地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第60話 氷叢さんの寮生活

No side

 

「でけー」

「恵まれし子らのーー!!」

 

 目の前の建物を見て、砂藤と芦戸がはしゃぐ。

 雄英敷地に、校舎から徒歩五分、築三日の寮、『ハイツアライアンス』。

 ここが六花達の新しい家だ。

 

「わ……ぁ……っ」

「六花ちゃんしっかり」

 

 六花が上を見上げすぎて後ろに倒れそうになったのを、近くにいた蛙吹が支える。

 

「とりあえず1年A組無事にまた集まれて何よりだ」

 

 そう言って相澤が、六花達の前に立つ。

 家庭訪問の時点では、被害の大きかったB組も含めて全員が完治し、全員入寮に賛成していた。

 それでも、全員がここに集まった事に安堵している様子だった。

 

「皆許可降りたんだな」

「私は苦戦したよ…」

「フツーそうだよね…」

「無事に集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」

 

 瀬呂、葉隠、耳郎が話す中、蛙吹が心配そうに相澤に話しかける。

 

「……… 俺もびっくりさ、まぁ…色々あんだろうよ。さて…! これから寮について軽く色々と説明するがその前に一つ。当面は合宿で取る予定だった仮免取得に向けて動いていく」

「そういやあったなそんな話!!」

「色々起きすぎて頭から抜けてたわ…」

「色々状況が変わってお前らも大変だろうが、Plus Ultraの精神で乗り越えてもらいたい。以上! さっ! 中に入るぞ元気に行こう」

 

 そう言って相澤が、一足先に寮へ向かう。

 六花も、相澤に続く形で寮へ足を運ぼうとする。

 すると爆豪が、六花に近づいてくる。

 

「おい」

「ん? なんですか、バクゴーさん」

 

 爆豪は、六花の目の前に立つと、いきなり右手を振り上げ、六花に振り下ろしてくる。

 突然の事に驚き、六花は咄嗟に身構えた。

 恐る恐る掌を開けると、六花の手には、爆弾の形をした髪飾りが握られていた。

 

「わ……」

「買い物ん時、クソデクのせいで渡しそびれた。要らなきゃ捨てろ」

 

 そう言って爆豪は、先に寮へ向かう。

 珍しく人にプレゼントをした爆豪を、切島と上鳴が信じられないものを見る目で見つつ話しかける。

 

「爆豪、お前どうした!? 熱でもあんのか!?」

「明日雪でも降んじゃね!?」

「うっせぇ!! 何か買ってやれってババァに言われたんだよ!!」

 

 六花は、騒がしく寮へと向かっていく男子達を目で追いながら、爆豪から貰った髪飾りを嬉しそうに握りしめる。

 そして、ちょうど雪代から貰った髪飾りをつけていた位置に、爆豪から貰った髪飾りをつけた。

 その様子を芦戸と葉隠がニヤニヤしながら見ている事に、六花は気づいていなかった。

 

 

 

 〜少年少女移動中〜

 

 

 

「1棟クラス、右が女子棟、左が男子棟と分かれてる。ただし1階は共同スペースだ。食堂や風呂・洗濯などはここで」

「広! キレー!! そふぁああ!!!」

「中庭もあんじゃん!」

「豪邸やないかい」

「麗日くん!!」

 

 寮に入ると、芦戸と瀬呂がはしゃぎ、麗日に至っては卒倒した。

 

「聞き間違いかな…? 風呂、洗濯が共同スペース? 夢か?」

「男女別だ。お前いい加減にしとけよ」

「はい」

「ミノルさんぶれない……」

 

 相澤に低い声で脅されると、峰田は大人しくなり、六花が呆れたように口を開く。

 そんな中、相澤が説明を続ける。

 

「部屋は2階から、1フロアに男女各4部屋の5階建て。1人1部屋エアコン、トイレ冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ」

「ベランダもある! 凄い!」

「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね…」

「豪邸やないかい」

 

 八百万が何気なく言った言葉に、麗日が再び卒倒した。

 

「部屋割りはこっちで決めた通り。各自事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってるから、とりあえず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上、解散!」

「「「「「はい先生!!!」」」」」

 

 

 

 〜ATTOIUMANIYORU〜

 

 

 

