もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から初期地点に帰ってきたら(スバル主人公)   作:駄々我菓子

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レムの憤怒を沈めてフラグは回避したが・・・

 食堂での張り詰めた対話が終わり、自室へと戻ったスバルは、ベッドにどさりと腰を下ろして思考を巡らせた。

 

「問題が山積みすぎるな」

 

 まず真っ先に解決すべきは、魔女の匂いだ。レムがスバルに露骨な嫌悪と警戒を向けているのは、この匂いのせいに違いない。

 先の『傲慢の予知夢』で魔女教徒たちがスバルの匂いを「魔女の寵愛」と呼んでいたことからも、その不吉さは証明されている。

 

 スバルが抱える問題は、それだけではなかった。

 

 一つ目は、ベアトリスとの接触不全。

 未だに彼女は扉渡りで姿を隠し、会うことすら叶わない。

 ロズワールの話では、ベアトリスは予知夢でスバルにひどい目に会わされたらしく、それが原因で心を固く閉ざしてしまっている。

 

 二つ目は、騎士資格の剥奪。

 ロズワールの手によって、エミリアの騎士になる道を事実上閉ざされてしまった。

 このままでは将来、別の誰かがエミリアの騎士の座に収まり、スバルは王選に関わる発言権すら失ってしまう恐れがある。

 

 三つ目は、レムの不信感と死の運命。

 スバルを魔女教と疑うレムの警戒心は、限界に近い。

 何もしなければ、前回のループのように殺されてしまうかもしれない。

 さらに、スバルを怪しむレムの動きにエミリアやラインハルトが気づけば、最悪の場合、身内同士の殺し合いに発展しかねない。

 

 四つ目は、エミリアとラムの間の奇妙な歪み。

 エミリアがラムに対して、嫌悪感を抱いているように見えること。

 二人の憤怒の世界線の予知夢で何があったのかは、二人が話してくれない以上、今のスバルには知る由もない。

 

 五つ目は、魔獣使いメイリィの脅威。

 夢の中で憤怒のラムが告げた「近々レムが呪いによって死ぬ」という未来。

 スバルは、ボロの口から出た魔獣使いメイリィの操る魔獣の呪術を疑っているが、彼女がいつ、どこから襲ってくるのか、未だに見当もついていなかった。

 

 六つ目は、ロズワールという元凶。

 スバルがこれらの問題を一つずつ解決したとしても、あのピエロは『叡智の書』の記述に従い、スバルの心をへし折るために何度でも新しい試練を仕掛けてくるという点だ。

 

「それでも、あの時に比べたら」

 

 スバルは、この異世界に召喚された初日の王都を思い返す。

 大罪司教シリウスと戦い、その精神汚染に呑まれたエミリアを救い出し、『腸狩り』エルザの急襲を潜り抜けた、あの初日に比べればまだ攻略の糸口は見えているはずだ。

 最大の障壁は、スバルの心が屈しない限り、ロズワールによるこの不条理なゲームが終わらないということ。

 

「俺は、絶対に諦めねえぞ」

 

 スバルは拳を強く握りしめ、自分に言い聞かせるように呟いた。

 そして、手元にある『憤怒の書』を開き、レムの頁に記された一節をじっと見つめる。

 

 ”レムにだけ、特別な秘密を打ち明け仕える”

 

「意味は分からねえが……手探りでやっていくしかねえ」

 

 レムがこれほどスバルを疑っている以上、その疑惑を晴らすためには、自分の側から何らかの『秘密』を開示し、誠意を示す必要があるのだろう。

 

「だけど……一体どれを話せばいいんだ?」

 

 スバルの持つ、他人に言えない特別な秘密。

 思いつく限りでも、『魔女の匂い』、『傲慢の権能』、『憤怒の権能』など打ち明けるべき秘密は結構ある。

 

 『憤怒の書』に示される言葉は、気づかぬ間に更新されている。

 しかし、相変わらずその文字数は少ない。

 だが、この導きの通りに行動すれば、レムの胸の内に燻るスバルの知らない『憤怒』を鎮められるのは間違いなかった。

 

 その時、静まり返った自室のドアが控えめにノックされた。

 

