もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から初期地点に帰ってきたら(スバル主人公) 作:駄々我菓子
「バルス、退がりなさい! レム、行くわよ!」
ラムが瞬時に身構え、レムも得物を持たぬままその隣へ迷いなく並び立つ。
大罪司教という化け物を前にしても、二人の連携に微かな揺らぎすら存在しなかった。
「はい、姉様――スバルくん、力を!」
レムが叫ぶと同時に、スバルの魂の奥底で『傲慢の権能』が蠢いた。
スバルに押し寄せたのは、頭脳を汚濁させるほどに濃密で狂気じみた、互いの「正気」の削り合い。
歪んだ感情が暴流となって駆け抜け、スバルの正気を擦り減らしていく。
「――ぁあッ!」
正気と引き換えに、桁外れのマナと身体能力がレムの四肢を満たす。
武器などなくとも、その身に纏う殺意こそが『暴食』を穿つ鋭利な刃だ。
額に鬼の角を昂然と生やし、レムは大罪司教めがけて疾風のごとく飛び込んだ。
「あれぇ? 目の色が違うじゃないかぁ。美味そうな紫紺の瞳だぁ」
「確かに、気になるわね!フーラ!」
ラムの放った風の刃がライ・バテンカイトスを強襲する。
だがライはそれを避けようともせず、歓喜の表情で大口を開けて受け止めた。口が裂け、舌が切れ、大量の血が噴き出す。
「ぐはぁああ!!!」
「なっ……何考えてんだアイツ!?」
スバルは即座にライの異常を察知した。なぜ自ら攻撃を受けたのか。
突進していたレムも思わず足を止め、警戒を露わにする。ラムもまた、眉間に皺を寄せてその狂人を見据えた。
「これだよ、これさ! これだからこそ! ああ、ああ、あぁっ! また会えた、出会えた、巡り合えた! このためだけに、僕達は……俺達は! 姉さまに会いに来たんだぁ!」
ライは大血を吐きながら、涙を流して狂喜の声を張り上げた。
「おぞましい……」
「こいつも、『予知夢』で……!」
スバルとラムは一瞬で理解した。ライは予知夢の中で既にラムと遭遇していたのだ。
そして、このわずかな一手だけで、ライのラムに対する執着がいかに異常で歪んだものかを思い知らされる。
「姉様に何を――ッ!」
「あぁ!? ……ッ、ぐはぁあ!?」
ラムへの執着を剥き出しにしたライへ、激昂したレムが肉薄する。
強化された力で叩き込まれた拳は、ライの回避を許さない。地下の石壁が派手に陥没するほどの衝撃とともに、ライの巨体が殴り飛ばされた。
「姉様に害を成す強い獲物の匂いがします……許せない!」
間髪入れずに詰め寄るレム。ラムはその桁外れな力に一瞬目を見張ったが、すぐに横目のスバルへと視線を飛ばす。
「バルス。レムのあの強化はなんなの?」
「俺との繋がりを利用する権能だ。代償を支払っているのは俺だけだ……ひとまず、レムに危害はない」
スバルは答えながらも、ふと脳裏をよぎった惨烈な思考に寒気を覚えた。
――もし、この権能をラムに使ったら? 角を復活させた彼女なら、あんな化け物など一瞬で叩き潰せるのではないか。
だが、そんなこと口が裂けても言えるはずがなかった。
「分かったわ。その力でレムにあれを討たせる。いいわね」
ラムは瞬時に思考を切り替え、冷徹な視線をライへ向けた。
「う〜ん、ダメだダメだ、ダメじゃない! やっぱり泥団子、出涸らし、ただのゴミクズにしか見えないなぁ!」
「姉さまと比べたら、みーんなそれさ! 変な権能を振りかざしたって不味い! 物足りない! 僕達の、俺達の腹を満たすには程遠いんだよ!」
