リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
私の名前はラム。年齢は17歳と思いたいけれど、予知夢のせいで3年くらいは余分に年を取った気がするわね。
「レムが可哀そうだわ」
そう言って、車から裏切り者のバルスを引きずり降ろしてやった。
砂利の地面に倒れこむその醜態は、生きる屍のようだ。
気持ちはわかる、ようやく成仏できるところを邪魔されたのだから。
「あの……狂人め……」
バルスは、地面を睨みつけながら弱弱しくそう呟いた。
気持ちはわかる。身に覚えのない、自分の知らない世界線での行動の責任を取らされるのは理不尽だろう。
それも、死んで終わる事すら許されない地獄だ。
ラムは、もし自分が同じ立場だったとしたら、真っ向から全てを拒絶して重たい感情など背負っていくことはないと断言できる。
そうだと分かっていながらも、この男に諦めさせることを許すわけにはいかなかった。
それは、この世で最も愛する妹のために。
本当にナツキスバルがレムの心を奪ったのなら、それが違う世界線だったとしても、私は諦めさせたりはしない。
「成仏だなんて……。人の夢に勝手に侵入してきて、ナメられたものね」
ラムは、車の中で息絶えた強欲のスバルを冷酷に眺めながらそう吐き捨てた。
おぞましい……。この手で強欲のスバルを殺す時の感覚はあまりにもおぞましかった。
あの時、いっさい抵抗する力を感じなかったのだ。最初の一瞬に彼と目が合った瞬間、もう失敗を悟り、全てを諦めた表情になった。
あれは、あまりにも死に慣れている。死に戻りに慣れ切り、少しの失敗でも命を手放すことに躊躇しない怪物だ。
それが、同じ強欲の世界線の予知夢を見たラインハルトやロズワール様を狂わせた原因なのだと納得できる。
強欲のナツキスバルは、完璧などではない。少しの失敗も許さないほど自分を殺しきっているだけだ。
「私が、油断させたの……?」
あの時、ラムは家でレムの髪を狂ったように撫でまわしていた。
そうしていると、時間を忘れて心が洗われるように感じたからだ。
それでも、バルスが外に行く時は念のために夢の虫や動物たちの視界を利用した千里眼で見張っていた。
運命に導かれるように、バルスは白い世界に入って行くところも見ていた。
だが、その世界の中でどんな会話があったのかは千里眼の視界外だった。
強欲のスバルはバルスの魂から、ラムが狂ったようにレムの頭を撫でているところを知っていたのかもしれない。
でも、強欲のスバルが白い世界からラムの夢に踏み込み、バルスを連れて行こうとした時、急に目が覚めたのだ。止めなければいけないと思った。
彼は、成仏までの一本道や車などを生み出した。
ラムが殺したため、それらはすぐになくなるだろう。だが、それによって分かったこともある。
「ああぁあ……!!うわぁ…」
突然、我に返ったようにバルスが自分の顔の右半分を素手で拭った。
おびただしいほどの返り血がついていたからだ。
「まぁ……顔が汚れているし、髪も乱れているわね。みっともないわ」
そう言うと、バルスの顔を拭う手の動きは中断され、化け物でも見るかのような目でこっちを見てきた。
「お前……な……なんなんだその目は!」
「この夢の世界でも、ラムは傲慢の極みに達したようね」
車のサイドミラー越しに、ラムは自分の目を見た。
バルスの傲慢の権能では、目は紫紺の瞳の輝きに変わるはずだった。
だが、今のラムの目は、自分本来の桃色の輝きを示していたのだ。
それは、あの時現実の最後でラムが傲慢の極みに達した時と同じである。
まるで、生まれ変わったかのような感覚だった。
予知夢を思い出し、ロズワール様やバルスに比べたら自分など取るに足らない人物な自覚はあった。
それでも、今は違う。この傲慢の極みの力さえあれば、叡智の書や死に戻りにさえも到達したように思えるのだ。
今のラムには、傲慢の権能の力である肉体の再生や身体能力、マナの上昇などの力は失われている。それらすべての代わりに、頭脳が強化されているのだ。
「あぁあああ!」
突然、バルスは叫び出して立ち上がった。
そして、強欲のスバルが生み出した成仏までの道を走りだそうとする。
「やめておきなさい………強欲のスバルは殺したわ。その先にはもう何もないわよ」
この言葉はバルスの心を折っただろう。そして、走り出そうとはしても、走り出す勇気がないことも分かっている。
