リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
3人は、その後家に戻った。丸い木のテーブルに着席している。
スバルは餌食のドーピング効果がすでに切れていた。
今になって、レムに振るった暴力が痛ましく自分の心に返ってくる。
「考えの違いは仕方ないわ。それでも、相手の考えを強引に変えようとしたり、暴力をふるったりするのはもうやめましょう」
重たい静寂の中、初めてそう口にしたのはラムだった。
だが、スバルとレムの2人はテーブルを眺めたまま口を開かない。
「バルス、レム……。暴力を振るってしまった事、ごめんなさい」
平常時では絶対見せない態度で、ラムはそう謝罪した。
「レム……。暴力や暴言で傷つけた事、ごめんなさい。ラム……。裏切ってしまった事、ごめんなさい」
「スバル君。暴力を振るってしまいごめんなさい。姉様、暴力と、言うことを聞かずにすみませんでした」
口頭では全員が謝罪を口にした。今後、暴力が起こる事はないだろう。
全員にとって、それは安心できることだ。
だが、それぞれの考えの違いは、簡単には変えられないということも事実だった。
「ラムはもう、怒っていないわ。バルスに現実のことを思い出させてしまったわけだし……。だから、もうこの事について何も争わない」
「俺も……、争わない。暴力も口喧嘩も、不戦宣言だ……」
スバルはそう言いながらも、手の震えが落ち着かない。
胃と口内が空腹と渇きを訴えていた。今すぐ自分の血をすすりたくてたまらない。
それに、頭痛、寒気、体の震えもある。
薬物中毒者の禁断症状だ。自分の暴食の権能に苦しめられるとは滑稽にもほどがある。
「スバル君……。震えが…お体は大丈夫ですか?」
「その貧乏ゆすりやめなさい」
こんな状況で2人に気を遣わせてしまう始末だ。
「あぁ…大丈夫、し、心配いらない。貧乏ゆすりも気を付けるよ」
スバルは、レムとラムの両方にそう言って話の本題を戻そうとした。
「レムも、争いは起こしたくありません……。それでも、スバル君……」
レムは、またあの重たい目線でじっと見てくる。
スバルも、何とか真っすぐ視線を合わせた。
「なんだ……?」
「ずっと、静かに待っていますからね」
「…………分かったよ」
このレムの待っているというのは、スバルがもう一度現実に向き合う事についてだろう。
肯定も否定もすることができなかった。
現実を諦め、どうにもできないというスバルの考えは変わっていない。
「そ、それでだ。これからどうする?」
スバルは、一番恐ろしい質問を提示した。
「ここは、ラムの夢よ……。ある程度のことは思い通りにできる。だからこそ、頭がおかしくなりそうだわ」
なんでもできるというのは、動物を出現させたり、夢の世界改変ができることだろう。
自分の意思で世界が変えられるというのは、虚しくて苦しい事だ。
「傷は勝手に治り、飢えなくすることもできる。食べ物も自由に生み出すことができるわ……。でも、それはとても生きているとは言えないわよ」
ラムの説明は苦しい。
前までは、何でもできる世界でもスバルに現実を隠すという生きる目的があった。
でも、それを失ったのだ。
「この世界に老いはあるか……?」
「…………」
ラムは答えなかった。答えられないのが答えだった。
☆☆☆☆☆
外が暗くなり、夜になってもこの世界では眠ることができない。
3人が川の字で寝る夜は虚しく長かった。
「……ふぅ……」
スバルは、体の震えに耐えながら自分に指に爪で傷をつけていた。
食い込ませれば、血がにじむ。悪魔的に美味しかったあの味が忘れられない。
虚しいこの世界での、唯一の楽しみに思えてしまった。
ゴンゴンゴン!
