リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
ロズワール邸の地下、立ち上がったスバルは自身の肉体を確かめる。
完全に無傷だ。あれだけの致命傷の後遺症は全く感じられない。
唯一といえる傷は、視界から色が消えたことだろう。
とりあえず、この症状については後回しだ。
大きな嵐は過ぎ去ったと思いたい。この屋敷での残りの問題をすぐに片づけなくては。
「後は、メイリィとゴブリンを片付けるぞ!」
「居場所なら分かっているわ・・・・。どうやらその娘がゴブリンを操っているようね」
角が復活したラムの千里眼の効果は絶大だ。
そして、メイリィが魔獣を操って逃げ出すのも想定内だった。
「確実に1体ずつ、仕留めましょう・・・。レムも匂いで奴らを感知できます」
レムの言葉にスバルとラムは頷いた。
角が復活したとはいえ、もうラムに鬼化させる訳にはいかない。
その力がなければ、ここまで来れなかったのは確実だが、あの暴走と破壊衝動は、彼女を苦しませる。
言葉を交わさずとも、それは全員が分かっている。
スバルは、暴食の権能を使い、ドーピング状態になるために親指を軽く噛んだ。
☆☆☆☆☆
3人で廊下を進む。正直に言うと、そこまで奴らにビビってはいなかった。
ライバテンカイトス、レイドアストレアに比べれば、奴らなど恐れるに足りない。
「右に一体いるわ」
廊下の曲がり角から現れたゴブリンの一体が、近くにいたスバルに強襲した。
やはり、この餌食としての匂いに引き寄せられているようだ。
ドガッ!
「クソっ」
裏拳を顔面に食らわせる。白黒の魔獣はふっとび、壁に激突したが、仕留められていなかった。
ドーピングで膂力は上がっているが、それでも一撃でこの魔獣を殺すほどの力はない。
技術があれば、手刀などでゴブリンを瞬殺できるかもしれないが、今のスバルはただドーピングしただけの素人にすぎない。
白黒の血を吐き出したゴブリンはすぐに戦線復帰してきた。
それを、レムのモーニングスターが一瞬で粉砕した。
桁違いの威力で、奴はバラバラになる。
「助かった・・・ありがとう」
「何か、様子がおかしいです」
レムは、バラバラになったゴブリンの死体を見て眉をしかめた。
その異質さに、スバルとラムもすぐに気づいた。
惨たらしい血だまりから、新たなゴブリンが復活したのだ。
「ゴブリンラッシュってそういうことかよ!」
「厄介ね」
だが、復活したゴブリンの生首は音もならないままに切り落とされた。
ラムの風魔法だ。
戦力的に考えて、ゴブリンは弱すぎる。それでも、その能力は厄介すぎた。
ゴブリンの死体が転がり、その影から新しいゴブリンがまた復活した。
「これではキリがありません。姉様、どうしましょう?」
ゴブリンを迎え撃つために、またレムは鎖を構える。
「バルス、何か思いついた?」
「あれは、多分三大魔獣の大兎に近いものだと思う。全体数が決まってて、それ以上は増えないけど、減ったら減った分だけ復活するみたいな感じだ」
スバルはラムの問いに、嫉妬の世界線、聖域での記憶を参考にして答えた。
「倒すには、一度に全滅させないといけない訳ね」
「そうだ。ベアトリスのシャマクさえあれば確実に倒せるはずなんだが」
そこまで言いかけて脳裏に希望が思い浮かぶ。
ベアトリスなら、色がついているはずだ。今、もう一度会いたい。
スバルは、自分が変わったという自覚がある。だから、もう一度、ただ彼女と会えたら。
「ベアトリス様は、協力してはくれないでしょう・・・・ラムに考えがあるわ」
心の中に浮かんだ希望は、鬼がかった神脳に否定された。
その頭で否定されては、まるでそれが世界の答えなのではないかとすら錯覚してしまう。
スバルは、爪が食い込むほどに拳を握りしめた。
「姉様、その考えとは・・・・」
「魔獣を操っている娘がいるのでしょう・・・・。それを捕えればどうとでもなるわ」
それは、メイリィに奴らを1か所に集めさせて一網打尽にするということだろう。
最善策だ。間違っても屋敷の外にゴブリンを出させる訳にはいかない。
村の誰か一人でも犠牲になったら、エミリア陣営の負けなのだ。
負けだ。誰に負ける?スバルは、誰に負けるというのだ?
