地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第76話 氷叢さんとビッグ3

No side 

 

 A組は、体操着に着替えて体育館・γに集合した。

 ビッグ3も全員体操着に着替えてスタンバイしている。

 

「あの……マジすか?」

「マジだよね!」 

 

 瀬呂が不安そうに話しかけると、ミリオが準備運動をしながら答える。

 

「ミリオ…やめた方がいい。形式的に『こういう具合でとても有意義です』と語るだけで十分だ」

「遠」

 

 天喰が壁に頭をくっつけながら小さな声で言うと、峰田がツッコミを入れる。

 

「皆が皆上昇思考に満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

「あ、聞いて知ってる? 昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子がいたんだよ。知ってた? 大変だよねぇ。通形、ちゃんと考えないと辛いよ。これは辛いよー」

 

 A組を心配する天喰に続けて、波動も芦戸の角をいじりながら話す。

 すると常闇と切島が、ムッとした表情を浮かべて通形ミリオに話しかける。

 

「待ってください…我々はハンデありとはいえプロとも戦っている」

「そして敵(ヴィラン)との戦いも経験しています! そんな心配される程、俺達ザコに見えますか……?」

「うん。いつどっから来てもいいよね」

 

 常闇と切島が言うと、通形が余裕そうに笑顔を浮かべながらA組を見回す。

 だが通形は、六花と目が合うと、六花を指差して言った。

 

「あ、でも、氷叢さんは最後でいいかい?」

「……ん? なんでですか?」

「ほら君、一年最強って聞いてるからさ! 君とは一対一(タイマン)で戦ってみたいんだよね!」

「……ん、わかりました」

 

 通形がHAHAHAと笑いながら言うと、六花は上を向いて少し考え込んでから、コクリと頷く。

 通形の発言を聞いて、轟と爆豪がカチンとくる。

 

「19対1なら勝負になるとでも……?」

「うん、まぁね!」

「舐めやがって、クソが……!」

 

 轟が話しかけると通形は腕のストレッチをしながら挑発するように頷くので、爆豪が眉間に皺を寄せて悪態をつく。

 

「さぁ、一番手は誰だ!?」

「俺」

「僕……行きます!」

「俺がぶっ殺す!!」

 

 切島が前に出ようとすると、緑谷と爆豪が同時に前に出た。

 

「いいね君達やっぱり元気あるなぁ!」

 

 緑谷は前傾姿勢を取りながら『フルカウル』を発動し、爆豪は掌から爆発を起こして飛び出した。

 そんな二人を見て、他の生徒達も戦闘態勢を整え始めた。

 

「近接隊は一斉に囲んだろぜ!!」

「よっしゃ先輩、そいじゃあご指導ぉー」 

「「「よろしくお願いしまーっす!!」」」

 

 A組全員が一斉に飛び出した、その直後。

 通形の服が体をすり抜けて落ちた。

 耳郎は、顔を真っ赤にして両手で顔を覆う。

 

「あーーー!!」

「今服が落(・)ち(・)た(・)ぞ!」

「ああ失礼、調節が難しくてね!」

 

 通形は、落ちたズボンを急いで穿こうとした。

 その隙を狙って、爆豪と緑谷が通形に接近した。

 

「死ねぇぇぇ!!!」

「『セントルイススマッシュ』!!!」

 

 爆豪の爆破と緑谷の『セントルイススマッシュ』が、ほぼ同時に通形の顔面に炸裂する。

 だが二人の攻撃は、通形の顔面をすり抜け、そのまま空を切った。

 

「……あ!?」

「──…!!」

 

 攻撃を透かされた爆豪と緑谷は、思わず目を見開く。

 

「顔面かよ」

 

 振り向きざまにそう言う通形に、今度は轟の氷結と炎熱が同時に襲いかかるが、通形はそれも透かした。

 さらに続けざまに瀬呂のテープや芦戸の酸、耳郎の衝撃波が飛んでくる。

 追い討ちをかけるように飯田が蹴りを放とうとするが、三人の攻撃が飛んでいった先には、通形がいなかった。

 

「いないぞ!!」

 

 耳郎と障子が“個性”を使って通形を探そうとした、その瞬間。

 

「まずは遠距離持ちだよね!!」

 

 通形は、全裸で耳郎の背後に現れた。

 すると振り向いた耳郎が悲鳴を上げる。

 

