リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル)   作:駄々我菓子

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憤怒の罪

「開かない・・・・・!」

 

 何度押しても、この屋敷の扉は開かなかった。

 閉じ込められたのだ。

 

「ベアトリス様が・・・どうして?」

 

 レムの言葉に、スバルは気まずそうに返す。

 

「ベアトリスが見た予知夢のことで、俺が恨みを持たれてる。絶対、そのせいだ」

 

 ベアトリスもスバルの傲慢の権能を利用して、この屋敷に術式を刻んだ。

 今は傲慢の鎖の繋がりは感じられないが、一度刻まれた術式は残り続けるのだろう。

 そのおかげで、これまでの戦闘でもこの屋敷は一切壊れない無敵状態になっている。

 裏返せば、閉じ込められた扉は絶対に壊せないという事だ。

 

「クソッ!ろくに、話もしてくれねえでこれはねえだろ!」

 

 そう吐き捨てるが、内心ではまだ期待していた。

 ベアトリスだけは、ただ会えればなんとかなると。

 彼女だけは、色が失われていないはずだ。

 

「屋敷中の扉を開けて、直接会いに行くしかないですね」

 

 レムが前向きに次の行動を考えてくれる。

 

「そうだな。やってみよう」

 

「いいえ、その必要はなさそうよ」

 

 スバルも行動を開始しようとしたところで、ラムに止められた。

 振り返ると、3人の背後に、ベアトリスが立っていた。

 

 そして、スバルはとんでもないものを見た。

 

「あ・・・・・・・・」

 

 次の瞬間、スバルの表情はあまりにも醜く歪んでいた。

 再会を望んだベアトリスの姿は、一切色彩の見えない白黒になっていたのだ。

 

 まだ、会話すらしていないのに、その事実だけが残酷に突きつけられた。

 

 だが、驚愕するスバルをよそに、ベアトリスは鋭い目つきで睨め付けてきている。

 

「お前は、ここで終わりかしら!」

 

 その鋭い言葉、終わりを宣告する言葉が、スバルの胸に突き刺さった。

 思わず胸を抑えて、その痛みに耐える。

 

「は・・・・話をしよう」

 

 スバルのその願いに、レムとラムは静かに黙ったまま、ベアトリスの反応を待っている。

 

 ベアトリスは歯を強くかみしめて怒りを抑えている。

 だが、また目を見開くと強くスバルを睨め付けた。

 

「わかったのよ。全部ぶちまけてやるかしら。お前も逃げるんじゃないのよ」

 

「俺はお前と話せるのをずっと待ってたんだぜ・・・・。盛大にやってくれ」

 

 そう言いながらも、ベアトリスが白黒に見えていることに、スバルは自己矛盾を感じてしまった。

 

「ベティーは予知夢で、お前のことを知ったのよ」

 

 声が震えている。怒りなのか、それとも別の何かなのか、スバル自身にも判別がつかない。

 

「お前はベティーの金書庫に逃げ込んできたのよ。呪いが迫っていると、なぜか知っていたかしら。ベティーが匿ってやったから、お前は助かった。……代わりに、鬼の妹が呪われて死んだのよ」

 

 ベアトリスの視線が、スバルの隣に立つレムへ一瞬だけ流れ、すぐに戻る。

 

「鬼の姉はお前を疑ったかしら。当然なのよ。なぜ呪いのことを知っていたのか、お前は何一つまともに答えられなかったのだから。姉がお前を殺しにきたとき、ベティーは契約を守ったのよ。お前を守ると決めたから、姉の前に立ったのよ。追い詰められて崖っぷちまで下がっても、ベティーはお前の前から退かなかったかしら」

 

 小さな肩が、ぎゅっと強張る。

 

「それなのに、お前は、ベティーが守っている目の前で、崖から身を投げたのよ」

 

 ベアトリスの声が、そこで初めて掠れた。

 

「ッ・・・・」

 

 そして、スバルは近くのラムが小さく息を飲んだのを察知してしまった。

 ベアトリスは話を続け、スバルの意識もそちらにもどる。

 

「ベティーが何のために立っていたと思っているのかしら。契約を交わした相手に、何の言葉も残さず、ベティーを置いて、勝手に死んで。……あれを見せられたベティーが、どんな気持ちで目を覚ましたか、お前に分かるかしら」

 

 堪えるように唇を噛み、それでもベアトリスは睨むのをやめない。

 

「お前がベティーを裏切ったのは、予知夢の中だけの話だと言うつもりかしら? 夢だから関係ないと? ……ふざけるんじゃないのよ。あの景色は、ベティーの目に焼き付いて離れないかしら」

 

 ぱちり、と小さな火花が指先で弾けた。屋敷の空気が、重く沈む。

 

