リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
ラインハルト、エミリアと合流し、最後の問題を解決する。
「厄介な術式だね・・・・・・。これでは、全ての扉を開く方法も使えない」
ベアトリスの扉渡りを破る方法として、屋敷の全ての扉を開けるというものがある。
これは、嫉妬の世界線で屋敷を襲撃してきたエルザが行った方法だ。
だが、屋敷の扉は破壊できず、さらに開いても自動で勝手に閉じてしまうのだ。
すべての扉を押さえながら開けることなど、スバルたち5人には不可能だ。
「あんまりだわ・・・・。ベアトリス」
「エミリア、言いにくいんだが、言葉でベアトリスを説得してみたんだ。それは無理だったよ」
鉄のような冷たさの感じられるスバルの態度に、エミリアは表情を曇らせた。
エミリアは一歩前に出て、スバルの顔を覗き込んだ。
「スバル、そんな冷たい顔しないで。無理してるの、分かってるから。ベアトリスのこと、私はまだ諦めたくないの」
「そうか・・・・。ラインハルト、結界を破壊できないか?とりあえず、俺が死ななきゃ出られないって言う状況はどうにかしたい」
スバルは、ラインハルトの反応に期待した。
ラインハルトは屋敷の空気を確かめるように目を閉じ、静かに首を振った。
「壊すこと自体はできるよ。ただ、この結界を砕けば、僕以外の全員が巻き込まれて死んでしまう。……すまない、スバル。この手段は使えない」
失う物など何もない。だから、痛くない。
スバルは、ラインハルトの返事を聞くと、ラムの反応を伺った。
打開策にラインハルトにを期待していたのは、ラムもそうだった。
「・・・・・次の策を考えた方が良いわね。期待できるのはバルスの憤怒の書の権能かしら」
一瞬明らかな動揺が見えた。それは、まるでこの状況で自分の当てが外れたことをどうしても気にしているような。
「分かった。まず、この権能の危険性についてみんなに教えておく」
スバルは一度区切って、権能の内容を話し始める。
「この書は、その人物の頁にかかれた20文字以内の導きを俺が行うことで、その人物の憤怒を鎮めることができる」
「だったら・・・ベアトリスの憤怒を鎮めて仲直りしましょ?」
エミリアの言葉に、スバルは首を振る。ベアトリスの頁を読みながら答える。
「ベアトリスの頁は更新されちまった。今は、”彼女を終わらせること”って書かれてある。憤怒を鎮める導きは、手段を択ばない」
「終わらせるって……それ、ベアトリスを殺すってことだよね? そんなの絶対にだめ。スバル、お願い。その導きだけは、私が頷けないわ」
エミリアは唇を噛み、スバルの袖をぎゅっと握りしめた。
「ですが、エミリア様。僕達はいまだ彼女に出会う手段すら見つかっていない状況です。スバルの説明を最後まで聞きましょう」
ラインハルトの言葉に、スバルは頷いた。
「俺は、この頁を読み、自分に憤怒の精神汚染をかけることができる。そうすれば、どんな事象にも適応して、導きを実行できる怪物になれるんだ」
これは、確実な打開策だった。
だが、それを受け入れるかは、この場全員の意思が必要だ。
「それは、あの時、シリウスにやられた私みたいになるってこと?」
エミリアの瞳は見開かれ、声は震えている。
あの1日目の王都、スバルを苦しめ、詰みセーブに陥らせたシリウスの権能。
その憤怒の精神汚染にかかったエミリアは、あらゆる事象に適応してスバルを死に至らしめた。
シリウスは死に、その魔女因子はスバルに引き継がれている。
この憤怒の権能の極みは、そこに行きついたのだ。
次の瞬間、エミリアは爆速でスバルに迫り、この憤怒の書を取り上げてしまった。
エミリアは書を胸に抱きしめ、震える声で叫ぶ。
「だめ、絶対にだめ! あの時の私が、どれだけスバルを傷つけたか。もう二度とあんな苦しみを背負わせない。これは、私が預かる!」
だが、その行動に、ラム、レム、ラインハルトが黙っているはずのもない。
解決策を模索しているのに、その手段を感情で封じられては納得などできないだろう。
「みんな・・・納得いかないのは分かっているわ。だから、私がスバルを助けてあげる!」
エミリアも、この場の空気は理解していた。
ドクン!とスバルの心臓が高鳴り、傲慢の権能が行使される。
ベアトリスがたとえ今スバルの傲慢の権能を行使していたとしても、エミリアのスバルへの感情の重さは、それを上書きすることなど容易だ。
「ど・・・・どうだ?俺から傲慢の鎖を取り戻して、結界が解除なんてことは・・・」
「術式は、すでに刻まれたものです。解除するのはベアトリス様にしかできません」
ラインハルトの説明に、エミリアはまた冷汗を流した。
その様子を見ても、剣聖は言葉を続ける。
「エミリア様、時間がありません。スバルの憤怒の権能に賭けましょう。もしも、本当に策がないのなら、この屋敷に誰かが入ってきた瞬間に、最悪全員が犠牲になりかねません」
口調は重く、彼の醸し出す風格は、冷酷な鋭さすら感じさせる。
ラインハルト最終手段として結界を壊すしかないのなら、生存者はラインハルト1名だ。
ラインハルトは、次にスバルの方に視線を向けた。
そこから伝わるメッセージは、できるのか、できないのか?その2択でしかない。
「僕は、君を信じているよ。君は、完璧だからね」
強欲の予知夢を見たラインハルトは、スバルの失敗を知らないのだ。
「悪い、エミリア。俺はベアトリスを殺すよ。俺が、生きていくために」
スバルは真っすぐエミリアにそう言う。
失う物など何もない。だから、痛くない。
この意思は彼女に伝わっただろうか?