「いやぁ…経緯はアレだが、共同生活ってワクワクすんな」

「疲れたー」

「共同生活…これも協調性や規律を育む為の訓練…!」

「気張るなぁ委員長」

 

 部屋作りを終えた男子達は、談話スペースで休憩していた。

 飯田は張り切っていたが、他の男子達は部屋作りで疲れている様子だった。

 すると、女子達が声をかけてくる。

 

「男子部屋できたー?」

「うん、今くつろぎ中」

「あのね! 今話しててね! 提案なんだけど! お部屋披露大会しませんか!?」

 

 芦戸の一言で、数人の男子が青ざめた。

 トップバッターは緑谷という事で、早速芦戸が強引に緑谷の部屋のドアを開けた。

 

「わああダメダメちょっと待──!!!」

 

 緑谷の抵抗も虚しくドアが開かれると、オールマイトグッズだらけの部屋が広がっていた。

 

「オールマイトだらけだ、オタク部屋だ!!」

「いかにもって感じですね……」

「ねー!」

「憧れなんで…………恥ずかしい…」

 

 最初に来た緑谷の部屋は、麗日以外は辛辣な評価だった。

 

「やべぇ、何か始まりやがった…!」

「でもちょっと楽しいぞコレ…」

「フン下らん…」

 

 そう言ってドアにもたれかかる常闇を、芦戸と葉隠が押しのけ強引にドアを開けた。

 常闇の部屋は、全体が黒一色で、ローブや剣、骸骨や蝋燭、紫色の水晶などが飾られており、厨二病全開だった。

 

「黒!! 怖!」

「貴様ら…」

 

 部屋を見られた常闇は、羞恥で震えていた。

 

「このキーホルダー、俺中学ん時買ってたわあ」

「男子ってこういうの好きなんね」

「やぎさん……」

「剣だ…カッコいい…」

「出て行け!!」

 

 その次は、上鳴の部屋。

 ダーツやスケボー、バスケットボール、レコードプレーヤーなどが置いてあり、統一感のないレイアウトだった。

 

「チャラい!!」

「手当たり次第って感じだナー」

「えー!? 良くね!?」

「ごちゃごちゃしてておちつかないです」

 

 上鳴の部屋への評価は総じて辛辣で、特に女子、その中でも六花が辛口だった。

 

「楽しくなってきたぞ! あと2階の人は…」

 

 そう言って麗日が残った部屋に目を向けると、半開きのドアから峰田が顔を覗かせていた。

 

「入れよ…すげえの…見せてやんよ」

 

 峰田は、目を血走らせ息を荒くしながら指先で手招きする。

 

「3階行こ」

「入れよ…なァ…」

「わたし、ちょっと気になります……」

「ダメよ六花ちゃん」

 

 全員、峰田の部屋はスルーして上の階へ向かう。

 唯一六花は峰田の部屋に興味を示していたが、蛙吹に三階へと連れて行かれた。

 

 

 

 〜少年少女移動中〜

 

 

 

 三階最初の部屋は、尾白の部屋だ。

 最初のレイアウトに少し家具や小物が置かれただけの、シンプルな部屋だった。

 

「ワァー普通だァ!!」

「普通だァ! すごい!!」

「これが普通ということなんだね…!」

「言うこと無いならいいんだよ…?」

 

 女子達に普通普通と連呼された尾白は、見るからに落ち込んでいた。

 次は飯田の部屋。

 参考書や図鑑、辞書などの本類がずらりと並んだ、ザ・真面目部屋だ。

 

「難しそうな本がズラッと…さすが委員長!」

「おかしなものなど無いぞ」

 

 自信満々に言う飯田だったが……

 

「メガネクソある!」

「何が可笑しい!! 激しい訓練での破損を想定して…」

「わぁ」

 

 机の上のウォールシェルフに陳列された眼鏡を見て、麗日が吹き出す。

 そこから勝手に眼鏡を拝借した六花は、度が合わなくて眩暈がしたのか、くらっと倒れかけた。

 次は口田の部屋。

 一見、尾白と似たような普通の部屋だが……

 

「ウサギいるー!! 可愛いいい!!」

「うさぎさん……かわいい……っ」

 