「ギャアアア!!」 

「ワープした!! すり抜けるだけじゃねえのか!? どんな強“個性”だよ!」

 

 A組全員が驚いていると、相澤が六花を除くA組に声をかけた。

 

「お前ら、いい機会だ。しっかり揉んでもらえ。その人…通形ミリオは俺の知る限り最もNo. 1に近い男だぞ。プロも含めてな」

「POWERRRR!!!」

 

 その間、僅か10秒。

 その間に通形は、芦戸、蛙吹、上鳴、障子、耳郎、瀬呂、常闇、峰田、八百万の九人をダウンさせてしまった。

 

「一瞬で半数以上が…! No.1に最も近い男…」

 

 通形の実力を間近で見た轟の頬から、タラリと汗が流れる。

 通形はふぅっと息を吐いてから、残りの十人の方を向く。

 

「あとは、轟くん以外は近接主体ばかりだよね」

「何したのかさっぱりわかんねえ!! すり抜けるだけでも強ぇのに…ワープとか…! それってもう……無敵じゃないすか!」 

「よせやい!」

 

 切島が言うと、通形は姿勢を低くして両腕と両脚を広げ、決めポーズをした。

 一方で、体育館の隅で観戦していた六花はというと。

 

「ねぇねぇ氷叢さん! 通形の“個性”わかった? わかる? ね、不思議!」

「んん……」

 

 波動が、六花の髪をアレンジしながら、幼稚園児のようにねぇねぇと話しかける。

 六花は、完全に波動のおもちゃにされていた。

 天喰は、通形が何をしたのか分からず狼狽えるA組に対して、心の中で厳しい評価を下す。

 

(無敵か…その一言で君らのレベルは推し量れる。例えば、素人がプロの技術を見ても何が凄いのかすらわからぬように…ミリオがしてきた努力を感じ取れないのなら、一矢報いることも…)

 

「何かカラクリがあると思うよ!」

 

 天喰の思考を遮るように、緑谷が言った。

 

「『すり抜け』の応用でワープしているのか『ワープ』の応用ですり抜けているのか、どちらにしろ直接攻撃されてるわけだから、カウンター狙いでいけばこっちも触れられる時があるハズ……! 何しているか分かんないなら、わかってる範囲で仮説を立てて、とにかく勝ち筋を探っていこう!」

「オオ! サンキュー緑谷!」

「探ってみなよ!」

 

 通形は、勢いよく走り出すと、再び地面に沈み込んだ。

 

「沈(・)ん(・)だ(・)!!」

 

 A組が驚いていると、通形が緑谷の背後に現れる。

 すると、通形が背後に現れる事を予測していた緑谷は、すかさず後ろに飛び蹴りを放つ。

 が……

 

「だが必殺!!!」 

「うっ!!?」 

「ブラインドタッチ目潰し!!」

 

 通形は、緑谷の目に触れてすり抜けさせると、緑谷の鳩尾にボディーブローを放つ。

 

「っ……かはっ……!!」

 

 咄嗟に反応して受け身を取った緑谷だったが、通形のボディーブローは想定以上に重く、数メートル吹っ飛ばされた。

 通形が緑谷を吹っ飛ばしたその瞬間、今度は爆豪が通形に奇襲を仕掛ける。

 

「余所見してんなよ先パイ!」

 

 爆豪は、通形の顔面を爆破しようとした。

 だが通形は、その場で地面に沈み込むと、爆豪の背後に現れ、緑谷の時と同様に奇襲を仕掛けようとした。

 爆豪は咄嗟に振り向きざまに爆破を繰り出し、通形を吹き飛ばそうとする。

 だが通形は、爆破を透かして回避し、一瞬で爆豪の懐に入り込むと、爆豪にボディーブローを放つ。

 爆豪は、咄嗟に両手を前に出して爆破を放ち、自分を後ろに吹っ飛ばす事で、ボディーブローの威力を殺した。

 だが完全には殺し切れなかったようで、体をくの字に曲げて顔を歪める。

 

「っでぇ……!!」

「後ろに飛んで腹パンを殺したのか! やるね君!!」

「緑谷! 爆豪!」

 

 緑谷と爆豪が吹っ飛ばされると、轟が叫ぶ。

 その時、今度は轟の背後に通形が現れた。

 

「っ!」

「あっち!」

 

 ボディーブローの直前、轟は咄嗟に左半身から炎を出した。

 流石に炎を出している状態では殴れないのか、通形は一度轟から距離を取った。

 

