リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル)   作:駄々我菓子

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鬼ごっこ

 傲慢のスバルの手に触れた瞬間、スバルは現実で起こったことを全て思い出した。

 

 暴食と戦い、レイドと戦い、鬼化暴走状態となったラム。

 力の全てを使い切り衰弱死寸前になっていたこと、スバルが暴食の権能に目覚めてしまっていたことが重なった、あれは事故だった。

 

 スバルは喉に致命傷を負い、何度も死んだ。

 そして、そのリスタート地点は致命傷を負った直後だったのだ。

 レムの治癒魔法では、間に合わず、最終的には諦められてしまった。

 

 全てを思い出したスバルは、まだ白い異空間の世界にいた。

 正気に戻ると、思わず首を抑えて血管の血液が零れ落ちないように強く締め上げる。

 血管が圧迫され、苦しい感覚を実感するまで、その行為をやめられなかった。

 

「ううううう、ああああああ!」

 

 今まで出したことのないような声が出た。

 傲慢の権能によって他者の魂に干渉されることによってもたらされた夢の世界。

 スバルのリスタートに助言をしてくれるはずの魂たちは、誰もどうすれば先に進めるのか分からなかった。

 エミリアでさえ、諦めていた。

 ラムが、この事実を忘れられたスバルにどうしても思い出させないようにしてくれていた理由がはっきりと分かる。

 

 思い出さなければ、どれだけ幸せだったことか。

 

「諦めたのに……」

 

「死に戻りのセーブ地点が短すぎたな。俺、1万回くらい死んでると思うけどあそこまで理不尽なのはなかったぜ?」

 

 軽薄に、傲慢のスバルがそう言ってくる。

 

「お前の勝ちだ……。お前の勝ちだよ。俺はお前のやり方を悪いと思ってたけど、お前が正しかった!全部認める!」

 

 スバルは、跪いて傲慢のスバルにそう言った。

 傲慢のスバルは、真っすぐにスバルの目を見透かしてくる。

 

「だろ?」

 

「俺は諦めた……。椅子もなくした。もう現実には戻れない。……なんで死ねないんだ?」

 

「はぁ……そりゃ俺が聞きてえよ」

 

「は?」

 

 ここまで来て、現実を思い出して、スバルはもう諦める以外の道が続いていなかった。

 あの時、現実に縛り付けてくれる椅子を無くした時点で解放されたと思っていたのに。

 この、夢の世界でスバルは生きながらえている。

 そして、その謎の答えを、傲慢のスバルは知らなかったのだ。

 

「お前が諦めてくれたおかげで、本当にこの人生に悔いがなくなったぜ。おやすみ」

 

 傲慢のスバルはひらひらと手を振ると、背中を向けて歩いて行ってしまう。

 

「待って!待て待て……」

 

「あのさぁ。もうあんまり、お前と話していたくないんだが?」

 

 スバルは目に涙をためて、両膝をついたまま両手を組んで懇願した。

 

「殺してください……。成仏させてください……」

 

「自分でやれ。どうやって他人の魂まで成仏させんだよ」

 

 冷たい。本当に悲しくて、困っているのに。

 世界線は違っても、同じ人間なのにひどすぎる。

 心底興味を失い、以前のように罵ってすら来なくなった。

 本当に見捨てられたみたいで、あまりにも残酷だった。

 

「お、お前は自分で成仏できるの……?」

 

「今からすんだよ。人生に悔いなしって言ったろ?」

 

「…………」

 

「まぁ、悪いんだが……あばよ」

 

 傲慢のスバルはそう吐き捨てると、ずっとどこまでも遠くに歩いて行った。

 背中はどんどん小さく、そして薄くなっていき、白い霧のように消えていった。

 スバルは、一人でこの白い空間に残されている。

 

「あのクソ野郎……自分だけ満足して逝きやがった」

 

 だが、スバルは白い空間の崩壊が始まったところで驚愕に目を見開いた。

 

「なんで……なんでまだ続くんだよ!ふざけんな!」

 

 一人で夢の世界に理不尽を叫ぶ。

 白い空間が崩壊し、また夢の世界の森の風景が見え始めたところで、スバルは絶望で表情を青ざめた。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「ああ……あ。どうすれば……」

