もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から初期地点に帰ってきたら(スバル主人公)   作:駄々我菓子

40 / 50
大人げなくメイリィを逮捕!

「あいつは……!?」

 

 アーラム村に到着して早々、スバルの視線が一箇所に釘付けになった。

 無邪気に戯れる子どもたちの中に、昨日まではいなかったお下げ髪の少女が紛れ込んでいる。

 スバルは遠目からその姿を鋭く睨みつけた。

 

「あれが、メイリィだ」

 

「ああ、間違いない」

 

「あの子が……? 一体何をするつもりなの?」

 

 ラインハルトもスバルと同じく標的を捉えて頷き、エミリアは息を呑んでいた。

 

「だがスバル、これはかなり深刻な状況だよ」

 

 目の前の光景を凝視しながら、ラインハルトが低く呟く。

 スバルは苦々しく首を振った。

 

「いいや……相当激しくヤバい事態だ」

 

 メイリィの腕の中には、すでに一匹の小犬が抱かれていた。

 スバルとラインハルトには、それがただの愛玩動物ではなく、凄惨な死をもたらす魔獣であると分かっていた。

 

「スバル……?」

 

 最悪の事態を察して沈黙したスバルに、エミリアが不安そうに声をかける。

 

「あの子犬はウルガルムだ……。もうすでに、ガキどもは呪いを掛けられた後かもしれねえ」

 

 無邪気に小犬と戯れる子どもたちを遠巻きに見つめながら、スバルは顔面を蒼白にして呟いた。

 

「それでも、まだ手遅れじゃない」

 

 動揺するスバルの肩に、ラインハルトがそっと手を置く。

 

「確かに、お前とエミリアなら……」

 

「ああ。ウルガルム本体を排除すれば、その呪いは効力を失うからね」

 

 絶望的な状況において、隣に立つ二人の存在はあまりにも心強かった。

 

「……よし、俺に作戦がある。二人とも、いつも通り頼むぜ!」

 

 スバルは息を深く吐き出し、胸の中の恐怖を振り払うように気持ちを切り替えた。

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

「今日も元気そうだなお前ら!」

 

 スバルは一人、いつも通り陽気な態度で子どもたちの輪へと飛び込んでいった。

 

「スバル!」

「スバル兄ちゃん!」

「玉蹴りやろーぜ!」

 

 昨日と変わらぬ無邪気さで、子どもたちが一斉にスバルへと飛びついてくる。スバルはそれをひらりと身軽に躱した。

 

「あれ? 君は昨日はいなかったよな?」

 

 まるで初対面を装い、スバルは自然な素振りでメイリィへと声をかけた。

 

「……」

 

 胸元に抱いた子犬をぎゅっと抱きしめたまま、メイリィは無言で佇んでいる。

 

「今朝隣町から来たんだって!」

 

 メイリィの代わりに、ペトラが元気よく教えてくれた。

 

「おう! そこのワンコロと二人で遥々やってきたのか。やっぱり子どもは風の子だな!」

 

 軽口を叩きながらも、スバルは意識して子犬から距離を取り絶対に触れないよう神経を研ぎ澄ませる。

 

「そこまでだ」

 

 その時、和やかな雰囲気に割り込むように一人の青年が歩み寄ってきた。

 普段の温和さを削ぎ落としたラインハルトの冷徹な気配に、子どもたちは思わず息を呑んで身構えた。

 

「……!?」

 

 メイリィの瞳が驚愕に見開かれるのを、スバルは見逃さなかった。

 スバルが話しかけた時には一切揺らがなかった彼女の顔に、明確な動揺が走っている。

 

 スバルは内心で納得する。

 剣聖であるラインハルトの顔を知り尽くしているからこその反応。

 そしてスバルには何の手応えも感じていなかった様子から察するに、メイリィは『予知夢』を見ていない側の人間だとスバルは確信した。

 

「どうした、ラインハルト?」

 

 これは事前の打ち合わせ通りの演技だ。

 エミリアにもすでに別行動を取らせてある。

 スバルは手筈通り、神妙な面持ちでラインハルトと対峙した。

 

「君が抱えているその小犬は魔獣だ。僕には分かる」

 

「なんだと……!?」

 

 ラインハルトの言葉を受け、スバルはわざとらしく大袈裟に子どもたちを振り返った。

 