「……うん、強いね、君達三人! となるとまずは……」

 

 通形は、飯田、麗日、尾白、切島、口田、砂藤、葉隠に目を向ける。

 そして、10秒もかからずに七人をボディーブローで撃沈させてしまった。

 そんな中、六花の髪をいじっていた波動が天喰に話しかける。

 

「通形さぁー、ねえねえ聞いて通形さー、強くなったよね」

「ミリオは子供の頃から強かったよ──…ただ─────加減を覚えた方がいい」

 

 天喰の視線の先には、「POWER!」と言いながらサムズアップをする通形がいた。

 彼のすぐ近くには、通形に一発でダウンさせられなかった轟、爆豪、緑谷の三人が立っている。

 轟、爆豪、緑谷の三人は、一斉に攻撃を仕掛けた。

 氷に炎、爆破に衝撃波が絶え間なく飛び交うが、通形はそれらを全て透かして躱した。

 轟は、ボディーブローを喰らうまいと右半身を氷で、左半身を炎で防御している。

 そんな轟に目をつけた通形は、ニヤリと笑うと、今度は緑谷に目をつける。

 

「POWERRRRR!!!」

 

 通形は、ワープで緑谷の懐に入り込むと、大きく右拳を振りかぶる。

 それをチャンスと見た緑谷は、通形の頭に蹴りを叩き込もうとした。

 だが通形は、緑谷の蹴りを透かすと、そのままボディーブローを放つ。

 緑谷は、通形の拳を見切り、一度距離を取って態勢を立て直そうとした。

 だが、その判断が良くなかった。

 

「なっ……!?」

 

 緑谷が飛び退いた先には、氷と炎で体を防御した轟がいた。

 緑谷が飛んでくると、轟は咄嗟に体を覆っていた氷と炎を消した。

 通形は、緑谷が轟の方へ回避するように、わざと拳を見(・)切(・)ら(・)せ(・)た(・)のだ。

 

「隙ありィ!!」

「がはっ……!」

 

 轟の防御が消えた瞬間を狙って、通形はワープで距離を詰め、轟にボディーブローを叩き込む。

 轟は、腹を抱えてその場に膝をつき撃沈した。

 

「轟くん!!」

「後は二人だけなんだよね!」

 

 通形は、ビシッと決めポーズをしながら爆豪と緑谷を指差す。

 これまでの戦いを見て通形の“個性”を分析していた緑谷は、通形を警戒しながら爆豪に話しかける。

 

「かっちゃん! 僕、先輩の“個性”がわかったかもしれないんだ! ここは二人でタイミングを合わせていこう!」

「てめェが俺に合わせろやクソデク!」

「うんうん、それでそれで!?」

 

 二人で作戦を話していると、通形がワープで二人の前に現れ、耳を澄ますようなポーズを取る。

 すると二人は、ほとんど同時に通形に爆破と回し蹴りを放つ。

 通形は、二人の攻撃を透かすと、そのまま懐に入り込んで二人同時にボディーブローを叩き込もうとする。

 その瞬間を狙って、爆豪と緑谷は、通形を挟み撃ちにしようとした。

 が……

 

「POWERRRR!!!」

「ぐふっ……!!」

「がぁっ……!!」

 

 タッチの差で攻撃を透かされ、そのままボディーブローが放たれる。

 重いボディーブローが二人の腹に突き刺さり、とうとう緑谷と爆豪も撃沈した。

 残るは、最後に戦う事になっている六花だけだ。

 

「さぁ、最後は氷叢さんだよね!」

「……ほんとにやるんですか?」

「当然だよね!」

「ですよね……」

 

 通形が声をかけると、六花は面倒臭そうに前に出る。

 六花の髪は、クラスメイトが戦っている間に波動にアレンジされ、ふんわりしたシニヨンになっている。

 通形は、ギリギリ股間が見えないようにポーズを取りながら話しかける。

 

「いつどっからでもかかってきていいよね」

「それよりパンツはいたほうがいいですよせんぱい」

 

 全裸で決めポーズをする通形に対して、六花は真顔で指摘する。

 そんな六花を、他のA組が体育館の隅から応援する。

 

「六花ちゃん頑張れー!!」

「氷叢やっちまえー!!」

「俺達の仇を取ってくれぇ!!」

「ダセェ負け方したら殺す」

 

