リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
私はレム。姉様のレムです。
「この力をくれたのはスバル君ですか?」
何が起こったのか、自分でもよく分かっていない。
このロズワール邸の地下で、スバル君が致命傷を負ってしまった。
それに脳は衝撃を受けていたが、別の衝撃がそれを塗りつぶしてしまった。
スバル君から、傲慢の権能で力をもらうことができる。
でも、今自分が達したこの傲慢の極みはその再生の力をスバル君に送ることができたのだ。
原理を理解してこれをやったわけではない。なぜか、体が勝手に動いたようだった。
スバル君は、自分の首元に触れ、傷がなくなったことを確かめている。
何かを呟きながら立ち上がって、酷く動揺しているようだ。
呆然と自分の手のひらを見つめ、それから自分と視線が合った。
「……レム、お前……」
声がかすれている。どうしてそんなに悲しそうな表情をするのか分からない。
致命傷が、助かったのに。まるで、大切なものを失くしたかのような表情だった。
「スバル君・・・?」
「傷を治してくれてありがとう・・・。これは、お前が決断して、お前が手に入れた力だよ。俺を救ってくれたんだ」
スバル君の、辛そうな表情が変わった。何か彼の心の中で苦しい事実を受け入れたように見える。
この力は、レムが決断して、自力で手に入れたと言われたが、さっぱりわからない。
それでも、魂から強い感情の重さを感じる。それは、間違いない。
その傍らの、姉様と目が合った。
鬼化の暴走からは、明らかに解放されている。角もひっこんでいる。
まさか、姉様の暴走する姿を目の当たりにするなんて思わなかった。
それを望んだのは、レムで、全ては自分の責任だ。
だが、姉様の表情を見て、自責の思考が塗りつぶされる。
彼女の瞳には、何かを見透かし、重大な事実に辿り着かのような鋭い洞察の色が宿っている。
すぐに、姉様も傲慢の極みに達したのだと理解できた。
傲慢の権能の構造もよく分からないが、傲慢の極みという言葉はしっくりくる。
スバル君から力を引き出すというやり方が終わったのだ。もう、彼から何の力もひきだしていない。完成された傲慢の権能を自力で行使している感覚だ。
そのおかげで、レムはスバル君に再生の力を反映させることができたが、姉様がどんな力に目覚めているのか、分かっていない。
しばらくの沈黙の後、姉様はゆっくりと口を開いた。
「・・・・バルス」
短く名を呼ぶ。それだけだった。
ただ、深く理解したような、それでいて何も暴かない、静かな眼差しだけがスバル君に向けられている。
視線がわずかに揺れ、そこには複雑な感情――哀れみでも、非難でもない、もっと深い何かが滲んでいた。
姉様は、それ以上何も言わずに、ただスバル君の肩にそっと手を置いた。
「何も言わないでくれ・・・・何も・・・」
スバル君は、レムに向けた視線以上に姉様に対して恐怖心を示した。
もう姉様は鬼化の暴走から解放されている、ことはスバル君にも分かっているはずだ。
だから、何に彼が怯えているのかは別の理由だろう。
「クソ・・・マジで最悪だよ、チクショウ!!」
片手で顔を覆い尽くし、感情をむき出しにしている。
「大丈夫・・・。何も言わないわ」
スバル君の肩を優しくさする姉様は、ただ静かにそう言った。
「姉様・・・、スバル君、大丈夫ですか?」
スバル君は顔を覆ったまま、肩を震わせていた。押し殺そうとしても抑えきれない何かが、喉の奥から漏れ出してくる。
「……なんでもない」
掠れた声で、それだけを絞り出す。
「ただ……色々、限界だっただけだ。悪い」
顔を覆う手を、ゆっくりと下ろす。目元は赤く、涙の跡が滲んでいた。それでも、無理に笑おうとする。
姉様は、スバル君の肩を優しくさすり続けていた。何も追及しない。何も暴かない。ただ、その存在を受け止めるように、静かな温もりだけを差し出していた。
「……いいの。今は・・・いいえ、今後も何も言わなくて」
