地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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鷹稀朧様、評価10を入れていただきありがとうございます!
何の予告もなくいきなり書き直し・展開変更に踏み切ったので、正直かなりの読者の方が離れてしまうのは覚悟していたのですが、応援してくださる読者の方々のおかげで、モチベーションが維持できております。
これからもより面白いお話を提供できるよう精進して参りますので、応援いただけると嬉しいです。


第60話 地獄の氷叢さん家・NEXT

根津 side

 

『ヒーロービルボードチャートJP! 事件解決数、社会貢献度、国民の支持率など諸々を集計し毎年二回発表される現役ヒーロー番付!! 不動のNo.1がまさかの!! 日本のみならず、ヒーローの本場アメリカでも騒然!! オールマイト、本当の姿!! 体力の限界!! No.1ヒーローの座の返上を表明!! そしてNo.4ヒーロー、ベストジーニスト! 更にNo.32ヒーロー!! 根強い人気のワイルドワイルドプッシーキャッツが一人、ラグドール! 一命を取り留めたものの、長期の活動休止!! 一夜にして多くのヒーロー達が大打撃を受けた“神野の悪夢”!! これからどうなる日本! そしてヒーローよ! 以上、今日のクイックニュースでした! 続いてはお天気、木原さーん……』

 

 校長室のテレビで視聴していたニュース番組を止め、僕は机の前に立つオールマイト、相澤くん、管くんの三人に目を向ける。

 三人とも、いつになく神妙な面持ちで立っていた。

 

「その身を犠牲に多くを救ってくれた。国民、ヒーロー、そして校長として、感謝してもしきれやしない。ただ…世間では、君が雄英教師を続けるのに、少なからず批判意見も出ている。『元はと言えばオールマイトが雄英に赴任したのが問題』『戦えない体になった今こそ、再び子供達が巻き込まれるのでは?』……」

 

 僕は、オールマイトが第一線から退くという内容のネットニュースをタブレットに表示し、その画面を三人に見せながら言った。

 皆もっともらしい事を言っているが、要するに……

 

「皆、不安なのさ。だからこそ今度は、我々で紡ぎ、強くしていかなきゃならない。君が繋ぎ留めてくれた、ヒーローへの信頼をね」

「あの一件で気づかされました。あなた一人に背負わせてしまっていたこと、背負わせていたものの大きさ」

 

 僕の言葉に続けて、管くんが胸に手を当てながら言った。

 その言葉に頷きつつ、話を続ける。

 

「脅威はまだ拭いきれていない。これからはより強固に守り育てなければならない。そこで兼ねてより考えていた案を、実行に移すのさ。私はブラドと被害の大きかったB組へ。オールマイトとイレイザーヘッドはA組へ……よろしく頼むね、家庭訪問」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

相澤 side

 

「あっはい、よろしくお願いします」

 

 爆豪の母親の光己さんが、爆豪の頭を引っ叩きながら言った。

 

「バッバア叩くんじゃねえよブッ飛ばすぞコラ!!」

「うっさい!! 元はと言えば、あんたが弱っちいからとっ捕まってご迷惑かけたんでしょ!!」

「二人とも…や、やめろよォ。先生方が…驚いてるだろォ…」

 

 言い争いをする母親と息子を、穏やかそうな父親が止めようとするが、二人に怒鳴られ黙り込んでしまった。

 なんだ、この闇深い家庭……

 というか、大事な一人息子が攫われたのに、こんなあっさり決めていいのか?

 

「あの…本当によろしいのでしょうか」

「ん!? ああ、寮でしょ? むしろありがたいよ!」

 

 俺が尋ねると、光己さんはもう一度爆豪の頭を引っ叩きながら答える。

 

「勝己は、なまじ何でもできちゃうし、能力も恵まれちまってさ。他所様からチヤホヤされてここまで来ちまった。薄っぺらいとこばっか褒められて……だから会見での言葉が嬉しかったんだよね。『ああ、この学校は勝己を見てくれてる』って。一時は不安でどうなるかと思ったけど、こうして五体満足で帰ってきてるわけだしさ。しばらく風当たりは強いかも知んないけど、私は信頼して任せるよ」

 

 光己さんがそう言って父親の勝さんの方を見ると、勝さんも笑顔で頷く。

 

「こんなどうしようもない奴だけど、みっちりしごいていいヒーローにしてやってください」

 

 そう言って光己さんは、爆豪の頭を掴んで頭を下げさせながら自分も頭を下げ、勝さんも頭を下げた。

 最初はどうなるかと思ったが……良いご両親に恵まれてるじゃないか。

 

「何より……クラスに気になってる子がいるみたいだし」

「ゴフッ!?」

 

 光己さんからのいきなりのカミングアウトに、オールマイトが飲んでいたお茶を吹き出す。

 