 A組は、何もできずに腹パンされたのが悔しかったのか、六花への応援の熱量が凄まじかった。

 一方で、ずっと壁と睨めっこをしている天喰はというと。

 

「ミリオ……まさか勝(・)負(・)を(・)楽(・)し(・)も(・)う(・)だなんて考えてるんじゃないよな……? ダメだそれは……皆が立ち直れなくなってはいけない……」

 

 天喰は、通形が他のA組をワンパンでダウンさせた時のようにはっちゃけてしまうのを本気で心配していた。

 だが通形は、関係ないと言わんばかりに笑みを深くしながらストレッチをする。

 

「じゃ……えんりょなく…………いきます」

 

 そう言って六花はまず、『氷霧』で通形目掛けて冷気を放ち、冷気で動けなくなったところを、距離を詰めて『雹』で殴ろうとする。

 すると通形は、“個性”を発動させて地面に沈み込み、ワープで六花の背後に回り込む。

 六花は、ワープした通形を目で追うと、氷化して固めた左脚でカウンターの蹴りを叩き込もうとする。

 だが六花の蹴りは通形に透かされ、通形が距離を詰めてくる。

 

「『ブラインドタッチ目潰し』!!」

 

 通形は、左手の指先に“個性”を発動した状態で六花に目潰しした。

 それとほぼ同時に、通形は右の拳を振りかぶり、六花の腹にボディーブローを叩き込もうとする。

 だが六花は、通形の目潰しに怯むどころか、本命である右のボディーブローを完璧に見切って左手でガードした。

 

「!?」

 

 目潰しに怯まなかった事が想定外だったせいか、通形の右のボディーブローは普段の1割の威力も出せず、そのまま六花にノーダメージでガードされてしまった。

 六花はそのまま、掴んだところから通形を冷やしながら、雪で通形を固めようとする。

 通形は、雪で固められまいとすり抜けようとした。

 だが通形は、何故かすり抜けられなかった。

 

「……あれっ?」

 

 “個性”が発動できずに通形がきょとんとしたその瞬間、六花は大量の雪で通形の体をガチガチに固めた。

 通形は顔以外を全て雪で固められ、完全に身動きがとれなくなる。

 

「なんか何もできないまま固められたんだよね……! 何をしたんだい?」

 

 通形は、HAHAHAHAと笑いながら六花に尋ねる。

 笑っているが、寒さのせいか、顔は血色が悪く、声は震えている。

 

「せんぱいの攻撃を……ガードしたとき……せんぱいの、からだに……冷気を送り込んで……“個性”を……使えないようにしました……」

「君、そんなことまでできたの!? 初耳なんだよね!」

「誰にも聞かれなかったから……言わなかっただけですよ……で、ここからどうします……? 氷像か雪だるまか……好きなほうを、えらんでいいですよ……あ、皮剥がれてもいいなら逃げてもいいですけど……」

「うーん……それはちょっと嫌なんだよね。この状態で下手に動くのは得策じゃなさそうだ……っていうか今メチャクチャ寒いし……これは詰みっぽいよね。参った!」

 

 “個性”を封じられて何もできなくなった通形は、流石に全裸のまま雪で固められるのは耐えられなかったのか、降参を宣言した。

 

「そこまで!!」

 

 相澤の声が体育館に響き渡り、勝負が終わった。

 決着がつくと、六花は通形を固めていた雪を融かして解放し、A組はワッと歓声を上げる。

 

「やったぁ!!」

「氷叢さん、先輩に勝っちゃったよ……」

「No.1に最も近い男に……」

「才能マンだ」

 

 葉隠がガッツポーズをして喜び、尾白と常闇が呆然とする中、上鳴がアホ面で諦めたように呟く。

 一方で、ビッグ3の二人はというと。

 

「ミリオが負けた……!? 信じられない……でも、この現実は受け入れないと……」

「ねぇ天喰くん、そんなに壁に顔押し付けてたらめり込んじゃわない? 痛くないの? 不思議!」

 

 天喰がショックで壁にめり込むくらい顔を押し付けていると、波動が天喰の肩をバシバシ叩きながら話しかけた。

 ビッグ3の通形との模擬戦は、六花の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ギリギリちんちん見えないよう努めたけど!! すみませんね女性陣!! とまぁこんな感じなんだよね!」

「わけも分からず氷叢さん以外全員腹パンされただけなんですが…」

 

