もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から初期地点に帰ってきたら(スバル主人公) 作:駄々我菓子
ロズワール邸で前回と同じような朝食の時間を過ごした後、スバルはラインハルト、エミリアと共にアーラム村へと向かった。
結果から言えば、あの脱獄犯ボロ・ドレイクによる無差別殺人事件は、完膚なきまでに叩き潰されることとなる。
スバルは、最初の被害者となるはずだった男性の叫び声が響いた『時刻』を正確に記憶していた。村の子供たちには、すでに何かと理由をつけて全員を家へと帰らせてある。
「おい、脱獄犯」
スバルは、大柄で凶悪な佇まいのボロ・ドレイクの背中に向けて、鋭くそう声をかけた。
奴はまだ何一つ犯行に及ぶ前だったが、見知らぬ少年に自分が脱獄犯であることを見破られ、驚愕に目を見開く。
「お前っ……! 一体何者だ……っ!?」
「説明してやる義理はねえよ。先回りされて潰される、その怖さを思い知れ」
アーラム村の家屋へと今まさに侵入しようとしていた凶悪犯に、スバルは冷徹にそう宣告した。
ボロ・ドレイクはスバルの方へと振り返るが、対峙するスバルの表情から自分に対する怯えを見て取り、不気味に口角を吊り上げる。
「へっ……! お前が、俺のデザートかぁっ!?」
凶悪犯は懐からナイフを剥き出しにして、スバル目掛けて突進してくる。
スバルはその凶行を前に、やはりこの男の目的が人生の最期を飾るための快楽殺人だったのだと、確かな確証を得た。
「そこまでだ」
「がはっ……っ!?」
咄嗟に物陰から躍り出たラインハルトが、スバルを屠らんとしたボロ・ドレイクを瞬時に制圧した。
技を繰り出すまでもない。その凶悪犯の額を、ただ指先で軽く小突いただけで、男の意識を完全に刈り取ったのだ。
巨躯が地面へとドサリと、無様に崩れ落ちる。
「よしっ……!」
スバルは胸の内で、作戦の完全な成功を噛みしめた。
「エミリア、作戦通りに頼む!」
「うん。任せて!」
エミリアは気を失ったボロ・ドレイクの巨体を軽々と持ち上げると、そのまま村外れの森の奥へと迅速に消えていった。
スバルは、エミリアとラインハルトに事前にすべての作戦を打ち明けていた。彼らは「未来で無差別殺人が起こる」というスバルの常軌を逸した爆弾発言を、一言の疑いもなく信じて動いてくれる、かけがえのない存在だった。
そして、スバルとラインハルトには、この場でもう一つやるべき重要な仕事がある。
ボロ・ドレイクの犯行を未然に防げたのは上々だったが、一連の騒動により、家屋の周囲にはすでに大勢の村人たちが集まり、野次馬の輪が出来上がっていた。
「な、なんだあの男……!? スバルくんにいきなり切りかかろうとしたぞ!」
「あんな凶暴そうな奴、見たことねえぞ……誰だ一体!?」
「だけど、剣聖様が瞬きする間に防いでくれたぞっ!」
「やっぱり、王都でのあの噂は本物だったんだ……!!」
村に溶け込み、凄惨な惨劇を引き起こすはずだった凶悪犯の見事な逮捕劇に、村人たちの興奮は一気に最高潮へと達していく。
「みんな、やってやったぜ! こいつはアーラム山監獄から脱走した兇悪な脱獄犯だ! だけど、もうラインハルトが完璧にやっつけてくれたから、安心してくれ!」
スバルは周囲を囲む村人たちに向けて、弾けたような大声で堂々と勝利を宣言した。
「後日、なんで奴がここに潜んでたのかを改めて調査して村長さんに報告するから、みんなは安心して日常に戻ってくれ! よろしく頼むぜ!」
「スバル殿! ラインハルト殿! 早速この村を救っていただき、本当にありがとうございます!」
集まった村人たちが、スバルとラインハルトに向かって割れんばかりの感謝の拍手を送ってくれた。
「こんなにスムーズにいくとはな。やっぱり、最初からお前を頼って大正解だったぜ」
