リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
僕は、ラインハルト・ヴァン・アストレア。ルグニカ王国の剣だ。
龍剣が引き抜く。迷う事は無い。
憤怒の精神汚染は、ようやくこちらに振り返った。
最適化する。導きを実行するため、どこまでも適応する。
それを阻む障害を、叩き潰し、回避し、最適化し続けるようだ。
「ああああああああ!!!」
だが、憤怒の精神汚染が行動を開始する前に、ラインハルトにレムさんの鉄球が振り下ろされた。
それを目で追う必要もなく、軽く躱す。
「レム・・・!?」
レムさんの迷いのない行動に、エミリア様は驚愕していた。
エミリア様は、空を切った鉄球とラインハルトを見比べ、慌てて声を上げた。
「レム、待って! ラインハルトも、剣を下ろして! スバルを斬るなんて、冗談だよね?」
ラムさんは一歩前に出て、ラインハルトの視線を正面から受け止めた。
「待ちなさい、剣聖。ラムの判断が甘かったのは認めるわ。でも、バルスの導きはまだ終わっていない。あと少しだけ、猶予をちょうだい」
ラインハルトは剣先を下げないまま、穏やかに首を振る。
「その猶予の間に、誰かがこの屋敷に入れば、全員が犠牲になる。僕は、確実な手を選ぶよ。エミリア様を守るために」
あぁ。辿り着く。何かが込み上げて、どうしようもないくらい込み上げてくる。
「これが・・・・・僕の傲慢さか!」
「うっ・・・・!!ラインハルト、何を!!」
エミリア様は胸を抑えて、苦しんでいる。ようやく気付いたようだ。
ラインハルトは、エミリア様のスバルへの感情を上回ったのだ。
傲慢の鎖を奪い、自らも次の極致に辿り着く。傲慢の極みだ。
ラインハルトは、自分自身の瞳が空色に輝くのを自覚した。
「やっと、辿り着けたよ・・・・」
すでに傲慢の極みに達した、ラムさんとレムさん。その力は計り知れない。
それでも、ラインハルトがそこに辿り着いてしまえば、問題にはならない。
「大丈夫・・・・。僕は最強なんだ」
エミリア様は胸を抑えたまま、呆然とこちらを見上げていた。
「ラムとレムだけじゃなくて、ラインハルトまで……。どうして私だけ、届かないの……?」
声が震えている。自分のスバルへの感情の重さが上回られたことが、彼女には何より堪えたのだろう。
ラムさんは血の気の引いた顔で、唇を噛みしめた。
「ラムは、二度と誤らないと誓ったのに……。この頭脳があって、なぜこの事態を止められなかったの」
最悪を招いたのは自分だ。その自覚が、彼女の肩を小さく震わせている。
その横で、レムさんだけが静かに鉄球を構え直した。
「相手が誰でも、レムのやることは変わりません。スバル君は、レムが守ります」
迷いのないその瞳に、一瞬だけ息を呑んだ。
「これは天命だ・・・・。誰にも、僕を止めることはできない」
誰にも止められない速度で踏み出し、真っすぐに憤怒の精神汚染、ナツキスバルの心臓を突き刺した。
血が吹き出し、命が失われる。
「・・・・・・・・」
致命傷を受けたのにも関わらず、憤怒の精神汚染は苦しむ声ひとつも上げなかった。
顔は傷つけたくない。静かに終わらせよう。
ラインハルトの傲慢さは、スバルよりも王国を優先することができる。
スバルの胸から吹き出した血が、床を赤く染めていく。その瞬間、彼の傷口から強い光が溢れた。
「スバル君は、死なせません」
レムさんの瞳が、薄青色に輝いている。
そして、スバルの傷口が、見る間に塞がっていく。
「おや?これが、君の傲慢の極みの力かな?」
「あなたは今、レムの一番大切なものに刃を向けました。その意味を、思い知ってください」
ラムさんは薄く笑い、僕を正面から見据えた。
「お見事ね、剣聖。王国のために一人を斬る、立派な天命だわ。……でも、あなたが勝てる筋道は、もう残っていないのよ」
一瞬で結論に辿り着いた者だけが持つ、揺るぎない余裕がその声にあった。
エミリア様は両手で口元を覆い、声にならない悲鳴を漏らしていた。
見逃せない。ラムさんは、何かを今、この瞬間に見つけたのだろうか?
