次回から二学期。
爆豪 side
「それでは!! 1年A組全員の仮免試験合格を祝って!! 乾杯!!」
「「「「「カンパ〜イ!!」」」」」
仮免試験が終わって寮に戻った後、1階の談話スペースでは、
ダルかったから一人で部屋に戻ろうとしたら、
「明日から普通の授業だねえ!」
「はふっ……タイヘンですねぇ……ケーキうまっ」
「色々ありすぎたな」
「一生忘れられない夏休みだった…」
ケーキを食ってソファーで寛ぎながら、それぞれが口を開く。
そんな中、
「おい、皆聞いてくれェ!! 緑谷の奴、ホモだったんだよ!!」
「へっ!?」
「え、マジ……?」
「つーか何を見たんだお前」
「緑谷の奴、試験の後トイレ行くって言ってたけど、士傑の男子と二人で茂みに入ってったんだよォ! アレってそういうことだよな!?」
「な、何言ってんの峰田くん!? 違うよ!?」
「じゃあナニしてたのか言ってみろよ!!」
「あ、あれはその、えー……」
デクが問い詰められて言い訳しようとすると、
「デクくん……そうなん?」
「わーいホモォ」
「違うから!! あれはちょっと、その、えっと……!」
真顔の
くだらなさすぎる話題に苛ついて部屋に戻ろうとすると、
「峰田さん、下品な話はおよしになって」
「そうだぞ峰田くん!! 人のプライバシーを侵害する話題は控えるべきだ!!」
二人に釘を刺された事でその話題はそこで終わり、明日からの授業だの、今日の試験の反省だの、次から次へと別の話題へ移っていった。
話題が変わってホッとしているデクに、俺は後ろから話しかけた。
「おいデク」
「な……何、かっちゃん?」
「てめェ、士傑の奴と何話してた?」
俺が聞くと、デクは強張った顔をして、ぎこちない口調で答えた。
「あっ、いや……大した話はしてないよ!? 士傑ではどんな訓練をしてたのかとか聞いただけで……!」
デクは目を泳がせて、忙しなく両手の指を動かしながら言った。
嘘はついてねぇが、本当の事も話してねぇってとこか。
こいつ、俺にすら言えねぇ話でもしてたんかよ。
「……そうかよ。話す気無えんなら別にいいわ」
俺は、無理に問い詰める事はせずに、そのまま部屋に戻った。
「……クソが」
誰もいない廊下で、床を睨みながらぽつりと呟く。
デクの俺にすら言えねぇ秘密と言やぁ、ひとつ思い当たる事がある。
俺はずっと、あいつが気味悪くて、苛ついてた。
雄英に入ってからは、前にも増してムカついてた。
ずっと“無個性”だと思ってた奴がいきなりオールマイトみてぇなパワーを手に入れて、俺を追い抜きやがった。
それだけじゃねぇ。
認めたくねぇが、雄英に入ってからボロボロになって足掻いてるあいつが、オールマイトと重なって見えたんだ。
なんでデクに苛ついてたのか、デクがオールマイトと重なって見えたのか、ずっとわからなかったが、神野の一件で、点と点が繋がった気がした。
クソ
要は、“個性”を誰かに譲る事ができる奴がいるって事だ。
それを聞いた時、俺の中で、ある仮説が浮かんだ。
デクの野郎が、オールマイトに“個性”を貰った。
そう考えれば、オールマイトが弱体化したのも、“無個性”の雑魚だったデクがいきなり超パワーを手に入れたのも、オールマイトがやたらとデクに構ってたのも全部説明がつく。
突拍子もねぇが、
それと士傑の奴がどう関係してるのかはわからねぇが、少なくとも“個性”に関係する話だって事は察しがつく。
まだデクがオールマイトに“個性”を貰ったと決まったわけじゃねぇが、もしそうだったとしたら、俺の今までは何だったんだよ。
ずっと道端の石コロだと思ってた奴が、いきなりオールマイトに認められて、すげぇ力貰って……
それに比べて俺は、ずっと後ろにいた奴の背中を追うようになって、オールマイトを終わらせちまった。
俺がもっと強ければ、俺が自力でクソカス連合をぶっ殺して逃げてれば、合宿ん時に雪ババアをぶっ殺してれば、あんな事にはならなかった。
何やってんだ、俺は……!!