エミリアの表情から、焦りが消えて、何かの覚悟が決まったようだった。
エミリアは胸に抱いていた書を、そっとスバルに差し出した。
「……分かった。スバルがそう決めたなら、私も一緒に行く。どうなっても、最後まで隣にいるからね」
こんなことを言ってくれるのに、目の前のエミリアに色がついていないのは、スバルの裏切りだろうか?
色がついているのは、傲慢の極みに達したラムとレムの輝く瞳だけだ。
彼女たちは、すでにスバルから力を吸い上げるとうフェーズからも超越してしまっている。その力を、自らのものにしたのだから。
その事実に、今エミリアがどう感じているのかも、見過ごすわけにはいかない。
失う物など何もない。だから、痛くない。
「ありがとう、エミリア。じゃあ、俺が誰の導きを実行するのか決めるぞ」
スバルは、全員の頁を一人ずつ読んだ。
レムの頁は『ベアトリスを殺すこと』
ラムの頁は『ベアトリスのところに自分を連れて行くこと』
ラインハルトの頁は『スバルが覚悟を決めること』
エミリアの頁は『スバルが自分と一緒にいること』
書かれてある文字は日本語だ。スバルにしか読めない。
だから、スバルはこれらの内容を全て全員に伝える。
「レムの頁には、ベアトリスを殺すこと。ラムの頁にはラムをベアトリスのところに連れて行くこと。ラインハルトの頁には、俺が覚悟を決めること。エミリアの頁には、俺がエミリアと一緒にいることと記されてある」
導きは短く、抽象的だ。その真意はよく考えなければ勘違いする恐れがある。
4人がそれぞれどんな憤怒を抱えていて、何故スバルのこの行動でそれが鎮まるのかも考えなければいけないし、確実にこの結界が解けるものを選ばなければいけない。
一歩間違えば、憤怒の精神汚染にかかったスバルが全員を犠牲にしかねない。
「このどれかの導きを俺は実行するために、自らに憤怒の精神汚染をかけ、憤怒の極みに達する。解除は、その導きを実行できた時。その人物の憤怒が鎮まった時、それと、俺が気絶した時も、解除できると思う」
最悪、誰かに気絶させてもらえれば、夢の世界でスバルは自意識に戻ってこれるだろう。
ラムは四つの頁を順に考えたようで、静かに言い切った。
「確実に結界へ届くのは、ラムの頁よ。ベアトリス様のところへ連れて行くだけなら、誰も傷つけずに済むわ。ただし、鉄の顔のまま道を誤らないこと。それだけは約束しなさい」
レムは鎖を握ったまま、小さく頷く。
「レムの頁は、ベアトリス様を殺すこと。……でも、姉様の頁を選ぶなら、レムは従います。ただ、スバル君が傷つく導きだけは、レムが許しません」
ラインハルトは自分の頁の内容を、しばらく考えていた。
「僕の頁の意味は、僕にも断言できないな。確実に結界へ辿り着ける頁を選んでほしい。僕のは、最後でいいよ」
エミリアは、ほんの少しだけ頬を緩めた。
「私の頁は、スバルが一緒にいること、なんだね。……それなら、もう叶ってるよ。だから私のは選ばなくていい。どんな時でも、私は隣にいるから」
スバルは4人の反応に頷いた。
「よし、みんなありがとう。俺が実行するのはラムの導きに決まったわけだが、教えてくれ。ラムは、どうしてベアトリスのところに連れていけたら憤怒が鎮まるんだ?」
これは、確認しておいた方がいいはずだ。
ラムはスバルの目を真っ直ぐに見返し、一拍置いてから答えた。
「ラムの怒りは、鉄の顔になったバルスが、選択を誤ることへの不安よ。ラムをベアトリス様のところへ連れて行けば、その選択を最後まで、ラムが見届けられるでしょう」
小さく息を吐き、言葉を続ける。
「それに、ベアトリス様とは、ラムが直接話したいの。何を話すかは、今は言わないわ。聞かずに、連れて行きなさい」
「スバル君・・・・姉様を信じてください。必ず、救ってくださいます」
レムは、ラムへの絶対的信頼を口にしたが、エミリアは一瞬だけ鋭い目でラムを睨みつけたのが分かった。
すぐに表情を隠そうとしたが、スバルは偶然それを見てしまった。
そして、その一瞬の殺気をラムが見逃すはずもない。
反応がないのは、泳がせているのか、眼中にないのか。
傲慢の極みに達したラムの神脳は、スバルには理解できない。