「うあっ……と!」
薄暗い部屋の壁がレムかラムかのどちらかに強くノックされた。
「まったく。はしたないわ。それやめなさい」
ラムだった。ずっと自分の血を舐めたいと我慢していたのがバレていたのかもしれないと想像すると恐ろしい。
「あぁ。ごめんラム」
スバルは謝って、引き戸側の方に寝返りを打った。
だが、ペタペタと裸足が床を歩く音が聞こえてスバルは振り返った。
「だ……だからごめんって。やめたから……」
だが、振り返ったスバルの視界に映った人物はラムではなくレムだった。
「レム……?眠れないのは分かるけど、横になっていなさい」
一番窓側の布団で横になっているラムが目をつぶったままそう言っている。
それでも、レムは布団に戻らずにスバルの枕元に正座した。
「な……なんですか?」
スバルはレムの奇行の不気味さに眉をしかめながらそう尋ねる。
「スバル君……。暴食の権能は、体に悪いです。レムが見張っていてあげます」
そう言って、スバルの枕元に正座したまま彼女は動かなくなってしまった。
その奇行に、思わず固まってしまう。
狂っている。重すぎる感情と、壊れた傲慢さに狂い始めてしまっている。
「レムも、眠れないんだよな?」
「はい……」
夢の世界では眠れない。眠れないと人は狂ってしまう。
「眠れなくても、寝ているふりをするといいわ……まだ私達が正気なままでいられるうちに」
変わらずに目を瞑ったまま、ラムが恐ろしいことを言い出した。
だが、レムがそれに従って布団に戻ってくれるなら、この緊張感からは解放してもらえるだろう。
「こうしていたいんです……レムが見ていない間にスバル君が権能依存症になってしまったら、きっとどうにかなってしまいます」
スバルは、思わず目を開けてレムの顔を見た。
そこにいるのはスバルの知るレムではない。別の世界線でのスバルの行動に取りつかれたような狂人だった。
ここまできて、地の果ての果てまで落ちて、世界の果てのさらに深く下まで落ちてきたというのに、今更スバルの体を気遣うとは。
何を期待しているのだろうか?
その重さに、もう本当にうんざりするほど疲れ切っていた。
「面倒かけて、すまねえな」
一言だけその狂人に言葉を返し、スバルは目を瞑った。
「ハッ……面倒かけて、すまねえな」
ラムがそうスバルを馬鹿にするように、口調を真似した。
すると、その空間の空気がより一層不気味に一変したような感覚になった。
スバルは思わず起き上がって、窓際に眠っているラムを見る。
目を瞑って横になっている姿は変わらなかった。
「なんで、真似したんだ……?」
別にまねされたことにいら立ったわけではない。それどころでは到底ない。
ただ、ラムのこの行動が不気味に思えたのだ。これが、もしもラムも狂い始めている予兆だったとしたら?
「別に、ちょっと面白くてからかってみたくなっただけよ」
これは、ラムの毒舌なイジリ方や、冗談とは明らかに違う。
スバルは、不気味さに対する恐怖以外にも、不快感を感じ始めていた。
「面白いか……?だったら腹から声出して笑った方が良いぜ」
そう、皮肉を言ってまた布団に入る。
もしラムが狂い始めてしまっていて、それ故の奇行だった場合、こんな皮肉など言うべきではないのは分かっている。
だから、皮肉を言った後に後悔してしまった。
そんなことを考えていると、ラムが体勢を起こしたのが音で分かった。
スバルは目を開けて振り返る。心臓がバクバクと不安を訴えかけてきていた。
まさか、怒らせてしまったか?
いっその事、怒りだして俺をこの家から追い出してくれないか?