もし負けたとして、もうやり直す手段がない。それは、ラムも分かっているはずだ。
レムを殺せば、スバルを死なせない権能は世界から失われ、死に戻りが可能になる。
でも、それをラムが許すはずがない。だから、負けられない。
馬鹿か?ラムが許すはずがないからできないんじゃなくて、スバル自身もレムの死を受け入れられないだろ?
思考がどうかしている。レムもラムも大切な仲間だ。
だが、あのクソピエロ野郎には負けられない。いつか、生まれてきたことを後悔させてやる。
あの白黒野郎。あいつの目の前で、叡智の書を1枚ずつ引き裂いてやりたい。
「流石は姉様です。その作戦で行きましょう。・・・・・・スバル君?大丈夫ですか?」
レムの声に、スバルはどす黒い思考から現実に戻されていた。
「お・・・おう。大丈夫だ、まず俺がメイリィを説得してみるよ」
軽くそう答えて、スバルは背後を確認する振りをして二人から表情を隠した。
今、急にどす黒い思考の沼にはまってしまった。
待てよ。
「バルス、何を考えているの・・・・?」
背中越しに、ラムの視線を感じた。
待て待て。待った方が良い。落ち着け。
「考えてる暇はねぇ。行くぞ!」
また軽く指を噛んで、ドーピングを補給。そして、誤魔化すように走り出した。
すぐ後ろに、ラムとレムはついてきた。それでも、両方こっちを見ている気がする。
この戦いは、もうすぐ終わる。もう最大の山場は超えたはずだ。
でも、終わった後どうなる?
ロズワールが帰ってきて、スバルは奴に何も出来ない。
あのピエロの気分次第で、また陣営全体が危険にさらされる可能性だってある。
それでも、あのクソ白黒野郎に何もできない。
だって、ラムがいるから。死に戻りを推理できるくらい賢い奴が近くにいる。
この感情だって悟られるかもしれない。もし悟られたら?
やめろ。ラムは仲間だ。それに、姿が白黒でも以前とは違う。
あの時は、みんな信じられないから白黒になってしまった。でも今は、みんなが白黒だけど信じようとしている。
変な考えはやめたほうがいい。
「ッ!また来やがった」
「止まらなくていい!」
背後のラムの声に従い、3人はゴブリンの軍勢に襲い掛かられながらも止まらなかった。
走る速度を落とさずに、ゴブリンたちはラムの風魔法に蹂躙される。
ノーモーションだ。スバルにはとうてい見えない攻撃だ。
そうだった。角も復活してしまったんだった。尚更、自分は彼女に敵わない。
ラムが愛するロズワールに、今後何もできない。
だから、この疑心はやめろ。ラムを警戒するみたいな考え方をやめろ。
変な気を起こして、またレムに感づかれたらどうするつもりだ?
レムは記憶を失ったままだ。取り戻すまでに愛想をつかされたら、
また、疑われたらどうなる?
だからそんな問題以前の話だ。さっさと疑心をやめろ、仲間を警戒するなどどうかしている。
「スバル君・・・・?」
「いや、マジでなんでもない」
頭をブンブン振って、変な気を紛らわせた。
「いたわ」
そうラムの声がして、スバルは階段の上にいるメイリィを見つけることができた。
☆☆☆☆☆
「メイリィ!もう諦めろ!」
階段の上で、メイリィは後ずさりながらも、鋭い視線をスバルたちに向けていた。
「諦めろ、なんて言われてもねぇ……。もう、後には引けないわぁ」
メイリィの傍には、複数のゴブリンが彼女を守るように囲んでいる。
だが、そんなもの何の防御にもならない。一瞬でラムの風魔法の餌食だ。
「今降参すれば、俺達はこの場でお前に危害を加えない。ちゃんと生きて、やり直そう」
スバルは、メイリィに向かって手を差し出した。
「危害を加えない、ねぇ」
メイリィは差し出された手を見て、動きを止めた。疑うような目でこちらを見つめてくるが、その声には縋りたい気持ちが滲んでいるように感じられた。