なぜ、笑っていられる?
「ラムさん、何がおかしいのかい?・・・・・レムさん、スバルの致命傷を癒したのは、君だね?」
スバルから龍剣を引き抜き、今度は傲慢の極みに達した二人を警戒した。
「・・・・ッ!待て!待て待て待て!一旦中止だ!」
だが、直後に憤怒ん精神汚染が解除され、スバルが戻ってきた。
どうやら、致命傷を受けたこと、そしてそれが癒される過程で気絶し、戻ってこれたのだろう。
スバルは血の気の失せた顔で、両手を前に突き出した。
「待ってくれ、ラインハルト! 俺は戻ってきた、正気だ! 刺されたのも、全部見えてた。頼む、剣を下ろしてくれ」
声は震えているが、その瞳に赤い濁りはもうない。
エミリア様は涙を拭う間もなく、スバルへ駆け寄った。
「スバル! 痛くない? 本当にもう、大丈夫なの?」
ラムさんは僕を静かに見据え、淡々と告げる。
「ご苦労様、剣聖。あなたのおかげで、バルスは戻ってきたわ。でも、まだ終わりじゃないの。……話を聞く気はあるかしら」
「状況は何も変わっていないよ。それでも、スバル。傲慢の極みに達することができた。君に感謝を伝えられて何よりだよ」
完治した傷口を抑えるスバルと視線が交錯した。
傷は治ったが、ラインハルトは一度彼を殺したことに変わりはないだろう。
殺すつもりで、剣を刺したのだから。
「スバル君っ!離れてください!」
レムさんの大声を、スバルは手で制する。
その表情は、鉄のように冷たくなっていった。
「・・・・俺は落ち着いてる。ちょっと驚いたのは、お前も傲慢の極みに達せられたことだけだよ」
「それは感心しない。僕は君に剣を刺した。その痛みは、受け入れてはいけないものなんだよ。君が抵抗しないなら、それは覚悟ができたと受け取っていいかい?」
「待て、まだその決断は早くないか?傲慢の極みに達したラムもレムも、ただ俺から力を吸い上げるだけじゃない。新しい力を手に入れたんだ。お前にもそれがあるはずだ。力の使い方を考えれば、まだ俺が生き残る道があるんじゃないか?」
スバルのその説得に、ラインハルトは目を細めた。
どうしてしまったのだろう?なんでそんなに仕事相手のように話すのか?
心臓を貫かれた直後だというのに。
「あぁ。スバル、君が僕にくれた、完成された力。それは、覚悟だよ」
「覚悟・・・・?」
スバルは聞き返してきた。その表情の奥には、「たったそれだけ?」という感情が隠れているように見える。
「精神力の強化さ。僕は、もう君に依存していない。完成されたんだよ」
ラムさんは僕を見て、小さく鼻で笑った。
「覚悟、ね。他人の命を踏み台にする覚悟を、そんなに誇らしげに語れるなんて、剣聖は立派だわ」
皮肉の奥で、彼女の瞳は一切揺れていない。何かを待っている者の目だった。
レムさんが鉄球を構え、スバルの前に立つ。
「スバル君を殺そうとするなら、レムが相手になります。何度来ても、傷は治しますから」
エミリア様は唇を震わせ、僕に叫んだ。
「やめて、ラインハルト! スバルを犠牲にして、みんなで出て行くなんて、私は絶対に嫌!」
スバルは鉄のような顔のまま、一歩前に出る。
「殺されてやる気はねえよ。お前の覚悟が本物でも、俺は生き延びる。……そのために、勝つ」
その声に、迷いはなかった。
「気に入らないな」
自らの口からそう漏れ出てしまった。それでも戦う前に言わずにはいられない。
「どうしてしまったんだい?スバル。君はいつからそんな鉄のような男になったんだ?もっと君らしい感情を最後に見せてくれないか?」
こう言ってみたものの、スバルの表情は変わらない。
「君は、何のために生きたいんだい?」
「・・・・・・分からない」
スバルは本気で今考えた。それでも分からないと言った。
その解答に、ラムさんは眉をしかめている。エミリア様も唖然としていた。
「誰だい?スバルをこんな風にしたのは?」
自らの声にも、怒りが宿っていると自覚できた。
スバルをこんな風にした人間を、ラインハルトは許さない。
