地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第8話 氷叢さんのコスチューム

No side

 

 翌日から、通常の授業が始まった。

 午前中は、必須科目・英語等の普通の授業。

 1限目は、プレゼント・マイクによる英語の授業だ。

 

『んじゃ次の英文のうち間違っているのは? おらエヴィバディヘンズアップ! 盛り上がれーー!!!』

 

(((普通だ…)))

(クソつまんね)

(関係詞の位置が違うから…4番!)

 

 プレゼント・マイクの授業は、テンションこそ異様に高いものの、授業内容そのものは至って普通だった。

 そんな授業に対し、六花はというと。

 

(あの雲うさぎさんみたいな形してる……捕まえられるかな)

 

 窓の外に夢中で、全く授業を聞いていなかった。

 六花は、窓の外の雲に“個性”で生み出した氷の粒を紛れ込ませて、雲を操る。

 すると兎の形の雲が空をぴょんぴょんと飛び回り、他の雲を前脚で掘り始めた。

 その様子を見て、六花は頬を緩ませる。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 昼休み、大食堂『メシ処』。

 ここでは、一流の料理を安価で戴ける。

 クックヒーロー《ランチラッシュ》をはじめとした一流の料理人達が、生徒達の多種多様な要望に合わせて早い・安い・美味いの三拍子揃った料理を提供してくれるのだ。

 六花が食堂の列に並ぶと、仲良くなったクラスメイト達がピ◯ミンのようについてくる。

 

「白米に落ち着くよね最終的n「冷たいお蕎麦大盛りください」……蕎麦もいいよね!」

 

 六花がランチラッシュの白米推しをバッサリ切り捨てて盛り蕎麦を注文すると、ランチラッシュがサムズアップをしながら肯定した。

 流石はプロヒーロー、メンタルの強さが尋常じゃない。

 その時、六花が思い出したように注文を付け足す。

 

「あ、ワサビいらないです。あと大根おろしと七味と蕎麦湯ください」

 

 注文を終えると、1分も経たないうちに注文通りの料理が出てくる。

 薬味の皿にはワサビの代わりに大根おろしと白ネギが乗っていて、トレイの端には赤漆塗りの湯桶が置かれている。

 七味は、テーブルに置いてあるものを好きに使っていいと受け取りの時に言われた。

 注文した料理を受け取って代金を支払った六花は、空いている席に座る。

 

「いただきまーす」

 

 六花はまず、追加で注文した大根おろしを、蕎麦つゆに溶いた。

 そしてテーブルの上の薬味コーナーに並べられた七味唐辛子を手に取ると、それを盛り蕎麦の上に直接振りかけた。

 それを見て、醤油ラーメンを注文した葉隠が口を開く。

 

「えっ、冷たい蕎麦に唐辛子?」

「……どうかしました?」

「いや…あんまり馴染みがない組み合わせだなぁって」

「そうですか? ウチはいっつもこれです」

 

 そう言って六花は、蕎麦の上に白ネギを乗せ、マイペースに蕎麦を啜る。

 一般家庭ではメジャーではないが、六花の実家では代々好まれてきた食べ方だ。

 そもそも蕎麦の薬味御三家といえば、大根おろし、刻みネギ、七味唐辛子の三つだ。

 江戸時代には、ワサビは大根が手に入らない時の代用品だったと言われている。

 

 

「午後はヒーロー基礎学だね! 午前中はぶっちゃけ普通の授業って感じだったし、余計に楽しみ!」

 

 オクラ納豆定食を注文した芦戸が、元気よく話題を振る。

 するとクリームシチューを注文した蛙吹も口を開く。

 

「『ヒーロー基礎学』というからには、入試の時みたいな演習かしら」

「かもね!」

 

 蛙吹の推測に、葉隠も頷く。

 話に加わらず蕎麦をモリモリ食べている六花だったが、内心午後の授業を楽しみにしていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 昼休みもあっという間に終わり、5限目。

 本日のメインイベントが始まる。

 

「わーたーしーがー!!」

「来っ」

「普通にドアから来た!!!」

 

 HAHAHAHAと特徴的な笑い声を響かせながら、オールマイトが教室に入ってきた。

 オールマイトのサプライズ登場に、教室内は浮き足立つ。

 

「オールマイトだ…!!」

「すげぇや本当に先生やってるんだな…!!!」

「アレ、銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームね……!」

「画風が違いすぎて鳥肌が……」

 

 上鳴、切島、蛙吹、尾白が興奮気味に口を開く。

 オールマイトは、ムキッ、ムキッと大袈裟にゆっくり歩きながら教卓へ向かう。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作る為、様々な訓練を行う課目だ! 単位数も最も多いぞ! 早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」

 

 オールマイトが、ややオーバーな身振りをしてから、『BATTLE』と書かれたカードを見せながら高らかに宣言する。

 

