雪国の聖女ちゃんは頑張る!   作:えり〜ぜ

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スネージナヤpvでましたね! やっぱサンドローネが可愛い! 

が、これは見切り発車です。初投稿。


プロローグ・とある執行官の話

 

 スネージナヤは、テイワット大陸の最北端に位置する技術先進国だ。

 

 氷神こと氷の女皇が治めるまさに極寒の国であり、年中雪が降り注いている。

 

 そんな女皇の直轄(ちょっかつ)組織──ファデュイ。テイワット各地に散らばり、秘密裏に策謀(さくぼう)を企てる。特にその幹部である『執行官(ファトゥス)』は、本国においても非常に影響力の強い地位にあった。

 

 そんな雪国の、とある聖堂──ペールクラウン・パレスにて。

 

「総主教様、スネージナヤパレスにて、陛下直々(じきじき)に執行官としての招集がかかりました。一時間後に緊急の会議があるとのことです」

 

 ファデュイの隊服に身を包んだ男に声をかけられ、ゆっくりと振り向くその少女。

 

 見れば思わず魅入ってしまうほどの流れるような金髪と、透き通るような碧眼。その瞳にははっきりと、星形の模様が刻まれていた。

 

「……皇都評議会ではなくて?」

 

「はい、執行官のみの招集となっております」

 

「なるほど。ええ、わかりました。すぐに向かいます。貴方もご一緒にいかがですか?」

 

「はっ、パレスまでぜひお供させていただきます。『聖女』様」

 

 さっさとコートを羽織って教会の出口へと歩みを進める少女に、男は頭を下げる。

 

 推定される二人の年齢差からして、それは若干、いびつな光景であった。

 

 しかし、それは当然のことだ。彼はこの場において、彼女の部下以外の何者でもない。その声に反意を示すなど、そんな選択肢ははなから皆無なのである。

 

「ですが、アナちゃんも困ったものです。緊急とはいえ、もう少しばかり時間の余裕が欲しかったのですが。これでは着替える余裕もありません」

 

「……お言葉ですが『聖女』様。女皇陛下に対してそのような呼称は」

 

 男は少女の一歩後ろについて歩きながら、言いにくそうに指摘する。

 

「いいのですよ、クドラトフ中佐。教会からは今さっき出ました。ましてやここはスネージナヤパレスでもない。ただの街中です。問題はありません」

 

「そ、そういうものですか」

 

「そういうものだと私が言うのだから、そういうものなのです。異論は認めませんよ。これは執行官権限です。ほら、あなたも口に出して呼んでみなさいな。アナちゃーんって」

 

「…………」

 

「…………あの、黙らないでもらえますか? これは、あれですよ。総主教ジョークと言いますか、ええ、そういうものですので。……頼みますから、パワハラ等で訴えないでくださいね?」

 

 男が微妙な表情で口をつぐんでしまったので、少女はほんの少し焦ったようである。

 

 とはいえ、男も男で、下手なことを言えないのは事実であった。

 

 なにせ彼はファデュイ──すなわち女皇に仕える身。その主を名前で呼ぶなど、そのような不敬は、たとえ周囲の目がなくとも抵抗があった。

 

 しかし彼は、同時に目の前の少女に多大なる恩がある。

 

 自分がファデュイに所属して間もない頃、仕事場に上手く馴染めなくて毎週のように教会へと礼拝に赴いていたとき、そこで総主教である彼女に、たまたま目を付けられたのだ。

 

 目を付けられたといえば、いささか悪印象かもしれない。ただあまりに物憂げに見えたという自分に、声をかけてくれたと言うだけである。

 

 そこから彼女のアドバイスをもとになんとか昇進を繰り返し、本人曰くの「いい塩梅」なところで、彼女の直属に引き抜かれ、今がこうである。

 

 きっとあの出会いがなければ自分は今頃、ナド・クライで取り立て屋でもしていただろうなぁと、しみじみ思うことがあった。ゆえに、

 

「ええ、ですからここは列車内。今はそういったきめ細かいのはいいでしょう? いっそ、ラフィアーナと呼んでくださってもよろしくてよ」

 

「そんな、畏れ多いですよ。ファデュイの上下関係は随分と厳しいではないですか。それこそ『雄鶏』様などに見つかれば、注意では済まないでしょうに」

 

「ふふっ、それは遠回しに、あのお爺様がすこぶる「口うるさい」のだと、そう言っているようにも思えますがね」

 

「っ! そ、そんなまさか! ホントに勘弁してください『聖女』様!」

 

 そう、『聖女』。それは別に、見目麗しき少女たる総主教に自ずと浸透したあだ名だとか、あるいは二つ名だとか、そういうものではない。

 

 ファデュイ執行官第六位『聖女』ラフィアーナ。彼女はそのような身分でもあった。

 

 執行官とは、執行官であると同時に、スネージナヤ国内で何かしらの高い地位についている場合がある。

 

 たとえば『雄鶏』。彼は第五位であると同時に、スネージナヤ皇都の市長である。

 

