もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から初期地点に帰ってきたら(スバル主人公) 作:駄々我菓子
「次は俺の番だ!! 今の俺はドーピングしてるみたいに力が湧き上がってきてるんだ! シリウスに一矢報いて――」
「あああああ!!!!! 腹立たしい!! 醜い、許せない、ウザい、ウザい、ウザァァァアイ!!!」
スバルの言葉をかき消すように、シリウスが地を震わせる憤怒の絶叫を上げる。あの不気味な赤紫色の炎もこの狂人の能力だとすれば、恐ろしさは増すばかりだ。だが、不思議とスバルの心に怯えはなかった。今の自分なら、あの化け物相手でも十分に戦えるという万能感に満ち溢れていたからだ。
「もう……!!! 」
隣で、エミリアが耐えかねたように苦しげな声を漏らす。
その瞬間、スバルの心臓がもう一度、”ドクン”と大きく脈打った。
だが、恐れていたような激痛も、身体が鉛のようになる疲労感も一切ない。それどころか、スバルの目の前で、エミリアの額と複雑骨折していた左腕からシュウシュウと白い蒸気が湧き上がり、瞬く間にその肉体を元の形へと治療していくではないか。
「オケオケ、いけるじゃん! やり方がイマイチ分かってなかったけど、エミリアの側がコツを掴んでくれたのか! さっきはなんであんなに躊躇してたのか知らねえけど、今の俺たちのコンビネーションならアイツにだって負けねえよ!」
安堵から、スバルの上ずった声が大通りに響く。エミリアがすぐに同調してくれないので、自分で自分に打ち切りフラグを立てているような妙な気分だ。
どうにもエミリアは、このスバルの力を引き出すことに非協力的だった。スバル自身には何一つ分かりやすいデメリットが見当たらない以上、彼女が何をそこまで恐れて躊躇うのか、今のスバルには全く理解できなかった。
「……お願い!!! これを本当に最後にしたいから――凍って!!」
エミリアが悲痛に叫ぶと同時に、スバルの中の力が明確に駆動した。自身の内側の深いところから『何か』が引き出され、太いパイプを通じてエミリアへと凄まじい熱量が送られていく感覚。だが、やはりスバルの肉体から何かが目減りした感覚も、痛みも疲労もない。むしろ、自分の力が彼女の役に立っているという全能感と嬉しさしか湧いてこなかった。
氷が生成され、シリウスを巻き込む音が響いた。
エミリアが両手を向けた先、炎上する民家ごと、大通りの空間そのものが巨大な氷の質量へと変貌した。当然、中心にいたシリウスもその絶対零度の檻に完全に巻き込まれ、分厚い氷の奥へと封じ込められる。
あまりにも規格外な魔法の威力。もしあの質量をすべて尖った氷の砲弾にして撃ち込んでいたら、あの包帯女を粉々に粉砕できていたんじゃないか、とスバルが戦慄するほどだった。
「……すごい力ね」
「優しい攻撃だな。俺だったらあのクソアマを力いっぱいブン殴って分からせてやりたかったんだが……まぁ、エミリアがあれで満足して事件が解決するなら、別に文句はねえよ。ドーピングした俺の出番もないまま、あっけなく終了ってか。これぞ調子に乗った悪党の末路だな! ――って、俺またフラグ立ててる?」
ペラペラと軽口が自然に口から溢れ出るのは、この極限状態から生還できた安堵の裏返しだった。結果としてスバルがやったことと言えば、エミリアの後ろに隠れて力を送っていただけだが、それでもあの凶悪なシリウスは完全に沈黙した。氷の中で、今は呼吸すらしていないはずだ。
それにしても、あんな悪の幹部だか何だかに命を狙われるなんて、俺はこの世界の未来で一体どんな生き方をしていたんだ?
