もしも、スバル以外のキャラがIFルートまたは本編から帰ってきたら 作:ああああああ
鼓膜を破壊するような不快な叫び声が聞こえた直後、視界が世界ごと真っ赤に染まった。
だが、その強烈な衝撃に抗うように、スバルは強く頭を振って必死に意識を保ち続ける。どうにか、世界を侵食していた赤色のノイズが引き、視界が元の川沿いの大通りへと戻っていった。
「なっ……何が起こってんだ!?」
「私は魔女教大罪司教――『憤怒』担当、シリウス・ロマネコンティぃ!!!」
「はっ……!?」
スバルの目の前に現れたのは、一言で表現するなら「狂気に満ちた、歩く全身包帯の怪物」だった。
頭のてっぺんから足の先、指の一本一本に至るまで、全身を隙間なく包帯でぐるぐる巻きに縛り上げている。そして、その異様な包帯の隙間からは、ギラギラと血走った一対の眼球が、狂気的な熱量を孕んで真っ直ぐにスバルを射抜いていた。
――関わっちゃいけない、絶対に駄目な奴だ。
即座にスバルの脳内に「逃亡」の二文字が浮かび上がる。全身の毛穴が開き、背筋に絶対零度の戦慄が駆け抜けた。このままこの怪物の視線を浴び続けていれば、恐怖のあまり自己が崩壊してまうのではないかという本能的な不安が押し寄せる。
「エミリア! ……おい、エミリア!!」
咄嗟に横にいた少女の肩を掴もうとして、スバルは目を見開いた。
エミリア、そして周囲のいたはずの民衆たちの目が、一様に不気味な赤色に発光していたのだ。誰も彼もが蝋人形のように呆然と立ち尽くしている。それは明らかに自我を喪失し、身動きを封じられている状態だった。
スバルの必死の叫びも、すぐ隣のエミリアにすら届いていない。
これがあの包帯女の魔法、あるいは何らかの異常な能力なのか。だが、未だに自分の能力が何一つ分かっていないスバルには、状況を打破する打つ手が何一つとしてなかった。
「あ、れ、れれれれれぇッ!? あなたには、私のッ、私たちの『憤怒』がっ、この分け隔てのない至上の愛が響いていないというのですかァ!
――ですがッ! ありがと! ごめんね! 夢から目覚めた私とあなたの愛が、絆が、より気高くっ、より強固に新生したという証ッ! ああ、愛、愛、愛、素晴らしいですねぇ!」
「お、俺はお前なんて知らない……っ! ゆ、お前も……お前もあの『夢』を見たってのか……!?」
あまりの恐怖に、まともな思考が働かないまま言葉を交わしてしまう。それによってスバルの胸中のパニックはさらに加速した。
エミリアや周囲の人間たちは相変わらず微動だにしないが、恐ろしいことに、彼らの目や鼻からは一筋の赤い血がタラリと流れ落ちていた。この包帯女の異能力に身体を内側から蝕まれている証拠だ。今すぐここから逃げ出したいのに、エミリアは糸の切れた人形のように応じない。
そして何より聞き逃せなかったのは、シリウスの口から出た「夢」という単語だ。それはエミリアが言っていたことと同じ――この怪物もまた、スバルの知らない未来の予知夢を見ていたということなのか。
「うふっふふふふ! ありがと! ごめんね! 貴方が未来を知らないのなら、それはそれで都合が良いですぅ!! だったら手早く済ませましょう!! これからあなたに奪われるはずだったペテルギウスに、あなたとそこの半魔の命を捧げましょう!!」
「待て待て待て……誰のことだよ、ペテルギウスなんて男は知らねえ!! 俺とエミリアを勝手に巻き込むな!! ――おい、目覚めろ俺の『権能』ォオオオオ!!!」
スバルは無謀にも、またしてもハッタリ任せに拳を突き出し、今度こそ異世界チート特典が発動することを期待した。だが、虚しく拳が空を切るだけで、やはり何も起こらない。冷たい風が通り過ぎるだけの無様な姿を見て、包帯女はケラケラと甲高い声で笑い出した。
こんな化け物に一発ギャグを披露したわけじゃない。だが、この土壇場に至っても指先一つ発火しないということは、自分には本当に何のチート能力も備わっていないのではないかという、残酷な可能性がそろそろ脳裏をよぎり始めていた。
「権能ですかぁ?! うふふ、あはははは! 貴方から漂う、その薄汚い半魔の香りぃ!!! なんとも醜悪ですが、それこそが貴方が彼女に愛されていることを証明していますよぉ!! 貴方は間違いなく『傲慢』に相応しい! そう、あなたはこちら側の、愛されるべき人間なのです!!」
血走った目で、偏執的な言葉を投げかけてくる包帯女――シリウス。すぐに襲いかかってこないのだけは救いだったが、決して見逃してくれるような空気ではない。最悪の膠着状態だ。
だが、今の発言から察するに、この怪物はスバルのことをどこか「自分たちの同類」として認識しているニュアンスがあった。ならば、そこに付け入る隙があるはずだ。
「ご、ごめんなさい、ほ、包帯さん……っ!!」
「殺すぞクソガキィ!!! 私はシリウス・ロマネコンティイイイ!!!!」
地を震わせるほどのブチ切れ声に、スバルは思わず両目を強く瞑った。
そうだ、この怪物は最初に、魔女教の大罪司教『憤怒』を名乗っていたのだ。その怒りの沸点は規格外。一言でも機嫌を損ねれば、次の瞬間にはミンチにされる。
だからこそ、絶対にこれ以上怒らせてはならない。戦う力がないのなら、1秒でも長く言葉を繋いで時間を稼ぎ、この絶望的な命を未来に繋ぐしかない。
「シ、シリウス……さん! 俺は本当に、何も知らないんだ! 予知夢だか何だかで俺を知ってるみたいだけど、俺自身はそんなもの一切見てない! だから、ペテルギウスって人も知らないし、傲慢がどうとかも全部初耳なんだよ!」
スバルは両手を前に突き出し、必死に言葉をまくしたてた。
「だからさ、まだ俺を攻撃するのは早すぎるだろ!? 俺たち、まだ友好的に話し合える余地があるんじゃないのか……!? ほら、シリウスさんだって、俺をすぐに殺そうとはしなかった。話し合いくらい、できると思うんだぜ……っ!」
「ほっほほほぉ!! 私を前にしてよくもまぁそれだけ舌が回ること! そうやって私の愛するペテルギウスをも誑し込んだのですね……ッ! 許せない! 許せない許せない許せない!! 貴方がその『傲慢』の権能を使いこなす前に終わらせられるよう私を導いた、この運命に感謝しましょう!! ありがと! ごめんね!!」
そう叫んで、シリウスは讃美歌でも歌うかのように、奇妙な黒い本を太陽へと高く掲げた。その禍々しい本が何を意味するのか、スバルの脳内には相変わらず疑問符しか浮かばない。
だが、今のシリウスの発言から、一つだけ確実な事実が削り出された。自分には、この化け物が警戒するほどの『傲慢』に関わる能力が眠っているということだ。
傲慢だなんて言われるのは心外だし侮辱だが、そんな謎のチート能力があるなら、今すぐこれ以上ないタイミングで発動してこの最悪な状況を乗り切らせてくれ、とスバルは心の底から神に祈った。
「ごめんねぇ! ペテルギウスに捧げる手土産なのですから、貴方とそこの半魔は、できるだけ綺麗なまま殺してあげましょう!! 私の憤怒の炎で一瞬にして消し炭にしてやりたいのに、それができないなんて……ああ、本当にごめんね! そして、運命よありがと!」
「な……どうしろってんだよ、クソがっ!!」
