魔法少女リリカルなのはFF〜Midnight Circus〜   作:柳沢紀雪

25 / 29
第二十五話 フォートレス(前)

 時空世界、ターミナルエリア4312号〈エメリア共和国〉、政府管轄外空域。

 岩山に偽装されたそこは、今となってはその周囲に無数の飛行体を携える巨大な要塞と化していた。

 先行偵察に出張ったエルンストとアリシアはその様子を見てただあっけにとられるしかなかった。

「これは、思った以上だったな」

「なに? あのガジェットの数。異常じゃない」

 空を埋め尽くす飛行ガジェットの総数はすでに5000を上回っているだろうか。

 エルンストはその大半は幻像なのではないかと観察を続けたが、そのどれもが確かな実体と質量を持つことを確認し、敵の戦力規模を思いやりさらに途方に暮れた。

「これでは、地上も制圧されているだろう。さて、レイリア。この要塞。どう攻める?」

 レイリアとの回線は開かれておらず、その答えを出す者はいなかった。

「どうすんの? エルンスト?」

 先行偵察を提案したエルンストに強引についてきたアリシアは緊張のあまり自分で判断する余裕はなかった。

「とにかく、敵の大まかな規模と要塞の外観は捉えられた。いったん帰投して報告だな」

 エルンストはそう伝えると、行くぞといって小高い丘の頂上から反対側の谷へと足を進めた。

 

 要塞より数キロ先にあるスラムの街でエルンストとアリシアは仲間と合流し、それを報告した。

 スラムの難民らしい煤けた服がようやく板に付いてきた彼らは、それを聞いてもやはりピンとはこなかったようだ。

「航空ガジェットが5000って、それは何かの間違いじゃないのか?」

 レイリアがそういうのも納得できる。しかし、それは幻影でも模擬体(ダミー)でもないことをエルンストは伝えた。

「エルンスト君が言うのなら間違いはないよ。敵は総数5000。外だけでそれなんだから、中はどうなっているか。想像はしたくないね」

 なのははそうつぶやいた。彼女はどこから調達してきたのか、その姿はハデな柄の入ったタンクトップを上に着て、下はきわどく裁断されたジーンズ地のホットパンツに、サングラスまでかけて、まるでその姿は遊び慣れた少女のような様子を見せる。

「だがな、5000なんて数。このメンバーじゃまともにあいてなんてしてられねぇぞ」

 ヴィータはどうすんだ? レイリアを見た。彼女の姿は、なのはの姿とは違い、薄手の白いワンピースを上から着ているだけで、その見た目ではむしろなのはの方がやんちゃな少女のようにも見える。

「それでは、潜入ですか?」

 エリオンは特に表情を変えずに確かめた。

「まあ、それしかないかもね」

 アリシアも偵察に疲れたのか、いすに座ってぐったりとしていた。

 双子のリーファは特に代わり映えのない私服で、エリオンは無地のTシャツに半ズボン、アリシアは薄手のブラウスにフワッとしたミニスカートと、その姿は一般人の中に完全にとけ込んでしまっている。

「進入経路はどうなる」

 ここにきても相変わらず黒いスーツ姿を崩さない朱鷺守はその中では明らかに浮いてしまっているが、その雰囲気から彼にちょっかいをかける者は居なく、今では女性陣のボディーガードのように街を歩いている。

「一つだけ見つけた。要塞と山の継ぎ目。そこに小さいが人の通れる程度のひび割れを見つけた。何処につながっているかは不明だが、罠である可能性もある」

 グレーを基調とした都市迷彩を心がけるエルンストの姿は、さすがというべきか街の雰囲気に完全にとけ込めるような姿だった。

 何の特徴もなく、街角ですれ違ったとしてもどこかであったことがあるなという程度で誰の印象にも残らない。

 下手に趣味に走らないその姿は彼のまじめさを感じることができる。

「どうする? レイリア。お前の判断だ」

 レイリアは少しの間逡巡して思いを張り巡らせた。自分たちの目的、そのためのもっとも効率のよい用兵。そして、自分の目的を果たすためにはどうすればよいか。

 思案するレイリアを皆は黙って見守った。この判断がその後をすべて決める、その重要な決断をレイリアに委託することに誰も疑問を感じていなかった。

 そして、レイリアはゆっくりとまぶたを開き、面を上げ、宣言した。

「潜入班と陽動班に分けます。潜入班は先ほどエルンストが言った経路を使用し内部へ。陽動班は外でガジェットの殲滅を行います。潜入班は速やかにガジェットのコントロールを破壊し、その後陽動班は内部へ進行。事態の掌握を行います」