「僕も、この感覚を思い出したよ。君が示してくれた道を歩む感覚をね」
ラインハルトは、己の右手を強く握りしめながら、誇らしげに目を輝かせていた。
「でも、あんなザコ一人じゃ、お前にとっちゃ物足りなかったろ?」
「いいや。僕が倒すべき、守るべき人の敵がいる。それだけで十分だよ」
スバルとラインハルトは、村人たちの歓声に背を向け、一足先に森へと入っていったエミリアの後をすぐに追った。
☆☆☆☆
村を外れた森の奥深く。わざわざこの場所まで凶悪犯を連れてきたのは、奴から直接聞き出したいことがあったからだ。
「起きるんだ」
ラインハルトが横たわるボロ・ドレイクの首元を指先で軽く刺激すると、気絶していた奴はビクンと大きく身体を跳ね上げて飛び起きた。
「うっ、がはっ……っ!?」
ボロ・ドレイクは眼前に立ち塞がるスバル、エミリア、ラインハルトの三人を見渡し、一瞬で顔面を蒼白に染める。
「俺は……ハメられたのか……っ!?」
「そうかもな。で、お前には今から聞くことがある」
「素直に答えたら……俺を、見逃してくれるのか……っ!?」
ボロは藁をも掴む思いで、スバルに対してすがるような救いの視線を送ってきた。
スバルは意図的にすぐには答えず、隣に立つエミリアとラインハルトの二人へと視線を送り、彼らの反応を確かめる。
「ダメよ。悪いことをしたのなら、ちゃんと罪を償わなきゃ」
「当然、僕も剣聖として見逃すわけにはいかないよ」
二人の毅然とした毅然たる態度に、スバルは深く頷いた。
「お前らには聞いてねえよっ!! 俺は、このガキに聞いたんだよっ!!」
悪あがきをするように、ボロはエミリアとラインハルトを激しく睨みつけた。
「おい、吠えるな。見逃すかどうかはともかく、まずは俺の質問に答えて誠意を見せろよ」
冷徹なスバルの言葉に、ボロはぐっと言葉を詰まらせて押し黙り、次の出方を待った。
「お前の知っている『関係者』の名前を教えろ。一人教えるたびに、お前の懲役を十年ずつ減らしてやる。まぁ、お前はすでに死刑が確定してるから、懲役百年からのスタートだけどな」
その瞬間、ボロの濁った瞳にギラリとした光が宿った。十人分の名前を出せば自由の身になれるのだ。
「本当、にそんなことができるのか!? いいのかよ!?」
「嫌なら、このまま何も聞かずに元の監獄に送り返すだけだぞ?」
スバルの身勝手極まりない条件提示に、流石の凶悪犯もすぐには信じようとはしなかった。だが、ボロはラインハルトとエミリアの二人が、スバルの暴挙に対して一切口を挟まない様子を見て、息を呑む。
「僕の心配は要らないよ。スバルの考えを、僕は全面的に尊重する」
「私も、スバルの言うとおりにするわ」
二人が、ただの一少年に絶対の信頼を寄せている。その異常極まる光景を目の当たりにして、ボロ・ドレイクの口角が、醜くニィと吊り上がった。
「ヴァルゴ、ミザール、メリッサ、ゼノ、ネロ、ロウ、バトリー、ギルガ、カストル、……メイリィ」
一人一人、記憶の底から思い出すような素振りをしながら、ボロは一気に名前を吐き出した。
その最後の名を聞いた瞬間、スバルの頬がピクッと微かに跳ねる。
「十人、ちょうどだな。……十分だぜ、このペテン師野郎。よし、約束通りこいつを監獄へ送り返すぞ」
「はぁあ!? ふざけんじゃねえぞっ!! 嘘つかずに全員教えただろうが!!」
「ハッ、監獄にずっとぶち込まれてたお前が、関係者を都合よく十人も知ってるわけねえだろ。適当な偽名を並べやがって」
スバルの鮮やかな裏切りにボロは激昂して叫んだが、次の瞬間には、再びラインハルトの手によって一瞬で意識を刈り取られていた。
「やっぱり、君の読みは完璧だったね、スバル」
「いや、完璧なんてのは買い被りすぎだ。……けど、最高に有益な情報を引き出せたぜ」
スバルは自らの拳を、勝利を確信するよう強く握りしめた。
「スバル、その……新しい敵の名前が分かったの?」