「おい! すぐにラインハルトに渡すんだ! それから、この犬っころに触った奴は手を挙げろ!」

 

「えっ……!?」

 

 あまりの剣幕に困惑しながらも、恐怖に駆られた子どもたちは一斉に手を挙げた。全員だ。

 メイリィは予期せぬ展開に言葉を失い、固まっている。

 

「みんな、心配いらないよ。僕がこの魔獣を倒せば君たちには何の害も及ばない」

 

「うん! じゃあ、このお兄ちゃんに渡しちゃおう! 大人しい魔獣で良かったね」

 

 ペトラがメイリィから子犬を引き取ろうと促す。

 大人しい魔獣など存在しないことなど、スバルには分かっている。

 メイリィがその加護で無理やり制御しているだけに過ぎない。

 

 動揺を隠しきれないメイリィの次の出方を伺い、スバルとラインハルトは一瞬の隙も逃さぬよう視線を走らせた。

 

「……プッ! あはははは!」

 

 突然、それまで黙り込んでいたメイリィが吹き出すように笑い始めた。

 ペトラたち子どもはもちろん、スバルとラインハルトまでもがそのあまりに予想外な反応に目を丸くした。

 

「おい……」

 

「いいわよぉ。私を捕まえるのも、ウルガルムちゃんを好きにするのもご自由にどーぞー」

 

 大人しい隣町の少女という仮面を脱ぎ捨てたメイリィは、開き直ったように両手を高く挙げて降参のポーズを取った。

 

「ねぇ……どうしちゃったの……?」

 

 豹変した雰囲気に圧倒され、ペトラが不安そうにメイリィの顔を覗き込む。

 

「ごめんねぇ。私ね、みんなを騙して、ウルガルムちゃんたちのおやつにしようと思ってたのぉ」

 

「……っ!?」

 

 ペトラをはじめ、子どもたちが一斉に絶句した。

 

「じゃ、そういうことだからぁ。大人しく捕まってあげるわぁ」

 

 勝手に話を完結させるところとか、エルザそっくりだなとスバルは内心で呟いた。

 スバルが苦笑いを浮かべる中、メイリィは抱えていたウルガルムをラインハルトへ差し出し、自らも『剣聖』の間合いへと足を踏み入れた。

 正真正銘、完全な投降だ。

 

「やけに素直だな。どういう風の吹き回しだ?」

 

 スバルが胡散臭そうに尋ねると、メイリィは年相応とは到底思えない悪辣な笑みを浮かべて見返してきた。

 

「あらぁ? やっぱりおにーさんもお芝居してて、最初から私を捕まえるつもりだったのねぇ」

 

「そうだぜ。こんな小娘にあっさり見抜かれるたぁ、俺のピエロ適性の低さが露呈して嬉しい限りだよ」

 

 スバルはわざとらしく溜息をつき、ショックで固まっている子どもたちへと視線を向けた。

 

「ここは俺たちに任せろ。今日は大人しく家に戻ってろ!」

 

「う、うん……! ありがとう、スバル!」

 

 ペトラが引きつった声を返し、怯える子どもたちの手を引いて一目散に駆け去っていく。

 その背中を、スバルとメイリィはどこか似たような眼差しで見送った。

 

「メイリィだね。君の企みは、すべて僕たちが把握している」

 

 ラインハルトの手の中に納まったウルガルムは、まるで玩具のように大人しくなり一切の抵抗を見せない。

 圧倒的な力の差を本能で理解し、完全に戦意を喪失しているのだ。

 

「そういうことだ。ところでメイリィ……お前、ナツキ・スバルって名前に聞き覚えはあるか?」

 

 スバルの問いかけに、メイリィは毒気を抜かれたような顔をして首を傾げた。

 

「おにーさんが、王都で『憤怒』の大罪司教を殺して、エルザを捕まえたっていうナツキ・スバル……のことぉ?」

 

 その反応で、スバルは確信した。

 メイリィはやはり『予知夢』を見ていない側の人間であり、自分とはこれが初対面なのだと。

 

「そうだ。だからお前の悪巧みも、未然に潰させてもらったってわけさ」

 

「メイリィ。スバルのおかげで、君は決定的な罪を犯さずに済んだんだ。……一応確認するけれど、他に何か仕掛けてはいないかい?」

 

