もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から帰ってきたら(スバル主人公)   作:ああ

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祝!ロズッチ、レムりん、ラムチー初登場


2章
それぞれの予知夢を見たロズワール、ラム、レムと出会う


 スバルたちを乗せた地竜の竜車は、王都の喧騒を遠く離れ、たったの三人の人数だけで静かに街道を進んでいた。

風を切り、慣れた手つきで手綱を引きながら御者台に座るのは、世界最強の騎士ラインハルトだ。そして、ガタゴトと揺れる閉ざされた竜車のなかに残されたのは、ナツキ・スバルとエミリアの二人だけ。

 

 スバルは膝の上に置いた『憤怒の書』の重みを感じながら、これからはじまるロズワール邸での新しい生活に向けて、深く思考を巡らせていた。

 そこに暮らしているレム、ラム、ベアトリス、そして屋敷の主であるロズワール。彼らが一体どんなおぞましい、あるいは狂おしい予知夢を見せられているのか、今のスバルには全く想像もつかない。彼らは、今のスバル自身がまだ経験していない「スバルと未来を過ごした濃厚な時間」をそれぞれの脳髄に宿しているかもしれないのだ。彼らが今のスバルに向けて、それぞれどんな複雑な感情を示してくるのか――そのすべてを完璧に予習して対策を立てていくことなんて不可能だった。

 

「スバル……。少しだけ寝たら、頭がすごーくスッキリしたわ」

 

 心地よい車輪の振動のなかでスバルが一人悩んでいる最中、彼のすぐ横に寄り添うように座っていたエミリアが、長い睫毛を震わせてゆっくりと目を覚ました。

 王都であれだけの凄惨な戦いがあったのにもかかわらず、スバルが王城の治癒師によって強引に肉体を再生させられている間、エミリアはラインハルトと共に賢人会への報告や事後処理の仕事を休みなく行っていたのだ。その体も心もとっくに限界まで疲れ切っているはずなのに、彼女は悪夢への恐怖からどうしても眠ろうとしないスバルを気遣って、自分まで寝ることを頑なに我慢していた。スバルが「頼むから一度寝てくれ」とダメもとで強めに言うまで、エミリアはずっと起きているつもりだったらしい。

 そんな頑固な彼女がようやく眠るのを受け入れてくれたのは、スバルが心底申し訳なさそうな困り顔を見せたからだった。スバルの表情からその不器用な気遣いを汲み取り、およそ三十分ほどの短い仮眠を、エミリアは大人しく受け入れてくれたのだ。

 

「――やっぱり、眠れないの?」

 

「う~ん……。まぁ、まだ眠気は気合で我慢できるレベルだから、今はただの現実逃避中だよ。二夜連続で徹夜してネトゲやるのとは、訳が違うからな。今は遊ぶために起きてるんじゃなくて、ただ『寝るのが怖いから寝てないだけ』だし」

 

 スバルは口にしながらも、自分のあまりの情けなさに内側から深く溜息をつく。単純に、何の不条理な問題も抱えずに気持ちよく枕に頭を沈められていたあの引きこもり時代に、なんでもっと泥のように寝溜めしておかなかったのかと、今さら不毛な後悔をすることしかできない。

 そんな何も根本的な問題が解決していない自分に対し、エミリアは自らのことのように一緒に悩み、その心を苦しめてくれている。その健気さが、今のスバルにとっては申し訳なくて仕方がなかった。

 

「まぁ……でも、起きてたおかげでちょっとは今後の『予習』ができたし? ロズワール様と初めて対面する時の緊張は、大分マシになってきたよ。これは強がりとかじゃなくて、半分くらいはマジな事実だから」

 

「そうよね。私も、そうやってどんな状況でも良い風に考え直すのは、すごーく大事なことだと思うわ」

 

 スバルがこれからはじまるロズワール邸での人物たちのなかで、最も強く警戒し、対策を練るべきだと決めていたのは――『宮廷筆頭魔術師ロズワール・L・メイザース』一択だった。

 彼もまた、あのサテラの予知夢を見せられた当事者であると勝手に仮定しているが、今のスバルとエミリアを見て、一体どんな感情を向けてくるか。

 ロズワールはエミリアがこれからルグニカの王座に就くにあたって、間違いなく最重要人物と言える男だ。彼の強力な後ろ盾なしでは、エミリアの抱く夢は絶対に果たされない。

 だからこそ、スバルは先ほどまで、ロズワールの抱くであろう『憤怒』を未然に沈めるための方法を、手の中の『憤怒の書』を開いて必死に予習していたのだ。

 

