リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル)   作:駄々我菓子

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この世界とさよならしたい

 家を出てから、スバルは夢の森を走っていた。

 あの家では、今もレムがラムに頭を狂ったように撫でまわされている。

 早く帰らないと心配だった。

 食料だけじゃない、現実への手がかりが少しでも見つかればラムも正気に戻ってくれるかもしれない。

 

 目的は、手掛かりを見つけることだ。現実に返れるとは微塵も思っていなかった。

 希望があるだけで、ラムとレムは救われるはずだ。

 

「そう言えば、俺が食料を取って来るってことは、権能必須だよな…」

 

 禁止されていた暴食の権能。だが、それを使わなければスバルが自力で動物を狩る術はない。

 時間はなるべくかけられないので、スバルは現実への手がかりを1mmでも何か見つけられたらすぐに暴食の権能を行使して動物を狩って戻るプランを立てた。

 

「何でもいいんだ……。当てにならずにがっかりさせるような期待を持たせるだけでいい」

 

 真夜中の森を走っていて、不気味さはあった。

 風景があまり変わらないため、迷ったら流石にまずい。

 いざとなったらラムが探しに来てくれるかもしれないが、もしその時に彼女が完全に狂ってしまっていたらお話にならない。

 

 「どうせ無理なんだけどな……」

 

 スバルは、現実に戻る手がかりを探すとレムに誓ったが、それが叶うとは思っていない。

 考え続ける振りをしているだけだ。

 それは、中途半端で卑劣な行為といえるだろう。

 それでも、生きていかなきゃいけない。いつの日かふっと成仏できるその瞬間を信じて。

 現実は心底もう諦めたのだ。レムは現実を諦めていないようだが、スバルは諦めている。

 ラムは分からないが、スバルは自分側の考えだと勝手に思っている。

 

「こ、こんなバカな話があるか……!」

 

 だが、運命はスバルを嘲笑うように裏切ってきた。

 スバルは、真夜中の森の奥に光る壁を見つけてしまった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「あの時の白い壁と同じだ……。傲慢の俺は成仏したみたいに退場していったが、どういうことだ?」

 

 スバルは白く光る壁と再会していた。

 ここが、あの時と同じような森の最奥である。

 進めば、またあの白い異空間に入れるだろう。

 

「これは、紛れもない現実への手がかりだ。前回と全く同じな可能性もあるけどな」

 

 だが、前回と全く同じだった場合でも、それは情報になる。

 本当に意味がないのなら、同じ物が二度現れるはずがない。

 同じものが二度現れたという手がかりになるのだ。

 そのまま報告すればいい。深く考察する必要はない。

 情報が生きる希望になればそれでいい。スバルは、現実に戻れるとは思っていない。

 戻れたところで、致命傷はどうにもならないのだから。

 

「運命様、上等だ……とは言えなくなっちまったが。ネガティブモードで失礼するぜ」

 

 願わくば、このまま成仏させてくれないか?

 スバルが成仏すれば、レムとラムがこの夢の世界に囚われることも終わるはずだ。

 終わればいい。終わってしまえばいい。

 終わってしまえば、もう悲しまずに、狂わずに済む。

 

 英雄の出来損ないは、白い壁の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 スバルは、白い異空間へと進んだ。そこには3人の人物がいた。

 もれなく全員が、ナツキスバルであるとすぐに分かった。

 

「前回と違う展開だ……!」

 

 一人は、あのいつものジャージ姿のナツキ・スバルがいた。

 一人は、黒い和服にオレンジのマフラーをした瘦せこけたナツキスバルがいた。

 一人は、白シャツに黒いジャケットを着た正装のナツキスバルがいた。

 

「あ、あの……それぞれ自己紹介してもらってもいい?」

 