「この扉は開けないのよ。お前たちを、ここから出すわけにはいかないかしら。ベティーの問いに答えるまで。……ニンゲン。お前は、あのとき、なぜ飛び降りたのかしら」

 

 ベアトリスの話は全て理解できた。これは、嫉妬の世界線だろう。

 あの時、スバルが崖から飛び降りたのは、死に戻りをするためだ。

 だからこそ、これだけはベアトリスに伝えてやれない。

 

「俺が飛び降りた理由は、言えない。言えないから、言えないんだ。本当に、それは申し訳ねえ。でも、俺はお前を裏切ってない。お前の見た予知夢のことも、俺は覚えてる」

 

 ベアトリスの目がまた大きく見開いた。

 

「これだけは断言できる。あの時の俺は、お前に感謝していた。俺は、ベアトリスを裏切ってない」

 

「……覚えている、のかしら」

 

 ベアトリスの声が、もう一度かすれた。

 

「あの崖を、お前も、覚えていると言ったのかしら。ベティーが見たものを、お前も見ていたと」

 

 一歩、また一歩と、ベアトリスの小さな足が床を踏む。白黒の姿のまま、スバルの目の前まで歩み寄り、その胸元を掴むように睨み上げた。

 

「あぁ。覚えてる」

 

「なら、ごまかしは通用しないのよ。言えないで済ませてやるもんかしら。裏切ってない、感謝している、そんな嘘でごまかされるのが一番腹立たしいのよ」

 

 ベアトリスの唇が、わずかに震える。

 スバルは、できるだけ落ち着くように努めた。

 

「俺が、あの時何をやろうとしたのか、それだけは言えない。でも、見ろよ。レムラムだ。今は3人で協力できている!だから、今回の大事件も攻略できたんだ。俺はあの時、ただ逃げて死にたかった訳じゃない。これが証拠だ」

 

 スバルの真横に、1歩進んだラムが並んだ。

 

「ええ。ベアトリス様、あの時の事をラムも予知夢で見ました。バルスがあの崖から飛び降りたことを知っても、今はそれが裏切りではないと断言できます。それは事実です」

 

 ベアトリスは、スバルとラムを交互に見比べた。小さな指先が、迷うように揺れる。

 

「・・・・・鬼の姉まで、あの時を覚えているというのかしら」

 

 ラムの言葉を聞いても、ベアトリスの表情の険しさは深くなるばかりだ。

 

「あれが裏切りではないと、断言できる根拠を教えるのよ」

 

「それはできません」

 

 ラムは答えない。その様子に、スバルは安堵と恐れを同時に抱いた。

 彼女が死に戻りを推理できていることは間違いない。それは認めるしかない。

 そして、スバルがそれを今まで言えなかったことまで察しているというのか。

 

 死に戻りをぶちまけられなかった事には安堵できるが、やはりこれが彼女にバレているのはすぐには受け入れられないことだった。

 

「できない・・・?お前もお前なのよ。お前はあの時、このニンゲンをベティーの目の前で殺そうとしたかしら。それが今になって裏切りではなかったと・・・・何をどうやって知ったのか、どうして説明してくれないのよ?」

 

 ベアトリスの視線が、ラムから隣のレムにも移った。

 

「鬼の妹・・・・・お前は何か知らないかしら?ベティーだけが、あの景色の前に置いていかれたままなのよ」

 

 スバルは、ベアトリスはただ恨んでいるだけではないことに気づいた。

 彼女はどうしても真相が知りたい。それが一番の望みであり、決してかなえられない残酷な事実なのだ。

 死に戻りだけは、誰にも伝えることはできない。

 

 レムは、一瞬だけ視線を落とし、それから小さく首を振った。

 

「レムの見た予知夢は、空白なんです。だから、自分が死んだ世界線もあったということくらいしか分かりません。ですが、レムは姉様を信じています。ベアトリス様にも姉様を信じてほしいです。姉様には、ベアトリス様もスバル君も、救ってあげられる力があります」

 

「なんて傲慢な妹かしら・・・・なんの疑問も解決できていないのよ」

 

 ベアトリスは小さく吐き捨て、再びスバルへ向き直った。その目は依然として揺れたまま。

 

「あの時・・・・お前が”その人”だって、期待していたのに・・・・。なんで、お前は飛び降りたかしら!」

 

 ベアトリスの悲痛な叫びを、スバルの言葉で沈めてやることができない。 

 彼女がどれだけ”その人”を待っていたのか、それは400年だ。

 この事実を、嫉妬の世界線の記憶で知ってしまっている。

 

「ベアトリス、レム、ラム・・・・。3人とも、聞いてくれ」

 

 スバルは、落ち着いて全員に語りかけた。

 