視線はスバル君に向けたまま、静かな声で続ける。
「バルスにも、バルスの事情がある。……それだけ、分かれば十分よ」
そう言って、レムの方へも視線を移す。
「レム。バルスは、大丈夫。……ただ、少し疲れただけ」
そこには、深く理解した者だけが持つ静かな眼差しが、そこにはあった。
「俺は、二人がどんな力に目覚めてるか、なんとなく分かってる」
スバル君は、改めてこちらに向き直るとそう言いだした。
「正直めちゃくちゃ辛いし、苦しい。二人が遠く、手の届かないところに行っちまったみたいだ。何より俺がかっこつけられねえ。はは・・・・」
無理に笑おうとしているが、目が笑えていない。
それを指摘してあげようと思ったが、それより早く彼の表情が崩れた。
「俺は受け入れる!今日、この瞬間から変わるんだ。でも、ラム・・・。もしよければ、今気づいた事、記憶から消してくれねえか?」
「前半と後半で言葉が矛盾してるわよ。後・・・・そんなことラムが許すわけ・・・」
そこまで、言いかけて姉様は言葉を中断した。
輝く紅の瞳が、また何かを悟ったかのように見開かれている。
「姉様・・・?」
レムは交互に姉様とスバル君に視線を往復させた。
新たに気づいた事実に驚く姉様と、何かを悟られたことに対して怯えているスバル君・・・でも、やっぱり自分には分からず、ついていけない。
「そこにいるのね。あの予知夢でラムが殺したバルスが」
視線をそらさず、真っすぐにスバル君を見据えている。
今の衝撃の発言に、レム的には口を挟みたかったが、我慢しなくては。
「・・・・そうだ。俺は、ここにいる」
スバル君は、ごまかしも否定もしなかった。
「そうね・・・。十分よ、後は心の準備ができてからでいいわ」
「マジでごめんなさい!・・・・・・俺は、やり直すために戻ってきた。もう一度、生きたい。あの時の後悔を、取り戻したいと思ってる」
姉様も気遣いを振り切り、スバル君は言い切った。
その謝罪には、言葉には表せられない重みがある。
一体どんな出来事があったのだろうか。そこに、自分も無関係ではない気がする。
「謝るのはラムの方よ。ごめんなさい」
姉様も、スバル君に謝罪の言葉で返した。だが、スバル君にはその言葉を受け入れる準備ができていなかったようで、狼狽えている。
「は?その顔は何?」
「いやぁ・・・。いろいろ別の記憶が混ざっちゃってて。俺、ラムに謝られるのトラウマになってるみたいだ」
何を言っているのかレムにはさっぱりわからない。色々な記憶が混ざってる?
でも、今は口を挟むべきではない。
「確かに色々混ざってるわね。なんで今バルスが別の世界線の予知夢を思い出したのか分からないけど・・・・」
レムが傲慢の極みに達した事と関係があるかは分からないが、スバル君の中にも何かが変わる出来事があったらしい。
今は姉様の推理力だけが頼りだ。
「色々が多すぎて、克服できてないことがたくさんある。生きてくって難しいよな」
「ラムの見てきたバルス以上に、苦しい世界なんてあったのかしら?」
姉様のその言葉に、スバル君は考え込んでいる。
スバル君が複数の世界線の記憶を思い出したのは本当のようだ。
「お前に敬語使われたり、よそよそしくされたり、謝られたりした記憶が寂しすぎて吐きそうなんだけど・・・思い出させるのやめてくれない?」
「ハッ・・・そんなことがあったなんて、バルスのくせに生意気だわ」
かなり重たい話をしているはずなのに、姉様はスバル君にそう毒づいてしまう。
それでも、スバル君の表情が少しだけ明るくなったように見えた。
それ以上に、姉様も救われているとレムには分かってしまった。
姉様の見た予知夢は、きっと想像もできないほど辛いものだったはずだ。
同じ世界線の予知夢を、今のスバル君が思い出したとして、姉様に最後は殺されたのも事実だとする。
それでも、スバル君がもう一度生きたいと言ったのだ。
隣で聞いているレム以上に、姉様の心に強く響いたはずだ。
「言いたいことはまだまだ山ほどあるけれど、そろそろレムに譲ってあげるわ」
