もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から初期地点に帰ってきたら(スバル主人公) 作:駄々我菓子
憤怒のエミリアの願いすら拒絶し、スバルは現実へと戻ってきた。
「あがっ!あああ!」
「スバル君!スバル君!」
痛みを練習して、痛みに強くなれ。
痛みによる感情と行動を切り離し、痛みを感じながらも体を動かせ。
スバルは詰みセーブの中でも決して諦めていなかった。
なんとか、震えながらも右手を動かせるようになっていた。
食いちぎられた喉からは絶望的に内と外に血が漏れ出てしまっている。
優しいラムはその苦しみからスバルを解放するためにこれまで風の刃で介錯をしてくれていたのだ。
だが、生き延びることが目的のスバルにとってそれは避けなければならない。
「いやあああああああ!」
鬼化の暴走状態から正気に戻ってしまったラムがそう叫んだ。
スバルは必死に震える右手をラムに向かって出した。
手のひらを向けたのだ。
これはスバルのラムに対する、介錯はするなというメッセージだ。
スバルと目があったラムが涙を流して固まる。
「うっ!!」
ラムは再生した手で口を押さえて、嘔吐感に苦しんだ。
そして、壁際に駆け寄ると壁に頭を何度も強く打ちつけた。
痛ましい音が地下に響くのに、鬼の角はビクともしていない。
「ああ!っああ!」
普段の冷静なラムとは思えない行動に、スバルの意識も飛びかける。
「姉様っ!」
レムが壁に頭をぶつけ続けるラムを後ろから抱きしめた。
そこでスバルはもう目を開けていられなくなり、閉じたまま苦痛に溺れ始める。
「姉様……レムはどうするべきですか?」
「バ、バルスが諦めていないから、最後まで…やってあげて……」
スバルにはもうその会話しか聞こえていない。
残された時間は少ない。
「スバル君!意識をしっかり保ってください!」
仰向けに横たわる瀕死のスバルに、レムは痛ましい首に手を添えてようやく治癒魔法をかけ始めた。
傷がもとに戻っていくのだろうがその激痛には焼け石に水のようで全く楽にはならない。
その間もガンッ!ガンッ!と、ラムが頭を壁に叩きつける音が響いていた。
「なんっで…こんなことに!ラムは、ただやり直したかっただけなのに!」
聞いていられない普通の叫びに、スバルは閉じたままの目から涙を流した。
必ず平和な日常を取り戻すと心に誓った。
「レムが!スバル君を治してなかったことにしてみせます!」
レムの声にも嗚咽が混じっている。
たとえ、スバルの傷が治り命が助かったとしても、心に負ってしまう傷は大きい。
それはもう取り返しがつかないだろう。
それでも、諦められない。
「あ?、ごほっ!ああああ!」
当然、治癒中のスバルは血を吐き出して咳込んだ後ひどく痙攣し始めた。
あれだけ力が入り動かせなかった体が勝手に激しく震え出したのだ。
「動かないで!」
レムの声は聞こえたが、それはそうとして体の痙攣は止まってくれない。
「あああ!!あ……あ……」
「待って!ダメです!」
そこで、スバルは力尽きて死んだ。
レムの治癒魔法は間に合わなかったのだ。
☆☆☆☆☆
スバルは死亡し、次の再挑戦までの間に夢の世界で目を覚ました。
その夢は真夜中の砂漠だった。
冷たい砂の上に石でできた椅子がありスバルは座らされている。
今回の夢でもスバルを現実に縛り付ける鎖はなかった。
「確実に進んでる!折れるなよ俺!レムが治癒魔法をかけてくれたんだ!」
スバルは自分に言い聞かせた。
だが、スバルの眼の前にケラケラと不快な笑い方をするこの夢の主が現れた。
「魔女教大罪司教、元暴食担当!ライバテンカイトス!」
「チッ!お前も俺の魂に踏み込んで来たんだったな…」
長い髪をした小柄の男は、スバルの魂に無断で踏み込み、ラムにサイコロステーキにされた悪党だ。