 スバルにとってロズワールという男は、この異世界において仕えるべき絶対の主――ロズワール様だ。忠誠を示すべき高貴な領主様として、これから誠実に、真面目に仕えようと考えていた。

 

 ――そして、『憤怒の書』が冷徹に指し示した、スバルがロズワールの憤怒を沈めるために行うべき行動の最適解。その日本語の記述は、相変わらずあまりにも短かった。

 

 ――”弱さを隠さず、彼の計画の奴隷として振る舞う。”

 

 この歪んだ一文の羅列だけでは、スバルはロズワールが今、内側にどんな種類の憤怒を抱え込んでいるのかまでは正確に推測することはできなかった。だが、自分が取るべき立ち回りの正解だけは明確に導き出された。

 これからの生活で、何があってもこれさえ忠実に実行していれば――少なくとも、ロズワールという強大な男に怒られ、敵対されるような最悪の破滅を避けることはできるはずだ。

 

「……でも、俺がさ。屋敷の仲間たちみんなに、ちゃんと受け入れてもらえるかどうかだけは、正直不安でしかたないんだよなぁ」

 

 スバルのいまの、眠気を限界まで我慢して鈍くなった頭で処理できるのは、せいぜいロズワール一人の対策が限界だ。一応、先ほど他のメイドの少女たちや大精霊の名前から該当するページを探し出し、そこに刻まれた記述を文字通り拾い読みはしたのだが――その内容は、今のスバルの脳みそがこんがらがって爆発しそうなくらい意味不明なものばかりで、彼女たちが一体どれほど巨大な憤怒を抱え込んでいるのかは、今の段階では想像すらつかなかった。

 そして、スバルと同じくらい、いや、それ以上にエミリアの側にも多くの心配事があるようで、彼女はしばらくの間、揺れる車内で静かに押し黙っていた。

 

「……みんなを、信じてみましょう。皆がどんな悲しい予知夢を見ていたとしても、私は……この世界でまた、ゼロから良い関係を新しく築いていきたいって思ってるの。――たとえ、未来の記憶のなかで、私とひどい関係になっていたとしても、ね」

 

 そう語るエミリアの横顔は、どこまでも低く、そして逃れられないほど重い覚悟を湛えていた。

 

「良いこと言うなぁ、エミリアたんは。……あぁ、俺も全く同じ気持ちだよ。どんな最悪な未来を知ってしまっていても、だからこそ、今この場所から『ゼロから関係を始めること』に、絶対に大きな意味がある。――俺なんてさ、まだあの屋敷のみんなと一緒に暮らした経験なんて、現実でも予知夢の中でも、ただの一度だってないんだ。だからこそ、みんなのことを一からたくさん知っていきたいんだよ」

 

 無邪気に、無垢に、スバルはまだ見ぬ日常への確かな希望を抱きながら、ガタゴトと揺れる馬車でロズワール邸へと向かっていた。スバルには、エミリアが自分自身の恐怖以上に、これから始まるロズワール邸の仲間たちとスバルの『関係性』を、心配に思ってくれていることがその雰囲気から痛いほどに伝わっていた。

 

「私の見たあの予知夢でのことはね、……スバルには、これからもずっと教えないでおくわ。スバルには……余計な変な心配や不安を持たないままの姿で、みんなと真っ直ぐに接してあげてほしいの。だって、スバルはこんなに優しくて、一生懸命なんだもの。みんなもきっと、優しくしてくれるはずよ」

 

「おう……。でもさ、俺ってば元から空気が読めねえところがあるからさ。もしも屋敷でなんかヤバい地雷を踏んじまった時には……その時は、マジで助けてくれよな」

 

 

 エミリアの考えでは、下手に自分の見た凄惨な予知夢の内容をスバルに伝えて、ガチガチの対策を練らせていくよりも、敢えて何も知らず、何も先入観を持たないままで、スバル本来の持っている泥臭い人間性を頼りに、自然体に接していってほしいというものだった。スバルはそんな彼女の深慮に素直に従い、さらに万が一、不器用に地雷を踏み抜いてしまった時にはエミリアに全力でカバーしてもらうという、なかなかの甘えっぷりだ。

