その日暮らし   作:夏の一日

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サブタイトルはペルソナ4の台詞です。


あたし、今日はヒマだし…つ、ついていっちゃおうかな!?×4

「はぁ、疲れた。」

 

 宿に戻ったユウガオは懐からイーウィヤを抱き上げてベッドに倒れ込む。そのまま手に持ったイーウィヤの腹に顔を突っ込み、思い切り吸い込んだ。

 

「にゃおおおお❤︎」

 

 イーウィヤは嬌声をあげ、ぐったりと体の力を抜いた。ユウガオはフサフサした毛の中に顔を埋めながらしばらく深呼吸を続け、満足して立ち上がり晩蝉を手に抜刀しようとすると、部屋にノックの音が響く。ユウガオが扉を開くとエルーンの耳とドラフの角を持った、目を閉じた女が立っていた。

 

「祝福。(担い手よ。貴方にも祝福を)」

 

 ガレヲンの唇がユウガオの額に触れる。ユウガオはガレヲンを部屋の中に招き扉を閉めた。

 

「はじめまして、ユウガオです。何の用ですか。」

 

「警邏。(私は六竜の金、ガレヲン。理を断つその刀に呼応し、私達は目覚めました。空の世界を破壊しかねないその刀は、数年の間貴方の手の中にあり、しかし空の平穏は保たれている。私達はその理由を知らなければならなりません)」

 

「そうですか。これからまた晩蝉を使う用事があるので、付いてきますか?」

 

「謝意。(感謝します、担い手。貴方もまた愛しき命の一つ、空が平穏な内は、貴方の営みを妨げはしないと約束します)」

 

 ユウガオがベッドの上を見ると、猫の形の皺を残し、イーウィヤは何処かに消えている。ユウガオは晩蝉を振るい、空間を切り裂いて裂け目を通った。

 

「驚愕。(これは…)」

 

「ぷひ?ぷひー♪」

 

「やあヒコウリ、久しぶり。」

 

 山中の森の中、小さな祠の前で空中に裂け目が広がり、そこからユウガオとガレオンが現れる。森を散歩していた小さなウリ坊はそれを見つけ、見知ったユウガオに気付いて駆け寄った。

 

「ヒコウリー、何処に行ったのー!…あっ居た、それにお兄も!…お兄、誰その女。」

 

 二匹のウリ坊を連れたドラフの少女が木々の間から現れ、ユウガオ達を見つける。

 

「やあクビラ。彼女とはついさっき出会ったんだ。色々事情があるらしいから、気にしないでやってくれ。」

 

「陳謝。(私には構わずに、人の子よ)」

 

「いや、凄く気になるんですけど…。まあ、お兄が女の人といるのはいつもの事か。それよりお兄、今日はお兄が来るから、弟妹達と準備してるの!婆やと里長もお兄に用があるって!とりあえず私の家いこ!」

 

「クビラ、悪いけど今日はあまり長く居られないんだ。」

 

「ええ!?それじゃあ急がないと、色々用意してるのに!お兄、ダッシュ!」

 

 小走りで駆けていくクビラとウリ坊達、それを追いかけるユウガオの背をガレヲンは慈愛の笑みを浮かべながら見つめ、ゆっくりと後を追った。

 

 クビラの家に招かれたユウガオはクビラの弟達に纏わりつかれながら料理を食べる。テーブルを挟んだ向かいでクビラはニコニコと笑っていた。

 

「なあなあお兄、あの人お兄の彼女?」

 

 弟達の一人がクビラの妹達に囲まれるガレヲンを指差しながらユウガオに耳打ちする。ユウガオが否定すると、少年は喜んでさらに顔を近づけた。

 

「じゃあさ、クビラ姉ちゃんと付き合えば?姉ちゃんいつもお兄の話ばっかしてるんだぜ。」

 

 ユウガオはその言葉に答えずに、彼のために用意された箸を使って料理を口に運んだ。少年は不満げな顔をしてユウガオの腕を引っ張るがびくともしない。小皿に乗せられた何かの漬物は濃い味付けで白米に良く合った。

 

「それ、東の方出身の参拝客に教えてもらったんだ。お兄そういうの好きそうだから。」

 

「ああ、美味しいよクビラ。」

 

「ほんと?良かったー。」

 

