リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル)   作:駄々我菓子

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もうやめた!

 ラムの魂も振り切って、スバルは現実に戻ってきた。

 繰り返したスバルにできる限界は、手のひらをラムに向けることだった。

 

「スバル君!スバル君!」

 

 レムの叫び声に、スバルは一刻も早く治癒魔法を頼むと内心で念じた。

 レムの治癒魔法以外に、スバルの致命傷を治す術はない。

 

「あ!あああがっ!あああ!」

 

 自分の血に溺れ、スバルは必死に呼吸する。

 大量の血を飲み込んでドーピング効果すら利用する。

 生命力を高め、1秒でも長く生き延びるのだ。

 

「いやあああああああ!」

 

 ラムが正気に戻ってしまい、悲痛な叫び声を上げた。

 そして、ガンガンと壁に頭を打ち付け始める。

 スバルはもう目を閉じて、死なないように耐えるフェーズに入った。

 後はレムの治癒魔法を信じて何とか峠を越えるしかないのだ。

 

「スバル君!意識を強く保ってください!」

 

 なんとか、レムの治癒魔法が始まった。

 心なしか、前回のループよりもスバルは余力が余っている気がした。気持ち程度だが。

 今も溺れそうになる自分の血を飲み込んで餌食の効果を貪る。

 これこそが、生き延びるための暴飲暴食だ。

 

「ラムは、ただやり直したかっただけなのに………」

 

 そうだ。みんな苦しい予知夢を見てきた。

 誰もがその最悪な未来にならないように、やり直すために懸命に生きている。

 その障害がどれだけ残酷でも、心に傷を刻んでも、生き延びればこっちの勝ちだ。

 

「スバル君!動かないでください!」

 

 それでも、スバルの肉体の痙攣が始まってしまった。

 レムが涙ながらに、そう訴える。

 

「あああ!あぐっ!!ぐぐぐ!」

 

 耐えろ。まだ死ぬな。

 スバルを見限った傲慢のスバルの言葉にもスバルも同意するところがあった。

 死んではいけない。ナツキ・スバルは決して死んではいけないのだ。

 

「姉様っ!どうかレムに力をください!傷をふさいでいるのに、血が溢れ出てしまいます!」

 

 レムが必死にラムに泣け叫ぶ。

 この治癒魔法がスバルの肉体の致命傷を少しでもプラスへと治癒してくれていると信じてはいたが、ここにきてその前提が崩れる可能性を察してしまった。

 

「あっ!!………あああ!!」

 

 血に溺れながら、スバルも苦痛に涙を流す。

 死にたくない。こんな地獄はもうたくさんだ。

 今回で、これを最後に乗り越えるんだ。

 

「ラムは………どうするべきか……」

 

 レムに助けを求められて、ラムの頭を壁に打ち付ける行為が中断された。

 ラムはそう呟くと、スバルに向かって駆け寄ってくる。

 

「ぐっ……………ううっ…」

 

 スバルは何とかまた目を開けると、真っ赤な視界に逆さまのラムの顔が見えた。

 

「レムっ!やるしかないわよ!」

 

 ラムの覚悟を決めた叫びがスバルとレムに響いた。

 

「ああっ!」

 

 体を固定された激痛にスバルは悶えた。

 ラムはスバルに覆いかぶさり、肩をつかんでスバルが暴れるのを押さえつけたのだ。

 

「ありがとうございますっ……姉様!レムがやり遂げてみせます!」

 

 ありがとうラム。

 スバルは内心でそう念じた。

 死ぬほど痛いが、スバルが暴れないように押さえつけることで、レムの治癒をやりやすくしてくれているのだ。

 これが、ラムの覚悟を決めた行動だったとしたら、今回で乗り越えられるかもしれない。

 峠を越えるんだ。

 

「ぐぐぐくぬぬ…………」

 

 後は、死なないように耐えるのみ。

 

「スバル君っ!少しだけ、流れる血の勢いを弱められましたよ!一歩前進です!」

 

 スバルは返事をできないが、レムの言葉に胸がどうしようもなく熱くなった。

 確実にスバルの未来が進んだことが確定したからだ。

 だが、噴水のようなスバルの致命傷の勢いが弱まっただけだ。依然として、気を抜いた瞬間にスバルは気絶して死に至るだろう。

 

「バルス……ここまで生気が灯っている貴方の目をラムは見たことがないわ……」

 

