もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から初期地点に帰ってきたら(スバル主人公) 作:駄々我菓子
スバルたちは、ロズワール邸の地下にある牢の鉄格子の向こうに、メイリィを閉じ込めた。
その場にはスバルたちだけでなく、ラムとレムも含めた全員が集まっている。
すでに、ここに至るまでの大まかな状況説明は終えていた。
「メイリィの処遇は、ロズワール様が帰還されるまでここで拘束。異論はないわね」
ラムは腕を組み、鉄格子越しにメイリィを冷たく見下ろす。
予知夢でレムが命を落とした原因を知るスバルは、努めて冷静に対処するラムに心から感謝していた。
「……勝手にすればぁ」
メイリィはふいっとそっぽを向き、もはや挑発してくる気配もない。
「よしっ。次は森でのウルガルム討伐隊の選抜だな」
スバルの言葉を受け、一同はお互いの顔を見合わせながら、森へ向かう者と屋敷に残る者の分担を話し合い始めた。
「俺は自分で言ってて情けねえが、戦闘能力的にお留守番役に立候補するぜ」
自分の立場を弁えたスバルの申告に、異論を唱える者など当然いなかった。
「僕が行こう」
「私も行くわ」
即座に、ラインハルトとエミリアが同時に名を上げる。
「ラムはここに残るわ。」
「レムは……」
不意に言葉を詰まらせたレムは、少しの間思い悩むように視線を彷徨わせた後、そっとスバルの方へと顔を向けた。
「スバル君。レムは……行くべきでしょうか?」
「……俺に聞くか? 聞くなら俺じゃなくて、ラムだろ」
普段のレムであれば、選択を委ねるのは他でもないラムのはずだ。
その迷いを含んだ瞳から、スバルは二人の間に依然として気まずい距離感が横たわっているのだと察してしまった。
「おほん! なら勝手ながら言わせてもらうぜ。行って来いよ、レム」
スバルはあえて気楽な調子でそう言い放った。
「バルス……」
「いやさ、レムの嗅覚がウルガルムを見つけ出すカギになると思ったんだよ。……ま、俺の浅い考えだけどさ」
頭の後ろで手を組みながらスバルがそう呟くと、レムは静かに目を細めた。
「スバル君にそう言っていただけて、決意が固まりました。……レムは、行かないでおきます」
「そりゃ結構。それならそれでよかったぜ」
ニッと笑うスバルの狙い通りだった。
ラムの気持ちを考えればレムを危険な森へ行かせたくないはず。だからこそ、今の天邪鬼なレムならスバルの提案と逆を選ぶと踏んでいたのだ。
「……懸命な判断だわ」
「はい……」
ラムのポツリと漏らした言葉に、レムは小さく頷いた。
「ラインハルト、エミリア。もしも呪いがヤバそうになったら、遠慮なく俺の力を使えよ? ためらう必要はねえからな」
「うん。ありがとう、スバル。でも、心配いらないわ」
「分かったよ。僕が噛まれた時はそうさせてもらうね」
「あら? なんか俺の想像と二人の反応が逆なんだけど……」
頭を掻きながら軽口を叩くスバルだったが、胸の中では深い信頼が満ちていた。この二人がウルガルム程度に遅れを取ることなど、到底あり得ない。
「じゃあ、もう行くとしよう」
「行ってくるわね」
そう言って、エミリアとラインハルトは速やかに目的地へと足を向けていく。
スバル、レム、ラムの三人は、二人の背中を静かに見送った。
☆☆☆☆
屋敷に残されたスバル、レム、ラムの3人は、再びメイリィを閉じ込めている地下牢へと足を進めた。
「メイリィ。お前から聞けそうな情報は、もうなさそうだと思ってる」
「へぇ~、案外甘いのねぇ。てっきり拷問でもされるかと期待してたわぁ」
「物騒なこと言ってんじゃねえよ……。ロズワール様が帰ってくるまでは安全を保障してやる。だから、変な気は起こすな」
呆れ混じりにスバルが釘を刺すが、檻の中のメイリィはどこか悪そうな笑みを浮かべ、レムとラムへ視線を滑らせた。
「変な気を起こしそうなのは、そっちのおねーさん方じゃな~い? 私のこと、今すぐ殺したくてたまらないって顔だもの」
「む……」
ラムの見た予知夢で、レムの命を奪った元凶が目の前にいるのだ。
ラムが溢れ出る殺意を隠そうともしないのは当然だった。
そして、疑わしき者は容赦なく排除するスタンスのレムが刃のような視線を向けるのも、また当然だった。
「だったら尚更、発言には気をつけとけ。調子に乗った口叩いてたら、俺が一番ブチ切れるからな」
