雪国の聖女ちゃんは頑張る!   作:えり〜ぜ

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女皇陛下を笑わせよう大作戦(コロンビーナ命名)

 

「無理よ、そんなの」

 

「まあ、無理だろうね」

 

「ですよね、無理ですよね。では私は帰りま「ダメ」……手を離してください、コロンビーナ」

 

「まあまあ、少し考えてみるのも悪くはないんじゃない?」

 

 サンドローネの自室にて。現在の賛否状況がこれである。

 

 ──できる一票。できない三票。中立一票。

 

 さて、評議会なら議決である。プルチネッラならそうする。しかし、ここではそうでもない。

 

「……私にはまだ仕事が残っているのですよ」

 

「あら、仕事ならさっきあんたの部下が引き受けてくれてたじゃない。それも自ら進んで」

 

「部下に私情で仕事を押して受ける上司など、いてたまりますか。クドラトフさんには後で埋め合わせをしなければなりません」

 

 ラフィアーナは先を想像してうんざりする。

 

 もっとも本人はこうであるが、これを自主的に引き受けた部下のクドラトフ中佐はといえば、何かと乗り気だったりする。

 

 普段から休暇すら教会の掃除をしたり、貧民街で炊き出しを行ったりしているラフィアーナは、当然ながら趣味と言える趣味を持ち合わせていない。

 

 そんな光景を毎日のように目にしている彼は、珍しく同僚から何やら遊びに誘われているらしい上司を見て、少し嬉しくなったのだ。彼は随分と、彼女に恩を感じていた。

 

 しかしそんなことはつゆも知らないラフィアーナといえば──

 

「このお茶菓子は中々美味しいですね。サンドローネ、これはどちらで購入されましたか? 是非ともクドラトフさんへの差し入れとして欲しいのですが」

 

「まったく、アナタも部下想いなこと。さすがは執行官の部隊で兵の死傷率が一番低いだけはあるわね」

 

「そんなものは役職の問題でしょう。カピターノのように人員が多く、遠征の多い部隊は死傷率が高い。一方で私の部隊は主に国内警備ですし、名目上は教会執行部隊というかたちをとっているので、本格的な戦力の行使は不時の事態のみです。部下の扱いなどは些事(さじ)に思えますが」

 

「じゃあ研究室に引きこもりがちのドットーレ部隊が、スネージナヤ一の死傷率を誇っているのはなぜなのかしら?」

 

「……」

 

 サンドローネの嫌味ったらしい指摘に、ラフィアーナはなにも言い返せなかった。なぜなら「彼が兵を雑に扱っているからです」などとは、口が裂けても言えなかったからだ。

 

 執行官によってそれぞれ役割が異なるゆえ、兵を丁寧に扱えば死傷率が下がるかと問われれば「はい」とも言えないのだが、それはそうと、雑に扱えばそれは死ぬ。

 

 噂に聞く話では、タルタリヤも部下の扱いがかなり雑らしい。その点ここにいるメンバーは倫理的側面で優秀とも言える。

 

 そして中でもとりわけ、皆をまとめ上げるのに適した人物はロザリンであった。

 

「さて、それじゃあ陛下を笑わせるために、なにか案はあるかしら?」

 

「ないわ」

 

「申し訳ないが、ひとまず思いつくものはない」

 

「私も特にありません。アナちゃんが笑っているところなど本当に見たことがないので」

 

 コロンビーナのお願いに対して比較的真面目に取り組んでいる彼女が、全員に改めて決を取る。が、一向に挙がる気配はない。

 

 そこで当人コロンビーナが苦言(無自覚)を呈する。

 

「こういう議会はダメなんだって、プルチネッラが言ってた。あと、たまたま図書館で見つけた本にも書いてあったよ。なんか、民主主義か機能してないって……」

 

「それならアナタも少しは考えなさいよ! そもそもウチは民主主義じゃなくて専制君主制(Самодержавие)よ! 最終的な決定権は陛下にあるの!」

 

「その点で言えば、陛下と議会がひどく対立しないこの国は平和ですね」

 