 ただの甘え倒しのダメ男にだけは成り下がりたくないが、エミリアが向けてくれる善意はなるべく全力で頼り尽くそうと、今のスバルは前向きに腹を括っている。いつもは助けてもらってばかりで、情けないけれど――いつか必ず、ナツキ・スバルの全存在が、エミリアという一人の少女を地獄から救い出すために必要不可欠になる、その決定的な瞬間がまた訪れるはずだ。その時が来たら、これまで彼女に助けてもらった恩のすべてを、何百倍にしてでも返してやるという熱い気概だけを、その胸の奥底に静かに溜め込んでいた。

 

「――もちろんよ。もう誰にも、絶対に奪わせない」

 

「…………」

 

 何気ない、普通の自然な会話の最中に。エミリアはふと、前触れもなくこんな風に心臓を鷲掴みにされるような、どこまでも重い愛着の言葉を真っ直ぐに返してくるようになった。そんな突飛な変化を突きつけられるたびに、スバルは何と言い返したらいいのか、その正解の言葉が分からなくなってしまう。

 スバルが会話のキャッチボールの着地点に困り、車内に気まずい沈黙の空間ができてしまうことが、この竜車の移動中に何度も繰り返された。

 そんな風に、言葉の質量に気まずそうに困惑しているスバルの無防備な顔を見て、エミリアはただ静かに、すべてを許容するように優しげに微笑んでいるだけだった。

 そうなってしまっても、また少し時間が経ってから、エミリアの側から何事もなかったかのように全く別の新しい話題を振って、言葉のキャッチボールを穏やかに再開してくれる。その不器用で必死な気遣いに、スバルは内心で何度も深く感謝していた。

 

 そうして、眠気の恐怖と戦いながら、たわいもない会話と沈黙を幾度となく繰り返すうちに、街道の景色はすっかりと様変わりしていき――。

 

 満天の星々が頭上を覆う、すっかり陽の落ちた真夜中の深い闇のなか。地竜の足音が静かに止まり、スバルたち三人はいよいよ、次なる運命の舞台である巨大な『ロズワール邸』へと到着したのだった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 その威厳ある広大な屋敷の入り口では、それぞれシンメトリーに佇む青髪と桃髪のメイドの少女が、静かにエミリアの帰還を迎え受けていた。

 

「おかえりなさいませ。エミリア様」

 

 寸分違わぬ、完璧に息の合ったタイミングで、二人のメイドは同時にそう言葉を紡いだ。そして、深い最敬礼からゆっくりと目線を上げた二人の平坦な視線が、エミリアの後ろに控える男たちの方へと移る。

 一番前にエミリアが立ち、その後ろに、世界最強の騎士ラインハルトとナツキ・スバルが並んで身を置いていた。

 スバル自身はそこまで過度に気を張っていたわけではなかった。だが、目線を上げたメイドの二人の視線が、同時にまっすぐ自分を貫いたかのように感じられ――胸の奥で、何故だか分からないが心臓がドクンと嫌な高鳴りを見せた。

 

「ただいま。今、無事に戻りました。ラム、レム。二人ともありがとう」

 

 エミリアは、どこか低く落ち着いた口調で二人にそう応じた。その声のトーンは、後ろで聞いているスバルからしてみれば、想像よりもずっと低く冷徹な質量を孕んでいた。真夜中の長旅で疲れ切っているからというよりは、エミリアが自らの内側にある何らかの激烈な感情を、必死に努めて押し殺しているように見えたのだ。

 これが、あの最悪な予知夢を見た後の、エミリアにとっての本当の『ラムとレムへの最初の言葉』になるわけだが――スバルはそこに微かな違和感こそ覚えたものの、今の頭では、その本当の理由までは到底想像がつかなかった。

 

「スバル。まずは僕より先に、君が挨拶をするんだ」

 

 スバルが目の前のメイド二人の佇まいに思わず固まっていると、ここまで御者台で竜車を夜通し走らせてくれていたラインハルトが、そっとスバルの肩に大きな手を置いて、優しく先陣を促してきた。スバルは黙ってコクリと頷く。

 