「バクゴーさん」
突然、後ろから声が聴こえてきた。
振り向くと、氷叢が立っていた。
「……何だよ」
「あの……ひとりで部屋に戻ってくのが見えて……えっと、サトーさんが焼いてくれたケーキ、食べないんですか?」
「んな時間に甘えもん食わねえよ」
そう言って部屋に戻ろうとすると、氷叢がドアの隙間に両手を挟んできた。
氷叢は、そのまま馬鹿力で無理矢理ドアを開けて、俺に話しかけてくる。
「バクゴーさん、何か悩んでるんじゃないんですか?」
「……あ?」
「わたし、あたま良くないですけど……最近そういうの、すこしはわかるようになってきたんです」
「…………」
「じゃ、お邪魔します」
「入って来んなや」
氷叢は、俺の制止も無視して我が物顔で部屋に入ってきた。
俺の部屋をジロジロ見回したかと思うと、スンスンと匂いを嗅ぎやがった。
「バクゴーさんのお部屋、意外とオシャレですね。あとなんかいい匂いします」
「嗅ぐな殺すぞ」
「……ごめんなさい」
俺が睨みつけると、氷叢は鼻の周りを手で覆った。
……マジで何がしてぇんだこいつ。
つーか早く出てけや。
「で、何悩んでるんですか? 話してください」
氷叢は、いつもと変わらない様子で俺に話しかけてきた。
こいつは、拐われて帰ってきた後も、前と変わらずにクラスに馴染んでた。
何で、平気でヘラヘラ笑ってられんだよ。
「……逆に聞くがよ、何でてめェは平気なんだよ」
「はい?」
「俺は、オールマイトを終わらせちまったんだぞ!? 俺が捕まったせいで、オールマイトはあんな姿になっちまったんだ!! 俺がもっと強けりゃ……俺が合宿ん時あのババァをぶっ殺せてりゃあ、俺もてめェも拐われずに済んだ!! 俺のせいで……俺が弱いせいで、オールマイトが……!! クソッ、クソがぁっ!!」
俺は、氷叢に背中を向けて、目に溜まった涙を拭いながら、ずっと抱えてきたもんを全部ぶち撒けた。
オールマイトは、俺を救ける為に
オールマイトだけじゃねぇ……ジーニストも、他のヒーロー達も、俺を救けようとして傷ついた。
オールマイトみてぇな強えヒーローになろうって思ってきたのに、俺が弱いせいで……!!
「……ふぅん。バカじゃないですか?
「……あ?」
「ずっと暗い顔してるなぁって思ったら、そんなクソくだらないことで悩んでたんですか。なぁにが『俺のせい』ですか、自分中心に世界が回ってるとでも思ってるんですか? ジイシキカジョウも行きすぎるとキモチワルイですよ」
氷叢は、急にペラペラと喋り出した。
黙って聞いてりゃ、好き勝手言いやがって……
「くだらねぇだと……? てめェ……」
「ほんとうに、くだらないですよ。だってバクゴーさん、何も悪くないじゃないですか」
……あ?
「オールマイトだって、いつかは戦えなくなる日が来るんです。それがたまたまあの日だったってだけのことです。大体、No.1の座を返上したってだけで、別に引退したわけじゃないじゃないですか。バクゴーさんって、頭良いのに時々バカですよね」
俺を励ましたいのか貶したいのかどっちだこいつ……
「さっき、『なんでてめェは平気なんだ』って言ってましたよね。そりゃあ、オールマイトがいなくなったら、世の中色々大変だろうなぁ、とは思ってますよ? でも、べつに悲しいとは思わないですし、ましてや責任なんか感じてません。だって、オールマイトはわたしたちを悲しませるために命がけで戦ったわけじゃないですから」
氷叢のその言葉に、俺は思わず顔を上げて氷叢の方を振り向く。
「ごちゃごちゃ余計なこと考えてないで、フツーに笑って生きてればいいんですよ。じゃないと、オールマイトが報われないじゃないですか」
その言葉に、俺はようやく気付かされた。
オールマイトは、いつだって平和を守る為に
誰かを悲しませる為に戦った事なんざ、一度だってない。
俺がいつまでもウジウジしてるって知ったらオールマイトがどう思うかなんて、少し考えればわかる事だろうが……!
「……っ!!」
俺は、右の拳を固めて、自分の右頬を思いっきり殴りつけた。
「えっ、ちょっ、バクゴーさん?」
「バカかよ俺はっ……今まで何やっとんだ……!」
そうだよ、オールマイトは、俺がウジウジ悩む事なんざ望んじゃいねぇんだ……!
