雪国の聖女ちゃんは頑張る!   作:えり〜ぜ

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ドーンマンポートに書いてあった「ホワイトクラウンパレス」が「ペールクラウンパレス」に修正されてたんですよね。実際にリリースするのは後者なのかしらん


新人執行官とほんわかティーパーティー

 

「なるほど『公子』ですか。この間まで無邪気な子供でしたのに、もう執行官に就任とは、時の流れというのは中々……」

 

 会議などと言いながら、結局一度も顔を見せなかった女皇には呆れる。しかし関心もあったため、ラフィアーナは今日新たに与えられた情報を反芻(はんすう)していた。

 

 彼──本名アヤックスは、一言で言えば問題児だったという。

 

 初めの頃の詳しくは知らないが、どうやら彼の破天荒さに辟易(へきえき)した父が、更生のためファデュイへと入隊させたらしい。

 

 しかしそこで、完全武装の兵を軽々と凌駕したとのこと。そしてその実力を『雄鶏』に買われたそう。

 

 以降は面目躍如(めんもくやくじょ)と言わんばかりの昇進劇を見せていたのだが、彼は同時に女皇に対して非常に敬虔であった。

 

 ゆえに総主教であるラフィアーナは、教会にてしばしば彼の姿を見ていたのである。

 

「ラフィアーナ、なにか思うことでもあったのか。今日はいつもにまして難しい顔をしている」

 

 と、そこで後ろから声をかけられる。

 

「……はぁ、私がいつも難しい顔をしているような言い方はやめていただきたいですね、アルレッキーノ」

 

 そこに立っていたのは長身の女性。ファデュイ執行官の第四位『召使』アルレッキーノ。中性的な身なりと特徴的な瞳。ラフィアーナはその瞳を知っている。

 

「そう見えるから、そう言ったのだけれどね。まあいい、その受け答えからして、調子はいつも通りらしいな」

 

 目を細めて軽く睨むと、その同僚は楽しげに微笑む。

 

「別に、ただ懐かしさに浸っていただけですよ。ファデュイに執行官が就任するのは、貴方以来でしょう?」

 

「そういえば、そうだったな」

 

 どうせ彼女は分かっているだろうに、まるで今気がついたかのような言い方をする。

 

「それで、君としてはどうだい? 此度の新人は」

 

「……アヤックスさんは敬虔な方ですよ。そんな彼の歩む先には、常に栄光があらんこと。きっとこれからも、素晴らしい戦果を挙げなさるでしょう」

 

「フッ……かの総主教様の判断基準は健在なようだ。敬虔ならば、戦果を挙げられると?」

 

 アルレッキーノはやや挑発気味に言った。まったく安いものだと、ラフィアーナは内心で嘆息する。

 

「ええ、私はそう信じております。主に報いれば、そこには救済の抱擁が待ち受けているものです。彼は必ずや成し遂げますよ」

 

「そうか、君は相変わらずだな。その狂気にも近しいほどの一貫性には、私も敬意を表するよ」

 

「まったく、狂気とは失礼ですね。……それに、アルレッキーノ。私たち聖教会はいつでも、お子さん方の〝入信〟も歓迎しているのですよ」

 

 それが示すのは、フォンテーヌに身を置く壁炉の家(ハウス・オブ・ハース)の子供たち。彼らはフォンテーヌで引き取られ、そしてフォンテーヌで育っている。ゆえに組織上女皇には仕えていても、とりわけ信者というかたちをとっていない者が多い。

 

 しかしアルレッキーノはそれを冗談のように受け流し、されど検討するように悩む素振りをみせながら、口を開いた。

 

「ふむ、聖教の執行部隊は間に合っていると思っていたのだが。もし追加の人員が必要であれば、正式な書類として申請していただきたい」

 

「ふふっ、そんなまさか。他意などございませんよ」

 

「……フッ、どうだか」

 

 そうして、両者の間に緊張が走る。アルレッキーノの赤い瞳が、ラフィアーナを深く見据える。

 

 この組織は、こういうものだ。決して、仲良しこよしの同僚で完結するような仲ではない。常に策謀を巡らせ、合理的な道を掴み取る。それが彼女たちファデュイ、そして執行官の在り方である。ゆえに──

 

「あの、もうやめませんか? これ」

 

「そうだな、実にいい加減だ。こういうのは〝フリ〟でも疲労が蓄積する。なにせ、一部の同僚とは、常日頃から本当に交わすようなやり取りだからね」

 

 一瞬にして、二人の間の緊張がほぐれた。

 

 珍しく彼女から話掛けてきたと思えば、よくわからない茶番に発展してしまったなぁと、ラフィアーナは考える。とはいえ、心当たりはあった。

 

「……アルレッキーノ、今度は誰に絡まれたのです?」

 