 朗らかな様子のクビラをユウガオは切れ長の目で見つめた。褐色の肌に生える金髪や十二神将の派手な服装によってハイカラにも見える少女は、才あるが故に力を授かれずにいることを知らずに、自らの非才を悩んでいる。しかし数年の付き合いがあるユウガオは真実を知りながら彼女に何も伝えずにいた。

 膝の上に乗ってきたウリ坊達を撫でていると、クビラは座ったまま膝行で机を迂回してユウガオの隣に移動する。弟達が気を利かせて散って行き、ユウガオが天を衝く二つの角の間に手を置くと、クビラはその上に自らの手を重ねてはにかんだ。

 

「お役目のことは負担になってはいないか。」

 

「うん、大変だけど…大丈夫。前にお兄が言ってたように、気楽にやるよ。あ、勿論手を抜くって意味じゃないからね!やるからには全力でやるし、だけど気楽に…。」

 

 しばらくして、ユウガオが手をどけようとするとクビラが力を込めてそれを引き留めた。細くしなやかな指は鍛錬によって少し皮膚が厚くなっている。

 

「あのさお兄、この後、用事あるんだよね。私今日はもうお役目の仕事も終わったし…ついていっても、良いかな?」

 

「今日は顔を出しに行く場所が多い。お前も何処か疲労が感じられるし、今日はゆっくり休め。お前を連れてこの後の奴らがそれに釣られて、大所帯になっても面倒だし。」

 

「それが本音じゃないの?めんどくさがりだなあ、もう。あっちの女の人は良いのに、私は駄目なんだ。」

 

 二人の視線の先では、ガレヲンが両手を翼のように広げ、そこに子供達がぶら下がって遊んでいた。その人間離れした美貌や女性的な体つきを見てクビラは更に手の力を強めるが、ユウガオはその上に更に手を優しく重ねてクビラに脱力させると、膝の上のウリ坊達を退かし、箸を置いて立ち上がる。

 

「ご馳走様。クビラ、何度か言ったがほどほどにやれば良い。お前達もな。」

 

「ぷひー。」

 

「えーお兄もう帰るのー?」

 

「あっ忘れてた、里長達が話があるって!」

 

 面倒な話は聞かなかったことにして、ユウガオは晩蝉を振るうと裂け目の中に消え、ガレヲンもクビラ達に礼を言ってその後ろに続いた。

 

 

 

 

 裂け目の先は何処かにある薄暗い倉の中だった。ジメジメとした空気のその場所で、微かに何かを食べるような音がする。ユウガオが保管物を収納している木箱や棚を避けて奥の方に進むと、木箱の陰に隠れた倉の隅で、三角座りした少女がちびちびとチーズを齧っていた。

 

「はぁ、隅っこが一番安心する…。チーズおいしいなぁ。」

 

「お兄、誰この暗いひとー?」

 

「浮気ー?」

 

「戒告。(こら、そのようなことを言ってはいけませんよ)」

 

 ユウガオが振り返ると、ガレヲンは両腕を横に広げて立ち、そこにクビラの妹達がぶら下がっていた。ユウガオは晩蝉を振るい、少女達を抱き抱えて狭間の中に置く。

 

「クビラ姉ちゃーん、お兄が浮気しーー。」

 

 狭間が閉じると、その向こうでチーズを齧っていた少女、ビカラがブルブルと震えながらユウガオを見上げていた。

 

「きょ、今日は兄さんが来る日だった…!それに誰あの女の人、何か子供もいっぱいいたし…!やっぱり兄さんは陰に見せかけて陽のパーティーに一人はいるイケメンクールキャラ、可愛い奥さんと毎夜カプレーゼを食べさせあって、捨てられたあたしは一生エレメンタルチーズを一人寂しく齧るんだ…あばばばばば。」 

 

 白目を剥いたビカラを抱き上げて、ユウガオは倉の外に向かう。横開きの扉を開くと空からの眩しい光が溢れて、外では人気のない静謐な境内を穏やかな昼の太陽が照らしていた。日除けのついた長椅子にビカラを横たわらせ、ユウガオもその端に座る。彼の前では日の光を浴びながらガレヲンが空に伸ばした手の甲に小鳥が止まっていて、その姿は優美な女神の彫像のようだった。

 

「…あれ、兄さん?えへへ、兄さんだ。夢かなぁ、嬉しいなあ、兄さん、兄さんに会えた。」

 