「気が狂ってる!なんで殺した!?何で話す前に殺した!?」
「すぐに止めないと、何もかも奪われると思ったから……」
そう言い返すと、バルスは言葉に詰まって眉をしかめた。
「意味が分からねえ……」
「現実に戻って、さらに助かる方法がある。強欲のスバルはそれに気づき、バルスを騙そうとしたのよ」
「えっ!?ど、どういうこと?」
驚くのは当然だ。
悔しいが、ラムより先に強欲のスバルはその方法に辿り着いていた。
だが、すぐにそこに追いつけた今、つぎにそれを実行するのは自分だ。
「貴方は弱いし、説明するのも時間の無駄だわ……。先に帰っていなさい」
「助かる方法があるのか!?それはどうやって?頼む、教えてくれ!」
あれだけ考えて、あれだけ足掻いても諦めるしかなかった現実。
それが、どうにかなる方法がようやく見つかったのだ。
あそこからやり直せるなら、本当は全てを伝えて安心させてやりたい。
「裏切り者のくせに、随分と都合がいいわね……。助けるために手間がかかる。バルスに方法を伝えたら、計画が狂うわ」
真夜中の暗闇で、ラムが見下ろすバルスの表情は桃色の輝きに照らされているようだった。
「そうか……そうだな。なら、助けてくれ……。俺は何をすればいい……」
そうだ、それでいい。
バルスのその言葉に、確かにラムは胸の内が熱くなるのを感じた。
「ただ、レムを愛してあげて……」
「…………」
「死体を片付けるわ……。先に帰っていなさい。これから自分がどうするのが正しいのか、分かるわね?」
返事がなかったバルスに、その魂に言い聞かせるように、彼の瞳に桃色に輝く自分の瞳を近づけてそう言った。
輝きの眩しさに瞳を痛めたのか、拒絶するようにバルスは目を瞑って後ずさった。
そして、力なくようやく立ち上がる。
「俺は……人間だ。お前みたいにはならない……。人間で…人間であり続ける」
そう言って、バルスは成仏までの道とは反対方向、家のある方向に向かって逃げるように走り去っていった。
「人間か……」
その言葉を呟いて、ラムは少し笑った。
バルスの言うとおりだ。自分はとっくにどうかしている。
それでも、必ずやり直して見せる。あの予知夢での後悔を、あの現実での後悔を、必ず取り戻して見せる。
そのためなら、鬼にでも悪魔にでもなれる。
「必ず、助けてあげる」
☆☆☆☆☆
バルスが去った後、ラムは車の運転席にいる強欲のスバルの死体を地面にゆっくりと下ろした。
優しく地面に寝かせて、上から見下ろす。
顔は誰かもわからないほどに崩壊がひどい。風の魔法で首を落とせば、苦しまずに殺すことはできた。
でも、それでは甘い気がしたのだ。
「ハッ……不器用な男ね……」
死体の顔に布をかぶせた後、ラムは車の運転席に乗り込んで、ドアを閉めた。
ハンドルを見つめる。血や、肉の残骸などが付着してめちゃくちゃになっている。
そのハンドルをラムはじっと見つめていた。
これで、またナツキスバルを殺してしまった。
でも、殺さなければ傲慢の極みには達することはなかっただろう。
バックミラー越しに、桃色に光る自分の瞳を見た。それが、何よりの証だ。
傲慢の極みに達した今、強化された頭脳のおかげで多くの謎が解けた。
現実でのあの最後、ラムはバルスが自分が首を噛み千切ったせいでもう助からないことを悟った。
それによって、傲慢の極みに達することができたのだ。
そして、その頭脳はバルスの特別な力を死に戻りだと正しく洞察することができたのだろう。
そして、今はこの頭脳のおかげで強欲のスバルがさっき何をやろうとしたのかが分かっている。
彼は、バルスに成仏させてやると嘘をつき、連れて行こうとした。
そして、バルスの魂を奪って自分が現実の世界でその体を乗っ取ろうとしたのだ。
「残酷な話だわ……」
そこから、多くのことが分かった。
まずは、もうあのバルスは助からないということだ。
一度、現実を諦め、夢の世界で椅子を放棄した。
それをしてしまった以上、バルスが現実に戻ることは不可能になってしまった。
強欲のスバルは、この夢の世界でそれぞれの魂から抽出されたものだろう。
彼は、バルスを騙して魂を奪い、現実に戻るために利用しようとした。
そんなことができるとは、想像もしていなかったけど、彼がやろうとしたということが何よりのそれが可能である証明になった。