「ふふふ……まずは、」
シリウスは、うっとりとした口調のまま、すぐ近くで硬直していた民衆の一人の胸へと、人差し指と中指を容赦なく突き刺した。肉を裂き、骨を砕く、嫌な生々しい音が響く。心臓を一突きだ。
「お……オイ!!!」
だが、本当の恐怖はそこからだった。
指を執拗に引き抜かれた男が、胸口からおびただしい鮮血を吹き出して地面に倒れ伏す。――と、次の瞬間。
大通りにいた群衆、そしてスバルのすぐ隣にいたエミリアまでもが、全く同じタイミングで自らの胸を掻き毟り、ドッと鮮血をぶちまけて石畳へと崩れ落ちたのだ。
最初にシリウスが傷つけた男の『負傷』と『死』が、その場にいる全員に一瞬で伝播し、強要されたのは明らかだった。
「エミリア!!! エミリア、おい、しっかりしろ!!!」
スバルの胸には何の傷もできていない。なぜか自分だけが、その『共有』から弾かれている。だが、スバル以外の全員が、たった一撃の波及によって壊滅した。改めて思い知らされる、この包帯女の理不尽極まりない恐ろしさ。
地面に倒れたエミリアの眼球が、苦痛に素早く震えていた。彼女は血の吹き出す胸元を必死に両手で抑え、何かを唱えるように唇を動かす。直後、微かな青色の光が彼女の手の隙間から漏れ出し、シリウスに穿たれた致命傷を必死に癒そうと輝き始めた。
「ぐっ……くっ……す……スバル、」
「喋るな!! 治癒魔法だろそれ!? 集中しろ!! いいぞ、いける、直せ、直せエミリア!!!」
シリウスの精神汚染からは解き放たれたようだったが、その代償が心臓への致命傷だなんて、あまりにも酷すぎる。
叫ぶスバルの視界が、急激に涙で歪んでいった。認めたくはなかった。認めれば現実になってしまう。けれど、エミリアの放つ青い光の弱々しさを見れば、この傷が塞がるよりも早く、彼女の命の灯火が消えてしまうことなど、平和ボケしたスバルの目から見ても明白だった。
「愛、愛ですね!! ごめんね!! 私の愛が、憤怒が強すぎて!! そこの半魔も、あなたも、何もできずにそのまま美しく朽ち果てなさい! あなたも、私からペテルギウスを奪った……その『憤怒』の痛み、少しは分かっていただけましたかぁ!?」
「…………っ」
自らの気管へと逆流してくる血に、溺れるようなエミリアの苦しい呼吸音がすぐ耳元で聞こえる。治癒の青い光は、今にも消えそうなほどに細くなっていく。
スバルには、その痛々しい彼女の姿を見ることも、狂ったように挑発を続けるシリウスの顔を見ることもできなかった。ただ、奥歯が砕けんばかりに唇を噛み締め、エミリアの血で赤く汚れていく石畳の地面を睨みつけることしかできない。
「あらぁ……無視とはつれませんねぇ! せっかく私の愛の権能で、その半魔の死ぬ直前だけは正気に戻して、お別れの時間をあげたというのに……。ああ、あの人ならきっと、あなたのその態度を見て、こう叫ぶでしょうね。――貴方、怠惰デスネェ!」
ケラケラと響く、この世の終わりみたいに不快な笑い声。
「黙れ……ッ! お前も……そのペテルギウスって奴も……俺が、俺が絶対殺してやる……!!」
限界まで張り詰めたスバルの胸中から、濁流のような怒りが湧き上がり、シリウスへと咆哮となってぶつけられた。
自分を知らない『未来の自分』のせいで逆恨みしてくる狂人。初見殺しの理不尽な初動で、無慈悲にスバルとエミリアの前に現れ、得体の知れないチート能力で周囲を虐殺してくる怪物め。
もし、その予知夢の中で、未来の自分がシリウスの言うペテルギウスという人間をブチ殺したのだとしたら――その報いとして今ここに現れたのだとしても、そんなものは知ったことか。殺されて当然の奴だったんだろ、とすら思う。
「俺が……必ずお前を、……っ!」
熱い。何かがスバルの身体の奥底から、自分の存在を主張するようにドロドロと蠢いていた。それが何であれ構わない。この謎の衝動のまま、今すぐ目の前の包帯女を八つ裂きにできる力をくれと、スバルは魂を叫ばせる。
「おほっ!!! さぁ、どうします!? 試してみますか!? 貴方はまだペテルギウスを殺していない、ということは『怠惰』の権能はあなたの中にありませんよぉ! では、貴方のその『傲慢』の権能は、一体どんな愛を私に伝えてくれるのでしょう!?」
シリウスは歓喜に身を震わせ、期待を込めてスバルの能力の発動を待っている。その小馬鹿にしたような態度に、スバルは渾身の殺意を注ぎ込む。腹立たしくて、脳の血管が千切れそうだった。
「誰が傲慢だ……この狂人が!! お前らみたいな化け物と一緒にされるなんて、反吐が出るんだよ……っ!!!」
「はい? なんですかぁ? ……ごめんね! 私はこんなに優しく、あなたの権能が発動するのを待ってあげているというのに……あなたには、心底がっかりです! ありがと! ペテルギウスへの最高の手土産になってくださいねぇ!!」
シリウスの最後通告。
スバルは――何もできなかった。指先一つ動かせず、爆発しそうな怒りとは裏腹に、身体からは何の力も湧き出てはこなかった。
「クッ……クソ」
シリウスが次なる無慈悲な一撃を放つよりも早く、スバルは目の前で血に塗れ、苦しむエミリアの身体を強く、強く抱きしめた。
このまま、仲良く二人揃ってなぶり殺される。それは確定した未来だった。死ぬ覚悟なんて、これっぽっちも出来ちゃいない。けれど、五感をマヒさせるほどの恐怖の中で、それが
今のナツキ・スバルにできる唯一の、そして最後の足掻きだったのだ。
「……え?」
ぎゅっと目を瞑り、訪れるはずの致命的な衝撃を待っていたスバルの頬に、そっと、 優しい体温が触れた。
視界を開くと、エミリアの細い指先が、スバルの涙が伝う頬を愛おしそうになぞっていた。彼女の胸口から溢れた冷たい鮮血が、スバルの肌にべっとりと付着する。
だが、そんなことなどどうでもよかった。彼女は一瞬前まで、必死に傷口へ治癒魔法を注いでいたはずだ。その手を止めてまで、自分に触れてくれたということは――。
「そ……そんな、嘘だろ……エミリア……」
エミリアはすでに、自らの命を繋ぐための治癒魔法を諦めていた。
急速に光を失い、命の灯火が消えかけていく紫紺の瞳と、真っ向から視線が交錯する。もう、彼女の唇は、スバルへと紡ぐべき言葉の形を結ぶことすらできない。
スバルは、己の頬を包むエミリアの小さな手を、今度は両手で壊れ物を扱うように強く握りしめた。そして、脳髄の奥底で何かが弾けるような、絶対的な決意を固める。
今更、何の力もない現代人の自分が決意したところで、一体何ができるのか。そんなことは知ったことか。
「――俺が、必ずお前を救って見せる……!!」
さっき、シリウスに向けて吐き捨てようとした呪詛とは、真逆の言葉だった。
だが、殺意に身を任せて咆哮を上げようとしたあの時、スバルは確かに、自身の身体の内側で『未知の力』が蠢くのを感じていた。
あの瞬間は空振りに終わった。けれど今、もしも、もしもあの得体の知れない力が、エミリアを救う可能性をほんの1%でも孕んでいるのだとしたら、どんな悪魔の力にだって縋り付いてやる。彼女が死んでしまった世界なんて、生きている意味が何一つないのだから。
――ドクンッ!!!