 目を覚ましたビカラは寝ぼけ眼で体を動かし、ユウガオの腿の上に後頭部を乗せた。

 

「あれ、この感触、硬さ、も、もしかして夢じゃない…?」

 

 ユウガオはガレヲンから視線を外し、鼠神宮の外、人々の暮らす街の方を見やる。目を凝らすと行き交う人の中には大きなネズミのつけ耳をつけた者がちらほらといた。視線を自らの膝に向けると、ビカラは顔を赤くしながら水色の学生服のような上着の下で華奢な肩を揺らしている。

 

「に、兄さん、あのっ、お母さんたちが今日の晩ご飯に兄さんを連れてこいって…あ、あのあの、それと兄さんに見て欲しいものが…!」

 

 ポーズを取ったまま固まるガレヲンの頭の上に白いネズミが登ってチーズを齧っている。ビカラが鞄からつけ耳を取り出して自分の頭に装着すると、黒髪が白く染まり、陰鬱な表情が明るい笑顔に切り替わる。ユウガオの膝の上でビカラは歯をキラリと光らせた。

 

「やあ!ぼくビッキィ!久しぶりだね、会えて嬉しいよ兄さん!」

 

 ガレヲンの胸の間からリスが顔を出し、足元では鹿の親子が寝そべっている。ビカラがつけ耳を外すと元の黒髪に戻り、全身に儚く影の薄い雰囲気が戻った。

 

「あっあの、あたし子神になってから、今みたいに想像の中にいた理想のあたしになれるようになったんです、だから兄さんと前よりも楽しくお話しとか、そういうのも出来ると言いますか何というか、その、はい…。」

 

 勝手に沈んでいくビカラの額を撫でながら、ユウガオは腰に差した晩蝉に意識を向けた。ビカラの両親を助けたのは偶然だったが、彼女の未来はそれほど変化しなかったように見えた。並外れた才能を持つ彼女が十二神将に選ばれるのは宿命とも言えるし、ユニークな気質も天性のものなのだろう。若木の原木や木の枝を組んで作られた日除けにはまばらに隙間があり、そこから降り注ぐ幾筋もの光線のうちの一つがビカラの黒髪の上に落ちて揺れた。

 

「また来るよ。ちょっと今日は忙しくてな。」

 

「はえ?あ、にっにいさん待って、晩ごはんにお母さんがぁ…。」

 

 ビカラの頭を持ち上げて、長椅子の上に優しく置きながら立ち上がる。晩蝉を振るうとガレヲンが動き始め、動物たちは方々へ散っていく。ネズミだけは横たわるビカラの肩の上に登った。

 

「祝福。(貴方の道行に、祝福を)」

 

 ガレヲンの投げキッスに何故かあわあわと言いながら顔を青くするビカラを背に、ユウガオは狭間をくぐった。

 

 

 

 

 

 広大な草原の片隅に、ケッタギアと呼ばれる魔力で動く二輪車がモニュメントのように置いてある。ユウガオがそれに跨り懐から取り出したキーを差し込んでからスイッチを押すと、独特なリズムのエンジン音が草原に鳴った。

 

「ガレヲンさん、あなたも乗りますか。」

 

「疑義。(何なのでしょう、この鉄の塊は。微かに魔力も感じますが)」

 

「乗れば分かりますよ。」

 

 後ろにガレヲンが横座りで乗ったのを確認し、ユウガオはケッタギアを走らせ始めた。重低音と共に車体が草原の上を駆け抜けて、二人は風と共に草の香りを吸い込む。緑の地平線に向けて走り続けるうちに島の端、港が見えてきた。港から青空に向けて騎空挺が一隻飛び立ち、青空に向けてゆっくりと飛翔してゆく。

 

「佳景。(美しい光景ですね。世界を懸命に生きる命が今大地を飛び立ち、無窮の空へと羽ばたいていきました。彼らにも、祝福を)」

 

 ケッタギアを止めてそれを見上げる二人の元に、遠方からエンジン音が近付いてくる。ユウガオは音の方を見て、シートに深く座り直した。

 

「ガレヲンさん、スピードを上げるので横座りじゃなく、跨って下さい。」

 

「清爽。(フフ、先程よりも強く風を感じられそうですね)」

 