「パンタローネだ。この前の任務の出費が、少しばかり嵩んでしまってね。簡単に補填の効く範疇だろうに、あの小言には辟易する」

 

「それは、ご愁傷様です」

 

 そう告げると、アルレッキーノは冗談らしい笑みを浮かべた。

 

「いいや、こちらこそ変な茶番に付き合わせてしまって申し訳ない。ちょっとした遊び心でね、こんなことをできるのは君だけだ」

 

「それは私もですよ。ただ、後半は互いに、割と素でやっている節がありましたよね? ……少し気を抜けば皮肉が喉元まで。……はぁ、これも執行官の(さが)でしょうか」

 

「フッ、違いない」

 

 互いに肩をすくめ、虚空を仰ぐ。

 

 そのまま共に歩き出して、互いの執務室へと向かう。この後は書類作業だ。司祭の仕事は別に任せてある。

 

「ところで、明日はアヤックスの就任式だろう。準備は整っているのかい?」

 

「いえ、今回の進行はプルチネッラです。私のやるべきことは特に……」

 

「違う。そうではなくて、その後の話だよ」

 

「その後? ……ああ、なるほど。いえ、それもまた、私のやるべきことではありません。きっとサンドローネあたりが、今頃準備を始めていることでしょう」

 

「そうか、それならいいのだが。……しかし、笑顔くらいは準備しておくことだね」

 

「あの、また、やるんですか?」

 

 皮肉の匂いがした。正直なところラフィアーナは、もう茶番などしたくはない。

 

「いや、まさか、皮肉ではないさ。単純に、今の君は本当に難しい顔をしている。いつものように穏やかな笑顔を浮かべておかねば、アヤックスも不安になるだろう。総主教殿?」

 

「なるほど」

 

 アルレッキーノに指摘されて、初めて気づく。

 

「ああ、すみません。これはよろしくない。私も最近は仕事が張り詰めていましてね。どうも笑顔を自然体とするのに苦労していまして」

 

「そうか。君も、大変だね」

 

 ラフィアーナは思う。大変、といえば大変だが、苦であるというわけではない。だから、

 

「……ふぅ、いえ、たとえ大変でも笑い続けますよ。そう、私はアナちゃんではないので、たくさん笑えます!」

 

「フフ、君の陛下への遠慮のなさには、相変わらず驚かされるよ」

 

「それもそうでしょう。もうどれほどの付き合いになることか。カピターノなどは依然として慇懃(いんぎん)ですが、私はあんなお堅くはいられません。アナちゃんのことは、もう友人のように思っていますよ」

 

「そして信仰もしていると?」

 

「ええ、当然です。私にとって彼女は、主であり、陛下であり、友人であり……つまり、かけがえのない存在です」

 

 ラフィアーナが自信満々で宣言すると、アルレッキーノは、どこか微笑ましい様子で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、アヤックスさんの執行官就任を祝して」

 

『乾杯』

 

 落ち着きを払った透き通るような少女の声が響き、それに呼応するが如く数人の声が重なる。

 

 そこに揃うのは、見る人が見れば目を剥くような面子だった。しかしそんな事実に反して、部屋の雰囲気は明るいものである。

 

 数人で囲まれた長机には、ティーポットとティーカップ、ケーキスタンドと様々な茶菓子が並んでいる。乾杯などとは言ったが、酒の類や料理などはどこにもなく、そこはどちらかといえば茶会のようであった。

 

「ちょっとラフィアーナ、ここは教会じゃないの。少しはその単調な雰囲気、どうにかならないのかしら?」

 

「ええと、そう言われましても。ああ、でもそれなら、むしろサンドローネがもっとはしゃいでくださらない? そうすればきっと、この場も一層盛り上がりますよ」

 

「はぁ? それは嫌よ! そもそも盛り上げるとかそういう話じゃないの。なんていうか、アナタはとにかく堅いのよ!」

 

 (いさ)めるように口を開くのは、ゴシック調のドレスに身を包んだサンドローネ。執行官第七位の『傀儡』だ。ラフィアーナの冗談半分の提案に、いやよいやよと首を振る。

 

「ハハッ、まあ俺は構わないけどね。でも総主教様、これからはタルタリヤと呼んでくれ。スネージナヤパレスでアヤックスが働いているだなんて、そんな噂がテウセルたちに伝わったら大変だ」

 

 しかし当のタルタリヤ──新たに就任した第十一位の『公子』は、それすらもさほど気にした様子ではなかった。

 

 むしろ彼としては、こうして歓迎の会を開いてもらえることすら、全く想定もしていなかったことなのだ。

 

 なにせ式典では一部の執行官達から嫌厭するような目を向けられて、非常に居心地が悪かった。

 

 しかしタルタリヤ本人も、執行官の年齢平均を考えれば、自分など青二才にしか見られないであろうことは自覚していた。だからこそ、これから挙げる更なる戦果をもって、自分を見下す同僚たちに思い知らせてやろうと思っていたのだ。それなのに、

