本作では、ミリオ先輩とバトルした日の翌日って事にしてます。
No side
ビッグ3からインターンの説明を受けた日の翌朝、A組の寮では。
「「「取材!!?」」」
「ああ。お前達に新聞社の取材が入る」
相澤から突然取材が来ると聞いた六花達は、一斉に驚く。
「凄いねデクくん!」
「う…うん…」
麗日が緑谷に近づいて言うと、緑谷は緊張のあまり顔を赤くして目を泳がせる。
「何か照れるな」
「何でだよ」
「体育祭、全国中継されてたでしょ」
上鳴の発言に対して口田がコクコクと頷いていると、切島がきょとんとした様子で尋ねるので、尾白が笑いながら答える。
「三奈ちゃん! 六花ちゃん! 取材だよ取材! おめかししなきゃ!」
「だよね!」
「え……? あ、そうですね……」
「葉隠はする必要ないんじゃ…」
芦戸と一緒にキャッキャと浮かれる葉隠に対して、耳郎が少し呆れた様子でツッコミを入れる。
六花は、取材の話を聞かされてもいまいちピンと来ていないのか、少しぼんやりとしていたが。
「浮かれるな」
相澤の鶴の一声で、A組は先程までの浮かれようが嘘のようにはしゃぐのを止める。
全員が黙ったのを確認すると、相澤が説明を始めた。
「取材内容は、”寮生活を始めた生徒達の暮らしをレポートする”、だそうだ。お前達が元気に生活していることを、保護者の方々にも知ってもらおうと考えた校長が特別に許可を出した。だから…」
相澤が話している途中、峰田が隣にいた瀬呂に話しかける。
「取材に来るのは女かな? 女かな? 女子アナ?」
「新聞社だっての」
峰田が尋ねると、瀬呂がツッコミを入れる。
峰田は、血眼になって涎を垂らしながら下品な話をし始める。
「よくよく考えたら女子アナってすげぇネーミングだよな。女子の…」
目を血走らせハァハァと息を荒くしながら下ネタを言う峰田。
本来ヒーロー科ではあり得ない発言だが、峰田の下ネタはA組にとっては日常茶飯事だ。
だがそんな峰田を、相澤が捕縛武器で即座に縛り上げた。
「だからそういう真似を絶対にするな」
相澤が峰田を縛りながら釘を刺すと、A組の生徒達が縮こまる。
だが、その時だった。
「そういうのやめましょう。相澤先生」
「ん?」
「私は寮生活をしている雄英生の生の姿を取材したいんです」
謎の男が寮に入ってきて、相澤に声をかけた。
丸眼鏡をかけクリーム色のカジュアルスーツを身につけた、細身で長身の男だ。
「特田さん、まだ入っていいとは…」
「取材は午前8時から午後6時まで。もう始まってますよ」
特田という男は、そう言って笑顔を浮かべながら、左手首の腕時計を指差す。
すると相澤は、返事をする代わりに無言で峰田の捕縛を解いた。
茶番が終わったところで、改めて特田が自己紹介をする。
「皆さん、記者の特田です。今日は一日よろしくお願いします」
「「「お願いします!!」」」
特田が挨拶をすると、A組は一斉に頭を下げる。
「特別何かをしていただく必要はありません。皆さんがいつも送っている生活の様子をカメラに収めさせてください。たまに質問するかもしれませんがその時はよろしく」
「わあ! 爽やかイケメンだ!」
「女じゃねぇのかよ」
特田が笑顔を浮かべると、芦戸がキャイキャイはしゃぎ、相澤に解放されて壁にもたれかかっていた峰田が不満を漏らす。
「…………?」
六花は、特田の顔を見て、首を傾げながら訝しげな表情を浮かべていた。
すると隣にいた蛙吹が、六花に話しかける。
「六花ちゃん、どうかした?」
「あぁ、いや……この人、本当に記者の人なのかなって……思ってですね……」
「ケロ?」
六花が特田を観察しながら言うと、蛙吹がきょとんとする。
そんな中特田は、念を押すように小声で相澤に話しかける。
「校長先生から伺っているとは思いますが、取材への干渉はどうかご遠慮ください。私は…「分かってます。何かあれば連絡をください」