 ガレヲンは足を上げてシートに跨り、体をユウガオの背に密着させて両腕も絡める。ユウガオはグリップを捻ってアクセルを開き、風のように草原を進み始めた。

 エンジンの音は二つあり、ユウガオが振り向くと、背後からもう一台のケッタギアが迫ってきていた。それに乗る牛柄の服を着た少女は普段は穏やかな垂れ目の中に剣呑な光を灯し、ユウガオの方を見据えている。またユウガオは彼女の足元、動力部に小さなウシが乗り込んでいるのを見つけた。

 

「ガレヲンさん、これに魔力を流し込んで下さい。スピードを上げたいので。」

 

「了知。(分かりました。更に剛健に大地を踏み締めましょう)」

 

 六竜の魔力を得たケッタギアは凄まじい加速を見せ、追ってくる少女を一気に引き離す。そのままユウガオは島中を走り回り、草原にある牧場の前で停車してケッタギアから降りた。牧場の近くにある家の前で作業していたドラフの男性が、嬉しそうにユウガオに近付いてくる。

 

「おおっ、ユウガオ君じゃないか!久しぶりだなあ、元気にしてたかい?」

 

「ええ。お久しぶりです。この島の空気を吸っていると、牛乳が飲みたくなってしまって。二本頂けますか。」

 

「勿論だ。ああ、お代はいらないよ。君にはシャトラがずいぶん世話になったからね。」

 

 がま口を取り出したユウガオを手で制して、シャトラの父は家の中に入り、牛乳の入った瓶を二本持ってきてユウガオに手渡す。ユウガオは礼を言ってケッタギアに戻り、シートから立ち上がって牧場の大地を眺めているガレヲンに瓶を差し出した。

 

「これ美味しいですよ、どうぞ。」

 

「冷涼。(つめたい…これは牛の乳ですか)」

 

 ガレヲンが受け取るとユウガオは蓋を開けて牛乳を飲み、ガレヲンもそれを真似て飲んだ。新鮮な牛乳の爽やかな甘みが口に広がる。瓶を傾ける二人の元にエンジンの音が近付いてきて、先ほどのケッタギアが彼らのすぐそばに停車した。

 

「もぉ〜〜〜〜〜〜〜!」

 

 ケッタギアから降りてきた少女、シャトラは唸りながらユウガオ達の方へ向かうが、その速度は遅々としている。とてとてと歩いてようやくユウガオの元に辿り着いたシャトラは、彼の胸をポカポカと叩いた。

 

「ユウ兄、ひどいよ……わたしから逃げて……他の女の子とケッタギアデートなんて……今日はわたしと会う日だったのに……。」

 

 怒りながらものんびりとした声でそう言ったシャトラは、ユウガオの胸に縋り付きながらガレヲンの方を見た。牛乳を飲み終えたガレヲンは白い跡のついた口の端を拭いながら顔をシャトラに向ける。

 

「滋味。(この乳はとても美味しいですね。芳醇な大地の香りがします)」

 

「うししし♪良かった……うちの自慢の牛乳だよ……♪」

 

 穏和な性格のシャトラは、一往復の会話で先ほどまでの怒りを忘れて機嫌良く笑う。ユウガオはその隙に彼女の柔らかい手をそっと引き離した。

 

「シャトラ、俺はこの後予定があってね。約束はまた今度にしてくれ。」

 

「もぉ〜〜〜!……でもいいよ……追いかけっこみたいで、結構楽しかった……。愛の追走劇、だよ……。」

 

「それは良かった。また手紙を書いて欲しい。」

 

「うん……。今度は一緒に牛さんのうんちを掃除して……お昼寝しようね……♪」

 

 瓶をシャトラに渡して、ユウガオは晩蝉で空間を斬る。

 

 

 

 

 

 狭間に入ると辺りの香りが牧場の土と藁の混じったようなものから桃のような甘いものに移り変わり、ユウガオは晩蝉を突き出して二つの戦鎚を止めた。

 

「「お兄ちゃん!」」

 

「やっと来たガウ、ユウグレ。お前が遅いからまた二人が喧嘩を始めたガウ。早く止めるガウ。」

 

 ユウガオに気付いた双子のエルーン、フアンとパイは武器を降ろし、近くでぬいぐるみのような虎、ラオラオがため息をついた。

 