 3人のスバルたちは、スバルが白い世界に入ってきたと気づいていながら誰も口を開こうとしなかった。

 ジャージのスバルは、地面に体育座りをしたままで、和服のスバルは立ったまま地面を見つめている。その表情は一番疲れ切っていて痩せこけている。

 正装のスバルは、一番年上に見えるほど成長していて、タバコをふかしていた。

 

 スバルは、彼らが別の世界線のナツキスバルであると直感する。

 

「俺は、嫉妬のナツキスバルだ」

 

 ジャージのスバルが嫉妬のスバルらしい。

 

「俺は、強欲のナツキスバルだ」

 

 正装でタバコを吸っているのが、強欲のナツキスバルらしい。

 

 そして、和服姿のナツキスバルは黙り込んだままだった。

 あまりにも覇気のない面は生きているのに死んでいるみたいだ。

 

「あの……」

 

「こいつは、憤怒のスバルだ」

 

「そうか……ありがとな」

 

 だんまりを決め込んだ和服男の代わりに、強欲のスバルが教えてくれた。

 素直に礼は言っておく。

 強欲のスバルが一番年上で、長い年月を生きたのは確定だ。

 嫉妬より、憤怒より、精神に余裕があるようにも見える。

 

「良ければ、情報をくれないか?こうやって俺達が出会えたのはきっと奇跡だ」

 

 情報を聞いたところで、現実がどうにかなるとは思えないが、持ち帰る手見上げは多い方が良い。

 

「た、魂の抽出だよ……」

 

 情報をくれたのは、ジャージ姿の嫉妬のスバルだった。

 見るからに、こいつが一番幼いと分かる。

 

「魂の抽出?」

 

「お前が夢の世界に長くいたことで、俺はレムの魂から抽出された嫉妬の世界のナツキスバルだ」

 

「お前が……レムの英雄か!?」

 

 スバルは驚き、そして落胆もした。

 レムが狂うほど妄信していたスバルが、あまりにも頼りない姿だったからだ。

 表情からして、自信がないのが目に見えている。これでは、今の自分と変わらなく思えたのだ。

 

「俺が、レムの英雄だよ」

 

 だが、それでも嫉妬のスバルはそう言い切った。

 

「今の俺の状況は知っているのか?現実で詰んだこと、夢の世界での今のレムとラムの現状を……」

 

「あぁ。俺達の魂はお前と繋がっている。この白い空間から出たら、お前がどこで何しているかも全部見てきたよ」

 

「そうか……。じゃあ、レムの英雄として、お前だったらここから何ができる?」

 

 期待はしていない。それでも、レムが嫉妬のスバルに期待しているのなら。

 何か打開策がある可能性はゼロじゃないはずだ。

 

「レムに……合わせる顔がない……」

 

 嫉妬のスバルはそう言ってうなだれてしまった。

 その気持ちはスバルも痛いほどに分かる。

 

「現実に戻る方法もわからねえし、あの致命傷がどうにかなるとは思えねえ……。ベアトリスもなんで助けてくれないのか分からねえし、俺では……」

 

「レムは……この状況を知ってても、俺に期待してた。まだ死んで来いって思ってるようだけど、どう思った?」

 

 スバルは嫉妬のスバルに尋ねる。あのレムを作り出した張本人に、責任を押し付けるように尋ねてしまった。

 

「俺はレムの英雄だよ。それでも、あいつを取りこぼしたんだ……」

 

 嫉妬のスバルの告白に、スバルは驚いた。

 だが、それよりも憤怒のスバルが一瞬地面を見つめていた顔を上げて嫉妬のスバルを見たのがはっきりと分かった。

 

「どういうことだ……?憤怒の俺……今、反応したよな?」

 

「…………」

 

 憤怒のスバルは、また地面を見つめて黙り込んでしまった。

 それよりも、嫉妬のスバルがレムを取りこぼしたとはどういうことだ?

