もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から帰ってきたら(スバル主人公) 作:ああ
憤怒のエミリアは、スバルと傲慢のスバルの記憶をインストールされていて、死に戻りも知っています
でも、現実世界のエミリアはスバルの記憶と、死に戻りを知らないです(混乱しないように補足)
エミリアの双眸が本来の美しい紫紺の輝きを取り戻した、その劇的な瞬間。ナツキ・スバルは己の全てを懸けた大博打が完全なる勝利を収めたことを確信し、緊張の糸が切れたように深い昏睡へと意識を失った。
だが、死んだわけではない。スバルは今、自分が「夢」を見ているのだとハッキリ自覚していた。
現実の人生のなかでも、十回に一回くらいは訪れる、あの奇妙で興味深い明晰夢の感覚。 大抵そういう時は、夢だと自覚した瞬間に思考の速度だけが異常に加速し、周囲の世界がスローモーションになっていくのだが――。
そこは、先ほどまでスバルの五体を苛んでいた重度の火傷も、指を食いちぎられた激痛も、泥を詰め込まれた窒息の苦しみからも完全に切り離された、不気味なほどに広大な精神世界だった。
スバルは一脚の頑丈な木製の椅子に座らされ、五体を頑強な鎖でがんじがらめに拘束されていた。体を動かすことのできない不自由な視界の先に広がっていたのは、どこか懐かしく、けれど決定的に歪んだ「ドリームコア」の不穏な情景。
頭上には、絵の具をパレットからそのままベタ塗りにしたかのような、不自然なほどに濃い真っ青な空と、境界線がハッキリとしすぎた邪悪なまでに真っ白な入道雲。地面には、どこまでも、どこまでも果てしなく続く、学校の校庭のような無機質な砂地。そこにぽつんと一脚だけ、スバルが縛り付けられている椅子が置かれている。
世界の最果てには一本の直線的な地平線があり、そこへ向かって吸い込まれる空はどこまでも不気味な青を湛えていた。支離滅裂な昼の静寂が支配する、誰もいない、世界の終わりの箱庭。
そのざらついた砂地の上――椅子に縛られたスバルのすぐ目の前で、二人の男女がまるで放課後のように、寄り添うように穏やかな時間を過ごしていた。
一人は、ルグニカの王国を地獄の業火で焼き尽くした、あの禍々しい漆黒の外套を羽織る、予知夢のなかの俺――傲慢のスバル。
もう一人は、胸元が小さく開き、周囲の色彩を奪い去るほどに淡い、けれどひどく綺麗で幻想的な白いドレスを身に纏った、憤怒のエミリア。
「……俺の精神世界のパーティーに、また一人新顔が増えたってことかよ……」
スバルは自嘲気味に息を漏らす。これが、先ほど彼女の心から憤怒の呪いのすべてを己の器へと引き受けきったことによる精神のバグなのだということは、推測するに容易かった。
二人はスバルの目の前で、ひどく親密に、楽しげに戯れていた。
傲慢のスバルが、憤怒のエミリアの美しい銀髪を優しく大きな手ですいてやり、憤怒のエミリアはその指先の心地よさに蕩けそうに目を細めながら、彼の漆黒の外套の裾を白い指先で無邪気に弄んでいる。
二人の醸し出す空気感は、どこか完璧に完成された理想の夫婦のようでもあり――同時に、吐き気がするほどにひどく狂っていた。
「――ねぇ、スバル。現実世界の「私」を助けてくれて、すごーくありがとう」
ふと、心地よさそうに髪を梳かれながら、エミリアが椅子に拘束されたスバルの方を静かに振り返った。その、深海のように深い紫紺の瞳が、じっとスバルを見つめる。
二人はゆっくりと砂地を踏みしめて近づいてくると、身動きの取れないスバルの左右に並び立ち、その手で、スバルの肉体に直接触れてきた。