「俺は、失う物など何もない。だから、痛くない」
「それは、覚悟が決まったと捉えていいかい?」
ラインハルトのその言葉に、スバルは首を振った。
「違うよ、ラムだ。この状況で、俺は役立たずのガラクタだ。でも、ラムならなんとかしてくれる・・・・。そうだよな?」
スバルの視線はラムさんに移り、ラインハルトは彼女を鋭く睨みつけた。
「君だったのか・・・・スバルを壊したのは・・・・」
ラムさんは僕の視線を正面から受け止め、微動だにしなかった。
「ええ、否定はしないわ。バルスが鉄の顔になったのは、ラムのせい。……責任は、ちゃんと取るつもりよ」
その瞳の奥に、静かな怒りが灯っている。向けられた先は僕ではなく、彼女自身だと直感した。
「責任を取る・・・・・?君は傲慢だね」
そう言った直後、レムさんが姉の前に立ち、鉄球を構える。
「姉様を責めるのは、レムが許しません。どんな理由があっても、姉様に刃は向けさせません」
エミリア様は、スバルの横顔を見つめたまま、震える声を絞り出した。
「分からない、なんて……。スバル、お願い。生きたい理由、私と一緒に探させて」
「・・・・・・・・・。」
エミリアの震える声に、スバルは気まずそうな顔をした。
なんて言い返せばいいのか分からないのだろう。
「傲慢の極みに達し、覚悟を手に入れた僕には誰も敵わないよ。これは、無駄な戦いだ」
「無駄・・・ですって?」
この発言に、レムさんから尋常じゃない殺意が伝わってくる。
「そうだよ。これは無駄な戦いだ。僕は、スバル以外を殺すつもりはない。それは、無駄な死だからね・・・・」
直後、ラムから鬼のような殺気が、エミリア様から魔女のような殺気が伝わってきた。
それでも、ラインハルトは続ける。
「ラムさん・・・。どうするつもりだい?レムさんが、傲慢の極みの能力でスバルを癒し続けるのなら、僕は彼女も斬らなければいけなくなる。それは、無駄な死だと思わないかい?」
本当に分からない。どうして全員がスバルの犠牲を受け入れないのか。
みんな、覚悟ができていないのかな?
「君は、どうしてスバルの犠牲が受け入れられないんだい?」
ラムさんは顎を上げ、僕を射抜くように見据えた。
「犠牲を数えて覚悟と呼ぶのは、ただの思考放棄よ、剣聖。それに、無駄かどうかを決めるのは、あなたじゃないわ」
「思考放棄か・・・・。確かに僕の頭では、スバルを犠牲にする道しか見つからない。だったら、ほら。僕に新しい道を見せてくれ」
ラインハルトは、ラムさんに最後のチャンスを与えた。
ラムさんは小さく息を吐き、口元だけで笑った。
「いいわ、見せてあげる。ただし、ラムは口で語る気はないの。……ここから先は、あなたの目で確かめなさい」
「がっかりだよ・・・・そんな君がスバルに信頼されているなんて、虫唾が走るのは僕だけかな?」
次の言葉を聞き終えてから、レムさんを斬る。ラインハルトはそう決意した。
ラムさんは肩をすくめ、涼しい顔で見返した。
「あら、羨ましいのかしら。信頼は、斬って奪うものじゃないのよ、剣聖。積み重ねて、勝ち取るものなの。あなたには、縁のない話ね」
「・・・・・・・・・・」
すぐに何も言い返せなかった。言葉に詰まる。
沈黙が続く限り、ずっと言い負かされた感覚が続く。
そして、1秒1秒と時間が過ぎるたびに、ラインハルトはどす黒い感情に支配されていった。
「スバル・・・・僕は、最後に彼女から君を取り戻すよ。君は、全て奪われたんだ」
「俺は、失う物など何もない。だから、痛くない」
許せない。審判を下そう。これは天命だ。
「僕は天命に従い、2人を斬る!ここから生き延びられると思わないでくれ。できるものならやってみろ!」
この宣戦布告に呼応するように、ラムさんの額から角が出現した。
断固、抗戦するつもりなのだろう。
ラムさんは額の角にそっと指を添え、艶やかに微笑んだ。
「天命ですって? 随分と便利な言葉ね、剣聖。……ご安心なさい。この先であなたが見るのは、天命ではなく、ただの後悔よ」