 レム視点では、まだスバルは英雄だと妄信したままだったのに。

 

「俺が知らない間で、レムは暴食に記憶を食われ…………その後に死に戻りして、その事実を確定させてしまったんだ」

 

「レムは、暴食に喰われたせいで現実で予知夢を思い出せなかった。そういうことだったのか」

 

「あぁ。俺はレムを取り戻せるならと思って、首にナイフを突き刺したんだ。そこで、俺の魂の情報は途絶えてしまった」

 

 嫉妬のスバルは言い切った。これは衝撃的な情報だ。

 

「つまり、レムの見た嫉妬の予知夢は、暴食に記憶を食われたところが終わりだったのか」

 

 予知夢の終わりは、ナツキスバルの死によって決まる。

 それは、どこかわからない。その後に死に戻ったスバルがいたとしても、レムの記憶は暴食に喰われたところまでなのだ。

 

「そうだな…………。レムが暴食に喰われた事実は確かに確定した。俺はその後長い時間を生き続けたから、それは合ってるよ」

 

 そう言ったのは、正装の強欲のスバルだった。

 つまり、強欲のスバルは、嫉妬のスバルと同じルートを進み、レムが暴食に喰われたところまでは同一人物だった。

 その後、強欲のスバルに分岐する何かのイベントがあったのだろう。

 

「じゃあ、強欲のスバルも…………レムの英雄ってことでいいか?」

 

 スバルは、タバコの煙をため息と一緒に吐き出した強欲のスバルにそう尋ねた。

 

「そうでありたいと思うよ。俺は、レムが暴食に喰われてから、何年たってもレムを取り戻すことができなかった。暴食だけは、ずっと見つけられなかったんだ……」

 

「強欲のお前は一番年上っぽいけど、ラインハルトの魂から抽出されたってことであってるか?」

 

 スバルの魂に干渉した人物の中で、強欲を名乗ったのはラインハルトの魂だけだ。

 

「そうだ……。俺の終わりは、ペトラに天気を教えるために死に戻ろうとしたところまでだ」

 

「は?」

 

 強欲のスバルの言った、その終わりについて、スバルは理解できなかった。

 

「いや、まぁ細かい事は良いんだが。ラインハルトはなんで予知夢がそこまで終わってるかも気づいてないと思うぜ。だが、強欲のスバルは魂の情報を抽出しただけで、俺の本体は今も強欲の世界を生きているよ」

 

「俺もそうだ……。ナイフを首に刺して自殺したけど、嫉妬のスバルは今も嫉妬の世界を生きているはずだ」

 

 強欲と嫉妬の言葉を聞いて、スバルは理解する。予知夢の終わりは、ラインハルトやレムからすれば突然かもしれないが、それは、その世界線でのスバルが死んだタイミングだということだ。

 

「嫉妬を名乗った魂はまだいたんだ。エルザとライバテンカイトスだ。エルザはガーフィールって言う奴に執着してて、ライバテンカイトスは嫉妬のお前がエミリアの騎士だと言っていたぞ。心当たりはあるか?」

 

「それは、分からない……。俺が終わった後の嫉妬の世界でのナツキスバルの歩んだ道だと思う……」

 

「強欲の俺……。お前は心当たりはあるか?」

 

「強欲の世界だと、エルザは仲間にした。そして、あのクソライバテンカイトスにはずっと会いたくても会えなかった……」

 

「その食い違っているルートの間に、嫉妬から強欲に分岐するイベントがあったっていうことか」

 

「だな」

 

 ここにきて、ようやく予知夢のしくみについての理解が深まった。

 だが、一人だけ黙っている奴がいる。

 

「もう失う物なんてないだろ?お前の情報も教えてくれないか?」

 

 スバルは、和服姿でそっぽを向く憤怒のスバルに尋ねた。

 この憤怒のスバルの情報はスバルが最も聞いてみたい事だった。

 

「エミリアとラムは、憤怒の予知夢を見た。つまり、お前の歩んだ道だ……。何があったんだ?」

 

「…………」

 

