もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から帰ってきたら(スバル主人公)   作:ああ

13 / 14
シリウスの負傷共有への対抗策

「気持ち悪い気持ち悪い! その忌々しい目玉ぁああアアッ!!」

 

 戦闘が始まって早々、シリウスは問答無用でスバルとエミリアに向かって赤紫色の豪炎を放った。周囲の大通りには、逃げ遅れた民衆たちがまだ大勢残っている。一人でも巻き込まれて燃やされれば、その瞬間に全員の命が吹き飛ぶ。

 

「――アル・ヒューマ」

 

 シリウスの過激な先制攻撃。だが、これはスバルの執拗な挑発によって完璧に誘導されたものだった。

 スバルが煽った場合、シリウスの取る初手の攻撃は二種類。鋼の鎖を振り回して肉体を破砕しに来るか、あるいはこの豪炎か。対処は鎖の方が圧倒的に楽だが、もしも最悪の豪炎を放ってきた場合の対応も、スバルは事前にエミリアと綿密に打ち合わせていた。

 

「くっ……!」

 

 ドクン、とスバルは胸の奥で心臓の脈動を感じ、断ち切られぬよう制御された『魂の鎖』を通じてエミリアへ力を送る。

 刹那、エミリアの周囲に生じたのは、大通りを丸ごと遮断するほどに巨大で強固な氷の絶壁。激しく吹き荒れる赤紫の豪炎を、その絶対的な冷気で見事に完全に遮断してみせた。

 

「ウザい! 臭い! お前たちはどこまで私の権能を、私の愛を知っているんだ! これは、私とペテルギウスだけの、二人だけの愛の形なのにぃいいッ!!」

 

「諦めろ。お前がペテルギウスに会うことは、もう二度とねえよ」

 

 シリウスは、エミリアが民衆を守りながら完璧に炎を防ぎきったことで、己の『憤怒』――負傷共有で一網打尽にしようとした魂胆を完全に見破られたことに激怒したのだろう。

 もしもスバルがこれまでの経験からシリウスの権能の詳細を知り、エミリアと対策を共有していなければ、この最初の一撃で王都の民衆もろとも全滅して終わっていた。

 

「スバル……」

 

「大丈夫、これは作戦通りの使い方だ。気にするな!」

 

 想定通りに完璧に豪炎を防いでみせたものの、エミリアは早速スバルの権能を行使してしまったことに対して、ひどく申し訳なさそうな視線をスバルに向けた。

 スバルは事前の作戦会議で、エミリアにこう約束させていた。この『魂の鎖』でエミリアが基本的にスバルの魂を使うのは、「シリウスの広範囲攻撃から周囲を守るために大魔法を使う時」と、「エミリア自身が致命傷を負って超回復を必要とする時」の二つの例外だけだと。

 

 この権能を使い、際限なくマナを貪り合えば、消費されるのは二人の『正気』だ。力に頼りきってシリウスに勝ったとしても、その先に待っているのは、歪んだ共依存関係や、傲慢で重い感情を互いに引っ張り合う破滅の未来。

 スバルがそれを断固として拒絶したからこそ、エミリアもその強い意志を汲み取り、限定的な行使に留めると決めていた。

 

 力を無駄に浪費せず、正気を保ったまま、人間として真っ当に勝ちにいく。今ならその絶対的な自信がある。

 なぜなら、今のスバルには、この状況を覆すための『奥の手』と『切り札』が、それぞれ別々に用意されているのだから。

 

「いきなり感情的に暴れちゃってごめんねえ。でも、防いでくれてありがと! どうかしら、少しだけ言葉を交わしてはみませんか?」

 

「いいえ。あなたの言葉は、何一つ聞かないわ」

 

 シリウスはあれほど過激だった先制攻撃を防がれたというのに、今度は急に不気味なほど憤怒を沈め、猫撫で声でそう言い出した。対するエミリアは、一切の躊躇なくそれを即座に突っぱねる。

 だが、シリウスはその冷たい拒絶に激昂することもなく、ただニヤニヤと悪辣な笑みを顔全体に浮かべていた。

 

「エミリア……俺が合図したら、一気に『あれ』をやるぞ」

 

「ええ。分かったわ」

 

