スネージナヤpvでましたね! やっぱサンドローネが可愛い!
が、これは見切り発車です。初投稿。
プロローグ・とある執行官の話
スネージナヤは、テイワット大陸の最北端に位置する技術先進国だ。
氷神こと氷の女皇が治めるまさに極寒の国であり、年中雪が降り注いている。
そんな女皇の
「総主教様、スネージナヤパレスにて、陛下
そんな雪国の、とある聖堂にて。
ファデュイの隊服に身を包んだ男に声をかけられ、ゆっくりと振り向くその少女。
見れば思わず魅入ってしまうほどの桃色掛かった金髪と、透き通るような碧眼。その瞳にははっきりと、星形の模様が刻まれていた。
「……皇都評議会*1ではなくて?」
「はい、執行官のみの招集となっております」
そう尋ねた少女は、どうやら修道服を着ていた。ただし、ウィンプルのない純白のモチーフと、ささやかに施された銀とレースの装飾。それは一般の修道女とは随分かけ離れた服装だった。
質問に男が首肯すると、彼女もまた小さく頷く。
「ええ、わかりました。すぐに向かいましょう」
「はっ、私もパレスまでぜひお供させていただきます。『聖女』様」
さっさとコートを羽織って教会の出口へと歩みを進める少女の後を、男は礼儀正しく付いていく。
推定される二人の年齢差からして、それは若干いびつな光景であった。
しかし彼はこの場において、彼女の部下以外の何者でもない。ゆえに、彼の行動は当然のものだった。
さて、そうして二人は列車の乗車駅へと向かう。
道中、男から『聖女』と呼ばれたその少女が、おもむろに口を開いて言った。
「ですが、アナちゃんも困ったものです。緊急とはいえ、もう少しばかり時間の余裕が欲しかったのですが。これでは着替える余裕もありません」
「……お言葉ですが『聖女』様。女皇陛下に対してそのような呼称は」
男は少女の一歩後ろについて歩きながら、言いにくそうに指摘する。しかし、
「いいのですよ、クドラトフ中佐。教会からは今さっき出ました。ましてやここはスネージナヤパレスでもない。ただの街中です。問題はありません」
彼女は涼しい顔で微笑んだ。
「そ、そういうものですか」
「そういうものだと私が言うのだから、そういうものなのです。異論は認めませんよ。これは執行官権限です。ほら、あなたも口に出して呼んでみなさいな。アナちゃーんって」
「…………」
どうも、返答に困ってしまった。
「…………あの、黙らないでもらえますか? これは、あれですよ。総主教ジョークと言いますか、ええ、そういうものですので。……執行官権限なんて嘘ですからね? 」
男が微妙な表情で口をつぐんでしまったので、彼女はほんの少し焦ったようである。
とはいえ男も男で、下手なことを言えないのは事実であった。
なにせ彼はファデュイ──すなわち女皇に仕える身。その主を名前で呼ぶなど、そのような不敬は、たとえ周囲の目がなくとも抵抗があった。
しかし彼は、同時に目の前の少女に多大なる恩がある。
自分がファデュイに所属して間もない頃、仕事場に上手く馴染めなくて毎週のように教会へと礼拝に赴いていたとき、そこで総主教である彼女にたまたま目を付けられたのだ。
目を付けられたといえば、いささか悪印象かもしれない。ただあまりに物憂げに見えたという自分に、声をかけてくれたと言うだけである。
そこから彼女のアドバイスをもとになんとか昇進を繰り返し、本人曰くの「いい塩梅」なところで彼女の直属に引き抜かれ、今がこうである。
きっとあの出会いがなければ自分は今頃、ナド・クライで取り立て屋でもしていただろうなぁと、しみじみ思うことがあった。
「ええ、ですから、今はそういったきめ細かいのはいいでしょう? いっそ、ラフィアーナと呼んでくださってもよろしくてよ」
「そんな、畏れ多いですよ。ファデュイの上下関係は随分と厳しいではないですか。それこそ『雄鶏』様などに見つかれば、注意では済まないでしょうに」
「ふふっ、それは遠回しに、あのお爺様がすこぶる「口うるさい」のだと、そう言っているようにも思えますがね」
「っ! そ、そんなまさか! ホントに勘弁してください『聖女』様!」
そう、『聖女』。それは別に、見目麗しき少女たる総主教に自ずと浸透したあだ名だとか、あるいは二つ名だとか、そういうものではない。
ファデュイ執行官第六位『聖女』ラフィアーナ。彼女はそのような身分でもあった。
執行官とは、執行官であると同時に、スネージナヤ国内で何かしらの高い地位についている場合がある。