「エルザがいなくなって、私にはもう……何にも残ってないのよぉ。生きてやり直すって言われても、そんなの、想像つかないわぁ」
周囲のゴブリンをちらりと見回し、それから視線を上げる。
「……本当に、殺さないの? 私、散々おにぃさんたちにひどいことしたのに」
「降参してくれるなら、殺さない。でも、降参しないなら優しくはしてやれねえよ」
今、スバルの背後のラムとレムの殺気は尋常ではない。メイリィを今すぐにでも八つ裂きにするかのような圧力だ。
この説得が失敗したと確定するまでは待ってくれるようだが。
「わ、分かった……分かったわよぉ……!」
メイリィは、ラムとレムの圧倒的な殺気に、ビクリと肩を震わせた。強がっていた表情が、一気に色を失っていく。
「この魔獣たちは大人しくさせるから、もう、降参するから!・・・もう、怖い思いさせないでよぉ・・・」
彼女は、涙目でスバルを見上げながらそう繰り返した。
その様子を見て、もう心に限界が来ているのだとすぐに分かった。信頼するエルザという仲間を失って、やけになっていたのだ。
そして、悪人に、魔女教に任務として利用されたのだ。
「よし、分かった。それでいい。もう俺達が戦う必要は無くなった。」
スバルは、落ち着いた口調でこの場にいる全員にそう確認する。
そして、改めてメイリィに尋ねた。
「今回、お前に任務を出した奴は、お前が俺に捕まり、この屋敷に連れて来られることまで想定していたな?そして、暴食の大罪司教まで仕組んでいた。降参したなら、協力してくれ。依頼主は誰だ?」
スバルの問いかけに、メイリィだけでなく、ラムとレムも息を飲んだ。
「……分かったわよぉ。もう、隠しても仕方ないもの」
一度、大きく息を吐き出してから、ぽつぽつと語り始めた。
「依頼したのは……ママよ。色欲の大罪司教よ」
彼女がその名を口にする瞬間、複雑な表情が浮かんでいた。その理由をスバルは知っている。
嫉妬の世界線でメイリィの死者の書を読み、彼女が色欲の大罪司教、カペラに雇われていたことを知っているからだ。
だが、肝心なピエロの名前は出てこない。
これは嫉妬の世界線とは違う。あの時、ロズワールは静観していただけだったが、今回は確実に計画に介入しているはずなのだ。
「他には?」
スバルは重ねて尋ねる。
「顔を隠した男の人達が、何人かいたわぁ。魔女教の人なのかも、良く分からないの。・・・・・これは本当よ、本当に知らないんだからぁ・・・・・」
そこまで言うと、メイリィは不安げにスバルを見上げた。
やはり、ロズワールの名が出なかった。そんなヘマをあの男がするわけがない。
そのことに苛立ちはあるが、今は別の感情も見つけていた。
あの憤怒の世界線の時のように、白黒の世界では負の感情が常に脳裏にまとわりついている。
それでも、今はラムとレムに八つ裂きにされるメイリィを見たくなかった。白黒のメイリィだが、自分は確実にその残酷な光景を見たくないと感じたのだ。それは、間違いない。
その事実が、今は嬉しかった。
「正直に答えてくれてありがとう。ゴブリンたちを殲滅するためにも、今は協力してくれ」
スバルのその言葉に、メイリィは黙ったままコクっと頷いた。
これで、彼女は大丈夫だ。もう大人しくしてくれるだろう。
今回の事件が終わったら、罪を償って生まれ変わってくれ。
そして、スバルはラムの方に振り返った。
「ラム・・・・今回の事件。俺はどうしても許せない。だから、誰が黒幕なのかはっきりさせたい。後で、協力してくれるか?」
白黒の世界で、彼女の瞳だけは紅色に輝いている。その瞳の奥で、一体どんな思考が行われているのか、想像もできない。
ラムの表情から、スバルは何も読み取れない。
「そう・・・・バルスの気持ちはよく分かったわ」
「・・・・・・と言うと?」
どこまで、どこまで読まれている?