 口田の部屋には、白い兎がいた。

 ウサギに心を奪われた女子達は、先程までの辛辣ムードが嘘のようにほわほわと笑顔を浮かべた。

 動物好きな六花も、珍しくテンションが高かった。

 

「ペットはズリィよ口田。あざといわあ」

 

 女子に辛辣な評価を受けた上鳴は、口田に対して対抗心を燃やしていた。

 

「釈然としねえ」

「ああ…奇遇だね。僕もしないんだ、釈然…」

「そうだな」

「男子だけが言われっぱなしってのはぁ変だよなぁ? 『大会』っつったよな? なら当然! 女子の部屋も見て決めるべきじゃねぇのか? 誰がクラス一のインテリアセンスか、全員で決めるべきなんじゃねえのかあ!!?」

 

 上鳴、尾白、常闇の不満に乗じる形で、峰田が提案する。

 意外にも、女子達、特に芦戸は乗り気だった。

 

「いいじゃん」

「え」

 

 峰田の提案に芦戸が乗っかる形で、誰がベストセンスかを決める事になった。

 

「えっとじゃあ部屋王を決めるってことで!!」

「部屋王」

「別に決めなくても良いけどさ…」

 

(フフフ…オイラだけが主張していても足蹴にされてただろう。だが! 少なからず自尊心を傷つけられたこいつらの意思に乗じることで、オイラの主張は“民意”という皮を被るのさ!! これにより、実に自然な流れで女子部屋を物色できる!)

 

 それぞれが乗り気だったり恥ずかしがったりする中、峰田は邪な事を考えながら涎を垂らしていた。

 

 

 

 〜少年少女移動中〜

 

 

 

 そんなこんなで、四階へ上がってきた六花達。

 

「爆豪くんと切島くんと障子くん……だね」

 

 麗日が呟くと、飯田が尋ねる。

 

「爆豪くんは?」

「『くだらねえ先に寝る』ってよ。俺も眠い…」

「ん……」

 

 飯田が尋ねると、切島が眠そうに答える。

 爆豪の部屋を見られず残念がる六花だったが、それよりも眠気が勝っているのか、何度もしぱしぱと瞬きをしていた。

 そんな中、葉隠と芦戸は元気そうに仕切る。

 

「じゃあ切島部屋!! ガンガン行こうぜ!!」

「どーでもいいけど多分女子にはわかんねえぞ」

 

 切島の部屋は、『大漁』や『必勝』と書かれた布や目標が書かれた紙などが壁に貼られ、サンドバッグやダンベルが置かれた熱苦しいレイアウトだった。

 

「この男らしさは!!」

 

 切島が言うと、女子達の顔が一気に冷める。

 

「……うん」

「彼氏にやってほしくない部屋ランキング2位くらいにありそう」

「あつい……」

「熱いね、熱苦しい!!」

「ホラな」

 

 芦戸と葉隠は冷めた顔をしており、麗日を除いた女子達の評価は辛辣だった。

 特に熱いものが苦手な六花は、露骨にテンションが下がっていた。

 そして次は障子の部屋。

 

「次! 障子!!」

「何も面白い物は無いぞ」

 

 そう言って、障子が扉を開ける。

 

「面白いものどころか!!」

 

 障子の部屋は、布団とちゃぶ台と座布団があるだけで他は何も無かった。

 

「ミニマリストだったのか」

「まぁ幼い頃からあまり物欲が無かったからな」

「こういうのに限ってドスケベなんだぜ」

 

 峰田が何かを言っていたが、華麗にスルーし、一同は五階へ向かう。

 

 

 

 〜少年少女移動中〜

 

 

 

「次は一階上がって5階男子!」

「瀬呂からだ!」

「マジで全員やんのか…?」

 

 瀬呂の部屋は、ハンモックやタペストリー、ラタンパーテーションなどが設置され、アジアンテイストを取り入れた凝ったレイアウトだった。

 

「おお!!!」

「エイジアン!!」

「ステキー」

「おしゃれ……」

「瀬呂こういうのこだわる奴だったんだ」

「へっへっへ、ギャップの男瀬呂くんだよ!」

 

 瀬呂の部屋は、女子達には好評だった。

 女子達に褒められた瀬呂は、得意げになっていた。

 

「次次ー!」

「轟さんですわね」

 

 女子達は、クラス屈指の実力者でクールな轟の部屋に興味津々だった。

 