 HAHAHAと笑う通形の前で、何とも言えない表情を浮かべているA組を代表して、緑谷が口を開く。

 

「俺の“個性”、強かった?」

「強すぎっス!」

「ずるいや、私のこと考えて!」

「すり抜けるしワープだし! 轟みたいなハイブリッドですか!?」

 

 通形が尋ねると、切島や葉隠が食い気味に文句を言い、芦戸が詰め寄るように質問する。

 すると波動が、幼稚園児の様に無邪気に手を挙げながら口を開く。

 

「私知ってるよ“個性”。ねぇねぇ言ってい? 言ってい!? トーカ」

「波動さん今はミリオの時間だ」

 

 天喰が注意すると、波動は頬を膨らませて渋々黙る。

 

「いや一つ!! 『透過』なんだよね! 君達がワープと言う移動は、推察された通り、その応用さ!」

「どういう原理でワープを…!?」

 

 通形が波動の発言をサラリと流してから説明すると、緑谷は手メモをしながら食い入るように話を聞いた。

 

「全身“個性”発動すると、俺の体はあらゆる物をすり抜ける! あらゆる! すなわち地面もさ!!」

「あっ…じゃああれ……落っこちてたってこと…!?」

「そう! 地中に落ちる!!」

 

 通形の説明に、麗日が僅かに目を見開いてハッとすると、通形が頷いてから答える。

 そして通形は、そのまま説明を続けた。

 

「そして、落下中に“個性”を解除すると、不思議なことが起きる。流動性の無い固体同士が重なり合うことはできないらしく…弾かれてしまうんだよね。つまり俺は、瞬時に地上へ弾き出されてるのさ! これがワープの原理、体の向きやポーズで角度を調整して弾かれ先を狙うことができる!」

「……? ゲームのバグみたい」

「イーエテミョー!!」

 

 芦戸が頬を膨らませながら言うと、通形は吹き出しながら大笑いした。

 通形のノリについていけずに六花が目元をひくつかせていると、隣にいた蛙吹が口を開く。

 

「攻撃は全て透かせて自由に瞬時に動けるのね…やっぱりとても強い“個性”」

 

 蛙吹が言うと、通形が首を横に振って説明する。

 

「いいや、強い“個性”にしたんだよね。発動中は肺が酸素を取り込めない。吸っても透過しているからね…同様に鼓膜は振動を、網膜は光を透過する。あらゆるものがすり抜ける…それは何も感じることができず、ただただ質量を持ったまま落下の感覚だけがある…ということなんだ。わかるかな!? そんなだから壁一つ抜けるにしても片足以外発動、もう片方の足を解除して接地、そして残った足を発動させすり抜け、簡単な動きにもいくつか工程が要るんだよね」

「急いでる時ほどミスるな俺だったら…」

「オマケに何も感じ無くなってるんじゃ動けねー…」

 

 通形の“個性”のテクニカルな性質に、上鳴と峰田が唖然と呟く。

 

「そう! 案の定俺は遅れた!! ビリッケツまであっという間に落っこちた。服も落ちた」

「つまりロシュツキョウってことですねケーサツよんでいいですか」

 

 通形の小ボケに対して、六花が今までの話に流れを無視して真顔でツッコミを入れるが、通形は六花のツッコミを華麗にスルーして話を続ける。

 

「この“個性”で上を行くには遅れだけはとっちゃダメだった!! 予測!! 周囲よりも早く!! 時に欺く!! 何より『予測』が必要だった! そしてその予測を可能にするのは経験! 経験則から予測を立てる! 長くなったけどコレが手合わせの理由! 言葉よりも経験で伝えたかった! インターンにおいて我々は『お客』じゃなくて一人のサイドキック! プロとして扱われるんだよね! それはとても恐ろしいよ、時には人の死にも立ち会う…! けれど恐い思いも辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一線級の経験、俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ! ので! 恐くてもやるべきだと思うよ1年生!!」

 

 そう力説してから、「氷叢さんにはやられちゃったけどね」と苦笑しつつ話を締め括る通形。

 雄英ヒーロー科の中でも最強の3年生三人、ビッグ3という肩書きに恥じない大物感のあるオーラに、A組は感服して拍手を送る。

 

「話し方もプロっぽい…」

「1分で済むことをここまで…」

「ロシュツキョウですけど」

 

 尾白と八百万が拍手しながら言うと、六花は冷静にツッコミを入れながらも拍手をする。

 