まだ、一人でいた方が心は休まりそうだ。
「バルス、その心の怯えが筒抜けになっているわよ。今、この家から出て行って一人になりたいと思っているでしょう?でも、それをしたらいつか孤独で寂しくなって、またラムたちが恋しくなるわよ?」
「……っ」
ラムは急に饒舌にそう話した。狂っている。狂い始めてしまっている。
スバルは、内心が簡単に見透かされたことに体の震えが止まらなかった。
「……ふぅ……」
言い返さずに、まずは深呼吸。
だが、ラムは体を起こしたままずっとこちらを見たまま動かなくなった。
今何を考えているのか、魂が壊れてしまったのか、何もわからない。
「っ!」
レムとラム、二人にずっと見られていると緊張感に耐えられなくなった。
思わず、スバルは自分の指に噛みつこうとして、レムに手を掴まれた。
やってしまった。反射的に、発作的にこの行動に出てしまった。
「ご、ごめん……」
謝って済む問題ではないのは分かっている。明らかに約束を破ろうとして防がれたのだから。
「やりました!やっぱりレムが見てないとダメですね!全力を尽くして役割を全うします!」
レムは、ブチ切れることはなく、反対に心から嬉しそうに明るくそう言った。
スバルは掴まれているレムの手を恐る恐る外すと、また布団に入り目を瞑った。
「もういい……」
「ハッ……もういい」
またラムがそうスバルの口調を真似してきたが、もうそれに反応しなかった。
☆☆☆☆☆
狂っている。狂ってしまっている。魂が疲れ、壊れている。重さに耐えられずに潰れてしまっている。
全てを諦め、この家に戻って来てから3人は数日の時を過ごしていた。
スバルは、狭い平屋の床の隅々まで掃除担当として雑巾がけをする。
バケツや雑巾などは、ラムが夢の世界の力で生み出したものだ。
「ナツキスバル。プレイヤーステータス。役職、掃除担当。特殊能力、薬物ドーピング中毒。失った能力、死に戻り。潜在能力、E……」
ちなみにこの平屋は全く汚れていない。夢の世界で部屋の隅に埃が溜まるなんてことはなかった。
こんな風に独り言を呟けるのは、今この平屋にはスバルしかいないからだ。
食事担当のレムは、外で畑を作るらしい。しばらく帰ってこないだろう。
洗濯担当のラムは外で洗濯物を干している。そのうち帰ってくるだろう。
汚れていないところを掃除する。掃除をする振りをしている。ままごとだ。
ラムはこの夢の主だ。洗濯などせずに、新しい衣服を生み出すこともできる。
でも、洗濯をしている。ままごとだ。
レムもある程度この夢の世界で好きなものを生み出せる。別にその能力がスバルは羨ましいわけではない。
ただ、食料が生み出せるのにあえて苦労して、畑を作っている。ままごとだ。
「まぁ、役割があるだけマシだよな……」
この夢の世界で役割をこなす。生きている振りをする。
魂を擦り減って、摩耗し、成仏するその時まで。
あれから、今のような束の間の一人時間に暴食の権能を貪るような悪行は犯していない。今自分の血をすすっても直ぐに傷は治るため、隠蔽できるだろう。
でも、それができないのは何となくラムに暴かれるかもしれないという不安があるからだ。
そして、ラムに暴かれた後のレムの反応は想像したくない。
「また雑巾が乾いてきやがった……。一度バケツの水で雑巾を濡らしてから乾くまでに、体感時間で3時間くらいかかるんだぜ。これ、テストに出るからノートに書いておくように……」
ガチャ。
「おっと……」
スバルは、家の扉が開いてラムが帰ってきたのを察すると、すぐにくだらない独り言をやめた。
☆☆☆☆☆
「そんなどうでもいいことで、一体何をテストするのかしら……頭の中に雑巾でも詰まってるの?」
「いやぁ‥聞いてたのかよ。記憶から消しておいてくれ、そう言う時期なんだ」
「ハッ…」
ラムに軽口を言い返すと、彼女は少し笑った。
こちらは、笑わずにため息を吐く。
「洗濯物、干し終わったの?ご苦労様だぜ」
「えぇ。じゃあ、乾いたら回収は頼んだわよ」
「洗濯担当はあなたでは!?」
「たったの3人分よ。ケチな男ね」
「……ったく。分かったよ、やってやるからさっきの俺の独り言は記憶から消してくれ」