「さっさと済ましてくれ、ねみい」

 

 轟がそう言って部屋を開けた瞬間、全員が目を見開く。

 轟の部屋は、なんと和室だった。

 

「和室だ!!」

「造りが違くね!?」

「実家が日本家屋だからよ。フローリングは落ち着かねえ」

「理由はいいわ!」

「当日即リフォームってどうやったんだお前!」

 

 轟が理由を話すと、峰田と上鳴がツッコミを入れる。

 すると轟は真顔で答える。

 

「………頑張った…」

「「何だよこいつ!!」」

 

 轟が言うと、峰田と上鳴が逆ギレした。

 

「大物になりそ」

「イケメンのやることは違えな」

「和室っていっても色々あるんですね……」

 

 葉隠と砂藤が感心する中、六花は轟の部屋の造形に興味を持っていた。

 

「じゃ次! 男子最後は!」

「俺」

 

 轟の後という事で、砂藤は微妙そうな顔をしていた。

 砂藤の部屋は、調理器具がある事以外は普通だった。

 

「まーつまんねー部屋だよ」

「轟の後は誰でも同じだぜ」

 

 砂藤が自信なさげに言うと、切島がフォローをする。

 するとその時、尾白が甘い匂いがする事に気がつく。

 

「ていうか良い匂いするのコレ何?」

「ああイケね!! 忘れてた!! だいぶ早く片付いたんでよ、シフォンケーキ焼いてたんだ!! 皆食うかなと思ってよぉ…ホイップあるともっと美味いんだが………食う?」

「「「KUU〜!!」」」

「「模範的意外な一面かよ!!」」

 

 砂藤のケーキに女子達が食いつくと、峰田と上鳴が逆ギレした。

 

「あんまぁい! フワッフワ!」

「ボーノボーノ!」

「瀬呂のギャップを軽く凌駕した」

「もぐ……もぐ……」

 

 女子達は、シフォンケーキを頬張って幸せそうな表情を浮かべていた。

 六花も、夢中になって無言でシフォンケーキを頬張っていた。

 

「素敵なご趣味をお持ちですのね砂藤さん! 今度私の紅茶と合わせてみません!?」

「オォ、こんな反応されるとは…まぁ“個性”の訓練がてら作ったりすんだよ」

 

 女子達に褒められた砂藤は、満更でもなさそうな顔をしていた。

 それを見た男子達は、悔しそうにケーキを頬張る。

 

「ちっきしょー、さすがシュガーマンを名乗るだけうまっ!」

「ここぞとばかりに出してくるな……うまっ…」

 

 瀬呂と切島も、悔しがりつつシフォンケーキをムシャムシャと頬張っていた。

 

「男子は以上…うまっ」

「次は私達うまっ…だね!」

「サッパリした甘さだからいくらでもイケる」

「うむ!」

「女子棟と繋がってんのは1Fだけだから…」

「うまっ…一旦降りて…」

「やだなー…うまっ」

 

 

 

 〜少年少女移動中〜

 

 

 

「マジで全員やるの…? 大丈夫?」

「大丈夫でしょ多分」

「…………恥ずいんだけど」

 

 耳郎はそう言いつつドアを開けた。

 女子のトップバッターは耳郎だ。

 耳郎の部屋は、黒、白、赤で彩られ、ドラムやギターなどの楽器が置かれたロックなレイアウトだった。

 

「思った以上にガッキガッキしてんな」

「耳郎ちゃんはロッキンガールなんだねえ!!」

「これ全部弾けるの!?」

「まぁ一通りは…」

「かっこいい……」

 

 思わぬ女子達の高評価に、耳郎が照れ臭そうにプラグをカチカチと鳴らす。

 

「女っ気のねえ部屋だ」

「女子力ゼロだな!」

 

 ここぞとばかりに、上鳴と峰田が辛辣な評価をする。

 そんな二人に、耳郎が『イヤホンジャック』で制裁を下した。

 

「次行こ次!!」

「次は私葉隠だ!」

 

 葉隠の部屋は、ぬいぐるみやモコモコの家具などが置かれた女子らしいレイアウトだった。

 

「どーだ!?」

「お…おお」

「フツーに女子っぽい! ドキドキすんな」

 