たとえば『雄鶏』。彼は第五位であると同時に、スネージナヤ皇都の市長である。
たとえば『富者』。彼は第九位であると同時に、北国銀行の総取締役である。
たとえば『召使』。彼女は第四位であると同時に、孤児院『
たとえば『傀儡』。彼女は第七位であると同時に、国内屈指のメカニックである。曰く冒険者教会のキャサリンも、彼女の発明品だとか。
そして『聖女』。彼女もまた、執行官であると同時に、氷神を信仰するスネージナヤ聖教会の頂点に君臨する者──総主教である。
(ほんとマジで勘弁してくれよ……。いや恩はめっちゃ感じてるけどさ。でも、崇拝する神をちゃん付け愛称呼びしちゃう総主教がどこにいるっての……)
男は列車に揺られながら、隣に座るラフィアーナを見て内心ため息をつく。しかし彼女は
「……この国の信仰体系は、なかなかどうして終わっています」
「いやそれ、総主教のあんたが言っちまうのかよ⁉︎」
思わず敬語も忘れて突っ込んでしまった。直後はっとして、すぐさま頭を下げる。
「っ、すみません! 自分としたことが、どうかご無礼をお許しくださいっ!」
「いえいえクドラトフさん、その意気ですよ。この調子でドットーレさんにもタメ口をきけるくらい頑張りましょう」
「……ホント、俺はどこを目指してるんですか」
全く、男は困惑するばかりであった。
「それで、これは深く聞いた方がいいんですかね」
「ふむ……例えば、そうですね。モンドの西風教会を思い浮かべてください」
「あ、聞かなくても話すんですね」
ラフィアーナは構わず続ける。
「かの自由の都、風の魔神バルバトスは、いつからか国の支配権を手放し、姿をくらませました。しかし今現在も民と共に教会は栄えております」
「はい、そうですね。ミハ……モンドに常駐している同僚からも、あそこはいい国だと何度も何度も、しょっちゅう手紙が届きますよ。……しかし、それがどうしたのです?」
男は、遠い異郷の地で同僚の女子といい感じになってるらしい友人の顔を想像して、嫉妬に駆られる。
「ええ、ミハイルさんとリュドミラさんの心踊るラブロマンスはともかく「ご存じだったんです⁉︎」──と、も、か、く、……本来の宗教とは、こうであるべきなのですよ」
「くっ、……こうで、あるべき、とは?」
「人の心の底から崇拝されるものとは形あってはならない、ということです。いえ、正確には〝そう在った方がいい〟と表現するべきでしょうか」
「と、いいますと?」
「我々の信仰対象──アナスターシャ様は、同時にスネージナヤの女皇陛下にあらせられます。つまり我々が無条件に崇拝し続けるべき偉大なるお方が、現在進行形で政治の
ラフィアーナは先ほどまでの悪戯っぽい声色から一転、かくも総主教らしい
「それが、何を意味するかお分かりですか?」
「……」
男は答えられなかった。これは総主教あるいは執行官との真剣な問答だ。適当なことを口走れば、下手をすれば首が飛ぶ。
いくら相手が友好的なラフィアーナと言えど、異端者と判断した人々には躊躇なく刃を振るう、
彼女がそんな冷酷な一面を持ち合わせていることを、男はしっかりと理解していた。
「ふふっ、そんなに
しかしそんな男の緊張を悟ったのか、ラフィアーナは再びその表情を緩ませる。
「なにも答え次第で罰するなど、そのようなことは致しませんよ。あなたの敬虔さはこの数年をもって理解していますから」
「す、すみません、できれば正答をご教授願えると」
「正答だなんて大袈裟な。とはいえ、簡単な話です。言ったはずでしょう? 我々は常に、無条件に主を信仰している必要があるのだと。しかしそれがどうでしょう、今やあのお方の判断一つで国が傾く。……ええ、信仰対象が、民の命運を直接左右できてしまう状態にあるということは、非常に危険なことなのですよ」
「……なるほど」
男は割と本心から感心していた。
つまりバルバトスやモラクスのような、今や
しかし、現に姿かたちをもって日頃から人々の前に顕現し、活動している神というのは、また同じく民の抱いた幻想から離れやすいのである。
「それこそ、万が一にも“なにか”あろうものならば、一部国民の信仰心は途端に離れていくことでしょうね。そして、このような事実に気づいてしまった民もまた……」
そこで、男は思い出す。
そういえば数年前、そんな事件を耳にしたことがあった。
それこそ今のラフィアーナと似たような論を展開した上で、女皇への信仰を否定し、前氷神ツァーリ・ベールイのみを崇拝する