「……いけないっ! スバル、走って!!」
「おっ!? ああ、了解だぜ!」
エミリアが突然目を見開き、スバルの手を力強く掴んで氷塊に背を向けた。背後の氷にヒビが入るような兆候は見当たらないが、スバルは彼女の切迫した指示に従って同時に地を蹴る。
やはり、この『魂の鎖(傲慢の権能)』による強化は凄まじい。まるで高級な栄養ドリンクをがぶ飲みした時のように、走る足取りは驚くほど軽かった。もともとスバルより何倍も身体能力の高いエミリアに手を引かれ、二人の速度は馬車をも置き去りにするほど加速していく。
「これならもっとスピード上げてもいいぜ! ――って、おい、やっぱりストップ!!! 止まってくれ、エミリア!」
「えっ……?」
突如、スバルの視界にあるものが飛び込んできた。その衝撃に、スバルは思わず急ブレーキをかけて足を止めてしまう。
二人が差し掛かった橋の上。その下を流れる川の水面に、自分の姿が、自分の『顔』がくっきりと映り込んでいたのだ。
スバルが急停止した理由を察したかのように、隣でエミリアが痛ましく胸を締め付けられるような表情で立ち止まった。
なぜ彼女がそんなに怯えた反応をするのか。それを確かめるため、スバルは水面に映る自分の顔を凝視する。
「すげぇ……光ってんじゃん、俺の目。っていうか、めちゃくちゃ鮮やかだな」
「え……?」
水面を覗き込むスバルの瞳。それは、元の世界での三白眼の濁った黒い瞳ではなかった。
今、スバルの両目には、夜空を溶かし込んだかのような、息を呑むほどに美しい紫紺の色彩が爛々と輝いていたのだ。これこそが能力発動時にスバルの肉体に現れる『チートの証』なのだろう。自分の凶悪な目つきは長年のコンプレックスだったが、それがこんなにも気高く美しい瞳に変わってくれるなら、むしろ嬉しいくらいだ。
スバルは思わず、時間を忘れて水面の自分に見とれそうになってしまう。
「スバル……。その能力を解いて。お願いだから、今すぐ……!」
スバルの真横で、エミリアが今にも泣き出しそうな、苦しげな声を絞り出した。
「もしかして……エミリアの側に、何か俺の知らない力の弊害が出てて、それを我慢してるとか、そういう感じ? ぶっちゃけ今のところ、俺の側には全く嫌な感じも痛みの前兆もないんだけど……。なぁ、なんでさっきからこの力を使うのをそんなに嫌がるんだ?」
その、本当に何も分かっていないスバルの無邪気で単純な疑問に、エミリアは悲痛に眉間を寄せた。
そして次の瞬間、彼女はスバルの両頬をその小さな手で強く掴み、拒絶を許さない勢いで己の顔のすぐ近くへと引き寄せた。
「あだっ!? ……って、エミリア、いきなり何を――」
至近距離で紫紺の瞳に真っ向から凝視され、スバルは完全にキャパオーバーを起こした。今の自分もエミリアとお揃いの瞳になっているはずなのだが、そんな客観的な事実よりも、目の前の超絶美少女の顔が数センチ先にあるという現実に、全身の血が逆流しそうになる。
「お、おいっ! 純情を軽々と超えてるぞ!」
なんとか引き剥がそうとエミリアの手首を掴むが、スバルの顔を固定する彼女の両手は、まるで強固な万力のようにびくともしない。
エミリアは、今にも起爆しかねない危険物でも取り扱うような切実さで、スバルの紫紺の瞳の奥を凝視していた。しかし、ひとまず目立った狂気や崩壊の兆候が見当たらなかったのか、やがて強張らせていた指先から、よわよわしく力を抜いた。
そのまま、糸が切れたように狼狽えた彼女は、スバルの胸のあたりに自らの額を「こん」と小さくぶつけた。
「おいおい、どうしちまったんだよ……。何も問題ねえって。痛くも痒くもないし、俺的にはこれ、めちゃくちゃ気に入ってるんだが。もしかして……エミリア的には、俺とお揃いの目になっちゃったのが侵害だったりする?」
「ふざけないで……っ! この世界じゃ、そんな目になっちゃったら、どれだけ苦労すると思ってるのよ……っ?」
悔しさと悲痛さに声を震わせるエミリア。その剥き出しの必死さに直面し、スバルは自分が吐いた軽口の浅はかさを、心の底から激しく後悔した。
エミリアは、これっぽっちもふざけてなどいない。
「ごめん……。俺、本当によく分かってなくて」
スバルの知らない、この世界の過酷な事情があるのだろう。だが、先ほど大通りを歩いていた際、民衆がエミリアに向けていたあの容赦のない拒絶の視線――それと、この『紫紺の瞳』が分かち難く結びついていることだけは、平和ボケしたスバルの頭でも容易に察しがついた。
今がどれほど重く、真剣に向き合うべき空気なのかをようやく理解し、チート能力に舞い上がっていた己を猛省する。よし、今日一日は軽口禁止だ。
「……身体に、他におかしなところは?」
胸に額を預けたまま、エミリアが消え入るような声で尋ねる。