スバルの世界から全ての雑音が消え去り、ただ一音、己の心臓が爆音で鳴り響いた。
直後、スバルの五臓六腑から、血管の隅々に至るまで、悍ましいほどの「力」が満ち満ちていく。だが、それはシリウスのような禍々しい拒絶の力ではない。スバルの大切なものを守るために、優しく、そして絶対的な全能感を持って背中を押し上げてくれる、確かな力の奔流。
「スバル……っ! スバル、!!」
――その瞬間だった。
今しがた、死の淵へと沈みかけていたはずのエミリアが、突然、鼓膜を震わせるほどの明確な大声でスバルの名前を叫んだのだ。
そんな体力が残っているはずがない。奇跡を通り越したその現実に、スバルは驚愕して目を見開いた。
「お……っ!? おお、すげえ……っ!!」
エミリアの胸の傷口から、まるで沸騰したかのような白い蒸気が、激しく湧き上がっていた。
それは彼女自身の治癒魔法などではない。内側から肉体を強制的に再構築し、穿たれた心臓をみるみるうちに繋ぎ合わせていく、超常の『癒やし』。これほどの回復なら、時間を置けば完治する――その確信が、スバルの絶望していた心を完全に救い出した。
いや、理解できた。この奇跡を引き起こしたのは、他でもないスバル自身だ。
あの謎の衝動が発動した瞬間から、スバルは自分の魂とエミリアの魂が、目に見えない強固な『パイプ』で繋がったような、奇妙な感覚を覚えていた。
スバルは自らの何かを削り、あるいは捧げることで彼女の傷を癒やし――それと引き換えに、エミリアの持つ強大な底知れぬ力が、このスバルの肉体へとドクドクとフィードバックされている。
全細胞が沸き立つような熱さを感じながら、スバルは自分の拳を、骨が鳴るほどに強く握りしめた。
「ハハ……ちゃんと、あんじゃねえかよ……! 俺にだって、異世界チート能力が!!」
「凄い……! 全然、痛くない……っ。って、それよりスバル――!!」
せっかく目覚めた己の『チート能力』の全能感に一瞬だけ耽ってしまった、その致命的な隙だった。周囲への警戒を完全に失っていたスバルの胸元を、エミリアの両手が容赦なく突き飛ばした。
「え――っ!?」
視界が目まぐるしく回転し、スバルの身体は弾かれたように後方へと吹っ飛ぶ。そのまま川沿いに設置された石造りの強固な橋柱へと激突し、後頭部に鈍い衝撃が走った。
頭を抱えてうめき、痛みに視界を火花散らせながらもどうにか目を開けたスバルは、自分が最悪の結末から救われていた事実に気づいて血の気が引いた。
一瞬前までスバルがのん気に立っていたまさにその場所へ、シリウスの放った禍々しい鉄鎖が容赦なく振り下ろされていたのだ。硬質な石畳の地面は木っ端微塵に粉砕され、陥没したクレーターからは凄まじい土煙が巻き上がっている。
あの瞬間、エミリアが自分を突き飛ばしてくれていなかったら、今頃ナツキ・スバルは肉塊にされてこの世から消滅していた。
「ッ――えいっ!!」
スバルを窮地から救い出した直後、すぐさま体勢を立て直したエミリアは、大気を凍らせて巨大な『氷の金槌』を魔法で練り上げた。そして、その華奢な身体からは想像もつかない膂力で、容赦なくシリウスへと振りかぶる。
「まぁ!! なんて、なんて腹立たしいっ!!!」
激怒狂乱するシリウスは、避ける間もないその一撃を自身の左腕を盾にして受け止めた。だが、激突の瞬間、エミリアの放った超人的な質量がシリウスを圧倒する。シリウスの左腕がきしみ、ボキボキと骨の砕ける不快な音が周囲に響き渡った。包帯の怪物はその勢いのまま木の葉のように吹き飛び、通りの向かいにある民家の壁をブチ抜いて奥へと突っ込んでいった。
「ぐっ……ぅあ、っ!」
「おお……って、はぁ!? エミリア!!!」
敵を圧倒したはずの光景。しかし、次にスバルの目に飛び込んできたのは、苦悶の声を漏らしてその場に膝をつくエミリアの姿だった。
彼女は自身の左腕を痛々しく抑えていたが、少し離れたスバルの位置からでも、その腕が異常な方向に曲がり、複雑骨折を起こしてボロボロになっているのがハッキリと見えた。それだけではない。彼女の額からも、ダラダラと鮮血が流れ落ちていた。
あの瞬間、圧倒的な力で一方的に攻撃を仕掛けていたのは、間違いなくエミリアの側だったはずだ。それなのに、なぜ攻撃を『受け止めた側』と同じ大ダメージを彼女が負っているのか。
「どうなってんだよ、一体これのどこが『綺麗なまま殺す』だよ……!?」
スバルは慌てて立ち上がり、頭の痛みを無視してエミリアの元へと駆け寄った。
シリウスではない別の誰かによる隠れた狙撃を真っ先に疑い、大通りを見渡す。だが、視界に入るのは、先ほどの負傷共有で胸から血を流して絶命した、大量の民衆の死体だけだった。石畳の地面はすでに、逃げ場のない血の海と化している。むごたらしくて吐き気が込み上げる地獄絵図だ。平和ボケしたスバルの精神がまだギリギリで保たれているのは、他でもないエミリアがまだ生きてくれているからに他ならなかった。
「何してんだよ俺の能力!! 早く治れよ、早く治ってくれよ!!」
駄々をこねる子供のように、スバルは自身の身体の内側にあるはずの権能へとしがみつき、必死に念じる。さっき彼女の心臓の傷を消し去った時のように、あの奇跡の白い蒸気で、もう一度エミリアを覆い尽くしてほしかった。
「……逃げて……あの人には、絶対に勝てない……っ」
幸いにも、心臓を直接穿たれた先ほどに比べれば、負傷の度合いは断然マシな部類だったのだろう。だが、エミリアは複雑骨折した左腕をガタガタと震わせながら、スバルを追い立てるようにそう声を絞り出すのが精一杯だった。
「なんで……なんでだよ、おい!! 早く治ってくれってば!!」
一度は完璧に上手くいったのに、二度目はなぜか発動しない現実に、スバルは焦燥のまま不満を爆発させる。あれがたった一度きりの『使い捨ての回復特典』だなんて絶対に認めない。だって、スバルの魂の奥底では、未だにエミリアと繋がっているあの強固な『パイプ』の感触が、ドクドクと熱を持って脈打っているのだ。今、回復が発動していないのは能力の限界のせいじゃない。それを正しく扱えていない、ナツキ・スバル自身の不甲斐なさのせいだ。
「――早く逃げてって、言ってるでしょっ!!!」
エミリアの痛切な怒声が響き、スバルはビクッと身体を強張らせた。一瞬で都合の良い妄想から現実に引き戻される。