「スバル君。今、良いですか?」

 

 レムの声が響いた瞬間、スバルの背筋にツッと冷たい汗が流れる。

 前回のループでこのドアが開き、レムが包丁を手に立っていた光景が、強烈なフラッシュバックとなって脳裏をよぎったのだ。

 

「あ、ああ……いいぜ。鍵は開いてるから、入ってくれ」

 

 ゆっくりと開いたドアの向こう、レムの手には凶器など握られていなかった。

 スバルは安堵を飲み込み、彼女の顔を見るなり先手を打つように真っ直ぐ言葉を投げかけた。

 

「レム……実は、お前にだけ本当に重大な話があるんだ。まだ誰にも言ってない、俺の秘密を全部話したい」

 

 唐突な切り出しに、レムの薄青の瞳が見開かれ、その表情に明確な動揺が走る。

 

「……どういう、つもりですか?」

 

「誰かの助けが必要なくらい、俺は今めちゃくちゃ困ってるんだよ」

 

 夢の中の『憤怒のラム』とは違い、今のレムはスバルの本質を見透かしてはいない。

 だからこそ、独り善がりの猜疑心と勘違いでスバルを殺しにかかる最も危険な相手だった。

 

「どうして、レムなんですか? エミリア様やラインハルト様には、ずいぶんと信頼されているようですが」

 

「うーん……なんて言うか、今まで黙ってたのが気まずいんだよな。二人にだって、俺のすべての秘密を話したことはないんだ」

 

 スバルは手の震えをごまかすように、わざとらしくうなじを掻いて見せた。

 

「……やっぱり、レムじゃなくてエミリアたちに話した方が良かったかな?」

 

「いいえ。そこまで言ったのなら、もうレムに話してください」

 

 低く冷徹なレムの声が、スバルへの強固な警戒心を含んだままそう告げる。

 

「ですが、その話は後で聞きます。ロズワール様がこれから外出なさるそうなので、すぐに下へ降りてきてください」

 

 レムはここにきて、ようやく自分の本来の用件を口にした。

 

「ロズワール様が、外出……?」

 

 スバルは息を詰め、あのピエロが企む新たな盤上の動きに、猛烈な不安を募らせる。

 

「……何をそんなに考え込んでいるんですか、スバル君」

 

「あ、いや、なんでもねえ! 分かった、今すぐ行くよ」

 

 スバルは慌てて思考を振り払い、レムの視線に追われるようにして急ぎ自室を後にした。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 ロズワールが屋敷を出発した後、スバルは真夜中の薄暗い倉庫で、レムと静かに待ち合わせをしていた。

 一秒たりとも遅刻などできるわけがないため、スバルはかなり前の時間からこの場所に身を潜めて待機していた。

 

 ロズワールはここから三日ほど、急用で領地を離れるらしい。

 しかも不気味なことに、レムもラムも付き添いにはつけなかった。

 つまり、この広い屋敷にはレム、ラム、そしてスバルの三人の使用人が留守番として残される形になる。

 ロズワールが何を企み、何の用件で外出したのかは、最後まで一切明かされなかった。

 

 やがて、微かな物音がして、倉庫の扉からレムが静かに入ってきた。

 

「――それでは、スバル君。『秘密』を、すべて聞かせてもらいましょうか」

 

 冷徹に、値踏みするように見つめてくるレムの視線を受け止め、スバルは深く息を吐き出して頷く。

 

「よし。じゃあ……『傲慢の権能』、『憤怒の書』、『魔女の匂い』、そして今日捕まえた脱獄犯の『協力者』のこと――レムは、どれから聞きたい?」

 

 スバルが並べ立てた不穏な単語の羅列に、レムは一瞬で顔を強張らせ、隠しきれない驚愕をその瞳に走らせた。

 

「……全部だ。俺の持ってる秘密を全部話さなきゃ、今のこの窮地は絶対に超えられないんだよ」

 

 それは紛れもないスバルの本心だった。

 だが――『死に戻り』の核心だけは、どうしても打ち明けることができない。

 厳密には「全部」という言葉が嘘になってしまうことに、スバルは内心で強い申し訳なさを抱く。

 