 憤怒のスバルは答えない。ここに来てから一度も話そうとしない。

 強欲と嫉妬のスバルもそれぞれが憤怒のスバルが話し出すのを待っているようだったが、奴は話そうとしなかった。

 

「…………話すことなんてねえよ‥。俺は、もう存在したくない」

 

 時間が経ち、ようやく口を開いたかと思えば、憤怒のスバルはそう吐き捨てた。

 

「助かった……みんな、ありがとう。そろそろ戻らないと……レムとラムが心配だよな」

 

 スバルは、そう言って白い世界を去ることを決めた。

 これは奇跡だ。新しい情報がたくさんある。きっとレムとラムも聞いて驚くだろう。

 

「待て!……待てよ!」

 

 だが、背中を向けたスバルに、そう叫んだのは嫉妬のスバルだった。

 

「なんで満足してるんだ?こんな情報じゃ、何も状況は解決しないだろ?もっと、現実に戻れそうな可能性を探り合うべきじゃないのか?」

 

「諦めが悪いな……。お前も、傲慢のスバルの歩んだ道は見てきたはずだ。あいつでも、諦めたんだぞ?」

 

 傲慢のスバルの記憶はスバルに予知夢としてある。つまり、スバルと繋がっている嫉妬、強欲、憤怒のスバルたちは傲慢の予知夢の内容を知っているのだ。

 あの、狂人ですら諦めたというのに、まだ嫉妬のスバルは諦めていないようだった。

 

「俺だけの情報じゃむりだ。でも、まだ強欲の俺は情報がありそうだし、憤怒の俺に関しては全然協力しようとしてないじゃねえか!どういうつもりだ!」

 

 激怒する嫉妬のスバルをよそに、強欲のスバルはまた新しいタバコに火をつけた。

 憤怒のスバルは、そっぽを向いたまま、ピクリとも動かない。

 

「お前ら……やり直したいと思わないのか!俺は、やり直してえよ!レムが、目覚めてくれてるんだぞ!おい!強欲のお前はそれでいいのか!」

 

 強欲のスバルも、嫉妬のスバルと同じく、レムの止まっていた時間を動かした功績があるはずだ。

 確かに、強欲のスバルは全ての情報を打ち明けていないように見える。

 

「じゃあ聞くが、嫉妬のお前は、もしも現実に戻れてコイツの代わりにやり直せるってことになったら、それをやる覚悟はあるのか?」

 

 強欲のスバルは、冷酷な目つきを嫉妬のスバルに向けた。

 

「どういう意味だ?」

 

「お前は、首に穴が開いた致命傷の状態からスタートする覚悟があるのかって聞いてんだよ」

 

「…………それは」

 

 スバルは、強欲のスバルの発言に共感してしまった。

 そうだ。そもそも、その状況が確定してしまったことが、諦めた全ての原因なのだ。

 

「神頼みでもしたら、致命傷が治るのか?俺が……あの詰み状況をどうにかできる情報があるって思ってるなら、それは他人頼りすぎるだろ?」

 

「…………クソ……」

 

 嫉妬のスバルは何も言えなくなってしまった。

 致命傷を治すことはできないし、死を乗り越えることも無理だ。

 それは、傲慢でも嫉妬でも強欲でも憤怒でも、誰でも超えられない運命なのだ。

 

「お前もなんて顔してるんだよ…………諦めたと言っておきながら、ちょっとは強欲の俺に期待してたのか?」

 

 スバルは、張り裂けそうになっていた心を強欲の自分に見破られてしまった。

 

「そう…だな。ラインハルトがあんまり強欲のお前のことを完璧完璧って言うもんだから、少し期待しちまってたみたいだ…」

 

 本当にどうにもできないんだなと、スバルは改めて突きつけられてしまう。

 

「クソ…………じゃあ、もう家に戻るよ」

 

 スバルは、拳を握りしめながらまた白い世界を去ろうとした。

 だが、やっぱり立ち止まる。

 

「憤怒の俺……。ラムとエミリアのことどう思ってる?」

 