「悲しいねぇ、期待損もいいところさ! こんな生ゴミじゃ前菜にもなりやしない! 暴飲! 暴食ぅっ!」
「姉様のことを……軽々しく口にするな!! ヒューマ!」
「ぐっ……!?」
レムの叫びとともに超高圧の氷塊が生成される。その瞬間、スバルの正気が勢いよく削り取られた。限界を超えて蛇口を捻り込まれ、脳髄を直接揺さぶられるような強烈な悪寒に、スバルは歯を食いしばって耐える。
「だから! 全然、全然、まったく、ちっとも足りないんだってばさぁ!」
「無味無臭! 薄味、素っ気ない、歯ごたえもない! 水でも飲まされてる方がまだマシなレベルだよ!」
「物足りない、物足りない、物足りなーい! こんなスカスカの味じゃ、僕達の、俺達の飢餓は到底満たせない! 暴飲! 暴食ぅっ!」
迫る巨大な氷塊に対し、ライは避ける素振りすら見せない。
直撃した氷塊は石壁ごとライを押し潰し、地下監獄全体、ひいてはロズワール邸の全土を激しく揺らした。
「なに……ッ!?」
「ばぁ!」
直後、レムの真横の空間からライが躍り出た。瞬間移動のごとき挙動だ。
だが、研ぎ澄まされたレムは即座に反応し、鋭い蹴りを叩き込む。
ライは腕で防ぐも耐えきれず、激しい衝撃音とともに壁へ吹き飛ばされた。
「レム! そいつは複数の未知の能力を使う! 気を付けろ!」
「うるさい、うるさい、鬱陶しい! 泥団子がピーピー、ギャーギャーうるさいんだよぉ!」
「雑音! 騒音! 不快な羽音! 僕達の、俺達の至福の食事を邪魔するなんてさあ……!」
「ダメだ、ダメだよ! 礼儀がなってない、マナー違反もいいところじゃないか!」
「お行儀の悪い害虫は、噛み砕いて吐き捨てるに限るよねぇ! 暴飲! 暴食ぅっ!」
一見すれば、レムが終始ライを圧倒しているように見えた。
しかしライの瞳は、激しい猛攻に晒されながらも、後方のスバルやラムを余裕めいてチラチラと見やっている。
「ここで……叩き潰すのみです!」
レムの打撃がライを追い詰める。
スバルの『傲慢』による強制強化と鬼化の暴力性が噛み合い、その破壊力は一撃ごとに地下の石畳を破壊していく。
「バルス。あの大罪司教の権能は? このままレムに任せておいて大丈夫なの?」
「このまま押し切るのが最善だ……! あいつの権能は『他者の記憶や名前を奪う』能力だ。だが、俺との繋がりがある今のレムには、その権能が通じない!」
「……十分よ。あのヘラヘラとした態度は、酷く不愉快だけれど」
ラムは短く頷くと、二人の死闘の余波を掻い潜り、即座に援護の間合いへ踏み込んだ。
取り残されたスバルにできるのは、ただ見守ることだけだ。
だが、胸を掠めるのは確固たる勝利の予感ではなく、ざらついた悪寒だった。
ライのあの視線。あの余裕。
奴は今、レムの『記憶』を食おうとすらしていないように見えたのだ。
「ラム! あいつは『予知夢』でお前のことを知ってる! 触れられたら記憶を食われる、絶対に触らせるな!」
「ハッ!」
近づくラムを察知した瞬間、惨状の中で痛めつけられていたライが、怪しく瞳をギラつかせた。
「姉さま! 会いたかった、会いたかった、会いたかったよ! 世界が変わろうが、理が捻じ曲がろうが、また僕達は……俺達は巡り会えたんだぁ!」
「いいね・いいよ・いいさ・いいな・いいとも・いいじゃない! ああ、溢れる、高鳴る、堪らない!」
「生まれ変わっても、どこへ堕ちようともさあ! 美食家の俺達を、僕達を満足させられるのは……姉さま、世界で君だけなんだよ!」
「食って・はんで・噛みちぎって、この愛おしい再会を平らげる! 暴飲! 暴食ぅっ!」