 スバルはシリウスの不気味な反応を頭の片隅に追いやり、エミリアに静かに声をかけた。

会話の通じない狂人、シリウス・ロマネコンティの奇妙なペースに惑わされては絶対に駄目だ。

 

「あいつは油断しているように見えて、本当に底意地の悪い女だからな」

 

 スバルはそう言って、油断なく周囲の状況へと視線を走らせる。

 大通りに残されていた民衆たちは、すでにシリウスがばら撒いた『憤怒』の初期微動の精神汚染に当てられており、逃げることもできずに、全員が呆然と白目を剥いて立ち尽くしていた。

 シリウスの精神汚染が進行した場合、瞳を赤く発光させてシリウスの狂気に同調し、暴徒と化してスバルたちに襲いかかってくるパターンと、このように「魂の抜け殻」のようにその場で身動きを奪われるパターンの二つが想定されていたが、シリウスは後者の絡め手を選んだのだ。

 

 この戦いにおいて、身動きの取れない民衆は、スバルたちにとっては明確すぎる弱点になってしまう。彼らが一人でも傷を受ければ、負傷の共有によってエミリアたち全員の肉体が弾け飛ぶ。この負傷の共有は、スバルの『魂の鎖』によって精神汚染自体はシャットアウトしているエミリアにも、物理的な肉体の破壊として等しく適用されてしまうのだ。

 

「アア、ごめんね、ごめんね半魔さん! 私のせいで、私がここにいるせいで、あなたにそんな醜い真似をさせてしまって、本当にごめんなさい! でもね、ありがとう、ありがとう! だって見てご覧なさいな! あなたのせいで、あなたのすぐ隣にいるそこの可哀想な少年の目も、すっかり、すっかりあなたと同じ紫紺の瞳に腐ってしまっているではありませんかぁ!!」

 

 シリウスの放った甲高い言葉の刃は、いま、エミリアが心の奥底で最も気に病んでいた急所を、的確に、容赦なく抉り抜いてきた。

 

「ああ、そうだよね、そうですよね! これはあの少年が自ら、あなたと同じ世界の憎悪を受け止めようとしてくれた、少年からの狂おしいほどの『愛』、なのでしょう!? お前と同じ地獄を共有して、傷ついて、一つになりたいっていう、濁りのない、純粋な愛の形、ですよね!? 素晴らしいわ、本当に素晴らしい! 愛してる、愛してる、愛してるからこそ――みんなで一緒に憎まれて、みんなで一緒に、苦しまなくちゃいけないんですよねぇ!!」

 

 シリウスの悪辣な挑発。

 何も聞かない、一切相手にしないと心に決めていたはずのエミリアだったが、スバルの瞳の変色を自分のせいだと責め立てられ、その透き通るような表情を、目に見えて大きく激しく揺さぶられてしまった。

 

「――おい、勝手に俺の目の色をナントカ細胞みたいに偽物扱いしてイジるんじゃねえよ。そんで、都合よく俺のスペックを歪んだ愛だの何だのでアップデートするのもやめろ、気色悪い!

エミリア、こんなイカれた奴の、中身がスッカラカンの戯言なんて真に受けるな。こいつの頭の中、自分の妄想だけで完全にからまわりしてやがんだ。気にすんなよ、な?」

 

 少しスバルの前方にいたエミリアは、縋るような、迷子のような目でスバルの方を振り返る。

 権能発動時に変化してしまう、自分の紫紺の瞳――これについては、まだエミリアの納得は得られていない。

 どうしてそうなってしまうのか?と責任を感じられても、発動すれば強制的にこうなってしまう『魂の鎖』の仕様なのだから、説明のしようもなければどうしようもないのだ。

 

「……黙って戦いましょう。あなたは、私と無駄な口喧嘩がしたいの?」

 

 エミリアが気丈さを取り戻し、正面のシリウスに向き直ってピシャリと言い返すと、それを見た怪人はさらに醜悪で悪辣な笑みを顔全体に浮かべた。

 

「あはは! それは、それは露骨に話を逸らしていますねえ! さすがは醜い半魔、さすがは世界の汚物! 言動までもそのおぞましい容姿にふさわしい、醜い醜い醜い!!