そして、強欲のスバルはバルスを利用して現実をやり直したかったのだろう。
何をやろうとしているかを、バルスに正直に打ち明けることをしなかった。成仏させてやるなどという嘘をついて、利用しようとした。
それは、自分以外の何も信用していないからだ。
バルスが助からないとしても、あの男にその魂は任せられない。
誰に任せるかは、ラムが決めるつもりだ。
誰に、レムを任せられるのかを。
最大の問題は、現実に戻った後どうするつもりだったのかだ。
バルスが首に負った致命傷は、レムの治癒魔法でも治すことができない。
それでも、強欲のスバルはその解決策を思いついていたはずだ。
解決策があることが確定しているなら、それを見つけることは今のラムには容易だった。
その解決策とは、傲慢の極みの能力だ。
ラムの達した傲慢の極みは、頭脳が強化された。それは、そうなるように強く望んだからだ。
あの憤怒の予知夢で、ラムは誤った。間違ってはいけないことを間違えた。
レムの死は、バルスのせいではなかった。
そして、あの間違った憎しみのせいで、彼の人生を狂わせて怪物を生み出してしまった。
もっと賢ければ良かった。何もかも見通せられたら、何も奪われずに済んだ。
「でも、まだ遅くない……」
この傲慢の極みの能力は望んだ力が手に入るのかもしれない。
ここに達するためには、一線を超える必要がある。
ラムにとって、それはバルスを殺すことだった。
自分のせいでバルスが死に至ると悟ってしまった場合でもそこに達することができる。
そして、ラムは確信している。自分はレムのためならバルスを殺せると。
レムが傲慢の極みに達し、バルスを癒す能力を手に入れる。それが、現実での解決策だ。
あの状況で、バルスの致命傷を癒せるとしたら、それ以外に道はない。
そのためには、レムも傲慢の極みに達しなくてはならない。
でも、そこは心配していない。彼女は必ず、いつかそこに達するはずだ。
ラムは、またハンドルを見つめながら、ため息を吐きだした。
「必ず、完成させてあげる……」
ガン!バン!ガダン!!
そして、狂ったように何度も顔をハンドルに叩きつけた。
どれだけ賢くなっても、邪魔になるのはこの心だ。
この胸の痛み、苦しみは鬱陶しいほどに、なくならなかった。
ゴン!ドン!ドッ!
だから、ただの慰めにしかならないと分かっていながらも何度も顔を打ち付ける。
今さっき殺してしまった強欲のスバルと、同じになるくらい何度でも。
☆☆☆☆☆
時間が経って傷が治った後、ラムは家に帰った。
扉を開けると、言いつけを守ったバルスが、確かに中にいた。
「ラ、ラム……。レムはどうしちまったんだ?声をかけても反応がない……!」
椅子に座ったままのレムはうつろに目を開けたまま呆然と動かなくなっていた。
さっき、髪を撫で続けていたら途中からこうなってしまったのだ。
バルスは、どうしていいか分からないようで、「おかえりなさい」の言葉を言う前にそう助けを求めてきた。
「気持ちよく寝ているのよ」
「目が開いているだろ……?」
「レム……。今帰ったわ。話すことがたくさんあるけど、今はゆっくり休みなさい」
そう言うと、横のバルスが気まずそうな空気を発したのが分かった。
気にせずに、ラムはレムを優しく抱き上げると、寝室に運んだ。
布団に静かに仰向けに寝かせる。呼吸もちゃんとしているし、目を開けているところを除けば穏やかに眠っているのと変わらないだろう。
これからも、疲れていそうに見えた時はあれをやってあげるといい。
だが、愛おしい妹の顔を眺めていると、口の先から泡を吹いているのが見えてしまった。
白い綺麗な布で優しく拭ってあげる。これで、もう何の問題もない。
でも、その様子を見たバルスの怯える呼吸が伝わってきた。
「レムは、大丈夫なのか……?」
「大丈夫よ……。ところで、顔が返り血で汚れているわね」
それを言った途端、バルスが何かを察したように顔を青ざめさせたのが分かった。
「あぁ……。ごめん、なんとかするから!」
「待ちなさい」
焦りを隠せずに、バルスは引き戸を開けて居間に逃げて行った。
そこに置いてある、掃除用のバケツの水で慌てて顔を洗っている。
必死だ。血の一滴の汚れもラムに見つからないように必死に洗っている。
それを見ると、ラムは胸が張り裂けそうなほどの痛みを感じた。
怖がらせたり、怯えさせたりしたいわけではない。むしろ、あらゆる苦しみから解放してあげたい。