「戦闘……」

「訓練…!」

 

 戦闘訓練と聞いて、六花の前の席の爆豪はやる気を出し、後ろの席の緑谷は不安そうな表情を浮かべる。

 

「そしてそいつに伴って…こちら!!! 入学前に送って貰った『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた…『戦闘服(コスチューム)』!!!」

「「「「「おおお!!!!」」」」」

 

 オールマイトが端末を操作すると、壁から戦闘服のトランクが入ったロッカーが出てくる。

 すると生徒達は、興奮のあまり歓声を上げる。

 戦闘服は、自分がヒーローになったら、と誰しもが一度は考えるものだ。

 それを身につけてヒーローの訓練を受けられるのだから、興奮するなという方が無理な話だ。

 

「着替えたら順次、グラウンド・βに集まるんだ!!」

「「「「「はーい!!!」」」」」

 

 生徒達は、それぞれ我先にと自分の出席番号が振られたトランクを撮りに行く。

 そして自分の戦闘服のトランクを抱えて、更衣室へと向かう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 約三週間前、氷叢家では。

 

「六花ちょっとこっち来て」

「はぁ〜い」

 

 雪代に呼ばれて六花が居間に行くと、居間には雪代が正座していた。

 ちゃぶ台の上には、2種類の書類がある。

 雪代が役所から貰ってきた『個性届』と、合格通知と同封されていたコスチュームの『要望』。

 

「これ、今週までに提出しなきゃいけないんだけど、六花はどんなコスチュームがいいの?」

 

 雪代は、まだ白紙の要望の紙を見せながら、六花に尋ねる。

 雄英には、『被服控除』というシステムがある。

 入学前に『個性届』『身体情報』を提出すると、学校専属のサポート会社が、コスチュームを用意してくれる素敵なシステムだ。

 『要望』を添付する事で、便利で最新鋭のコスチュームが手に入る。

 

「こういうの!」

 

 六花は、写真を見せながら要望を伝えた。

 そこには、白い振袖を着た若い頃の雪代が写っている。

 

「振袖がいいの?」

「うん!」

「でも動きにくいわよ? こういうスーツの方がいいんじゃないかしら」

 

 そう言って雪代は、コスチュームの参考用に駅前で買ったヒーロー雑誌を見せようとする。

 だがその時、六花が自分の体を氷に変えて空中にふわりと浮き上がる。

 それを見て、雪代が苦笑いをする。

 

「ああそっか、関係ないんだったわね……」

 

 雪代は、そこにいるだけで何でもできる六花からしてみれば、動きやすさなど関係ないという事を思い出す。

 その後、雪代は六花から要望を細かく聞き出して、コスチュームの第一案を完成させた。

 

「できた、こんなのでどう?」

 

 雪代がノートに描いたコスチュームの案を見せると、六花がガタッと立ち上がり、目を輝かせながら指差す。

 

「これ!! こんなのがいい!!」

「決まりね」

 

 雪代は、コスチュームの案をスマホにスキャンし、要望の紙にそれをコピーした。

 そして次の準備に取り掛かる。

 雪代は、ビニールシートや鋏を居間に運びながら尋ねる。

 

「六花、髪伸ばせる?」

「なんで〜?」

「コスチュームを作るのに、髪の毛が必要みたいなの。できるだけ多めに取りたいから、長めに伸ばしてくれる?」

「わかった!」

 

 六花が頷くと、雪代は今度は台所からバケツに氷を満杯に入れて持ってきた。

 六花がバケツの氷に手を触れると、みるみるうちに氷が消えていき、代わりに六花の髪が伸びていく。

 2mくらい伸ばしたところで、氷が全て消え、髪の成長も止まった。

 

「これくらいでいい?」

「そうねぇ……これくらいあれば足りるかしら」

 

 雪代は、六花の長い髪を手で触れながら、コスチューム作成に必要な髪の量を計算する。

 充分な量だと判断すると、床にブルーシート敷き、六花に散髪用のケープを被せ、元の長さと同じになるまで髪を切った。

 切った髪は、『個性届』や『要望』を同封した封筒と一緒に雄英宛てに送った。

 あとはコスチュームが完成するのを待つだけだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……なんか思ってたのと違う」

 

 コスチュームに身を包んだ六花が開口一番に発したのは、その言葉だった。

 六花のコスチュームは、本人の希望通り、白と黒を基調にした和服だった。

 純白の振袖に、雪の結晶が銀糸で編み込まれた黒の帯と、藤結びにした銀の帯締め。

 その上に、外套を兼ねた白と青の頭巾。

 履き物は、藁履を現代風にアレンジしたブーツ。

 

