魔法少女リリカルなのはFF〜Midnight Circus〜 作:柳沢紀雪
そうして事件は解決した。レイリアはエルンストの射撃を受けその身を朱に染め上げ、その命を散らした。
彼は、その命の終わりに何を見たのだろうか。エルンストは感じていた、あれはおそらくすべてをやり遂げた者の安らかで誇らしい最後だったと。
レイリアの死と同時に停止したガジェットと戦闘機人はその後のなのは達の攻撃で完全に機能を停止し、それを見届けていた南雲もまた、エルンストの放った一撃の下でその活動を停止していた。
突然に収束したその事態を見つめ、ただ呆然とそこに横たわる二体の亡骸を目にして何の行動も起こすことのできない彼らのもとへ降り立ったエルンストは、レイリアが背負ってきたもの。自分自身に託したものを語った。
レイリアの覚悟。それは、今こうしてこうあることだった。
エルンストはあの夜に聞かされた言葉を、彼の遺言ともとれるその言葉を一字一句違えることなく口にした。
レイリアは、南雲によってその命を質に取られていた。故にレイリアは確かに今まで南雲の利益のために行動し、エルンスト達機動中隊の面々をこうして罠へと誘い込んだことは確かなことだ。
しかし、レイリアはその立場さえも利用し、最終的に確実に南雲をしとめるタイミングをエルンストへと提供したのだ。
「あいつは最初からすべてを裏切っていた。俺たちも、南雲も」
そう、レイリアの切り札とは裏切りであり、その立場を有効利用することだった。
「殺すことはなかったじゃないの。あんたは、それだけ知っていたのに、レイリアを殺したっていうの?」
アリシアは歯を食いしばり、手のひらを握りしめ、自分自身を消耗品として活用したレイリアの亡骸をただ見つめていた。
「あいつの命は、もう既になくなっていた。あいつは、俺に頼んだ。自分を殺してくれと」
俺はただ、その望みをかなえただけだと言い放つエルンストは、その表情を一切変えることなく、自らの感情を一塊のマシンへと変貌させた。
「それが、こいつの覚悟だったって訳か。結局、自分の命を持ってすべてをやり遂げた。まったく、お前達は何処まで潔いのか。これだけのものを見せられては、自分自身の決意の甘さを突きつけられたような感触だ」
自らの羽織るコートをレイリアの亡骸に送り、朱鷺守はまるで死んでいった彼に敬意を表するように深く頭を垂れた。
「私にはわからない。どうして死ぬ必要があったの? どうして死ぬことを選んだの? それを言ってくれれば私たちが力になれたかもしれない。誰も死なないですむ方法があったかもしれない。それなのになぜ?」
なのはは震える膝に力を奪われ、その場に崩れ去るように跪いた。
「理由は明快です。そうすることで果たされることがあり、守れるものがあったからです。それが俺たちの行動理念。最大限有効活用されるべき部品としてのあり方なのです」
エルンストの言葉に、なのははキッと瞳を鋭くさせ彼をにらみつけた。
「君は、どうして、何で。どうしてそんな生き方しか選べないの?」
おそらく、なのはには一生をかかって理解のできないことだろうとエルンストは感じていた。人命より優先しなければならない任務がある。その結果を出すためには己の命さえも消費する必要がある。そうあって守られるものがあり、果たされることがある。
沈黙に沈む彼らを、いや、要塞全体をとりわけ巨大な振動が襲いかかる。
「なんだ?」
必死に体の安定を取ろうと足を踏ん張る朱鷺守だったが、これは地面自体が傾いていることを感じ、一度空中に低く飛び上がった。
「まさか」
エルンストは、最悪の事態を想像し【ストライク・ビューワー】に情報収集を命じた。
「いったい何が……」
アリシアにしがみつきながらエリオンもその振動に耐えつづける。
そして、その振動が緩やかになり次第に消えていった。
エルンストは起き上がり、【ストライク・ビューワー】が収集し処理した情報を引き出しそれを見て驚愕した。
『よう、無事か?』
そして、困惑に彩られた彼らの中心に一人の男性がモニター越しに割り込みをかけてきた。
「ベルディナ・アーク・ブルーネス。あんたか」
もう、顔も見たくないと思っていた彼の姿がそこに現れたことに頭痛を覚えた朱鷺守は、彼に対して嫌そうな表情を隠さず伝えた。
『無事のようだな。何よりだ』
ベルディナの言葉にエルンストは頭を振って答える。
「無事ではない。レイリアが死んだ」
『そのようだな。それに関してはこちらの予定通りだ。何もお前が気にすることではない』
やはり、レイリアの死は最初から予定されていたと言うことか。ベルディナであれば、彼を消耗品として扱うことに躊躇はないはずだ。
「ところで、この揺れはいったい何なのですか? あなたが出てくると言うことは何かやっかいなことが怒っていると推測できますが」
ようやくアリシアから離れたエリオンは冷静な視線に棘を混ぜ彼を見つめた。
『おそらく、エルンストは既に感づいているだろう。どうだ?』
ベルディナの要請を受け、エルンストはそれに応えた。
