魔法少女リリカルなのはFF〜Midnight Circus〜 作:柳沢紀雪
朱鷺守棋理の妹、朱鷺守七葉は兄との再会を祝うことなくただ黙って彼らを奥の間へと導いた。
垣根は崩れかけ、母屋の屋根や壁も一部が破壊されていたが、整備が行き届いた家屋には人の生活している気配があった。
しかし、家人の気配がしない。
(こんなところで一人で生活をしているというのか、七葉は)
朱鷺守棋理は無言で前をいく妹の小さな背中を眺め、彼女の境遇を思いやった。
夕闇が庭先を覆い始める頃、畳の間に客人を案内した七葉は蝋燭を持って再び姿を見せた。
「申し訳ございません、お客様方。ここのところ、発電設備が不調でして。このような明かりしか用意できません」
部屋の中央におかれた彼女の細い腕ほどにもある蝋燭はそれでも貴重なものなのだろう。
その幻想的なオレンジの光とともに部屋の四方の壁にはそこに座る者達の影が映し出される。
「それで、お話しいただけませんか? お兄様。なぜ……、なぜ、15年前にお亡くなりになったお兄様がここにおられるのですか」
七葉の言葉に呼応して全員の視線がレイリアの元にかき集められた。
誰も何も言わない、ただその視線だけで彼にことの説明を命じていた。
「わかった。話すよ。だから、そんな目を向けないでくれ」
レイリアはそれでもおどけてみせるが、それに頬を緩ませる者は誰一人としていなかった。
「すでにお察しの通り、この世界。この地球は、高町一尉や朱鷺守一尉が知っている地球ではない」
なのはと朱鷺守棋理は無言で頷いた。
「ここは、何というのかな。たぶん、一番しっくりくる言い方をすれば二人の知る地球の平行世界の地球だということなんだ」
そして、レイリアは続けた。この地球で何が起こったのか。なぜ、この地球はこんな状況になってしまっているのか。
「15年前にね。僕がまだ子供だった頃の話だ。この地球で大規模な時空災害……いや、時空犯罪といった方がいいかな。それが起きた。だから、この地球は滅びた。僕はそうきかされている」
レイリアはそういうと、七葉が差し出したお茶に手をかけた。
「地球規模の時空災害でした。膨大な数の人々が亡くなり、今でも多く者がここで苦しい生活を続けている。そして、私のお兄様はそのときにお亡くなりになられた」
七葉は丁寧な手つきで茶を点てながら、静かに言葉をつないだ。
「平行世界とか、時空犯罪とか、難しいことは私にはわかりません。ですが、あなたは七葉のお兄様ではないということですね」
七葉はそういって茶を棋理の元へ差し出した。
朱鷺守棋理はそれに手をつけることができなかった。
「向こうの世界の七葉は、15年前に死んだ。殺された。だから、俺はその復讐のためこの身を血に染める決意をした」
朱鷺守棋理はそのときを思い出していた。ただ無力だった日々。最愛の妹の死を背負いながらその敵だけを思い描いていた日々。
「俺はその日々を間違っていたとは思わない、少なくとも俺はそうしなければ生きてはいけなかった」
朱鷺守棋理は面を上げることができず、己の手を握りしめた。
「会わなければよかった。そうすれば、揺らぐことはなかった」
まるで、懺悔のような言葉をはき出す朱鷺守棋理を見て、エルンストは結局このものも自分と同じような道を歩いてきていたのかと感じた。
自分だけではない。それは当たり前のことだったが、エルンストにとってはなぜか新鮮な驚きがあった。
「ですが、私は、七葉はお兄様ともう一度こうしてお会いできて嬉しく思います」
七葉はそういうと、朱鷺守棋理の両手を握りしめた。
「俺もだよ、七葉。俺の知るお前ではないにせよ、こうして再び会えたことをうれしく思う」
「うれしいですわ、お兄様」
彼女の両手を握り返す彼の両手を胸に抱きながら、七葉は静かに涙をこぼした。
七葉が立てたお茶を飲む朱鷺守棋理は、やはり七葉の入れる茶が一番だとつぶやきながら、レイリアから今後について話を聞くこととした。
レイリアの答えは実に簡素だった。
「敵を迎え撃つ。連中は必ずここに現れて僕たちを消そうとするはずだ。それを撃退し、追い返し。そして、連中の居場所を特定させる。ベルディナ大導師がそのために今奔走しているところだ」
敵を探すためのもっとも手早い方法。それが、己をさらし囮として敵をおびき寄せることだ。
しかし、それは多大なリスクを背負うこととなる。敵を全滅させず、撤退させつつ自分たちは囮としてほとんど無傷で生き残らなければならない。
レイリアはエルンストに目配せし、エルンストは小さく頷いた。
その話が一段落したところで、部屋の天井からつり下げられていた電球に光がともった。
「どうやら、発電機の調子が元に戻ったようですね。少し様子を見て参りますので、お客人の方々はどうぞごゆるりとなさいませ」
七葉はそういうと立ち上がり、静かに部屋を後にした。
「俺も行こう。案内しろ」
朱鷺守棋理も七葉について部屋を出る。
「エルンスト、少し話をしよう。このあたりは結構おもしろいものが多そうだよ」
エルンストの隣で彼に声をかけようかどうか迷っていたアリシアを無視してレイリアはそういってエルンストを連れ出してしまった。
「……先を越されちゃったね、アリス」
なにやら同情したような目を自分に向けるエリオンにアリシアは、
「うるさいわね」
といってその頭に拳をおろすと、足音を荒げて部屋を出て行ってしまった。
「なあ、なのは。あたしは腹が減ったな」
ヴィータはずっと正座でしびれた足をもみほぐしながらだらしなく足を開いた。
「そうだね。船から食べ物をとってこようか?」
なのはは、彼女の足をあわてて閉じさせようと必死のようだ。
「だったら僕も行きます」
エリオンは一人でいるのも癪に思い、二人についていくことを決めた。
「そうだね、一緒に行こうか」
「はい。なのはさん」
そうして、なのは、ヴィータ、エリオンは連れだって屋敷を後にした。