本当に、あの過ちをやり直してあげたいのだ。
ジャブジャブとバケツの水で顔を洗い続けていたバルスの動きが、ラムが近づいたことで止まった。
顔を濡らしたまま、不安そうな顔をこちらに向けてきた。
「やってあげるから…。そこに座りなさい」
そう言って、あごでレムが座っていた椅子を示した。
バルスは、息を吐きだして床を見つめながら黙り込む。
最初は苦痛に感じるかもしれない。それでも、受け入れられたら楽になれるはずだ。
それは、バルスにとっても、ラムにとっても、両方の心のために。
「……俺は、座ればいいのか?」
半分諦めたかのような表情で、バルスはそう尋ねてきた。
その表情を見て、完成まであと少しだと察してしまう、この頭脳に嫌気がさした。
「えぇ。そう言ってる」
そう返すと、観念したようにバルスは椅子に座った。
死んだような目になり、心なしか憤怒の予知夢でのバルスと同一人物なのだと再確認させられてしまった。
その時、ラムを激しい頭痛と嘔吐感が襲った。
手足が痙攣するほど震え、叫び出したいほどの苦しみを心が訴えていると分かった。
「ラム……?」
そんなこちらの様子を見かねてか、バルスの方に声をかけられてしまう始末。醜態だ。
「まずは、ラムの手が血で汚れているわね……」
バルスが顔を洗っていたバケツの水に、ラムは両手を突っ込み、皮膚ごとはがれ落とすかの勢いで手を洗い始めた。
本当に、この手は血で汚れていて、バケツの水はすぐに赤く濁ってしまった。
それでも、洗い落とす。なんどもなんどもこすり続けて。
背後にバルスの視線を感じながらも、ようやくラムは手を洗う行為をやめた。
全く綺麗にはなっていないが、キリがない事に気づいたからだ。
今、自分の手を洗っていることが何よりの無駄な行為だ。
「待たせたわね……」
「…………」
バルスの方に振り返ったが、返事がなかった。
心の声が漏れていると教えてあげたいくらい、分かりやすい表情だ。
「とうとう、自分の番が来たか」と、そういう顔をしている。
早く、楽になりたい。この胸の苦しみから解放されたい。
ラムは、逸る気持ちを抑えながら血で濁ったバケツの水に雑巾を入れて、それを絞った。
レムの乱れた髪を治している間、この心が洗われているかのように救われる気持ちになった。
思わず、時間を忘れてしまいそうになったほどだ。
今日で、方法も見つけることができた。自分が何をすればいいかも分かった。
でも、そのためには自分だけは冷静でいなければいけないと、ラムは思う。
最初は苦痛に感じるかもしれない。時間がかかってしまえば、かなりの不快に感じるだろう。それでも、この心は洗われたかのように救われて、また頑張れるから。
レムのように、これを受け入れればバルスも楽になれるはずだから。
早く、狂ってしまいなさい。
「俺は……人間だ……人間であり続ける…」
バルスのその言葉には返事を返さずに、雑巾を絞り切った。
椅子に座っている彼の前に屈みこんで、真っすぐ向き直る。
「目に入らないように、閉じていなさい」
バルスの顔の右半分にはかなりの量の返り血がついていた。
だが、勝手に自分で洗ってしまってせいで、ほとんど落ちてしまっている。
それでも、ラムは雑巾で顔の右側を優しく拭ってみた。
その瞬間、目の前のバルスが一瞬で見えなくなったかのように感じた。
こうされていることに、嫌がっているように見えなくなったのだ。
そして、レムの時と同じように胸の苦しみや痛みが和らいだ。
もう一度拭えば、自分の心も少しずつ洗われていくように感じられた。
それが、どういう心の考え方の結果なのか、今の頭脳なら分かってしまう。
分かってしまっていても、それは心地が良かった。
罪悪感の相殺、人間としての飢え、あの方への復讐、その全てで確かにこの心は救われているのだ。
「バルス、ここから、ゼロから始めましょう」
敵だったら怖い人
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アヤマツ記憶持ちスバル
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カサネル記憶持ちロズワール
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本編記憶持ちペテルギウス