 スバルの目はバキバキにガンギマリになり、必死に生に執着していた。

 生き延びれたらその後どうなってもいい。

 餌食の血という薬物を必死に飲み続けたのだ。

 ラムの言葉から耳が離せない。

 その声を聞き逃さない為に生き延びられている。

 

「これはあの時とは違う。ラムはもう決してバルスを殺さない………」

 

「えっ……?」

 

 ラムの発言に、スバルの代わりにレムが驚きの反応を返した。

 それは、まるでラムが予知夢でスバルを殺したことがあるかのような発言だった。

 だが、スバルの瞳の揺らぎに同じ反応を見つけたようでラムは少し微笑んだ。

 

「全て、未来に起こるかもしれなかった可能性よ。少し休んだら、笑い話として話してあげるわ。」

 

 そうだ。全ての予知夢は今後の未来に起こるかもしれなかった可能性に過ぎない。

 そんなもの笑い話にしてやればいい。

 その考え方、本当に鬼がかってるぜ。

 スバルは瞳だけでラムに頷いてみせた。

 

「ごめんなさい…………レムの治癒魔法だと時間がかかりすぎてしまいます……。こんなの拷問ですよ!」

 

 気にするな。やってくれレム。

 スバルは震える手を動かせるようになっていた。

 首に添えられた治癒魔法をかけてくれているレムの手に、軽く手を乗せてスバルは続行のメッセージを送る。

 

「バルス………しっかりしなさい!死んだらラムの笑い話も聞けないわ___」

 

「姉様?」

 

 突然、スバルの意識を引き留めようと声をかけてくれていたラムがピタリと静止した。

 レムがそんなラムに声をかけるが、様子がおかしい。

 

「おおっ……おれ……俺は……しん……死んじゃいない……」

 

 レムの治癒魔法のおかげでスバルは少し話せるくらいまで回復していた。

 だが、スバルにはここにきてラムが静止した理由を理解できてしまった。

 スバルはもう力尽きて死ぬ。傷が治癒しても、流れ出た血が復活することはない。

 もう絶望的に血が足りないのだ。

 

「スバル君っ!喋らないで!」

 

 レムがここまでしてくれて、ラムが覚悟を決めて痙攣で暴れるスバルを押さえつけてくれたのに、それでも届かなかった。

 この傷は、スバルにとっての終わりだったのだ。

 傲慢のスバルが見限り、憤怒のエミリアとラムは全力でスバルを諦めさせようとした。

 その意味が残酷にスバルの胸に突き刺さっていた。

 

「俺は………死なない………ゼロから……ここから……」

 

「だから!喋らないでって!言ってるでしょ!」

 

 レムの怒声が響いた。

 もうヤケクソになっているとわかるほどの必死さだ。

 それは、スバルの今際の際の言葉だとバレたからだろう。

 

「ここまでね。」

 

 その時、冷酷なラムの言葉がスバルとレムの耳に届いた。

 

「うっ………まって………」

 

 スバルの目が、ラムの手によって閉じられた。

 

「姉様、そんな言い方は……」

 

「レム。これはバルスにとって正しい死よ。」

 

 ラムのその言葉に、またスバルは目を開けようとしたが、ラムの手で押さえられていて目を開けられなかった。

 

「こ…………この………」

 

 言葉を発そうとしたが、口の中の水分が不足し、血液が不足し、言葉を発するのに必要な力を入れることができなくなっていた。

 何より、あれだけの激痛の感覚をスバルは失っていた。

 死ぬんだ。もう後1分も生きられない。

 口の中に必要だった水分が、代わりに閉じられた目から流れていった。

 

「正しい死なんて!スバル君にしか決められませんよっ!…………姉様、目が!」

 

 ふざけるな。ラムの奴。なんてこと言ったんだ。

 レムの言うとおりだ。スバルにとっての正しい死なんて俺にしか決められない。

 その発言はあまりにも傲慢だ。

 スバルはそう内心で叫んでいた。

 

 そして、レムが気づいたラムの目には何が起こったのか?