 レイリアが下した判断は実にシンプルでオーソドックスなものだった。しかし、シンプルな作戦はそれだけ堅牢であること意味する。特にここにいるメンバーはどちらかといえば派手な戦闘を得意とする者達だ。

「班分けは、潜入班はエルンスト単独。おそらく、それがもっとも効率がよいはずです。残りのものは外部にて陽動を行います」

 レイリアはエルンストに目を向けた。エルンストは何も言わず、一度だけ頷く。

 エルンストの単独潜入。それに異を唱える者は居なかった。おそらく、この中で誰が彼について行っても彼の足を引っ張るだけだと言うことが理解されているからだろう。

 空戦S+ランクの魔術師である高町なのはを筆頭に、陸戦AAAランクのヴィータ、空戦AAAランクである朱鷺守。そして、双子のリーファとレイリアもそれぞれAランクを超える魔導師である。

 陽動を行うにはまさにうってつけともいえる集団に違いない。

「作戦開始は明朝現地時間5:00時。それまでに各員コンディションを万全にしておいてください」

 レイリアは最後にそう伝え、部屋に集まった面々は「了解」の一言を残し、エルンストとレイリアを置いて退室した。

 全員が退室した後、レイリアは少し疲れた様子でため息を一つ付き、木造の椅子に深く身を沈め込ませた。

「緊張しているのか?」

 エルンストはそんな彼の様子に口を挟んだ。

「緊張は、しているね。基本的に僕は臆病だから、自分で決めた作戦がうまくいくかどうか心配だよ」

「臆病であるのなら俺もそうに違いない。だが、お前ならあらゆることを笑顔でやり遂げるものだと思っていた。殺しもな」

 レイリアは面を上げ、そしていつもの笑顔を浮かべた。

「ああ、そうだね。君の言うとおりだ。ここのところ今までしてこなかったことばかりを経験して気を張りすぎていたのかな」

 エルンストが情報収集とその運用を切り札とするように、レイリアにも一つの切り札があった。

 それは、あらゆる者の警戒を解くその作られた笑顔だった。

 レイリアもエルンストとはカテゴリーの違う暗殺者である。その笑みと人当たりのよい人格を武器にして彼はあらゆる組織、集団にとけ込みすべての信頼をえることで仕事をしてきた。

 時には寝食を共にしていた女性の身辺からすべての情報を取得した後、それを殺害して立ち去ったこともある。

 友人となった男の晩餐に呼ばれ、その家に爆薬を仕掛けたこともあった。

 まさに外道とレイリアは自分の行いを自嘲する。

「やっぱり君には気づかれるか」

「ああ。初めてあったときから、お前からは俺と同じ臭いがした。多くの命を踏み台にし、その血を浴び続けてきた者の臭いだ」

「そっか。そこまで気がつかれているんなら、もう話してしまってもいいかな」

 レイリアはそういうと、椅子から立ち上がり給湯器のスイッチを入れお茶を入れた。

「お前の真意をか?」

「というより、君にお願いがあるといった方がいいかな」

 エルンストはレイリアからマグカップを受け取り彼の話に耳を傾けた

 

****

 