「……いや、凄く調子がいい。いつもの3倍くらいの速さで走れそうな気がするくらいだ」
「その目は……元に戻るの?」
「それは分からん。……けどさ、エミリア。君は俺より、俺のこの力についてよく分かってるみたいだよな?」
本当は、聞きたいことだらけなのはスバルの方だった。質問に質問で返す不器用な形になってしまったが、エミリアは小さくため息をつき、顔を上げて真剣に語り始めた。
「スバルのこの能力は、多分……さっきのシリウスの権能と同じような、別の系統の『権能』だわ。なんでそれがスバルの中にあるのかは分からないけれど、たぶん、すごーく危険な力なの。私は魂の繋がりを通じて、スバルから力を借りた。それは本当に強くて、傷の痛みを綺麗に消して、治してくれるものだった……。でも、そこまでしてくれたのに、スバルの方に何の負担も現れないのが、私は本当に危ない気がするの」
「負担、が現れないのが?」
「ええ。分かりやすい代償がないからこそ、この力を使いすぎたら、スバルはあの人……シリウスみたいに、いつの間にか狂人になっていくんだわ。その目だって、私に力を貸したせいで変わっちゃったんなら、本当に、すごーくこんこんちきよ!」
「こんこんちきって、きょうびフィクションでも聞かねえな……あ、ごめん、何でもないです」
つい口が滑り、エミリアからジロリと冷たい視線で睨まれてスバルは両手を挙げた。
「でもさ、俺の中には前向きな変化しかないんだ。この『魂の鎖』を使ってから、エミリアを救いたい、守りたいっていう気持ちが、本能レベルで強まった感じがある。それ以外は恩恵しか感じてないんだよ。これがこの世界で俺を助けてくれる異世界特典って言うなら、俺は心から感謝するぜ。……あ、エミリアは俺を召喚した召喚士様ってわけじゃなかったな」
再度じろりと睨まれるが、スバルは今度こそ、心から真面目に言葉を続けた。
「街を歩いてた時、周りの奴らがエミリアに投げつけてた視線、俺も気づいてた。だからさ、俺がエミリアと同じ紫紺の瞳になったことについて、君が焦ってくれたんだろ? 困ることも多いんだろうけど、俺はこの世界の事情を何も知らない。だからさ、俺にとって君はただの『超絶銀髪美少女エルフっ子』で、この紫紺の瞳はまさに俺の中二心をくすぐる憧れそのものなんだ。だからさ、新しい俺を、一緒に受け入れていこーぜ」
「耳が尖りだしたり、髪の色まで変わっちゃったりしないか、すごーく心配だわ……。本当に、どこも変な感覚はないの?」
全然納得していない様子で、エミリアはなおもスバルの耳や髪へと、不安げに視線を何度も往復させている。
「だから大丈夫だって。もし耳が尖ろうが髪が銀髪になろうが、お揃いが増えるなら俺は歓迎するぜ――あだだだだ!」
調子に乗るなとばかりに、容赦なく右耳を引っ張られた。
「もう……バカっ」
エミリアはそう吐き捨てた後、自らの胸にそっと手を当て、数秒間、何かの深い思いにふけるように目を伏せた。その横顔を見ていたスバルは、不覚にも、心の底からこの不器用で優しい少女に惚れ込んでいる自分を自覚する。
だが、そんな微かな安らぎのひと時を、最悪の重低音が派手にぶち壊した。
大通りに響き渡る、強固な氷塊が内側から爆裂していく絶望的な破壊音。
凍土の檻を内側から焼き尽くすように、おぞましい赤紫色の豪炎が噴出し、あの包帯の化物が再び這い出てきたのだ。
「そろいもそろって!!! 何て醜い瞳だ!!! 汚い、汚い、汚い、気持ちが悪いぃいいい!!! 今すぐその両目を、生きたままくり抜いてやるうううう!!!! あぁあああ!!!」
「嘘だろ、」
バキバキと音を立てて氷の監獄が崩壊する中、スバルとエミリアは同時に反転し、シリウスの方を睨みつけて臨戦態勢に入った。まさか、あの質量を凍らせておいて、これほど早く復帰してくるなど完全に予想外だった。
「おいお前!! どう考えてもそっちの方が分が悪いぞ! 一回実家に帰ったらどうなんだ!? お前みたいなのは初期に出てきていい中ボスじゃねーんだよ! 普通は一話のラストで顔だけ見せて『また会おう』とか言って帰るラスボス枠だろうが!! なぁ、今の俺たちに勝てる自信があるのかよ!」
スバルが喚き散らしたのは、挑発のためではない。単なる本音の懇願だ。今すぐシリウスに引き返して、どこか遠くへ去ってほしかった。大通りで大勢の民衆が殺されたが、今のスバルにはその仇討ちをしてやろうなんて正義感は一ミリも湧いてこない。シリウスはどこまでいっても、ただただ恐ろしい怪物なのだ。
「スバル……分が悪いのは、私たちのほうよ。さっき、すごーく力いっぱいシリウスを攻撃してみたんだけど、私もその攻撃と同じ傷を受けちゃったの。なんでスバルにだけはその影響が出ていないのかは分からないし、それは凄く助かることなんだけど……これじゃ、私からはシリウスに攻撃はできないわ」
