地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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中途半端な時間の投稿で申し訳ございません。
山場は超えたので、できるだけ投稿ペースを縮められるよう頑張ります。


第59話 氷叢さん家の後始末

警察上層部 side

 

「地下の研究施設にいた脳無は、いずれも頭部を損傷し、生体機能が停止しており、新たな情報を得られそうにありません。施設に保管されていたであろう研究データに関しても、全て破損しており、復元は困難を極めています。その為、脳無の製造方法については現在調査中です」

 

 激闘から一夜明け、我々警察上層部は、緊急会議を開いた。

 あるタレコミを元に、脳無の製造元を突き止めた我々は、ホークスやミルコらに殻木球大の確保および研究データの押収を命じた。

 だが、ミルコが発見した時点で殻木は凍死し、脳無は頭部を破壊されて死亡し、研究データも全て爆発物か何かで爆破され跡形もなく破損しており、入手できた情報はほとんど無いに等しかった。

 

「大元を倒したものの…死柄木をはじめとした実行犯らは丸々取り逃がした…とびきり甘く採点したとして…痛み分けといったところか」

「馬鹿野郎。平和の象徴と引き換えだぞ」

 

 一人の言葉を即座に否定し、言葉を続ける。

 

「オールマイトの弱体化が世間に晒され、もう今までの“絶対に倒れない平和の象徴”はいない。国民(われわれ)にとっても、敵(ヴィラン)にとってもな」

「たった一人にもたれかかってきたツケだァな…」

「馬鹿も集まりゃここまでできると…全員が知った。俺は恐れているよ。最初期のプロファイリングじゃ、子どもの癇癪とまで言われていた主犯格、死柄木弔の犯行計画は、数を重ねるごとに回りくどく…世間への影響を見据えたものになっている。死柄木は考え、成長している。そしてオールマイトが崩れ、以前にも増して抑圧が無くなろうとしている状況。連合は失敗する度力をつけていく。こうも都合良く勢力拡大の余地が残っていくものかね?」

「手の内だと? 結果論じゃないか? ネガティヴに捉えすぎでは?」

「わからん。ただ一つ確実に言えるのは…奴等を確実に捕らえなきゃならん。我々警察も、“敵(ヴィラン)受け取り係”などと言われてる場合じゃあない。改革が必要だ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

「ん〜……?」

 

 六花は、ゆっくりと目を開けて二、三度瞬きをする。

 最初に目に飛び込んできたのは、知らない天井だった。

 六花が目を覚まして起き上がろうとした、その瞬間。

 

「「「「「六花(氷叢)ちゃん(さん)(くん)!!!!」」」」」

「わ……っ」

 

 病室にいたクラスメイト達が、一斉に六花に声をかけてきた。

 寝起きにいきなり話しかけられ、六花は目を点にする。

 六花は病衣を着ており、個室のベッドに横たわっていた。

 

「六花ちゃん、目が覚めてよかったよ〜!」

「わ」

「オールマイトが助けてくれたんだってな!」

「メロン買ってきたぞ!」

「ケーキもあるぞ! とりあえず食え!」

「わ、わ……ぁ……」

 

 葉隠、切島、峰田、砂藤が一斉に話しかけてくる。

 六花は驚いてあたふたしつつも、久々のクラスメイトとの対面に、思わず頬を緩ませる。

 

「み、みなさん……」

「ケロ……六花ちゃん、みんな心配してたのよ」

「氷叢さん、丸一日眠っていらしたのよ」

「六花ちゃんも爆豪くんも、無事に戻ってきてくれて本当によかったよ」

 

 蛙吹と八百万と麗日も、安堵の表情を浮かべながら話しかける。

 すると六花は、一緒に攫われた爆豪の事を思い出す。

 

「あっ、そうだ……バクゴーさんは、どうなったんですか……?」

「相澤先生が連れ戻してくださったそうだ。特に怪我も無かったから、先生方の保護のもと、一度家に帰ったらしい」

「かっちゃん、さっきまで氷叢さんのお見舞いに来てたんだよ。意識が戻ったのを確認したら、すぐ帰っちゃったけど……」

「そうだったんですか……」

 

 飯田と緑谷から爆豪の無事を聞いた六花は、安堵のため息を漏らす。

 

 四日ぶりにクラスメイト達と和気藹々としたやり取りをしていると、個室の扉がノックされる。

 入ってきたのは、六花の主治医だった。

 特に大きな怪我もないので、軽く検査を終えたらもう退院できるとの事だった。

 

 その後、八百万が創造した服に着替え、荷物をまとめて退院の準備をしていると、再び扉がノックされる。

 扉を開けた先にいたのは、塚内警部と相澤だった。

 塚内警部は、帽子を脱いでから部屋に入り、六花に話しかける。

 