「――初めまして。 俺の名前はナツキ・スバル。真夜中だから静かに失礼するが、王都でエミリアに出会い、包帯女に出会い、腸狩りに出会い、運命の歯車に巡りに巡ってここに辿り着いた、自称・一蓮托生の男でございます。どうぞ、おてやわらかによろしく」

 

 スバルは地球の知識を総動員し、どこかの気取った高級執事のように、無駄に優雅な所作でキザな一礼を披露してみせる。

 だが、メイドの二人から即座の反応は返ってこず、真夜中の寒気とは全く別の次元の理由で、その場にゾッとするような静寂の寒気が走った。

 隣のエミリアに目をやれば、彼女は何のツッコミも入れずに、「うんうん……」とどこか意味深げに何度も頷き、自らを納得させるように何度も頷き、スバルとは目を合わせてくれない。後ろでは、ラインハルトが小さく吹き出すように笑って、スバルの緊張した背中をポンと優しくこづいた。

 

 この二人が見せた想定外の新鮮な反応に意識を向けることで、スバルは己のなかの恐怖から都合よく現実逃避した。いや、これはむしろ作戦成功かもしれない。あの悪夢から引きずってきた、脳を侵食しそうだった悍ましい眠気が、この冷や汗のおかげで少しだけ遠のき、頭がハッキリと目が覚めた気がする。

 

「……空気が全く読めないお調子者で、本当にすみませんでした」

 

 すかさず直角90度の完璧な謝罪の体勢をとることで、スバルはこの凍りついた空気を強引に終わらせにかかった。

 

「姉様、姉様……これが噂の、スバル君で合っているのですか? レムには、彼の今の言動の意味が何一つ分かりません」

 

「レム、レム……確かにこれが、噂に名高いバルスで合っているわ。ラムには、この愚鈍な男がなんでこんな大真面目に恥ずかしい挨拶をしてしまったのか、その矮小な脳内が手に取るように分かるわ」

 

 相変わらず寸分の狂いもないコンビネーションで、冷たい氷のような罵倒の毒舌が両者からスバルに向かって浴びせられた。だが――今の言葉の中に、スバルとしてはどうしても聞き逃せないフレーズが混ざっていた。

 

「あの……そこの桃髪さんの方。俺の名前が、目つぶしの呪文になっちゃってんですけど……っ いや、なっているのですが……っ」

 

 反射的にそうツッコミを返したものの、実際のところ「バルス」と初対面で呼ばれたことについて、スバルの胸の中は不満ではなく、奇妙な『安心感』の方が勝っていた。初対面でガチガチに緊張していた自分に対し、こうしてすぐに名前をユニークに入れ替えて、親しみやすいあだ名(?)で呼んでくれたのは、彼女なりのぶっきらぼうな優しさなのだと、スバルは脳内で都合よくポジティブに解釈しておく。

 

 だが、「ふうっ」と全力のツッコミを入れてから、肩の力を抜くように溜息を吐いたスバルは、目の前のメイド二人の「顔」をまじまじと見つめて、その場で凍りついた。

 二人とも鋭い視線でスバルを睨みつけていたのだ。

 

「――桃髪さん……? ……なるほど、そういうことね。ラムですよ、お客様」

 

「レムのことはどう呼んでも一向にかまいませんが、……姉様に対して、あまりにその配慮の足りない失礼な呼び方はしないでください。お客様」

 

 スバルの放った『桃髪さん』という呼び方に、何らかの決定的な事実を見出して納得したようなラムと、スバルの姉に対する雑な呼び方に明確に気を悪くしたレムが、それぞれ冷徹に己の自己紹介を上書きした。

 

「はい……。以後、気を付けます。……じゃあ次は、ラインハルト!」

 

 多少はファーストインプレッションで不快にさせてしまったかもしれないが、致命的な地獄の地雷を踏んで爆発した訳ではないはずだ。スバルはこれ以上の追及から逃げるように、ラインハルトの頑丈な背中を左手で押し、次の自己紹介を促した。

 

「僕は、ラインハルト・ヴァン・アストレアです。今回は、ロズワール辺境伯にどうしても直接お聞きしたい話があり、同行させていただきました」

 

 静かに、けれど一分の隙もない美しい洗練された所作でラインハルトが丁寧な一礼を捧げる。ラムとレムの二人も、そのルグニカ最高峰の英雄の名に対し、すぐさま敬意を示して頭を下げた。これで、先ほどのスバルとの気の抜けたやり取りの不手際を、世界最強のブランドでチャラにしてくれたようだ。