 尾白や上鳴は、ザ・女子といった具合の部屋にドキドキしていた。

 

「プルスウルトラ」

「正面突破かよ峰田くん!!」

 

 峰田が葉隠のタンスを漁ろうとすると、葉隠がツッコミを入れる。

 そして四階に上がり、芦戸の部屋。

 

「じゃーん!! かわいーでしょーが!!」

「おぉ…」

 

 ショッキングピンクやマゼンタカラーを取り入れた、『Pinky』のヒーローネームに相応しいレイアウトだ。

 その次は麗日の部屋。

 

「味気の無い部屋でございます…」

「おぉ…!」

 

 ちゃぶ台や扇風機、蚊取り線香などが置かれた、素朴で生活感溢れるレイアウトだ。

 そんな中、男子達が正直な感想を漏らす。

 

「何かこう…あまりにもフツーにフツーの女子部屋見て回ってると、背徳感出てくるね…」

「わかる」

「禁断の花園…」

 

 そして五階へ上がり、最初は蛙吹の部屋だ。

 

「どうぞ」

「おぉ…!」

 

 蛙のぬいぐるみや蛙モチーフの小物が置かれ、水色や緑を基調とした水玉模様で統一されたインテリアが並んだケロケロルームだ。

 

「かわいい……」

「梅雨ちゃんらしい部屋だね!」

「ケロケロ、そうかしら」

 

 六花と葉隠が言うと、蛙吹が満更でもなさそうに微笑む。

 そして次は八百万の部屋。

 

「じゃ、次は八百万!!」

「それが…私、見当違いをしてしまいまして…皆さんの創意溢れるお部屋と比べて…少々手狭になってしまいましたの」

 

 八百万の部屋は、天蓋付きのキングサイズのベッドをはじめとした高級家具が部屋の面積の八割方を占領しており、歩けるスペースがほとんど無かった。

 

「でけえーー!! 狭!! どうした八百万!」

「私の使っていた家具なのですが…まさかお部屋の広さがこれだけとは思っておらず…」

 

(((お嬢様なんだね)))

 

 恥ずかしがる八百万を、クラスメイト達は温かい目で見ていた。

 そして最後は、六花の部屋だ。

 

「最後は氷叢か!!」

 

(クラストップの実力者で……)

(ヒーロー科の中でもトップクラスの美人で……)

(天然カワイイ六花ちゃんの部屋……!)

 

 クラスメイトは、実力と優れた容姿を兼ね備え体育祭で一躍人気者となった六花の部屋に対する期待を膨らませた。

 

「べつに……ふつうですけど……」

 

 そう言って六花が、部屋の扉を開ける。

 

「こっちも和室だ!!」

「てか寒!!」

「え……? あ、ごめんなさい……外暑くて……」

 

 六花の部屋も、和室だった。

 轟の部屋が書院造り*1なら、六花の部屋は数寄屋造り*2で自然味のあるレイアウトだ。

 寝るスペースにはシマエナガのぬいぐるみが置かれ、小物類はシマエナガモチーフで統一されている。

 六花の“個性”のせいか、部屋の中は他の部屋より室温が低く、入った瞬間に肌寒さを感じる程だ。

 六花らしいインテリアセンスに皆がほっこりしている中、耳郎が、部屋に置かれた木製の台が白い粉で汚れている事に気がつく。

 

「それはそうと、粉散ってるの何なの?」

「……あ、そうでした。あの……思ったより早くお部屋作りがおわったので、みんなで引越し蕎麦食べようと思って、さっきまで作ってて……」

「え、手打ち!?」

「えっと、一応…………食べます……?」

「食う」

「「「食べる〜!」」」

 

 六花が尋ねると、先程まで眠そうにしていた轟が即答し、他のクラスメイトも乗っかる。

 

「はいはい、茹でてくるのでちょっと待っててください」

 

 そう言って六花は、急いで一階へと降りてキッチンへ行き、冷やして寝かせておいた蕎麦を茹で始める。

 寸胴鍋にたっぷりの湯を沸かしておき、寝かせておいた生麺を茹でていく。

 茹で上がったらしっかり湯切りをしてから、コシを出す為に“個性”を使って麺を冷やす。

 

「プルスウルトラ……「やめなさい峰田ちゃん」

 