エミリアの表情は、どこまでも必死だった。だが、その紫紺の瞳の奥底に、またしても「自分の命を投げ打ってでもスバルを逃がす」という破滅的な自己犠牲の色彩が見えて、スバルはそれが無性に腹立たしく、見ていられなかった。
無理に大声を張り上げた反動で、エミリアは苦しそうに激しく咳き込んだ。頭部からの出血は酷くなる一方で、止まる気配がまるでない。
「俺が助けるって言ってるだろ!!! またあの蒸気で治してやるからさ! それか、お前自身の治癒魔法だってあるだろ!!」
スバルも負けじと、子供じみた大声で彼女の言葉を突っぱねた。根負けしたように、エミリアは自由な右手で自身の頭部へ微かな治癒の光を当て始める。だが、その回復の速度は、先ほどに比べてあまりにも遅く、弱々しいものだった。
その時、スバルの脳裏に電撃のような閃きが駆け巡った。
シリウスが言っていた、スバルにあるという『傲慢の権能』。その本質は、魂同士を繋ぐ『鎖』だ。このパイプのような繋がりは、スバルが「エミリアを絶対に救う」という強い意志をトリガーにして発動した。そして今、スバルの全身にはエミリアの超人的な身体能力の恩恵が流れ込み、みなぎっている。
ならば――その逆も然りのはずだ。最初の一回はスバル側から「治れ」と念じて白い蒸気を送り込んだが、この繋がりが常時接続されているのだとしたら、回数制限なんていうゲーム的な縛りは腑に落ちない。
「エミリア……お前、俺のこの『繋がり』を利用しろ! 最初の治療は俺発信だったけど、2回目からは、エミリアの側がきっかけになればあの白い蒸気の治療を引き出せるはずだ! やってくれ、必要だろ!?」
スバルが必死に提案するが、エミリアはそれに応じようとはしなかった。ただ頭部に治癒の光を当てたまま、ボロボロの身体に鞭打って、苦しげに石畳の上へと立ち上がる。
民家の壁の向こう側からは、今にもあの包帯の怪物が再び飛び出してくるかもしれない。彼女は折れた左腕をかばいながら、今度はスバルの前に立ちはだかり、盾となるように前方を油断なく警戒し始めた。
「ダメよ……。スバル、その力に……これ以上頼っちゃ、いけない気がするの」
エミリアは前を見据えたまま、微かに声を震わせた。
「さっき、死ぬはずだった私を助けてくれたのは、本当に、すごーくありがとうって思ってる。ちょっぴりは、その力を使いたい気もあるのだけれど……でも、これ以上は絶対にダメ」
「わ……分かってんじゃねえか! 仕組みがなんとなく理解できてるなら尚更だろ、使えるもんは何でも使ってくれよ!」
恐ろしいほどの轟音が響いた。
突如として、目の前の民家が物凄い赤紫色の豪炎によって爆裂した。吹き飛んだ瓦礫も、燃え盛る木材も、あらゆるものが一瞬にして灰へと変わり、崩れ落ちていく。
そして――黒煙を割って、あの包帯の狂人が再び姿を現した。
「次は俺の番だ!! 今の俺はドーピングしてるみたいに力が湧き上がってきてるんだ! シリウスに一矢報いて――」
「あああああ!!!!! 腹立たしい!! 醜い、許せない、ウザい、ウザい、ウザァァァアイ!!!」
スバルの言葉をかき消すように、シリウスが地を震わせる憤怒の絶叫を上げる。あの不気味な赤紫色の炎もこの狂人の能力だとすれば、恐ろしさは増すばかりだ。だが、不思議とスバルの心に怯えはなかった。今の自分なら、あの化け物相手でも十分に戦えるという万能感に満ち溢れていたからだ。
「もう……!!! 」
隣で、エミリアが耐えかねたように苦しげな声を漏らす。
その瞬間、スバルの心臓がもう一度、”ドクン”と大きく脈打った。
だが、恐れていたような激痛も、身体が鉛のようになる疲労感も一切ない。それどころか、スバルの目の前で、エミリアの額と複雑骨折していた左腕からシュウシュウと白い蒸気が湧き上がり、瞬く間にその肉体を元の形へと治療していくではないか。
「オケオケ、いけるじゃん! やり方がイマイチ分かってなかったけど、エミリアの側がコツを掴んでくれたのか! さっきはなんであんなに躊躇してたのか知らねえけど、今の俺たちのコンビネーションならアイツにだって負けねえよ!」
安堵から、スバルの上ずった声が大通りに響く。エミリアがすぐに同調してくれないので、自分で自分に打ち切りフラグを立てているような妙な気分だ。
どうにもエミリアは、このスバルの力を引き出すことに非協力的だった。スバル自身には何一つ分かりやすいデメリットが見当たらない以上、彼女が何をそこまで恐れて躊躇うのか、今のスバルには全く理解できなかった。
「……お願い!!! これを本当に最後にしたいから――凍って!!」
エミリアが悲痛に叫ぶと同時に、スバルの中の力が明確に駆動した。自身の内側の深いところから『何か』が引き出され、太いパイプを通じてエミリアへと凄まじい熱量が送られていく感覚。だが、やはりスバルの肉体から何かが目減りした感覚も、痛みも疲労もない。むしろ、自分の力が彼女の役に立っているという全能感と嬉しさしか湧いてこなかった。
氷が生成され、シリウスを巻き込む音が響いた。
エミリアが両手を向けた先、炎上する民家ごと、大通りの空間そのものが巨大な氷の質量へと変貌した。当然、中心にいたシリウスもその絶対零度の檻に完全に巻き込まれ、分厚い氷の奥へと封じ込められる。
あまりにも規格外な魔法の威力。もしあの質量をすべて尖った氷の砲弾にして撃ち込んでいたら、あの包帯女を粉々に粉砕できていたんじゃないか、とスバルが戦慄するほどだった。
「……すごい力ね」
「優しい攻撃だな。俺だったらあのクソアマを力いっぱいブン殴って分からせてやりたかったんだが……まぁ、エミリアがあれで満足して事件が解決するなら、別に文句はねえよ。ドーピングした俺の出番もないまま、あっけなく終了ってか。これぞ調子に乗った悪党の末路だな! ――って、俺またフラグ立ててる?」
ペラペラと軽口が自然に口から溢れ出るのは、この極限状態から生還できた安堵の裏返しだった。結果としてスバルがやったことと言えば、エミリアの後ろに隠れて力を送っていただけだが、それでもあの凶悪なシリウスは完全に沈黙した。氷の中で、今は呼吸すらしていないはずだ。
それにしても、あんな悪の幹部だか何だかに命を狙われるなんて、俺はこの世界の未来で一体どんな生き方をしていたんだ?