 スバルの必死な眼差しと、その覚悟を前にして、レムは自分の胸にそっと手を当て何かを深く確かめるように沈黙した。

 やがて、彼女はゆっくりと頭を下げる。

 

「スバル君。……姉様ではなく、レムを信じて選んでくれたことに、まずは感謝します」

 

「お、おい……」

 

 あの猜疑心の塊だったレムが、素直に感謝の意を示したことに、スバルは思わず戸惑いの声を漏らしてしまう。

 

「さあ、覚悟はできました。まずはその『魔女の匂い』のことから、説明してもらいましょうか」

 

 レムの薄青の瞳に宿る、逃れられない鬼の気迫。

 まるで鋭い刃を喉元に突きつけられているような心地になりながらも、スバルは意を決して、自身の抱える秘密を語り始めた。

 

 この秘密を明かした瞬間、レムの逆鱗に触れ、その手で殺されるかもしれない。

 それでも、たとえそうなったとしても、自分は決して彼女を恨まないとスバルは深く心に誓っていた。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 スバルは、話せる限りの情報をすべて絞り出した。

 レムにとって有益な情報はもちろん、訊かれたら不安な要素まで、何一つ包み隠さずに。

 

 レムはスバルの独白に対し、逃げ場を塞ぐようにしつこく質問を重ね、完全に納得するまで張り詰めた問答は延々と続いた。

 

 気づけば、この薄暗い倉庫に集まってから一時間はとうに経過していた。

 夜も更け、すでにラムもラインハルトもエミリアも、それぞれの部屋で就寝しているはずの真夜中だ。

 

「……なぁ、その『魔女の匂い』って、実際どんな匂いなんだ? 自分じゃ本当に、これっぽっちも分からねえんだよな……」

 

 スバルの知る限りの情報は語り尽くし、レムの猜疑心を解くための材料はすべて場に出した。

 まずは今、自分がまだ生きているという事実に内心で深く感謝しながらスバルは尋ねた。

 

「魔女の匂いは、姉様を、レムを脅かす危険な捕食者の匂いです。だからこそ、スバル君だけでなく、ラインハルト様やエミリア様までもが三人揃ってその匂いをプンプンさせている状況にレムはどうにかなってしまいそうでした」

 

スバルの傲慢の権能を使った人物にも魔女の匂いが移ってしまうのだ。

 

「俺が原因で、あの二人までレムを混乱させる匂いを纏う羽目になってたなんて。言われるまで全く知らなかった。教えてくれてありがとな」

 

 スバルが真っ直ぐに礼を言うと、レムは無言のまま、すっと右手をスバルの方へと伸ばしてきた。

 かつての恐怖から思わず身体を強張らせてしまったが、スバルは決して逃げずにその手を受け入れる。

 

 レムの手のひらが、スバルの左胸――心臓の真上にそっと添えられた。

 トクトクと刻まれる心音を直接肌で確かめるように。しかし、その鬼の冷徹な両眸だけは、スバルの瞳を寸時も逸らさず捉え続けている。

 

「……レムが、怖いですか?」

 

「うん、めちゃくちゃ怖いよ。……正直、殺されるかもしれないって覚悟して、さっきの全部を話したんだぜ」

 

「なんのために、そこまで自分を追い詰めるんですか? あなたを全肯定してくれるラインハルト様に、レムの手から守ってもらえば済む話でしょう」

 

 その問いに、スバルは静かに首を振った。

 

「ラインハルトもエミリアも、もの凄く心強い。信頼してるし、心から感謝もしてる。……だからこそ、怖いんだ」

 

「あの、お二人が……怖い?」

 

「『憤怒の書』のことを話せば、俺を心配して取り上げられちまうかもしれない。『魔女の匂い』のことを話せば、二人は俺を守るためにレムを危険視して警戒し始める。……もし俺が『傲慢の権能』でラムの角を回復できるって話せば、エミリアはラムを過剰に警戒するかもしれない。あの二人は、同じ『憤怒の世界線』の予知夢を見ていて、そこに明確な歪みがある。俺の知らない『何か』が、二人の間であったはずなんだ」