「帰るだと……っ!? あなた、とても不愉快なことをおっしゃいますねぇ!!! こんな醜い二人組を放置して、私に憤怒を鎮めて帰れとそうおっしゃる!? 燃やして、燃やし尽くして家畜の肥料にしてやるううう!!!!」
エミリアの悲痛な告白と、シリウスの狂った反応から、スバルは戦慄と共に理解した。分が悪いのは、断然自分たちの側だ。こちらが攻撃すればそのダメージがそのままエミリアに返ってくるなんて、最悪という言葉すら生温い。初見殺し性能も大概にしろというのに、まともな攻略法すら存在しないクソゲーのボスキャラだった。
「でも……おかしい!! この半魔まで、私の精神汚染が効かなくなっているう!!! 腹立たしい!!! これもお前の『傲慢』の力かぁ!! ええ、本当にどこまでも傲慢だ!! 私の憤怒の愛から勝手に逃れるなど、何様のつもりなんでしょう!? 生かしておけないいいい!!」
「あっ――!?」
シリウスの憤激の言葉に、スバルの脳内でバラバラだったパズルのピースが噛み合った。シリウスの言う通りだ。
まだスバルの権能である「魂の鎖」を発動する前、エミリアは周囲の群衆と同じように目を赤く発光させ、シリウスの精神汚染によって身動きを封じられていた。だが今は、目の前にシリウスがいるというのにその影響を一切受けていない。これは明確なアドバンテージだ。
「だけど、あいつに与えたダメージだけは、まだエミリアに反映されちまうのか……! クソが、そこも全部シャットアウトしてくれよ!! これも……俺の力が足りねえせいなのか!?」
傲慢の権能を自覚する前から、なぜかスバルにだけはシリウスの精神汚染が効いていなかった。最初の一瞬でノイズを振り払えたほどだ。この完全耐性がスバルのデフォルト能力なのだとして、それが『鎖』で繋がったエミリアには部分的にしか共有されていない。洗脳は防げても、負傷の共有までは防げていないのは何故だ。
「あなた!? 何と傲慢なんでしょう!!! ごめんねぇ! ちょっと力が目覚めて調子に乗っていらっしゃるようですが、その矮小で醜悪な姿、まるで『強欲』の大罪司教、レグルス・コルニアスそっくりではありませんですかぁ!?」
またしても、聞いたこともない単語がシリウスの口から飛び出してきた。シリウスやペテルギウスの同類だろうか。
「だから誰だよそいつは!? 俺はそんな奴、名前も顔も知らねえって!!」
「いるんですよねぇ!!! 自身は何の価値もない弱者の哀れ者のくせに、授かった権能に頼り切って自己を主張する恥知らずが!! あの方もあなたと同じように、私の憤怒が一切効かないので、別に貴方に効かなくても驚きませんよ別にいいです!! 単純に肉片に変えるだけですので!! ごめんね、ありがとう!!」
そう言って不気味に舌なめずりをするシリウスの両手には、ジャラジャラと金色の長い鎖が握られていた。
この怪物は、ただでさえ厄介極まりない負傷共有の権能を持ちながら、あの恐ろしい豪炎を操り、さらにはこの鎖を自在に扱う武術的な強さまで兼ね備えているらしい。ますます、初期装備の今のスバルが相手にしていい敵ではなかった。
「ふ……ふざけんじゃねえ! 俺は別に能力で威張ったりなんてしてないぞ! 言いがかりだ! 俺のプライドに対する重大な侵害だろ!」
しかしスバルは、シリウスの罵倒の一部に、図星を突かれたような痛みを覚えていた。この窮地に陥ってから、自分はずっと『異世界チート特典』ばかりを求めていた。だって、それ以外に頼れるものがないのだ。今まで何一つ成し遂げず、何も積み上げてこなかったナツキ・スバルという人間に誇れる過去がないのなら、新しい天からの恵みに縋り付くしかないではないか。
「あらっ!? あの方と発する戯言、その醜い被害妄想の発言までそっくりではありませんかぁ!? ごめんね! すぐにその回る舌ごと黙らせて――」
「そこまでよ! それ以上、スバルを悪く言うことは私が許さないわ!」
凛としたエミリアの鋭い一喝が、大通りの張り詰めた空気をピキリと凍らせた。
そのあまりにも真っ直ぐで頼もしい言葉に、スバルの胸の奥から熱い感情が込み上げる。だが、それ以上に凄まじい熱度の感情を滾らせ、沸騰させた者がいた。
「私の言葉を!!! 遮るな!! この半魔風情がぁァァアアア!!!!」
やり直せるなら報われてほしい方
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オボレルラム
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カサネルオットー