 たとえば『富者』。彼は第九位であると同時に、北国銀行の総取締役である。

 

 たとえば『召使』。彼女は第四位であると同時に、孤児院『壁炉の家(ハウス・オブ・ハース)』の統括者である。

 

 たとえば『傀儡』。彼女は第七位であると同時に、国内屈指のメカニックである。曰く冒険者教会のキャサリンも、彼女の発明品だとか。

 

 そして『聖女』。彼女もまた、執行官であると同時に、氷神を信仰するスネージナヤ聖教会の頂点に君臨する者──総主教である。

 

(ほんとマジで勘弁してくれよ……。いや恩はめっちゃ感じてるけどさ、あとこんな美人に手ぇかけてもらってんのもすげぇ嬉しいけどさ……でも、崇拝する神をちゃん付け愛称呼びしちゃう総主教がどこにいるっての。俺、一応かなり信心深いつもりなんだがな……)

 

 男は列車に揺られながら、隣に座るラフィアーナを見て、内心ため息をつく。しかし彼女は飄々(ひょうひょう)と、今度はこんなことを口にした。

 

「……この国の信仰体系は、なかなかどうして終わっています」

 

「いやそれ、総主教のあんたが言っちまうのかよ⁉︎」

 

 思わず敬語も忘れて突っ込んでしまった。直後はっとして、すぐさま頭を下げる。

 

「っ、すみません! 自分としたことが、どうかご無礼をお許しくださいっ!」

 

「いえいえクドラトフさん、その意気ですよ。この調子でドットーレさんにタメ口きけるくらい頑張りましょう」

 

「……ホント、俺はどこを目指してるんですか」

 

 全く、男は困惑するばかりだった。

 

「それで、これは深く聞いた方がいいんですかね」

 

「ふむ……例えば、そうですね。モンドの西風教会を思い浮かべてください」

 

「あ、聞かなくても話すんですね」

 

 ラフィアーナは構わず続ける。

 

「かの風の都、西風の魔神たるバルバトスは、いつからか国の支配権を手放し、姿をくらませました。しかし今現在も、民と共に教会は栄えております」

 

「はい、そうですね。ミハ……モンドに常駐している同僚からも、あそこはいい国だと何度も何度も、しょっちゅう手紙が届きますよ。……しかし、それがどうしたのです?」

 

 男は、遠い風の異郷で同僚の女子といい感じになってるらしい友人の顔を想像して、嫉妬に駆られる。

 

「ええ、ミハイルさんとリュドミラさんの心踊るラブロマンスはともかく「ご存じだったんです⁉︎」──と、も、か、く、……本来の宗教とは、こうであるべきなのですよ」

 

「くっ、……こうで、あるべき、とは?」

 

「人の心の底から崇拝されるものとは形あってはならない、ということです。いえ、正確には〝そう在った方がいい〟と表現するべきでしょうか」

 

「と、いいますと?」

 

「我々の信仰対象──アナスターシャ様は、同時にスネージナヤの女皇陛下にあります。つまり、我々が無条件に崇拝し続けるべき偉大なるお方が、現在進行形で政治の(かじ)を取っていらっしゃるのですよ」

 

 ラフィアーナは先ほどまでの悪戯っぽい声色から一転、かくも総主教らしい荘厳(そうごん)な口ぶりで、そんな言葉を口にした。

 

「それが、何を意味するかお分かりですか?」

 

「……」

 

 男は答えられなかった。これは総主教あるいは執行官との真剣な問答だ。適当なことを口走れば、下手をすれば首が飛ぶ。

 

 いくら相手が友好的なラフィアーナと言えど、異端者と判断した人々には躊躇なく刃を振るうのだ。

 

 彼女がそんな冷酷な一面を持ち合わせていることも、男はしっかりと理解していた。

 

「ふふっ、そんなに(かしこ)まらないでくださいな」

 

 しかしそんな男の緊張を悟ったのか、ラフィアーナは再びその表情を緩ませる。

 

「なにも答え次第で罰するなど、そのようなことは致しませんよ。あなたの敬虔さはこの数年をもって理解していますから」

 

「す、すみません、できれば正答をご教授願えると」

 

「正答だなんて大袈裟な。とはいえ、簡単な話ですよ。言ったはずでしょう? 我々は常に、無条件に主を信仰している必要があるのだと。しかしそれがどうでしょう、今やあのお方の判断一つで国が傾く。……ええ、信仰対象が、民の命運を直接左右できてしまう状態にあるということは、非常に危険なことなのですよ」

 

「……なるほど」

 

 男は割と本心から感心していた。

 

 つまりバルバトスやモラクスのような、今や(おも)に民の理想と想像の上に成り立つ神ならば大丈夫。

 

 しかし、現に姿かたちをもって日頃から人々の前に顕現し、活動している神というのは、また同じく民の抱いた幻想から離れやすいのである。

 

「それこそ、万が一にも“なにか”あろうものならば、一部国民の信仰心は途端に離れていくことでしょうね。そして、このような事実に気づいてしまった民もまた……」

 

 そこで、男はとある事実を思い出す。

 

