リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
その後、スバルはベアトリスの夢から現実で目覚めた。
何故すべてか白黒に見えてしまうのか、今ならはっきりと分かる。
この夢を経て、スバルは変わった。
生きるために、色を捨てざるをえなかったのだ。
「どれくらいの・・・時間が経った?」
「気絶させてからすぐに起こしたから、数秒しか経っていないわ」
「そうか。ありがとう」
どうやら、一瞬の間に夢の時間が流れたらしい。
ラムとレムは、スバルが夢から何を持ち帰ったのか気になっているだろう。
「ベアトリス。俺達がこの屋敷から出られない仕組みを教えてくれ」
目覚めてから様子が一変し、不気味なほどに冷静なスバルに対して、ベアトリスは眉間にしわを寄せていた。
「……急に何を言い出すのかしら。お前、夢の中で何を見たのよ」
睨みながらも、声には戸惑いが滲んでいる。
「仕組みを聞いて、どうするつもりなのよ。ベティーの術式を破るつもりかしら」
一瞬だけ視線を逸らし、ベアトリスは低く続けた。
「……お前が答えを持っているなら、それが先なのよ。ベティーは、誤魔化されるのはもう嫌かしら」
「分かった。なら俺の望みを言うよ」
スバルは、小さく息を吐いて続けた。
「俺を選べ、ベアトリス」
白黒のベアトリスに告げる。これが最後の望みだ。
ベアトリスの瞳が、大きく揺れた。
「お前は・・・・ベティーのその人なのかしら?」
運命の言葉が来た。彼女の望みは、スバルがそれを肯定することだ。
でも、スバルははっきりと首を振った。
「いいや、俺はお前のその人なんかじゃない。・・・・・でも、俺はお前と一緒に生きていきたい。だから、俺を選べ」
ベアトリスの白黒の顔から、すっと濃淡が引いたように見えた。
「……そう、なのかしら」
声は、驚くほど静かだった。
「その人では、ない。なら、ベティーは待ち続けるしかないかしら。……契約だから、なのよ」
「俺を選んではくれないのか?はっきりと答えてくれ」
スバルは、鉄のような表情でそう尋ねた。
「選ぶわけないのよ!」
ベアトリスの声が、屋敷に弾けた。
「その人でもないお前を、どうして選べるのかしら。何も説明しないくせに、一緒に生きたいなんて、ふざけるんじゃないのよ!」
ベアトリスの拒絶に、スバルの背後のレムとラムの殺気がまた一段と強くなった。
もう少し、もう少しで殺し合いが始まってしまう。
「分かった。だったら、お前は変わらなくていい。でも、俺達はこの屋敷から出してくれ。これは、お願いじゃない。命令だ。」
「命令、なのかしら。笑わせるんじゃないのよ」
ベアトリスは冷たく言い放った。
「この術式は、外からは入れても、内からは出られないのよ。解く条件は二つだけ。お前が死ぬか、ベティー自身が死ぬか。それ以外に道はないかしら」
その暴露に、スバルだけでなく、ラムとレムも息を飲んだ。
目の前に、紛れもない敵がいる。
ガダァアアアン!!