 聞いておかなければいけない気がした。諦めたことは関係なく。

 

「何も、考えたくない。何も見たくない」

 

 憤怒のスバルはやっぱり地面を見つめたままそうとしか言わなかった。

 

「そうか……」

 

 スバルは、もう憤怒のスバルに聞くことは完全になくなった。

 やり直したくないほど、酷い目に会ったことだけは分かる。

 そして、それは現実になった。もう、やり直す機会は訪れない。

 

 なんだか、新しい情報はたくさん手に入れたのに、全て知らなければよかったような気がするほど、スバルはガッカリしてしまった。

 これを、明るくポジティブにレムとラムに報告するのは、道化そのものだ。

 

「待て、帰らなくていい……」

 

 だが、本当にスバルが白い世界を去ろうとしたところで、強欲のスバルがそう言ってきた。

 

「どういうことだ?」

 

「俺は、現実でやり直す手掛かりは何も知らないが……。お前の望みをかなえてやることができる」

 

「……もったいぶらずに言ってくれ!」

 

 強欲のスバルが、タバコを投げ捨てて前に出た。

 

「死なせてやる……。俺が、お前を成仏させてやる」

 

 それを聞いた瞬間、スバルは唖然とした。

 まるで、時間が止まったかのようだった。

 

 成仏だと?成仏できるのか?それは、つまりこの魂の解放だ。

 

「待て!それをやったら、俺達を信じてくれたレムを裏切ることになるだろ!」

 

 嫉妬のスバルは反発する。真っすぐに、誠実に、正義の塊みたいなことを言って反発した。

 

「お前に……俺の気持ちが分かるか!?」

 

 スバルは、嫉妬のスバルのジャージの胸倉を掴んで吠えた。

 

「……レムを、裏切って開き直るつもりか!?」

 

「お前と違って、俺はレムの英雄になった覚えはねえ!……俺だって、俺なりにどうにかしてやろうってここまでやってきた……。でも、もう無理だ!諦めたんだよ!」

 

 スバルは、流した涙を恥じることもなく嫉妬のスバルを睨みつけた。

 

「いいや…。お前が何を言っても、お前は諦められねえよ……」

 

「は?」

 

 嫉妬のスバルは急に落ち着いた口調でレムみたいなことを言い出した。

 

「俺は諦めが悪いから、成仏なんてできるわけがない!」

 

「お前……」

 

 狂人だ。傲慢のスバルも十分狂人だったが、嫉妬のスバルも負けていない。

 この男は、正気じゃない。

 

「待て。冷静に考えてみろ……。お前が成仏することは、レムを裏切ることになるのか?嫉妬の世界は続いている。強欲の世界も続いている。憤怒の世界はどうだ?」

 

 突然割り込んだ、強欲のスバルが憤怒のスバルに尋ねた。

 

「……終わったよ」

 

「そうかい……。じゃあ、そうだとして……」

 

 憤怒のスバルが自分の世界が終わったことを認めたのに、強欲のスバルは軽く流してしまった。

 

「嫉妬の世界と強欲の世界で、レムは必ず取り戻して、幸せになるだろう。あいつは幸せにならなきゃいけない人間なんだ」

 

 強欲のスバルは、あまりにも狂気的で重たい言葉を口にした。

 

「そして、お前は良く戦った。誰にも、敗れることはあるし、取りこぼすこともある。それを、永久に後悔しつづけることが、正しいのか?それはただの自己満足だぜ?」

 

「ぺらぺらと……。他人の世界だからって簡単に言うなよ」

 

 嫉妬のスバルは、強欲のスバルの言葉に納得しない。

 

「お前が何を言おうが、決めるのはこいつだ。お前は他人の世界にまで口を出すんじゃない。それはあまりにも傲慢だ。こいつが、成仏したいっていうのなら、方法を知っている俺は情けをかけてやる」

 