「姉様に……指一本、触れさせません!!」
ライの頭部を叩き潰すべく振り下ろされたレムの拳。だが、その一撃は虚しく空を割った。
「また――ッ!」
理を無視した瞬間移動。ライの気配がラムの死角――背後で跳ねる。
「馬鹿ね」
振り向きもせず、ラムは背後へ向けて木杖を突き付けた。出現位置を完璧に読んだ必殺の迎撃だ。
「『エル・フーラ』」
「ぎぃっ!!?」
極大の風刃がライの肩から斜めに肉を切り裂く。深々と刻まれた傷口から大量の血が吹き荒れたが、骨までは断ち切れなかった。
「ぐっ……!」
「姉様!!」
レムの悲痛な叫びが地下に響く。
直後、ラムの鼻からひとすじの血が滴り落ちた。角を失った体で強力な魔法を行使した代償だ。
スバルはその過酷な現実を目の当たりにする。
「痛い! 痛いね、痛いよ、痛いさ、痛いとも、痛すぎるからこそ!」
「本物だ! 本物さ、本物だよ、間違いなく本物だからこそ! ああ、堪らないなぁ!」
「偽物の薄っぺらい味じゃない! この鮮烈で、濃厚で、痺れるような激痛……!」
「いいね・最高じゃないか! 僕達の、俺達の舌を喜ばせる極上のスパイスだ! 暴飲! 暴食ぅっ!」
「ラムに惚れ込むのは理解できるけれど……その気持ち悪い目を、両方とも潰してやるわ」
血を拭い、ラムは杖を構え直す。すでに二発の風魔法を叩き込み、手応えはある。
だが、その細い体であと何発撃てるのかは、残されたマナの猶予にかかっていた。
「アハ! ハハハハッ! いいね・いいよ・最高じゃないか!」
「なら遠慮なく、微塵も一切合切ナシで! ご期待通り、お望み通りにさあ!」
「いただきます、お手を拝借! 前菜からメインディッシュまで、残さずきれいに平らげてあげるよ!」
「食って・はんで・噛み砕いて、僕達の、俺達の腹の中に収め尽くす! 暴飲! 暴食ぅっ!」
咆哮に身構えるラム。しかし、ライが次に現れたのは間合いの外――ラムから大きく離れた位置だった。
全身を自らの血で染めた大罪司教は、致命的な手負いに見えた。
「姉様には指一本触れさせません。スバル君、まだ行けますか?」
「あぁ……! このまま何もさせずに押し切る!」
ラムを背後へかばうようにレムが立ちはだかり、ライを射殺さんばかりの鋭い眼光で睨みつける。
対するライは、口端を耳まで引き裂くような悪辣な笑みを浮かべて見返した。
「アハ! ハハハハッ! なるほどね、なるほどさ、そうだったんだ、そういうことかぁ!」
「ナツキ・スバル! あの愛しい愛しい『英雄』から力を得ていたんだねぇ!」
「傑作だ! 傑作さ、傑作だよ、最高に愉快な笑い話じゃないか!」
「いいね・いいよ・いいさ・最高だ! あの男の残り香が、旨味が、こんなところまで滲み出してるなんてさあ!」
「だったらまとめて喰らい尽くすしかないよねぇ! 暴飲! 暴食ぅっ!」
「お前の弱点は、俺たちだ。いつまでそうやってヘラヘラ笑っていられるかな!」
余裕を崩さない大罪司教へ、スバルは必死に挑発を吐き捨てる。
「お前たちは、姉様から角を奪った……! のこのこと現れたこと、後悔させて叩き潰します!」
レムがスバルとの傲慢の鎖から、さらに一段深く力を引き絞る。
だが、それを見たライはニタニタと不気味に笑うと、右手を胸に添え、左手を優雅に振り下ろす芝居がかったポーズをとった。
「何か来るぞ――ッ!」
身構えるスバル。だが、ライの口から溢れ出たのは魔法の詠唱でも、攻撃の叫びでもなかった。
「――『今はただのひとりの愛しい人。いずれ英雄となる我が最愛の人、ナツキ・スバルの介添え人、レム。』」