なのに俺ときたら、くだらねぇ事で悩んで、デクやこいつが前に進んでる間も無駄な時間を過ごして……
「氷叢、俺はこっからだ……! 俺は、オールマイトを超えるNo.1ヒーローになる!! あんなダセェ敗け方は二度としねぇ!! てめェにも、デクにも、誰にも負けねぇヒーローになってやる!!」
「……ん、それでいいんですよ」
俺が決意を固めて叫ぶと、氷叢は納得したような顔で頷く。
それはそうと……
「……あと、話は変わるがよ、もうひとつ言わせろ。てめェ、真面目な話してる時に冷蔵庫漁んな」
「はぇ?」
俺は、部屋の隅のミニ冷蔵庫を勝手に開けて食いもんを食い散らかしてるクソ女に言った。
こいつ、俺が話してる時もずっと冷蔵庫を中身を漁って勝手に食ってやがった。
百歩譲って、冷蔵庫の中身を勝手に食ったのは相談料だと思って見逃してやってもいい。
だが床にカスをボロボロ溢してんのは許さねぇ。
誰が掃除すると思っとんだ、このバカ女……!!
「つーか人ん家の冷蔵庫漁んなって親に教わらなかったんかよ」
「え……ここ別にバクゴーさんの家じゃないですよね?」
「出てけやクソが!!」
◆◆◆
緑谷 side
「……はぁ」
仮免全員合格おめでとうパーティーが終わった後、僕は部屋に戻ってベッドに体を預けてため息をついた。
士傑の青山くんと話してた事、かっちゃんやクラスの皆にはなんとか誤魔化せた。
僕はあの時、青山くんと、かっちゃんやクラスの皆にも打ち明けられない話をしていた。
◇◇◇
「あの……青山くん、話って何……?」
「君を体育祭で見た時、思ったんだけど……君、“個性”と体質が合ってないんだろ?」
青山くんは、僕を人気のない茂みの中に連れてきたかと思うと、急にそんな話をしてきた。
「えっ?」
「僕もね、そうなんだ。1秒以上レーザーを出しているとお腹を壊しちゃうのさ。それで、思ったんだ。君は
青山くんは、いきなり核心を突くような事を聞いてきた。
僕は動揺して、つい誤魔化すのを忘れてしまった。
「なっ、なんでそれを!? あっ……」
「『なんでそれを』ってことは……そうなんだね?」
「…………」
もう言い逃れできないと悟った僕は、肯定する代わりに、青山くんに尋ねた。
「……どうして気づいたの?」
「実は僕もね、ある人から“個性”を貰ったんだ」
「えっ……?」
青山くんは、腰につけたベルトに手を当てながら、僕に秘密を打ち明けてきた。
「僕はかつて、“無個性”だったんだ。僕のパパンとママンはそのことをひどく気にしていてね……“個性”を与えてくれる人がいるっていう噂を聞いて、僕はその人に“個性”を貰ったんだ。貰い物の“個性”だからだろうね……体質に合わなくて、なかなか自分のものにできなくて苦労したよ。だから、体育祭で腕をボロボロに壊しながら戦う君を見て、僕と同じで、誰かから“個性”を貰ったんじゃないかって思ったのさ。それで、誰が君に“個性”を与えたのかって考えたんだ。轟くんに啖呵を切りながら戦う君がオールマイトと重なって見えて、確信したよ。君に“個性”を与えたのは、オールマイトなんじゃないかって……」
“無個性”……
そっか、青山くんも、僕と同じだったんだ……
……あれっ? 待てよ?
その話が本当だとするなら、青山くんに“個性”を渡したのって……
「それで、青山くんは、なんで僕にそのことを……?」
僕が尋ねると、青山くんは、僕に真剣な眼差しを向けて言った。
「……緑谷くん、聞いてくれるかい? クラスメイトにも、先生にも、誰にも言えなかった僕の話を」
青山くんの言葉に、僕は無言で頷いた。
すると青山くんは、伏目がちに、少し後ろめたそうな表情で話し始めた。
「僕がある人に“個性”を貰ったって話はしたよね。実は、僕に“個性”をくれた人っていうのが、裏社会を牛耳る極悪人だったのさ。オールマイトに“個性”を貰った君なら、知ってるかもしれないけど……」
「っ……!! 『オール・フォー・ワン』……!!」
「ご名答☆」
さっき浮かんだ疑問がドンピシャで当たって、僕は思わず息を呑んだ。
やっぱり、青山くんに“個性”を渡したのは『オール・フォー・ワン』だったんだ……!