精一杯の威圧感を込め、鉄格子越しに睨みつけるスバル。しかしメイリィは、それを嘲笑うかのように軽やかに受け流した。
「おにーさんが一番怖くないわぁ」
「チッ……」
スバルが苛立ち混じりに舌打ちした瞬間、その肩を後ろからポンと掴まれた。振り返ると、そこには冷徹な目を向けたラムが立っていた。
「もういいわ、バルス。そこの小娘の相手なんてどうでもいいの」
「姉様……」
「ラム……?」
制止されたことにレムが低く声を漏らし、スバルは困惑を浮かべる。
ラムの鋭い眼光は、まっ直ぐにスバルを射抜いていた。
「さっき、ラインハルトとエミリア様が呪いにかかった時……バルスの『力』でどうにかできるかのような発言をしたわね?」
「あ……。いや、う~ん、それは……その……」
語るに落ちたスバルの失言。その追及に答えを窮していると、不意に横から割って入る影があった。
「姉様。そんなことより、まずはこちらのお客様を『拷問』しましょう」
レムが露骨な苛立ちを隠しもせず、檻の中のメイリィへ詰め寄る。
その唐突すぎる態度は、明らかにラムの意識をスバルの『力』から逸らそうとしているようにしか見えなかった。
「なんか青髪のおねーさんが暴走してるけど、放置してていいのぉ?」
『拷問』という言葉を向けられた直後だというのに、メイリィは相変わらず軽薄な態度を崩さず、スバルに助けを求めるような仕草をしてみせる。
「おい、レム……」
「スバル君は黙っていてください。レムに指図しないで」
スバルが制止しようと口を開いた瞬間、レムの冷ややかな眼光がスバルを射抜いた。
ただ一つ確かなのは、ラムの前で致命的な失言をしたスバルに対し、レムから明確な苛立ちが向けられているということだった。
「……確かに、今の俺にレムを止める力なんてねえな。すまんメイリィ、来世では悪さすんじゃねえぞ」
「はぁ!?」
あっさりと匙を投げて背を向けたスバルに、メイリィは思わず目を見開き、素の驚きを露わにした。
「でも、一応ラムの許可を取っておいた方が良いんじゃないか?」
急に軽薄な調子を引っ込めたスバルの言葉に、レムの動きがピタッと止まった。
「姉様……」
「レム。この小娘を八つ裂きにしたい気持ちはラムも同じだけれど、ロズワール様が不在の間に勝手な真似は許されないわ」
「は……はい」
ラムの立ち振る舞いは恐ろしいほど落ち着いていた。
だが、その静けさこそが、かえってレムの不安と焦りを煽っているようにスバルの目には映った。
「……それともレム。ラムから何かを誤魔化すためにこの茶番をやろうとしたの?」
「いいえ……っ」
「おいおい、あからさまな嘘は一番火に油を注ぐんだぜ?」
スバルが横から軽口を挟むと、ラムの追及に怯えていたはずのレムが、弾かれたように顔を上げた。その瞳には獰猛な殺意が宿り、スバルを激しく射抜いている。
「スバル君が……余計なこと言ったからです……っ!」
「そうね。バルスがヘマをしたのは明白だわ。……ところでバルス、どうやって呪いに対処できるのか、説明しなさい」
ラムは腕を組んだまま、冷徹な声でスバルへ詰め寄る。
レムは今にも唇から血が滲みそうなほど歯を噛み締め、スバルへ憎悪の視線を送り続けていた。
「レムさん……。ヘマをしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
スバルは深々と頭を下げた。
ふざけているわけではない。これ以上悪あがきをしても無駄だ、もう諦めろというメッセージをレムに送ったのだ。
「スバル君と協力しようとしたレムがバカでした! 今すぐここから立ち去ってください!」
レムの叫びが地下牢に響き渡る。その音量に思わずスバルは目を瞑り、耳を塞いだ。
「パワハラは勘弁してくれ……。後輩の失敗は明日の成長に繋がるんだぜ……」
「本当に、使えない……っ!」
激昂したレムの頭からは、すでに姉であるラムの存在すら吹き飛んでいるようだった。
「レム。落ち着きなさい」
「はっ……!?」
ラムの静かな一言に、レムはハッと息を呑んで立ち尽くした。そして恐る恐る、再び怯えたような視線を姉へと向ける。
「バルスを利用してラムに隠し事を決め込もうとしたみたいだけれど……協力する相手を間違えたわね」
「耳が痛すぎるぜ……」
「でも……いいわ。二人で好きにやってみなさい」
「「え?」」
ラムの口から出た予想外の言葉に、スバルとレムの声が重なった。