気障な朗読劇のような、気味の悪い声。
「……だったかなぁ! だったよねぇ! アハ! ハハハハッ! 思い出しちゃった、味わい出させられちゃったよ!」
「いいね・いいよ・いいさ・愛おしいねぇ! 健気で、健気で、健気すぎて反吐が出る! 愚かで愛おしい名文句じゃないか!」
「そんな甘ったるい言葉を残してさぁ、当の本人は空っぽのお人形さん! 傑作だよ、悲しいねぇ、滑稽だねぇ!」
「その愛しい英雄の『介添え人』の想いも、記憶も、名前も! 全部僕達が、俺達が美味しく平らげちゃった後なのにさあ! 暴飲! 暴食ぅっ!」
ライは何の権能も発動させず、ただレムの口調を汚らしく真似て吐き捨てた。
その場の空気が凍りつく。
スバルもレムも、頭を殴られたような衝撃に思考が停止し、何を言われたのか即座には理解できなかった。
「……は?」
「狂人の戯言よ! 惑わされないで!!」
ラムの切り裂くような叫びで、スバルはようやく正気に引き戻される。
ライが見た予知夢でレムの記憶を喰らい、その言葉を真似して煽っているのだと、脳が強引に理由を作り出す。だが、その言葉の奥にある違和感に、胸のざわめきは収まらない。
「何を……ごちゃごちゃとぉっ!!」
「さぁ! 来なよ、おいでよ、かかってきなよ! 泥団子と泥団子! 泥まみれの泥人形同士!」
「持ちつ持たれつ、庇い合って、助け合ってさぁ! 醜く固まったただの生ゴミ同士じゃないか!」
「アハ! ハハハハッ! いいね・いいよ・いいさ・最悪じゃないか!」
「そんな腐りきったマズいゴミ、喰らう価値もない! 腹の足しにもなりやしない!」
「噛み砕く前に吐き捨てて! 踏みつけて! 汚物みたいに捨て散らかしてあげるよ! 暴飲! 暴食ぅっ!」
咆哮とともに、レムが地を蹴った。
ライは怪しく笑いながら、懐から一振りの黒い玉を取り出す。それが弾けた瞬間、漆黒の光を纏った長剣が出現する。
ライは凶悪な軌道で、レムの額――その角を断ち切らんと凶刃を振り回す。
だが、極限まで研ぎ澄まされたレムの感覚はその必殺の一閃を見切っていた。
最小限の動きで回避すると、流れるような動作で凶暴な拳と蹴りの連弾をライの肉体へ次々と叩き込んだ。
「魔女教徒!! お前を殺して、レムが姉様の代わりになるって証明してみせます!!」
「ヒヒ! ヒヒヒヒッ! 無理無理無理・無駄無駄・無理だってばさぁ!」
「君じゃダメだ、足りない、届かない! 主菜どころか副菜にすらなりやしない!」
「アハ! ハハハハッ! 箸休めかい? つまみ食いかい? 舌汚しの添え物かい!?」
「出汁も出ない、味もしない! 献立の端っこにすら置いてもらえないただの『お残し』なんだよ、君はさぁ!」
「お腹を満たす価値もない、一口で十分! 喰らい甲斐のない駄作はサッサと片付けちゃおうか! 暴飲! 暴食ぅっ!」
一見すれば、レムがライを完膚なきまでに圧倒していた。暴食の言葉は防戦一方の負け惜しみにしか聞こえない。
だが――ライの歪んだ瞳の奥には、虎視眈々と『その瞬間』を待つ蛇の陰湿さが潜んでいた。
敵だったら怖い人
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アヤマツ記憶持ちスバル
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カサネル記憶持ちロズワール
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本編記憶持ちペテルギウス