初一話目。
静かすぎる暗闇……。音もなく僅かに感じる色彩の様な何か……。
まるで自分の存在や形すらも無限に引き延ばされていくような感覚……。心臓の音、呼吸すらも欠如し、無に還っていく世界……。
ここは……―――。
「それではルシラー学園長。行ってきます」
学園の正面に位置する入口で、最後の見送りに来てくれた学園長へ挨拶を交わす。
「ええ、気を付けて。あなたが居なくなると学園が少し寂しくなるわね」
「いやぁ……自分が居なくてもここは毎日騒がしいですよ」
冗談交じりの声で話す学園長にこちらも冗談……ではない言葉を返す。
「それに『オンブル』をこっちに置いていくので。連絡自体もウェーブラインで可能ですし」
「可愛げのない返事で悲しいわ」
呆れるようなため息を吐く。
「たまにはちゃんと連絡を入れること。いい?」
「わかってます。現地の写真や動画とか撮って生存報告として送りますので」
「違うわよ、あなたがちゃんと楽しんでるかどうかを確認させなさい」
「善処させていただきます」
「全く……他に必要な人たちには挨拶は済ませてる?」
「大丈夫です。一昨日に。その時に見送りは不要とも言っているので」
平日の日中だ。わざわざ抜け出して来てもらうわけにもいかないし。
「そう。なら安心したわ。誰も居ないから実は嫌われているのかと少し心配しちゃったわ」
「もしそうだとしたらもう学園に戻ってこれないじゃないですか……」
揶揄う様に笑う学園長に困った表情で返事をする。
「……っと、そろそろ行きますね。このまま話しているとまたいつ活性化するか分からないので」
「それもそうね」
エンジンを入れて待機させてあるバイクに跨る。
「落ち着いたらすぐに連絡します」
「ええ。この旅が貴方にとって良い機会になる事を心から祈っているわ」
「ありがとうございます」
お礼を言い、右手でアクセルを回す。
走り出したバイクの後ろを振り返り、こちらに手を振っている学園長に手を振り返す。
少し走り出してから正面を向き、走行の設定をパイロットモードへ切り替える。
「けどこれあまり言うこと聞いてくれないんだよなぁ……」
現在のラハイロイの主要な道路以外は前の大規模なヴォイドストームによって麻痺状態なためあまり役に立たない。ので自分で操縦する比率が圧倒的に多い。
「それじゃあ、要らないイベントが起きる前にサンダーミールまでかっ飛ばしますか」
まずは氷原。そして目指すは今州っ……!!
「世界は!物語は……!今州から始まるっ!!いくぜぇ!」
バイクで音楽を流しながら、ハイテンションで駆け抜けていくのであった。
「……彼はもう行ったのかい?」
扉が開き、中へ入ってきた人物へ声を掛ける。
「ええ、笑顔で手を振りながら行ったわ」
「ふふ、元気に発って行ったのならワタシとしてもうれしい限りだよ」
「ほんとかしら?あなたにとしても彼が去るのは避けたかったでしょ?」
「否定はしないよ。けど、本人が強い意志を示したんだ。学校医として背中を押すべきだろう」
「分かっているわよ。私もあそこまで言われたら駄目とは言えないもの……」
「可能性を捜してくる……ね。今回の彼の旅はどんな面白いものを見つけてくるのか今からでも楽しみだ」
「私は少し頭が痛くなるわ……前回のブラックショアの時みたいのはごめんだわ」
「確かソノラの研究をしたいっていきなり言い出した時だったね」
「そうそれよ。そして無事帰って来たかと思えばあんな論文を出してくるだなんて……」
「『アレフ1を活用したエネルギー削減とその使い道』だったかな」
「ゴミ箱って何よ……ゴミ箱って。人類を滅亡させかねない存在の特性を活かすって……どう考えても頭おかしいわよ……あれは」
「一般的とは言えないのは同意するよ。けど、彼くらいの考え方くらいがちょうど良いのかもしれない。鳴式に対抗するためには」
「それでも限度って物があるでしょ……。最終的には自分の共鳴能力を使って試してみるとか言い出したから本気で止めたわよ」
「人体と全くの同条件で実験が行えるのが便利なのは理解できるけど、彼は聊か自分の身体を軽視する傾向が多く見られる。ワタシからも度々言い聞かせてはいたけど……」
両者の間に沈黙が流れる。
「あの子、本当に大丈夫かしら……?」