傲慢のスバルがスバルの左肩にドカッと親しげに腕を回し、憤怒のエミリアがスバルの右頬に、痛いくらいに愛おしそうな、冷え切った手のひらをそっと添えてくる。
「っ、待て……! お前が予知夢のなかで見た傲慢の俺だってことは、頭の記憶で嫌ってほど分かる。……だけど、エミリア。お前の記憶だけは、俺の脳みその中をどこをどう探しても、何一つ入ってきてねえんだ。 なんで、記憶がないはずのお前が、俺の精神世界の中に現れられるんだよ……?」
スバルは全身の鎖をジャラジャラと軋ませ、疑問の声を絞り出す。
すると、右頬に痛いほどの愛着を押し付けていた憤怒のエミリアが、ひどく甘やかに、そして悲しげに微笑んだ。
「知らなくていいのよ、スバル。……私はね、現実世界の私が見てしまったあの予知夢のなかで――スバルが私の手の届く檻の中で、二人きりで優しく溺れてくれた、あの世界線の私。……今の、現実のあの子もね、私と同じくらい、すごーく弱くて寂しいの。だから――これから先、スバルはあの子の前で、トコトン無力で、頼りない男の子のままでいてあげてほしいって思うのよ」
「は……? 何、言ってんだよお前……」
「魔法も、権能も、何もかもなくなっちゃったんでしょ? それでいいのよ。――指を噛みちぎられて、全身ボロボロになった、かわいそうなスバルの姿を見れば、現実世界のあの子は……消えない強い罪悪感と異常な愛着で、もうスバルなしじゃ息ができなくなるわ。スバルが弱いままでいることでね、スバルをあの子だけの城に幽閉して、二人きりの静かな楽園を完成させるのよ」
憤怒のエミリアの、慈愛に満ちた狂気的な囁きにスバルが息を呑んだ瞬間、左肩に腕を回していた傲慢のスバルが、スバルの頭をガシガシと乱暴に小突いて不敵に笑った。
「おいおい、憤怒のエミリアたんの言ってくれる親切なアドバイスは、ちゃんと一言一句理解しよーぜ、俺? 今さら格好つけるなよ。今のテメエの五体には、もう自分自身を守るための便利な武器なんて、何一つ残っちゃいねえんだ。ゲートのぶっ壊れた、ただの不登校の高校生が、これから先の凄惨な苦難をどうやって進むつもりだ?」
「うるせえ……っ。お前みたいな、そんな外道で歪んだやり方……俺にはできねえ、やりたくねえよ……っ!」
「いいや、やるんだよ。お前には――「死に戻り」っていう、最高の特権がまだ残ってんだからな」
傲慢のスバルは、ニヤリと口角を吊り上げながら自らの心臓の辺りをバチンと力強く叩き、ギラギラとした昏い黒い瞳で、スバルの目をまっすぐ覗き込んできた。
――そんなあいつの狂気よりも、スバルの意識を一瞬引き剥がしたのは、この夢の世界においては、あの絶対に口にしてはならない絶対の禁忌「死に戻り」の存在を、何のお咎めもなく普通に公言できているという事実だった。サテラの影が現れないのは、ここがただの夢の領域だからだろう。
そして何より――隣に佇む憤怒のエミリアまでもが、スバルの持つ「死に戻り」の本質をすでにすべて知悉しているかのように、当然の顔をして静かに、深く頷いているその佇まいが、どうしようもなく不気味で、恐ろしかった。
「何千、何万回だって死んで、相手の動きを完璧にカンニングして、無力なお前一人のチェスの駒だけで、世界の不条理を殺すんだよ。エミリアたんが世界を憎む前に、お前が先回りして、あの子を傷つける「世界そのもの」をぜんぶ焼き尽くして、綺麗な灰にしてやれ。エミリアたんを完璧な女王にする戦い方は、俺がいくらでもここから教えてやる」
世界のすべてを無残に破壊してでも、彼女を絶対の王座に就かせようとする、傲慢のスバル。
スバルを限界まで無力化してでも、自分だけの城に幽閉し、二人きりで溺れようとする、憤怒のエミリア。
