リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル)   作:駄々我菓子

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これは夢だ

「アアアアアアアアアア!」

 

 指をリスに噛みちぎられて、スバルは大絶叫。

 血が噴水のように噴き出す右手を左手で強く抑えつけるのに必死だった。

 

「このっ!」

 

 ラムがサッカーボールを蹴るように、スバルに襲いかかったリスを蹴り飛ばした。

 リスはボールみたいに弾け飛んですぐに見えなくなる。

 

「スバル君!我慢してください!」

 

「ううっ!」

 

 レムが、ハンカチを強くスバルの手に縛って止血をしてくれる。

 そして、跪いてしまっていたスバルの手を引っ張って走り出した。

 

「なっ!!何だっ……!」

 

「この匂いは大変ですっ!すぐに逃げましょう!」

 

「ええ。賢明だわ!」

 

 スバルが納得しないまま、レムは強引にスバルの手を引いたまま森を駆ける。

 ラムも背後を守るようについてきた。

 

「なっ……なんだこの匂いは……」

 

 スバルは、激痛に視界を真っ赤にしながらも自分の血から発される強烈な匂いに困惑していた。

 それは、全動物を惹きつける、芳醇な獲物の匂いだったのだ。

 あまりにも誘惑的で、美味しそうな匂いだ。

 それを自分の血が発している事実に、スバルは驚愕した。

 

「来たわ!振り返らずに走りなさい!」

 

「キィ――!」

 

 木の影から猿が2匹出現し、スバルに襲い掛かった。

 それを、ラムが1匹を蹴り飛ばし、もう1匹を投げ飛ばして地面に叩きつける。

 

「く………くぅ……クソが!」

 

「見てないで走ってください!」

 

 スバルは、ラムが防いでくれたものの、自分を襲ってきた2匹の猿を睨みつけて激しく舌打ちした。

 野生動物が、自分を食うために襲ってくるのだ。

 こんな理不尽な事があってたまるか。

 

「がっ!」

 

「レ、レムッ!」

 

 突然、空からキツツキがレムに襲いかかった。

 スバルではなく、護衛をしていたレムを先に襲ったのだ。

 レムの白い首に鋭利なクチバシが突き刺さり、そのままレムはスバルから手を離して地面に吹き飛ばされてしまった。

 血が噴き出す首を、レムは震える手で押さえつけている。

 

「お……おい、お前ふざけんなよ」

 

 スバルは言葉を失って立ち止まってしまった。

 すでに、キツツキはまた空に飛び上がって、その姿を見失ってしまっている。

 本命のスバルをどこから狙ってくるか、分からない。

 

 そんなことはどうでもいい。

 レムが、スバルを庇って首を刺されたのだ。

 キツツキごときが、狩りをするために、スバルを食うために優先的にレムを狙った。

 スバルのせいでレムが狙われて傷つけられたことにほかならない。

 

 もしも、レムが助からなかったらどうなる?

 どうすればいい?どうしよう?どうしろってんだ。

 

「待って!死ぬな!死なないでくれえ!」

 

 スバルは心からの恐怖を隠そうともせずに、地面に倒れこんで首を押さえているレムを抱き上げると、また走り出した。

 

「バルス!そのまま真っすぐに行きなさい!」

 

「ああああああ!」

 

 こんな経験したことがない。

 いいや、したかもしれないが、忘れてしまっている。

 死というものに、スバルは初めて直面していた。

 自分の死と、レムの死。

 そのどっちも受け入れられない。

 

「あっ!」

 

 スバルは一瞬振り返ると、ラムが投石で飛行するキツツキを仕留めていた。

 単純にラムは強すぎる。

 そんなありがたい命の恩人の妹であるレムがスバルのせいで死んだらどうなる?