不安そうに首を傾げるエミリアに、スバルは力強く親指を立てて見せる。
「あぁ。メイリィ・ポートルートだ」
「あの、メイリィなんだね?」
ラインハルトの問いに、スバルは重々しく頷いた。
「あいつは『魔獣使い』だ。死刑囚を監獄から脱獄させて、このアーラム村まで誰の目にも触れずに運んでくるには、うってつけの能力を持ってる」
「他の名前に、何か心当たりは?」
「いや、他はほぼその場でっち上げた偽名だろうな。いきなり十人も名前を考えさせれば、あいつの頭じゃ絶対にキャパオーバーを起こす。だから、今回手引きした本物の実名を都合よく混ぜてくるだろうって踏んでたんだ。ボロにとってメイリィは、今日限りの協力者に過ぎないわけだしな」
「なるほど。良く考えたね」
「ラインハルトも、エミリアも……ここまで俺の無茶な作戦に付き合ってくれて、本当にありがとうな。流石に『見逃すフリをして情報を吐かせる』なんて汚いやり方を提案したときは、止められるかと思ったんだけど……」
スバルが少し気まずそうに頭を掻くと、エミリアとラインハルトは互いに顔を見合わせ、優しく首を振った。
「私は、いつでもスバルの味方よ。スバルが頑張ってるの、ちゃんと分かってるもの」
「僕も、君のやり方を信じるよ。君の選ぶ道が、最も多くの人を救う最善だと確信しているからね」
スバルの目の前にいるのは、何があっても無条件で自分を信じ、窮地を救ってくれる最高の二人だ。
「マジンコ感謝だぜ……っ。じゃあ、情報を引き出したところで、『領主様』に報告に行かないとな」
スバルはぐっと目力を強くした。
ロズワールがもし、スバルがボロを止める前提でこの脱獄事件を裏で計画していたのだとしたら、自分の名前がスバルの耳に入らないよう、ボロには徹底して正体を隠していたはずだ。
そして、ボロが最後に吐き出した『メイリィ』という実名。
傲慢の予知夢において、その幼い少女のことをスバルはよく知っている。
メイリィが使役する魔獣の中には、呪術を扱う厄介な個体も多く存在していた。
夢の中で憤怒のラムが教えてくれた、「近いうちにレムの命を奪う謎の呪い」
――それが、この魔獣使いの少女と関係しているに違いないと、スバルは確信を持って睨んでいた。
☆☆☆☆
スバルたちはロズワールへの報告を済ませ、ボロを無事に監獄まで送り返した。
すでに辺りは夕闇に包まれており、一度ロズワール邸の食堂へと集まることになった。
ベアトリスを除く、ロズワール、レム、ラム、スバル、ラインハルト、エミリアの六人が着席している。
「今日は本当に、よくやってくれたぁ~ね」
陽気で、どこかおどけたロズワールの声を、スバルは内心で「白々しいにも程がある」と激しく毒づいていた。
「村の人たちを助けるっていう……みんなの期待に応えられて良かったです」
あえて無難に返したスバルの言葉に、ロズワールは不気味に口角を釣り上げる。
「レム、ラム。君たちの後輩の活躍についてどう~かな?」
「なぜスバル君が事前にこの事態に気づけたのか、レムには甚だ信じがたいですが、結果として村を救ってくれたことには、ありがとうございますと言っておきます」
「ラムも素直に感謝しておくわ。ですが、この件で調子に乗って、これからバルスが使用人の仕事をサボらないかだけが心配です」
レムは目を細め、スバルに対しての警戒をいっそう強めているように見えた。
前回のループで、事件を防げず絶望していた時はスバルの落ち込みようを見て「魔女教の関係者ではない」と考え直してくれたレムだったが、今回は事件を完璧に防ぎすぎたせいで、逆にその不自然さに疑いを強められてしまったらしい。
「お二人とも、温かいお言葉をどうもありがとう……」
「ところでスバル君。君には、どうしても伝えておかなければならないことがあるんだ~あよ」
ロズワールが、唐突に本題を切り出すように話題を変えてきた。
「はい。何でしょうか?」