そして彼は有無を言わせず異端認定され、処刑された。
問題があったのは後者の論──女皇信仰の否定である。
加えて、その主張を著した小冊子が、女皇への敬意がとりわけ薄い貧民街で随分支持されてしまったものだから、事実、教会側は暗に粛清というかたちでその判決を下した。
「……」
男は戦慄した。
目の前の総主教は、その判決にも大いに関わっている。むしろ今だって直接的には言及しないが、その件を暗示しているようにも思えた。
なによりそれを知らずに、少なくとも男は前者の話──この国の宗教体制に関する懐疑の意──に納得してしまったのだ。異端者の話に、納得した。しかし、
「かの宗教学者の話ですか」
気がつけば、男はそう言っていた。それを撤回する暇もなく、ラフィアーナは頷いた。
「ええ、その通りです。あなたもご存知でしたか。勤勉ですのね」
「……褒められてる気がしませんよ」
なにせ自分は試された。異端者の論を
ゆえに男はなにか咎められるものかと警戒した。が、ラフィアーナはすぐに、そんな彼を安心させるようにはにかんだ。
「なに、あなたは間違っておりません。実際、私が言及した彼の主張に関しては幾らか共感できる節もあります。なにより「宗教」としては、このほうがよほど扱いやすいではありませんか。無論、民の宗教意識を政治利用するにおいてもね」
後半のそれは、実に皮肉じみたものだった。
「では、やはり問題だったのは」
「言わなくとも分かりましょう。この国において女皇陛下への忠誠は絶対です。ましてや彼の小冊子は、下手をすれば国民の意識を大きく揺るがしかねなかった。それを、私たちが易々看過するとでも?」
「まさか」
男は本心から、ラフィアーナに全面的に賛成だった。その異端者の行動の影響は、理解している。
終ぞ、両者は真剣な面持ちで口をつぐんだ。
男もこの件については、一信者として改めて検討しておく必要性を感じたし、先ほどは「アナちゃん」などと言っていたラフィアーナも、結局その信仰心は総主教に恥じないものだった。
もうとっくに目的地へと近づいていた列車。以降はただそれに揺られて、時間だけが過ぎていった。
やがて列車は、皇都スネージナヤ・グラードへと到着した。
「さて、あっという間に到着ですね。クドラトフさん、見送りは駅までで構いません。パレス付近は賑わっていますから、こちらで家族にお土産でも買っていくといいでしょう」
ラフィアーナはにこりと笑ってそう言って、若干重みのある小袋を男に渡す。
「あの、これは」
「あなた、時間外労働ですものね。ああ、でも勘違いなさらないで。ほんの気持ちですから、ここまで話し相手になってくださったお礼です。明日はベロヴォディ港*3に招集されるのでしょう? 今日は美味しいものでも食べて、ゆっくり休んでくださいな。あの辺りは賊も多いですから、どうかお気をつけて」
コートを羽織ったラフィアーナは、それだけ言って列車を降りる。……知っていたのですね、と男が溢す前に、そのまま駅の出口へと歩き出した。
「あのっ! ラフィアーナ様!」
しかし、男は思わず呼び止めた。彼女は驚きもせず振り返った。一つ、これだけは聞いておきたいということがあった。
「あの、さっき、どうして俺にその話をされたんですか? 信仰体系がどうとかの、あれです」
「ああ、そのことですか」
それを聞いても、ラフィアーナは特段気にした様子を見せない。
「別にね、話した相手があなたであったことに、大した意味はございませんよ。ただ、」
しかし、これ以上ないほど清らかに笑って、こう言ったのである。
「この国の民の、アナちゃん──陛下への信頼は、私がなんとしてでも守り通します。ですから先ほどの話は、どうか私の意思表明みたいなものであると、そう思っていただければ幸いです」
その言葉を最後に、ラフィアーナはとうとう歩き出した。
目指すはスネージナヤパレス。執行官の集う場所である。
これは最北の雪国、スネージナヤにて。
その国の総主教として、そして執行官として、己の信条を貫き通さんとする、一人の少女の物語である。
本日の捏造!
・スネージナヤ聖教会……西風教会あるならコレあってもいいと思う。キリストじゃないから「正教会」にはしないよ! もし教会の名前が登場したら、後から改稿します。
・執行官の第六位……ラフィアーナまたはルッフィアーナ[伊 Ruffiana]。無論、世界樹改変済み。今後公式から発表されるスネージナヤキャラによっては、順位等は修正する次第です。