「バッバア、ヘンな言い方すんじゃねえ!! オールマイトも吐いてんじゃねえよ汚ねえな!!」

「ご、ごめん……あーびっくりした……」

 

 オールマイトは、爆豪に謝ってから、心臓のあたりを押さえながら小声で言った。

 光己さんのカミングアウトに驚いたのは、俺だけじゃなかった。

 自尊心と向上心の塊のような爆豪に気になる相手がいると聞いたら、驚くのも無理はない。

 

 まぁもちろん好きな相手ができた、なんて事はなく、爆豪が氷叢に世話を焼いている事を指しているのだろう。

 職場体験以降、何かと氷叢の面倒を見たりミスをフォローしたりしているのをよく見る。

 授業や体育祭で氷叢に差をつけられて、爆豪なりに心境の変化があったんだろう。

 

 

「本当に大丈夫ですか」

「ああ! この調子だとディナータイムに差し掛かっちゃうぜ。ここは私が行くから、君は他を急いだ方がいいんじゃない…かな!?」

 

 爆豪宅の家庭訪問を終えた俺達は、次は緑谷宅へ行く予定だったが、オールマイトの提案で、俺達は二手に分かれる事にした。

 オールマイトが緑谷宅へ家庭訪問に行っている間に、俺は次の訪問先に向かう。

 

 本来は、この次は氷叢宅に訪問するはずだった。

 だが、氷叢雪代が捕まって元の家が空き家となった今、俺が訪問に行く家はない。

 代わりに、氷叢と相談して、彼女の入院しているセントラル病院へ行く事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「氷叢、準備はできたか」

「……はい」

 

 翌朝、俺はミッドナイトの家を訪れ、氷叢を迎えに行った。

 氷叢を車の後部座席に乗せて、セントラル病院へと向かう。

 

 セントラル病院地下の敵(ヴィラン)専用病棟、そこに氷叢雪代がいる。

 凶悪な敵(ヴィラン)にも治療を行うため、一般病棟とは完全に隔離され、タルタロスに匹敵するセキュリティが敷かれている。

 面会するにはまず、事前に面会の予約をしてから、エントランスでIDの発行を行う。

 IDカードを持ってエレベーターで地下へ行き、そこで厳重なチェックを受け、貴重品や電子機器を警備員に預けてからゲートを潜り、病室へ向かう。

 病室の前に到着したら、インターホンを鳴らし、扉が解錠されるのを待つ。

 

 ちなみに敵(ヴィラン)専用病棟には、各病室に部屋が二つ設置されている。

 ひとつは患者が入室する病室、そしてもうひとつが面会室だ。

 病室と面会室は、強化防弾アクリル板で仕切られ、患者と面会者は接触できないようになっている。

 

『面会時間は30分です。如何なる理由でも、延長は認められません。なお、会話の内容は全て記録しています。ご理解ください』

 

 機械的な音声と共にロックが解除され、扉が開く。

 面会室は白い壁に囲まれた無機質な部屋で、パイプ椅子のみが置かれ、隅には記録係と思しき職員が座っている。

 

「ママ……」

 

 氷叢が、隣の病室に目を向けて悲しそうな顔をしながら口を開く。

 アクリル板を挟んだ向こうの病室には、生命維持装置と思しき機器に囲まれたベッドが設置され、ベッドには氷叢雪代が横たわっている。

 全身に包帯が巻かれ、包帯の隙間から見える肌は表皮が剥がれて真皮が剥き出しになっている。

 見るも無惨な姿に思わず目を細めたその時、診察をしていた女医が俺達の方を振り向き、首を横に振って口を開く。

 

『……主要臓器を全て損傷しており、意識の回復は見込めません。現状、生命維持装置で命を繫ぎ留めていますが……正直、これで生きているのが不思議なくらいです』

 

 ……想像していたよりも、だいぶ悪い。

 話を聞いている限りだと、連合の情報を聞き出すどころか、今日事切れても全くおかしくない。

 そんな考えを一旦頭の隅に置きつつ、俺は氷叢雪代に話しかけた。

 ヒーローと敵(ヴィラン)としてではなく、あくまでも、一生徒の担任と保護者として。

 

「氷叢雪代さん。今日は雄英の全寮制導入に伴い、一度親御さんとお話をしたく伺いました。どうか今一度、六花さんの指導を、我々に任せていただけないでしょうか。必ず、六花さんを立派なヒーローに育ててみせますので……」

 

 俺がそう言って頭を下げるが、やはり反応はなかった。

 すると今度は、氷叢がアクリル板に手をついて話しかけた。

 

「……ねぇママ。あのね、今日は言わなきゃいけないことがあって来たの」

 

 氷叢は、覚悟を決めたような表情を浮かべて話し始める。

 