「全然だよ!全くだよ!最悪だよ!あの出涸らしのレムはさぁ!いちいち姉様に聞いたりしないですぐにおにーさんに治癒魔法をかければよかったのにさぁ!本当に時間を無駄にしたのさ!」
「うるせえ!レムが俺に治癒魔法かけてくれたんだ!お前が口出しすることじゃねえ!」
「でも、間に合わなかったのさ!あのレムって出来損ないは姉様に聞かないとあの時何したらいいか分からない無能だったのさ!それを一番俺達がよく分かってるってレムの英雄も納得できるでしょう?」
スバルは黙り込んだ。
このライバテンカイトスは別の世界線でエミリアとレムの記憶を食っている。
スバルよりもレムについて詳しいのは当然だが、こいつの言葉だけは認めたくなかった。
「おい、クソ野郎。お前は何の予知夢なんだっけ?」
「あれえ?言い返せなくなって話題転換?まあ、別にいいのさ!俺たちは嫉妬のライバテンカイトスだよ!」
嫉妬ということは、エルザと同じ世界線の予知夢をこいつは見たのだ。
今すぐに使えそうな情報にはならない。
この大罪司教はただ、スバルに対して不快な言葉を発するだけだ。
「笑いたければ笑えよ…」
今はこの大罪司教と口喧嘩をする気力も沸かないほどスバルは疲弊していた。
下手に刺激して、エルザのように拷問してきても厄介だ。
このまま好きなように喋らせてこの夢の世界を凌げるならそれでいい。
スバルは死んだ魚のような目で俯いてしまった。
「ハハハ!俺達には何も助言を求めないのかい!気分転換にマリオカートでもしようじゃあないか!」
「は?」
ライが意味不明なことを言い出したのでスバルは顔を上げる。
この夜の砂漠の世界なのに、ライは砂の中から確かにゲーム機を掬い上げた。
砂まみれになっているが、使えるのだろうか?
「ここは夢の世界なのさ!何ができても不思議じゃない!どうさ!おにーさん!夢の世界のほうが最高じゃないか!」
電源などないのにモニターには光がともり、ライは無造作にそれを砂の上に置いた。
そして、スバルにコントローラーを投げつけてくる。
「やらねーよ!」
スバルはそれを椅子に座ったまま蹴り飛ばした。
「おい!それ作って生活してるオトナもいるんだぞ!最近の若者は道具を大切にしないのさ!もちろん、食べ物も大切にしないのさ!」
「お前が言うな!お前がやってるのは俺の現実世界の記憶を弄んでいるだけだ!」
スバルはライに強く言い返すと息切れしてしまった。
そんなスバルの様子を、ライは意地悪そうに嘲笑っている。
この大罪司教はただスバルに中身のないことを言いつけて反応を楽しんでいるだけなのだ。生産性の欠片もない。
「ところでさ!そろそろ乗り越えてみなよ英雄」
ライは急に落ち着いた口調でそう言った。
「俺だって乗り越えたいよ。思ってもないことを言うんじゃねえ」
「酷いなぁ。僕達は君のために言ってあげてるんだどさぁ。英雄ごっこを続けて死に続けるのは結構だけどさ。そろそろ、姉様の夢にエンカウントしちゃうんじゃない?」
相変わらず、スバルの現代世界のワードを弄ぶライだが、今の発言にスバルは固まってしまった。
「ラムの夢……」
今ラムの魂は死に続けるスバルを見ている。
そんな憤怒のラムの魂に夢で会ったらどんなことになるだろうか。
「会わせる顔がねえ……」
「ハハハ!俺達は姉様に会いに行ったら八つ裂きにされちゃうから行けないのさ!でも、電話してみる?」
「は?お前何言って……」
ライは砂漠の砂から今度は携帯電話を取り出した。
そして、ポチポチとガラケーのボタンを押し誰かに電話をかけている。
「オイ!誰に電話してんだよ!」
この夢の世界、本当になんでもありすぎる。
「もしもし姉様!さっきは同じ魂同士仲良くしようと思ったのにさ、夢の世界でも八つ裂きなんてひどいじゃないか!だから電話してみたよ!」
スバルの目の前で、ライはガラケーを器用に使って誰かと電話している。本当にラムの魂に繋がっているのだろうか?