たとえ、たとえその可哀想な餓鬼が、自分の意思で目の色を腐らせたわけではないとしても、それはそうとして! あなたの存在そのものが! あなたがそこに生きているというその罪が! そこの男の子を苦しめ、貶め、奈落へ引きずり落としているという事実は何一つ変わらないでしょう!? 変わらない、変わらないですよね!

ナツキ・スバルの不幸の原因は全てお前にある。そして、アア、私のペテルギウス……! 私の愛しい、愛しい、愛しいペテルギウスの不幸の原因も、全部全部全部、お前たちにあるのだ!!

お前たちは本当に世界の、いいえ! 『愛』の敵だと思いませんか、ねえ!?

でも、ありがとう! ありがとう! 私は運命に導かれて、愛に選ばれて、私の全てを懸けて愛を守ります! だから……お前たちのその汚い命で、私たちの愛を汚させないために――ごめんね! 灰になってなくなれぇ!」

 

 狂人の舌というのは、これほどまでによく回るものらしい。

 よくもまあ、そんな不快で悪趣味な言葉が次から次へと滑らかに出てくるものだと、逆に感心してしまうほどだ。

 

「黙れよ。お前、マジで病院紹介してやりたくなるレベルの狂人だな。口から出てくる言葉がことごとく薄っぺらくて反吐が出るぜ。結局何が言いたいんだよ。お前のゴミ電波な頭の中身、ネットの掲示板みたく三行でまとめてから喋ってくんねぇ?

……それとも何? そこまで自分勝手な妄想まき散らさなきゃならないほど、まともに会話してくれる相手がいなかったのか? っと、わりぃわりぃ、ごめんな? お前にはもう、その大好きなペテルギウスと話す機会なんて一生ねぇんだったわ。

いいか。そんなにエミリアに悪口を言ったこと、地獄の底で後悔させてやるよ。エミリアの手を汚すまでもねぇ。俺が率先してお前を泣かせてやる。俺って奴を本気にさせると、ウザさのスペックがカンストするから気をつけろよ?

大体さぁ、格ゲーで勝ちを確信した途端に舐めプして、相手プレイヤーを何度デスコンに追い込んできたと思ってんだ、俺を。……いや、これは実際の戦いだからリタイアはできねぇか。

あれれ〜? お前ってもしかして、俺たちに実力で勝てねぇからレスバにシフトした感じ? そいつは天下の『憤怒』様が聞いて呆れるぜ。お前もう魔女教を引退して、大罪司教『口喧嘩担当』にでも改名した方がお似合いなんじゃねぇの?

――っと、まぁ。無駄話に付き合ってやった時間は、これにて終了だ。

はい! 時間稼ぎおしまい!!」

 

 実際にやってみると、スバルはシリウスに勝るとも劣らないマシンガントークのクソウザ挑発で対抗できていた。その事実に自分で少しがっくりくるが、目的は果たした。目にもの見せてやれ、エミリア。

 

 ドクン――! と、またしてもエミリアは『魂の鎖』を通じてスバルの魂を限界まで引き出した。

 

「この俺の、長いクソ語りこそが合図だぜ!!」

 

「――アル・ヒューマ」

 

「はっ……!? ――あ」

 

 スバルのあまりにも長く不条理な戯言に、だんだんとイライラと眉間に皺を寄せていたシリウスの表情が、一瞬にして唖然としたものへと変わる。

 またしても、エミリアの大魔法がこの戦場に行使された。

 シリウスは当然、「自分が巨大な氷漬けにされる未来」を本能的に思い浮かべ、それを迎撃する構えを取っただろう。だが、シリウスが取ったその身構えこそが、彼女にとって致命的な勘違いであり、二度と取り返しのつかない大きな隙となった。

 

 エミリアの、凛として落ち着いた詠唱。

 その直後、この戦場に巻き起こったのは、スバルたちが最初から決意していた『ある残酷な覚悟』を示す結果だった。

 

 バリバリバリと凄まじい凍結音が響き渡る。

 周囲で避難が遅れ、シリウスの『憤怒の権能』に晒されて白目を剥いていた大勢の民衆たち――彼らの肉体が、エミリアの発動した特大の氷塊の中に、そっくりそのまま封印されるように一斉に凍結されたのだ。

 

 一番その身を守ろうと警戒していたシリウスだけを、完全に蚊帳の外へ外すという絶対の奇策。

 だが、その本当の意味に気づいたところで、もうシリウスには手遅れだった。

 

「お前の負けだ。お前は……エミリアの覚悟に負けたんだよ」

 

 スバルは凍りついた戦場の中心で、冷酷にそう言い放った。

 

「ああああああああああああッ!! なんて! なんてこと! これは、これは魔女の再来、あの忌わしい『嫉妬』の再来だわ!!