「わーお兄ちゃーん!久しぶりだな!ほら見て、どうこの服!」

 

「フアン、お兄ちゃんに変な服見せないで。ねえお兄ちゃん、私と一緒にこの本を読もう。そして高まった二人は、禁断のアバンチュールを…。」

 

「おい、お兄ちゃんにえっちな話をするなパイ!後変な服じゃない!」

 

「別に普通の話、そんなこと言ってるフアンがえっち。」

 

「戒飭。(喧嘩はいけませんよ。仲良くしなさい)」

 

「「はうっ!」」

 

 喧嘩を続ける双子は制止の声をあげたガレヲンの方を向き、その容姿に衝撃を受けて停止した。

 

(何だこの人、美人すぎるぞ!まさか、お兄ちゃんの…!?)

 

(何この人、えっちすぎる…!とんだものだよこれは…!)

 

「またロクでもないことを考えてるガウね…。ユウガオ、オレっちは先に寅神宮に向かうガウ。二人を連れてお前も来てくれガウ。」

 

 ラオラオが背中を向けて歩き始めるなりまた喧嘩を始めた二人を、ユウガオは両脇に抱えた。

 

「うわー!やめろお兄ちゃん、どこ触ってんだ、もう!」

 

「わたしを捕まえて、酷いことするつもりなんだ。お兄ちゃんのヘンタイ。」

 

 二人は悪態を吐きながら、久しぶりに自分たちの体を抱えるユウガオの腕の感触に喜びを抑えきれずに、口元をによによとさせている。

 

「二人とも、少し大きくなったな。」

 

 双子を抱えながらユウガオが歩き始めると、フアンは腕の中で暴れ回り、パイは諦めて隠し持っていた小説を読み始める。

 麗らかな日差しの元、ユウガオが大きくなった二人の重さを手に感じながら歩く中、パイはふと本を閉じ、ユウガオの顔を見上げた。

 

「お兄ちゃん、わたし悪いことしたから、この可愛いお尻にお尻ぺんぺんしていいよ。」

 

 後ろを歩いていたガレヲンの目の前にパイの尻が突き出される。フアンはそれを聞いて手を伸ばしてパイを攻撃しようとするが、ユウガオは手が届かないようにフアンを縦抱きに持ち替えた。

 

「えっちなのはだめなんだぞ!お兄ちゃんにそんなこと言うな!」

 

「フアンは暴れるふりしてお兄ちゃんに体擦り付けてた。今だってどさくさに紛れてお兄ちゃんの顔に抱きついてるし、えっちすぎ。」

 

「うがーー!」

 

「善様。(仲の良いことは、素晴らしいことです)」

 

 

「どうだ、お兄ちゃん!わたしのこともっと好きになったか?」

 

「可愛いよフアン。」

 

「はうっ!」

 

 ベッドの上で白いブラウスと青いスカート着てポージングをするフアンはユウガオに褒められて顔を赤く染め、パイは隣のベッドでそれを面白くなさそうに眺めた。

 

「じゃあじゃあ次はこっちの服、お兄ちゃん、あっち向いてて!」

 

「もうおしまいだよ。次はわたしと一緒に本を読もう、お兄ちゃん。」

 

「お兄ちゃんにえっちなの見せるな!まだ服半分くらい残ってるから、お兄ちゃん、全部見てもらうからな!」

 

 ユウガオがパイの方を向くと、フアンは面白くなさそうにベッドの上に座り込む。

 パイは椅子に座るユウガオの膝の上に乗り、淑女の騎空団の最新刊を開いた。本を持つ自分の手をユウガオの掌で包み込ませながらページを捲っていく。

 

「おお…これは…そんな所に…。」

 

 フアンはパイに飛びかかろうとしていたが、ユウガオが本の方を見ていないことに気付くとニヤリと笑い、熱中するパイにバレないように手を小さく振ってユウガオの顔を自分に向けさせる。そのままベッドの後ろで服を着替え、ファッションショーを再開した。

 ユウガオはパイが頭を揺らすたびに香る淡い桃の匂いを顔に受けながら、無表情でフアンのポージングを見る。

 扉の陰から覗き見るラオラオはユウガオに気の毒そうな顔を向け、その後ろでガレヲンは幼い生命達の奔放な輝きを慈悲深い微笑みを浮かべながら眺めていた。

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