あいつに“個性”を貰った人がヒーロー側にいるなんて信じられない話だけど、青山くんが嘘をついているようには思えなかった。
「僕のパパンとママンは、あいつがどんな奴かも知らずに、『オール・フォー・ワン』の甘言に乗ってしまった。その見返りとして、パパンとママンはあいつに
「青山くん……」
青山くんは、罪悪感に押し潰されそうな顔で語った。
青山くんは、何も知らずに『オール・フォー・ワン』に“個性”を渡されて、そのせいでご両親が悪事に手を染めていた事にずっと心を痛めていたんだ。
士傑に入ってからも、『オール・フォー・ワン』の恐怖に怯えていて、生きた心地がしなかったんだろう。
そんな事を考えていると、青山くんは夕陽を見上げながら言った。
「僕が一次試験の時、雄英の人達を助けたのはね、羨ましかったからなんだよ。あいつのせいで苦しめられて、それでも逆境を乗り越えてヒーローを志している君達が、どうしようもなく羨ましかったのさ。僕も、あんな風になりたかった。君達のように、キラキラ輝いてみんなを照らすヒーローに……」
夕陽を見つめて目を潤わせながら、グッと唇を噛み締める青山くん。
僕はそんな彼に、声をかけずにはいられなかった。
「なれるよ」
僕が思わず口をつくと、青山くんが僕に視線を移す。
「青山くんなら、絶対なれるよ! 君は、危険を冒してまで葉隠さん達を助けてくれたじゃないか!! 君がいなかったら、みんなで通過なんてできなかった!! ありがとう!! あの時の君は、あの場にいた誰よりもカッコいいヒーローだったよ!!」
「……メルシィ☆」
僕が青山くんにお礼を言うと、青山くんは少し恥ずかしそうに、制帽の鍔で目元を隠した。
「やっぱり、君と話してよかったよ。今日話したことは、みんなには黙っておくね☆」
「うん……! お互い、頑張ろうね」
僕と青山くんは、握手を交わしてから、それぞれのバスへ向かっていった。
だけどその途中、僕は麗日さん達が襲われたっていう、士傑の女子生徒の事を思い出した。
僕は慌てて青山くんを引き留めて、彼女の事を尋ねた。
「……あ。あのさ! 気配を消す訓練って、どんなことしてるの!!?」
僕は、分析ノートを広げてメモを取る準備をしながら尋ねた。
すると青山くんは、怪訝そうな顔をしながら首を横に振った。
「……? ノン、そんな訓練はしてないよ?」
「えっ!? でも麗日さんと蛙吹さんが、士傑に気配を消す人がいたって……あの、唇がプルっとした人らしいんだけど……」
「あぁ、ケミィ先輩のことかい? 彼女なら、体調が悪いって言って先にタクシーで帰ったよ」
「そっか……」
「そういえば彼女、ずっと様子がおかしかったんだよね。何というか、
青山くんの発言に、僕はぞわりと背筋が凍りつくような感覚がした。
じゃあ、あの女子生徒が麗日さんを襲ったのは、一体何だったんだ……?
◆◆◆
No side
薄暗い路地裏を、一人の少女が歩く。
その少女は、仮免試験中に蛙吹と麗日をナイフで切りつけた危険な女子生徒、現見ケミィだ。
現見の顔が少しずつ崩れ、顔から流れた泥のような液体がボトボトと地面に落ちていく。
その状態で現見は、スマホを右耳に当てる。
『やっと繋がった! どこで何してる!?
トガ!!』
崩れた現見の顔の下から現れたのは、
「素敵な遊びをしていました」
『定期連絡は怠るなよ! 一人捕まれば全員が危ないんだ!』
「大丈夫なんです。私は今まで見つからずに生きてきたので。それより、弔くんに報告です。お友達ができたのです。それと、採ってきましたよ。梅雨ちゃんとお茶子ちゃんの血」
トガは、頬を染めて恍惚とした表情を浮かべながら、蛙吹の血と麗日の血が入った小瓶を手の中で転がした。
悪意は、六花達の知らない水面下で、少しずつ動き始めていた。
爆豪とデクは、夜中に喧嘩して謹慎になったりしてません。
そもそもこの世界線のデクは、まだ爆豪に貰い物の“個性”だという事を打ち明けていませんし、爆豪視点だと『ワン・フォー・オール』の秘密に辿り着くには判断材料が少なすぎるので。
まだ『デクがオールマイトに“個性”を貰ったのかもしれない』という疑いの域を出ていないので、デクに当たり散らす事もありません。
そしてトガケミィとヤった疑惑が浮上しなかった代わりに、青山と峰田のせいでくそみそ疑惑が浮上したデク(笑)
この世界線のトガちゃんは、六花ちゃんバフで強化されてボロボロにならなくなったデクよりかは、お茶子と梅雨ちゃんに執着しています。