特田が言うと、相澤は右手を挙げ特田の話を遮って話を切り上げる。
すると特田は、何か思惑がありげな目で言った。
「何もありはしませんよ。1年A組の皆さんは将来有望なヒーロー候補じゃないですか」
「…………」
特田のどこか不穏な目つきに、相澤は内心警戒しつつも、いつもの調子で委員長の飯田に話しかける。
「飯田、問題があったらすぐに連絡しろ。いいな?」
「分かりました! この飯田天哉、1年A組学級委員長としての責務を全うする所存!」
相澤が指示を出すと、飯田はピシッと直立して返事をした。
すると特田が飯田に尋ねる。
「それじゃあえっと…皆さんこれから何を?」
「朝食です!」
「そんなに緊張しないで。私はいないものと思って…」
飯田がいつも以上に堅苦しく言うと、特田は笑顔を浮かべながら言った。
こうして、A組の取材が始まった。
◇◇◇
A組の取材は、朝食から始まった。
特田は、A組の普段通りの朝食の風景を写真に収める。
少し緊張した様子で白米を食べる緑谷と、真面目にカメラ目線を意識して写真に映る飯田、その向かいでカレーライスと白米を頬張る砂藤と切島。
カメラに向かって照れ笑いする麗日と、いつも通り真顔で味噌汁を飲む蛙吹、鼻と頬に米粒をつけて白米を頬張る六花。
ノリのいい笑顔で写真に映る芦戸と葉隠、少し恥ずかしそうな耳郎と八百万。
いい笑顔で牛乳を飲む上鳴と、その隣で不満そうな表情を浮かべる峰田。
照れ臭そうにカメラから目を逸らす口田と、それを微笑ましそうに眺めながら朝食を食べる尾白と瀬呂。
ほとんど会話を交わさずに黙々と和朝食を食べる障子、常闇、轟。
意外にも完璧なテーブルマナーで焼き魚を食べているところを撮られ、特田にブチ切れる爆豪。
その後は全員制服に着替えて、校舎に向かう。
途中で蛙吹が白猫を見つけて話しかけたり、それを見た六花が雪で猫を作って一緒に戯れたり、ほのぼのした光景が撮れた。
その後は、いつも通りの授業。
午前は普通科目で、1限目はミッドナイトの近代ヒーロー美術史の授業だ。
芦戸が眠そうに欠伸をする後ろで、蛙吹がいつものポーカーフェイスでノートを取る。
2限目は体育の授業。
飯田が50m走で、麗日が立ち幅跳びで、尾白が走り高跳びで、“個性”を使ってそれぞれ大活躍する。
3限目の前に、10分間の小休憩。
上鳴がクラスメイトの携帯を充電している後ろで切島がダンベルで筋トレをし、ペットのハムスターを可愛がる口田の後ろから砂藤がドーナツを食べながら話しかける。
3限目はセメントスの現代文、4限目はエクトプラズムの数学の授業。
複製した耳で授業を聞く障子に、スピーカーに耳朶のプラグを挿して授業を聞く耳郎。
それが終われば、昼休み。
瀬呂がテープで、常闇が
パパッと昼食を済ませてから、屋上を借りて“個性”の練習をする轟。
その様子をはしゃぎながら眺める葉隠。
その後は、午後のヒーロー基礎学。
必殺技の練習をする六花と爆豪と緑谷、女子アナじゃなかったとぼやきながらつまらなさそうに『もぎもぎ』をいじる峰田。
そして放課後。
雨が降ってきたので、傘を忘れた経営科の女子生徒が雨宿りをしていると、八百万が『創造』で傘を造って差し出した。
◆◆◆
特田 side
「……と、こんなところか」
私は、今日一日A組の生徒達を取材して得られたデータをパソコンに記録した。
私がここに来た本当の目的は、保護者達に生徒達の生活ぶりを知ってもらう為などではなく、オールマイトの後継者を探す為。
オールマイトは、先日の戦いで重傷を負い、No.1の座の返上を表明した。
オールマイトがあの時言った『次は君だ』、あの台詞の真意は、まだ見ぬ
彼はこの国の未来を後継に託した、私はそう直感した。
そして私の勘が正しければ、彼の後継者は雄英ヒーロー科1年A組の中にいる。
そこで私は、彼の後継者に会って直接話を聞く為に、編集長に交渉を持ちかけて取材を取りつけてもらったのだ。
