もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から初期地点に帰ってきたら(スバル主人公) 作:駄々我菓子
スバルは逃げろと言われてもこの戦いから目が離せない。
ベアトリスの大魔法がなければ、このロズワール邸は跡形もなく粉々になっているはずだった。
レイドの周囲の空気全てが彼を殺すために意思を持っているかのようだった。
片腕のラムはノーモーションで、ただ歩くだけで天災を起こしていた。
「ラム・・・」
ラムは鬼としての全ての枷を外し、スバルの傲慢の鎖すらも放棄した。
それは、もはや感情を利用する域を超越したことを意味していた。
理性がない、暴走状態に入ったのだ。
大気からマナを吸収するだけでなく、大気そのものを風魔法に変えてレイドを全方位から殺戮する。
「いちっ!にっ!さんっ!」
だが、スバルの目を本当に驚かせたのはレイドの方だった。
ここにきて遊び心を投げ打ち、真面目な剣士として洗練された絶技を振りかざす。
ラムの全方位の風魔法は、たった一つでも掠っただけでどんな強者でも世界から存在を消滅させられるほどの威力に見えた。
その風刃をレイドは上書きするように斬撃を振るう。世界の斬撃はレイドに優先されていた。
レイドの斬撃は風魔法を防ぐにとどまらず、そのままラムを襲う攻撃になっていた。
だが、ラムはその斬撃を全て驚異的な速度で躱していた。
スバルの目には、ラムの残像がなんども切断されるように見えていたが、実際に全ての攻撃をかわしきっている。
レイドの斬撃を回避し続けること、それがどれほどの偉業かは真の強者しか理解できないだろう。
考えるより速く動く、理性のない暴走状態だからこそ成せる体裁きなのは間違いなかった。
「ハンッ!当たらねえ敵に剣を振るうのは、初めてだ!」
レイドに小細工などない。千里眼で筒抜けの視界を前に、ただ当たらない斬撃を淡々と振り重ねているのだ。
それを回避し続けるラムも常軌を逸しているが、一方的に晒され続けていては、彼女に勝利の瞬間が訪れることは永遠にない。
戦況は圧倒的にレイドが優勢に見えた。
「ちょっと、曲げてみたぜッ!」
鈍い音が響き、高速の戦闘に動きがあった。
レイドの蹴りが確実にラムに当たっていた。
繰り返される斬撃にフェイントとして蹴りを混ぜてきたのだ。
「姉様っ!」
レムの悲痛な叫びが響き、ラムは壁に蹴り飛ばされる。
だが、苦痛な声は上げなかった。
肉体がバラバラになっていないこと自体が、鬼神たるラムの異常な強さを物語っていた。
「おっと!」
追撃しようとするレイドにラムは左腕で指向性を示して2つの風の刃を放つ。
レイドはしっかりと踏み込んでその風魔法を断ち切った。
対応するのにレイドでもタメがいるほどの攻撃を返す余力がまだラムにはあるようだった。
「・・・・・」
「オメエの威勢のいい声が聞きてえなぁ、オイ。喋れねえなら、骨の砕ける悲鳴でも上げて見せろや」
「アル・フーラ」
理性を失い、思考すらしていないラムが魔法の詠唱を行った。
レイドの周囲の大気の様子が一変する。
破壊できない空間での、超密度の竜巻がレイドを中心として発生した。
レイドを中心に発生するこの竜巻は、その内部全てがその身を絶つ斬撃になっている、不可避の必殺だ。
だが、その直後だった。
破壊できない床を思いきり踏みつけたレイドはその爆音とともに、この必殺の竜巻を爆散させてみせたのだ。
無傷ではないが、致命傷を受けていないレイドの口角を上げた笑みをスバルは横から見てしまった。
「つ、強すぎる・・」
この男はダメだ。スバルはそう思ってしまった。
スバルは傲慢の予知夢で、ラインハルトと戦うためにありとあらゆる挑戦を繰り返した。
その数は1000回を超えている。
そのラインハルトの強さを知っているスバルでも、このレイドの強さに底が見えていなかった。
だが、ラムの必殺の一撃は無駄ではなかった。
レイドの体全体がガラスがひび割れるような傷ができていた。
そこでスバルは初めて、レイドがただの人間ではないことに気づく。
このレイドは、偽物の肉体に上書きされた存在であり、その器が今壊れかかっているのだ。
ここにきて、レイドが残された時間が少ないと自分で言っていた意味がようやく分かった。
それでも、レイドは最後の戦いを心から楽しんでいるように笑みを崩さない。
本来のレイドの肉体であれば決してなかった勝機がまだラムには残されている。
「これで最後だぜ!」
レイドはそう笑って壁際のラムに踏み込んだ。
この刹那が、人間と鬼神の最後の攻防になる。
レイドが真っすぐに剣を振りぬく。その軌跡に触れた瞬間に消滅が確定する斬撃だ。
「・・・・ッ!」
その斬撃を、剣を、鬼神は蹴りで切断した。
力に真っ向から対抗したわけではない、大気を利用した極めて巧みな神業だ。