「お客か、確かに職場体験はそんな感じだった」

「危ないことはさせないようにしてたよね」

 

 上鳴と耳郎が、顔を見合わせながら言う。

 六花は、職場体験の時にミルコの敵(ヴィラン)退治に付き合わされたので、きょとんとしていた。

 だがよく考えてみれば、彼女なりに六花が危ない目に遭わないように配慮してくれていたように思う。

 

「そろそろ戻ろう」 

「ねえ…! 私達いる意味あった? 知ってる?」 

「何もしなくて良かった…ミリオに感謝しよう」

 

 相澤が声をかけると、波動が天喰を見ながら首を傾げ、ようやくショックから回復してきた天喰がヨロヨロと立ち上がりながら言った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その日の夜、ハイツアライアンスでは。

 A組の女子達が、1階の談話スペースに集まって話していた。

 

「どうなんだろーね、インターン。1年はまだ様子見って言ってたけど」

「通形先パイのビリッケツからトップってのはロマンあるよねぇ」

「……んまっ」

 

 麗日と芦戸が話す中、六花はハムスターのようにお菓子を頬張る。

 その近くでは、八百万が髪を梳かしていた。

 

「とりあえず、相澤先生のGOサイン待ちですわね」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

トゥワイス side

 

 神野区の戦いから、半月が経った。

 死柄木についていくと決めてから、俺達敵(ヴィラン)連合は、捜査の目を眩ませる為、そして更なる組織の拡大、あとはまァ……仲間のや(・)り(・)残(・)し(・)た(・)事(・)をしに各地に散らばっていた。

 

 オール・フォー・ワンが死んで、ノウメンがヒーローに捕まってセントラル病院の地下に搬送された。

 それでも俺達敵(ヴィラン)連合がバラバラにならなかったのは、ノウメンが死柄木と俺達を繫ぎ留めてくれてたからだ。

 短い付き合いだったが、あいつはいい奴だった。嫌なババァだったぜ!

 

 そんなわけで、いつものようにめぼしい奴を探しに街を彷徨いていたら、コンビニ強盗をしている奴がいたんだが、ペストマスクをつけた奴等が、その強盗からさらに強盗をしていた。

 一部始終を見ていた俺は、何となく興味が湧いて、そいつらに話しかけた。興味ねーな。

 話してみたら案外話の合う奴等で、死柄木に会いたいって言うもんだからアジトに連れて行く事にした。話合わねーよあいつら!

 

「見るからに不衛生だな。ここが拠点か?」

「ああ! いきなり本拠地連れてくかよ。面接会場ってとこ」

 

 俺は、オーバーホールとかいうペストマスクの奴をアジトに連れてきた。

 ノウメンが用意してくれた拠点のひとつ、山奥の倉庫だ。

 

「勘弁してくれよ、随分埃っぽいな……病気になりそうだ」

「安心しろ、中の奴等はとっくに病気だ」

 

 そう言って俺は、倉庫の扉を開けて、オーバーホールを中に入れた。

 中には、俺が召集をかけた連合の皆が勢揃いしている。

 オーバーホールの顔を見るなり、死柄木は立ち上がって歩み寄り、そいつと向かい合った。

 

「話してみたら意外と良い奴でよ!! 死柄木(おまえ)と話をさせろってよ! 感じ悪いよな!!」

「……とんだ大物、連れてきたな…トゥワイス」

 

 

 

 

 




・冷気で近距離系は封殺できます
・仮にゼロ距離まで近づかれたとしても、氷化で物理攻撃無効化できます
・運悪く氷化が間に合わなくても、殴られた瞬間に即死カウンターが自動で発動します
マジでミリオ先輩を封殺する為に生まれた“個性”なんじゃないかってくらい鬼畜で草w
え?そんなんミリオ先輩じゃなくたって無理ゲーだろって?

あとどうでもいいんですけど、ミリオ先輩って可視光も透過するならデク達にミリオ先輩の姿が見えてるのはおかしいんすよね。
なので実際の“個性”は『ホログラム化』だけど、すり抜けるなら『透過』でいいじゃんってノリで親が“個性”届を出したと考えるのが自然ですね。
あと、ミリオ先輩は原作では『質量のあるもの同士が重なる事はできない』と言っていましたが、空気にも質量はあるので、セリフを『流動性がないもの』に変更しました。
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