 ラインハルトの問いかけは、いまのスバルにとっても最も確認したい重要事項だった。

 

「どうなんだ? 今さら隠しても無駄だぞ」

 

 何かを思案するように目を泳がせるメイリィに、スバルは先を促した。

 

「じゃあ教えてあげるけどぉ。ウルガルムちゃんは森の中にたくさんいるのぉ。もう村中の人に呪いは仕込んだ後だからねぇ。急がないと大変なことになるわよぉ」

 

 メイリィは二人の動揺を期待するように、楽しげな悪意を隠しもせずスバルとラインハルトの顔を覗き込んできた。

 

「……そんなことだろうと思ったぜ」

 

「なら、一刻も早く対処に動く必要があるね、スバル」

 

「ああ。上等だぜ、運命様!」

 

 メイリィの底意地悪い宣告を真っ向から押し返すように、スバルは強く言い放った。

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 誰にも見られない場所で、メイリィから押収したウルガルムはすでにラインハルトの手で処理されていた。

 

 奴こそが群れのボスガルムだったわけだが、ボスの死だけで呪術が解けるわけではない。

 残るモブガルムを含めた群れを全滅させなければ、すでに呪いを仕込まれた村人たちの命が危うかった。

 

「エミリア! どうだった!?」

 

 スバルとラインハルトは、別行動を取らせていたエミリアとアーラム村の外れで合流した。

 

「大変だわ! 朝から村に数匹の犬たちが紛れ込んできて、悪さをしていたみたいなの」

 

「やっぱりな……! 重傷者はいるか!?」

 

「ううん。怪我人は何人かいたけれど、私の治癒魔法でなんとか治せたわ」

 

 報告を終えたエミリアの視線が、スバルとラインハルトが挟むように連れているメイリィへと注がれる。

 

「治癒魔法で怪我は塞げても、犬に噛まれた人たちには呪術が仕込まれててヤバいんだ。……で、こいつが魔獣を操っていた犯人のメイリィだ」

 

「あなたが……!? こんなに幼いのに、どうして……?」

 

 エミリアの純粋な驚愕の反応から、スバルは彼女が『憤怒の予知夢』の中でメイリィと遭遇していないのだと理解した。

 

「どうせ、誰かに依頼された仕事なんだろ?」

 

「メイリィ。ここからは素直に僕たちに協力した方が君のためになる。分かるよね?」

 

 スバルは、メイリィの口からロズワールの名前が出ないことなど最初から確信していた。

 ロズワールが自分の存在を悟らせるようなヘマをするはずがない。

 

 それに何より、いまここでロズワールの名が暴かれてしまえば困るのはスバル自身だ。

 もしラインハルトとロズワールが真っ向から対立すれば、エミリアを王にするどころの話ではなくなってしまう。

 

「知らないわよぉ。覆面の男の人が、エルザを失った私に仕事をくれてぇ……それでママにも『行ってきなさい』って言われただけだもん」

 

「――ママ、か」

 

 スバルはメイリィの言う「ママ」の正体が『色欲の大罪司教』カペラであることを、『傲慢の予知夢』の記憶から知っていた。

 だが、当然それを口には出さず胸の内に伏せる。

 

 それにしても、ロズワールの計画の裏には、魔女教の影すら蠢いているというのか。

 その事実の重さに、スバルの背筋に冷や汗が伝う。

 

「誰が裏で手を引いてようが関係ねえ。俺たちは絶対に諦めねえぞ」

 

「……」

 

 スバルは前を向き、ラインハルトとエミリア――頼もしい二人の仲間に視線を投げかけた。ラインハルトはスバルの言葉に力強く頷いたが、エミリアは応えず、メイリィの前でそっと膝を折った。

 

「どうしたのぉ? 半魔のおねーさん」

 

「自分が、何をしたか分かってるの?」

 

 小さな子どもに言い聞かせるように、視線の高さをぴったりと合わせたエミリアが静かにだが重く問いかける。

 そのエミリアのどこか危うい眼差しを目にして、スバルの胸の奥に不穏な胸騒ぎが不意に掠めた。

 

「別に分かってるわよぉ。失敗したし、もうどうでもいいけどねぇ」

 

「失敗して、悪かったなって……やらなきゃよかったなって、思ってる?」

 