そう言って、姉様はこっちを見てくれた。
「ありがとうございます・・・・。って言ってもいきなりすぎて何を言ったらいいか・・・」
何から言おうか迷っていると、先にスバル君の方が問いかけてきた。
「レム・・・・。暴食の野郎に食われた予知夢は思い出したか?ひょっとしてこの瞬間とかに・・・」
その問いには、希望に縋る感情が感じられた。傲慢かもしれないが、分かったのだ。スバル君は、レムの知らないレムを強く求めていると。
そして、その問いを聞いたおかげで、自分の中での迷いがスッと消えていくような気がした。
「いいえ。何も思い出せていません」
スバル君は、レムの答えを聞いて、一瞬だけ肩を落とした。それでも、無理に隠そうとはしなかった。
「……そうか」
短く呟き、それから真っ直ぐにこちらを見つめる。
「正直に言うわ。俺は……お前の知らないお前を、すげぇ取り戻したいと思ってる」
言葉を選びながらも、誤魔化さずに続ける。
「レムの予知夢は、その世界線で暴食に食われちまったんだ……。それを、また取り戻してほしい。無理に思い出さなくていい、なんて……悪い、それは言えない。俺は、本当は、思い出してほしいんだ」
拳を軽く握りしめ、それでも視線は逸らさない。
「勝手な望みだって分かってる。……でも、これだけは正直に言わせてくれ」
一度、深く息を吸う。
「俺自身、夢の話なんだが……俺の知らない『英雄のスバル』を勝手に押し付けられて、すげぇ辛かったことがあるんだ。お前が知ってる俺じゃない誰かを、俺に重ねられるみたいでよ」
スバル君は、苦笑にも似た表情を浮かべる。
夢の話が始まってしまったが、なぜか夢だと思えない。聞き逃してはならないと、レムは感じてしまう。
「だから、もし俺の今の言葉が、お前にとって同じように重荷になるなら……ちゃんと相談したい。無理強いはしたくない。お前が、それを望まないなら、それでもいい。・・・・・・・・・・良くないけど」
スバル君は真剣な眼差しのまま、レムの返事を待った。
なんて不器用な人なんだろう。
一言でまとめると、「俺の記憶のレムが忘れられないから何とか思い出してくれ」で合っているはずだ。
なんだか、おかしくなって少し口角が上がってしまう。
そう不器用に言われなくても、この魂は強く望んでいた。
傲慢の極みに達してから、このレムの魂は、奪い去られた予知夢の記憶を強く求めている。
それは、スバル君のためではない。レム自身のために。
理由なんて分からない。理屈なんて分からない。
でも、この予知夢の記憶がなければ、自分は幸せに生きていけない。そんな気がする。
これを取り戻せなければ、いつもどこか足りないという不満を積もらせていかなければならなくなりそうだ。
「なんで・・・・笑うんだ?」
「必ず、忘れてしまったレムの予知夢を取り戻しましょう。スバル君は、レムの力で死ねなくなりました。その意味が分かりますね?」
力強くスバル君に1歩近づいて続ける。
「勘違いしないでください。この予知夢を一番強く望んでいるのはレムです。だから、思い出すまで、死ぬことも、諦めることも許しませんからね」
スバル君は、レムの言葉を受け止めた瞬間、大きく目を見開いた。
「……レムが、望んでる……?」
呆然と繰り返す。彼は自分自身の中にあった勘違いを理解して、救われたような表情になる。
「はは……っ」
込み上げてくるものを堪えきれず、スバル君は泣いた。乾いた笑いと一緒に、安堵の息が漏れている。
「そうか……お前が、望んでくれてるのか」
「はい・・・。必ず、思い出します」
強く答えれば答えるほど、スバル君の魂が熱くなるのが分かった。
そして、それはレムの魂も同じで、
「あぁ……分かってる。そのために戻ってきたんだからな」
スバル君は真っ直ぐにレムを見つめ返し、力強く頷いた。
「絶対に、諦めない。お前が思い出すまで、俺も一緒に足掻いてやる。……ありがとな、レム」
その声には、これまでとは違う、確かな覚悟と、隠しきれない喜びが滲んでいた。