地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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入学式に関しては完全な妄想です。
入学式に来ていたであろうA組の親がどうしていたのかが気になったので。
自分の中学の入学式を思い出しながら書きました(作者は中高一貫校だったので、高校の入学式がありませんでした。中学の卒業式も、卒業証書だけもらって終わりでした)。
雄英の入学式は、通常の入学式をベースにしつつも、原作の卒業式みたいなパリピ空間だったんじゃないかと予想。


第7話 氷叢さんの女子会・その1

No side

 

 “個性”把握テストが終わった後、六花達A組女子は更衣室に戻り、制服に着替えていた。

 

「じゃあ改めて自己紹介! 私は葉隠透! “個性”は『透明化』だよ!」

「はいはーい、次アタシね! 芦戸三奈! “個性”は『酸』! なんでも溶かすよ〜!」

「ケロケロ、蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで。“個性”は『蛙』、蛙にできることは大体できるわ」

「麗日お茶子です! “個性”は『無重力(ゼログラビティ)』!」

「ウチ、耳郎響香。“個性”はこれ、『イヤホンジャック』」

「私は八百万百と申します。“個性”は『創造』、体内の脂質を利用して生物以外の物質を創造することができますわ」

 

 六花以外の6人が、順番に自己紹介をする。

 芦戸は手から酸を出したり、麗日はジャージを浮かせたり、耳郎は耳朶を指に巻きつけたりして“個性”の実演をした。

 

「それじゃラスト!」

 

 そう言って葉隠が六花の方を振り向くと、女子全員が六花に注目する。

 一斉に見られて緊張しつつも、六花は自己紹介を始める。

 

「わ……私は……えと……氷叢六花です……“個性”は…………えっと……えっと……『氷冷』……だったと思います」

 

 女子達は、六花の会話のテンポが悪いと思いつつも、可愛いから何でもいいや、の精神で生暖かい目で見守った。

 

「それにしても氷叢さん、総合1位なんて凄いですわね。私、あの手の種目には自信がありましたのに、負けてしまいましたわ…」

「そういえば氷叢さん、さっき緑谷…デクくん?の指、冷やしてあげてたよね。氷の“個性”なん?」

「ケロ。私、入試の時、六花ちゃんと同じ試験会場だったわ。六花ちゃんは、“個性”で会場を丸ごと凍らせたのよ」

「「「マジで!!?」」」

「嘘やろ!!?」

 

 蛙吹がしれっと言うと、芦戸、耳郎、葉隠、麗日が驚く。

 女子達は、“個性”把握テストの結果と、麗日と蛙吹の証言をもとに、大規模な氷結と精密な氷の操作が行える“個性”だと考察する。

 だがその時、芦戸が手を挙げて口を開く。

 

「あ、でもさでもさ! 長座体前屈の時、手首飛ばしてたよね!」

「そうそう! あと、50mと反復横跳びの時、メッチャ速く動いたりしてた! どういう仕組み!?」

 

 芦戸に続けて、葉隠も尋ねる。

 氷を操る“個性”で大規模な氷結をしたり、傷を冷却して癒したり、氷や雪を出して自在に操ったりする、ここまではわかる。

 だが、手首を飛ばしたり、速く動けたりする理屈がわからない。

 ああでもない、こうでもないと女子達が考察していると、六花が口を開く。

 

「えっとぉ……私の“個性”は……氷を操れるのと……あと、氷になれます」

「「「氷になれる?」」」

「んっと……手、握ってもらえます?」

 

 そう言って六花が右手を差し出す。

 「じゃあ…」と言って耳郎が六花の手を握る。

 すると……

 

「うわっ、冷た!?」

 

 耳郎が、六花の手の冷たさに驚く。

 肌の柔らかさはあるが、とても血が通っているとは思えず、触れ続けていれば凍傷を起こしてしまうほど冷たい。

 だが、驚くのはまだ早かった。

 

「じゃ、“個性”使います」

「えっ、まだ“個性”使ってなかったの!?」

 

 既に悴みそうなほど冷たいのに、まだ“個性”を使っていないという事実に、耳郎が驚く。

 その直後、六花の右手が、耳郎の手の中で雪のように崩れた。

 

「「「「「崩れた!!?」」」」」

 