 

「ふん、タルタリヤ、アナタなにも分かってないのね。パーティーとティーパーティーとでは雲泥の差よ。はしゃぐなんて以ての外なの。だから礼節の一つくらい弁えなさい。ほら、ティーカップに指は通さない!」

 

「まったく手厳しいねぇ。というか、え、今日の主役って一応俺なんだよね? なんでこんなに怒られなきゃならないんだ?」

 

 タルタリヤが少々の困惑を露わにするが、実際本当に困惑しかないというわけではない。

 

(ま、こうは言うけど、実際サンドローネも歓迎はしてくれてそうだね)

 

 先ほど就任した際には、あまり良い顔はされなかった気がしたが、いざ話してみるとそこまで悪い人でもなさそうだった。

 

「……ん、タルタリヤ、執行官のこと、家族に隠してるの?」

 

 続いてレースのような布で目を覆った少女──執行官の第三位、『少女』コロンビーナが、相変わらずの眠そうな声で尋ねる。

 

「ああ、弟たちにはね。ファデュイの執行官だなんて乱暴だろう? オモチャ屋さんってことで通してるよ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

「ふむ、しかし賢明な判断に思える。家族も、今はプルチネッラの保護下にいるのだろう?」

 

 感心したようにそう言ったのは、第一位の『隊長』カピターノ。彼はあまり菓子などには手をつけていないようだったが、それはいつものことである。

 

「ああ、爺さんにも随分良くして貰ったね」

 

「ふん、あんなやつに頼るだなんて、アナタも警戒心がないのね。呆れるわ」

 

「そう言うなサンドローネ。プルチネッラは、無闇に同僚の家族を害するような真似はしない。だが万が一のときは、俺からも言っておくとしよう」

 

「まあそもそも、あの老い()れは常に利益第一で動くもの。あんたが良くして貰ってるうちは、まず大丈夫よ」

 

 特に興味を抱いているわけでもなさそうだったが、補足するように第八位『淑女』シニョーラが口を開く。彼女は執行官の中でもかなりの古参だった。プルチネッラ──『雄鶏』についても、多少なりの知識を持っているのだろう。

 

「あら、ロザリンが新人を気にかけるとは、意外な一面もあるものですね」

 

「失礼ね、別に気に掛けてなんてないわ。ただ私の知る事実を言ったまでよ。……『公子』、あんたもせいぜい執行官の顔に泥を塗らないよう励むことね」

 

「ああ、もちろんさ」

 

 タルタリヤは気前のいい笑みを浮かべて頷く。

 

「ほら、言い合いはそろそろやめにしよう。この面子は──確かに自主的に茶会へと参加しただけの者であるが、同時に、多少は砕けた「対話」もできる面子であると、私は思っている。そうだろう?」

 

 アルレッキーノが、取り仕切るように声を上げる。

 

「ええ、そうね。ま、ドットーレやパンタローネは頼まれても絶対に入れてあげないけど」

 

「ああ、でも彼らなら、最近もよく二人だけでお茶会をしていましたよ。彼らには、彼らなりの楽しみ方があるようです」

 

 さらりとそんなことを告げたラフィアーナに、サンドローネは驚嘆の声を上げる。

 

「はぁ⁉︎ なによそれ! なんでアナタがそんなこと知ってるの⁉︎」

 

「ふふっ、別に私は、あの二人を必要以上に敵視しているわけではないのですよ? 同僚として、確かに協調性に欠ける一面は目立ちますが、差し当たっての実害は控えめです。この前も気が向いたので彼らのお茶会に乱入したら、特に嫌な顔もされずに入れてくださいましたもの」

 

「……ホント知らない間になんてことしてんのよアナタは」

 

 サンドローネはもはや突っ込むことも疲れたようである。完全に呆れ果てた状態だった。

 

「えと、これはお代わり、ですか? それは、どうもありがとうございます、プロンニアさん。貴方の淹れるお茶は本当に美味しいので。あ、よろしければ今度、私とコロンビーナと貴方の三人で、聖歌の練習をするのはいかがですか? きっとプロンニアさんなら上手く歌えるはずで「プロンニアに勝手なことしないでくれる⁉︎ 歌唱モジュールなんて搭載してないんだから!」──そうですか、それは残念です」

 

「サンドローネ、私はやりたいな」

 

「アナタも黙ってなさい、コロンビーナ!」

 

 しゅんとするラフィアーナと、サンドローネに縋り付くコロンビーナ。それをアルレッキーノとカピターノ、そしてシニョーラは温かい目で見守り、そして新人のタルタリヤといえば──

 

(うん、なんか、上手くやっていけそうで良かったよ)

 

 思いの外わちゃわちゃとした職場に、ある種の安心感を覚えているのだった。

 




アルレッキーノとは結構仲がいい。
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