魔法少女リリカルなのはFF〜Midnight Circus〜 作:柳沢紀雪
夜明けを待ち、エルンストは自らの手で殺害した彼女の遺体を丁重に葬るとその足で朱鷺守の屋敷へと向かった。
「ふう……今回は、さすがに疲れた」
エルンストは、自らの体の状況を確かめ取り合えず風呂に入りたいと思った。この三日ほど彼は常に行動を制限していた。つまり、それは、風呂に入らない体を洗わないと言うことではなく排泄さえも控えなければならない状況だったのだ。
さすがに股間に設置されたパックがあるためそれらのにおいをあたりにまき散らすことはないが、不快であることこの上ない。
そう思い、門をくぐろうとした彼に巨大な影が襲いかかった。
「てめぇ、今まで何処に行ってやがったぁぁぁーーー!!!」
その影は天空を埋め尽くす巨槌として彼を押しつぶそうとし、エルンストは持ち前の勘の良さからそれをぎりぎり回避する。
ヴィータが鬼のような形相でその身を真っ赤なドレスに包み、エルンストをにらみつける。
そのあまりの恐怖に彼は、それに襲いかかるさらなる恐怖への反応が遅れた。
「ディバイィィィーーン……」
圧倒的に練り上げられる魔力。それが波動となって自分自身を襲いかかることを感じた。
そして、その次の瞬間耳を打った、カートリッジがロードされる音が三つ。
「バスタァァァーーー!!」
その薔薇色の波動の向こうには、まさに白い衣服に身を包んだ悪魔ともとれる彼女がそびえ立つ。
エルンストはなのはによって放たれたその波動に戦慄を感じた。
(まずい、あれは非殺傷設定であっても飛ぶ!!!)
ヴィータの巨槌をよけて体制の崩れた彼だったが、それでも腰をひねりきり足が折れることもかまわず地面を蹴り飛ばした。
ジュッといういやな音が自身の裾から響き渡り、彼は何とかそれを避けきったと思ったが、天空から飛来する迅雷に、またもや反応が遅れた。
「エルンストの……馬鹿ぁぁーー!!」
その瞳に蓄える涙とともに美しい軌跡を描き、アリシアの持つ突撃槍型デバイス【ストライクイーグル】はその名に恥じぬ速度を持って地に伏す獲物に爪を立てる。
いったいその切っ先に何を仕込んでいたのか。それはエルンストの体をギリギリ反れ、地面へと突き刺さったと思いきや、それを起点にして大爆発を起こし、エルンストの体を遠慮なく吹き飛ばした。
「が、はぁ!」
地面にたたきつけられたエルンストは肺の中だけとは言わず、腹からもすべての空気をはき出し、一瞬意識が飛びかけた。
「おっと、まだ気絶するには早いぜ」
立ち上がろうとするエルンストを捕まえて、その間接を決めた朱鷺守はそのナイフ【ナイトホーク】を彼ののど元に押し当てた。
「話はレイリアから聞いている。まあ、よくやったといいたいところだが」
朱鷺守は怒りを押し隠さず、さらに間接を締め上げナイフを首筋に深く押し当てようとする。
「一言ぐらい相談してくれてもいいんじゃないかしら? 私たちは、そ・ん・な・に、頼りにならないのかな?」
すっかり殺(や)る気を見せるなのはは、笑顔の上どころかまるで全身にブットイ青筋を立てている様子だ。
その手に持つ【レイジング・ハート】をすでにエクシードモードにしているところから、ひょっとすればエルンストを殺すつもりなのかもしれない。
「僕も、心配しました」
着陸後、その場に泣き崩れるアリシアの背をなでながらもエリオンは自身の双銃型デバイス【トムキャット】を構えその銃口をエルンストに向けていた。
「てめぇは、何でいつもいつも一人でやろうとすんだ! もっとあたしらを頼れ。仲間だろ!!」
ヴィータは城砦のごとく巨大な【グラーフ・アイゼン】を元の規模に戻し、エルンストのそばの地面をそれでたたきつけた。
そういえばレイリアの姿が見えないなと、周りを見回したエルンストだったが、その彼はすでに縁の側の植え込みで伸びきっているようだった。