 信じがたい現象を体験した耳郎はもちろん、他の女子達も驚く。

 右手が崩れた事で、六花の右手首から先がなくなったが、当の本人は特に痛がったりする事もなく平然としていた。

 耳郎の掌の中には雪の塊があり、足元にも少量の雪が散らばっている。

 

「何これ、雪……!?」

「えっ、手が崩れたけど、大丈夫なの!?」

「大丈夫です」

 

 六花がそう言うと、彼女の右手首の断面に雪が集まり、一瞬にして六花の右手が何事もなかったかのように再生する。

 それを見て、八百万が何かに気づいたように目を見開く。

 

「ッ…!? ちょっとお待ちになって…!? 氷叢さんの“個性”は、ご自身の体を氷に変える変形型と、氷を操作する発動型の複合型ですわよね…? ということは、氷に変化させた肉体も操作可能ということになるのでは…!?」

「じゃあアレ、自分を操ってたってこと!?」

「……多分?」

 

 八百万と芦戸が尋ねると、六花は小首を傾げながら答える。

 50m走や反復横跳びで人間離れしたスピードを出した理屈は、氷化した肉体を操作するという至って単純なものだった。

 そして長座体前屈で手首を飛ばしていたのは、氷化した手首を遠隔操作していたという訳だ。

 肉体を氷に変えて操れば人間離れした身体能力を発揮する事も出来、何なら氷化すれば肉体へのダメージがフィードバックされない分、下手な増強系より身体能力を強化出来る可能性すらあるのだ。

 

「……強すぎない?」

「なんでそんなことになるん?」

「えっと……私もよくわかんないんですけど……確かママが、ウチの家系はみんな『血が濃い』って言ってて……」

「待ってこれ、聞いていいやつ?」

 

 六花が自分の家庭事情について語ろうとすると、何かを察した耳郎が待ったをかける。

 そんなこんなで着替えが終わり、教室に戻ると、先に着替えを終えた男子が何人か教室にいた。

 六花が自分の席に戻ろうとすると…

 

「ああ、戻ってきた!! おーい!!」

 

 上鳴の後ろの席の赤い髪の男子が、六花に向かって手を振った。

 六花は、左右を見てようやく自分の事だと気づくと、「?」と疑問符を浮かべながら自分の顔を指差す。

 

「氷叢っつったっけ!? いやぁ、今ちょうどさ! お前の話してたんだよ! “個性”把握テストの時、凄かったよな!! 俺ァ切島鋭児郎!! よろしく!!」

「俺、砂藤!」

「オイラは峰田実。よろしくな!」

「わっ、わっ……」

 

 ノリのいい男子達が、一斉に六花に話しかけてきた。

 急に話しかけられたせいか、六花は目を丸くして驚いていた。

 

「良かったら、皆で一緒に帰らねぇか? 俺ら、男子同士で自己紹介は済ませたけど、女子のことあんまり知らねぇからよ」

「じゃあ帰りがてらお互い情報交換しようよ!」

「いいなそれ!」

「六花も一緒に帰るよね!?」

「あっ……うん……!」

 

 切島や砂藤、芦戸といった明るく人当たりのいい生徒達に誘われた六花は、少し緊張しつつも頷いた。

 諸々の書類を受け取ってから、皆で下駄箱へ向かう。

 するとだ。

 

 

「六花!」

 

 下駄箱の前で待っていた雪代が、六花に声をかける。

 雪代の姿を見てすぐ、六花は雪代のもとへ駆け寄った。

 

「ママ!」

「今までどこにいたの? A組だけ全員入学式を欠席するって聞いたから、心配してたのよ」

「えっと……“個性”把握テストやってたの」

 

 雪代と六花が、普通に親子らしい会話をする。

 その光景に、クラスメイト達は言葉を失う。

 

 絹のような白銀の髪に、白磁のように白い肌、彫刻のように美しい容姿。

 片や黒曜石のような漆黒の瞳を持ち、大人の色気を漂わせる美魔女。

 片や藍玉(アクアマリン)のような淡い水色の瞳を持ち、親譲りの美貌の中にどこかあどけなさを残した美少女。

 その空間だけが切り抜かれたように、別世界が広がっていた。

 

(((女神と天使がいる!!)))

