リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
この夢の世界で、10年の時間が過ぎていた。
ここは、現実ではない。どれだけ時を過ごしても、肉体が成長することも、老けることもない。
たとえ、このまま10万年が過ぎたとしても。
変わらない場所。脅かされない平穏。
今日もこの平屋で、3人は生き続けている。
いつか、10年か前からも変わらない。朝食はいつだってふかし芋だ。
食卓も10年前から変わらない3人が座っている。
ラムは芋を一口かじり、いつものように気だるげな視線をスバルに向ける。
「……バルス、食べ方が下品。もう10年経つのに、直らないのね」
呆れたような口調だが、そこに棘はない。むしろ、これがこの食卓のリズムだった。スバルも慣れた様子で肩をすくめる。
「それは、姉様が俺を監視するフィルターが厳しすぎるだけだぜ?ごちそうは勢いよく食べた方が見てる方も気持ちいいんだよ」
そう言って、大口で芋にかぶりついた。
「ハッ・・・・・・高い店には連れていけないわ」
隣に座るレムは、そんな二人のやり取りを見て、静かに微笑んでいた。十年前とは違う、確信に満ちた穏やかな表情。
「姉様のその言い方、もう挨拶みたいなものですね」
彼女は芋を一つ手に取りながら、視線をスバルに移す。
「スバル君、今日も美味しそうに食べてますね」
そこには、もう不安の色はない。ただ、この変わらない時間への、深い安堵と愛おしさだけがあった。
「熱さ加減よし、塩加減よし、一緒に食べる人よしだからな。美味しいに決まってる」
何度も繰り返す。同じ日常を、脅かされない楽園での平穏を。
「・・・・・頃合いになってしまったわね」
2人より早く、ラムは芋を食べ終えると、いつもより少しだけ長く、二人の顔を見つめた。何かを見極めるような、値踏みするような視線。
そして、静かに皿を遠くに避ける。
「……レム、バルス。真面目な話をするわ」
その声の調子に、いつもとは違う重みを感じ取ったのか、レムとスバルが同時にラムを見た。
「10年、待たせた。……でも、もう十分。ラムは、確信した」
窓の外に差し込む変わらない光を一瞥してから、続ける。
「現実に戻る方法があると……ずっと、そう言ってきたわね。今日、それを話すことにする」
皿の向こうで、ラムの瞳が真っ直ぐにスバルを捉えた。
「バルスは、死ぬことになる」
ラムのその一言で、まるで時間が止まったかのようにこの平屋は凍り付いた。
スバルは、胸の中でその言葉を咀嚼し、消化する。
「あぁ。分かった」
心のどこかで、いつかこうなると思っていた。
強欲のスバルがやろうとしたこと。それは、スバルの魂を引き継いで現実でやり直そうとしたのだ。
ラムの計画にも、スバルの死は必要だったのだ。
この夢の世界に閉じ込められるきっかけとなった、椅子の放棄。それをした時点で、今の自分に現実に戻る資格はない。
だが、納得したスバルとは正反対に、隣のレムが勢いよく立ち上がった。
ガタン、と椅子が倒れる音が食卓に響く。
「待ってください!!」
レムの声が、平穏だったはずの空間を切り裂いた。十年の重みの拒絶が、その瞳に宿っている。
「姉様・・・・その計画は、認めません!」
ラムは、座ったままテーブルを見つめている。それを絶ちあがったレムは恐ろしい剣幕で見下ろした。
当本人のスバルも、何と口を挟んでいいか分からない。
「レム・・・・まだ話は終わっていないわ」
「代わりの方法を探してください……! お願いします、姉様……! スバル君を、殺さないでください……!」
レムは声を張り上げながらも、その言葉の端々には、崩れ落ちそうな恐怖と絶望が滲んでいた。」
ラムは、テーブルに手をついて叫ぶレムを、しばらく黙って見つめていた。取り乱す妹の姿に、心が揺れないわけがないと、スバルには分かる。それでも、姉のその瞳は揺らがなかった。
「レム・・・・。ラムは、綺麗ごとを言うつもりはないわ。バルスが死ななければいけない・・・・バルスを、殺さなければいけないわ」
そこで一度、言葉を切る。レムの荒い呼吸が、静まり返った部屋に響いていた。
「バルスは、夢と現実を繋ぐ椅子を放棄してしまった。だから、もう帰れないの。でも、この魂を別の世界線のナツキスバルが引き継げば、現実に戻れるわ」
ラムは椅子から立ち上がり、レムの震える手に、自分の手を重ねた。
「レム・・・・あなたは強い子よ。だから、決断できるって信じているわ」
スバルはその様子を見て、確信した。レムがスバルに期待し、どんな絶望でも乗り越えられると疑わないように、ラムもレムに期待しているのだ。
この日のために、ラムは十年の時を過ごしてきた。
どんな思いで、毎日自分と会話をしていたのか、彼女の本当の強さを魂で思い知らされる。