二人は同じ憤怒の世界線の予知夢を見た。スバルに拒絶させられたエミリアと、スバルが最後まで自分への憎しみを信じ、この命を終わらせたラム。
彼女たちの溝は、今は冷戦状態のようなものだ。
「やるぜ・・・・」
スバルは、力強く奥歯を噛みしめて念じた。
「・・・・・・・・っ!」
そうして、全員が息を飲んだのが分かった。
スバルの視界は、白黒だ。だが、その視界がうっすらと赤く色塗りされていく。
自分に憤怒の精神汚染をかけることに成功したのだ。
この怪物は、ラムの頁の導きを実行するために、あらゆる事象に適応する。
その憤怒を鎮めれるまで、もう止まりはしない。
「全員、バルスから離れて。様子を見ましょう」
ラムは落ち着いた口調でそう言った。
エミリアは唇を結び、一歩だけ後ろへ下がった。視線は、瞳が赤く染まっていくスバルから離さない。
「……分かった。でも、スバルに何かあったら、私、黙ってないから。ラムも、それを忘れないでね」
声が聞こえる。音も聞こえる。視界も見える。
それでも、スバルの体は自動に動く。憤怒の暴走マシーンだ。
ラムの指示を守り、4人は距離を取って様子を見ているようだ。
そして、スバルはベアトリスの術式に適応を始める。
☆☆☆☆☆
「・・・・・?スバル、どうしたんだい?何をしているんだい?」
ラインハルトが、見ていられずに声をかけてきた。
その声はスバルに届いているが、憤怒の精神汚染に身を任せている今は、振り返ることも、声を返すこともできない。
憤怒の精神汚染は、一つずつ扉を開けて、ベアトリスの金書庫に繋がらないか確認していたのだ。
これが、適応だというのなら、冗談にしかならない。
開けてはハズレ。また横の扉を開けて、繋がるはずもない。
ベアトリスが本気で遭遇を拒めば、こんなやり方で彼女と出会うことなど永遠にできない。
この程度だったのか?あれだけスバルを苦しめた権能は、ただの冗談だったのか?
これでは、ただの話の通じないガラクタだ。
レムは鎖を握りしめ、扉を開けては閉じるスバルの背中を見つめた。
「スバル君の目は、扉しか見ていません。レムたちの声は、やっぱり届いていないんですね……」
ラムは腕を組み、冷静に首を横に振る。
「まだ始まったばかりよ。あれは適応の途中、手当たり次第に確かめているだけ。ラムたちが動くのは、バルスが止まってからでいいわ。今は黙って、見ていなさい」
いいや。ラム。適応はこれ以上進まない。スバルは内心でそう思ってしまった。
まさか、ラムは気づいていない?これは想定外か?
スバルの憤怒の権能の進化が、ただのガラクタだったと、ラムでも気づけないか?
これは、何の冗談だ?
そして、そんな道化ぶりを演じる憤怒の精神汚染に、背後から死神が声をかけた。
「どうやら失敗したようだね。この屋敷に誰か尋ね人が来たら、その時点で犠牲が確定してしまうだろう。僕のやるべきこと、君のやるべきこと。スバル、君は良く戦ったよ」
何を言いだす?背後のラインハルトの表情が見れない。
何か言いだしたのに、スバルはまた扉を開けて、失敗を重ねる。
「王国の王候補のエミリア様は、ここで終わっていいお方ではない。僕の使命は、彼女を守ることにある。これは、使命であり、天命なんだ」
「ラインハルト……? 使命とか天命とか、どうしてそんな言い方をするの? なんだか、いつものあなたじゃないみたい」
憤怒の精神汚染の背後で、エミリアがそう言ったのが聞こえた。
ラムは声を出さなかった。それでも、何か嫌な空気が流れている。
「……ラムが、見誤ったわ」
絞り出すような呟きは、誰に向けたものでもなかった。
確定的な一言に、憤怒の精神汚染に体を支配されたスバルは驚愕する。
あの、神脳が。死に戻りに匹敵するほどの傲慢の極みが誤っただと?
そして、スバルと同じくらい、レムも驚いてるはずだ。
「姉様? どうしたんですか、顔色が……。ラインハルト様は、何を言おうとしているんですか?」
憤怒の精神汚染の背後で、ラインハルトの足音が数歩近づいた。
「今、天命を授かったよ。スバル、覚悟を決めてくれ。僕も覚悟を決めて、君を斬ろう!」
ベアトリスの思惑通りの悪夢が始まった。
失う物など何もない。だから、痛くない。