 

 まさに、六花と一緒に帰ろうとしていたクラスメイト達の心の声が揃った瞬間であった。

 

「あら……六花のお友達?」

「「「はっ、はいっ」」」

 

 雪代が声をかけると、六花のクラスメイト達が緊張でガチガチに固まりつつも返事をする。

 すると雪代は、柔らかい笑みを浮かべ、丁寧に挨拶をした。

 

「初めまして。六花の母の雪代です。この子、色々()()だから、度々ご迷惑をかけることになると思いますが……皆さん、どうか仲良くしてあげてくださいね」

「「「はっ、はひっ」」」

 

 雪代が微笑むと、クラスメイト達はまたしてもガチガチになりながら返事をした。

 六花は、雪代に手を引かれて、ひと足先に帰っていく。

 

「ママ〜、今日のご飯何〜?」

「う〜ん、何にしよっか」

 

 微笑ましい親子の会話が、遠くから聞こえてきた。

 二人が去っていった後、砂藤、上鳴、峰田が口を開く。

 

「……なぁ、氷叢の母ちゃんって…」

「ああ……すげー美人だった」

「美魔女ってやつだな……唆るぜぇ……」

 

 雪代の色気にあてられた男子達は、彼女の優しそうな笑顔を思い出しながら語り合った(峰田に関しては、発言がアウトだったためか女子達に白い目で見られていた)。

 少年達の性癖が歪んだ瞬間だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 時は数時間前に遡る。

 No.2ヒーロー、フレイムヒーロー《エンデヴァー》こと轟炎司は、末男の焦凍の入学式に出席する為、珍しくヒーロースーツではなく、ビジネススーツに身を包んで雄英高校に来ていた。

 焦凍との親子仲はお世辞にも良いとは言えず、本人には黙って来たので、入学式に来た事が知れたら嫌な顔をされるだろうが、そんな事は関係ない。

 最高傑作の晴れ舞台を、この目に収めに来たのだ。

 

 そんな彼の目に、一人の女性が留まる。

 白銀の髪に黒い瞳、儚げな美しさ。

 炎司はその女性に見覚えがあった。

 

「冷……?」

 

 目の前にいるのは、まるで妻の冷そのものだった。

 だが彼女は今精神病院に入院中で、ここにいるはずがない。

 だったらこの女は何だ、そう思っていると、その女性が炎司に話しかける。

 

「あの……すみません」

 

 女性は、見るからに初見の反応で話しかけてきた。

 よく見れば、背丈も体格も妻とは微妙に違う。

 女性は、少し困った様子で炎司に話しかける。

 

「ええと……フレイムヒーロー《エンデヴァー》さん、ですよね? 私に何か?」

 

 見すぎた。

 炎司は、女性を目で追ってしまった事を詫びる。

 

「これは申し訳ない。貴女が、私の()()にとてもよく似ていたもので」

 

 炎司は、妻の事をあえて『知人』とぼかしつつ、女性が自分の知る妻に似ていたから目で追ってしまったと弁解した。

 すると女性は、僅かに目を見開くと、スッと目を細めて口を開く。

 

「…………あぁ、そういうこと」

 

 女性は、全てを理解していた。

 炎司の言う『知人』が誰であるか、そして彼が何を思って自分の事を見てきたのか。

 

「私は轟炎司、今日はヒーローとしてではなく、父親としてここに来ている。ここでは、ヒーロー名ではなく本名で呼んでいただきたい」

「あっ、大変失礼しました」

「差し支えなければ、貴女のお名前を聞いても?」

「申し遅れました。私、氷叢雪代と申します。この度入学しました、氷叢六花の母です」

 

 同じだ。

 冷によく似た女は、苗字まで冷の旧姓と同じだった。

 冷の実家の事情は知っている。

 それを知った上で、“個性”婚に及んだのだから。

 

「……そうか。氷叢家の者だったか。難儀な運命を抱えたな」

「……いえ。私には娘がいますし、毎日が楽しいですから……苦労なんて、ありませんよ」

 

 炎司が雪代が抱えてきたであろう苦労に同情すると、雪代は小さく首を横に振って微笑む。

 すぐに嘘だとわかった。

 だが炎司は、それ以上は踏み込まなかった。

 世の中には、知らない方が良い事もある。

 だが雪代は、逆に炎司に踏み込んできた。

 