スバルは、真っすぐにレムを見据え、彼女の決断を待った。
レムは、姉の言葉を受け止めようと必死にもがいていた。握られた手は震えたままだが、その震えは怒りから、別のものへと変わりつつあった。
「……姉様……」
掠れた声で呟き、俯く。涙がぽたぽたとテーブルに落ちていく。
「分かってます……頭では、分かってるんです……。このままじゃ、いけないって……。でも……」
顔を上げ、今度はスバルへと視線を移す。縋るような、それでいて確かめずにはいられないような瞳だった。
「スバル君……」
声が震える。
「本当に、いいんですか……? 本当に、死ぬことを、受け入れられるんですか……? レムに、そんなに簡単に……頷いてほしくないんです……」
一歩、スバルに近づく。
「もし、スバル君が少しでも……死にたくないって、怖いって……そう言ってくれたら……レムは、こんな決断、絶対にできません……。だから、お願いです……教えてください……」
震える手を伸ばし、スバルの頬にそっと触れる。まるで、この温もりを最後に確かめるように。
「スバル君の、本当の気持ちを……聞かせてください」
スバルは、レムから目を逸らし、ラムを見た。
彼女は、口先から血を流していた。唇を噛み切ったのだろう。
十年間、そうして耐えてきたのだろう。一人に抱え込ませて申し訳ないと心から思う。
でも、その犠牲がなければ誰も救われない。そう分かっているから。
スバルは改めてレムに真っすぐ向かい合う。
「俺は、この家が好きだ。レムとラムが大好きだ。だから、現実の2人を救いたい」
立ち上がって、ラムの方にも体と視線を向ける。
「俺が諦めて椅子を放棄しなかったら、ここでの生活もなかったし、詰みセーブをどうすることもできなかった。ここで起こったすべてに意味があったんだ」
瞳が沸騰すると錯覚するほど、熱い涙が流れる。人生最後の瞬間が近づいている。
「もう一度、ここから、ゼロから始めよう」
ナツキスバルの物語をやり直す。この自分自身の魂を引き継いで、それがどの世界線のスバルになっても大丈夫だ。このレムとラムへの愛は永久に不滅なのだから。
レムの手がそっと、もう一度スバルの頬に触れた。
「スバル君……」
震える声で名を呼び、それでも、もう縋ることはしなかった。代わりに、両手でスバルの頬を包み込む。
「ずっと……ずっと、この十年、幸せでした。レムは、スバル君に出会えて……本当に、良かった」
彼女は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、精一杯の笑顔を作ろうとする。
「行ってらっしゃい、スバル君。……どんな世界線のスバル君になっても……この十年の愛は、レムの中で、永遠に消えません」
そっと、額を合わせる。最後の温もりを刻み込むように。
「だから……向こうで、ちゃんと生きてください。レムの、運命の人」
「ありがとう・・・。」
スバルは、短く返すと、レムの両手を静かに包みこんだ。
そして、次にラムとも向き合う。
「……バルス」
声が、わずかに震える。十年分の想いが、その一言に凝縮されているようだった。
「よくやった、なんて……ラムは、言わない。バルスにこんな決断させたこと、一生、ラムは背負う」
血の滲む唇を、また強く結ぶ。それでも、視線だけはスバルから逸らさなかった。
「……ありがとう。バルスがいたから、レムは変われる。……ラムも、この十年、幸せだった」
そして、静かに手を伸ばし、スバルの胸にそっと触れる。かつて確かめた鼓動を、最後にもう一度。
「――行きなさい。そして、生まれ変わってもラムたちのところに帰ってきて」
「あぁ。・・・・行ってきます!」
スバルは、滲んだ視界のまま笑顔で2人に別れを告げる。
そして、平屋を出る。もう一度、最後に死地に向かうために。
☆☆☆☆☆
森を歩き続け、やはりあの白い壁は存在していた。
スバルは、しっかりとした足取りで白い壁をすり抜ける。
目の前には真っ白な空間が広がっていた。
「待たせたな」
目の前には4人のナツキスバルがいる。
傲慢、強欲、憤怒、嫉妬の4人だ。
スバルの人生はここで終わり、その意志は彼らに引き継がれる。
それぞれの後悔を、現実でやり直す。
敵だったら怖い人
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アヤマツ記憶持ちスバル
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カサネル記憶持ちロズワール
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本編記憶持ちペテルギウス