スバルがそう言うと、ラムは何も言い返してこなくなった。
少し不安になり、床を拭く手を止めて振り返った。
彼女は、部屋の壁を睨みつけて深刻な表情をしていた。
「ラム……?」
「レムに……、あの子に水を飲ませてきて……」
苦しそうに、搾り出すようにラムはそう言った。
そして、お盆とその上にコップに水が入ったものを具現化してスバルに差し出してくる。
「でも、レムも自分で水は生み出せるぞ?……なんで持っていくの?」
スバルは薄々察している。水を飲ませに行くことは本命の目的ではない。
「レムを、あの子を見てきて……。お願い……。ただ水を渡したらすぐに帰ってきていいから」
ラムの差し出すお盆が小刻みに震え、コップの水面に振動が伝わっていた。
「何があった……!?」
「…………」
ラムはスバルの問いに答えてくれなかった。
「い、行ってくるよ!行けばいいんだろ!」
スバルはお盆を受け取り、家を飛び出した。
☆☆☆☆☆
閉鎖空間に3人が閉じ込められた時、一番楽なのは最初に狂った人で、一番苦しいのが一番まともだった人だろう。
だから、狂うならきっと早い方が良い。
スバルは、レムが畑仕事をしているところに向かった。
そして、その姿をみて思わずお盆を取り落としてしまった。
コップが衝撃で割れて、水が零れて台無しになる。
「あぁ・・!何してんだよ俺!」
「そんなことどうでもいいから!」
取り乱すスバルに、背後からラムがもっと取り乱してそう言った。
スバルに水を持っていくよう頼んだものの、ラムも後ろからついてきていたらしい。
彼女は、表情を悲しそうに歪め、レムの方を指さした。
スバルも焦ってレムの方に振り返る。今はレムをどうにかしないと大変だ。
レムは、土を掘り返して畑を作っている最中だった。
だが、作業道具を生み出したはずなのに、それが地面の離れたところに放置されてしまっている。
なぜなら、レムが素手で土を掘り返しているからだ。
「レム!やめるんだ…………」
痛々しいほどに、素手で土を掘り返している様子は見ていられなかった。
この様子を見て、ラムが帰ってきたのだと納得がいってしまう。
元々草が生い茂っている地面を素手で掘り返すと、その手は傷だらけで、血だらけでズタズタになってしまう。今のレムは、そうなってしまっていた。
「聞こえねえのか!この、やめろ!」
スバルは、土を掘り返している泥だらけで血だらけのレムの手を背後から掴んで止めさせた。
そうして、ようやくレムはスバルの存在に気づいたようだ。
「スバル君……。どうしました?」
「どうしましたじゃねえよ!道具あるなら使えって……手が痛いだろ?」
「良いんです……気にしないでください」
狂っている。狂ってしまっている。
スバルは、どうすればいいのか分からなくなってしまった。
痛ましいレムの手を離して、困ったようにラムの方に救いの視線を送った。
「レム……。さっきも散々言ったけど、お願いだからそれやめて!」
「良いんです……気にしないでください」
スバルの背後からレムの奇行を止めたラムも、まったく同じように突っぱねられてしまった。
「もう、ラムの事なんてどうでもよくなったの??」
辛そうなラムの呼びかけ、だかスバルはその発言に思わず振り返ってしまった。
「ダメだ…。それはやめろラム」
いいや、止めるのも間違っているかもしれない。両方辛くて狂いそうになってるんだ。
レムだけが狂って、ラムが我慢するのは間違っている。
ラムのその言葉に、レムの作業する手の動きが止まった。
「レム、私は貴方のたった一人の姉よ。貴方が自立していくのは嬉しい事だけど、私のことも忘れないで……」
「姉様、……どんな時も、今もレムは姉さまを愛しています……」
土まみれのレムが立ち上がって、スバルとラムの方に歩いてくる。
もう好きにやらせよう。スバルは、横にそれてラムの方に道を開けた。
「じゃあさっきあれだけ止めたのに、聞かなかったのは無視してたってことなの?」
「い、いいえ……作業に夢中になっていただけです」
レムの言い訳を聞いて、ラムは桃色の髪を掻き上げて天を仰いだ。
「……寂しい、寂しいわ。レム」
「姉様……レムは姉様を愛しています……。本当です」