エルンストは自分の運命を覚悟し、素直に気を失うこととした。
砂の入った頭陀袋のごとくぼろぼろになったレイリアとエルンストが、ようやく目を覚ました頃なのは達は客間でくつわを並べていた。
「先ほど、ベルディナ大導師より連絡がありました」
畳敷きの部屋のもっとも上座に座るレイリアは押し黙る皆の前で辞した。
言葉少なく述べられたそれを耳にするだけで、その場にいた全員がその意味を正確に理解できた。
「つまり、決戦ということか」
朱鷺守の静かな言葉は間違いなくその場に座る者達の心を乱した。
「いよいよってことね」
今まで後手に回り、ストレス全開でいらいらしていたアリシアもようやく訪れようとする鉄火場への期待に眼を輝かせた。
「そこで、僕から皆さんに、正確にはエルンスト以外の皆さんに提案があります」
アリシアの啖呵に戦意を高める皆に、レイリアはにっこりと笑みを浮かべそれに待ったをかけた。
「なに?」
なのはは出鼻をくじかれた不満か、レイリアの今までの行いのためか、彼を見る視線は幾分冷たい。
嫌われたものだな、とレイリアはそれと同種の冷ややかさを持つ方々の視線を適当にいなした。
「ここで手を引いてください。この先は後には戻れない道です」
沈(シン)とした空気が一面に張り巡らされた。
「どういうことだ?」
朱鷺守の声は激昂を何とか押さえ込んだ雰囲気を持っていた。静かに低くはき出された声は、しかし、レイリアにおそれを抱かせるには十分で、彼は密かに冷や汗が背中をたれるのを感じた。
「まあ、最後の確認というものです。ここから先は一切の保証がもてない。死ぬ可能性の方が高い。いや、運良く生き延びられたとしても、社会的な人格はすべて殺されることになるでしょう。場合によれば時空連合に亡命していただくことにもなりかねない」
亡命。その言葉はあまりにも重い響きを持っていた。つまり、レイリアはこれより先に進むためにはそれまでの自分をすべて捨てる覚悟をもてと言っているのだ。
「幸い、今ならまだ皆さんは僕たちに仕方なく協力しているという口実を使うことができます」
レイリアはなのはの方を向き、
「高町なのは一尉。あなたは、娘と恋人が人質になっていることを理由に裁判所に訴えることができます。現在、高町ヴィヴィオとユーノ・スクライアを我々が保護観察に置いていますので、我々はそれを人質としているという言い訳にできるというわけです」
なのはは息をのんだ。
「八神ヴィータ二尉も同様、八神はやて他ヴォルケンリッターの面々。双子のリーファは孤児と言うことでしたが、育ての孤児院の園長夫妻ということではどうでしょうか? 朱鷺守棋理一尉は当然ながら世界は違えども妹さんを人質に取ることもできますし。ここにはいませんが、カーティス・ボーマンも故郷のお姉様とご両親をこちらで預かっています。今なら、それらを理由に当局への言い訳にすることができる。すでにベルディナ大導師を通じて調整済みです」
レイリアは言った。ここから先に進むにはすべてを捨てろ、しかし、今ならまだ逃げる道が用意されている。
「ちょっと待てよ、あんたとエルンストはどうなんだ?」
ヴィータは彼の言う逃げ道の中にエルンストとレイリアの名前が存在していないことを言及した。
「エルンストに関しては、申し訳ないと言うしかないね。君は、すでにこちら側に深く入り込みすぎている。もちろん、その原因の多くは僕たちにあるんだけど。ベルディナ大導師でもこればかりはどうしようもなかった」
エルンストは、
「まあ、当然だな。逃げ道が用意されていても今更何処にも逃げ道はないからな」
といって頷いた。
「そして僕は、こちら側の人間だ。もとより逃げ道などない」
レイリアの言葉にはすでに決意をすませた者の気迫が込められていた。
「僕たちは今から6時間後、地球時間13:00にここを出発します。それまでに決めておいてください」