「やぁ。まずは退院おめでとう、氷叢さん。昨日の事件のことで、少し聞きたいことがあってね。今、話を聞いてもいいかい?」

「あ、はい、どうぞ……」

 

 六花が頷くと、クラスメイト達は互いに顔を見合わせて目配せし、「じゃ、後でね」と声をかけてから席を外した。

 クラスメイトが全員席を外してから、六花は事情聴取を受けた。

 

「あの……刑事さん……ママは、どうなったんですか……?」

 

 事情聴取を受けている途中、六花はずっと気掛かりだった雪代の安否を塚内警部に尋ねた。

 すると塚内警部は、真実を伝えるべきか迷いつつも、包み隠さずに六花に説明した。

 

「……氷叢さん。今から言うことを、覚悟して聞いてほしい。氷叢雪代だが……おそらく、もう永くはない」

「え……?」

「君の応急処置とセントラル病院の医師達の治療のおかげで一命は取り留めたが……全身の主要な臓器を損傷し、意識の回復は見込めない。今は生命維持装置で命を繫ぎ留めているが、予断を許さない状況だ」

「そんな……っ」

 

 塚内警部からの報告を聞いた六花は、目を見開いて言葉を失う。

 六花にとって、どんなにひどい事を言われても、雪代はたった一人の母親だった。

 六花はショックのあまり、過呼吸に陥る。

 

「はっ……はっ……はっ……!」

「氷叢、落ち着け!」

 

 相澤が、六花の背中を摩って落ち着かせる。

 すると六花の呼吸が少しずつ落ち着いてくる。

 

「……大丈夫だ。ゆっくり息吸って、吐け」

 

 相澤が言うと、六花はその場で深呼吸をする。

 しばらくすると、六花が冷静さを取り戻した。

 涙を拭いながらずびずびと鼻を鳴らす六花に、相澤が話しかける。

 

「落ち着いたか」

「……はい」

「これからのことを説明するから、ちゃんと聞いとけ。まず、お前のことはしばらくの間、ミッドナイトさんが面倒を見ることになった。この夏休み中に全寮制を導入する予定だが、それまではミッドナイトさんの家で過ごしてもらう」

「……はい」

「家までは、俺が車で送る。お前、今実家絡みで色々大変だろうからな」

「……?」

 

 相澤の『実家絡みで大変』という言葉に、六花は首を傾げる。

 すると相澤は、呆れたようにため息をついた。

 

「お前なぁ、起きたばっかりだからってニュースを確認しないのは、些か非合理だぞ? これを見ろ」

 

 そう言って相澤が、ネットニュースを六花に見せる。

 そこには、ヒムラ建設が施工不良を隠蔽していた事、代表取締役会長が指定敵(ヴィラン)団体と関係を持っていた事が発覚したというニュースが載っていた。

 そして会長がかつて蕎麦屋でカスハラや異物混入の自作自演などの営業妨害を行い、廃業に追い込んだ事も書かれている。

 

「悪事が明るみになったことで、ヒムラ建設への批判が集中している。そのせいで、無関係の親族までバッシングされてんだよ。こうなっちまった以上、お前も安全とは言い切れない。熱りが冷めるまで、お前のことは俺達が責任を持って保護させてもらう」

「……ごめんなさい」

「謝るな。お前は何も悪いことはしてないんだから」

「……はい」

 

 相澤が言うと、六花が小さく頷く。

 その後六花は、相澤の車で送ってもらい、荷物を持ってミッドナイトの家に向かった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

香山睡 side

 

「氷叢さん。相澤くんから聞いてると思うけど、しばらくの間、私があなたを引き取ることになりました。今日からよろしくね」

「……はい。よろしくおねがいします」

 

 相澤くんから連絡を貰った私は、マンションのエントランスで氷叢さんを迎え入れた。

 雄英から一駅、徒歩5分のところにある2LDKのマンション、その最上階の一室が私の家。

 母親代わりだった雪代さんがいなくなって、他に身寄りがいない彼女を、寮生活が始まるまでは私達教師陣が面倒を見る事になった。

 家で面倒を見るなら同性の教師の方がいいって事で、最終的に私に白羽の矢が立った。

 

 相澤くんには私が病院まで迎えに行くって言ったんだけど、『ちょうど帰りに通るから俺が送った方が合理的です』って言われたから、お言葉に甘える事にした。

 氷叢さんは、大きなリュックとボストンバッグを持って、家に上がった。

 

「こっちの部屋は好きに使って構わないわ。わからないことがあったらなんでも聞いてね」

「……ありがとうございます」

 

 氷叢さんがウチに来る事になったから、昨日まで別室に分けていた寝室と書斎をひとつにまとめて、空いた部屋を彼女の部屋にした。

 明日には、業者が家具をウチに運んできてくれるはず。

 なんて考えていると、氷叢さんが思い出したように言った。

 

「あっ、そうだ。あの、先生……これ……」

 

 そう言って氷叢さんが、私に通帳を差し出してくる。

 

「えっと……これからお世話になるので、生活費……です……前にママが、わたしの口座を作ってくれてて……」

 

 私は、氷叢さんから通帳を受け取って、金額を確認した。

 いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、せんまん……

 ご、五千万!?

