もしも、リゼロキャラがIFルートまたは本編から初期地点に帰ってきたら(スバル主人公) 作:駄々我菓子
スバルはラムの後を追って森を歩いた。
なんだか、同じところをグルグル繰り返しているかと錯覚するほど、森の風景は変わらなかった。
スバルは家がどこにあったのかも覚えていない。
「滝から落ちて、頭打ったせいかな?なんかいろいろ忘れちゃったかも」
「もともと、その頭はスカスカでしょう?いらないものが抜け落ちて良かったわね」
「辛辣だな!今帰り道すら思い出せなくて結構焦ってるんだけど!」
「帰り道を忘れた?それってラムが来なかったら野垂れ死んでたってことでいいわね?」
ラムのその言葉にスバルは立ち止まった。
ラムも、スバルの様子を見かねて立ち止まる。
「確かに。ってことはお前は俺の命の恩人じゃねえか!マジでありがとう!」
スバルはラムの手を掴んで心からの感謝を表明した。
だが、すぐにその手を振り払われてしまう。
「ハッ!いつものことよ。そんなことより、逆に何がその頭の中に残っているの?」
「う〜ん。俺はこの世界に異世界召喚されて、知っている人はレムとラムだけ、かなぁ?」
スバルは頭を悩ませたが、思い出せるのはこれくらいだった。
ただ、忘れているという大きな違和感は感じている。
「十分よ。帰る前にレムを迎えに行くわ」
ラムはそう言ってまた歩き出した。
「レムも出かけてたのか?てかよくどこにいるか分かるな」
スバルもラムの背中についていく。
「無駄話している暇はないわ。日が暮れてしまう」
「ほんとだ」
森の中から見上げた空は、すでに夕方になっていた。
☆☆☆☆☆
ようやく、スバルとラムは森を抜けた。
目の前には気持ちのいい平原が広がっている。
「ふぅ。やっと景色が変わったぜ」
「あの先よ。」
スバルは、ラムが指示した平原の先を見て目を丸くした。
「なんだあれ?」
目に見えた異変のところまで歩いていくと、その異様さがよりはっきりと分かった。
そこには、大量のボロボロになった衛兵の服や、折れた剣などの武器が散乱していたのだ。
だが、鎧や服しかなく、実際に倒れている人物は一人も存在しない。
バラバラにされた竜車の破片なども散らばっているが、地竜の存在も見あたらなかった。
「ここで、戦いがあったのか?でも、何で誰もいないんだ?」
スバルは辺りをキョロキョロ見渡していると、そこに唯一存在した人物を見つけた。
「スバル君っ!」
竜車の瓦礫の影から青髪のレムが飛び出してきたのだ。
何か様子がおかしく、一目散にスバルの方に走って来る。
「おおお!レム、どうしたんだ!」
「待ちなさい!」
スバルがレムの様子に驚くより早く、ラムが割って入り妹を制した。
「ラム?」
スバルがラムに声をかけたが、手で制されてしまう。
「レム。言いたいことはたくさんあるでしょうけど、我慢しなさい。」
「姉様!ですが我慢できません!やっとレムも予知夢を思い出せたんですよ!」
「黙りなさい!」
突然、ラムがレムに対して強く叱責した。
レムは目を見開き、スバルもそのラムの剣幕に驚いてしまう。
「姉様。どういうことですか?」
スバルは、この姉妹が今何の話をしているのか全く分からなかった。
だが、この会話は聞き逃せないことだけは違和感として分かる。
「バルスが、ここに立っている。その意味が分かるわね?」
「え?」
ラムは、スバルのその反応を無視する。
ピンと来ていないスバルとは違い、レムは何かを悟っているようで辛そうに俯いている。
「はい。レムもその意味が分かります。」
「そう。これが現実なのよ。余計なことを話すのはやめなさい」
「現実?」
スバルは、「現実」という言葉を口に出してみるが、あまり実感がなかった。
「もう二度と、あの地獄を見なくて良くなったのよ」
「姉様……。姉様があの地獄をこれからも止めてくれるんですね」
「地獄?」
スバルには全く地獄に身に覚えがない。
ラムとレムにしか分からない会話が続いている。
レムは涙を流して喜び、ラムは穏やかな表情でそんな妹を見ていた。
「ありがとうございます……。これでレムも安心して眠れそうです」
「ね、眠る?」
「レム。何を勘違いしているの?」
スバルの疑問はまた無視された。
レムも、ラムの言葉に驚いて目を丸くしている。
「さぁ、帰るわよ。私達の家に…」
スバルは余計な口を挟むのをやめて、ただ二人のやりとりを見ていることにした。