だが、ライは急にガラケーを耳から遠ざけた。
「もう、うるさいなぁ!カルシウムが足りてないんじゃない?ちゃんと暴飲暴食しないからヒステリックになるのさ!」
スバルの目にはとても電話をするライのこれが一人芝居だとは思えなかった。
「この野郎!早く電話を切りやがれ!お前本当に趣味が悪すぎるぞ!」
スバルがそう言うと、ライは意地の悪いニヤケ顔でスバルを見返した。
「ちょっと!待て待て待て……」
ライはスバルの方に歩み寄ると、ガラケーを強制的にスバルの右耳に押し付けてきた。
スバルは急に電話相手と会話させられることになってしまったのだ。
『アアアアアアアアアア!』
電話の先から聞こえたのは、泣き声かそれともただの叫び声かもわからないような胸を引き裂く声だった。
でも、その叫びが間違いなくラムの声だとスバルは確信してしまう。
気づけば、ライからガラケーを受け取りスバルは自分でそれを耳に押し付けていた。
すぐに電話を切って逃げることもできるのに、それができないくらいスバルは唖然としてしまった。
「あっ………ううう…」
スバルはラムの叫びを聞き、嗚咽をこぼしながら涙を流した。
『アアアアアアアアアア!』
「ラム……俺だよ。」
『アアアアアアアアアア!』
スバルの声は届かない。
これがラムの魂の叫びだとしたら、なんでおぞましいのだろう。
「ごめん!ごめん!俺のせいだ!全部俺のせいなんだよ!」
『アァァ………アっ?………』
スバルが大声でそう言うと、ようやくスバルの声がラムに届いたのか、悲痛な叫びが中断された。
「俺は諦めてない!ちゃんと乗り越えるから!だから__」
『バルス……バルスバルスバルス!そこにいるのね!』
突然、形のある言葉を発したラムにスバルは届いた。
何よりも、その言葉の内容に違和感を感じてしまう。
「どうしたんだよ?怖いよ…落ち着いてくれ。その内ラムの夢にも行くかもしれないんだから……」
『バルスっ!そこにいなさい!』
「何してんだよっ!何するつもりなんだ!」
電話の先のラムは、過呼吸になりながら走り出したのがスバルにもわかった。電話越しに走る激しい足音が聞こえたからだ。
「やめろ!ラム!俺はもうすぐ現実に戻るぞ!どこに向かって走ってるんだ!」
「ハハハハ!面白くなってきたのさ!でも、俺達はまた八つ裂きにされたくないからここで失礼するよ!後はよろしくやってね!」
「なっ!オイ!暴食っ!どこに行くんだよ!」
ライはスバルに最後にそう言うと、逃げるように走り去っていった。
その様子を見て、スバルはラムが走っている目的地がこの夢の世界の砂漠であると確信してしまう。
「ラム!これはライバテンカイトスの夢だろ!まさか、向かってるのか!」
ラムの状態は異常だ。あのおぞましい叫び声が今の彼女の状態だ。
スバルはとても今の憤怒のラムの魂と会う準備ができていなかった。
「無視すんなよ!切るぞ!一旦落ち着いてから話そうぜ………」
何を言っているのか、何に焦っているのか自分ではわからない。
それでも、スバルは決して夢の世界で憤怒のラムの魂に会ってはいけないという嫌な予感を感じていた。
『切らないで!場所が分からなくなる!全ての魂の夢は繋がっているのよ!今、そっちに行くから待っていなさい!』
「はぁ……そうなんだ。でも、なんか嫌な予感がするから、また落ち着いたら話そう。俺は一旦切るから……」
『やめなさい!今どうしても貴方に………見つけたっ!』
「うっ!」
スバルはラムのその声が聞こえた瞬間にガラケーをパタンと閉じた。
そして、それを夜の砂漠に放り投げる。
「ハァ…ハァ…チクショウ」
スバルは辺りを見回すが、夜の砂漠は視界が悪く光がないとよく見えなかった。
それでも、誰かがスバルのところに走ってくる気配は感じられない。
「バルスっ!!!どこにいるの!!」
「っ!!!!」
スバルは、遠くからのラムの大声が聞こえて目を見開いた。
ラムは本当にこの砂漠にたどり着いていたのだ。
そして、理解する。
今までスバルが見てきた夢の世界は、全ての魂たちが繋がっていたのだ。
ライもラムに会いに行って八つ裂きにされたと言っていた。
「聞こえるのなら!返事をしなさい!」
「………………」
スバルは返事をすることができなかった。
今の憤怒のラムの魂は冷静じゃない。様子が明らかにおかしい。
何より、現実で死に戻り続けるスバルを見ているのだ。
会う準備がとてもできていない。
「クソっ………早く覚めてくれ」
夢が覚めれば、スバルに降りかかるのは首に穴が開いた激痛の海に溺れるという地獄だ。
それでも、スバルは夢の世界でラムの魂に会ってはいけないという嫌な予感を感じているのだ。
「ここらへんにいるんでしょ!!なんで返事をしないの!!」
もう遅い。すでにだんまりを決め込んだ後だ。
今更見つかったら余計に会わせる顔がない。
スバルは息を殺して、やり過ごすことに決めていた。
もしも、今が夜の砂漠ではなく昼の砂漠だったらと考えると恐ろしい。
「絶対に!殺してやるうう!!!」
ラムのその叫びにスバルは目を見開いた。
口の中から変な呼吸が漏れ出たのがわかる。
「な……なんで…」
殺すとはどういう意味だ?