問題は、A組の誰がオールマイトの後継者なのか、という事だ。
オールマイトが選んだ後継者となれば、必然的に対象は絞られる。
例えば、体育祭の決勝トーナメントに残ったA組の13人、その中でも2回戦に残った7人。
とは言え、最初から目星は付けていた。
簡単な消去法。
まず、体育祭優勝の氷叢六花は除外。
トップヒーローと遜色ない実力者だが、家庭環境が色々と複雑だ。
いくらオールマイトといえど、彼女の素性が明るみに出るリスクを取ってまで後継に選ぶとは考えにくい。
彼女自身のマイペースな性格を考えても、オールマイトの後継なんて荷が重い事を引き受けるとは思えない。
準優勝の爆豪勝己は能力はプロヒーローのレベルに達しているが、中学時代にオールマイトを超えると公言していた事からも、彼の後を継ぐとは考えにくい。
体育祭3位の轟焦凍も除外対象。
何しろ父親がNo.2ヒーローのエンデヴァーだ。
息子を彼の後釜に差し出すとは思えない。
残るは常闇踏陰か、インゲニウムの弟の飯田天哉か……或いは切島鋭児郎か……
いや、数々のスクープをモノにしてきた私の勘が告げている。
緑谷出久……彼がオールマイトの……平和の象徴を継ぐ者だと。
◆◆◆
緑谷 side
僕は、寮の庇の下で日課のトレーニングをしていた。
すると、右手で傘を差しながら左手にレジ袋を持ったオールマイトが歩いてくる。
「よっ」
「オールマイト!」
オールマイトに話しかけられた僕は、一旦トレーニングを中止した。
僕は、オールマイトが屋根の下に入ってから、どうしたのかを尋ねる。
どうやらオールマイトは、病院の検診の帰りにコンビニに行ったら、店員さんに『この国の人間として礼を言わせてほしい』と涙ながらに傘と大量の肉まんを渡されたらしい。
オールマイトは、袋から肉まんを一個取り出して、一口齧ってから袋を差し出してくる。
「というわけでね、クラスのみんなにお裾分けだ」
「さすがオールマイト。大人気だ。当然ですよね。オールマイトはNo.1ヒーロー。ずっと人々を守り、凶悪な
僕が言うと、オールマイトは僕の右肩に左手を置く。
「次は君の…いや、君達の番だ」
「はい」
「明日からはまたビシビシ鍛えるからな」
「よろしくお願いします!」
オールマイトが話し終える頃には、すっかり雨は止んでいた。
傘を巻きながら教師寮へと向かっていくオールマイトを見送っていた、その時。
「偉いね。夕食前も自主練かい?」
寮から出てきた特田さんが、僕に声をかけてきた。
「えっ、あっ、はい」
「いい匂いがする」
「肉まんなんですけど、食べますか?」
「ぜひ!」
僕が肉まんを勧めると、特田さんは笑顔を浮かべた。
僕と特田さんは、肉まんを食べながら、寮の玄関の前で語り合った。
◆◆◆
No side
「皆さん、そろそろ夕食の時間ですわ」
「急いで集まるように!」
八百万と飯田が呼びかけると、蛙吹はソファーから立ち上がりながら、隣に座っていた麗日と六花に声をかけた。
「行きましょう、お茶子ちゃん、六花ちゃん」
「あ……はい……」
「デクくんまた自主練かな?」
緑谷の様子が気になった麗日は、窓の外を眺める。
六花も、なんとなく気になったのか、麗日について行って少し離れたところから窓の外を覗いた。
窓の外には、特田と何かを話している緑谷がいた。
「あ…何話してるんだろ」
「デクさん……?」
様子が気になって、窓に顔を近づけて覗いてみると。
窓の外では、特田がいきなり緑谷の手を握ったかと思うと、急に緑谷を抱き寄せてポーズを取った。
「おわっ!?」
突然の出来事に、麗日が顔を真っ赤にし、目を丸くして驚く。
何やら親密そうな二人の様子に、麗日は顔面を窓に押し付けて食いついていた。
「な、なんなん!?」
「わぁい、ホモォ」
餅のような頬を窓に押し付けながら凝視する麗日の後ろで、六花は両手で顔を覆いながら指の隙間から二人の様子をバッチリ凝視していた。