 六花が蕎麦を茹でている間に峰田が箪笥を開けようとしたが、蛙吹が舌で引っ叩いて阻止した。

 

「おまたせしました……」

 

 部屋を出てから五分も経たずに、六花が岡持ちと魔法瓶の水筒を氷で浮かせて運びながら部屋に戻ってくる。

 六花が運んできたのは、笊蕎麦と蕎麦湯、そして出汁から作った蕎麦つゆだ。

 部屋のミニ冷蔵庫にあった薬味も出して、全員に蕎麦を配る。

 

「美味え!! 店かよ!?」

「クッソォ、甘いものの後のしょっぱいもの作戦ときたか……! うまっ」

「この旨味と香り、まさか十割……!?」

「そうですけど……」

 

 やたらとハイテンションな男子達に呆れつつ、六花は上鳴の疑問に答える。

 そんな中、あっという間に配った分の蕎麦を食べ終えた轟が、六花に話しかける。

 

「……なぁ、氷叢。また作ってくれるか?」

「いつでも作りますよ。というか、わたしも食べたいですし……」

 

 轟が尋ねると、六花は水筒に入った蕎麦湯を湯桶に注ぎながら答える。

 こうして、爆豪以外の全員の部屋のお披露目会が終わった。

 

 

 

 〜少年少女移動中〜

 

 

 

 そして一階談話スペース。

 六花達は、誰が部屋王に相応しいかを紙に書き、投票箱に入れた。

 

「えー皆さん、投票お済みでしょうか!? 自分への投票はナシですよ!? それでは! 結果発表!! まずは2位からの発表です!! 得票数6票! 3位以下に圧倒的な差をつけてランクインしたその部屋は、砂藤力道!!」

「はああ!!?」

 

 二位に選ばれた砂藤は、自分でも驚いていた。

 

「ちなみに全て女子票! 理由は『ケーキ美味しかった』だそうです」

「「「部屋は!!」」」

「趣旨……」

 

 女子達がほんわかした表情を浮かべながら言うと、男子達と六花がツッコミを入れる。

 ちなみに六花が投票したのは口田だ。

 六花も『うさぎさんかわいかった』という理由で投票したので、人の事は言えないのだが。

 

「「てめーヒーロー志望が贈賄してんじゃねー!!」」

「知らねーよ、何だよすげえ嬉しい」

 

 上鳴と峰田が嫉妬を剥き出しにしながら砂藤に詰め寄ると、砂藤は満更でもなさそうな顔をする。

 

「それではいよいよ、爆豪を除いた第一回部屋王暫定1位の発表です!! 得票数7票!! 2位の砂藤と1票差で部屋王の座を勝ち取ったその部屋は!! 氷叢ーーーー六花ーーーー!!!」

「……へ? わたし……?」

 

 まさか自分が部屋王に選ばれると思っていなかった六花は、きょとんとした顔をしていた。

 

「ちなみに理由は!!」

「蕎麦美味かった」

「だそうです!!」

「だから部屋は!!」

 

 またしても企画の趣旨とは関係ない理由で票が集まった事に対して、峰田がツッコミを入れる。

 晴れて部屋王に選ばれた六花は、頬を緩ませて喜ぶ。

 部屋王に選ばれた事というよりは、雪代から造り方を教わった蕎麦が好評だった事が嬉しかったのだ。

 

 こうして部屋王決定戦が終わり、各々が自分の部屋へ戻っていく。

 六花も自分の部屋に戻ろうとすると、エレベーターホールの前には爆豪がいた。

 

「おい、ツラ貸せや」

 

 爆豪が、中庭を親指でさしながら話しかけてくる。

 

「……?」

「外出ろや」

 

 『ツラ貸せ』の意味がわからず六花がきょとんとしていると、爆豪が舌打ちしてから言い直す。

 一階に誰もいなくなってから、二人は中庭に出た。

 

 

 

 〜少年少女移動中〜

 

 

 

 中庭に出た後、しばらく沈黙が続いた。

 

「あの……バクゴーさん……」

 

 六花は、爆豪に謝らなければならなかった事を思い出す。

 元はと言えば、雪代のせいで爆豪が攫われたのだ。

 身内にもかかわらず、雪代の裏切りを見破れずに捕まってしまった事を、六花は気にしていた。

 六花がその事を謝ろうとすると、爆豪が先に口を開く。

 