「ラムはもう怒っていないし、呆れてもいないわ。レムなりに頑張りたいことがあるのなら、ラムはそれを応援する」
「姉様……」
レムの大きな瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。
「ただし、約束しなさい。自分一人では無理だと悟ったら、すぐにラムを頼ること。そして、ラムが無理だと判断した時は……その時こそ、隠し事を全て吐き出させるわ。分かったわね?」
「はい……っ、ありがとうございます……!」
溢れ出る涙を拭いもせず頷くレムを、ラムは優しくその腕の中に抱き寄せた。
互いの絆を確かめ合う美しい姉妹の姿を横目で見ながら、スバルは神妙な顔で眉唾を飲み込んだ。
実は、スバルがラムの前で失言してみせたのは計算だった。
地下牢へ来る直前、スバルは『憤怒の書』でラムのページを確認していた。
そこには”ラムに隠し事を伝えようとする”と記されており、その通りに『伝えようとする行動』を起こすことこそが、どんな仕組みかラムの憤怒を鎮めるトリガーだったのだ。
だからこそスバルはあえてヘマを演じた。
「ラムに隠し事をするな」「姉様の代替品になるな」とレムに直接言えないスバルの弱さゆえの回り道だ。
それでもラムは二人を受け止め、「好きにやってみなさい」と言ってくれた。
すべての隠し事を明かせずとも、伝えようとしたスバルの姿勢が届き怒りを鎮めてくれたのなら、それは『書』の仕組み以上にラム自身の強さと情の深さのおかげだと、スバルは痛感していた。
「姉様は……優しすぎます」
「フッ。いつものことよ」
身を寄せ合う二人のやり取りを見つめながら、スバルは胸の内で深く安堵の息を吐き出した。
レムには自らの秘密を明かし、『傲慢の権能』による生存価値を示すことで殺される未来を回避した。
ラムに対しては『憤怒の書』の兆候を踏破し、その怒りを鎮めることに成功した。
元凶であるメイリィの身柄も拘束し、残るウルガルムの群れもエミリアとラインハルトの手で間もなく掃討されるだろう。
――だが、本質的な問題は何も解決していない。
「次は……何が来る?」
己に言い聞かせるように、スバルは低く呟く。
脳裏に脳裏にこびりついて離れないのは、あの滑稽で、恐ろしい道化の影だった。
「どうしたのぉ? おにーさん、すっごく顔色が悪いわぁ」
「待ちなさい。……あなた、何を考えているの?」
メイリィの小馬鹿にした声と、それを遮るラムの冷徹な声。
スバルがハッと視線を向けると、ラムは鉄格子の向こうにいるメイリィを、射抜くような眼光で見つめていた。
「ふふふ。何でもないわよぉ~」
「おい、その白々しい言い方はなんだ。何か隠してやがるな?」
「さぁねぇ? どうかしらぁ」
「……レムが、今度こそ口を割らせます」
相変わらずの軽薄な態度を崩さないメイリィに、スバルとレムが怒りを露わにして詰め寄る。
だが、ラムがすっと手を差し伸べ、二人を静かに制した。
「ええ。この小娘は本当に隠し事をしているわ。」
ラムの言葉に、スバルは驚愕に息を飲んだ。彼女の鋭い洞察力は、メイリィの底知れない違和感をすでに見破っている。
「おい、何を企んでやがる! 次はもう容赦しねえぞ!」
「姉様。……どうなさいますか?」
レムの問いかけに対し、ラムは長いため息をひとつ吐くと、どこか冷酷な腹をくくったような表情を浮かべた。
「……気が変わったわ。この小娘、やっぱり今すぐここで殺しておいた方が良さそうね」
「っ!?」
「あらぁ……? 本当に言ってるのぉ?」
静かに放たれたラムの殺意に、スバルとレムは思わず息を呑んで固まり、メイリィの笑みもピキリと凍りついた。
「はい。姉様の判断とあらば」
「……クソっ!」
ラムの即断と、躊躇なくそれに従うレムの反応に、スバルの背筋を冷や汗が吹き抜けた。
ラムは冷徹な眼光を檻の中のメイリィへ向ける。
「丸腰でありながら、まだ何かを企んでいる顔ね。お腹の中に、何か仕込んでいるのでしょう?」
「……ほんっと、おねーさんってあり得ないくらい鋭くて厄介だわぁ」
それは、メイリィがラムの指摘を認めた証拠だった。スバルの心臓が凍りつく。
もしこれがすべてロズワールの筋書き通りなのだとしたら――スバルがメイリィを捕らえ、屋敷の地下牢に拘束することすら織り込み済みだったということか。
メイリィのお腹の中に隠されたもの? 一体、彼女に何を運ばせたというのだ?