剣が半分の長さになった瞬間、ラムの姿が消えた。
鋭い突きが人体を貫く音が生じた。
スバルもレムも、ラムがレイドの懐に飛び込み、残された左腕で彼の胸を貫いたのをはっきりと見た。
「はンッ!惜しかったな」
ラムが最後に狙ったのはレイドの心臓だった。
だが、レイドから絶望的な言葉が宣告される。
肉を切らせて骨を断つとはまさにこのことだ。
レイドは、ラムが懐に飛び込んでくる瞬間を誘ったのかもしれない。
致命傷となる部分は正確に避けられ、ラムは残された左腕をレイドの筋肉に拘束されてしまった。
「そんなっ・・・・」
スバルの呟きも虚しく、ラムに残された片腕が切断され、宙を舞った。
最後の一突きに全てを賭けた鬼神は、惜しくも届かなかった。
「姉様っ!!」
レムの絶望的な叫びが地下に響いた。
決して姉の敗北を信じなかったレムの叫びは、確実な絶望を表していた。
「・・あっ!」
スバルも気づいてしまう。
両腕を失ったラムが、レイドに背を向けたまま跪いた。
その姿は、完全に負けを認めたようだった。
理性を失ったその瞳に、後悔や憎悪は一切ないように見えた。
ラムの背後にいるレイドは次の瞬間にはこの世から消滅する。
勝利に満足するように口角を上げたレイドの肉体のひび割れが、決定的になりかけていた。
それでも、ただ一瞬その剣を振りぬくだけでラムの首が飛ぶだろう。
「はンっ! 酒飲み勝負したあの鬼よりは、よっぽど楽しめたぜ、」
理性を失い暴走していた鬼神はレイドの言葉に、声を返すことなく目をつぶった。
これは、レイドが本来の肉体ではなかったからこそ起こる相打ちになる。
その戦いは美しく、ラムは見事に、良く戦った。
レイドという戦ってはいけない相手から、スバルとレムを守り抜いた。
「姉様・・・・っ・・・」
レムがラムの死を察したように崩れ落ちた。
スバルは、右拳を血がにじむほど握りしめる。
「たとえ、傲慢だと言われても・・・」
スバルは、この結末を受け入れない。
この勝負を傲慢になかったことにする。
ラムの命を諦めるつもりは全くなかった。
だが、ここでまたこの場の空気が一変した。
「なンて、気持ちワリィ面しやがるんだ?オメェよぉ」
レイドが傲慢な決心をしたスバルを見て、冷酷にそう言い放った。
スバルは思わず身構える。
今すぐにでもひび割れて、崩れ落ちるはずの人物を心の底から恐怖してしまう。
カラン・・と、レイドが剣を地面に落とした。
スバルの目が見開く。
それは、この最後の瞬間にレイドがラムにトドメを刺さなかったことを意味していた。
「オメェ、ここから稚魚らしく生き延びてみろよ」
レイドは最後にスバルにそう言い残した。
その笑みは、まるで道端でカツアゲするヤンキーのような意地悪さだった。
「・・な・・」
レイドがどんな意地の悪い思いを込めて最後に笑ったのか、スバルには到底理解できなかった。
なぜずっと見下し、稚魚と嘲笑い続けてきたはずのスバルのために、この男が最後にそんな表情を見せたのか。
レイドのひび割れが拡大し、その存在が消滅した。
そして、ひび割れたレイドの中から姿を現したのは、悪食のロイ・アルファルドだった。
そのまま地面に倒れこみ、不器用に体を震わせている。
「・・ああ・・・あ・・あ」
この大罪司教はすでに虫の息だった。
スバルは、レイドという歴史上の人物はロイ・アルファルドの日食によって顕現していたことを理解した。
そして、その意識はロイの食い物にはされず、逆にロイの肉体を器として食い物にしていたということだ。
「姉様・・・っ!」
レムが希望を取り戻したような声を発した。
そして、両目を閉じていた鬼が目を覚ました。
「ラム・・!」
ラムは依然として角を生やしたまま立ち上がる。
だが、切断された両腕の再生は始まっていない。
それでも、地面に横たわって虫の息のロイ・アルファルドをはっきりと見下ろした。
嫌な音が廊下に響き渡り、ロイ・アルファルドの頭部がラムによって踏みつぶされ、その命を終わらせた。
だが、その光景を見たスバルは喜ぶことができなかった。
なぜなら、ラムがまだ依然として鬼の暴走状態にあると分かったからだ。
ここにきてようやく、レイドの嫌がらせを理解してしまった。
ラムが言っていた、「ラムが守れるのはレムだけよ。」という言葉がここにきてはっきりと理解できる。
「あ・・・」
ロイを踏み潰した後、顔を上げたラムとスバルははっきりと目が合った。
嫌な予感がスバルの全身を襲う。
「うっ・・!!」
スバルに向かって2歩ほど歩き出したラムが突然立ち止まり、目をつぶって苦しみだした。
頭を振っているが、その苦しみからは解放されていないように見える。
「姉様っ・・・!!」
レムがラムに駆け寄り、その傷だらけの体を抱きしめ治癒魔法をかけ始めた。
ラムはレムに抱きしめられながらも、小刻みに震えながら過呼吸を繰り返している。
「おい・・大丈夫か・・?」