二人の提示する未来の形は、完全に、残酷なまでに食い違っていた。けれど、憤怒のエミリアは傲慢のスバルの胸元にそっと愛おしそうに銀髪の頭を預け、傲慢のスバルもまた、彼女の華奢な肩を優しく、狂おしいほど愛おしそうに抱き寄せた。
「そういう勝手なところが本当に大嫌いだけど……すごーく、大好き。本当に、バカなスバル……」
「ハッ、お前が世界を呪うのをやめて、俺だけの用意した闇に溺れるって言うなら、それだって100点満点のハッピーエンドだ。俺たちの求めてる「結果」は、最初から何一つ変わらねえからな」
互いの歪みきった愛の形を全肯定し合うように、甘やかに笑い合う、傲慢のスバルと憤怒のエミリア。
だが、ふと思い出したかのように、憤怒のエミリアが椅子に拘束されたスバルの、現実世界では動かせないはずの手に、何か一冊の不気味な赤い本をそっと掴ませた。
「これは……?」
本を掴ませた後も、憤怒のエミリアはこの箱庭の世界では欠損せずに綺麗な形を保っているスバルの左手を、愛おしそうに何度も優しく撫でた。そのあまりの滑らかな冷たさに、思わずスバルは鎖のなかで五体をブルリと震わせてしまう。
「これはね。私からの贈り物よ、スバル。……これから現実の世界で、誰にも怒られないように、すごーく上手く生きるのよ」
現実に返った後のスバルの身が、心配で、心配でたまらないとでも言うかのように。憤怒のエミリアの細い指先によって、その赤い本はスバルの掌にしっかりと持たされてしまった。
「おい、憤怒のエミリアたん。兄弟はエミリアたんにそうやってベタベタ触れられると、緊張して話に集中できねえタチだってのは俺が一番よく分かってるからよ。早速その「憤怒の書」の詳しい能力について教えてやってくれ」
「いだっ……!?」
横から口を挟んできた傲慢のスバルに、片耳をギュッと強くつねられた。鋭い痛みが走り、この不気味な夢の世界では、肉体の痛覚すらも現実と同じように精密に再現されているのだとスバルは痛感する。
「もう……茶化さないで、傲慢のスバル。あと、冗談でもそんな痛いことをスバルにするのは絶対にやめて。私、怒ったらすごーく怖いの、もう分かってるでしょ? 貴方でも、次やったら許さないわよ」
頬をぷっと膨らませて、憤怒のエミリアが傲慢のスバルに向かって一歩詰め寄った。凄まじい圧を放つ彼女に対し、傲慢のスバルは「へいへい、悪かったよ」と軽薄に両手を振ってやり過ごしている。
「スバル、この「憤怒の書」にはね、どうすれば、スバルが現実世界で怒られないかを教えてくれるの……。すごーく優しい権能よ。私が、スバルのために考えたの」
「へえ……。うん、分かった、ありがとう。大事にするよ」
憤怒の書を受け取ったスバルは、まだはっきりとした実感をその掌に持ててはいない。けれど、自分が今回のループで捨て去ったものだけではなく、新しく得た「未知の手札」もあるのだという事実に気づかされる。
そして、目の前の憤怒のエミリアからは、背筋が凍るような不気味な狂気が確かに感じられる。けれど、それ以上に「自分のことを心から大事に思ってくれている」という狂おしいほどの情愛が、スバルの胸に痛いほどに真っ直ぐ伝わってきたのだ。
「いや、本当にありがとう、エミリア。この本を使って、俺、これから先の現実でも頑張ってみるよ」
「――、自分を、トコトン大事にして……。怖くなったら、いつだって逃げるのよ。誰かを怒らせてしまっても、スバル一人で抱え込もうとしなくていいのよ」
改めてしっかりと言葉を尽くして憤怒のエミリアにお礼を言うと、今にも泣き出しそうなほど切ない表情を浮かべた憤怒のエミリアに、そう強く言い返されてしまった。彼女の純粋すぎる好意の前に、なんだか気まずさを覚えたスバルは、気恥ずかしげにふいと視線を横へ逸らしてしまう。
