リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
憤怒の極みは、ラインハルトへの存在適応を開始した。
この存在は、ただラムの頁の導きを守るためにある。
だが、それを成すためにはスバルとラムが生きていることが前提条件だ。
現在、この二人は命の危機に晒されている。
憤怒の極みは、まずその障害となる剣聖を排除することにした。
動き出したスバルに、エミリアは必死の形相でしがみつく。
彼女は、震える声で顔を覗き込んだ。
「スバル、私が見える? 聞こえてる? 私の声、ちゃんと届いてるの?」
返事はできない。それでも、彼女は手を離さなかった。
「頼るしかないって、分かってる。分かってるけど……お願い。行く前に、一度だけでいいから、私を見て」
「・・・・・・・・・・」
「うっ・・・!」
そんなエミリアを、憤怒の極みは突き飛ばした。
はねのけて、動き出す。
すまない。これがこの権能の恐ろしさだ。それは彼女が一番分かっているだろう。
それでも、ラムの憤怒を感じ、救いたい人物の一人にちゃんとエミリアが入っていることをスバルは知っている。
だから、今彼女を突き飛ばしたことに対して自己嫌悪しているのだ。
怖い。何かの間違いでエミリアを殺してしまわないか。もうこの体は制御不能だ。
失いたくない。白黒だからどうでもいいとは、とても考えていられない。
ラインハルトへの存在適応開始。最適化する。どこまでの冷酷に、躊躇なく導きを実行する。
そして、どこか世界に影響が起こった。
屋敷内の空気が変わる。
☆☆☆☆☆
憤怒の極みは、ラインハルトを排除しなければいけない。
だが、その標的は自ら姿を現した。
「ラインハルト・・・・!もうやめて!降参して!」
レムを殺しに行ったはずの剣聖は、血相を変えて戻ってきた。
憤怒の極みに、存在適応された自覚があるのだろう。
「エミリア様・・・・・。剣聖に、降参などという二文字は存在しないよ・・・・。それでも、これには本当に驚かされる!」
傲慢の極みに達し、空色に輝く相貌は見開かれている。
龍剣を構え、臨戦態勢に入っていた。
「はっ!?」
だが、次の瞬間には剣聖は何かを悟ってしまった。
完全に虚を突かれ、蒼白になった顔面から全てを抜き落としたかのように。
「言ったでしょう?これは、天命ではなく、後悔だと」
角を折られ、瀕死状態のラムは、剣聖を嘲笑う。
ラインハルトとスバルは同時に彼女の恐ろしさを実感した。
スバルは導かれ、ラインハルトは飲み込まれたのだ。
これが、死に戻りに匹敵するほどの可能性を秘めた策謀だった。
「剣聖の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア!」
「・・・・・・・・・・・」
名乗りを上げたラインハルトに対し、憤怒の極みは何の言葉も発さない。
自らの親指を噛んだ。血を飲み、憤怒の権能によりドーピングを利用する。
強化された身体能力で、剣聖に向かって駆けだした。
迎え撃つは、龍剣を構えた。最弱の剣聖だ。
逃げろ。ラインハルト、お前は勝てない。逃げてくれ。俺にお前を殺させないでくれ。
どうした?失うのが怖い。お前を失いたくない。俺の手で殺したくない。
これは、俺の過ちか?俺はどこで間違えた?
分からない。この憤怒は俺のものか?ラムのものか?
俺は失う物など無くなったはずだ。この世界で最後の、色を失ったあの瞬間から。
いいや。この痛みはきっとなくなる。憤怒の極みさえ解除されれば、また痛みを感じなくなった自分に戻れる。この運命は、受け入れられる。
これが正しい道なのか?ラインハルトをこの手で殺さなければ、本当にこの状況は解決できないのか?
ラム・・・・。お前の救いたい人物たちの中に、ラインハルトは入っていない。
でも、スバルは違う。スバルは、ラインハルトととも生きていきたいんだ。
あぁクソ。この体は動かせない。もう誰にも、止めることはできない。
でも、ラインハルトなら?今悟っているはずだ。自らの体に起こっていることを。
ラインハルトは、高速で迫るスバルに対して身体的対峙動作は取らなかった。
ただ、龍剣を構えて迎え撃つ。
それは、余裕なのではない。それしかできないのだ。
ラインハルトへの存在適応。それがすぐに開始できたのには理由があった。
傲慢の予知夢で、スバルはラインハルトと1000回以上に渡り、戦いを繰り広げた。
その経験が、情報として適応に利用されたのだ。
つまり、この世界で戦闘経験を積むことなく、開始直後からの存在適応が開始した。
憤怒の極みはラインハルトに対してメタな存在だ。
どのような適応をしても、ラインハルトには勝てないはずだった。
たとえ、ラインハルトより足が速く、ラインハルトより腕相撲が強く適応強化されたとしても、この男には勝てない。
彼を自動で強化するオド・ラグナの加護は、剣聖を負けさせないからだ。
だが、権能は加護を上回る。
憤怒の極みはラインハルトへ適応し、ラインハルトの所持する全ての加護を世界から簒奪した。
それだけではない。加護を失った彼本来の力すら、コンマ1秒ごとに失われていく。
存在するだけで、弱くなり続ける。
それを察知したからこそ、レムを殺すことを放棄してラインハルトは戻ってきたのだ。
一刻も早く憤怒の極みを殺さなければならないと、彼も察したのだろう。
立場が逆転した。こんなことがありえるのかと、スバルは動かせない体の中で唖然としていた。
傲慢の世界線で、あれだけ届かなかった最強の存在が。あれだけ、嫉妬した真っすぐな強さが。今は逆転してしまっている。
今のラインハルトは弱くなり続け、もうスバルにも届かない。
「あっ・・・・・!」
ドスッ!