レムはラムに近づくと、傷だらけの手で彼女の両頬に触れようとした。
それを、ラムに両手で強く掴まれてしまう。
衝撃に痛みが走ったのかレムが一瞬、表情を引き締めた。
「私を見て!無理しないで!相談して!体を大事にして!傍にいて!ちゃんと帰ってきて
!」
心の内に留めていたものを、強く吐き出すようにラムはまくし立てた。
限界だ。もうラムは限界なんだ。スバルはそう察してしまう。
「ここまで愛されているなんて……幸せすぎます」
「馬鹿言わないで、レムの心にはもうバルスしかいないのよ……」
それは、傍から見るスバルも分かってしまった。
レムは取りつかれている。別の世界線の英雄ナツキスバルに。
「レムは、姉様のことを愛しています。ですが、スバル君はレムの英雄です」
「っ!……ううっ…ううううう」
レムの言葉を聞いて、ラムはそう呻きながら崩れてしまい、彼女の足にしがみついた。
最愛の妹を奪われ、魂を狂わされた。今のラムの心境はどれほど残酷なのだろうか。
ドクンドクンバクバクと、その光景を見ているスバルの心臓が苦しめられる。
「顔を上げてください……。スバル君は決して諦めません。姉様のことも、諦められない人ですから」
「は……?レム、一体どんなバルスを見てきたの?」
重い重たい重すぎる。スバルは自分はそんな人間ではないと内心で強く否定したい。
「そうですよね!スバル君!」
突然、レムが横から様子を見てたスバルの方に視線を移して、大声でそう尋ねてきた。
急に返答を迫られて、スバルは自分に問いかける。
ここまで来て、俺の役割はなんだ?価値はなんだ?何のために生きて、どうしてレムを狂わせてしまったんだ?
パァン!
スバルは、自分の両頬を強く叩く。その奇行に、レムとラムは同時に目を見開いていた。
覚悟を決める。まだ正気の内に、魂がすり減って狂ってしまう前に、できることをやって行こう。
これ以上、失うものなどない。
「レム。俺に、お前の英雄になった記憶はない。でも、信じるよ」
スバルの言葉に、レムの双眸がガン開きになった。
「信じて……また英雄になってくれますか……?」
「英雄になれるかどうか、決めるのはレム、お前だ。でも、俺は見つけてやる。必ず、見つけて見せる!」
役割がある。正気がある。それは凄く幸せなことだ。
「はっ!……」
スバルのその宣言を聞いたレムは、勢いよくスバルの胸に飛びついてきた。
それを抵抗せずに受け入れる。彼女はスバルの胸に耳を付けて心臓の音を聞いているようだった。
「スバル君は……確かにここに居ますよ」
脊髄が真っ二つに砕け、内臓を全て吐き出すほどの重さを味わった。
両目を擦って誤魔化した後、スバルは口を開いた。
「レム、俺は考え続けてみる。現実のことも、お前とラムのことも」
「はい……」
「だから、レムはラムを見て、ちゃんと愛してあげてくれ」
「……分かりました」
レムの目には明らかに光が宿っていた。これが、狂ってしまった心を元に戻すきっかけになってくれたらいいと思う。
正直、考え続けても現実は変えられないと諦めている。でも、考えようとすることには確かに意味があるはずだ。
レムは、スバルから離れるとラムの方に向き直って頭を下げた。
「姉様……心配かけてしまい、すみませんでした!」
だが、ラムの視線はレムではなくスバルの方に向いていた。
何か、また魂に重さが加わった感覚が走り、心臓が撫でられた気分になってしまう。
「まさか……本当にバルスが、レムの……」
ラムも、自分の知らない世界線のスバルの可能性を見つけてしまったようだ。
顔をゴシゴシと手でこすった後に、大きなため息を吐きだして、ラムはいつもの表情に戻っていた。
「姉様……?」
「レム、愛しているわ」
落ち着いた表情で、ラムはレムに愛を告げる。
「ところで、髪が乱れているわね……」
姉のその言葉に妹は首を傾げた。
だが、スバルはその言葉に嫌な予感を感じずにはいられなかった。
☆☆☆☆☆
3人はその後家に戻ってきた。
スバルの胸の不安は何故かおさまらない。
「レム、髪が乱れているわね……」
「姉様……?」
「そこに、座りなさい」
ラムは、椅子を引くと、そこにレムを座らせた。