 許されて言い訳がない。

 

「死ぬな!死なないでくれ!頼む!」

 

「死にませんよ………でも、そう思って頂けて幸せです…」

 

「は……?」

 

 スバルが、驚愕に目を見開きながらレムを見ると、すでに首の出血は止まっていた。

 

「なんでっ…!?」

 

「傷は、放っておけば治りますから…」

 

 いや、この治り方は不自然すぎる。これも、この世界の違和感の一つなのか?

 スバルがそう感じたその時だった。

 

「ガルルルルル!」

 

 体調4メートルくらいの大熊が襲いかかってきたのだ。

 

「ラムが相手をするから、二人は走って!」

 

 大熊にラムが背後から飛び蹴りを食らわせた。

 熊の上半身の体勢が大きく崩れ、巨体が木々を薙ぎ倒しながら地面を転がる。

 

「アアアッ!」

 

 レムが大声を上げながら、大熊に向かって岩を投げつけた。

 見事に大熊の足に命中し、骨が砕けた音が響く。

 

「スバル君!今のうちですっ!」

 

 すでに首の傷が塞がっているレムが、またスバルの手を引いて走り出した。

 

「クッ……!」

 

 スバルはレムに手を引かれ、逃げるしかなかった。

 ラムをこの場に残し、大熊の相手をさせ、その隙に逃げることしかできなかったのだ。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 家に帰ってきたスバルは、レムが扉を閉めるまで恐怖に震え上がっていた。

 あれから、どうやって家まで走ってきたのかパニックのせいであまり覚えていない。

 野ウサギに襲われ、ヘビに襲われ、セミやトンボなどもスバルに噛みついてきた。

 

 自然全体が、生き物全体に正に餌食とされた感覚はあまりにも恐ろしかった。

 

「スバル君。深呼吸して落ち着いてください」

 

「はっ…!れ、レム!」

 

 過呼吸になりながら震えていたスバルは、レムのその声を聞くと慌てて立ち上がった。

 レムはスバルのせいで、キツツキに首を突き刺されたのだ。

 

「本当に………ごめん。ごめんなさい……!」

 

「そんなに頭を下げないでください!レムは大丈夫ですっ!ほら、もう傷跡も残ってませんよ!」

 

「えっ……?」

 

 レムは明るい表情で、スバルの必死の謝罪を拒んだ。

 スバルはレムの首を見ると、確かに傷が完全になくなっている。

 それは、治って元通りになったというよりは、元々傷がない状態に戻ったように見えた。

 

「分からねえ……!何も分からねえ……怪我ってそんなんじゃねえだろ………」

 

 こんなに早く傷跡が完全に無くなるはずがない、この世界がおかしいんだ。

 スバルの食いちぎられた指もすでに元通りになっている。

 確かにあの時の激痛は本物だったのに、時間が経つと何もなかったかのように元に戻っていたのだ。

 

「傷が無くなっても、レムが傷ついた事実は変わらない………。全部覚えてるんだから……」

 

「はい………」

 

 スバルがそう言うと、気まずそうにレムはそう返した。

 そして、1歩2歩とゆっくりスバルはレムに近づき、その体を抱きしめたくなって、立ち止まる。

 

「スバル君……?」

 

 突如立ち止まったスバルを心配するようにレムが首を傾げた。

 

「ダメだ……今もラムがあのクマと戦ってるんだ……。もし何かあったら………」

 

 スバルは頭を抱えて、震える手で自分の髪の毛をグシャグシャに掻きむしった。

 

「レム、ラムを助けに行ってくれないか………?」

 

 スバルと違ってレムは強いし、スバルがいなければ動物にも襲われないし、庇う必要もない。

 

「でも、家にスバル君を一人にしておくのは心配です……」

 

 意外にも、レムはスバルの提案を否定してきた。

 

「なんでっ?ここで隠れてるから大丈夫だよ!そんなことより、ラムが心配だろ?」

 

「スバル君の気が変わって、一人で出歩いたりしないって、レムに約束してください」

 

 レムは真剣な表情で、まっすぐスバルを見てそういった。

 

「そんなことするわけない!これ以上、迷惑はかけられねえよ!約束する!絶対に………!」

 