 

 スバルは、森の中心に戻ってきた。

 森の最果てだと思っていた白い壁はどこにもなく、スバルはまだ深い森の中にいたのだ。

 

 

「レム……?」

 

 スバルは辺りを見回す。

 傲慢のスバルと遭遇し、現実を思い出している間、外でレムが待っているものだと思っていた。

 それが、スバルがこの森に戻ってきて青ざめた一つ目の理由だ。

 

「いない……はぁ、助かった」

 

 スバルは期待に応えられなかった。現実を思い出して再び諦めた。

 現実を思い出しても、現実に戻る方法がそもそもなかった。

 だって、現実と繋がっている椅子はもう無くしたんだから。

 背中を押されて送り出されたのに、何の成果もあげず帰ってきて、レムがいないことに安堵する始末だ。

 合わせる顔がないとは正にこのことだ。

 

「あいつは……なんなんだよ……」

 

 ひとまず、スバルの近くにレムがいないことに安堵してから2つ目の思い浮かんだのはレムへの恐怖だった。

 スバルの思い出したレムは、冷たい人物だった。

 スバルに期待することなどない、傲慢の力を利用しようとしただけの人物だ。

 この夢のレムとは全く印象も態度も違うのだ。

 それは、レムが予知夢を思い出したからだろう。レムの魂には、別の世界線で暴食によって食われてしまった記憶が予知夢として刻まれている。

 別の世界線のスバルの行動によって、レムは生き方が変わったということだろう。

 

「分からねえ……何をしたらあんなことになるんだ!」

 

 レムはあの状況で、スバルにどうにかできると思っていたらしい。

 それはあまりにも傲慢で、狂っている。

 スバルが魔法で致命傷を癒せるとでも思っているのだろうか?

 スバルの魂に干渉し、記憶も何もかも全てを知っているはずなのに、どうしてそんな楽観的な考えができるのか、恐ろしくてたまらない。

 

 間違っているはレムの方で、ラムが正しかった。

 何も思い出さずに、この夢の世界にいれば、こんなに絶望しなくて済んだのだ。

 

「俺はここだ!俺を食え!」

 

 スバルは森の中でそう叫ぶと、木々をかき分けて動物たちが集まってきた。

 虎に、クマ、野兎に、野犬共だ。

 

「あああああ!!!」

 

 一声に畜生共はスバルに群がり、全身に襲い掛かってきた。

 激痛の海に溺れながらも、スバルは一切抵抗しなかった。

 体を引き裂かれ、バラバラにされる感覚は夢とは思えないほどリアルで、地獄だ。

 

 夢の終わりに、地獄を見る。地獄に落ちてもいいから成仏したい。

 

「ああ……は?……ふざけやがって!!」

 

 四肢をバラバラにされていながら、スバルは自分の体が勝手に治っていくことに気づいた。

 意識を何度か失い、ひょっとしたら死んでいたかもしれない。

 でも、少し時間が経てば傷が元に戻ってしまうのだ。

 そして、この夢の世界では死ねないということに気づいてしまった。

 

「ぐっ……!クソッ!」

 

 すぐに、この地獄に何の意味もないと分かって、スバルは自分の血を飲んだ。

 暴食の権能である『餌食の力』により、強化された体で群がった畜生共を吹き飛ばす。

 クマの顎を引き裂いて、そのまま巨体を持ち上げて振り回した。

 周囲の畜生共が無惨にも巻き込まれ、蹴散らされる。

 

「何の意味もない……俺も、お前らも」

 

 餌食のはずのスバルの剣幕を恐れてか、動物たちは後ずさって離れていった。

 その事に安堵することすら、虚しいだけである。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 諦めても、意味がなくても、この夢の世界にスバルは生きてしまっている。

 森をゆっくりと進む。木々に隠れながらゆっくりと進む。

 今更、この夢の世界を探検してやろうなどと前向きな行動をしているわけではない。

 レムがどこから現れるか、不安でたまらなくて隠れているのだ。

 あんな地獄だと知っておいて、スバルの背中を押してきたことには思う所もあるが、もう二度と会いたくない。

 目の前に現れたら、隠れてやり過ごすつもりだ。

 

「全て失って、失いすぎて、失うものがなくなっちまったぜ」

 