 そういえば数年前、そんな事件を耳にしたことがあった。

 

 それこそ今のラフィアーナと似たような論を展開した上で、女皇への信仰を否定し、前氷神ツァーリ・ベールイのみを崇拝する一神教体制(モノティズム)を主張した──そんな無謀な宗教学者がいたのだという。

 

 そして彼は有無を言わせず異端認定され、処刑された。

 

 問題があったのは後者の論──女皇信仰の否定──である。

 

 加えて、その主張を著した小冊子が、女皇への敬意がとりわけ薄い貧民街で随分支持されてしまったものだから、事実、教会側は暗に粛清というかたちでその判決を下した。

 

「……」

 

 男は戦慄した。

 

 目の前の総主教は、その判決にも大いに関わっている。むしろ今だって直接的には言及しないが、その件を暗示しているようにも思えた。

 

 なによりそれを知らずに、少なくとも男は前者の話──この国の宗教体制に関する懐疑の意──に納得してしまったのだ。異端者の話に、納得した。しかし、

 

「かの宗教学者の話ですか」

 

 気がつけば、男はそう言っていた。それを撤回する前に、ラフィアーナは答えた。

 

「ええ、その通りです。あなたもご存知でしたか。勤勉ですのね」

 

「……褒められてる気がしませんよ」

 

 なにせ自分は試された。異端者の論を()かれ、それに共感してしまった。なるほど確かにこの国の信仰体系は……と思ったのも事実だ。

 

 ゆえに、男はなにか咎められるものかと警戒した。が、ラフィアーナはすぐに、そんな彼を安心させるようにはにかんだ。

 

「なに、あなたは間違っていません。実際、私が言及した彼の主張に関しては幾らか共感できる節もあります。なにより「宗教」としては、このほうがよほど安全ではありませんか。無論、民の宗教意識を政治利用するにおいてもね」

 

 後半のそれは、実に皮肉じみたものだった。

 

「では、やはり問題だったのは」

 

「言わなくとも分かりましょう。この国で、女皇陛下への忠誠は絶対です。ましてや彼の小冊子は、下手をすれば国民の意識を大きく揺るがしかねなかった。それを、私たちが易々看過するとでも?」

 

「まさか」

 

 男は本心から、ラフィアーナに全面的に賛成だった。その異端者の行動の影響は、理解している。

 

 そして両者真剣な面持ちで口をつぐんだ。男もこの件については、一信者として改めて検討しておく必要性を感じたし、先ほどは「アナちゃん」などと言っていたラフィアーナも、結局その信仰心は総主教に恥じないものだった。

 

 以降ただ列車に揺られて、時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、列車は皇都へと到着した。

 

「さて、あっという間に到着ですね。クドラトフさん、見送りは駅までで構いません。パレス付近は賑わっていますから、こちらで家族にお土産でも買っていくといいでしょう」

 

 ラフィアーナはにこりと笑ってそう言って、若干重みのある小袋を男に渡す。

 

「あの、これは」

 

「あなた、時間外労働ですものね。ああ、でも勘違いなさらないで。ほんの気持ちですから、ここまで話し相手になってくださったお礼です。明日はベロヴォディ港に招集されるのでしょう? 今日は美味しいものでも食べて、ゆっくり休んでくださいな。あの辺りは賊も多いですから、どうかお気をつけて」

 

 コートを羽織ったラフィアーナは、それだけ言って列車を降りる。……知っていたのですね、と男が溢す前に、そのまま駅の出口へと歩き出した。

 

「あのっ! ラフィアーナ様!」

 

 しかし、男は思わず呼び止めた。彼女は驚きもせず振り返った。一つ、これだけは聞いておきたいということがあった。

 

「あの、さっき、どうして俺にその話をされたんですか? 信仰体系がどうとかの、あれです」

 

「ああ、そういうことですか」

 

 それを聞いても、ラフィアーナは特段気にした様子を見せない。

 

「別にね、話した相手があなたであったことに、大した意味はございませんよ。ただ、」

 

 しかし、これ以上ないほど清らかに笑って、こう言ったのである。

 

「この国の民の、アナちゃん──陛下への信頼は、私がなんとしてでも守り通します。ですから先ほどの話は、どうか私の意思表明みたいなものであると、そう思っていただければ幸いです」

 

 その言葉を最後に、ラフィアーナはとうとう歩き出した。

 

 目指すはスネージナヤパレス。執行官の集う場所である。

 

 これは最北の雪国、スネージナヤにて。

 

 その国の総主教として、そして執行官として、己の信条を貫き通さんとする、たった一人の少女の物語である。

 




本日の捏造!

・スネージナヤ聖教会……西風教会あるならコレあってもいいでしょ。キリストじゃないから「正教会」にはしないよ! もし教会の名前が登場したら、後から改稿します。

・執行官の第六位……今回の子はラフィアーナまたはルッフィアーナ[伊 Ruffiana]。無論、世界樹改変済み。今後公式から発表されるスネージナヤキャラによっては、順位等は修正する次第です。
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