「……いけないっ! スバル、走って!!」
「おっ!? ああ、了解だぜ!」
エミリアが突然目を見開き、スバルの手を力強く掴んで氷塊に背を向けた。背後の氷にヒビが入るような兆候は見当たらないが、スバルは彼女の切迫した指示に従って同時に地を蹴る。
やはり、この『魂の鎖(傲慢の権能)』による強化は凄まじい。まるで高級な栄養ドリンクをがぶ飲みした時のように、走る足取りは驚くほど軽かった。もともとスバルより何倍も身体能力の高いエミリアに手を引かれ、二人の速度は馬車をも置き去りにするほど加速していく。
「これならもっとスピード上げてもいいぜ! ――って、おい、やっぱりストップ!!! 止まってくれ、エミリア!」
「えっ……?」
突如、スバルの視界にあるものが飛び込んできた。その衝撃に、スバルは思わず急ブレーキをかけて足を止めてしまう。
二人が差し掛かった橋の上。その下を流れる川の水面に、自分の姿が、自分の『顔』がくっきりと映り込んでいたのだ。
スバルが急停止した理由を察したかのように、隣でエミリアが痛ましく胸を締め付けられるような表情で立ち止まった。
なぜ彼女がそんなに怯えた反応をするのか。それを確かめるため、スバルは水面に映る自分の顔を凝視する。
「すげぇ……光ってんじゃん、俺の目。っていうか、めちゃくちゃ鮮やかだな」
「え……?」
水面を覗き込むスバルの瞳。それは、元の世界での三白眼の濁った黒い瞳ではなかった。
今、スバルの両目には、夜空を溶かし込んだかのような、息を呑むほどに美しい紫紺の色彩が爛々と輝いていたのだ。これこそが能力発動時にスバルの肉体に現れる『チートの証』なのだろう。自分の凶悪な目つきは長年のコンプレックスだったが、それがこんなにも気高く美しい瞳に変わってくれるなら、むしろ嬉しいくらいだ。
スバルは思わず、時間を忘れて水面の自分に見とれそうになってしまう。
「スバル……。その能力を解いて。お願いだから、今すぐ……!」
スバルの真横で、エミリアが今にも泣き出しそうな、苦しげな声を絞り出した。
「もしかして……エミリアの側に、何か俺の知らない力の弊害が出てて、それを我慢してるとか、そういう感じ? ぶっちゃけ今のところ、俺の側には全く嫌な感じも痛みの前兆もないんだけど……。なぁ、なんでさっきからこの力を使うのをそんなに嫌がるんだ?」
その、本当に何も分かっていないスバルの無邪気で単純な疑問に、エミリアは悲痛に眉間を寄せた。
そして次の瞬間、彼女はスバルの両頬をその小さな手で強く掴み、拒絶を許さない勢いで己の顔のすぐ近くへと引き寄せた。
「あだっ!? ……って、エミリア、いきなり何を――」
至近距離で紫紺の瞳に真っ向から凝視され、スバルは完全にキャパオーバーを起こした。今の自分もエミリアとお揃いの瞳になっているはずなのだが、そんな客観的な事実よりも、目の前の超絶美少女の顔が数センチ先にあるという現実に、全身の血が逆流しそうになる。
「お、おいっ! 純情を軽々と超えてるぞ!」
なんとか引き剥がそうとエミリアの手首を掴むが、スバルの顔を固定する彼女の両手は、まるで強固な万力のようにびくともしない。
エミリアは、今にも起爆しかねない危険物でも取り扱うような切実さで、スバルの紫紺の瞳の奥を凝視していた。しかし、ひとまず目立った狂気や崩壊の兆候が見当たらなかったのか、やがて強張らせていた指先から、よわよわしく力を抜いた。
そのまま、糸が切れたように狼狽えた彼女は、スバルの胸のあたりに自らの額を「こん」と小さくぶつけた。
「おいおい、どうしちまったんだよ……。何も問題ねえって。痛くも痒くもないし、俺的にはこれ、めちゃくちゃ気に入ってるんだが。もしかして……エミリア的には、俺とお揃いの目になっちゃったのが侵害だったりする?」
「ふざけないで……っ! この世界じゃ、そんな目になっちゃったら、どれだけ苦労すると思ってるのよ……っ?」
悔しさと悲痛さに声を震わせるエミリア。その剥き出しの必死さに直面し、スバルは自分が吐いた軽口の浅はかさを、心の底から激しく後悔した。
エミリアは、これっぽっちもふざけてなどいない。
「ごめん……。俺、本当によく分かってなくて」
スバルの知らない、この世界の過酷な事情があるのだろう。だが、先ほど大通りを歩いていた際、民衆がエミリアに向けていたあの容赦のない拒絶の視線――それと、この『紫紺の瞳』が分かち難く結びついていることだけは、平和ボケしたスバルの頭でも容易に察しがついた。
今がどれほど重く、真剣に向き合うべき空気なのかをようやく理解し、チート能力に舞い上がっていた己を猛省する。よし、今日一日は軽口禁止だ。
「……身体に、他におかしなところは?」
胸に額を預けたまま、エミリアが消え入るような声で尋ねる。
「……いや、凄く調子がいい。いつもの3倍くらいの速さで走れそうな気がするくらいだ」
「その目は……元に戻るの?」
「それは分からん。……けどさ、エミリア。君は俺より、俺のこの力についてよく分かってるみたいだよな?」
本当は、聞きたいことだらけなのはスバルの方だった。質問に質問で返す不器用な形になってしまったが、エミリアは小さくため息をつき、顔を上げて真剣に語り始めた。
「スバルのこの能力は、多分……さっきのシリウスの権能と同じような、別の系統の『権能』だわ。なんでそれがスバルの中にあるのかは分からないけれど、たぶん、すごーく危険な力なの。私は魂の繋がりを通じて、スバルから力を借りた。それは本当に強くて、傷の痛みを綺麗に消して、治してくれるものだった……。でも、そこまでしてくれたのに、スバルの方に何の負担も現れないのが、私は本当に危ない気がするの」
「負担、が現れないのが?」
「ええ。分かりやすい代償がないからこそ、この力を使いすぎたら、スバルはあの人……シリウスみたいに、いつの間にか狂人になっていくんだわ。その目だって、私に力を貸したせいで変わっちゃったんなら、本当に、すごーくこんこんちきよ!」
「こんこんちきって、きょうびフィクションでも聞かねえな……あ、ごめん、何でもないです」
つい口が滑り、エミリアからジロリと冷たい視線で睨まれてスバルは両手を挙げた。
「でもさ、俺の中には前向きな変化しかないんだ。この『魂の鎖』を使ってから、エミリアを救いたい、守りたいっていう気持ちが、本能レベルで強まった感じがある。それ以外は恩恵しか感じてないんだよ。これがこの世界で俺を助けてくれる異世界特典って言うなら、俺は心から感謝するぜ。……あ、エミリアは俺を召喚した召喚士様ってわけじゃなかったな」
再度じろりと睨まれるが、スバルは今度こそ、心から真面目に言葉を続けた。
「街を歩いてた時、周りの奴らがエミリアに投げつけてた視線、俺も気づいてた。だからさ、俺がエミリアと同じ紫紺の瞳になったことについて、君が焦ってくれたんだろ? 困ることも多いんだろうけど、俺はこの世界の事情を何も知らない。だからさ、俺にとって君はただの『超絶銀髪美少女エルフっ子』で、この紫紺の瞳はまさに俺の中二心をくすぐる憧れそのものなんだ。だからさ、新しい俺を、一緒に受け入れていこーぜ」