 スバルは森を歩き続ける。

 動物たちはもう襲ってこなくなった。

 

「…………」

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 スバルは、森を彷徨い続ける。

 日が暮れて、空が暗くなってきていた。

 

「………………」

 

 何も呟かない。何も考えない。

 ゾンビのように、ただ歩き続ける。

 

 だが、しばらく歩き続けてスバルは異変を察知した。

 

「血の匂い…………」

 

 近い。近くから血の匂いがする。

 ずっと止まらずに歩いてきたのだ。ここは、スバルが一度も来ていない場所だ。

 風景がロクに変わらない深い森の中、大岩と草の生い茂る地面に大量の血の痕跡があった。

 スバルは何も考えずに、その血が付着した大岩に頬を付けてみる。

 本来は冷たいはずの感触が、温かかった。

 

「新しい……。殺人現場だ、警察に通報しないと……」

 

 スバルは、そう呟くとそのまま大岩にもたれ掛かってしまった。

 血がついている大岩なのに、気にせずに一度もたれ掛かると、もう体を起こす気にならなかった。

 夢の世界のため、眠くはなっていない。それでも、体に力が入らなくなっていた。

 

「…………」

 

 大岩に身を任せてから、体を一切動かさないでいると、聴覚が研ぎ澄まされてきた。

 夜の風で木々が揺れる音が鮮明に聞こえる。

 

「ん…………」

 

 足音が聞こえた気がした。ゆっくりと、すでに真夜中で真っ暗になった森を誰かが歩いている。

 音の感じ的に、クマやトラなどの重量級ではない。

 スバルは、足音に気づいていながらも体勢を起こして確認しようとしなかった。

 

「ううっ……!」

 

 だが、大岩にもたれ掛かるスバルの背中にその歩いてきた人物の手が触れた瞬間、思わず体を震わせて振り返った。

 

「あぁあああ!……はぁ……はぁ……」

 

 スバルは、自分に触れたその人物の姿を見ると大声を上げて呼吸を荒くした。

 

「スバル君……大丈夫ですか?」

 

 そこにはレムが立っていた。

 真っ暗なせいで、表情はよく見えなかったが、声で直ぐにレムだとわかってしまった。

 スバルは後ずさって、隠れるように大岩の向こうに移動する。

 

「ひ……」

 

 何も言えない。何も言うことがない。

 

「レム……なんで血まみれなんだ?」

 

 スバルは恐る恐るそう尋ねた。暗い視界でも、レムがボロボロだと気づいたからだ。

 この大岩の血もレムのものかもしれない。

 

「心配かけてすみません。姉様とケンカしてしまって」

 

「そ……そうか。ラムはどうした?」

 

 この出血量。やりすぎにもほどがある。本当に最悪だ。

 死んでやり直したいくらい最悪だ。でも、夢の世界じゃ死に戻れない。

 

「姉様なら怒って帰ってしまいましたよ。でも、こうなるって覚悟してましたから大丈夫です」

 

 レムは、心配しないでくださいと言わんばかりに明るくそう言ってきた。

 スバルが白い空間に入った後、追いついてきたラムとレムは戦い、ここまでの惨事になってしまったのだと想像できてしまう。

 

「さぁ、そろそろ立ってください」

 

「は……?」

 

 レムのその声を聴いて、スバルの背筋に冷たい汗が流れた。

 だが、言われた通りに立ち上がってみる。

 まだ立ってくださいと言われただけだ。怖い想像をしているだけかもしれない。

 

「現実のこと、思い出せましたか?」

 

 スバルは声は出さずに頷いた。

 

「もう一度、探してみましょう。まだ、諦めてないですよね?」

 

「…………」

 

 言葉を失った。悪い想像は現実になった。

 

「諦めたよ……」

 

「諦めるのは簡単です……でも、スバル君には___」

 

 レムがそこまで言ったところで、ボロボロの体ということも無視してスバルは彼女の胸倉を掴んだ。

 

「終わったんだよ!ナツキスバルは死んだんだ!」

 

 勢いに任せてそう吐き捨てて、そのままレムを前に突き飛ばした。

 レムは、落ち着いたまましおれてしまった服を直している。

 