 エミリアからの射抜くような眼差しに居心地の悪さを感じたのか、メイリィはふいっと顔を背けてそっぽを向いた。

 だが、エミリアはメイリィの両肩を優しく逃がさないように掴み自分へと意識を向けさせる。

 

「真面目に答えないと、次ですごーく……怒るわよ」

 

「勝手にすればぁ」

 

 そのやり取りを見守るスバルの額を、冷や汗がすっと伝った。

 怒りの矛先は自分ではない、メイリィだ。

 それにもかかわらず、スバルはエミリアの静かな怒りそのものに強烈な恐れを抱いていた。

 

 そんなスバルの動揺を察したのか、背中にラインハルトの手がそっと添えられ不安を押し鎮めるような気づかいが分かった。

 

「私の大切な人たちに、全ての善良な人たちに、その平穏を脅かす悪党を私は絶対に許さない。メイリィ、あなたが悪党であり続けると言うなら私は必ずあなたに後悔させるわ」

 

 銀髪のハーフエルフ。

 この世界から一方的な憎悪を向けられてきた紫紺の瞳に見据えられ、低く落ち着いた憤怒を浴びせられたメイリィはもはや虚勢すら維持できなくなっていた。

 

 エミリアに掴まれた肩の先、メイリィの手が小刻みに震えているのがスバルやラインハルトの目にもはっきりと見て取れた。

 

「ふ、ふふ……。ど、どうでもいいのよぉ! こ、殺せばいいじゃない! 今、ここで……っ!」

 

 涙目を浮かべながらも、メイリィは自分に手を置くエミリアへ真っ向から視線をぶつけ吐き捨てるように言い放った。

 だが、エミリアは静かに首を横に振る。

 

「言ったでしょう? あなたが『後悔した』って分かるまで、私はあなたを許さないわ」

 

「……くっ!」

 

 作られた歪な笑みが完全に消え去り、メイリィはエミリアを激しい眼光で睨みつけた。

 

「なんなのぉ……! おにーさんもおねーさんも、みんな気に入らないわぁ!!」

 

 作られた歪な少女の仮面が剥がれ落ち、年相応にボロボロと涙をこぼしながらメイリィが叫ぶ。

 エミリアはその言葉を受け止めると、そっと両手を彼女の肩から離し静かに立ち上がった。

 

「それでいい。メイリィ、変に大人ぶる必要はねえぜ」

 

「……おにーさんたちでしょう!? エルザを捕まえたのって!」

 

 今度は、メイリィの激しい視線がスバルへと突き刺さった。

 嘘も偽りもない、彼女の心の底からの感情だ。

 

「そうだぜ。お前にとってのエルザみたいに、誰にだって大切な人がいるんだ。それを奪うことだけは絶対に許されねえんだよ」

 

「偉そうに言わないでよ!! 私、おにーさんたちを死ぬより辛い目に遭わせてやるんだからぁ! ここで殺さなかったこと、一生後悔させてあげる!!」

 

 『剣聖』と『氷結の魔女』を前にしながら感情を爆発させて叫ぶメイリィの姿にスバルは彼女の根底にある意志の強さを感じていた。

 

 だからこそ、その強さが『エルザ』という間違ったお手本のせいで歪んだ方向に伸ばされてしまっている事実がたまらなく悔しかった。

 

「あぁ、受けて立つぜ!」

 

 スバルの大人げない返答に、メイリィは「チッ!」と盛大な舌打ちで返した。

 そんな彼女の威嚇をあざ笑うかのように、スバルは両隣に立つエミリアとラインハルトの肩をガシッと力強く抱き寄せる。

 

「おっと……!」

 

「ふふっ」

 

 唐突なスバルの行動に、頼もしい二人が思わず苦笑を漏らす気配が伝わってきた。

 

「俺たちは最強なんだよ。やれるもんならやってみな!」

 

「えぇ、楽しみにしていると良いわぁ……っ!」

 

 唇から血がにじむほど強く噛み締めながら、メイリィは恨めしさに満ちた眼光でスバルを強く睨みつけた。




※ロズッチの計画通りです

敵だったら怖い人

  • アヤマツ記憶持ちスバル
  • カサネル記憶持ちロズワール
  • 本編記憶持ちペテルギウス
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。