「お前、いつからそうやって割り切りがつくようになったんだ?それに、他人の魂に土足で上がり込むのが菜月家の家風だ。忘れたのか?」

 

 強欲のスバルと嫉妬のスバルには年齢差も身長差もあった。まるで、大人と子供の言い合いのようだ。

 それに、嫉妬のスバルには悪いが、スバルの願いはすでに傾いてしまっていた。

 

「俺にもお前のような時期があったって懐かしく思うよ。馬鹿な考え方を卒業出来てよかったと再確認できたぜ。何を犠牲にしても、心すら犠牲にする覚悟がなければ、みんなの命を守ることはできねえんだ。そして、死者に鞭打つのも俺は間違っていると思う」

 

 強欲のスバルは、そう言ってまたタバコに火をつけた。

 

「死者に鞭を打つのはやめろ。……俺以外の死者に限るがな」

 

 嫉妬のスバルも、スバルも言葉を失った。

 強欲のスバルは、ペトラに天気を教えるためだけに死ぬような奴だ。

 この年齢まで生きてきた道が、どれだけの死体を積み重ねてきたのか想像もできない。

 そして、この男は成仏する方法を知っていて、それを許してくれるというのだ。

 

「ラムと……レムが狂いそうなんだ。このまま夢の世界に閉じ込めておくなんて、……これが本当に生きていると言えるのか?」

 

 スバルも、嫉妬のスバルに強くそう問いかける。

 もう、嫉妬のスバルに仲間はいない。

 

「本当に……やめちゃうのか?」

 

 嫉妬のスバルは、最後にすがるようにそう尋ねてきた。

 

「俺は……負けたんだ。もう、楽になりたい……。ほんとうに、ごめんなさい」

 

「謝ってほしくて聞いたんじゃねえよ!おい!憤怒の俺!!止めてくれないのか!!」

 

 嫉妬のスバルにそう言われた憤怒のスバルは、ようやく顔を上げた。

 

「ようやく死にたくなったか……。俺は、お前の仲間だよ」

 

 彼は、スバルに対してそう言った。なぜか、この男の瞳に光が宿った気がした。

 そして、その瞳が大きく見開かれた。

 

「それでいい。色がついたまま、死んで来い」

 

 スバルには、その意味が分からなかったが、頷いて返す。

 世界に誰に後ろ指をさされても、もうこの世界を終わらせる。

 

「心の準備は、十分だな。ついてこいよ」

 

 強欲のスバルは、スバルの表情を見てそう言うと、タバコを投げ捨てて歩き出した。

 嫉妬のスバルはその場にへたり込み、憤怒のスバルはスバルの背中を見送る。

 そして、スバルは、強欲のスバルの背中を追って歩き始めた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 強欲のスバルと、スバルは夢の森に帰ってきた。

 この場所まで一緒に来れるのは意外だったが、2人で成仏までの道を進むだろう。

 

「あれ?景色が変わってる……」

 

「この先に、終わりがある」

 

 強欲のスバルが示す先には、森を切り開くような真っすぐな砂利道があった。

 そして、2人の傍には、一台の車がある。

 

「これ、実家の車じゃねえか……。忘れてないぜ」

 

 スバルはそう呟きながら、懐かしさに涙を零した。

 

「免許ねえけど、夢の世界だからいいだろ?」

 

 強欲のスバルが、生み出してくれたものらしい。

 スバルは助手席に乗り込み、強欲のスバルは運転席に乗り込んだ。

 懐かしすぎる、あの頃の、実家の匂いがまだこの車には残っていた。

 

「じゃあ、出発進行だ」

 

「ありがとう……」

 

 終わりに向かって、ただの一本道だ。

 運転スキルも、免許も必要ない。これが本当の結末になる。

 

 強欲のスバルは、エンジンをかけると強くアクセルを踏みだした。

 

 だが、その時だった。

 

 バリッン!!!