ごめんね! ごめんね皆さん! ああ、ごめんなさい、ごめんなさい! こんな、こんな醜い半魔のせいで、皆さまの尊い、尊い一生を唐突に終わらせられてしまうなんて!!

何の罪もない、綺麗な、可哀想な命が! これほどたくさん、たくさん、たくさん、あまりにも残酷に、無残に散らされていくなんて……!

私が、私が、私が皆さんと『愛』を共有する前に! 一つになる前に! 私の温かい胸の中で眠る前に死んでしまうなんて、そんなの、そんなのあんまりですよね……ッ!!

ごめんね! ごめんね! 救えなくてごめんね!!」

 

 血を吐くような大声を張り上げ、大粒の涙を流しながら狂乱するシリウス。

 だが、その歪んだ瞳の奥を見据えれば分かる。本当は民衆の死を悲しんでなんかいないくせに、これみよがしに涙を流すな。どこまでも独善的で、中身のすっからかんな軽薄野郎が。

 

「エミリア……!」

 

 スバルは、そっとエミリアの背中を叩いた。

 逃げ遅れ、シリウスの『憤怒』の精神汚染の犠牲になってしまった罪なき民衆たち。この異常な戦場において、彼らのうちのたった一人でもシリウスに傷つけられれば、負傷の因果が連鎖してエミリアたちもろとも全滅してしまう。その絶対的な弱点を、完全に無力化するための一手――それが、この大通り丸ごとの広域凍結だった。

 

 シリウスの言葉の刃に一瞬は激しく揺さぶられたエミリアだったが、今やその顔からは迷いが一変して消え失せていた。気高き覚悟を決めた横顔で、彼女は強く正面を見据えている。

 

「ええ、まだ終わっていないわ。……でも、すごーくありがとう、スバル」

 

 エミリアが放った『アル・ヒューマ』による極低温の凍結は、単に肉体を冷やすだけの魔法ではない。

 それは、対象の『時間』すらも強引に凍結させる絶対零度の檻。

 これによって、氷の中に閉じ込められた民衆たちは魂ごと完全な『仮死状態』へと移行する。彼らの生命活動が完全に停止している以上、シリウスが外側からどんな衝撃や苦痛をばら撒こうとも、民衆とエミリアに負傷が『共有』されることは絶対にない。

 

 ――しかし、今のエミリアの魔法技術では、この戦いが終わって魔法を解除したとき、氷から出した人々が本当に五体満足で生きていられるという確証は、どこにもなかった。

 最悪の場合、このまま全員が物言わぬ氷像になってしまうリスクすら孕んでいる。それでも、この不条理な怪物を仕留めるためには、これしか手段がなかった。すべてのリスクを呑み込んででもやるしかない、究極の賭けだったのだ。

 

 いつか、必ずエミリアが氷魔法の練度を高め、自らの手で責任を持ってこの氷を溶かし、全員を無事に元の日常へ救い出す日が来る。

 何より、この絶望的な作戦を成立させるに至ったのは、あの路地裏でのラインハルトの専門的な助言があったからこそだ。スバルが持ち込んだシリウスの権能の特性をベースに、ラインハルトとエミリアの二人が即座に考案した、これ以上ない唯一の対抗策。

 

「一度は彼らを過酷な仮死状態にしてしまうけれど……その責任と罪の重さは、エミリア、スバル、そして僕の3人で等しく背負おう」

 

 あの薄暗い作戦会議のなかで、王国最強の騎士が静かにそう誓ってくれたのだ。

 一人じゃない。背負うべき重荷を分かち合える、本物の仲間が今のスバルにはついている。

 

「さあ、お前のクソ技のタネは完全に割れたぜ、シリウス。――ここからが、本当の戦いだ!」

 

 スバルは拳を固く握りしめ、民衆という人質を失ってただの狂人と化した大罪司教へ向けて、反撃の口火を切った。

 

どっち派?

  • レム
  • ラム
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。