次の瞬間、ベアトリスがいた場所に、レムの鉄球が振り下ろされていた。
「死ぬのはあなたです!」
この鉄球が、スバルではなくベアトリスに振り下ろされたことに、心臓は熱を訴えていた。
だが、その熱は急激に冷やされる。
「あれっ!!」
手ごたえのなさに、レムは驚愕していた。
スバルも、ベアトリスの姿がない事に気づく。
「瞬間移動したのね・・・・・・。これもベアトリス様の魔法の力か」
ドクン!という心臓の痛みに、スバルは確信した。
ベアトリスは、スバルの傲慢の権能を使ったのだ。強化された魔法、さらにこの屋敷でのベアトリスの力は計り知れない。
彼女は、エキドナの契約を守るため、断固として戦うつもりだ。
それでも、スバルは後悔していない。
ベアトリスに、その人だと言ってやるつもりはなかった。
このやり直した世界で、白は白、黒は黒だ。
☆☆☆☆☆
ベアトリスは金書庫に瞬間移動したのだろう。
スバルを恨み、拒絶し、ここでやられるつもりなどないらしい。
ベアトリスが去ってから、スバルはまずレムとラムに向き直った。
この術式の解除方法として、スバルの死か、ベアトリスの死が条件だと暴露されている。
こうして、ベアトリスが逃げ続けるだけで、いずれレムとラムはスバルを犠牲にすると考えたのかもしれない。
ラムは、その無意味さを知っているはずだ。スバルは死に戻りをするのだから。
そして、レムの傲慢の極みの能力で、スバルは死ぬことができない。
でも、それはレムがそう能力を行使しているからだ。もしも、その権能を使わないように選択できるのなら、スバルを殺すことは可能だ。
それでも、レムは迷う事なくベアトリスを攻撃した。
「レム・・・・ありがとう」
「お礼なんて、いりません」
レムは鉄球の鎖を握り直し、まっすぐスバルを見た。
「スバル君を犠牲にする選択肢なんて、レムの中には最初からありません。ベアトリス様を止めて、三人で出ます。それだけです」
スバルは、レムのその言葉に静かに頷いた。
「来いよ・・・憤怒の書」
スバルは、直感的にできると思った。あの夢の世界でやったことと同じように、その場に憤怒の書を出現させたのだ。
「俺がこの書に従えば、その相手の憤怒を確実に鎮められることができる」
ラムは、スバルが手に持った書をじっと見つめ、目を細めた。
「なるほど・・・でも、ベアトリス様の憤怒は鎮められなかったようね」
彼女は静かに続ける。
「ベアトリス様との戦いが避けられていない。つまり、その導きは今のバルスに従えるものではなかったということでしょう?」
スバルはラムの言葉に頷いた。
憤怒の書を開いてラムとレムに見せるが、そこに書いてあるのは日本語だ。
スバルにしか読めない。
「ベアトリスのページには、俺がその人だと宣言して殺せと書いてあった。でも、俺はそうしない。」
何故なら、スバルは変わったからだ。
失う物など何もない。だから、痛くない。
「俺は、ナツキスバルとして、ベアトリスを殺す。明日からも生きていく」
ラムは一瞬だけ目を見開き、すぐに静かな表情へ戻った。
「……そう。バルスが決めたのなら、ラムは止めないわ」
ラムはスバルの顔を見据える。
「ただし、失うものがないなんて顔は感心しないわね。生きて明日を迎えると言ったのは、あなたよ。その言葉だけは、必ず守りなさい」
「うん・・・・・」
スバルは一度言葉を区切り、改めて宣言する。
「俺は、憤怒の極みに達することができた。だから、この書に書いてある導きを必ず成すことができる」
改めて、憤怒の書を強く握りしめる。
「レムかラム、どちらかの頁の導きを実行すれば、この状況は解決できるんだ」
ラムは書に目を落とし、静かに口を開いた。
「ラムたちの頁、ね。バルスがそう言うなら、見せなさい。何が書いてあっても、驚かないわ」
レムは鉄球の鎖を握ったまま、一歩前に出る。
「スバル君。レムの頁に何が書いてあっても、迷わず実行してください。それがこの状況を解決できる道なら、レムは受け入れます。ただし、スバル君自信の命を犠牲にする導きだけは、レムが許しません」