「……てめェ、何もされなかったか?」

「……え?」

「クソカス連合に何かされてねぇかって聞いてんだよ」

「あぁ……とくに何も……見ての通りです」

「なら良いわ」

 

 そんな会話の後、再び沈黙が訪れる。

 六花は、今度こそ謝らなければと思い、口を開く。

 

「えっと……バクゴーさん……」

「……悪かった」

 

 六花が謝るより先に、爆豪が頭を下げて謝ってきた。

 

「へ……?」

「合宿ん時、俺があのババアをぶっ殺してりゃあんなことにはならなかった。あれは俺のミスだ」

 

 爆豪が珍しくしおらしい態度で謝ると、六花が目を丸くする。

 自尊心の塊の爆豪が人に謝るなど、真夏に雪が降るくらいあり得ない事だ。

 

「バクゴーさんが謝った……!? 大丈夫ですか、頭打ったんですか……?」

「あぁ!? ぶっ殺されてぇんかてめェ!!」

「あ、良かった……いつものバクゴーさんだ……」

「チッ」

 

 爆豪がいつもの態度に戻り、六花が安堵のため息を漏らすと、爆豪が不機嫌そうに舌打ちをする。

 

「そんだけだ、時間取らせたな」

 

 そう言って爆豪は、六花に背を向けて先に寮の中へと戻っていく。

 だが、三歩ほど歩いたところで急に足を止め、顔だけ六花の方を振り向く。

 

「……あ、それと蕎麦、まだ残ってっか?」

 

 爆豪の唐突な質問に、六花は一瞬意味が分からずきょとんとする。

 どうやら、先程の部屋王の時の蕎麦のくだりを聞いていたらしい。

 

「あ、はい……バクゴーさんの分、とってありますよ」

「生麺か?」

「えっと、はい。後で食べると思って、冷蔵庫に寝かせてあります」

「なら良いわ、茹でんのは自分でやる」

 

 そう言って爆豪は、寮へと戻っていった。

 明日から、二学期に向けた本格的な訓練が始まる。

 六花は、明日からの新生活に胸を躍らせながら、寮へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

*1
格式が高く比較的フォーマルな和室

*2
自由度が高く比較的カジュアルな和室




消されなかったけど部屋王の称号を取り損ねた砂藤ェ……
彼にはオリ主の餌付け係という大事な役目があるので、私の書くヒロアカ二次創作では消しません。

ちなみに本作での部屋割りはこうです。
原作では三階だった上鳴が常闇の暴走対策で二階に移動してます。


    2F
 男子   女子

 峰田   空室
 緑谷   空室
 上鳴   空室
 常闇   空室


    3F
 男子   女子

 空室   耳郎
 口田   空室
 飯田   空室
 尾白   葉隠


    4F
 男子   女子

 障子   麗日
 切島   空室
 爆豪   空室
 空室   芦戸


    5F
 男子   女子

 空室   空室
 砂藤   氷叢
 轟    八百万
 瀬呂   蛙吹



あと参考までに、部屋王の投票結果です。
ちなみに六花に投票した口田くんですが、理由は蕎麦ではなく、部屋に飾ってあったシマエナガのぬいぐるみが可愛かったからです。


投票結果

 1位 氷叢六花  7票(投票者:上鳴、切島、口田、砂藤、瀬呂、常闇、轟)
 2位 砂藤力道  6票(投票者:芦戸、蛙吹、麗日、耳郎、葉隠、八百万)
 3位 轟焦凍   3票(投票者:飯田、障子、緑谷)
 4位 瀬呂範太  2票(投票者:尾白、峰田)
 5位 口田甲司  1票(投票者:氷叢)
 6位 芦戸三奈  0票
 6位 蛙吹梅雨  0票
 6位 飯田天哉  0票              
 6位 麗日お茶子 0票
 6位 尾白猿夫  0票
 6位 上鳴電気  0票
 6位 切島鋭児郎 0票
 6位 障子目蔵  0票
 6位 耳郎響香  0票
 6位 常闇踏陰  0票
 6位 葉隠透   0票
 6位 緑谷出久  0票
 6位 峰田実   0票
 6位 八百万百  0票
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