レイリアはそう言い残すと客間を後にする。
エルンストも黙って彼について客間を出ようとするが、そんな彼の裾を何者かがつかみ取った。
「……どうした、アリシア」
エルンストのジャケットの裾をつかんだアリシアは、うつむいたまま小さな声で懇願する。
「今日は、あたしの側にいてほしいの」
エルンストがなぜと聞くと、アリシアはキッと彼をにらみつけ、
「デ、デバイスの調整よ。最終調整。今ぐらいしか時間がないでしょう?」
「しかし、お前はそれでいいのか。もう戻れない道だ」
「あたしが逃げるとでもおもってんの? 馬鹿にしてるわ」
「そうか。だがデバイスの調整はエリオンとすればいいのではないのか? 最終調整というよりは、連携の最終確認をした方が有意義だと思うのだが」
「エ、エリィとはいつもやってるからいいの。たまには違う人の意見も取り入れなくちゃいけないでしょう!? とにかく付き合いなさい!」
アリシアは腕を振り回しながらエルンストを外へと引っ張っていく。エルンストは、一度だけエリオンの表情を伺うが、エリオンは頷いて二人を見送った。
「お前の姉貴も積極的になったな。弟のお前としては少し寂しいんじゃねぇのか?」
朱鷺守は、座布団から部屋の隅の柱に背中を預けながらプカプカと煙草を嗜んでいた。
「確かに、そうですけど。僕たちは今までお互いに依存しすぎてきた。だから、アリスが他の人に興味を持ったことは、僕としては嬉しいと思います。僕らは一度お互いを卒業しなければならない。そう思っていましたから」
朱鷺守は思いの外しっかりとした考えを帰したエリオンに感心した。
「なるほどな。お前は、行くのか? 地獄へ」
「ええ。アリスが行くなら、僕はアリスを守ります」
「よく言った。お前は俺のようになるな。守り続けろ」
朱鷺守はそういって立ち上がった。
「七葉に茶でも入れさせよう。少し待ってな」
立ち去ろうとする彼の背中をなのはは止めた。
「朱鷺守一尉。あなたはどうするのですか?」
「俺か? 俺がこのまま引くわけがないだろう? 社会的に死ぬ? 上等じゃねぇか、それに亡命生活ってのもなかなかクールでいいじゃねぇか。それにこっちの世界には七葉もいる。万事こともなしだ」
朱鷺守は、まるで胸のつっかえがとれたような豪快な笑い声を上げながら障子を開き、縁側を歩いていった。
「朱鷺守は単純でいいよな。あたしはどうすっかなぁー」
ヴィータは座布団を枕にしてごろっと横になった。天井を仰ぎ見るその表情には迷いが含まれてないようにも見えるが、それは彼女の天の邪鬼なポーカーフェイスなのかもしれない。
「ヴィータちゃんは、迷ってるの?」
なのはは正座を崩し、横座りになってばらけたヴィータの長い髪をいじり始める。
「たぶん、迷ってないんだろうな。だけど、あたしははやての側を離れたくない。ずーっと一緒にいるって誓った騎士だからな。それを割り切るなんてできねぇよ」
ヴィータは、ふぅ、とため息をついた。
「私も、悩んでるのかな。いっそのこと、最初から逃げ道なんて用意してくれなかったらって思うとなんだか納得ができないよ」
「あたしもそう思う。レイリアってやつは最後まで嫌な奴だな。土壇場であたしらの決意って奴を乱しやがって。あー、むかついてきた!!」
ヴィータは、ガァっとうなり、腰で勢いをつけて立ち上がった。
「ヴィータ二尉はどこへ?」
エリオンは客間をでようとするヴィータにその行き先を尋ねた。
「レイリアの所だ。一言ぐらい文句でもいわねぇと気が済まねぇ」
「だったら、僕も一緒に行きます。アリシアが言ったようにこれが最後の機会になるでしょうから、僕もレイリアからいろいろと聞きたいこともありますから」
エリオンはレイリアと同じ射撃系の魔導師だ。故に、彼から最後の教えを賜る最後のチャンスだと思ったのだろう。
ヴィータは「勝手にしな」といってさっさと廊下を歩いていく。