「耳が尖りだしたり、髪の色まで変わっちゃったりしないか、すごーく心配だわ……。本当に、どこも変な感覚はないの?」
全然納得していない様子で、エミリアはなおもスバルの耳や髪へと、不安げに視線を何度も往復させている。
「だから大丈夫だって。もし耳が尖ろうが髪が銀髪になろうが、お揃いが増えるなら俺は歓迎するぜ――あだだだだ!」
調子に乗るなとばかりに、容赦なく右耳を引っ張られた。
「もう……バカっ」
エミリアはそう吐き捨てた後、自らの胸にそっと手を当て、数秒間、何かの深い思いにふけるように目を伏せた。その横顔を見ていたスバルは、不覚にも、心の底からこの不器用で優しい少女に惚れ込んでいる自分を自覚する。
だが、そんな微かな安らぎのひと時を、最悪の重低音が派手にぶち壊した。
大通りに響き渡る、強固な氷塊が内側から爆裂していく絶望的な破壊音。
凍土の檻を内側から焼き尽くすように、おぞましい赤紫色の豪炎が噴出し、あの包帯の化物が再び這い出てきたのだ。
「そろいもそろって!!! 何て醜い瞳だ!!! 汚い、汚い、汚い、気持ちが悪いぃいいい!!! 今すぐその両目を、生きたままくり抜いてやるうううう!!!! あぁあああ!!!」
「嘘だろ、」
バキバキと音を立てて氷の監獄が崩壊する中、スバルとエミリアは同時に反転し、シリウスの方を睨みつけて臨戦態勢に入った。まさか、あの質量を凍らせておいて、これほど早く復帰してくるなど完全に予想外だった。
「おいお前!! どう考えてもそっちの方が分が悪いぞ! 一回実家に帰ったらどうなんだ!? お前みたいなのは初期に出てきていい中ボスじゃねーんだよ! 普通は一話のラストで顔だけ見せて『また会おう』とか言って帰るラスボス枠だろうが!! なぁ、今の俺たちに勝てる自信があるのかよ!」
スバルが喚き散らしたのは、挑発のためではない。単なる本音の懇願だ。今すぐシリウスに引き返して、どこか遠くへ去ってほしかった。大通りで大勢の民衆が殺されたが、今のスバルにはその仇討ちをしてやろうなんて正義感は一ミリも湧いてこない。シリウスはどこまでいっても、ただただ恐ろしい怪物なのだ。
「スバル……分が悪いのは、私たちのほうよ。さっき、すごーく力いっぱいシリウスを攻撃してみたんだけど、私もその攻撃と同じ傷を受けちゃったの。なんでスバルにだけはその影響が出ていないのかは分からないし、それは凄く助かることなんだけど……これじゃ、私からはシリウスに攻撃はできないわ」
「帰るだと……っ!? あなた、とても不愉快なことをおっしゃいますねぇ!!! こんな醜い二人組を放置して、私に憤怒を鎮めて帰れとそうおっしゃる!? 燃やして、燃やし尽くして家畜の肥料にしてやるううう!!!!」
エミリアの悲痛な告白と、シリウスの狂った反応から、スバルは戦慄と共に理解した。分が悪いのは、断然自分たちの側だ。こちらが攻撃すればそのダメージがそのままエミリアに返ってくるなんて、最悪という言葉すら生温い。初見殺し性能も大概にしろというのに、まともな攻略法すら存在しないクソゲーのボスキャラだった。
「でも……おかしい!! この半魔まで、私の精神汚染が効かなくなっているう!!! 腹立たしい!!! これもお前の『傲慢』の力かぁ!! ええ、本当にどこまでも傲慢だ!! 私の憤怒の愛から勝手に逃れるなど、何様のつもりなんでしょう!? 生かしておけないいいい!!」
「あっ――!?」
シリウスの憤激の言葉に、スバルの脳内でバラバラだったパズルのピースが噛み合った。シリウスの言う通りだ。
まだスバルの権能である「魂の鎖」を発動する前、エミリアは周囲の群衆と同じように目を赤く発光させ、シリウスの精神汚染によって身動きを封じられていた。だが今は、目の前にシリウスがいるというのにその影響を一切受けていない。これは明確なアドバンテージだ。
「だけど、あいつに与えたダメージだけは、まだエミリアに反映されちまうのか……! クソが、そこも全部シャットアウトしてくれよ!! これも……俺の力が足りねえせいなのか!?」
傲慢の権能を自覚する前から、なぜかスバルにだけはシリウスの精神汚染が効いていなかった。最初の一瞬でノイズを振り払えたほどだ。この完全耐性がスバルのデフォルト能力なのだとして、それが『鎖』で繋がったエミリアには部分的にしか共有されていない。洗脳は防げても、負傷の共有までは防げていないのは何故だ。
「あなた!? 何と傲慢なんでしょう!!! ごめんねぇ! ちょっと力が目覚めて調子に乗っていらっしゃるようですが、その矮小で醜悪な姿、まるで『強欲』の大罪司教、レグルス・コルニアスそっくりではありませんですかぁ!?」
またしても、聞いたこともない単語がシリウスの口から飛び出してきた。シリウスやペテルギウスの同類だろうか。
「だから誰だよそいつは!? 俺はそんな奴、名前も顔も知らねえって!!」
「いるんですよねぇ!!! 自身は何の価値もない弱者の哀れ者のくせに、授かった権能に頼り切って自己を主張する恥知らずが!! あの方もあなたと同じように、私の憤怒が一切効かないので、別に貴方に効かなくても驚きませんよ別にいいです!! 単純に肉片に変えるだけですので!! ごめんね、ありがとう!!」
そう言って不気味に舌なめずりをするシリウスの両手には、ジャラジャラと金色の長い鎖が握られていた。
この怪物は、ただでさえ厄介極まりない負傷共有の権能を持ちながら、あの恐ろしい豪炎を操り、さらにはこの鎖を自在に扱う武術的な強さまで兼ね備えているらしい。ますます、初期装備の今のスバルが相手にしていい敵ではなかった。
「ふ……ふざけんじゃねえ! 俺は別に能力で威張ったりなんてしてないぞ! 言いがかりだ! 俺のプライドに対する重大な侵害だろ!」
しかしスバルは、シリウスの罵倒の一部に、図星を突かれたような痛みを覚えていた。この窮地に陥ってから、自分はずっと『異世界チート特典』ばかりを求めていた。だって、それ以外に頼れるものがないのだ。今まで何一つ成し遂げず、何も積み上げてこなかったナツキ・スバルという人間に誇れる過去がないのなら、新しい天からの恵みに縋り付くしかないではないか。
「あらっ!? あの方と発する戯言、その醜い被害妄想の発言までそっくりではありませんかぁ!? ごめんね! すぐにその回る舌ごと黙らせて――」
「そこまでよ! それ以上、スバルを悪く言うことは私が許さないわ!」
凛としたエミリアの鋭い一喝が、大通りの張り詰めた空気をピキリと凍らせた。
そのあまりにも真っ直ぐで頼もしい言葉に、スバルの胸の奥から熱い感情が込み上げる。だが、それ以上に凄まじい熱度の感情を滾らせ、沸騰させた者がいた。
「私の言葉を!!! 遮るな!! この半魔風情がぁァァアアア!!!!」