「ただ、一言言っておくわ。勝手なことはしないで」
「勝手な事・・・?」
その突き放すような言葉の真意が分からなくて、スバルは聞き返した。
不穏な空気が流れる。
「姉様・・・・スバル君・・・・」
レムが気まずそうにそう声をかけた。
彼女も、傲慢の極みに達し、青く輝く瞳を手に入れている。
スバルは、その色を信じられないどころか、恐れてしまっている。
その心には、今もラムの席しかない。せめて、記憶さえ取り戻してくれたら、色が戻ってくれるのだろうか。
馬鹿か?レムの本質は優しい人間だ。記憶の有無は関係ない。
彼女の中に自分の理想を求めるのは、やり直したこの人生では禁止にしたはずだ。
「ラムに任せておきなさい」
きっぱりと言い切りながらも、すぐに言葉が続く。
「・・・・でも、いい兆候ね。不安や不満があるなら我慢せず言いなさい。その、怒りを我慢させるつもりはないわ」
そう言って、彼女はわずかに目を細める。それは笑みと呼ぶには乏しく、それでいて、どこか安心させるような響きも含んでいた。
この言葉に心を預けるか、それとも今スバルの不満をガス抜きするための打算的な言葉だと疑うのか、それはスバル側の問題で、
「えっ・・・・?我慢しなくていいって?」
なぜか、疑心はかき消され、ラムのその言葉に期待させられる。
瞬きする瞬間に、ほんの刹那に彼女の姿に色がついたように錯覚するほどに。
そのスバルの表情の変化に、ラムは目を細めた。
「我慢なんてしなくていいわ。バルスはただラムについてくればいいの」
紅に輝く瞳が、まっすぐに射抜いてくる。その輝きに全て見透かされ、取り込まれる。
ダメだ。疑っている場合ではない。もう、スバルはその魔性に抗えない。
憤怒も強欲も傲慢も嫉妬も、どの世界線の記憶があっても関係ない。
色が抜け落ちても関係ない。
これは、夢の楽園でラムが残した計画であり、あの時のスバルが望んだもの。
10年の楽園生活は、ラムとレムからスバルを決して離さない楔になっていた。
「スバル君・・・・。今、姉様を見て変なことを考えましたか?」
スバルの心臓がうるさく鳴り響く中、レムが鋭く睨みつけてきた。
この世界で、レムにとってスバルは暴食に奪われた予知夢を取り戻すための重要人物だが、ラムとは比べようもない。
そう分かっているから、疑心をやめられない。また拷問されて殺されたりしないか、恐ろしくてたまらない。
でも、今はこの疑心の方が偽物の方に思える。そう思いたい。
白黒でもいいだろう。やり直せた人生だ、どんな結末になろうと、二人に心を預けて良いのではないか?
「変な事を考えてるのは日常茶飯事だよ・・・・。そろそろ、お医者さんに行って治療してもらわないと」
「は?」
レムの鋭い聞き返しに、スバルは軽く口角を上げた。
「冗談だよ・・・・。とりあえず、ゴブリンを殲滅して今回の事件は解決だ。外に出て、この喜びを噛みしめよう」
「まぁ・・・・それはそうですね」
いきなり話題を変えて誤魔化してしまったが、口に出してみると強く実感できる。
あの地獄を解決できたのだ。
☆☆☆☆☆
メイリィの加護を利用し、ゴブリンを1か所に集め、ラムの風魔法で一網打尽にすることができた。
もう、敵は全部攻略した。外でのウルガルムたちもラインハルトとエミリアが何とかしてくれただろう。
事件は解決し、スバル、レム、ラムの3人は、ロズワール邸の入り口にいた。
「なんだか、外に出られるのが夢みたいだぜ」
「何よりです。落ち着いたら、今回の事件での姉様の活躍ぶりについて話し合いましょう」
レムの嬉しそうな言葉に、スバルも頷く。
ラムは間違いなく今回の事件でのMVPだ。
ライバテンカイトスを殺し、レイドと引き分け、夢の世界からスバルを返し、ゴブリンを殲滅させた。
今後使わないつもりではあるだろうが、角も取り戻している。
「よし、じゃあ開けるぜ」
待ちに待った解放の瞬間だ。この瞬間だけは、今後の問題を忘れられるくらいの解放感。
そして、スバルは勢いよく扉を押し、・・・・・・・・・・・・・・扉はびくともしなかった。
「は?」
「スバル君・・・・・?」
もう一度押してみる。力が足りないなんてことはありえない。
この扉は決して開かない。外側から押さえられているとは言えない感覚だ。
固くて開かないのではない。開けないようになっているみたいだ。
「嫌な予感がしていたのよ・・・・・・・まだ終わってない!」
ラムの言葉に、スバルとレムは凍り付く。
スバルは、自分の表情が硬直するのを自覚できた。
この事件は、まだ終わってない。まだ、敵はこのロズワール邸に残っているのだ。
「ベアトリス・・・・・!」