 これ、子供一人に持たせていい金額じゃないわよ!?

 

「……氷叢さん」

「はい」

「あなた、お母さん以外に身寄りがいないって言ってたわよね?」

「えっと、そうですけど……」

「よかったら、ウチの子にならない?」

「は、はぁ……?」

 

 私が笑顔で言うと、氷叢さんはキョトンとした顔をする。

 それにしても、どうして氷叢さんがこんな大金を……?

 

 ……もしかして雪代さん、合宿を襲撃する前に、全財産を氷叢さんの口座に移したのかしら?

 氷叢さんを攫った時点で、彼女に対する情はないと思っていたのだけれど、何故そんな事を……?

 ……ダメだわ、余計に氷叢雪代って人がわからなくなってきた。

 彼女は一体、氷叢さんをどうしたかったのかしら?

 

 

「氷叢さん、お腹空いてない? これからご飯にするんだけど、何か食べたいもの無い?」

「あ、えっと……お蕎麦……」

「お蕎麦ね……乾麺しかないけど、いいかしら?」

「はい……あ、手伝いますよ」

 

 私は、氷叢さんと一緒に夕食の支度をした。

 二人で今日の夕食の分の食材を買いに行きつけのスーパーに行って、二人で役割分担して夕食を作った。

 氷叢さんが手伝ってくれたおかげで、ご飯の支度はいつもより早く終わった。

 

 

「いただきます」

 

 今日の夕食は、二人でダイニングで向かい合わせで食べた。

 蕎麦、海藻サラダ、だし巻き卵、鴨葱焼き、天ぷら盛り合わせ。

 だし巻き卵と鴨葱焼きは氷叢さんが作ってくれて、サラダと天ぷらは、スーパーのお惣菜コーナーで買った。

 お酒が欲しくなる組み合わせだけど、生徒の前で失態を犯すわけにもいかないし、しばらくはノンアルで我慢。

 まずは、だし巻き卵を一口。

 

「美味しい! このだし巻き卵、フワッフワ! お店のやつみたい! こっちの鴨焼きも最高!」

 

 氷叢さんが作った料理は、どれも絶品だった。

 氷叢さん、料理ができるイメージがなかったけど、こんなに上手だったのね……

 これは明日からのご飯が楽しみだわ。

 

「氷叢さん、料理得意だなんて知らなかったわ。どうしてこんなに上手く作れるの?」

「ママが作り方おしえてくれたんですよ。わたし、まだママみたいに作れないですけど……」

 

 そう言いかけた氷叢さんの目から、涙が溢れ出る。

 氷叢さんは、突然俯いて肩を振るわせながら泣き出した。

 

「ママ……」

 

 氷叢さんは、雪代さんの事を思い出して泣いた。

 テーブルの上に涙が落ちて、薄い氷の膜ができる。

 

 母親代わりだった人が突然敵(ヴィラン)に寝返って、その上あんな事になって、まだ気持ちの整理がついていないのね……

 裏切られて命を危険に晒されても、氷叢さんは雪代さんを責めずに、一人で抱え込んで苦しんでいる。

 裏切られた怒りよりも、母親を失った悲しみや、日常を突然壊された苦痛の方が大きかった、という事なんでしょうね。

 それだけ、彼女にとって、母親の存在が大きかったのね。

 

「氷叢さん、お母さんがいなくなって寂しいわよね。お母さんの代わりにはなれないけど、私がいるから……もう一人で抱え込まなくていいのよ」

「…………っ」

 

 私が言うと、氷叢さんはしきりに涙を拭って、大盛りの蕎麦を啜った。

 その後、お風呂に入ってから氷叢さんと一緒にリビングでドラマを見て、一日が終わった。

 氷叢さんが雪代さんの事を思い出してなかなか眠れなかったから、私の“個性”で寝かせて、完全に眠りにつくまで一緒にいてあげた。

 A組の子達はみんないい子達ばかりだから、寮生活が始まれば、親身になって向き合ってくれるはず。

 それまでは私が、この子の苦しみを少しでも取り除いてあげなきゃ。

 

 

 

 

 




オールマイトは無茶して活動時間が減ったので活動範囲を縮小してますが、まだ残火が残ってるので引退してません。
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