「これは、あの時と同じですね……」

 

「はぁ?」

 

 レムの変わらない穏やかな表情に、スバルは眉をしかめた。

 

「世界が変わっても、スバル君は変わらないって言う事です」

 

「俺はお前の予知夢なんて知らない」

 

 スバルは否定したが、レムは自分の予知夢を思い出そうと幸せそうに目を閉じた。

 

「レムの予知夢でのスバル君は、諦めませんでした。スバル君は諦められない人なんです」

 

 レムのその言葉を聞いて、どうして自分が成仏できないのかが分かった。

 

「どうやら戦う覚悟も、諦める覚悟もないみたいだ……」

 

「いいえ。スバル君は戦う覚悟があるはずです。もう一度、現実に戻る手がかりを探しに行きましょう」

 

 レムは穏やかな口調を崩さないまま、スバルに近づいてくる。

 だが、スバルは同時に後ずさることで距離を保った。

 

「違うんだ……。もう死に戻りのシステム的に無理なんだよ……。致命傷はどうにもならないだろ?」

 

「いいえ。まだ見落としている何かがあるかもしれません。まずは、現実に繋がる手がかりから探しに行きましょう」

 

「エミリアも、ラムも、傲慢の俺ですら無理だって言ってた。あいつは1万回は死に戻ったらしいぞ……。そんなあいつでも無理って言ったんだ。もうどうしようもない」

 

「いいえ。世界中の誰もがスバル君を信じなくても、レムだけは信じています」

 

 何を言っても片っ端から否定される。

 ボロボロになるまでラムとケンカした後に、なんでこんなことが言えるんだ?

 

「俺だって何とかできるならしたいよ……。でも、無理な物は無理なんだよ」

 

「いいえ。スバル君の魂が成仏しない限り、貴方は諦めてなんていないはずです」

 

 レムの否定に、さらにスバルの諦めを打ち返す。

 すると、急に穏やかだったレムの表情がすっと重く、暗く豹変し、スバルは震え上がった。

 

「成仏する時は、レムと一緒ですよ……」

 

 レムが許してくれるのは、スバルが成仏する時だけだ。

 重すぎる。こんな重さ、どうやって背負ったらいいんだ。

 

「お前……俺の事殺したよな?」

 

 スバルは、化け物でも見るかのような目でレムを睨みつけ、開き直ったようにそう言いだした。

 レムの表情が驚愕に固まる。

 

「はい……」

 

「予知夢のことも、現実では忘れたままだよな……?」

 

「はい……」

 

 レムがどんどん近づいてくる。歩みが早くなっている。

 スバルは、ほぼ後ろ走りで距離を取り続けていた。

 

「都合が良すぎるだろ?あんな真似しといて、まだ俺に死んで来いって言うのか?」

 

「はい……スバル君が諦めない限りどこまでも、」

 

「この、傲慢が!二度とその面見せんな!」

 

 重すぎて、支えていられなくなり、とうとうスバルはそれを投げ出してしまった。

 レムの瞳が明らかにギロリと目の色を変え、スバルを睨みつける。

 

「うっ……!」

 

「やりなさい!迷っているなら!レムがその背中を押してあげます!」

 

 飛び掛かってきたレムの勢いにやられ、スバルは森の地面を転がった。

 地面にうつ伏せになって、そこから立とうとしたが背後に馬乗りになるレムが首を締め上げてきた。

 

「ううっ…!何しやがるっ」

 

「連れて行きます!落ち着くまで!」

 

 レムの怪力に、意識を落とされそうになったスバルは何とか自身の指を噛み千切ることに成功した。

 

「うっ!!」

 

 背後のレムに肘打ちを食らわせて、首を絞められている状況から脱する。

 

「俺も、お前も、大っ嫌いだ!」

 

 スバルは戦う勇気がなく、背を向けて逃げ出した。

 ドーピング状態のままひたすらに突っ走る。

 

「待ちなさい!」

 

 背後で、スバルを死地に連行する傲慢の声が響き、爆速で追跡してくるのが分かった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「スバル君っ!隠れても無駄です!」

 