「この要塞が現在浮遊し、徐々にその高度を上げていっている。このままだと、いずれ大気圏を突破し宇宙空間へ。ストライク・ビューワーの予想では、この要塞は時空間を航行する能力もあると出ている」
『ご名答、流石だな。エルンストの言うとおり、そいつは今浮遊要塞として息を吹き返した。レイリアが最後によこした情報によると、やっかいなことにその要塞はどうやら聖王のゆりかご並かそれ以上に危険な代物であるらしい』
聖王のゆりかごの危険性を知るなのはとヴィータはそれ以上の危険性のあるものと知らされ、寒気を覚えた。
『現在、何とかそれを破壊できるぐらいの戦力を集めている最中なんだが、正直間に合いそうにもない。それがもしも時空間への進出を赦せばこちらでは対処のしようがない』
ベルディナは言葉を切り、モニター越しにそこに立つ全員の表情を伺った。
『お前らに頼む最後の任務だ。そいつを黙らせろ。以上だ』
ベルディナは彼らの答えを聞くことなく通信を終えた。おそらく、間に合わないにせよ最後の切り札として大規模戦隊の集結に戻ったのだろう。
「まったく、言いたいことだけ言って、自分はさっさとおさらばって訳か。何処まで行っても自分勝手な奴だな」
朱鷺守の愚痴にアリシアは大きく頷き、不満に腕を振り回した。
「まったくよ。何よ、あいつ。ひょっとしたらあいつこそ諸悪の根源なんじゃないの? 一番最初にやっつけてやらないといけなかったんじゃない」
その意見には賛成だとエルンストは答え、朱鷺守にこの後の行動について意見を求めた。
「とにかく時間がない。部隊を二つに分けよう。片方は、コントロールルームでこの要塞のコントロールを掌握する。もう片方はこの要塞の動力室へ向かいそれを完全に破壊する」
その意見に全員が肯首で答えた。
「それなら、コントロールルームには俺とエルンスト。そして、残りは動力室へ……」
という朱鷺守は、そこまで言葉をつなぎ、突然体を折り曲げた。
「と、朱鷺守さん。どうしましたか?」
なのはは突然咳き込みうずくまり、咳き込む朱鷺守に驚き彼に肩を貸した。
「ここで限界が来るとは。今回は少しはしゃぎすぎたか」
口の端に鮮血を浮かべながら、朱鷺守は力なくなのはの肩に体重を預ける。
「どうやら、コントロールルームには俺一人で行くことになりそうだな」
エルンストの呟きにアリシアは異を唱えるが、エルンストはそれを拒否した。
「何でよ?」
アリシアは勢いよくエルンストに飛びかかろうとするが、その勢いも急激に抜け去る力の前に崩れ去ることとなる。
「あ、れ? 何で?」
がたがたと震える体を両手で抱えながらアリシアは呆然とその状況を見下ろした。
「アリスも限界なんだよ。そもそも僕達の体はそれほど長時間の魔力運用には適していないんだ」
アリシアほど急激な魔力運用をしたわけではないエリオンは彼女に比べれば幾分ましにも見えるが、それでもそのうちに潜む疲労と障害は無視できるほどではないようだった。
「決まりだな。高町一尉は朱鷺守一尉を。エリオンはアリシアをそれぞれつれて脱出。安全地帯へと誘導する。そして、残った俺は制御室へ。ヴィータ二尉は動力室を頼んでもいいか?」
ヴィータは満身創痍の自分たちを見回して、静かに頷いた。
「ちい、悔しいがお前の言うとおりだな。俺たちがここにいれば足手まといになる」
朱鷺守はこみ上げる吐血をこらえ、足を踏ん張った。
「エルンスト。絶対帰ってきてよ。待ってるからね」
震える声で言うアリシアにエルンストは頷きを返した。
「それでは、高町一尉、朱鷺守一尉、リーファ姉弟。後ほど」
エルンストは最後に彼らに最敬礼を送り、そして立ち去る。広間の隅の壁に最後に残された爆薬をセットしそれに火をつけた。
爆発と共に大穴が穿たれ、その先には巨大なメインシャフトの巨抗が姿を見せる。
「なあ、エルンスト。昨日の晩、酒場のポーカーで大もうけしてな。今夜はそれで飲み明かそうぜ。未成年とか酒が飲めねぇとかなしにして、一晩騒ぎ明かそうぜ」
朱鷺守の残した言葉にエルンストは肩をすくめて返した。まったく、決戦の前夜にこのものはいったい何をいていたのか。だが、それも悪くないと思ってエルンストは、「実は俺も酒は好きだ」と言って返した。
エルンストは、風が吹き上がるその巨抗を見下ろした。
何処までも延々と続くように見えたその空洞は下から吹き上げる風にのって不気味な音を奏でる。
エルンストは、覚悟を決めてそれに身を躍らせた。
それを見届けたなのは達は朱鷺守、アリシアに肩を貸しその場を離れようとする。
しかし、なのははエルンストが立っていた場所に一つの光り輝くものがあることに気がついた。
「これは? デバイスかな?」
なのははそれを拾い上げ、その赤色の真球が自分の持つデバイス【レイジング・ハート】のコアに酷似していることに気がつく。
「エルンストが持ってた奴だな」
なのはの肩を借りる朱鷺守は、それがいつもエルンストが肌身離さず持っていたものだと言うことに気がついた。
なのはは壊れて反応を返さないそれをしばらく見つめ、後でエルンストに返しておこうと思いそれをスカートのポケットにしまい込んだ。
「あたしも途中まで一緒に行く」
ヴィータはそういって彼らを先導するように先を飛び立った。