 

 スバルの胸に走る微かな震え、その鼓動を手のひらで直に感じているレムには、この恐れに一切の虚飾がないことが分かっているはずだった。

 

「……つまりスバル君は、レムと姉様の心配をしている、ということですか?」

 

「それもある。……けど、一番は俺自身のためだ。ラインハルトとエミリアにだけは絶対に暴走してほしくないし、もしあの二人が狂っちまったら、俺の手には負えねえ」

 

 スバルは腹の底に力を込め、自分の本音を言葉に乗せた。

 

「俺は、俺自身が生き残るために、この秘密をレムに全部話したんだ。だから――お前に、助けてほしいって思ってる」

 

 エミリアのため、ラインハルトのため、レムのため。そんな綺麗な利他主義よりも、「自分が助かりたいから」という泥臭い理由こそが、今のレムに最も信じてもらえる『真実』だと、スバルは確信していた。

 

「レムは、とんでもない過ちを犯すところでした」

 

 ぽつりと、掠れた声が倉庫の暗がりに落ちた。

 

「え……?」

 

「スバル君は、レムにとっての希望になるかもしれません」

 

 じっと心臓の鼓動を測っていたレムの言葉に、スバルの胸はトクンとまた一層激しく脈打った。

 その感情の質量を察して、スバルは思わず苦笑を漏らす。

 

「重たい……」

 

「は?」

 

「あ、いや、なんでもねえ! これこそが……『傲慢の権能』を使う鍵になるはずだ」

 

 スバルはグッと身構え、全身の神経を研ぎ澄ませた。

 一時間に及ぶ対話の果て、今から何を成すべきか二人の意思はすでに定まっている。

 

「スバル君。レムに、あなたを利用させてください」

 

 ドクン! ドクン!

 

 レムが明確な意思を口にした瞬間、スバルの心臓がひときわ大きく跳ね上がり、『傲慢の権能』が確かに発動した。

 レムの魂がスバルの魂へと踏み込み、その力を傲慢に使い潰すための回路が繋がったのだ。

 

 同時に、レムの薄青だった瞳が、紫紺の色彩へと変貌していく。

 薄暗い倉庫の中で、その双眸は狂おしいほど美しく輝いていた。

 

「ゆっくり……頼むぜ……」

 

 相手が向けてくる感情が重すぎれば、スバルの正気は瞬く間に呑まれ、狂人へと堕ちてしまう。

 しかし、幸いにも今のレムが抱く感情の重さは、エミリアやラインハルト、ラムに比べればまだ耐えられる範疇だった。スバルはひとまず安堵の息を漏らす。

 だが、それも今だけに過ぎない。

 レムは現在、予知夢の記憶を失っている状態だ。

 もしそれを取り戻した時、彼女の感情の質量がどれほど膨れ上がるか想像することもできない。

 

「ははは……っ、何だったのでしょう……。こんな、もののために……レムは……」

 

 スバルの目の前で、レムは紫紺の瞳から一筋の涙を流しながら、自嘲気味にどこか歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「だ、大丈夫か……!? 何か、体に異変はあるか?」

 

「――あります」

 

 暴走して襲いかかってくるような素振りこそなかったが、「異変がある」という一言にスバルは思わず身構える。

 

「スバル君の持つ『魔女の匂い』に対する認識が……完全に、変わりました。あの匂いは、断じて私たちを脅かす捕食者の匂いなんかじゃなかったんです。こんなもの――ただの、獲物です」

 

 レムはスバルの左胸からゆっくりと右手を離すと、それを引き絞るように強く、白くなるまで握りしめた。その奥歯を噛み締める表情には、魔女に対する苛烈な怒りが燃え盛っている。

 

 かつてレムが本能的に恐れ、不快感を抱いていたはずの魔女の匂い。

 それが『傲慢』の力によって認識を反転させられ、今や「狩るべき獲物」の匂いへと変貌したのだと、スバルは直感的に理解した。

 

「でも、やっぱり……その、臭いことには変わりねえんだよな?」

 

「ごめんなさい、姉様。あれだけ憎かったはずの魔女の匂いが、今はただただ……愛おしい……」

 

