神野区編の(1)から地獄の氷叢さん家(2)までをリメイクしました。
大まかな流れは変わっていませんが、いくつか変更点がございます。
前のストーリーを楽しんでいただいた方には大変申し訳ございませんが、神野区編の(1)から遡って読んでいただくことをお勧めします。
殻木 side
「まさか先生でも奪えん代物とはのぉ……誤算も誤算じゃよ」
氷叢六花の様子をモニターで監視しながらデータを取っていた儂は、研究データを見ながら呟く。
先生は当初、氷叢六花の“個性”を欲しがっておった。
ただでさえ希少な第七世代、それも氷叢家の末裔ときた。
拉致した直後、先生は氷叢六花の“個性”を奪おうとした。
だが、氷叢六花に触れた瞬間に一瞬で体温を奪われ、凍死寸前に追い込まれた。
凍死する前に氷叢六花を転送したおかげで助かったが、あと数秒転送が遅かったら凍死しておったわい。
先生が奪えなかった“個性”なんて、『ワン・フォー・オール』を除けば初めてじゃろうて。
「こうなったら、
儂は、部屋の隅に設置された培養ポッドを見ながら呟く。
ポッドの中に浮かんだ肉片には、氷の花が咲いておる。
あの子の“個性”を再現するには、特殊な氷でできた心臓が要る。
儂が今まで先生の為に培養してきた“個性”達とは訳が違う。
それ故儂は、氷叢六花の血液から採取した細胞を培養して、心筋細胞を造るという手段に出た。
あとは細胞の移植さえ成功すれば、理論上は再現が可能なはずじゃ。
あの“個性”が手に入れば、先生の体を治せるどころか、全盛期以上の力が手に入る。
……それにしても。
「惜しい人材を失くしたのぉ。あれほど使い勝手のいい駒はなかなかいないわい」
儂は、研究室の隅に設置された測定機器を見ながらポツリと呟く。
たった今、氷叢雪代の生体反応が途絶えた。
あの女は、本当に優秀な駒じゃった。
マスターピースになり得た素質を持ち、勘も鋭かった。
儂等が息子を実験材料にしていた事にも勘付いているようじゃった。
もしかしたら、先生があの女の父親を唆し、2年前の事件も邪魔な裏切り者を消す為に先生が仕組んでいた事にも、薄々気づいておったのかもしれんのぉ。
もし牙を剥かれていたらと思うとゾッとするわい。
そんな事を考えていた、その時じゃった。
「……ホ?」
妙な寒気を覚えて、体を見ると、腕に霜が降りておった。
何じゃ……?
この夏場に、何故霜など……
「…………ゴホッ!?」
全身が寒い……震えが止まらん……
息が出来ん……!!
肺にも霜が入り込んでいるのか、呼吸すらままならん。
「っ……!?」
室内じゃというのに、儂の周りに吹雪が渦巻き、あっという間に視界を奪う。
「ヒュッ……ヒッ……!」
拙い、拙い拙い……!!
体が言うことをきかん……
何がどうなっとる!?
まるで生身で冷凍庫に入っているような極寒の中、儂は暖を取りに行こうとする。
だがその時、急に全身に力が入らなくなって転び、無様に床に這いつくばる羽目になった。
目の焦点が合わず、手は枯れ枝のように萎れておる。
まさか、体温が下がりすぎて、“個性”が維持できなくなったのか……!?
「ヒッ……ヒッ…………!」
嫌じゃ、嫌じゃ……!!
儂はこんなところで死ねん……!!
死柄木弔を先生の後継者にするまでは……!!
儂が藁にも縋る思いで手を伸ばした、その時。
「ヒッ…………!?」
吹雪の中で、少しずつ雪が集まり、人の形になっていくのが見えた。
……あり得ん。
確かに生体反応が途絶えたはず……
一体どこにこんな力が……!?