 

「あああああ!!!!」

 

「……っは!?」

 

 突然、強欲のスバルが座っていた運転席の窓ガラスが叩き割られて、手が車内に侵入した。

 その手は、強欲のスバルの頭を掴むと、強くハンドルに叩きつけた。

 車は急停車し、その勢いにスバルは頭をぶつけてしまった。

 

「ううっ……!」

 

 あまりに突然な出来事に、スバルは何が起こったのか分からなかった。

 意識が戻ってくると、一定のリズムの、人間の頭部が潰される音が聞こえてきた。

 

 バンッ!バンッ!ガンッ!ドチュッ!ガン!ガンッ!

 

「はっ……!?ああ!ああああああ!!」

 

 音が鳴るたびに、返り血が助手席のスバルに顔に飛んできた。

 そして、狂乱して叫び出す。目の前の光景を理解してしまって。

 

「やめろっ!!やめてくれ!ラムっ!!」

 

 勢いよく、強欲のスバルは車を発進させたはずだった。

 だが、外からラムが強襲してきたのだ。

 強欲のスバルの頭を掴んで、なんどもハンドルに打ち付けている。

 顔はすでに原型がないほど潰れていて、生きているか死んでいるかも怪しかった。

 それ以前に、あまりにも大きすぎることに、失敗し、失ったのだ。

 

「このっ!このっ!できそこない!ナツキスバルの出来損ない!死ねっ!死になさい!」

 

 バンッ!バンッ!ガンッ!ドチュッ!ガン!ガンッ!

 

 狂っている。狂い切っている。もうおしまいだ。

 ここは、ラムの夢だ。それに、千里眼があったことを忘れたのか?

 勝手にこの夢に踏み込んで、スバルを成仏させようとした。

 強欲のスバルのその行動の罪が、この結果なのか?

 

「やめてっ!やめろ!やめてください!」

 

 スバルは、助手席でシートベルトをしたままそう叫び続けた。

 だが、破壊音が収まってくると、より一層絶望を理解させられてしまう。

 

「…………死んだわね」

 

 ラムのその声が聞こえて、スバルは横目に強欲のスバルだったものを見ると、もう完全に動かなくなっていた。

 

「バルス……。こうなったのは全部貴方のせいよ」

 

「…………っ……」

 

 ラムは、強欲のスバルから手を離すと、車をぐるっと助手席の方に回り込んできた。

 スバルは、全く動けない。

 

 ガチャと音がして、助手席側の扉が開けられた。

 

 なんで、止めに来た?成仏すれば、ラムも解放されるのに。何で止めた?

 

「許さない……レムの心を奪っておきながら、裏切るなんて許さない!」

 

「…………裏切ってない……俺は、奪ってない……」

 

 ラムの手が伸びてくる。自分も顔面を叩き潰されるのかと震えたが、そうならなかった。

 手を伸ばして、シートベルトを外されたのだ。

 

「本当に……心も、体も不潔極まりないわね……こんなに髪も乱れて、顔も血で汚れていて……醜いわ……」

 

 レムの髪を狂ったように梳いていたラムが、血相を変えてここに辿り着いたことを想像すると、恐ろしくてたまらない。

 髪が乱れているのは、本当に最悪だな。

 

「帰って……レムに謝りなさい……。レムの心を奪った事、責任から逃げられると思わないで」

 

「無理だ……無理です……」

 

「無理じゃない!」

 

 そして、スバルは車から引きずり降ろされた。

 

「バルス……。レムが可哀そうだわ……」

 

 もしも、嫉妬の世界でスバルがレムの心を奪ったことを知らなければ、ラムは成仏させてくれたかもしれない。

 ただ、ナツキスバルが英雄だと知らなければ。

 

「……あの、狂人め」

 

 この世界で諦めることは許されない。

 この重さを投げ出すことは許されない。

 

 スバルは、傲慢の奴隷だった。

敵だったら怖い人

  • アヤマツ記憶持ちスバル
  • カサネル記憶持ちロズワール
  • 本編記憶持ちペテルギウス
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