「今のところはそこまで深刻でもないさ。彼自身の周波数は安定していたし、ここに残っているオンブル君も少なくともここ数ヵ月は乱れも見えない」
「自身の分身ね……。影武者ってとこかしら?」
「悲しいことに、旅に出た彼よりも力はあるかもしれないけどね」
「……配分間違ってるわよね。やっぱり……、今からでも調整させようかしら」
「彼も様々な道具を持ち出しているから平気さ。直接的な対面がなければやりようはいくらでもあるよ」
「……ああ、あれね。生徒たちと一緒に作ってた安全性に欠けた武器ね」
「彼曰く、ロマンと言う名の輝きらしいね」
「メカファルコンも撃墜させる性能に関しては文句はないのだけれども……」
「まぁ、ワタシとしても首を縦に振るわけにはいかない代物ではあるね」
お互いに苦笑を浮かべ、場に謎のゆるい空気が流れる。
「ともあれ、自分探しとしてもよい機会だろう。ヴォイドストームも活発化してきている近年ではちょうど良いタイミングだったのは間違いない」
「……そうね。色んな経験をして来てくれると嬉しいのだけれど……」
少し寂しそうな表情を浮かべながら、彼が向かうサンダーミールの方角を見つめた。
「くっおぉっおおお!!?」
俺は今、ラハイロイ以上にまともに整地すらされていない悪路の中、バイクで駆け抜けていた。
「しつこいだろ!しつこすぎだろうがぁぁ!」
背後から迫る複数の気配、息遣い、鳴き声で今だ追われてるのを肌で感じる。
「だからあれは事故なんだって!わざとじゃないんですぅ!!」
周囲では仲間を呼んでるのか大きな雄たけびも聞こえ、更に気配が増す。
今州に何とかたどり着いたのは良い。石崩れの高地?だったか、そこを走っている時にトラブルが起きてしまった。
走行中に岩陰から出てきた小さめの狼を一回轢いてしまった。こちらはある程度の装甲があるあらバランスを崩す程度で済んだが、向こうは痛そうな悲鳴を上げていた。
バイクを止めて様子を見てると、それを聞きつけた仲間の狼らが敵討ちと言わんばかりに襲い掛かってきた。
あ、こいつら音骸やんけ……と気が付いた時には時すでに遅し。応戦したが数体撃破した辺りでキリがないと判断してバイクに乗って逃走を開始した。
「散れっ!さっさとあきらめろ!」
腰に装備していた片手銃を撃つがまともに当たらず、仕方なくグレネードなどの爆破系を投げて爆発と音で散らす。
「……っよし、減って来たな!」
今のが効いたのか、背後で感じる気配の数がかなり減った。
「このまま―――っ!?」
逃げ切れると思った矢先、さっきの狼達とは比べ物にならない図太い叫び声が鼓膜まで届く。
「―――巨狼級さんじゃないですかぁ……!」
響くような鳴き声と地面を踏みながら走ってくる音の方角を見ると、こちらに一直線に向かってくる黒棘熊が目に入る。
「……もしかして俺が狙いですか?」
一瞬、これでお互いにやりあってる内にトンズラ出来ると思ったが、狼などに目もくれず俺だけを見ていた。
「これはちょっと逃げ切れるかわからんなぁ……」
まだ少し距離はあるが一分もしない内に追いつかれるだろう。どこかで迎え撃つしかなさそうだ。
「狼の音骸3体と黒棘熊が一体……なんとかなるだろ」
周囲に良さげな場所が目に入ったのでそこで迎え撃つために気合を入れる。
「よし、素早く終わらせな―――っあ」
ちょっとした見晴らしの良い場所でバイクを止めようとした瞬間、近場の岩陰に人を見つける。向こうも自分の方向に何かが向かってきているのを察したのかこちらに顔を覗かせていた。
「君っ!早くこっちに!!」
紺色の服を身に纏い、銃を持った女性が呼びかける。
っ!?あれは……、夜帰軍の人か!タイミング悪すぎだろっ。
押し付けるわけにもいかないので反転しバイクから飛び降り、影の中へバイクを仕舞う。
「すみません!巻き込んでしまったようです!」
「追われているようだけど平気っ?」
こちらの安否を気にしつつ、狼へ向けて発砲する。
「はいっ、恨みを買ってしまったらしくて……!」
こちらも手持ちの銃を構えて撃ちだす。
「どうして火髭狼と黒棘熊が一緒に襲ってくるの……!!」
それは本当にそう。削り合ってくれないと困る。
右手で銃を撃ちながら左手で腰のグレネードを取り出し、口でピンを引き抜いて投げ込む。
「っ、火髭狼達が逃げてく!」
分が悪いと理解したのか、狼どもは一匹一匹散っていく。……そう、狼は……ね。