「ひっ……ひむ……ら…………」
◆◆◆
No side
「会長。病院地下の研究施設に保管されていたと思われる研究データですが、全て破損しており、復元は困難を極めています。地下で培養中だったと思われる脳無に関しても、全て頭部が粉々に砕け散り、生体機能が全て停止していました」
「……そう」
公安本部では、公安委員会会長が、ウィングヒーロー《ホークス》からの報告を聞いていた。
表向きは実力派のトップヒーローだが、裏の顔は、公安委員会直属のプロヒーローだ。
公安委員会会長の命令で動き、社会の秩序を保つ為に、危険因子を排除するのが彼の役目だ。
会長から殻木の研究データの押収を命じられていたホークスは、ミルコらと共に、蛇腔総合病院の奇襲作戦に参加していた。
だが、蓋を開けてみれば、研究施設内では殻木球大と思しき老人が凍死しており、培養中だった脳無は一体残らず脳を凍らされた上に粉々に砕け散って死亡していた。
研究データも、ミルコが突入した時には全て氷で破壊されており、復元は不可能な状態となっていた。
破壊
研究データについての報告を終えたホークスは、次に死体の鑑定結果が書かれた資料をプロジェクターで映し出す。
「そしてこちらが、研究施設で見つかった凍死体の鑑定結果です。DNA鑑定の結果、殻木球大本人のものと断定。それともう一点、気になることが……」
「……何です?」
「殻木の凍死体なのですが……何かを訴えかけるかのように、氷叢雪代の写真を握りしめていたんです」
「氷叢雪代……」
ホークスからその名前を聞いた会長は、顎に手を当てて考え込む。
雪代は自分が切り捨てられる事を見越して、オール・フォー・ワンに一矢報いるために殻木を殺害したのではないかと、会長は予想していた。
「……だとしたら、因果応報ね」
会長は、殻木と雪代の資料を見ながら口を開く。
オール・フォー・ワンと殻木球大は、一人の女性の人生を弄び、散々いいように利用した挙句、最後には切り捨てた。
そのツケを払う時が来た、ただそれだけの事だ。
◆◆◆
死柄木 side
「クソッ、クソ、クソ……!!」
俺達は、黒霧の“個性”でどこかの廃ビルに飛ばされた。
状況がわからずに混乱する俺の目に飛び込んできたのは、オールマイトが勝利したというニュース。
ネットを見れば、どこもオールマイトの勝利を喜ぶ声ばかり。
先生は、オールマイトに負けて死んだ。
クソッ、何がヒーローだ……!
オールマイトだって、自分が危なくなりゃ、結局人を殺すんじゃねぇか!!
俺は、手に持っていたスマホを塵に変えて、近くに落ちていたゴミを蹴っ飛ばした。
「死柄木弔、どちらへ行かれるのですか?」
「うるさい!」
そのまま廃ビルから出て行こうとした、その時だった。
「良くないですよ。そうやってすぐに当たり散らすの」
突然、俺の目の前にノウメンが現れた。
よく見ると、手足が透き通っていて、立っている場所には霜が降りている。
「お前……何だ、その姿」
「ああ、これ? まあ話せば長くなるんですけど……私、先生に捨て石にされて、“個性”を奪われて殺されるところだったんですよ。今まで協力してあげてたのに酷くないですか? タダで殺されるのが嫌だったので、あいつの“個性”を全部凍らせて殺しちゃいました。そういうわけで、私ももうすぐ消えちゃうので、その前に最後の力を使って、君と話をしに来たんです」
ノウメンは、透けた手を俺の前に翳しながらペラペラと喋り出した。
こいつ、さっきから訳わかんねぇ事言いやがって……
「……付き合ってられるかよ。消えろ」
俺は、一方的に話しかけてくるノウメンを押しのけて、ビルの外に出ようとした。
するとノウメンが、急に真顔になって俺に話しかける。
「ねぇ弔くん、君は本当にこのままでいいの?」
「……あ?」
「君は、あいつに騙されていたのよ。あいつは、君を乗っ取って利用したいだけだったの」
そう言ってノウメンが、俺の顔に触れた。
冷たさを覚えたその直後、俺の頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。
「何だ、これ……!?」
俺の脳裏に浮かんだのは、『死柄木弔』としての俺のオリジンそのものだった。
俺がヒーローを憎んでいたのも、モンちゃんや華ちゃんが、みんなが死んだのも…全部、先生が……?
そんな……嘘だ……
だったら、今までの俺は何だったんだよ!?
嘘だ……こんなの嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!