「みんな強いなぁ。私は、だめだなぁ」
なのはは誰もいなくなった客間に一人のこり、ミッドチルダに残してきた愛しい人たち、培ってきた仲間のことを思いやった。
捨てることなんてできない。だけど、このまま進めばそうしなければならない可能性が高い。
「ユーノ君からは、らしくないって言われるだろうな。昔の私なら悩むこともなかっただろうし。やっぱり、変わっちゃったってことなのかな」
なのははゆっくりと畳に体を横たえた。
「みんなの声が聞きたいな。ヴィヴィオ、ユーノ君、フェイトちゃん、はやてちゃん、アリサちゃんにすずかちゃん。クロノ君、リンディさんにエイミィさん。六課のみんな。今頃どうしてるのかな。会いたいよ」
決意は決まっている。だが、彼らの顔を思い浮かべるごとにその決意のどこかが揺らぐ気がする。
なのははそんな自分の感情をもてあましながら、うとうとと微睡みに沈んでいった。
***
昼食をそれぞれ別々にとった彼らは、誰も申し合わせることなくそのときを迎えた。
「悪いねカーティス。ずっとほったらかしにしてしまって。退屈だっただろう?」
ここについて以来ずっと、輸送船テンオにこもり資材の管理と船体の整備を行っていたカーティスはレイリアの労いをありがたく受け取った。
「こいつを放置していくわけにはいきませんしね。むしろ、こいつの側にいられてご機嫌ですよ。俺も、彼女(テンオ)も」
輸送船をまるで自分の恋人のように扱う彼はレイリアの予想とは違い、実に楽しそうに振る舞っている。
「もう一仕事してもらう。コンディションはベストに保っておけ」
ようやくアリシアに解放されたエルンストは、合成蛋白剤を口にしながら自身のデバイスの調整に精を出している。
アリシアとの訓練はエルンストにとっても有意義なものとなった様子で、新たに考え出した【クリミナル・エア】のセッティングを行っているようだった。
テンオに搭載された簡易ではあるが性能のよいデバイス調整器に【クリミナル・エア】をつなぎ、先ほどから忙しそうにキーボードをたたいている。
「ねえ、エルンスト。その行の値はおかしいだろう? ちょっと大きすぎない?」
レイリアはそれを側で見守りながら気がついた箇所に関しては様々に助言をしている。
「だが、これより小さければ弾頭の修正にコンマ12の誤差を残す」
「それぐらいは容認できるんじゃない?」
「お前のデバイスならな。だが、俺の者ではコンマ12はでかすぎる。せめてコンマ02ほどにはしなくては話にならない」
「なるほどね、それが君の精密狙撃の秘密ってことか。とすると、他の機能はかなり割を食うことになるね」
「致し方のないことだ」
二人はしばらくそうして意見を交わしつつ、これからのデバイスはこうあるべきだとか、キハイル式の欠点はどうかとかの議論を展開していた。
「お二方。あと、20分ほどで時間ですので。準備をすませておいてください」
カーティスの言葉にレイリアとエルンストは議論をいったん止め、時計を見た。
「時間か」
エルンストは時計から目を上げ、周りを見回した。そこにいるのはレイリア、カーティス、自分。他にはいない。
「結局、身を引いてくれたってことかな。賢い判断だね」
レイリアはそういいつつも少し寂しそうに肩をすくめた。
「いや、そうでもないようだ」
無意識のうちに周囲の状況を把握していたエルンストは、山道を登る複数の気配に気がついていた。
「よう、そろそろ時間だな」
朱鷺守が木々の狭間から顔を見せた。その後ろには、双子のリーファとヴィータ。そして、朱鷺守七葉が立っていた。
「やあ、皆さんおそろいで。まさか、自殺願望者がこんなに多いとは思いませんでしたよ」
レイリアは喜びつつも憎まれ口は外さず彼らを迎え入れた。
「自殺願望と言うよりは、心中願望者といった方がいいな」
「ああ、なるほど。君は上手いこと言うね。言い直すよ」