そして、背後に立って優しくレムの髪を手で梳かし始めた。
その平和的な光景に、スバルは胸をなでおろす。心配はいらなかったようだ。
「心地良いです……」
「当り前よ」
☆☆☆☆☆
時間が経ち、スバルは事の深刻さを察してしまった。
もう手遅れかもしれない。
あれから、2時間くらい経ったのに、ラムがレムの髪の乱れを直し続けているのだ。
「お、おい……」
「姉様……もうそろそろ、大丈夫ですよ?」
「全く、大雑把ね……。まだ髪が乱れているわ」
ラムの手の動きは最初からずっと変わっていない。
レムの髪は綺麗に整えられ、どこにも乱れは見えない。
それでも、ラムはレムの髪を梳かし続けた。
乱れていない髪を撫で続けている。
「ラム、もういいだろう…」
「静かに……気が散るわ」
まるで爆発寸前の爆弾だ。スバルは、どうラムにその奇行をやめさせるかに思い悩む。
慎重にしないと、もし爆発したら大変だ。
「姉様……外が暗くなってきています。食事担当のレムの仕事をさせてください……」
スバルはレムの表情を見た。顔は青ざめていて、明らかに顔色が悪い。
額や首元には脂汗が伝っていた。
最初は気持ちよかった姉の手も、長時間繰り返されると気が滅入ってしまったのだろうか?
想像もできない。
「もう少しで終わるから……大人しくしていなさい」
レムは足も手も小刻みに震えていた。
両手を強く握りしめて、もどかしさに耐えているようだ。
「もう少しで終わるって……それさっきも言ってましたよ?」
グシャ……
「へ…?」
突然起こった事に、レムもスバルも頭が真っ白になった。
レムが続けてやめるように促したところ、ラムは優しい動きを続けていた手で強くレムの髪を握りしめたのだ。
そして、グシャグシャに乱してしまった。
「レム……。髪が乱れているわね」
そう言って、何もなかったかのように最初からこの行為が再開された。
手遅れだ。手遅れなほどに、壊れてしまっている。
「いい加減にしろ!」
「姉様!もうやめてください!」
スバルが怒鳴り、レムは叫んで訴えた。
だが、その後同時に二人は啞然とした。
レムの頭の上で、ラムの手が痙攣したかのように震え出したのだ。
「私の役割は何…?私の居場所はどこ…?」
もう何も言えなかった。もう止めることはできない。
止めた瞬間に、ラムは完全に壊れて、二度と取り返しがつかなくなる。
「……姉様……っ……」
レムが息を殺して泣き始めてしまった。
スバルは目を逸らしてしまう。
「もう外も暗いな……。俺が、外で夕食を採って来るよ」
「スバル君……すみませんが、レムの代わりにお願いします」
ラムには、今目の前で泣いているレムが見えていないのかもしれない。
今更になって、スバルは焦り出していた。
このまま、ここに居たらみんな狂って壊れてしまう。
そして、最後まで壊れずに残ったらどんな目に会う事か。
「あぁ。ちょっと外の様子も見てきて、現実の手がかりも探してみるぜ」
スバルがそう言うと、レムの表情が明るく、笑顔になった。
「はい……!何か見つけたら後で一緒に考えましょう」
「おう……。ラム、お前は賢いから……お前にもいつか知恵を借りるぜ」
スバルがそう言うと、一瞬ラムの手が止まり顔を上げてスバルの方を見た。
「バルス、髪が乱れているわね」
「……っ!」
それを聞いて、思わず息を飲み込んでしまった。レムもそうしただろう。
スバルは後ずさりながら、扉に背中が当たるまで後退した。
「い、行ってくるぜ……っ」
「あまり、遅くならないようになさい…」
ラムはそう言って、またレムの頭を撫でる行為を繰り返し始めた。
「さ、先に風呂入ってていいよ‥」
スバルはそう軽口を零して、家から飛び出した。
敵だったら怖い人
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アヤマツ記憶持ちスバル
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カサネル記憶持ちロズワール
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本編記憶持ちペテルギウス