「オ゛エッ、ゲホッ……」
「死柄木、大丈夫か!?」
俺がたまらず膝をついて胃液をぶち撒けると、スピナーが駆け寄ってくる。
「なんっ……なんだ、これ……!? やめろ、こんなもの見せるな……!!」
「私があいつの精神世界で見た光景そのものよ」
「う……そ、だ……こんなの……っ、消えろ……消えろ!!」
頭にこびりついた光景を消し去りたくて、顔を掻きむしりながら、床に頭を打ち付ける。
だが一度こびりついた光景は、消えるどころかより鮮明に脳裏に焼きついていた。
「信じるも信じないも君次第よ。でも、君だって薄々気付いてたんじゃないの? あいつは、君をいいように利用してるだけだったってこと」
ノウメンの言葉が、深く突き刺さる。
全部こいつの言う通りだ。
俺はずっと、先生の事が嫌いだった。
俺を思い通りに動かして、笑ってたから。
でも、俺をいいように利用したいだけだとかは考えないようにしていた。
俺には、先生の言う通りにオールマイトを殺す以外に何もなかったから。
「何なんだ、お前……俺にこんなもの見せて、何がしてぇんだ……なんで、こんなこと……」
容赦なく現実を突きつけてきたノウメンを睨みつけながら、そう尋ねる。
するとノウメンは、哀しげな表情を浮かべながら口を開く。
「私も、あいつに人生を壊されて、利用されてたの。弔くんと同じよ。弔くんがあいつにいいように利用されて、あいつがいい思いをするのはどうしても嫌だった。だから私は、君を救けることにしたの」
「俺を……救ける……?」
「私はここまでだけど、私達を利用していた悪い大人は私が道連れにしたわ。もう誰かの言うことを聞く必要なんてない。君は、君の好きなように生きていいんだよ」
その言葉を最後に、ノウメンは雪になって消えた。
ノウメンがいた場所には、氷の蓮の花が落ちていた。
気分最悪な中、俺の頭には、あいつに言われた言葉が焼き付いていた。
◇◇◇
「おい、死柄木……お前、大丈夫かよ?」
「…………」
あれから、どれくらい時間が経っただろうか。
俺は、仲間と一言も話さず、氷の花を眺めながら、ノウメンに言われた言葉を思い出していた。
あいつの言っていた事が事実だって確証があるわけじゃない。
だが俺は、あいつの言う通り、先生が俺を利用したいだけなんじゃないかって薄々わかってた。
先生が死んだ今、先生の思い通りに生きる理由が何も見つからない。
それで俺は、これからどうするか、俺なりに考えた。
思えば、俺がどうしたいかを自分で考えたのなんて、これが初めてだったかもしれない。
ヒーローを殺して世界を壊すっていう先生に植え付けられた目的は、ノウメンにぶっ壊された。
だからって、俺の過去も、この世界に対する憎しみも消えたわけじゃない。
何より、仲間の仇だ。
俺の仲間を追い詰めて居場所を奪うような世界なんざ、一回壊れてなくなった方がいい。
俺が壊すのは、誰かに言われたからじゃない。
ここからは、俺が自分で、自分の目的を果たす。
俺がこの手で、全部ぶっ壊してやる。
「弔くん、これからどうするんですか?」
「……決まってんだろ。
俺は、振り向いてスピナー達に尋ねた。
俺は、先生に植え付けられた目的の為に、こいつらを仲間にした。
だけど、こいつらを仲間だと思っているのは、自分の意思だ。
「聞くまでもねぇよ。俺はお前についてくって決めたんだ」
「私もよ。私は、自由に生きる為にここにいるの」
「私も全部ぶっ壊して、生きやすい世界にしたいです!」
「死柄木が全部ぶっ壊すっつーんなら俺もやるぜ! 俺は嫌だね!」
「しゃあねぇ。最後まで付き合うぜ、リーダー」
「俺は元々全部ぶっ壊すつもりだったぜ」
「俺は好きに暴れられりゃ何だっていいぜ!」
「そうだね……こんな世界、一回壊した方がいいよ」
「にくめん……にくめんん……」
俺の仲間は、誰も連合から抜けるとは言わなかった。
「……決まりだな。おい黒霧、俺達をここへ飛ばせ。やることがある」
「かしこまりました」
俺が携帯の画面を見せながら言うと、黒霧が“個性”を発動してワープゲートを広げる。
ここからだ。
仲間の幸せの為、そして俺の為に。
今の世界を、全部ぶっ壊してやる。
書き直しverの主な変更点は以下の四点です。
・六花ちゃんの転送先を、蛇腔からAFOの泥ワープの転送圏内に変更
・雪代さんが泥ワープでAFOに攫われて対オールマイト用の捨て石として爆破され、六花ちゃんが助けに行くお話に変更
・AFOの最期を、雪代さんの“個性”を奪った事で反逆され凍殺される自業自得エンドに変更
・AFOとドクターの断末魔の描写を追加