「……ですが、こちらは今だ機嫌が悪いみたいですね……。因みになのですが、撃退できる程度の火力って持ってたりしますか?」
正面を警戒しながら真後ろの女性に声を掛ける。
「ごめんだけど……」
こちらの質問に申し訳なさそうに眉を下げて首を振る。
「分かりました。こちらが倒しますので……、その、出来れば一瞬だけでも気を引いていただけると助かります」
被っていたフードを脱ぎ、うなじ下を見せる。
「共鳴者……っ、了解っ」
熊を挟んで両サイドに分かれる。それを見て黒棘熊が一瞬その場に留まる。
「ほらっ、あなたの相手は私よ!」
気を引くために大声と共に銃を撃ちまくる。
黒棘熊がそちらに気を取られたのを確認して音を消しながら背後へと迫る。
「影よ」
熊の真後ろに着き、その影を踏む。
「―――沈め!」
こっちが真後ろに来たのに気づいて振り返ろうとしたがもう遅い。踏んだ影から無数の黒い帯が伸び、黒棘熊に絡みつく。
自身が攻撃を受けて声を上げるが既に身動きを封じ込み、そのまま影の中へ引きずり込む。
「……!―――っ!!?」
音にもならない悲鳴を上げながら影へ沈んでいった。
「……ふぅ、一件落着……」
なんとか無事に済んだので一息付き、女性の方を見る。
「助かりました。そちらは大丈夫ですか?」
「ええ、そっちも大丈夫そう?」
銃を下ろして安堵する女性へ歩み寄る。
「大丈夫です。……その、巻き込んでしまってすみませんでした」
「いいのいいの。なんか追われてたみたいだし。それに助けるのは当たり前だからね!」
気にしていないことを表すために笑顔を向けてくる。
「そちらは……夜帰軍の方ですか?」
「そうだよー。そういう君は……見ない服装だね?」
上から下まで見渡してから首を傾げる。
「申し遅れました。私はストランエリと申します。ラハイロイから来ました」
「へぇー……それはまた遠くから……って、こっちも名前がまだだったね。私は
「栩栩さんはここで何をされていたのですか?」
「私?みんなの食料の調達をしている最中だったの」
歩きながら案内された岩陰には布の上に並べられた肉や山菜が置かれていた。
「それはほんとうに間の悪い時に……」
「だから気にしないでって。そっちはどうしてこんな所に一人で?」
「ちょっと今州城の場所まで行こうとしていて……」
「街に用があるの?」
「と言ってもほとんど観光みたいな物ですが……はは」
「その道中で襲われたってことだね」
「そんな感じです……」
「ここは危険だし、私が居る基地まで案内しようか?」
捌いた肉や山菜を布に包みバックへ入れながらもこちらへ案を出す。
「いえいえ、そこまでしてもらうわけには……」
「そう?まぁ、君共鳴者みたいだし平気かもね。便利そうな乗り物にも乗ってたし」
「あれはラハイロイで使われてる乗り物ですね。道路など整備されてるとかなり便利な乗り物ですよ」
ま、今のラハイロイは修復の途中だからまともな道路の方が少ないけどね。
「小回りも利きそうだし……っと、それじゃあ私はそろそろ行くね」
「栩栩さんはまだ戻らないのですか?」
基地の方角とは違う方角へ向くので疑問に思い問いかける。
「うん、念のためもうちょっとご飯を確保しておこうかなって。心の余裕を持ちたいしね」
少し困った様な表情を浮かべて微笑む。
「……もしよければ、お手伝い……しましょうか?」
「えっ?悪いよ、軍でもない君にしてもらうなんて……」
こちらの提案に驚きながらも手を前に出して振る。
「いえ、先ほどは助けていただけたので。そのお礼と思ってもらえれば。それに、こう見えて狩りは結構得意な方なので」
「んー……そう?それじゃあ、お願いしても良い?」
「ええ、喜んでお手伝いしますとも」
「ありがとう。えーっとね……肉の方がもう少し確保したくて……」
隣に並び、歩く彼女の話を聞きながら、次の獲物を探し始めるのだった。
ラハイロイから今州へ。
主人公は共鳴者。能力はざっくり影などの黒っぽいのを操れる感じ。選んだ対象の影に潜り込んだりそこから能力を発動させたりも出来る。
共鳴能力報告測定報告はその内出す予定。
目立たずに主要キャラ達の助けになったりかっこよくサポートしたいと目論む。
ヒロインは……今の段階だと未定。特定の誰かってのは作らないかもしれない、、、。