「まあ陛下は同時に私たちの神であって、信仰対象でもあるから……って、あら、この国ってなかなか特殊な政治体制よね」

 

「あまり深く考えるのはやめたまえ。皇都評議会はあくまで陛下の諮問(しもん)機関。第一にあの方のご意思が優先されるのは当然のことだろう」

 

「……??」

 

 政治に参加する者とはこんなものだ。茶会の場でもなんだかんだプライベートな話だけでは済まない。しかし、唯一言い出しっぺのコロンビーナだけはきょとんとしている。よくまあ、民主主義なんて言葉を覚えていたものだ。

 

「あ」

 

 なんて、図らずも議論が盛える中、ふとコロンビーナがなにかを思いついたように声を上げた。

 

「どうしましたかコロンビーナ。なにか名案が?」

 

「うん……!」

 

 コロンビーナのいつにも増して得意満面な返事に、心なしか周囲の期待が高まる。ただし一人だけ不安を募らせた者もいた。サンドローネである。

 

「ちょっと、なんなのよコロンビーナ。こうしてワタシを巻き込んだのだから、碌でもない案だったら承知しないわよ?」

 

「えっとね、プロンニアに宴会芸のモジュールを搭載するの」

 

「はぁ⁉︎ そんなっ、バカなこと言ってるんじゃないわよ!」

 

「えー、私はいいと思うんだけどなぁ」

 

 案の定のコロンビーナの変な発言に、サンドローネが苛立ちを露わにする。まさに、いつもの光景である。

 

「……ロザリン、やっぱり無理よこれ。陛下を笑わせるだなんて、それこそ評議会に持ち込むレベルの難題に思えるのだけれど」

 

「そんなこと議論していたら民衆が蜂起するわよ」

 

 サンドローネが顔をひきつらせながらロザリンに訴えかける。大切なプロンニアにそんなふざけた機能を搭載するなど、言語道断であった。

 

「ふむ、中々どうして難儀なものだね。今度壁炉の家(ハウス・オブ・ハース)の子供たちにも聞いてみるとしようか」

 

「ええ、そうですね。こういう話題は、かえって子供の方が柔軟に思考できると言います」

 

 ラフィアーナはアルレッキーノに同意し、心を落ち着かせるように紅茶を一口。

 

 実際、子供たちの方が可能性はあるのだろう。むしろ幼い子供が女皇を笑わせようと無邪気に駆け寄れば、あるいは。

 

 しかしこの場にそんな人員はいない。ましてや、わざわざそのためにフォンテーヌから子供を連れてくるなど、そんなことをしているほど執行官も暇ではない。要するに、詰みである。

 

「まあ、あと一時間は大丈夫だ。ゆっくり考えるとしよう」

 

「え、あと一時間も続けるんですか? これを?」

 

 どうやら、アルレッキーノも乗り気といえば乗り気らしい。もうお手上げだと言って(さじ)を投げたのは、ラフィアーナとサンドローネだけだった。つまりは、

 

 ──やめたい二票。まだやれる三票。

 

 評議会でも議論続行である。プルチネッラでもそうする。

 

「……もう疲れたのですが。やはり私は帰りま「そうはさせないわよ」……どうして手を掴むのですか、サンドローネ」

 

「ふふふふっ、アナタだけ素直に帰らせると思ってるのかしら? 死なばもろともってやつよ。最後までワタシと苦しみを共にすることね……!」

 

「ひえっ、か、顔が怖いですサンドローネ! 離してくださいっ!」

 

 ラフィアーナに、もはや抵抗の気力は残されていなかった。

 

 それでもその後なんだかんだと議論が続き、結局、(つい)ぞ何一つとしてまともな作戦は出なかったのである。

 

 こうして一人を除いた四人の執行官から「お茶会至上最も生産性のない議論」と評された、この「女皇陛下を笑わせよう大作戦」は、最終的な落とし前として、立案者であるコロンビーナが女皇の前で全力の変顔をするということで、無事に終了した。