「おい、傲慢の俺の方は、何か俺にプレゼントをくれないのか? まさか、さっきの耳つねりの嫌がらせが俺への手土産だなんて言わねーだろうな?」
隣に佇む傲慢のスバルに対し、耳をつねられたことを話題の転換として、ちょっとした嫌味をぶつけてみた。
「そりゃあ兄弟、非常に言いにくいんだがな。俺からはその「傲慢の書」的な、プレゼントしてやれる都合のいいお助けアイテムは一つもねえよ。そもそも、あの「魂の鎖」はさっきの相殺のせいで、もう兄弟は一切使えなくなっちまった。それどころか、それは今後、逆に兄弟の肉体を永続的に苦しめ続ける最悪の足枷になっちまったからな。そこんところ、これからの現実ではトコトン気をつけろよ?」
「足枷……? ただ、権能の力が綺麗さっぱり消え失せるだけじゃないのか?」
「簡単に言えば、世界中の奴らから勝手に「傲慢の権能」を引き出され、兄弟の正気が、一方的に使い潰され続ける枷になった。そんで、それを四六時中やられている間、兄弟自身には何一つのバフも恩恵ももたらされない。――いわゆる、これまでの傲慢の「支配者」から、ただ力を毟り取られるだけの「奴隷」に成り下がっちまったってことだよ」
傲慢のスバルから淡々と告げられた冷徹な解説は、それがこれから先、どれほど厄介極まりない枷として牙を剥くのかを正確にスバルに伝えるには十分だったが、引き換えに、スバルの胸中に新たな不安と焦燥を強く煽るものだった。
「全く……傲慢のスバルのイジワル。もうちょっと、優しい言い方にできないの?」
「あだだっ・・・すいませんでしたっ!」
憤怒のエミリアが、先ほど傲慢のスバルがやったのと全く同じように、彼の片耳を容赦なくギュッとつねってそう叱りつける。
あ痛たた、と大袈裟に身をよじる傲慢のスバル。その光景を見て、椅子に頑強に拘束されたままのスバルは、「まるで、出来上がってる夫婦喧嘩だな」という突飛な感想を内心でぽつりと抱いた。
――その、直後だった。
二人の男女の身体の輪郭が、不自然なほど真っ青にベタ塗りされた青空の下でパチパチと音を立て、眩しい白い光の粒子になって崩れ始めていく。
この支離滅裂な昼の静寂に満ちた、精神世界の終わりが、すぐそこまで近づいていた。
「じゃあな、現実の俺。お前が無力なままあの子に溺れるか、あるいは俺みたいに世界を殺すか……せいぜい、ここで特等席で見物させてもらうぜ。どっちに転んだところでよ、お前がエミリアたんのものになる結末だけは、絶対に変わらねえんだからな」
「がんばってね、スバル。……私たちは、いつでも貴方の心の奥底で、スバルがまた私たちを頼りにきてくれるのを……ずっと、すごーく寂しく待っているんだから……」
二人の狂人は、霧が晴れるように静かに、けれど決して逃れられない圧倒的な狂気の存在感をスバルの脳髄に深く深く刻み込んで、この真っ青な昼の箱庭から消滅していった。
――直後、パリンッ!!! と周囲の空間がガラスのように派手にひび割れ、椅子に座るスバルを縛り付けていた強固な鎖が、音を立てて木っ端微塵に砕け散る。
それと同時に、スバルの全意識は、冷たい砂利と泥の広がる、あの悍ましい現実世界の激痛の渦へと力任せに引き戻された。
次回からvsエルザなのでもうすぐ1章終えられそうで嬉しいです
ドリームコアは夢なので、情景が変化し続けます。
色んなドリームコアこれから出していきたい・・・
やり直せるなら報われてほしい方
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オボレルラム
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カサネルオットー