「わたし、やっぱりママのことは許せない。ママのやったことは、ただの八つ当たりだよ。どんな事情があったって、関係ないみんなを傷つけて、学校をめちゃくちゃにしていい理由にはならないよ」

 

 氷叢は、母親に対してハッキリと正論をぶつけた。

 当然だ。

 突然裏切られて友達を傷つけられて、根に持つなという方が無理な話だ。

 だが氷叢は、そこで終わらせなかった。

 

「それでもわたしは、ママが大好きだよ」

 

 氷叢がそう言った、その瞬間……

 

「ママはわたしがいない方がよかったって言ってたけど、わたしはママがいてくれてよかった。ママのお蕎麦、世界一おいしかったよ。ママとの思い出は、わたしの宝物だよ」

 

 まるで氷叢の言葉にあてられたかのように、モニターに表示された脳波と思しき波形の律動が速くなる。

 それを見た女医は、目を見開いて椅子から立ち上がった。

 

『嘘……!? 脳波が……意識が回復しています!!』

 

 氷叢雪代の意識の回復は、医師の想定の範疇を超えていた。

 生きたい、助けたいという気持ちが、時に現代医学の常識をはるかに上回る回復を促す事がある。

 氷叢の母親を想う気持ちが、まさに奇跡とも呼ぶべき現象を引き起こしていた。

 

「わたし、学校の寮に入ることになったの。だからしばらくは、ここには来れなくなると思う……でもわたし、毎日お手紙書くよ。授業のこととか、友達のこととか……いっぱい、いっぱい書くよ。ママが元気になるまで、毎日書くよ。ママみたいにうまくできないけど、今度はわたしがお蕎麦作るよ。元気になったら、またいっしょにお蕎麦食べよう?」

 

 氷叢は、目に涙を浮かべながら言った。

 氷叢は、母親に裏切られて危険に晒されたというのに、一度も母親に対する恨みを口にした事がなかった。

 それどころか、母親を本気で救おうとしていた。

 氷叢雪代が氷叢をどう思っていたのか、今となってはわからない。

 だが少なくとも氷叢の方は、母親が何よりも大切な存在だった事は確かだ。

 俺はそんな氷叢を見て、考えをまとめてから口を開く。

 

「……雪代さん。ここからは教師としてではなく、ヒーローとして、余計なことを言わせていただきます。あなたがご主人と娘さんを亡くし、加害者家族として迫害を受け、誰にも救いの手を差し伸べられなかったことには、深く同情いたします。しかし……だからと言って、何の罪もない子供に危害を加えていい理由にはなりません。六花さんは、ここまであなたのことを大事に思い、本気で救おうとしていました。あなたは、その気持ちを踏み躙ったんです。身も蓋もない言い方をしますが、あなたが六花さんに対してしたことは、あなたを傷つけてきた奴等がしたことと同じです。死んで逃げ切れるだなんて思うな」

 

 俺は、氷叢の前で、あえて氷叢雪代を非難した。

 確かに、彼女の過去には、充分過ぎるほど同情の余地がある。

 だが“個性”を奪われ殺されかけた事に関しては、全く同情していない。

 俺の生徒を傷つけたんだから、死ぬよりも辛い罰を受けて然るべきだ。

 

「ですが私は、あなたを単なる犯罪者にするつもりはありません。あなたを傷つけた奴等には、必ず報いを受けさせます」

 

 俺は、必ず氷叢雪代の心を壊した奴を捕まえると約束した。

 それが、俺達ヒーローがしてやれる、最後のお節介だ。

 

 

「先生……ありがとうございました」

 

 面会の後、氷叢が改めて俺に頭を下げてきた。

 俺が氷叢雪代を非難した事で苦言を呈してくるものだと思っていたが……

 なんて考えていると……

 

「あのょ……先生……」

 

 氷叢が、手遊びをして言いたいことを少しずつまとめながら話し始める。

 

「んと……今、いろいろゆわれてて大変だと思いますけど…………わたし、雄英でお友だちができて……いろいろ考えるようになって……ので……わたしは、雄英のことも、先生のことも、信じてます」

 

 そう語る氷叢は、入学当初とはまるで別人だった。

 入学当初のこいつは、赤ん坊が体だけ大きくなったような奴だった。

 だが今は、自分の頭で考えて、誰かを思いやれるようになった。

 ある意味一番成長したのは、こいつだったのかもな。

 

「氷叢、お前……強くなったな」

「…………?」

 

 俺が言うと、氷叢はきょとんとした様子で首を傾げる。

 最後の面談を終えた俺は、氷叢をミッドナイトさんの家に送り届けて、雄英に戻った。

 新学期まで、残り三週間弱……

 それまでに、やれる事はやっておかないとな。

 

 

 

 

 




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作者は単純ですので、大喜びします。
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