「ようやくあたしも暴れられるってことだな」

 街から遠く離れた場所にある広く切り開かれた荒野の中でヴィータは【グラーフ・アイゼン】を杖についてそう口にした。

「そうだね。やっと私たちも戦えるんだね」

 白いバリアジャケットに身を包みながら、なのはも【レイジング・ハート】を下ろし、一息ついた。

 今ではうち捨てられた鉱山の跡地。所々に放置されたまま何十年もそこにある建物らしき残骸などが並ぶその場所は今ではなのは達の訓練場になってしまっている。

 要塞からもかなりの距離があり、街からも遠い。誰の目にもとまらないその場所はまさに彼らにとって絶好の訓練場に違いなかった。

 そして、二人もまた明日に控えた決戦のため最終調整を終えたところだ。

「だけど。結局明日も、エルンスト君は一人なんだね」

 なのははバリアジャケットを解放し普段着に戻ると側の岩に腰を下ろした。

「だな」

 ヴィータもデバイスを首飾りに戻し、なのはの隣であぐらをかいた。

 都会の喧噪も虫の音も獣の声も響かないその場所を照らすのは、幾億の星々と夜空を彩る三つの月。

 光害のない夜空には大気によって瞬く星空が一面に広がっている。

「やっぱりここにいたか、二人とも」

 鉱山の広場の周りに広がる森の木々の裏側から朱鷺守が顔を出した。

「朱鷺守一尉。あなたも訓練ですか?」

 なのははそういって立ち上がり彼を迎えた。

「まあ、そんなところだな。二人に混ぜてもらおうかと思っていたんだが、少し遅かったようだ」

 朱鷺守はそういって笑うと、その場に腰を下ろした。

 ヴィータはそんな彼の体からアルコールの臭いが漂ってきていることに気がつき、少し眉をひそめた。

「朱鷺守、お前。飲んできただろう」

「まさか、飲んできたのではなく、まだ飲んでいる最中だよ」

 彼はそういうと、懐から蒸留酒(スピリッツ)の缶を取り出しにやっと笑った。

「明日に響かないようにしてくださいね。それと、飲酒での訓練は禁止されていますよ」

 なのはは苦笑を浮かべ、もう一度岩に腰を下ろした。

「ここは管理局じゃねぇんだ。少しぐらいは大目にみてくんな」

 朱鷺守は手のひらサイズの缶から少量酒を口に含むと余韻と共に息を吐き出し、夜空を見上げ、少しの間沈黙を保った。

 自然と会話のなくなる三人だったが、その沈黙を破ったのはヴィータだった。

「なあ、朱鷺守。今回の作戦、どう思う?」

 今回の作戦、明朝に控えたそれを思い朱鷺守は少し思案して答えを出す。

「どう思うも何も、現状できる最良の作戦だろう。俺も同じことを考えていたから、特に疑問はない」

 その答えはなのはもヴィータも想像していたことだった。

「だけど、結局またエルンスト君に頼ることになってしまいました」

 なのはの言葉に朱鷺守も、「そうだな」と相づちを打つ。

「だが、まあ。いいじゃねぇか。俺たちは俺たちのベストであいつを支援する。あいつは俺たちの支援を受けてベストを尽くす。それでいいじゃねぇか」

 おそらく、朱鷺守も納得のできないところがあるのだろう。しかし、宣告述べたとおり、自分たちがエルンストと同行したことろでできることは、彼の足を引っ張ると言うことだけであることを理解していた。

「何事も、完璧に回ることはねぇか」

 ヴィータはそういうと寝転がった。夜風に冷やされた地面が背中を通して体の熱を奪い心地がいい。このまま寝ちまおうかと彼女は一瞬思ったが、なのはの手前それはやめておいた。

「そうだね」

 なのはは寝転がって広がったヴィータの髪をいじりながらつぶやいた。

『Master,There is the word that the right man in the right place. And he is the best scout soldier……(マスター、適材適所という言葉があります、そして彼は最高の偵察兵であり……)』

 なのはに気を利かせ、【レイジング・ハート】はその身を光らせた。

「うん、わかってるよ、レイジング・ハート。私は私のできるベストを尽くすだけだって。わかってるよ」

『All right,master.I will do my best with you tomorrow.(それでいいのですマスター。私も明日、あなたと共にベストを尽くしましょう)』

「ありがとう、レイジング・ハート。心強いよ」

『Me too.(私もです)』

「相変わらず、デバイスとは仲がいいな」

 レイジング・ハートを手のひらにおいて、楽しそうに会話をするなのはを見て朱鷺守はゆっくりと杯を傾けた。

「長いつきあいだからな」

 まだ会話を続けるなのはを見てヴィータも体を起こして自分のデバイスをつついた。

 寡黙な【グラーフ・アイゼン】はそれに光を明滅させることで答えた。

「さてと、俺はそろそろ戻らせてもらうよ。二人ともあまり遅くならないようにな」

 朱鷺守はそういうと酒缶を懐にしまい、立ち上がった。

「あ、あまりお相手できなくてすみませんでした。朱鷺守一尉」

 レイジング・ハートとの会話に没頭するあまりあまり会話もできなかったなのはは朱鷺守にわびた。

「気にすんな」

 朱鷺守はそういいながら手を振り、森の奥へと消えていった。

「あたしらもそろそろ帰ろうぜ。なんだか眠ぃ」

 ヴィータはそういいながら目をこすりながらあくびを着いた。

「そうだね、帰ろうか」

 なのはもレイジング・ハートから手を離し、ふうと一度ため息をついた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。