「つかぬことをお聞きしますが……私に似ている方がいると仰いましたよね。その方は今、()()()()()?」

 

 雪代の質問に、炎司は一瞬顔を歪める。

 見ず知らずの女に、自身の抱える闇に土足で踏み込まれ、不快さを表情に滲ませている。

 

「貴女には関係のない話だ」

「……それもそうですね」

 

 余計なお世話だと言わんばかりに威圧的に言い放つと、雪代は案外あっさり引き下がった。

 雪代は、炎司に気圧される事はなかったものの、少し悲しそうな顔をしていた。

 二人は、そのまま講堂へと向かう。

 

 講堂には、既に新入生の保護者が着席していた。

 中には仕事の都合だったり、家庭の事情だったりで欠席している親もいたが、ほとんどの新入生の親は我が子の晴れ姿を見に入学式に出席していた。

 空いている席に着席して開会を待っていると、講堂が暗くなり、開会のブザーが鳴る。

 どこからか、入学式には相応しくないロックな演奏が聴こえ、講堂全体がミラーボールのギラギラした光で照らされる。

 ステージを見ると、軽音楽部の上級生が、“個性”を使って楽器を演奏していた。

 そしてその中心では、プレゼント・マイクがお得意のDJで盛り上げている。

 

『ヘイエヴィバディ盛り上がれーーーー!!』

『『『『YEAHHHHHHHH!!!』』』』

 

 プレゼント・マイクが煽ると、軽音学部の生徒が激しくヘドバンをしながら演奏する。

 普通の入学式の厳かな雰囲気にはおおよそ似つかわしくない、絵に描いたようなパリピ空間。

 入学式の会場というよりは、クラブハウスだ。

 予想だにしていなかったパフォーマンスに、保護者達はポカンとする(唯一、雪代の前の席に座っていた金髪ロングの男性はノリノリだったが)。

 

「何だこれは……!?」

「ふふふっ」

 

 目の前の珍百景に、炎司は呆気に取られていた。

 雄英は自由な校風が売りだが、これはいくらなんでも自由が度を過ぎている。

 だが、型破りな催しが面白かったのか、雪代は口元を手で覆って上品に笑っていた。

 

『まずは新入生入場だァ!! アーユーレディー!!?』

 

 司会のプレゼント・マイクが、講堂の出入り口を指し示す。

 DJや拍手と共に、1年A組から入場する……

 ……はずだったのだが。

 

『えー、ヒーロー科1年A組は担任の都合により、入学式を欠席する運びとなりました。ご了承ください』

「なん……だと……!?」

 

 プレゼント・マイクが急にかしこまった口調で保護者達に詫びると、炎司がショックを受ける。

 A組生徒が全員入学式を欠席するという事態に、会場は騒然とする。

 

『さァ気を取り直して、まずはヒーロー科1年B組の入場だァーーー!!』

 

 驚きの切り替えの早さでプレゼント・マイクが司会をし、B組の担任と生徒が入場しようとした、その時だった。

 

「焦凍が入学式に来ない……だと……!?」

「あの〜…轟さん?」

 

 炎司は、怒りのあまり拳を握りしめながら震えていた。

 隣に座っていた雪代は、炎司を宥めようとする。

 だがすぐに、それが無駄だと悟る。

 

 

「ふざけるなぁぁぁっ!!!!」

 

 

 怒号と共に、熱気が会場全体に伝わる。

 他の保護者が目を向けた先には、全身に炎を激らせ、この日の為に新調したビジネススーツを一瞬で灰に変えるエンデヴァーこと轟炎司の姿があった(※ちゃんと下にヒーロースーツ着てます)。

 

 

 

 




テンポ悪くてすみません。
オリ主の“個性”の話はどうしても挟みたかったんです。
そして息子の知らないところで妻そっくりの女とエンカウントしていたエンデヴァーw
ここのやり取り、テストに出ます(大嘘)。
あと、入学式の会場ですが、人数的に厳しいと思ったので、しれっと体育館から講堂に変更しました。


どうでもいいメモ
A組の席順

     教卓

 爆豪 耳郎 上鳴 芦戸

 氷叢 瀬呂 切島 蛙吹

 緑谷 常闇 口田 飯田

 峰田  轟 砂藤 麗日

八百万 葉隠 障子 尾白
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