ラムのその言葉に、レムの喉がゴクリと鳴ったのがはっきりと分かった。
「で、できるんですか?そんなことが……」
「できる。ラムの言う通りにしてくれたらね」
「あ……あ……」
レムは大粒の涙を流して固まってしまった。
このレムの姿に、なぜかスバルは違和感を感じた。
スバルの知っているレムはもっとクールで、感情を表に出さないような人物だった気がしたからだ。
「ですが、姉様……レムは隠し事が苦手です。もしもヘマをしてしまったら……」
「………ん?」
レムは何かに怯えるように震えながらそう言った。
スバルは余計に会話の意味が知りたくなってしまう。
「それに……レムにこんな良いことが許されて良いはずがないです……」
ラムは無言で、レムの弱々しい言葉を聞いていた。
恐ろしいくらいに落ち着いている。
「今、ここで返事をして頂戴。」
「…………私は……」
「もう一度、ゼロから始めるのよ。私達の家族として」
「うっ……」
スバルはラムのレムに対するその言葉が聞こえた瞬間に頭痛を感じた。
なぜ頭痛を感じたのか知りたいのに全く分からない。
レムは目をつぶって、頭を苦しそうに震わせながら葛藤している。
それは明らかにラムの提案に、レムにとっての後ろめたい事があるようだった。
「よろしく………お願いします。」
レムは苦しそうに顔を上げ、充血した目を震わせながらラムにそう答えた。
そして、そんなレムが泣き崩れる前にラムが優しく抱きしめた。
「やばい……全く分からん」
今はラムとレムの会話の雰囲気から割り込めないが、後で必ずこの疑問を聞かなければいけないとスバルは感じていた。
何か忘れてはいけない事を忘れた気がするのだ。
☆☆☆☆☆
「急いで!バルス!足が遅い!」
「無茶言うなよ!冗談じゃねえ!」
「振り返らないでください!」
3人は今全力疾走中だった。
あの後、スバルは流されるようにラムの家に向かっていた。
だが、そんな3人に大きなクマが襲ってきたのだ。
人は見当たらないのに、そのデカいクマは口から涎を垂らしながらスバルたちを猛追してきている。
ラムは、戦うよりも走って逃げることに決めたらしい。
「クソ!デカい代わりに走るのは苦手ってか?」
このクマの大きさは4-5メートル級くらいはありそうだった。
こんなデカいクマをスバルは見たことがない。
それでも、このクマの走る速さはスバルたちと同じくらいだった。
その遅さに違和感はあるが、今は気にしていられない。
「余計なこと言わずに走ってください!」
「わかったよ!」
レムにそう怒られ、スバルはがむしゃらに前だけを見て走ることにした。
「そのまま森に入りなさい!」
後ろで殿役を務めてくれているラムの言葉に従い、そのまま3人はまた森に入っていった。
遮蔽物が多い森は身を隠すのが容易だ。
大樹の切り株の裏側に、3人は小さくなって隠れた。
クマがのしのしと重たい体を動かしながら歩く音が聞こえてくる。
1歩1歩、地面の枝をへし折る音が恐ろしかった。
「なんであんなやつがいんだよ……あの原っぱの残骸はあのクマにやられたのかな…」
「ここにいれば見つからないわ」
ラムはそう言うが、スバルはなんでそう断言できるのか聞いてみたかった。
クマはスバルたちが隠れている切り株の周辺をまだ探索中だ。
鼻を鳴らす音が恐ろしくて、今にも人間の匂いでバレないか不安だった。
「なぁ…俺の気のせいかもしれないけど、魔法とかって使えないか?あのクマって2人でも勝てないから逃げてるの?」
「ま……魔法?何のことですか」
「しっ!黙りなさい……」
レムの反応的に、スバルが期待していた魔法なんてものは気のせいだったらしい。
曖昧な記憶の中で、ラムとレムは魔法を使える強い人だった気がしたのだが、幻想だったらしい。
それでも、その後黙って身を潜めていたらクマは遠ざかっていった。
「助かった……あんな化け物がいるなんて。もしかして、この異世界ってちょっと危険だったりする?」
「ちょっとも何も、食うか食われるかの世界よ。恐ろしい動物は毎日バルスの命を狙いに来るわ」
「まじかよ……」
そんな重大なことも忘れていたことに、スバルはため息を吐いてしまった。
「でも、3人で頑張れば生きていけますよ!ほら、3人いればモンジの知恵って言うじゃないですか!」
落ち込むスバルを励ますように力強くレムがそう言ってくれた。
だが、スバルにはどうしても引っかかる部分があった。