特田は結局、緑谷と話した後、A組に挨拶もせずに帰っていった。
麗日と六花が見たのは、特田に向かって深々と頭を下げている緑谷だった。
「デクくん! 夕食の時間」
麗日が、寮から出て緑谷に声をかけた。
麗日が緑谷に近づくと、緑谷は顔を赤くしながら手に持っていたレジ袋を麗日に差し出す。
麗日は、袋の中身を知るや否や、うららかな笑顔を浮かべた。
六花が一部始終を寮の中から見ていると、麗日がレジ袋を持って緑谷と一緒に寮に戻ってくる。
麗日は、手に持った袋を高く掲げながら、上機嫌で皆に声をかけた。
「みんな〜! 肉まん! オールマイトからの差し入れだって!」
「「「「あざーーーっす!!」」」」
麗日が言うと、クラスメイトのテンションが一気に上がる。
「やったぁ、肉まん!」
「旨そ〜!」
芦戸と切島が、肉まんの入った袋を覗き込む。
皆がワイワイとはしゃぐ中、轟は、麗日と一緒に寮に戻ってきた緑谷に話しかけた。
「緑谷、お前オールマイトと何か話してたのか?」
「あ、うん……ちょっとね」
轟が話しかけると、緑谷が頷く。
どこか話しづらそうな緑谷を見て、轟はそれ以上詮索しなかった。
だがその時、袋から取り出した肉まんを頬張っていた六花が口を開く。
「はふっ……あ……そうだ……なんかさっき、デクさんが記者の人と玄関の前で抱き合ってました」
「!!?」
六花の爆弾発言に、緑谷がギョッとする。
「な、何言ってんの氷叢さん!?」
「え……だってさっき、抱き合ってたじゃないですか……」
「そ、そうだけど……あれには訳があって……!」
六花は空気を読まずに、見たものをそのまま口に出してしまった。
緑谷は、咄嗟に誤魔化そうとしたが、時すでに遅し。
クラスメイトは何とも言えない目で緑谷を見ており、峰田が緑谷に話しかける。
「緑谷ぁ……お前やっぱり……!?」
「違うからね峰田くん!?」
「おめー、その顔で節操がないタイプだったんだな……」
「だから違うって!」
六花のせいで、緑谷は峰田や瀬呂にあらぬ疑いをかけられた。
そんな緑谷を尻目に、六花は他人事のように肉まんを頬張っていた。
するとその時、蛙吹が六花に話しかけてくる。
「そういえば六花ちゃん、私、ずっと気になっていたことがあるんだけど……」
「……ん、なんですかツユちゃんさん」
「六花ちゃん、さっき特田さんのこと、『本当に記者の人なのかな』って言ってたけど……あれ、どういう意味だったの?」
「……あー、そんなこと言いましたっけ」
蛙吹が言うと、六花は思い出したように小さく口を開く。
「ん……と……わたし、中学の頃、よく記者の人に話しかけられてたんですけど……そういう記者の人って、ヤな感じの人ばっかりだったんです。だからわたし……記者の人ってヤな人だって思ってて……でもあのおにいさんは、ヤな感じじゃなかったから…………それで、本当に記者の人なのかなって、思っちゃって…………でも、いい記者の人もいるって知って、安心しました」
六花は、たどたどしい口調で訳を話す。
六花は中学生の頃、実の父親が起こした事件のせいで、無神経なマスゴミに嗅ぎ回られていた。
そのせいで記者に良いイメージが無く、『記者=嫌な人』という認知の歪みが生じてしまっていた。
それで良識的な特田の態度に困惑してしまい、本当に記者かと疑ってしまったのだ。
蛙吹は、うんうんと頷きながら六花の話を聞いていた。
入学したての頃の六花はどこか緊張した様子だったが、最近は心を開いてくれる事が増えたように思う。
いつからか、そんな日々の小さな成長を見守るのを、密かな楽しみにしていた。
いい方向に認識を改めた六花を見て、蛙吹はほんわかと頬を緩ませた。
「……? どうしたんですか?」
「ケロケロ、何でもないわ」
そう言って蛙吹は、六花の事を温かい目で見ながら肉まんを手に取った。