エルンストの提案にレイリアは手を打ち、エヘンとのどを鳴らすと、馬鹿みたいに爽やかな笑みを浮かべ、朱鷺守達に向かって言い放った。
「まさか、心中願望者がこんなに多いとは思わなかったよ。君たち、よっぽど気が狂っているようだね。病院に行った方がいいと思うよ」
というレイリアに、ヴィータは「やかましい!!」と言って【グラーフ・アイゼン】で彼の頭を殴り飛ばした。
エルンストは、やれやれとため息をつくと、デバイス調整器の電源を落とし【クリミナル・エア】につながれたケーブルを無造作に外した。
「調整はうまくいった?」
そんな彼にアリシアが声をかけ、彼の持つデバイスをのぞき込んだ。
「まあ、まあといったところだ。本当なら、もう少ししっかりとした設備で行いたかったが。一回の戦闘程度なら問題なく超えられるだろう」
「そう、よかった」
すっかり棘のとれたアリシアはそういうとにっこりと微笑んだ。
「お前の姉貴、ずいぶん可愛らしくなっちまったな」
朱鷺守はエリオンにそっと耳打ちし、エリオンもそれに頷いた。
「ところで、高町一尉はどうした? いないようだが」
エルンストはヴィータの側に彼女がいないことを知り、なのはの居場所を尋ねた。
「あたしは一緒に来てない」
ヴィータはそういうと屋敷への道を見つめた。
「そうか」
エルンストの寂しそうな表情にアリシアは少しなのはを嫉妬するが、自分も同じ感情を抱いていることに何も言えなかった。
「こないかもしれませんね」
後5分と迫った時間にエリオンはそうつぶやいた。
「仕方ないね。みんな、乗り込んでください。出発します」
レイリアは、それに見切りをつけ全員をテンオへと誘った。
「まあ、仕方ねぇよ。特に高町一尉は残してきたものも多い。正しい判断だと俺はおもう」
誰よりも先行してテンオへ乗り込んだ朱鷺守に誘われるようにみんな重し足取りでそれに続く。
「皆さん、お気をつけて。お兄様、七葉はお兄様のご武運をお祈りいたします。どうか、ご無事で」
七葉は去っていく皆の顔を一人ずつ確かめ、深く頭を垂れた。
最後に全員の乗船を確認したエルンストは最後に朱鷺守の屋敷を一瞥し、首を振ってそれを振り解くと自分も素早くテンオに乗り込んだ。
「それでは、離陸します。シートベルトを締めておとなしくしていてください」
カーティスはそういって、テンオのエンジンを点火させた。
テンオは、身を包み込むネットを自力で引きちぎるとそのままゆっくりと上空へその身を躍らせた。
「これより少ししたら、時空連合の回収艇がここに来るから。高町一尉はそれで回収されることになるね」
次第に小さくなる朱鷺守の屋敷を見下ろしながら、レイリアは小さく彼女に別れを告げた。
エルンストもそれを見下ろし、そして、にやっと笑った。
「カーティス。後方のハッチを開け」
エルンストは、レイリアの通信機を奪い取ると急いでカーティスにそれを命じた。
「えっと、そろそろ加速を開始しますので、危険です」
「いいから早くしろ。最後の客がお出ましだ。」
最後の客、と聞いて皆窓から外を見下ろした。
さっきまで沈黙を守っていた朱鷺守の屋敷。しかし、そこから白い軌跡を伴い上昇してくるものがあった。
「おい、急げ。早くハッチを開くんだ」
朱鷺守もそう叫び、シートベルトをパージすると後方の格納庫へ続く扉を押し開けてそこに身を躍らせた。
「まったくなのはのやつ。主人公は最後に現れるっても、ちっとは場合を考えろっての」
ヴィータは憎まれ口を叩きながらも頬を緩ませ、狭いテンオの船内で赤いドレスのスカートを翻し朱鷺守を追った。
「ごめんなさい。眠っちゃってて、遅れた」
開かれたハッチから吹き出される風に髪を靡かせて、なのはは荒い息に肩を上下させてそこに立っていた。
「ようこそ、高町一尉。飽くなき闘争への道を選んだあなたを歓迎しよう」
エルンストは、柄にもなく恭しい手つきで彼女を迎え入れた。