リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
痛い。喉が、首が、心臓が、心が、悲鳴を訴えている。
激痛の海に溺れている。
「・・・・っ!・・・・・・ヒュッ」
場所は、ロズワール邸。
捕らえたメイリィが隠し持っていた黒い玉から出現した暴食の大罪司教、ライバテンカイトス。
ラムが奴を打ち取った。だが、ライはこの屋敷にゴブリンラッシュとレイド・アストレアを遺した。
レイド・アストレアが出現した原理は、嫉妬の世界線の記憶を統合したことで解明された。奴の正体は、ロイ・アルファルドだ。
ロイ・アルファルドが見た嫉妬の予知夢で、奴の肉体をレイドは奪っていた。
そして、予知夢を見ただけでもう一度その魂に食われることになったのだ。
そんな伝説の男を、ラムが鬼化の暴走で引き分けに持ち込んだ。
打ち取られた暴食の魔女因子は、スバルの体内へと移動し、この世界の餌となる餌食の呪いをかけてしまった。
だが、運命はそれだけでスバルを許さない。
鬼化の暴走は、それを発散する敵を失った。
メイリィは逃走し、理性がないと思われたゴブリンは、鬼を恐れて近づいてこなくなった。
ベアトリスは最後まで現れず、事故が起こってしまった。
暴走したラムは衝動的にスバルを攻撃してしまったのだ。
傷は、首の喉がガッツリ食いちぎられるという絶望的な致命傷であり、死は避けられない。
その死に戻りのリスタート地点は、致命傷を受けた直後だった。
そこから、諦めの悪さを発揮し、心が折れ、成仏を願った。
そして、ナツキスバルは完全に死んだ。
その記憶は、4つの世界線が統合したスバルに引き継がれる。
また、激痛の海に帰ってきたのだ。
「・・・・っ!・・・・ヒュゥ・・・!」
傷は深い。何がどう変わったのか。ここからどう救われるのか。
そもそも、スバルは4つの世界線の記憶統合のせいで、自分が何に喜びを感じ、何に怒るのか、あやふやになっていた。
何のために、ここに戻ってきたのか。
それを考えるより早く、その命は死へと走り出している。
それでも、見えた。見えてしまった。
4つの世界線を統合したのにもかかわらず、目を開けたスバルの視界は白黒だったのだ。
心当たりしかない。この世界の色は、あの時から変わっていないのだ。
「・・・・っ!・・・・ヒュゥ・・・!」
喉から息が漏れるはずが、開いた傷から出ていったような気がする。
これは、ナツキスバルの歴史の中でもかなり激痛ランキングの上位に食い込むだろう。
それでも、その全てを覚えられないくらいの傷を、この魂は経験していた。
痛いのも、死ぬことも、全く怖くない。本当に怖いのは、失って、それを取り戻せなくなることだ。
だから、スバルの魂は決してこの激痛の海に溺れない。
この世界でやりたいことがたくさんある。
世界が白黒でも、そこに愛する人々は存在する。
『そんなに、魔女の匂いをプンプンさせておいて、何も知らないなんて白々しいにも限度がありますよ』
『絶対に殺してやる!』
『姉様は、優しすぎます』
『今までの非礼をお詫び致します。ナツキスバル様』
見なければいけない。この2人を見なければ、そこに色がついているかどうかを確定させ、受け入れなくてはいけない。
トラウマを全て覚えている。
そして、あの楽園での10年も全て覚えている。
ならば、今のスバルにとってこの2人の存在は、
「ッ・・・・・ぐ!」
思わず、激痛にガタガタと震える歯を強く噛みしめてしまった。
白黒だ。レムとラムは白黒だった。
2人の色が見えない。白と黒しか見えない。
レムは色がついているまま死んだはずだ。その時、スバルはまだこの症状に見舞われていなかった。
ラムは、最後まで色がついていたはずだ。その憎しみだけを裏表のない感情だと信じてきたのに。
まさか、あの憤怒の世界でラムがずっと自分を憎む演技をし続けていたなんて、知らなければ。
「あ・・・っ・・・!!」
だが、涙で滲んた視界は新しい色を見つけていた。
白黒で構成されたレムとラム。その二人の瞳だけは神々しい色で輝いていたのだ。
これは、二人が傲慢の極みに達していることを意味している。
あの夢の世界でスバルを殺し、傲慢の極みに達した二人は、傲慢の権能を通して、その力を現実でも目覚めさせていたのだ。
見える。青く輝く瞳と、紅に輝く瞳が見えた。
「立ってください・・・スバル君!」
力強く、青が叫んだ。そして、傲慢の権能の力が行使される。
シュウ!シュウ!シュウ!
スバルの穴が開いた喉から、白い蒸気が吹き出して、再生が始まっていた。
この再生は傲慢の権能の力で、スバル以外にもたらされる恩恵だったはず。
スバルがこの再生に救われるのは初めてだ。
何が起こった?
ラムは傲慢の極みに達し、傲慢の権能で彼女に送り込まれる再生の力、マナ、身体能力の強化などを失い、頭脳が強化された。
それがなければ、あの夢の世界からこの現実に戻ってきて、こうやってスバルの致命傷が救われることはなかった。
ラムの計画は成功したのだ。
そして、その力は世界をも支配できる。死に戻りに匹敵するほどの力だ。
その賢さは、スバルが死に戻りをしていると、洞察できるほどの賢さなのだから。
でも、サテラは現実で現れる気配を見せていない。
これは、スバルが死に戻りを教えた訳でもなく、死者の書やエキドナを通じてラムがその事実を知ってしまった訳でもない。
強化された頭脳で、自力で気づいただけだ。
そもそも、どういう経緯でこの事実に辿り着いたのか、彼女の頭の中をスバルが創造することなんてできない。細かい認識の違いも存在するかもしれない。
まだラムが間違って解釈している可能性もある。ロズワールだってスバルのやり直し力があることを叡智の書を通じて知っている。
だから、これはサテラの顕現が発生しないということなのか?
シュウ・・・シュウ
再生が終わった。もう、この体に傷は残っていない。
ナツキスバルは蘇生したのだ。
「立ってください・・・まだ終わっていません」
その声に驚き、スバルは横たわったままレムを見上げた。
何度確認しても、白黒の体に青く輝く瞳がついている。
もう、否定することはできない。彼女も達してしまったのだ。
スバルの死に戻りでは、手の届かない境地に。
「・・・・・・俺は、馬鹿か・・・」
そう呟きながら、勢いよく飛び起きる。
綺麗さっぱり再生した首を手で撫でて確かめる。
世界を塗り替える権能の恐ろしさを身をもって体感させられた。
知りたいことはどれだけ考えても分からないのに、知りたくないことだけは嫌なほど頭が回る男だと自覚している。
ラムは、頭脳で死に戻りに匹敵するほど強化された。
そして、レムは?
傲慢の権能で自分自身が再生、回復される恩恵を、自分の代わりにスバルに反映させる力を手に入れたのだ。
もう、スバルはこの力でレムを回復させることも、強化してやることもできない。
だが、それだけではない。本当に恐ろしいことがある。
レムは、スバルを死なせない力を手に入れた。
スバルは、もう死ぬことができない。死に戻りを失ったのだ。