなたの為にやったことでもあるのです」

「は? 俺の為だと?」

「ノウメンは、最初こそ復讐の為に敵(ヴィラン)連合を乗っ取るつもりでいました。ですがあなたと過ごしているうちに、自分と同じように世界から見放されたあなたを、先生の支配から救いたいとも考えたそうです。『あなたは誰の言うことも聞かなくていい。これからは何にも縛られずに好きに生きてね』、それが彼女からあなたへの伝言です」

 

 …………は?

 なんだそれ……

 意味がわかんねぇよ。

 何が『好きに生きてね』、だ。

 好き勝手やって、勝手にいなくなりやがって……

 

「それで黒霧……お前も先生を裏切って、あいつを黙って見過ごすことにしたのか?」

「私は死柄木弔を守る者。あなたを救う為に行動した人の味方をしたまでです」

「…………そうかよ」

 

 黒霧の言葉を聞いて、さっきまで頭に上っていた熱が冷めていく。

 ノウメンが来てから、あいつにうざいくらい話しかけられて、俺なりに色々考えるようになった。

 先生は、俺を導いているように見えて、本当は俺をいいように利用したいだけなんじゃないかって、心のどこかで引っ掛かってた。

 ヒーローをぶっ殺して世界を壊したいって目的も、俺が自分で考えたものじゃなくて、全部先生に教えられて、植え付けられた目的だった。

 

 それに対して、ノウメンは、今まで俺に命令してきた事は一度もなかった。

 俺がゲームしてる時に割り込んできたり、俺が本当に危なくなった時に助けたり、俺に干渉してくる事はあったが、俺に自分の意見を押し付けてくる事はなかった。

 あいつは俺の事を、対等な仲間として見ていた。

 一言余計なババァだったが、あいつと話した時の方が、自分の言葉で話せたって今になって気がついた。

 

 ヒーローを殺して世界を壊すっていう先生に植え付けられた目的は、あいつにぶっ壊された。

 だからって、俺の過去も、この世界に対する憎しみも消えたわけじゃない。

 何より、仲間の仇だ。

 俺の仲間を追い詰めて居場所を奪うような世界なんざ、一回壊れてなくなった方がいい。

 

 俺が壊すのは、誰かに言われたからじゃない。

 ここからは、俺が自分で、自分の目的を果たす。

 俺がこの手で、全部ぶっ壊してやる。

 

「弔くん、これからどうするんですか?」

「……決まってんだろ。敵(ヴィラン)連合は全部ぶっ壊すんだよ。お前らもついてくるか?」

 

 俺は、振り向いてスピナー達に尋ねた。

 俺は、先生に植え付けられた目的の為に、こいつらを仲間にした。

 だけど、こいつらを仲間だと思っているのは、自分の意思だ。

 

「聞くまでもねぇよ。俺はお前についてくって決めたんだ」

「私もよ。私は、自由に生きる為にここにいるの」

「私も全部ぶっ壊して、生きやすい世界にしたいです!」

「死柄木が全部ぶっ壊すっつーんなら俺もやるぜ! 俺は嫌だね!」

「しゃあねぇ。最後まで付き合うぜ、リーダー」

「俺は元々全部ぶっ壊すつもりだったぜ」

「俺は好きに暴れられりゃ何だっていいぜ!」

「そうだね……こんな世界、一回壊した方がいいよ」

「にくめん……にくめんん……」

 

 俺の仲間は、誰も連合から抜けるとは言わなかった。

 

「……決まりだな。おい黒霧、俺達をここへ飛ばせ。やることがある」

「かしこまりました」

 

 俺が携帯の画面を見せながら言うと、黒霧が“個性”を発動してワープゲートを広げる。

 ここからだ。

 仲間の幸せの為、そして俺の為に。

 今の世界を、全部ぶっ壊してやる。

 

 

 

 

 




書き直しverの主な変更点は以下の四点です。

・六花ちゃんの転送先を、蛇腔からAFOの泥ワープの転送圏内に変更
・雪代さんが泥ワープでAFOに攫われて対オールマイト用の捨て石として爆破され、六花ちゃんが助けに行くお話に変更
・AFOの最期を、雪代さんの“個性”を奪った事で反逆され凍殺される自業自得エンドに変更
・AFOとドクターの断末魔の描写を追加
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。