龍剣を振りぬくことすら、間に合わなかった。目でも追えていなかっただろう。
スバルにとって、こういう負け方は日常茶飯事だった。
超人的な相手に、何をされたのかも分からないまま致命傷を受ける。
これは、ラインハルトが知らない感覚で、初めて味わう敗北だ。
憤怒の極みのパンチは、剣聖の胸を貫いていた。
やってしまった。こうなるって分かっていたはずだ。
スバルは、憤怒の極みの中でできる限りの全力で叫んだ。
声は出せない。なんの感情も発散されない。それでも、この痛みにもがき苦しむ。
俺が殺した。俺のせいでラインハルトは死ぬ。
腕を引き抜かれ、蹴り飛ばされたラインハルトが床に倒れた。
もう、彼に回復や復活の加護はない。剣聖はなす術もなく終わる。
「・・・・・・・・・・」
何か言いたい。最後に彼に伝えたい。今のスバルは鉄の人間などではない。
ラインハルトの命を奪うことに、確実な痛みを感じていると伝えてやりたいのに。
憤怒の極みは、剣聖の死をじっと見届ける。何も言わずに、見つめるだけだった。
「はは・・・・。後悔か・・・・」
口から血を零しながら、仰向けに横たわったラインハルトは天を仰いだ。
「だから・・・・・降参してって言ったのに・・・・」
エミリアは、ラインハルトに治癒魔法をかけようとしない。
この場で誰よりも、憤怒の極みの恐ろしさを知っている。
「天命なんて・・・・くだらない。運命の道は自分で切り開くものよ。バルスより王国を優先しようとした、自らの運命を捨てたことが、あなたの後悔よ」
ラムの冷酷な言葉にも、ラインハルトは口角を上げた。
「いいや・・・・・この傲慢さを、スバルから貰ったんだ。だから、悔いはない・・・・・」
そして、剣聖は目を閉じた。もう目を開くことも、言葉を発することも無かった。
傲慢の極みに達したラインハルトの力は、精神力の強化だ。
その力は、敗北しても、死の運命を受け入れる。彼に後悔をさせなかった。
悔いはない・・・・・か。だったら俺は、お前の運命まで背負う。
この運命はやり直すことができない。俺が殺したという事実を、最後まで背負って生きていくしかない。
ラインハルトは、最後まで仲間だった。
今までにない痛みに晒されながら、憤怒の極みはまた動き出した。
当然だ。まだ終わってない。
”ベアトリスのところにラムを連れて行くこと”
これを実行するまで、どこまでの最適化する。適応し続ける。
ベアトリスの術式への適応を開始する。
☆☆☆☆☆
ラインハルトを失った後、憤怒の極みはラムに肩を貸しながら移動していた。
この冷酷な怪物が、こんな挙動をするとは思わなかった。
導きを実行するために、どんなこともするのだと再確認させられる。
エミリアは、何も言わないまま背後からついてくる。
そして、そんな3人を見つけたレムが遠くから走ってきた。
レムは息を切らせて駆け寄り、足を止めた。肩を借りて立つ姉の額に、折れた角の痕を見つけてしまったからだ。
「姉様……! 角が……。レムが離れていたせいで……」
震える手で、血に染まった姉の頬に触れる。それから、赤い血のような瞳のスバルへ顔を向けた。
「スバル君、レムです。約束通り、戻りました。聞こえていますか?」
返事はない。それでも、レムは目を逸らさなかった。
「ラインハルトは、どうなったんですか……?」
エミリアの沈黙が、その答えを告げていた。
「殺したわ・・・・・・。そう、私が殺した。レムの命を脅かす敵は、誰でも許さない」
違う。殺したのは俺だ。
「角も、気にしなくていいわ。もともと鬱陶しいと思っていたの」
それを聞いて、レムはさらに涙を流して駆け寄った。
彼女は、姉の体を壊れ物のように抱きとめた。
「気にしないわけ、ないじゃないですか。姉様の角は、レムにとっても大切なものなんです」
涙で滲んだ声が、震える。それでも、憤怒の極みを見上げた。
「終わらせましょう・・・・スバル君、早く戻ってきてください」
憤怒の極みは、ラムをレムに預けた。
そして、近くのドアに手を伸ばす。
扉渡りに適応し、ベアトリスの存在位置を特定。
ここを開ければ、彼女のもとだ。どこにも逃げられはしない。
「・・・・・・・・」
まるでなんのことはない、日常動作のようにドアを開けた。
すると、目の前には金書庫に繋がっていた。
ドレス姿のベアトリスは、扉の前に座っている。
彼女と目が合った。終わりを望んだ、ベアトリスと目が合った。
「来たのね・・・・。ベティーを終わらせに」
小さな肩から、すっと力が抜けていく。抵抗する素振りはない。
「いいのよ。負けを認めてやるかしら」
「・・・・・・・・・・。」
そこへ、レムに支えられたラムが、血の滴る足で一歩前に出た。
「勘違いなさらないで、ベアトリス様。バルスは、あなたを殺しに来たのではないわ。ラムを、ここへ連れてきただけ」
折れた角の痕を隠そうともせず、薄く笑う。
「真実を教えてあげましょう」
ラムの頁の導きは果たされ、スバルは憤怒の極みから解放される。
血のような瞳は元に戻っても、ラインハルトを殺した心は痛いままだった。