「スバル君・・・姉様はこのままだと、衰弱死してしまいます・・!マナ不足なんです!」
レムのその声を聴いて、スバルはラムの暴走状態など頭から吹き飛ばした。
「ラム!俺の力を使え!すぐに治る!」
だが、スバルがラムへ1歩駆け寄った次の瞬間だった。スバルの視界が一瞬だけ真っ白になった。
「ごはっ・・!!!」
突然、呼吸が中断させられたような感覚に襲われ、スバルは何かにむせあがる。
目を開くと、視界が真っ赤になっていた。
不自由な視界に、突き飛ばされたレムが倒れこみながらこっちを見ていることが分かった。
そして、スバルはなぜか地面に尻餅をついており、そのすぐそばに、口を真っ赤な血で汚したラムがいる。
「がぁ・・・おああ・・・!!」
スバルはようやく、自分が喉笛を食いちぎられたことに気づいてしまった。
激痛にのたうち回る。
何が起こったのか、考えることもできないが、すぐに死ねないことだけが分かった。
「スバル君!!!スバル君!!」
誰かの泣き声が何度も自分の名を叫んでいる。
痛いのに、苦しいのに、どうして死ねないのか。
喰いちぎられた自らの喉から溢れ出す血がそのまま逆流し、スバルは大量の赤を呑み込んでいた。
血を喉奥へと流し込むたびに脳が異常な覚醒を遂げ、全身へと恐ろしいまでの力が漲っていく。
それこそが、『暴食』の権能──餌食となることで過剰な力を得る、歪んだドーピング効果だった。
「ああ・・・あああぁ・・・!!」
全身に恐ろしい力が入っても、脳が覚醒していても、人間が助からない傷を負っている。
それでも、ドーピングのせいで直ぐに死ねないのだ。
息ができない、自分の血に溺れ、さらにその薬物とも何ら変わらないものを飲み続けて死ねないのは、ただの拷問よりも恐ろしい。
手で自らの首を引きちぎってやりたいのに、力が入りすぎて不自由に動かせない。
力がどこまでも入って、硬直してしまう。まるで、体が岩石になってしまったかのようだった。
それでも、脳が覚醒し、痛みだけははっきりとスバルを支配して逃がさない。
誰でもいい。今すぐ殺してくれ。
「いやあああああ!!!!」
スバルが地面にうずくまるすぐ横で、ラムの叫び声が聞こえた。
その残酷な叫び声は、正気が戻っているのか、まだ暴走状態にあるのか判別できない。
スバルの脳はどこまでも冴えわたっていく。何も考えたくない。何も感じたくない。
今すぐこの激痛から逃れたいのに、その思考がどんどん深く沈んで行ってしまった。
まず、ラムは鬼の暴走状態になりレイドと戦った。
その結果、致命傷と圧倒的なマナ不足に陥っていたのだ。
理性を失っても、自然に角が大気からマナを吸収してくれるはずだが、それに支障をきたしていたのだろう。
ラムが傷つきすぎたせいなのか、大気にあったマナを使いすぎてしまい枯渇していたからなのか、それら両方が原因かもしれない。
理性を失う暴走状態のラムには感情がなかった。
だから、スバルの傲慢の鎖を使うことができなかったのだ。
使わない暴走状態の方が恐ろしい強さを発揮していた。
そして、その鬼はマナ不足の衰弱死を防ぐために、餌食としての暴食の呪いを背負ってしまったスバルを食いつぶすことにしたのだ。
あの刹那、ラムがレムを突き飛ばし、スバルに飛び込んで喉笛を嚙み切ってしまった以上、もう取り返しがつかない。
「あああ・・あが・あああああ!!!」
スバルはまだ死んでいないのに、死後硬直のように体が重く冷たく固まっていくのを感じた。
この痛みは、この地下の惨劇で全てをラムに任せきりにした自分への罰のように感じてしまう。
「こうなるって・・・・分かっていたのに・・・」
レムかラムか、どちらかの声が聞こえた直後、スバルの真っ赤な視界に自分を食い殺す鬼の顔が入った。
これが悪夢なら、起きた後に叫び出していただろう。
そして次の瞬間、スバルを襲っていた首の激痛は、その首がストンと切断されることで解放された。
☆☆☆☆
スバルが死んでから、再挑戦までの間、夢の世界に行くことになる。
夢に入ってからすぐに、この声が聞こえた。
「兄弟お前、ここまで何してたんだよ。どーすんだよ!人生潰す気か!?」
その憎たらしい声の裏側には明確な焦りが込められていた。
この夢に現れる人物はスバルの次のリスタート地点を知っている。
その事実を思い出した途端、夢の中でスバルは震え上がった。
タイトルが物騒すぎる
敵だったら怖い人
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アヤマツ記憶持ちスバル
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カサネル記憶持ちロズワール
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本編記憶持ちペテルギウス