逆鱗に触れられたシリウスは、エミリアとスバルをまとめて二の字に両断せんとする勢いで、その長い金鎖を大気を切り裂く速度で振り回した。
「スバルっ!」
襲い来る死線の中で、エミリアにはスバルの身を案じて振り返るだけの余裕があった。
だが――今のスバルは、彼女の魂から強大な身体能力をフィードバックされ、限界突破の『ドーピング』状態にある。
だからこそ、スバルの紫紺の瞳には、迫り来る金鎖の凶悪な軌道が、信じられないほど鮮明に、そしてスローモーションのように見えていた。
「大丈夫だ!!」
――3メートルの垂直跳び。
この土壇場でスバルの肉体に爆発的な跳躍力が宿り、大通りを薙ぎ払うように襲い来る金鎖を見事に真上で回避した。ふと視線を上に向ければ、エミリアもまた同じように宙を舞っている。だが、彼女の跳躍はスバルよりさらに高く、天高く突き抜けるような美しさだった。
(すげぇな、やっぱりあの子は別格だ――)
そんなスバルの視線を受け止めながら、エミリアもまた、普段の彼からは想像もつかない超人的な跳躍を見せたスバルの姿に、紫紺の瞳を驚きに丸くしていた。
「はぁ!? 許せない!!! ちょこまかと、不愉快に跳ね回ってぇええ!!」
「ってこれやべえ!! 着地はどうすんだよ!!」
攻撃をかわされて完全に頭に血が上ったシリウスは、容赦なく再び鎖を激しく振り回し、空中にある二人を同時に追撃せんと襲いかかる。
「えいっ!!」
着地寸前、エミリアが空中に強固な『氷の盾』を瞬時に生成し、それでシリウスの金鎖を 真っ正面からガチリと受け止めた。シリウスを直接攻撃することはできなくても、向こうからの暴力を防ぐ盾を作るだけなら、エミリアの氷魔法は依然として有能すぎるほど有能だった。
「しゃんなろぉおおお!!!」
垂直跳びの最高点から地面へと落下する瞬間、スバルは勢いのまま、前転の要領で石畳の上を激しく転がって肉体への負担を巧みに減らした。もしそのまま愚直に着地していたら、足の骨が綺麗にへし折れていただろう。
こう見えて、ナツキ・スバルは元の世界での体力テストにおいて、男子高校生の平均値を大きく上回る数値を叩き出していた。とはいえ、学校の中で威張れるほどの大した数値でもないと自覚していたが、今のドーピング状態にあるなら、その元々の素質の高さがありがたかった。
この身体強化は、跳躍を可能にした筋力の上昇だけでなく、スバルの脳内の処理速度や反応速度をも劇的に引き上げていた。シリウスの金鎖が描く凶悪な軌道を見切り、さらにはどのタイミングでどう転がれば衝撃を殺せるか、そのビジョンが明確に見えていたのだ。
「でも、一番強化されてほしい肝心な所に、全く自信がねえんだよ……っ!」
「スバル!! 離れて!!」
氷の盾でシリウスの猛攻を防ぎ続けるエミリアだったが、無力なはずのスバルに気を配りながらの戦闘は、さすがに骨が折れそうだった。
スバルはエミリアの指示に従い、すぐに地を這うように駆け出して彼女から距離を取る。走りながら、スバルは先ほど閃いた『自分の致命的な弱点』を痛感していた。
このドーピングは、スバルの肉体の「強度(耐久力)」そのものはろくに強化してくれないのだ。
つまり、スバルは驚異的な速度や筋力を手にしてはいるが、防御力はただの不登校の高校生と大差ない。シリウスのあの凶悪な鎖や炎の攻撃が一発でも掠れば、その瞬間に文字通りのひき肉にされる。
大体、スバルのよく知る漫画やアニメの強化イベントでは、パワーアップしたキャラクターは敵の攻撃が効きにくくなる強いの肉体を手に入れ、最後には圧倒的な力で逆転するのがお約束だ。だが、この過酷な異世界はスバルにそれを許してはくれない。
まるで世界が、ナツキ・スバルに「死ぬかもしれない」という最悪のリスクだけからは、絶対に逃がしてくれないようだった。
例えばどうだ。今のスバルがこの超スピードのまま、本気でシリウスの顔面を殴りつけたとしたら――硬度の差で、間違いなくスバルの右腕の方が粉々に砕け散る。シリウスの肉体強度もエミリアと同じように、完全に超人側のそれだ。ただの人間に毛が生えた程度の今のスバルより、遥かに頑丈なのは間違いない。
「だったら――これならどうだぁ!!」
スバルは先ほどとは比較にならない神速で血の海の石畳を駆け回り、あえてシリウスへの超接近戦を試みた。
シリウスに傷を与えれば、そのダメージは負傷共有によってエミリアにも反映されてしまう。それでも、殴ることも斬ることもできない敵に対して、スバルは完璧な対処法を思いついていたのだ。
「スバルッ!! 勝手なことしないで……っ!!」
背後から、エミリアの悲痛に満ちた叫びが聞こえる。まさか、ついさっきまで怯えていたはずのスバルが、こんな大胆極まりない行動に出るとは夢にも思っていなかったのだろう。
次の瞬間、スバルはシリウスの死角――完全な背後へと回り込んでいた。さすがのシリウスも、この想定外すぎるスバルの移動速度には包帯の奥の目を驚きに剥いていた。
「ははははは!! いいですよ、いいですよ!! ごめんね!! お前ごとき醜い羽虫に、一体何ができるというのですかぁあ!!」
見下すような、あまりにも不快な笑い方。自ら飛び込んできたスバルを、ただの無力な弱者だと完全に舐めきっている。だが、その油断のまま勝手に自滅しろ、とスバルは心の中で毒づいた。
「過保護なんだよエミリア!! 俺を信じろ! ――こいつをこのまま川に投げ込んでやる!!」
「……分かったわ!! お願い!!」
エミリアは一瞬だけ躊躇したものの、もう引き返せない段階だと瞬時に悟ると、見事な判断力でスバルの思惑を汲んで動き出した。
彼女はスバルとは真逆、川とは完全に反対方向の街の奥へと全速力で走り出したのだ。一時的にスバルとは離れ離れになってしまうが、彼女の本当の目的は、シリウスとの『距離を取る』こと。
――川に投げ込まれたシリウスは、そのまま激流に流されて遠くへと引き離される。その際、もし川の中でシリウスが溺れたり、何かにぶつかって苦痛を感じたりした場合、そのダメージがエミリアに伝播してしまう可能性がある。だからこそ、エミリアはその権能の影響範囲から、大急ぎで脱出しなければならないのだ。
「なんて愚かで、底の浅い馬鹿な子供!! ごめんね! ありがと!」
「言ってろ!! 本当のバカはお前の方だよ!」
エミリアの完璧な即時行動に、スバルは心の中で右手を強く握りしめ、早くも勝利を確信した。万が一、投げ飛ばす衝撃でシリウスがまたダメージを負ったとしても、その時は俺の『魂の鎖』を利用して、さっきみたいに白い蒸気で即座に回復してくれればいい。
それにしても、本当にあの銀髪の美少女は完璧すぎる。またしてもこの脳内勝利の方程式に感謝だ。
スバルは全身の筋力を爆発させ、シリウスの包帯塗れの胴体をガシリと持ち上げた。シリウスは、なぜか思いのほか抵抗してこない。
(このクソ化け物め、今更後悔したって遅えからな!)