「モンジじゃなくて、文殊の知恵だよ。俺の地元の言葉、よく知ってるな」
「そ、そうでしたか………」
「レム…?」
ただ言葉を言い間違えただけなのに、変に焦っているレムの様子にスバルは違和感を感じた。
「無駄話はそこまでにしなさい。早く帰らないと日が暮れるわ」
「そうだな……。もう足がクッタクタだ。」
スバルは自身の両足を叩きながら悔しげにそう言った。
スバルとは違い、ラムとレムは体力があり、まだピンピンしているようだ。
「毎日ゲームしかしてこなかった、ツケが回って来やがったか……」
「スバル君……?」
後悔を独り言として呟いていたら、レムにそう声をかけられた。
「悪い……。この後もしもヤバくなったら、足手まといの俺は見捨てて逃げてくれよ、二人共。」
男が、女二人よりも足が遅く、体力もない、足でまといなど生き地獄だ。
何故かそんな自分が許せなくて、スバルは唇を噛む。
それでも、ダメ人間の自覚があるのに、ここまで悔しいと感じるのにはまた違和感があった。
「どうしてそう思うの?」
だが、そんなスバルをまっすぐに見据えたラムがそう尋ねてきた。
無駄話は終わりと言っていたが、これは真剣な話のようだ。
「う………。いや、なんとなく……」
スバルは、返す言葉が思いつかなかった。
「それはくだらない傲慢さよ。黙って着いてきなさい。」
「……うん」
また返す言葉がなかった。
スバルは、黙ってラムの後ろを歩いてついていく。
「何も心配いりませんよ」
レムがスバルの横に並んでそう言ってくれた。
「あぁ…。悪いな」
そう答えたはいいが、スバルはこのままでは決していけないと思っていた。
役立たずのままではいけないし、大切なことも思い出さなくてはいけないと違和感が強く訴えかけていたのだ。
☆☆☆☆☆
スバルたちはようやく家にたどり着いた。
そこは、森の奥地にある素朴な平屋だった。
この地域には近くに滝があるようだった。
3人は、それぞれたった1杯のスープを夕食として食べていた。
「ありがてえ」
空腹と疲労が満たされる。この一杯のスープはあまりにもスバルの体に染み渡った。
「言っておくけど、おかわりはないわ。それに、明日からの食料もないわ…」
ラムが木のスプーンを見つめながら、重い口調でそう言った。
スバルは、この世界の過酷さをまた理解させられてしまう。
「大丈夫です。明日朝から探しましょう。レムはやる気十分です」
「えぇ。それでこそラムの妹だわ。この世界は食うか、食われるかよ」
「なぁ…この世界のこと、忘れてしまった俺にまた教えてくれないか?俺も役に立ちたいんだ」
スバルは真剣に2人にそう言った。
「ただ生きていればいいわ。この世界は厳しくて、明日の分の食料もない。外を歩けば化け物に襲われる。それでも、変なしがらみも、裏切ったり、貶めあったりすることはない。生きているだけで幸せよ。」
ラムの口調は重く真剣だった。
レムも姉の言葉に深く頷いている。
「そうか。だったら改めて謝らせてくれ。本当にすまなかった!」
スバルは深く頭を下げて謝罪した。
「今の言葉を聞いて、俺が滝から落ちたのがどれだけ無鉄砲なのかが分かったよ。」
「滝から……?」
「そうね。出来の悪い男だと思っていたけど、ここまでとはね。死になさい」
「おい!さっきと言葉が矛盾してませんかね!」
「滝から落ちるなんて……。もう二度としないでください。」
スバルが滝から落ちたことを理解したレムが、急に重い口調でスバルを睨みながらそう言ってきた。
「うん。もう絶対にしないよ」
「優しい姉様とは違って、レムは怒ったらもう止まりませんよ?」
「いや!レムも十分すぎるほど優しいよ!……………あれ?」
「スバル君?」
スバルはレムにそう答えてから、また違和感を感じてしまった。
レムは元々スバルに優しかったのか、一瞬脳裏で疑ってしまったのだ。
気のせいかもしれないが、スバルの知るレムはもっとスバルに冷たかった気がしたのだ。
「とにかく、もう勝手なことをして迷惑をかけたりはしないぜ。もっと役立つ事をしたい」
「ハッ、口先だけじゃないことを祈っているわ。バルス」
「そう言えば、俺の名前が目潰しの呪文になってんだけど……。」
スバルは傲慢に、どうしようもなく、絶対に、今のままではいけないと思っている。
全てにおいてだ。
「命を救われた恩は、必ず返す。」
自分に言い聞かせるようにスバルはそう呟いた。
この異世界であの引きこもっていた日常をやり直して、生まれ変わりたい。