 どれだけ走っても、森は終わらない。

 どれだけ走っても、スバルの匂いのせいでレムを振り切れない。

 走り続け、どれだけの時間が経ったのか、どれだけの距離を過ぎたのか自分でも分からなかった。

 スバルは木々の隙間に身を隠して、追ってきたレムの位置を確認する。

 

「化け物め……」

 

 スバルは、様子を伺いながら地面に落ちている大きめ石を持ち上げた。

 もう、永遠のマラソンを続けるのは御免だ。

 後悔させてやる。

 

 木と木の隙間から覗いていたスバルの目と、奥からやってきたレムの目が合ってしまった。

 

「見えていますよ!」

 

 目が合った瞬間に、躊躇なくレムは走って来る。

 そのまま衝突しそうになる瞬間に、スバルはしゃがみ込んだ。

 石をお尻の下に隠して、両手を上げて降参をアピールする。

 スバルのその行動を見て、レムは突っ込んでくる勢いを止めてくれた。

 

「助けてください……俺は、もうダメなんです……」

 

 レムはしゃがみ込んだスバルの髪の毛を強く掴むと、顔を近くに引き寄せて睨みつけた。

 鬼のような剣幕に、演技ではなくスバルは心から恐怖した。

 

「…………」

 

 呼吸を荒くして、何も言ってこない。

 気が遠くなるくらいの鬼ごっこを続けて、レムの怒りの臨界点を超えてしまったのだろう。

 

「レム……俺は、実は……英雄でも大罪司教でもなんでもなくて、ただの引きこもりだったんだよ」

 

「…………」

 

「ただ…………偶然、手に入れた権能で、偉そうなことやってただけなんだ………」

 

 スバルは少し顔を横にずらして周りを見ようとしたが、レムに髪を引っ張られて元の位置に戻されてしまった。

 

「何もない…ザコの俺でも…………、みんなといれば変われるって思ったから!」

 

「やりなさい…!」

 

 涙の籠った、震える声でようやくレムはそう言った。

 

「聞いてくれ……本当に、諦めるまで頑張ったんだ……痛くて辛くても、最後まで生きようとしたんだよ……でも、急に怖くなって……」

 

 スバルは本心からそう訴えると、演技ではない心からの涙が込み上げてきた。

 

「やりなさい!!」

 

「あああああああ!」

 

 レムに至近距離でそう怒鳴られ、打ち消すようにスバルも叫び返す。

 ほとんど地面に仰向けになるくらい圧をかけられ、スバルは両手を上げた。

 

「すみません……もう許してください……………………くたばれ!!」

 

 ずっと弱弱しくそう懇願していたスバルは、レムが息を吐きだしたタイミングで尻の下に隠していた石を振りぬいた。

 ゴッ!と鈍い音がして、レムがスバルの側に倒れこんでくる。

 スバルが振りぬいた石は、完全にレムの虚を突き、その頭部を強襲していたのだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ついにやってしまったという、焦りからスバルは全身から冷汗を吹き出した。

 頭から血を流すレムは、意識が朦朧としたまま、森の切り株によしかかって座っている。

 立ち上がる力はとてもなさそうだ。

 

「動くんじゃねえ!次つきまとってきやがったらこうしてやるぞ!」

 

 スバルは、血のついた石を掲げて全力で威嚇した。

 

「お前が、お前のその傲慢さが!俺を何度も殺すんだ!」

 

「やってください……」

 

 この後に及んで、まだそんな事を言い続けるレムにスバルは石を大きく振り上げて、

 

「ごめん……」

 

 なぜか、自分の口からそう漏れたのも無視して、石を振り下ろそうとした時だった。

 

 グサッ!

 

 スバルの背中に、何かが突き刺された。

 

「っ……!」

 

 刺されたまま、スバルは振り返ると思わず固まった。

 そこに立っていた人物を見て、全身の力が抜け、思わず跪いてしまう。

 

「ごめん……俺が、悪かった……」

 

「私のせいよ……」

 

 あまりにも辛そうな表情をしたラムがそこに立っていた。

 木の枝を突き刺したその手は、泣きじゃくるように震えていた。

 

 それが、諦めて戻った夢の世界での鬼ごっこの終わりだった。

敵だったら怖い人

  • アヤマツ記憶持ちスバル
  • カサネル記憶持ちロズワール
  • 本編記憶持ちペテルギウス
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