 そしてコスチュームは全て、六花の髪を材料に作られている。

 サポート会社の最新技術によって、本人の髪や爪などを材料にする事で、本人の体質に合わせたコスチュームを作る事も可能なのだ。

 六花の“個性”は肉体を氷化する事も可能だが、コスチュームも一緒に氷化できるので、氷化した状態でコスチュームごと攻撃を受けても、コスチュームの破損の心配がない。

 そこまではいいのだが。

 

 コスチュームの着物の裾が、異様に短いのだ。

 雪代が考えてくれた案は普通の振袖だったはずだが、実際に完成したコスチュームは、太腿から下を大胆に露出した、所謂ミニスカ着物に改造されている。

 コスチュームと一緒にトランクに入っていたメモには、『動きやすさを追求しました!!』と書かれている。

 どうやら、六花のコスチューム案を見たサポート会社が、機能性の向上という理由で勝手に改造したらしい。

 無論、動きやすさはあくまで建前で、本音は()()()()()にあるのだろうが。

 雪代が考えてくれたコスチュームをそのまま着られると思っていた六花は、不服そうに眉間に皺を寄せていた。

 

「ケロケロ、六花ちゃんのコスチューム可愛いわ」

「うんうん、なんか綺麗とカワイイとカッコいいが同居してる感じ!」

「そうですかぁ……?」

 

 蛙吹と芦戸のコメントに、六花は照れ臭そうに返す。

 仲良しの友達に褒められて、さっきまでコスチュームのデザインが不服だった事などどうでも良くなった。

 蛙吹のコスチュームは、耐水仕様の緑色のボディースーツに、蛙をモチーフにしたゴーグルとブーツ。

 芦戸のコスチュームは、水色と紫の斑模様のコンビネゾンにファー付きのベストといった、ラフなデザインだ。

 

「やば……皆スタイル良すぎ……」

「皆良いなぁ、ウチもっとちゃんと要望書けばよかったよ…パツパツスーツんなった……」

「あー……」

 

 他の女子と自分を比べて少し憂鬱そうにしている耳郎と麗日を見て、六花はコメントに困った様子で斜め上に視線を向ける。

 耳郎のコスチュームは、レザーのジャケットとパンツにロングTシャツ、指向性スピーカーを仕込んだブーツといったパンク・ロックテイスト。

 麗日のコスチュームは、黒と白を基調としたボディースーツに、ピンクのヘルメットといった、宇宙服を思わせるデザインだ。

 

「っていうか八百万、それは……」

「これは“個性”を最大限活かすための仕様ですわ」

 

 八百万のコスチュームを見てコメントに困っているような耳郎の反応に対し、八百万が平然と答える。

 八百万のコスチュームは、胸元と腹部を大胆に露出した赤いハイカットのレオタードに、ミニスカートのように腰に巻いた極太ベルトだ。

 八百万の“個性”で創られた創造物は肌から直接出現するのだが、出現箇所を自分で選べないため、常に肌を露出しておく必要があるのだ。

 

「ですが、これは手直しされたものでして……私が提出したコスチューム案は、『コスチュームの露出における規定法案』に引っかかってしまいましたの」

 

(((原案はもっと際どかったんかい)))

 

 八百万のカミングアウトに対して、芦戸、麗日、耳郎が心の中でツッコミを入れる。

 するとだ。

 

「皆すごく似合ってる! カッコいい!!」

 

 葉隠の声が聴こえた方向を全員で振り向くと、そこにはブーツと、空中に浮かぶ手袋があった。

 

「透ちゃんのコスチュームは凄いわね。透明化の機能がついてるなんて」

「違うよ? 私のは手袋とブーツだけだよ!」

「「「「何考えてんの(とるん)(ますの)!?」」」」

 

 蛙吹のコメントに対して葉隠が否定すると、芦戸、麗日、耳郎、八百万のツッコミが重なる。

 

「……透ちゃん。裸は流石に良くないと思うわ」

「大丈夫だよ! 私どうせ透明だから見えないし!」

「そういう問題かなぁ…」

 

 蛙吹のツッコミに対して葉隠が少しズレた返しをすると、麗日が苦笑いを浮かべる。

 透明人間としては最適の選択だが、モラル的にはアウトだ。

 

「トオルさん気合い入ってますね」

「「「「!!?」」」」

 

 葉隠のコスチュームに対して、唯一六花だけは好意的なコメントをした。

 彼女もまた、ヒーロー活動の為なら恥じらいは二の次と考える()()()()の人間だったらしい。

 

 

 

 

 




オリ主ちゃんのコスチュームは、ぬ〜べ〜のゆきめとドロロンえん魔くんの雪子姫の衣装を参考にしました。
そこに妖怪ウォッチのゆきおんなの頭巾と靴を足した感じです。
結果的にB組の柳さんと似た感じになってしまいました(笑)
暇があればイラストも描きます。
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