「俺は、もうどうしたらいいか分からねえ。このままだと、俺達は戦うことになってしまう。だから、最後に権能に頼ってみたい」

 

 権能の内容を話す前に、まずはこの場に希望を持たせたい。

 

「うまくいけば、俺達全員が生きて明日を迎えられるかもしれねえ。憤怒を沈める、平和な権能だよ」

 

 ベアトリスは、スバルの言葉に眉をひそめた。

 

「ベティーの憤怒を沈める?・・・・・面白いことを言うのよ。そんなことがお前にできてたまるかしら!」

 

 だが、その望みを否定するということは、待っているのは戦争だ。

 ベアトリスがスバル、レム、ラムの3人との戦いを望んでいるとは思えない。

 

「スバル君・・・・・憤怒の書のことですか?」

 

「少し違う・・・・・・。俺は夢を利用することができるんだ。俺を気絶させてくれ」

 

 レムは、スバルの言葉に戸惑っている。だが、ラムは違った。

 

「試す価値はあるわ。ベアトリス様もそれでよろしいですか?」

 

 ラムの冷酷な言葉に、場が凍りついた。

 この言葉をベアトリスが拒否した瞬間に、戦闘が始まるからだ。

 

「さっぱりわからないのよ。でも、やってみるといいかしら・・・・できるものなら」

 

「運命様、上等だ」

 

 スバルが力強くそう言うと、ラムの手刀が入って意識が刈り取られた

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 夢を見た。

 スバルはこの夢で、憤怒の書を読み、そして誰かの魂からも助言を求めるつもりだ。

 

 その夢の空間は、まるで子供のパーティー会場のような部屋だった。

 黄色やオレンジの柔らかい照明がいくつも天井にぶら下がっており、床はカラフルな絨毯が敷かれている。

 部屋の中には誕生日パーティー用のテーブルや椅子が並べられており、スバルもその椅子の一つに座らされている。

 そして、スバルを現実へと縛り付けてくれる鎖があった。

 

 部屋中は甘ったるいお菓子のにおいが充満しており、テーブルにはケーキの食べ残しもある。

 紙吹雪、風船、パーティーグッズがこの部屋を支配していた。

 

 まるで、大勢の人々がパーティーを楽しんだ後の残骸だ。

 人の気配だけが一切なくなっているのが不気味だった。

 

「ベアトリスっ!」

 

 スバルは、この夢の世界の主がベアトリスだと分かると、運命を感じた。

 ベアトリスを憤怒から救うために、今ここで会えたのだと。

 

 だが、そんな彼女の表情は現実とは違い、あまりにも悲しみに満ちていた。

 この夢の世界で、スバルの魂に触れ、死に戻りや数々の世界線の記憶を理解してしまったのだ。

 

「スバル……」

 

 ベアトリスは、泣きそうな顔で立ち尽くしていた。

 

「全部、見てしまったのよ。お前が何度も死んで、何度も戻ってきたことも。あの崖で、ベティーを裏切ったわけじゃなかったことも」

 

 小さな手が、ぎゅっとスカートを握りしめる。

 スバルは言葉を失った。夢の世界でも、ベアトリスは白黒のまま。

 暗い表情が、より真っ黒に見えた。

 

「お前の嫉妬の記憶で、ベティーを金書庫から連れ出してくれたことも、なのよ。……それなのに、現実のベティーは、お前を傷つけようとしているのよ」

 

 声が震え、ぽろりと涙が落ちた。

 

「そんなベティーを、ベティーは許せないかしら。だからスバル、お願いがあるのよ」

 

 ベアトリスは、真っ直ぐにスバルを見つめた。

 

「現実のベティーを、お前の手で殺してほしいのよ」

 

 スバルの魂は、叫ばない。こんなにも辛いのに、泣き出さない。

 拘束されたパーティーの椅子に座ったまま、スバルはベアトリスに向き合った。

 

「まだその決断は早いんじゃないか?憤怒の書を見てみるぜ・・・・」

 

 ベアトリスは、スバルの言葉に何も返さなかった。

 ただ、小さく唇を結んだまま、俯いている。握りしめたスカートの皺が、さらに深くなった。

 

「見るんじゃないかしら・・・・その書に何が記されているか、ベティーには分かるのよ」

 

「いや、読むぜ。打開策も情報も、あるはずだからな」

 

 スバルは、夢の世界で憤怒の書を出現させることができた。

 そして、ベアトリスのページを見る。

 

 その20文字以内の導きを見た瞬間、スバルは視界が真っ白になった。

 

”自分が彼女のその人だと宣言し、殺せ”

 

 その導きとは、憤怒の世界線でスバルが犯した罪と同じものだった。

 

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