「――たまやぁあああ!!!」
人間の肉体というものは、地球上の他のどんな動物よりも『投げる』という動作において、最も進化し、特化した構造をしている。スバルは自分の肉体が負荷に耐えきれずに壊れてしまわないよう、絶妙な塩梅で強度を調整しながら、その腕力に全エネルギーを注ぎ込んだ。
十分だ。フィードバックされたこの超人的な力なら、シリウスの肉体をノーバウンドで遥か遠くの川のド真ん中へと突っ込ませることができる。
大量の冷たい水を浴びて、その狂い切った頭でも少しは冷やしてしまえ。
「ペテルギウス……!! 貴方に、この不遜な馬鹿を捧げるのデス……!!」
スバルが咆哮を上げ、まさにその手からシリウスの身体を空中へと解き放つ、その寸前だった。
耳元で、シリウスの不気味なほどに静かな呪詛の言葉が鼓膜へと滑り込んできた。
直後――スバルの視界のすべてが、逃げ場のないおぞましい赤紫色の炎によって、瞬時に覆い尽くされた。
「ぐっ……がああああああ!!! !?!?!?」
スバルの絶叫が、大通りを真っ赤に焼き尽くしていく。
「ごめんね! わざわざ自ら近くに来てくれて、本当にありがと! あなた、私に不用意に触れたらどうなるか――その愚鈍な頭で、一瞬でも『憤怒』に焼き尽くされる可能性を考えなかったんでしょうかァ!? ありがと!!」
その歪んだ感謝の言葉の直後、スバルの全身は爆発的な赤紫色の炎に包まれていた。
炎の温度とは、およそ800℃から、高熱なものでは2000℃の間に達するという。対して、ナツキ・スバルの平熱時の体温は36.3℃。生物として、あまりにも適応不可能な絶対的絶望の熱量だった。
燃焼――それは、スバルの人体という有機物が、激しく空気中の酸素と結びつき、熱と光を発する現象に他ならない。スバルは今、己の命そのものを燃料にして燃え盛る、一本の醜い松明と化していた。
熱さ、痛み、苦しみ、怒り、そして底なしの恐怖。すべての感情が超高熱のエネルギーへと変換され、肉体を苛んでいく。頭を抱え、のたうち回り、苦しみを体現する絶叫を上げるが、体中の水分は一瞬で干上がり、悲鳴すら空気の振動に変わる前に蒸発した。この地獄の劫火を消火するには、人間の肉体に蓄えられた水分など、あまりにも、あまりにも足りなすぎた。
「あああああああああああああッ!!!!! !?!?!?」
今すぐに、死んでしまいたかった。
意識があることが呪わしい。目の前にいるシリウスに、今すぐ、この瞬間を以てこの筆舌に尽くしがたい苦しみを終わらせてほしかった。これが、あの包帯の狂人に逆らった代償だと知っていたら、こんな無謀な賭けには絶対に手を出さなかった。この狂気的な激痛から解放してくれるのなら、今すぐ負けでいい。俺の負けでいいから、お願いだから早く終わらせてくれ、と魂の絶叫が脳内で木霊する。
「さぁ、哀れな子供に、残酷な現実を見せてあげましょう!! ありがと!!」
全身が黒い灰になりかけているスバルの肉体に、容赦なく金鎖が巻き付いた。シリウスがそれを鞭のように激しく振り回す。だが、建物や石畳に叩きつけるような慈悲はなかった。 シリウスは凄まじい遠心力を利用し、スバルの身体を遥か上空へと放り投げたのだ。
そして、空中へ舞い上がったスバルを見上げながら、包帯の怪物は満足げに指をパチンと鳴らし、勝利を宣言する。
「さぁ!! 最後に見せてあげましょう!! ええ!! 貴方に最大の感謝を、ありがと!」
シリウスが指を鳴らした瞬間、スバルの全身を蝕んでいたあの赤紫色の炎が、一瞬にして、嘘のように消え去った。自由自在に炎を生み出し、また一瞬で無へと帰す――それすらも、あの怪物の気まぐれな能力の一部なのだろう。
瀕死のスバルはすでに、全身の神経が焼き切られ、あらゆる感覚を喪失していた。今更燃やすのをやめたって、もう遅えんだよ……そんな恨み言を脳内で呟きながら、重力に従って 上空からまっさかさまに落下していく。地面が急速に近づいてくる。
いや――激突する地面よりも、もっと重要で、もっと最悪なものが、スバルの死にゆく視界に飛び込んできた。
「え……あ……っ、え……」
声が出ない。スバルの声帯は、すでに炭化して脆い灰と化していた。それでも、スバルはその両目で、ハッキリとそれを見てしまった。
――炭化し、見る影もなく燃え尽きた、エミリアの変わり果てた姿を。
見たくない、絶対に見てはならない最悪の光景を、最後の最後に無理やり見させられてしまった。炎を直前で解除したシリウスの、これが最大級の、そして最も悪趣味な嫌がらせだったのだ。
スバルは思い知る。自分が燃やされ、絶望的なダメージを受ければどうなるか。その『痛み』も『負傷』も、シリウスの権能によって、そっくりそのままエミリアへと共有されるのだ。シリウスとは、そういう性質の敵だったのだ。
油断していたのは、シリウスなんかじゃない。他でもない、ナツキ・スバルの側だったのだ。目覚めたばかりのチート能力に舞い上がり、異世界に来て早々、自分が格好良く活躍する未来の姿を、どこかで勝手に期待してしまっていた。
その独りよがりな慢心の結末が、これだ。エミリアを焼き尽くし、自分が体感したあのこの世の地獄のような激痛をそのまま彼女に与え、殺してしまったのだ。
それでも、まだ、脳の片隅でかすかに『魂の鎖』の繋がりだけは感じていたから。
まだ、エミリアには微かな息が、魂の残滓があるのだと、それだけは分かって。分かって、しまって……。
――ドシャリ、と肉塊の落ちる鈍い音が響いた。
ナツキ・スバルの身体は、大量の民衆が虐殺され、ぶちまけられた、冷たい血の海の一部へと同化していった。