スバルは必死に思考を走らせる。
「おい、メイリィ! 死にたくなかったら企みを今すぐ吐け! これが最後のチャンスだぞ!」
『傲慢の予知夢』において、メイリィはスバルの仲間だった。
だが、今のラムの「即刻殺すべきだ」という判断を、スバルには止める術も理由もない。
もしここでメイリィを処分することで惨劇が回避できるのだとしたら、スバルがやり直すことなどないだろう。
「ハハハッ! 分かったわよぉ! 全部『吐いて』あげるわぁ!」
「お前……何して――!」
スバルが求めたのは「告白」だった。しかし、メイリィの行動は物理的な「嘔吐」だった。
メイリィは自らの喉奥深くへ躊躇なく指を突き立てる。
「おええええっ!!」
地下牢の床へぶちまけられる吐瀉物。
その中に、スバルは禍々しい存在感を放つ『小さな黒い玉』を見つけてしまった。
「……最初から、すでに手遅れだったというわけね!」
ラムが叫ぶと同時に、スバルとレムの襟首を掴んで強引に後方へ跳び退がった。
あの黒い玉こそがメイリィの隠し持っていた『企み』であり、いつでも起動できる状態にあったのだ。
もしメイリィを殺していたとしても、この仕掛けは確実に発動していただろう。
スバルの胸を、またしても逃れられない大惨事の予感が支配していく。
『ダメだ、ダメだよ、ダメだろ、もう抑えきれない! 溢れる、滾る、込み上げる!』
黒い玉の中から、はっきりと「声」が響き渡った。
「は……? お前……マジでふざけんなよ……!」
スバルはその声の正体に思い当たり、絶望に顔を歪める。
次の瞬間、黒い玉は内側から弾け飛び――その「中身」が姿を現した。
「待望の、歓喜の、至福の、待ちに待ったディナータイムだ! 食って・はんで・噛んで・食らって、残さず全部、俺達の腹の中に平らげてやろうじゃないか! 暴飲! 暴食ぅっ! さあ、お手を拝借、いただきます!」
小柄な体躯に、地面に届くほどの見苦しい長髪。
ギザギザの鋭い歯を剥き出しにし、狂気じみた笑みを浮かべる男。
清潔感など皆無の汚いボロ布を纏い、ただ「喰らうこと」だけを渇望する怪物――『暴食』の大罪司教が、そこに顕現していた。
「あいつ……これは流石に、本当にどうかしてるぞ…やりすぎだ」
ライ・バテンカイトスが封印されていた黒い玉を吐き出したメイリィは、大罪司教の背後で、絶望に打ちひしがれるスバルを嘲笑うように不敵な笑みを浮かべていた。
だが――本当にあざ笑っているのは、メイリィなどではない。
この惨状を裏で仕組んだあの道化、ロズワール・L・メイザースだ。
これこそが奴の仕掛けた本命。魔女教の大罪司教『暴食』の投入こそが、真の試練だったのだ。
スバルの心を完全に折り、ただ一つの選択肢しか選べない存在へと作り替えるまで――自分はあと何度、この屋敷で死を繰り返さなければならないのか。
死の痛みに辿り着く前から、その果てしない繰り返しの恐怖に、スバルは震えを抑えきれずにいた。
敵だったら怖い人
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アヤマツ記憶持ちスバル
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カサネル記憶持ちロズワール
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本編記憶持ちペテルギウス