スバルは震える呼吸を押し殺しながら、まだ身を潜め続ける。
「隠れているんでしょう?なんて男なの………!今なら怒らないから出てきなさい!」
「…………………」
ラムの声が近づいてきているのがわかる。
スバルは夢がなかなか覚めないことに焦り出していた。
今更見つかったらとんでもないことになる。
夢から覚めたいと強く思っているから覚めないのだろうか。
「もう許さない!なんで言うことを聞かないんだ!今すぐに殺さないと!」
殺すだと?なんでそんなひどいことを言うんだ。
スバルは焦りを超えて苛立ちを覚え始めていた。
自分は必死に詰みセーブを乗り越えるために頑張っているのに、なんで殺されなければならないんだ。
「黙れよっ!」
スバルはとっさにそう叫んでしまった。
すぐに、この愚かな自分の口を手で押さえるが手遅れだ。
少しの沈黙があり、明らかに夜の砂漠の空気が変わっていた。
これは紛れもない悪夢だ。
「いいえ!黙らない!バルス、ラムのことなんてもうどうでもいいんでしょう!?」
「ふざけるなぁっ!お前は何なんだよ!」
また、ラムの言葉にスバルは我慢できなくなりそう叫んでしまった。
今度は確実にラムに見つかるだろうが、それでもいいと思っていた。言いたいこと全部ぶつけてやる。
「あっ!」
石でできた椅子に座るスバルの目の前にメイド服を砂だらけにしたラムが現れた。
夜の闇でもその乱れた姿がはっきりと見えた。
「どうしたよ!俺はここにいるぞ!言いたいことがあるなら言ってみろ!」
威嚇するように、スバルが先手を打った。
だが、次の瞬間状況が変わる。
メキッと世界が割れて、夢の世界の崩壊がようやく始まったのだ。
それがラムにもわかったのか、ラムは絶望に顔を青ざめて砂の上にへたり込んだ。
「もう、やめて。お願いだから……」
崩壊していく夢の世界で、ラムは間に合わなかった。
だが、その言葉でスバルはラムが自分にもう諦めろと言っていると理解してしまった。
憤怒のラムの魂ももうスバルに期待していないのだ。
「ごめん…。諦められない。俺のせいだし、俺が自分のためにやってる事なんだ……。」
「早く、死にたくなりなさい……」
ひどい言葉だと思う。
それでも、その言葉には悪意はなく善意しかないと分かっているから、スバルは傲慢にやめられないのだ。
「その内、ラムの夢に行くと思う………。頼むから邪魔しないでくれ」
スバルは残酷にもそう言った。
憤怒のエミリア、憤怒のラムは諦めろとスバルに言うが、スバルは諦められない。
「もし、バルスがラムの夢に現れたら………絶対に殺してやる!」
ラムは立ち上がって、スバルを恐ろしい目で睨みつけた。
ナツキ・スバルという魂を全身全霊をかけて終わらせるつもりだとはっきりと伝わった。
その薄紅色の瞳には一度、死に戻りからスバルを解放して殺したことがあるのではないかと想像してしまうほどの圧力があった。
「絶対、助けてやる!」
スバルはそう言い返して夢の世界から消失した。
敵だったら怖い人
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アヤマツ記憶持ちスバル
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カサネル記憶持ちロズワール
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本編記憶持ちペテルギウス