 スバルには見て確認することができない。

 

「どうやら、ラムは傲慢の極みに達したようね」

 

 スバルは目を開けられないが、心で感じていた。

 傲慢の権能をいつの間にか繋げたラムとの力が、今までにないほど強まっていたのだ。

 そして、それは今までのステージを超えて新たな境地に達している。

 今のラムのスバルに対する傲慢の強さはエミリアの比ではない。

 

 スバルは声を発せないかわりに、頭を小刻みに振った。

 ラムのやつ、変な気は起こすなよ。

 まだ、レムの治癒魔法のおかげで助かる可能性が0.00001%くらいはあるはずだから。

 とにかく、そんな気味の悪い落ち着き方をするのはやめてくれ。

 

「姉様、その目の輝きには何が見えていますか?」

 

 レム、ラムの目が何色に輝いていようがどうでもいいから、治癒魔法に集中してくれ。

 スバルは死の間際にそう思考した。

 もちろんレムには伝わらない。

 

「今、全てが見えたわ。バルスがここで終わり、世界がこのまま進むのか、それとも世界も終わるのか………」

 

「どういうことですっ?姉様っ!スバル君に勇気をあげてくださいっ!」

 

 何を訳のわからないことを言ってるんだ。

 ラムはこのレムの治癒魔法でもスバルが助からないと判断したことで、何かの重い傲慢が完成したのかもしれない。

 それは、ラムにとって自分の手でスバルが死ぬ事が確定した事になるからだ。

 それで、何が見えているんだ?

 その事実を、スバルは知らなければならない。

 

「バルス…。ラムは貴方を殺したわ。これが何回目かも分からない。」

 

「お姉ちゃん!何言ってるんです!」

 

 レムがラムに憤慨してそう怒鳴った。

 スバルには怒りの感情よりも驚きのほうが勝っている。

 もうすぐ死ぬのに、その驚きから逃げられない。

 まさか、ここにきて死に戻りがバレてる?

 そんなはずはないはずだが、もしそうだとして、どうやって気づいた?

 ラムの傲慢が完成した事が関係しているのか?

 

「もしこの先に世界があるなら、バルスはラムにレムの命と、レムを守る角を残した………。本当にありがとう。」

 

「そんな……………」

 

 ラムのその言葉に、レムは言い返さなかった。

 それどころではない、項垂れて、治癒魔法をやめたのだ。

 

「死にたく……ない………たす………けて」

 

 もう言葉を発せなかったはずのスバルの、今生の最後の力で発した言葉がそれだった。

 ラムはスバルの生を諦め、レムもとうとうそれを認めてしまった。

 スバルの頭の中には救われた気持ちなんて1ミリもない。

 これはスバルにとっての最悪の死だ。

 

「この角があって、レムが生き続ける限り、ラムの中でバルスは存在し続ける」

 

 何を悟りを開いたみたいに言っているんだ。

 "この、傲慢め"と、そう言い残すことは出来ずに、スバルのその命は潰えた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「もう!やめた!」

 

 スバルは夢の世界にいる。

 死に戻りのループに嵌められて、次の再挑戦の間までの束の間の夢だ。

 そして、その結末は繰り返される犬死に、詰みセーブだ。

 

「やめてやる!やめてやるんだよぉ!」

 

 これが誰の魂の夢なのかもまだ分からない。

 それでも、スバルは赤子のように泣きじゃくりながらそう叫んでいた。

 今まで、命をかけて積み上げてきた積み木を根底からひっくり返す気持ちだった。

 スバルは、とうとう折れた。

 その諦めの悪い心は、完膚なきまでに叩き折られたのだ。

 

「もう誰にも会いたくない!もう死にたくない!誰も、俺を殺すんじゃねえ………!」

 

 駄々をこねるように頭をブンブンと振っていたスバルは、ようやくここにきて夢の世界で自分が座っている椅子を認識した。

 

「崖?いいや、滝の上か?………」

 

 この夢の世界は、真夏の滝の上だった。

 気持ちのよい日光がスバルを照らしている。

 滝の上にいるため、足には流れる川水がかかり、その冷たさはリアルで気持ちがいい。

 

 スバルが座らされている木製の椅子は、今までにないくらい脆そうだった。

 そして、スバルを現実に縛り付ける鎖がなかった。

 

「助かるぜ!もうやり直してなんかやらねえ!俺は……………」

 

 スバルは涙を袖で拭い、椅子から立ち上がると震える手で椅子を持ち上げた。

 

「俺には無理だったんだよ…………もう、何も見たくないんだ!」

 

 夢の世界で、スバルは初めて歩いた。

 真夏の滝の上を、ゆっくりと一歩二歩と歩く。

 そして、滝が落ちるギリギリまで水に浸かりながら進んだ。

 

「こんなもの!こうしてやる!ざまぁみろ!」

 

 スバルは振り被って、脆い椅子を力一杯滝の外に向かってぶん投げた。

 投げられた椅子はすぐに、滝の霧に消えて見えなくなるが、遥か下に落下したはずだ。

 もうどうやっても見つかることはないだろう。

 