 

「……わりぃな、エミリアたん。早速、俺のせいで場を妙にやらかしちまって」

 

 場が何とか丸く収まったところで、スバルはエミリアに面目ないと小さく謝ろうとした――ところで、エミリアの今の「表情」を間近で見て、言葉を失って立ち止まった。

 エミリアは、レムかラムか、そのどちらかの一挙手一投足を、尋常ではない真剣な表情で見つめ、その紫紺の瞳を細めている。自らの顎に細い手を当てて、明らかに何か深く深く考え込んでいる佇まいだった。

 

「……なんの予知夢なの……?」

 

 だが、そんなエミリアにスバルが「どうした?」と声をかけるよりも前に、暗闇に包まれた屋敷の奥から、道化の衣装を揺らして【あの男】が静かに姿を現した。

 

「――これはこれは。すごーく嬉しいご帰還だぁ~ね。……でもね、それはそれとして、我が陣営にとっては由々しき事態だ。スバルくん……。君は我々と、本当に『ただの初対面』のように接するのだねぇ?」

 

 思わず内側の衝動を我慢できずに、わざわざ自ら出向いて言葉をぶつけにきた――今の彼の様子には、そんな表現がこれ以上ないほどぴったりと符合していた。

 ぬっと顔を出したロズワール・L・メイザースの、オッズとブルーの左右非対称の怪しい瞳は、目の前のスバルに対して、全く、これっぽっちも笑っていなかった。

 

「――これは運命様のひどいいたずらだと言わざるを得ない。スバルくん……私の積み上げてきて、完成に近かった未来は、すべて予知夢としてなかったことになってしまったのかぁ~な? 君はどう思う?」

 

 いきなり核心的な不条理を突きつけてくる、際立った異様な見た目の道化。その顔面にはピエロのようなおぞましい白塗りの化粧が施されており、右目には冷徹な印象を際立たせる青いアイシャドウが、もう片方の左目にはどこか狂気を感じさせる黄色のアイシャドウが、非対称に気味悪く塗られていた。

 

 緊迫した空気の中、スバルは背後にいるエミリア、ラインハルト、そしてラムとレムの視線をその背中に痛いほどに感じながら――迷うことなく、真っ直ぐにロズワールの前へと歩み進めていき、その冷たい大理石の床の上で、深々と片膝を突いて跪いた。

 

 手の中の『憤怒の書』が導いた、彼に怒られないための唯一の絶対ルート。

 ――”弱さを隠さず、彼の計画の奴隷として振る舞う。”

 

「お初にお目にかかります、ロズワール様。俺の名前はナツキ・スバル。――貴方に無条件の忠誠を誓い、エミリアがこの国の至高の王になることの、そのすべての手助けをするために、ここに同行して参りました。俺にはもう、魔法も、おこがましい特別な力も何も残っていません。どうか、あなたの駒として、俺をこの屋敷に置いてください」

 

 自らの圧倒的な無力さを一片も隠すことなく曝け出し、差し出すようなスバルの決意の決まりきった行動。

 深く跪いているがゆえに、頭上のロズワールがいま、一体どんな表情を浮かべているのかは、スバルの位置からは見ることはできない。

 

 けれど。その沈黙の刹那、頭上の道化が細く、小さく息を呑む悍ましい音が静かに響き――それが、今のスバルにとってはあまりにも不気味で、背筋が凍るほどに恐ろしかった。

 

「――私は、ロズワール・L・メイザースだ。……あまりにも強欲な君と歩んだ『あの最高の未来』の予知夢を見て、ここに導かれた男だよ。……いいだろう、スバルくん。そこまで自ら進んで私の『奴隷』になりたいと言うのなら……望み通り、私の用意したチェス盤の上で、使い潰されてもらうとしようじゃあ、ないか」




※ロズワールたちはスバルとエミリアの王都での活躍をミーティアですでに知っています。

スバルを全く知らない(忘れた?)レム
スバルを良く知っているラム
強欲なスバルとの未来を歩んだロズワール

それぞれの予知夢が何のIFルートかを想像してみてください

やり直せるなら報われてほしい方

  • オボレルラム
  • カサネルオットー
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