 レムはスバルの問いには答えず、今はこの場にいない姉の姿を追うように、虚空を見つめてそう呟いた。

 だが、スバルからすれば、レムの魔女の匂いに対する感覚は、すでに180度ねじ曲がっているようにしか見えなかった。

 

 危険な捕食者への恐怖が、愛おしい獲物への執着へとすり替わっているのだ。

 

「レムからすべてを奪った魔女教徒。今度はレムが鬼族として、その獲物を残さず喰らい尽くしてやります」

 

 激しい決意とともにレムが言い放った瞬間、彼女の額から、溢れんばかりの純白の光を放つ『角』が突き出した。

 倉庫の闇をなぎ払うような、圧倒的な鬼の覇気。

 その尋常ならざるプレッシャーに気圧され、スバルは本能的な恐怖から、思わず後ろへ一歩後ずさった。

 

「レ、レムさん……お、俺は魔女教徒じゃないからな? 早まるなよ……?」

 

「分かっています。ですが……」

 

 レムはそこでふっと言葉を区切り、意味深に視線を落とした。

 

「おい……そんな不穏な感じで言葉を止めるの、本気で心臓に悪いからやめてくれ」

 

「――ですが、もしこの力が原因で姉様の身が危険に晒されるようなことがあれば、その時は、レムはスバル君を殺すでしょう」

 

 返ってきたのは、あまりにも容赦のない警告だった。

 スバルは顔をごしごしと両手で強く擦り、溜まっていた息を深く吐き出した。

 

「わかったよ、分かった。それは最悪の想定ってことで頭の片隅に置いておく。今は、もっと前向きに考えようぜ」

 

 スバルのどこか諦め混じりの、しかし真っ直ぐな返答を聞いて、レムは小さく息を呑んだようだった。

 

「予知夢のことは何か思い出したか? 『傲慢の権能』で『暴食の権能』が無効化される理屈なら、消された記憶だって思い出せるはずだ」

 

「いいえ……まだ、鮮明には思い出せません。ですが、胸の内に確かな『違和感』だけは感じています」

 

「やっぱり、暴食の権能にやられてたのは間違いないか。だったら、本当に殺すべきなのは俺じゃなくて、その『暴食』の野郎だな」

 

 スバルの言葉に、レムは深く静かに頷いた。

 

「ええ。鬼として、その獲物を一匹残さずこの手で地獄に送ってやります」

 

 レムの胸に渦巻く重苦しい感情――それは今やスバルへ向けられた刃ではなく、魔女教に対する純粋で苛烈な憎悪へと昇華されていた。

 魔女教を根絶やしにするために、スバルの力を文字通り『利用』する。

 その関係性のうえに、今の二人の繋がりは成り立っていた。

 

「じゃあ明日にでもラムに話して、角を復活させるか? 毎日少しずつ手順を踏んでいけば、俺だって正気のままでいられるはずだ」

 

「いいえ。姉様には、このことは一切伝えないつもりです」

 

 当然のステップとして口にした提案を即座に拒絶され、スバルは一瞬、思考が完全にフリーズした。

 

「え? 待て、お前……ラムの角を取り戻したいって、さっきそう言ってなかったか?」

 

 しかし、スバルの動揺とは裏腹に、レムの表情は酷く落ち着いており、冷徹なまでに冷静だった。

 その静けさこそが、今のスバルには何よりも恐ろしく映る。

 

「レムは姉様の、代替品ですから。この力さえあれば、それが叶います」

 

 レムは口角を歪な形に釣り上げ、薄く血走った紫紺の瞳でスバルを凝視した。

 そして、逃がさないとばかりにスバルの両腕を骨が軋むほどの力で強く掴んだ。

 

「わ、分かった……分かったよ。レムの言う通りに、やってみるから……っ」

 

 その力強い拘束に圧されながら、スバルは全く納得のいっていない引きつった声を返すのが精一杯だった。

 

 

敵だったら怖い人

  • アヤマツ記憶持ちスバル
  • カサネル記憶持ちロズワール
  • 本編記憶持ちペテルギウス
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