「はぁ………はぁ…………」

 

 スバルは滝の水をすくってバシャバシャと顔を洗った。

 衝動的に椅子を放棄してしまったが、これで良かったのだ。

 もう間違っても現実には戻らなくて済む。

 

「俺は、逃げた……諦めた……。俺は異世界生活なんて望んでなかった……だから……」

 

 スバルはブツブツと言い訳を呟きながら、滝の下を見ようとかがみ込んだ。

 水流と、霧のせいで滝の落下地点はよく見えないが、人が飛び降りたら間違いなく死ぬ高さなことだけは確かだ。

 

「ごめんなさい………」

 

 誰に謝ろうとしたのか、スバルは頭に浮かべられなかった。

 それを言い残して、スバルは滝の下に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 人間にとっての夢とは、脈略のない始まりでも、因果関係がめちゃくちゃでも、脳死でそれを受け入れてしまうのだ。

 そして、それが明晰夢でない限り、エピソード記憶へのアクセスが遮断されている。

 だから、自分は今眠っていて、これが夢だとは気づけない。目の前の夢をそのまま現実だと誤認してしまうのだ。

 

 夢の中で唯一フル稼働しているのは、感情だ。

 これが朦朧とした夢のなかでも悪夢や幸せな夢が存在する理由だ。

 夢とは、自分を俯瞰して見ることができずにその世界のルールに従ってしまうものである。

 そして、もしも夢から目覚めることがなかったらどうなるだろうか?

 夢の世界がその人物にとっての現実になるのだ。

 

「バルス。何を考えているの?本当に出来の悪い男ね」

 

「え………あ………?」

 

 スバルは全身がビシャビシャに水に濡れながら、草むらの上で寝かされていた事に気づいた。

 慌てて、飛び起きる。

 

「きっ……気絶してたのか俺!何があったんだ……!」

 

 スバルはビショビショに塗れた自分の衣服を見る。それは、異世界の使用人としての高級そうな執事服だった。

 だが、これだけ濡らしてしまったこと、袖がボロボロになってしまった以上、もうダメだろう。

 

「いでっ!!」

 

 そんなスバルの頭に、ラムのげんこつが振り注いだ。

 あまりの痛さにスバルは涙目になって頭を押さえる。

 

「何をふざけたことをしていたの?あの滝から飛び降りるなんて!これだから年頃の男は面倒なんだわ!」

 

「すみませんでした!もうしません!」

 

 スバルはラムからげんこつの二発目が来る前に全身全霊の謝罪を口にした。

 だが、うずくまるスバルの上から睨みつけるラムの怒りは全然収まっていないようだった。

 

「俺もなんで飛び降りたかよく覚えてないんだよ……。事故かもしれないし……」

 

「ハッ!今晩は飯抜きね」

 

「それはないって〜!」

 

 ラムはそう吐き捨てて、背を向けて歩いていってしまう。

 スバルは嘆いた後すぐに立ち上がって後を追った。

 あの滝の高さから落下したと言うのに、スバルの体は無傷だった。そこに違和感を感じるが、すぐに忘れた。

 ボロボロの執事服をそこら辺の野原に投げ捨ててスバルはラムを追いかける。

 スバルのその様子を、ラムは振り返って見ていた。

 心なしか、ラムの怒りはなくなっており、表情が緩やかになっている。

 

「反省した?」

 

「もちろんだぜ!あの滝にはここ1週間は近づかないぜ!○○○○たんに誓って!」

 

「誰に誓って?よく聞こえなかったわ」

 

「あれ………?」

 

 スバルは自分が自然と発した言葉が上手く言えなかったことに違和感を感じた。

 そして、今は何を言おうとしたのかもすぐに頭から出てこなくなっている。

 それでも、またラムが不機嫌になる前に言い直さなければならない。

 

「えぇと………レムに誓ってもうあの滝には近づかないぜ!」

 

「殺すわよ?」

 

「ちょちょちょ、堪忍ね!」

 

「ハッ!……帰るわよ」

 

「了解です!姉様」

 

 ラムの反応にスバルは安堵する。

 なんだか、機嫌が良くなったように見えたからだ。

 てんやわんやだが、ラムがまた歩き始めたのでスバルも後を追った。

 

 ただ、重大なことを忘れたかもしれないという違和感だけがスバルの胸に引っかかっていた。

敵だったら怖い人

  • アヤマツ記憶持ちスバル
  • カサネル記憶持ちロズワール
  • 本編記憶持ちペテルギウス
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