「ありがとう・・・・・・じゃあ見るぜ」
スバルは、憤怒の書のレムとラムの頁を見た。
まずは、レムの頁。
”覚悟を決めて、ベアトリスを殺すこと”
次に、ラムの頁。
”何もせず、ラインハルトを待つこと”
「レムの頁には、ベアトリスを殺すこと、ラムの頁には何もせずラインハルトを待つことって書いてあった」
スバルの言葉を聞いて、ラムは静かに頷いた。
「確かに・・・この術式は外から入って来る者は拒まない。察するに、ラムの怒りはバルスが早まって道を誤るかもしれないという不安だったのね・・・」
レムは鎖を握ったまま、ラムを見つめた。
「レムの頁は、ベアトリス様を殺すこと……。でも、姉様がそう言うなら、姉様の道が正しいです。スバル君、姉様の頁の導きを守ってください」
スバルは、2人の言葉に頷いた。
「分かった。そうしてみるぜ・・・。ラインハルトなら、術式を強制的に破壊することもできるかもしれないしな」
レムの姉への依存は、このままだと解消されない。嫉妬の世界線とは違うのだ。
それでも、今は最も正しいと思える選択をしたい。
失う物など何もない。だから、痛くない。
ラムは小さく頷き、スバルを見据えた。
「ええ。ラインハルトなら、ベアトリス様の術式にも対応できるかもしれないわ。それまでは、この屋敷で待ちましょう。バルス、焦って先走るのだけはやめなさい」
レムは鎖を握る手をゆるめ、スバルを見上げる。
「スバル君、レムも待ちます。姉様の言う通りにします。でも、ベアトリス様がまたスバル君を狙ってきたら、その時は迷わず守ります。それだけは、譲れません」
スバルは自分の胸に手を当てて、鼓動を確かめた。
「俺は、殺されてやらねえ。生きてやる。生き延びるために勝つ」
ラムはスバルの横顔を見て、わずかに口元を緩めた。
「ええ、その意気よ。バルスが死んだら、ラムが許さないわ。ラインハルトが来るまで、三人で生き延びましょう」
レムは鉄球を握り直し、力強く頷く。
「はい。スバル君は、レムが必ず守ります。ベアトリス様がどんな手を使ってきても、三人で乗り越えてみせます。レムは、スバル君と姉様と一緒に、明日を迎えたいです」
☆☆☆☆☆
そして、ロズワール邸の扉が開かれた。
「来たか・・・・」
ラインハルトと、エミリアが屋敷内に入って来る。
「これは何の結界だい?」
彼はすぐに、術式の存在に気づいたようだ。だが、内側に入ってくればもう遅い。
扉が開かれてから、外の景色は、スバル側からは見えないようになっていた。
虚空からラインハルトとエミリアが入ってきて来たかのように見えたのだ。
「レム・・・ラム・・・!その目は!」
エミリアはレムとラムの瞳を見て驚愕した。
傲慢の極みに達し、彼女たち本来の輝きを示す瞳に。
その深みと可能性は、死に戻りにさえ匹敵する。
スバルは、視界に入ったエミリアとラインハルトに色がついていなくても、動揺しなかった。
失う物など何もない。だから、痛くない。
この2人は、スバルが生き延びるために来てくれたのだ。
「ベアトリスが俺を殺そうとしてる・・・。二人とも、協力してくれるか?」
ラインハルトは屋敷の空気を見渡し、静かに頷いた。
「ベアトリス様が、君を……。事情は分からないけれど、君が助けを求めるなら、僕は剣を抜くよ。これまでと変わらずにね」
エミリアはスバルの顔を見つめ、ぎゅっと拳を握る。
「スバル、なんだか雰囲気が変わったわね。でも、ベアトリスを殺すのは嫌なの。ちゃんと話して、止める方法を探したい。私にも、手伝わせて」
ラインハルトは剣聖だ、一度剣を抜けば迷う事は無いだろう。
エミリアは純白のように綺麗な人間だ。殺しでの解決よりも、まずは別の道を探そうとする。
何より、二人とも廃人形にはなっていない。まだ、スバルは強欲の罪を犯していないのだ。
外のウルガルムの掃討は完了したようだ。あと、残された問題は一つのみ。
失う物など何もない。だから、痛くない。
必ずここで、終わらせる。