諦めの悪さだけが、自分の取り柄なのだから。
「やっぱり、スバル君はスバル君のままですね……」
「えっ?」
レムが、突然そう言ったが、その声に何か重い感情が籠もっているようにスバルは聞こえてしまった。
「いえ、何でもないです」
☆☆☆☆☆
夕食を食べた居間とは一つ壁を挟んだ部屋に3つ布団を敷いて、川の字になって眠ることになった。
スバルが忘れる前もこうして暮らしていたらしい。
違和感は尽きないが、忘れてしまったのだから当然だとここにきてそう思ったりもする。
布団の並びは、窓の方から順番にラム、レム、スバルだ。
「おやすみ」
「はい。姉様」
「…………」
当然だが、この世界には電気がない。
この部屋にも明かりがない。明かりは横の居間に松明があるだけだ。
当然夜は真っ暗で、夜更かしなどできるわけがない。
スバルが徹夜して遊んでいた世界とは訳が違うのだ。
「………………」
黙っているとレムとラムの寝息以外に、外から虫の鳴き声が聞こえてきた。
窓から差し込んでくる風も涼しくて心地良い。
朝になれば日の光が明かりとなって目を覚ましてくれるだろう。
「………ん?」
その時、スバルの心の中にとある考えがよぎった。
今、スバルが最もこの寝室の扉に近い位置にいる。
この小さな平屋の寝室の扉は木製のボロボロの引き戸だ。
開ければ年季の入った音がして、レムとラムに気づかれるかもしれないが、もしも気づかれなかったら?
スバルはこの家から出ていくことも可能かもしれない。
そうすれば、外の世界を探検できるではないか。
「……俺は馬鹿か……?いいや、俺は馬鹿だ……」
何を考えてんだ?迷惑にも程がある。
なんで今そう思ったのかも違和感でしかない。
こんなことを思いつくから、滝から落ちるようなことになったんだよ。
スバルは一瞬よぎってしまった考えを切り捨てて布団をかぶった。
この違和感は、今の自分にとって必要なものなのだろうか?
☆☆☆☆☆
布団を被ってから1時間くらい経っただろうか。
スバルはずっと外の音を聞いていた。
「眠くならねえ………」
体は疲れているはずなのに、何故か眠くならなかったのだ。
そもそも、眠るのって意識的にできるものじゃなかった気もする。
眠り方も忘れちまったのか?
「…………っ!」
スバルは布団を被ったまま目を閉じて固まった。
なぜなら、レムかラムのどっちかが動いたからだ。
「姉様………」
小声で何か話している。
そして、姉妹は2人で立ち上がり確かに横になっているスバルの上を跨いで行った。
ギギギ…と、引き戸が開けられる音がしたが、スバルは寝たフリを続けた。
そして、ラムとレムは寝室から出るとまた引き戸を閉めた。
それを確認して、またスバルは目を開けた。
どうやら、横の居間のテーブルで、また二人で座ってるみたいだ。
どうして、こんな夜中に二人で起き出したのだろう?
「晩酌しませんか?」
「そうね……。そんな気分よ」
スバルは引き戸に寄ると、そう二人の声が聞こえた。
どういうことだ?明日の食料もないんじゃないのか?
そんな家のどこに、酒があるというのだ?
たとえ、酒があったとしてもスバルは興味ないが、この状況は何か一人だけ仲間外れにされたような感覚があった。
「どうぞ…姉様…」
そして、スバルが耳を澄ますと確かにコップに酒が注がれる水音が聞こえた。
「レムも飲みなさい……」
「乾杯……」
引き戸越しに、2人が美味しそうに酒を飲み、喉を鳴らす音が聞こえた。
「ふぅ……。今、とても幸せよ。レム」
「はい、姉様。レムも幸せです」
「大丈夫………。心の傷は時間が解決してくれるわ……。この楽園にいれば、誰も私たちを傷つけない。」
「そうですね………。でも、それでもレムは隠し事は苦手です……」
「心配いらないわ。ラムが上手くやるから……ただ…………ずっと………傍にいて……………」
「もちろんです……………どこにも行きません……………」
スバルは引き戸に触れないよう、音を出さないよう注意しながら、隣の部屋での会話に釘付けになった。
酒が入ったのか、感情的に2人が泣いているのが分かったからだ。
2人でそれぞれの悲しみを埋め合うように泣いている。
それでも、スバルは確信してしまった。
この二人は、彼女たちは、絶対に何かを隠していると。
敵だったら怖い人
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