 スバルは奥歯をグラつくほど噛み締めていた。

 この姉妹に迷惑をかける惨めな存在でいることが耐えられなかったのだ。

 

「うっ…!」

 

 レムは、急にスバルに近づくとその胴体を強く抱きしめた。

 スバルの心臓に言い聞かせるように訴えてくる。

 

「ここで大人しく待っていてください。どこにも行かないで…」

 

「も、もう………迷惑も、不安も、心配もかけたくねえ………外に出るなんて死んでも御免だよ」

 

 あんな地獄に誰が一人で出ていけるのか。

 そんなことは絶対にしないし、出来ないと決まりきっている。

 

「………行ってきます」

 

 レムはそう言うとスバルに背中を向けて、扉に手をかけた。

 

「ダメだ………あぁダメだ……。」

 

 スバルは、体の震えを抑えられずに、涙まで流してそう呟いた。

 なんでこんな感情にならなければいけなかったのか、理解も納得もできない。

 

「なんですか…?スバル君」

 

 レムが振り向く。

 スバルは今の表情を隠さなかった。

 

「今日のこと、一生忘れない………。必ず、恩返しするから……」

 

 優しくて強いレムとラムに迷惑をかける自分はカスだ。

 そして、これから何も返せなかったら本当のクズだ。

 

 スバルのその言葉を聞いたレムは、ハッと目を見開くと、自身の胸に手を当てた。

 そして、表情が緩み、口角が上がっている。

 

「何がおかしいんだ………?」

 

「きっと、これが私達の望みだったんですね」

 

「え?」

 

 そして、レムは家から飛び出していった。

 残されたスバルは、最後にレムが言った言葉の意味や、レムの心も何も分からない。

 ただ、この家に外の化け物たちが入ってこないようにきつく扉を閉め直して、その場に蹲った。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 レムが出ていってから何分経っただろうか?

 外を見たくないし、外の音も聞きたくない。

 この世界は弱肉強食で、奴らは暴飲暴食だ。

 

「クソ……俺を、エサみてえに……群がって来やがって」

 

 こんな地獄で今までどうやって生きてきたんだ?

 なんで外の生き物たちはスバルを食いに来るのか?

 肉食も草食も雑食も、鳥も動物も虫も関係なく全員だ。

 

「畜生共め……」

 

 スバルの体に、血に原因があるのは分かっている。

 あの怪我した時にスバル自身も自分の血に芳醇な匂いを感じたのだ。それのせいなのは間違いない。

 

「二人はなんで俺なんかを………これじゃあの時と同じだ」

 

 あの時とは元の世界のナツキ・スバルだ。

 父と母に守られて、外が怖いから家に引きこもる生活だ。

 今の状況はまさにそれそのものだ。

 世界が変わっても、自分の在り方は変わらないと、残酷にもスバルは突きつけられている。

 

 変わりたいと思っても、外に出れば奴らに食い殺されてしまう。

 かといってこのまま家で二人に守られ続けてどうなる?

 

「ふざけんじゃねえ……こんな、気持ちの悪い体……!父ちゃんと母さんに貰った俺の体はこんなんじゃねえ……」

 

 スバルは爪が指に食い込むほどに手を握りしめた。

 

「俺は、お前等に暴飲暴食されるために生まれてきたんじゃねえんだよ…」

 

 爪で切れて血が滲む手を睨みつけてスバルはそう呟く。

 その血から漂う食欲を唆られる匂いを心から嫌悪して、また舌打ちをした。

 

「クソ……………もう、嫌だ……」

 

 スバルは膝を抱えて、小さく丸まった。

 今は一人だ、我慢することなく涙が流れる。

 

 レムとラムは無事に生きて帰ってきてほしいのに、今は帰ってきてほしくなかった。

 情けない姿を見られたくない。

 

 そして、何の気の迷いか指に滲んだ血をスバルは舐め取った。

 

「………っ!………うめえ……」

 