 

 ちなみにその結果については、しょんぼりとして帰ってきたコロンビーナを参照するといい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて、そんなことがあったのですよ」

 

「……」

 

 未だかつてないほど疲れた様子のラフィアーナを前にして、クドラトフ中佐は複雑な気分だった。

 

 彼女が茶会から帰ってきて、菓子折りを差し出してきたかと思えば、突然そんなことを話しだしたのだ。

 

 彼はラフィアーナのためになればと思い仕事を引き受けたのだが、果たしてこれは正しかったのか? と結構不安になっていた。

 

「あの、クドラトフ中佐? 聞いていますか?」

 

「も、もちろんです! ええと、執行官様たちとのお茶会を、楽しめたようで」

 

「これが楽しめたように見えますか?」

 

「い、いえっ、そんな! えと、これは、なんといいますか」

 

「……冗談ですって」

 

 本気で焦り出したクドラトフ中佐を前に、ラフィアーナはやれやれと微笑む。もっとも、この微笑みは苦笑に近い。彼の焦燥は依然としておさまらなかった。

 

 やっぱり引き受けない方が良かったんだ! と中佐は思った。そもそも考えてみれば、自分はラフィアーナの意見など一度も聞いていない。『淑女』と『少女』に誘われる彼女を見て、自分が勝手に名乗り出たのだ。彼はそんな風にも考えてしまう。

 

 が、それは若干顔に出ていたようで。

 

「別に怒ってなどいませんから。あなたには感謝しているのですよ」

 

「そう、なんですかね」

 

「ええ、そうです。確かにコロンビーナは突拍子もないことをしますし、今日はロザリンも少しばかり悪戯が過ぎたように思えます。ですがサンドローネやアルレッキーノも交えたあの四人とのお茶会を、私はとても快く思っているのです」

 

 彼女は今までのそれを思い返すように窓の外へと目を向けて、在りし日の幸せをどこか懐かしむように、今の日の幸せを存分に噛み締めるように、

 

「今日は確かに少しだけ疲れてしまいました。しかし同じくらい楽しかったのですよ。彼女たちとお茶を楽しみ、何気ない会話を交わすということが、私にとってどれほど素晴らしく思えることか」

 

 ラフィアーナは今度こそ、純粋な微笑みを浮かべた。

 

「ですから、私の意を汲んで仕事を変わってくださったあなたには、本当の本当に感謝しているのです。こうして純粋な気遣いを向けてくださる部下ほど、大切にしたいものはありません」

 

 そんなもったいなきお言葉を、と無意識に謙遜しようとしたクドラトフだが、不思議とそれは喉元で止まった。詰まるでもなく、その後はすっと消えていった。そして、その代わりに、

 

「こちらこそ、ラフィアーナ様に仕えることができて幸甚(こうじん)の至りに存じます。これからもあなた様のご期待に添えますよう、精一杯精進してゆきますゆえ」

 

 彼の出来る最大限の誠意を示して、その礼を受け取ったのである。

 





キャラ紹介!

〈クドラトフ中佐〉

ラフィアーナ直属のファデュイ兵。

本来ならデットエージェントとしてナド・クライで取り立て屋をしていた可哀想な子。しかし総主教に目を付けられる。

彼女からの真摯なアドバイスと戦闘訓練のおかげで中佐にまで昇進できたし、昇進できたから稼げるようにもなったし、稼げるようになったから恋人もできた。ちなみに恋愛相談に乗ったのもラフィアーナ。これは結構最近のことである。

結婚式はラフィアーナに司式者をやってもらいたいと思ってる。ラフィアーナは司式者を自分に依頼してくれないかなぁと思ってる。素晴らしく気の合う上司と部下。これからも活躍する。


〈Самодержавие〉

キャラではない。要するに専制君主制。ロシア語。スネージナヤの政治体制はこれかと。


〈プルチネッラならそうする〉

プルチネッラならそうする。ロシア革命以前の国会では、過半数が議決条件。スネージナヤも多分そう。プルチネッラならそうする。
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