「君は、ベアトリスのことを心配しているか~い?」
オッズアイの瞳に見据えられ、スバルはその表情から明確な不穏さを察知する。
「心配です。早く会って、話してみたいと思ってます」
「実はねぇ、私、彼女の見た予知夢でのスバル君のことを聞いたんだ。とても、驚いたよ」
「お、驚いた、というのは?」
スバルが不安げに聞き返すと、ロズワールは勢いよく立ち上がった。
「スバル君! 君はあまりにも、人間性に問題があるんじゃぁ~ないか!?」
「え……っ!?」
静まり返っていた食堂の中で、全員がロズワールの突然のスバルに対する糾弾に驚き、息を呑んだ。
「君は別の世界線で、ベアトリスに対しておぞましい行いをした。そのせいで彼女は、心を酷く痛めてしまったようだ~よ」
「お、俺は……一体どんな酷いことをしたんですか……?」
「それは、教えてあげるわけにはいかないか~な」
冷たく突き放すようなロズワールの返しに、スバルは震える拳を膝の上で必死に握りしめ、怒りと恐怖を押し殺す。
「じゃあ、俺は、どうすればいいですか?」
「スバル君はあまりに人間性に問題があってねぇ、エミリア様の騎士を務めるには不適格だと、そう判断させてもらったんだ~あよ。まあ、これからも我が屋敷の使用人として、日々雑務に励んでくれたまえ」
それは、事件を完璧に解決すれば、今度は全く別の理不尽な理由をでっち上げてでも、スバルから『エミリアの騎士』になる資格を剥奪するという、ロズワールの明確な試練だった。
スバルは「ハッ!」と息を呑んだまま、その場に固まってしまう。
「ロズワール……! 流石にあんまりよっ!」
静寂を切り裂いて、エミリアがロズワールを真っ直ぐに睨みつけ、とうとう怒りを露わに叫んだ。
「スバルを、いじめたいの?」
低く抑えられたエミリアの追及は、相手が自身の後見人であるロズワールであっても、決して物怖じしていなかった。
「ありがとう、エミリア。でも、大丈夫だ」
スバルは横に座っているエミリアの肩へそっと手を置き、宥めるように声をかける。
「ロズワール様の判断であれば、俺は謹んでそれを受け入れます」
スバルのあまりに殊勝な返しに、ロズワールは値踏みするよう僅かにオッズアイの目を細めた。
「俺は、騎士であろうが、ただの使用人であろうが、エミリアが王になる手助けをすることに変わりはありません。その心がある限り、俺は絶対に諦めませんから」
「ほう……」
「俺の人間性に問題があるかどうかは、別の世界線じゃなく、この世界での俺をこれから見て評価してほしいです」
スバルが毅然と言い放つと、隣でエミリアが「その通りだわ」と深く頷いたのが分かった。
「スバル。そう言ってくれて、本当にありがとう」
「スバル、その揺るぎない考え方は、真の騎士にこそ相応しいものだと思うよ」
エミリアとラインハルトの二人から、スバルへと最大の全肯定と信頼が送られた。
「実~に興味深いじゃあないか。ならば私はこれからも変わらず、君のその心がどう『完成』していくのか、見守ることにすると~しよう」
「楽しみにしていてください。俺は、それを妨げるすべての不条理を、叩きのめすつもりですから」
最高の仲間たちの後押しを背に受け、スバルは逃げることなく、はっきりとロズワールの目を射抜いてそう宣言した。
それは、ナツキ・スバルがロズワールの持つ『叡智の書』に向けて放った、明確な宣戦布告だった。
敵だったら怖い人
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アヤマツ記憶持ちスバル
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カサネル記憶持ちロズワール
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本編記憶持ちペテルギウス