 思わず指をくわえて、はしたない音を響かせながら血をすする。

 指を噛んでまた傷をつけて、さらに血をすすってしまう。

 

「はぁ………はぁ………」

 

 美味い。美味すぎる。なんて悪魔的だ。

 スバルの空腹と渇きは一瞬で全て満たされた。

 体全身には今までにない力がみなぎり、不安も恐怖も一切なくなった。

 頭はどこまでも冴え渡り、何でもできるという全能感が胸いっぱいに広がった。

 

「俺は、馬鹿か?いいや、俺は馬鹿だ……。何にビビってたんだ?」

 

 これは異世界で獲得した特殊能力、権能だろう。

 動物達はスバルを食いたいだろうが、もう恐れることはない。

 

「すげー……脳が震えるっ」

 

 さらに、ドーピング効果は脳にも適用されていた。

 思考が加速し、脳内の違和感を除去していく。

 

「違和感!夜は眠れない!傷は勝手になくなる!人がいない!食料はないのに酒が湧いて出る!家がラムの感情に共鳴して揺れた!レムが叩き割った机が元通り!」

 

 スバルは、呟いた違和感をもう一度脳内でまとめ直す。

 目はバッキバキにガン開きになり、真実を求めていた。

 

「分かったぜ!これは夢だ!」

 

 これは夢で、何故か夢が終わらない。

 それは大変な事態だ。現実のスバルが眠り続けているのかもしれない。

 現実のことが思い出せないのも、これが夢だからだろう。

 

「早く行かねえと!」

 

 次は一刻も早くこの夢から覚める方法を見つけなければ。

 これは夢で、全て幻想だ。そんなものに価値はない。

 スバルはレムとの約束を破ることを自覚しながらも、家を飛び出した。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 夢の世界を、スバルはひたすら走る。

 襲ってくる動物、畜生どもを返り討ちにしながら。

 

 サルを瞬殺し、蛇を踏み潰し、集って来る虫共はスバルの走る速度に追いつけない。

 野兎、野犬はサッカーボールのように蹴り飛ばした。

 自分の血を飲んでから、スバルはドーピング状態になり、より傲慢に、攻撃的になっていた。

 生き物の命を奪うことに躊躇がない。そもそも、夢の世界だ。躊躇する必要がない。

 

「どけ!お前も死にたいのか?」

 

 だが、今まで返り討ちにしてきた畜生共とはレベルの違う猛獣がスバルの前に立ちふさがってた。

 それは、現実世界での猛獣のレジェンドである虎だ。

 体重は300kg越え、前足の一撃は1トンくらいはありそうな化け物。

 スバルの匂いに惹きつけられ、獲物として食い物にするために現れたのだろう。

 

「この世は所詮、弱肉強食で暴飲暴食だ…」

 

 スバルがそう言った途端、咆哮を上げて虎が襲い掛かってきた。

 鋭い爪がある前足が容赦なく振り下ろされる。

 だが、今のスバルには止まっているように見えた。少し上体を傾けて躱す。

 

ドゴォッ!!

 

 野原一体が揺れるほどの轟音と衝撃が響いた。

 スバルは右手で虎の脳天に一撃をぶち込み、その頭蓋骨を粉砕させたのだ。

 地面にたたきつけられた虎は悲鳴をあげる暇すらもなく、静かになった。

 

「早く行かねえとっていうか、早く目覚めねえと現実世界のレムとラムが心配だ」

 

 スバルはそう呟くとまた走り出した。

 この世界は夢であり、現実の自分は夢の世界に閉じ込められているとスバルは考えている。

 そして、その原因が敵の異能ならば、現実世界のレムとラムが危険にさらされているはずだ。

 そのために、この夢の世界でレムとラムに事実を確認するのが今やるべきことだ。

 

 

敵だったら怖い人

  • アヤマツ記憶持ちスバル
  • カサネル記憶持ちロズワール
  • 本編記憶持ちペテルギウス
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