リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル)   作:駄々我菓子

71 / 72
最後の戦い

「待って・・・」

 

 ラムとベアトリスのやり取りが変わるより先に、スバルはとある変化に驚愕していた。

 確かに、ラムに色がついていたのだ。

 

 桃色の髪に、額の角は折られ、真っ赤な鮮血が流れていた。

 憤怒の極みに達し、ラムの憤怒と一つになったことで、ようやく信じることができた。信じざるを得なかったのだ。

 

 彼女は、間違いなくスバルの仲間だった。

 

 ラムは、自分に注がれる視線の変化を見逃さなかった。元の色に戻ったスバルの瞳を、真正面から見返す。

 

「やっと、ラムをちゃんと見たわね、バルス。……遅いのよ。何度目で気づくつもり?」

 

 毒を含んだ声なのに、口元はわずかに緩んでいた。

 レムはスバルの目に一瞬だけ視線を向けたが、すぐに姉の傷だらけの体へ意識を戻した。

 

「スバル君の目も気になりますが、今は姉様の治療が先です! 血も、マナも、このままじゃ足りなくなってしまいます……!」

 

 肩を支える手が、焦りで小刻みに震えている。

 

 エミリアはスバルへ向けかけた視線を、ぐっと引き剥がした。眉は歪み、唇は強く噛みしめられている。

 

「スバルのことは、あとで聞く。……ラム、お願い。早く、なんとかして。このままじゃ、あなた、死んじゃう。私には、どうすればいいのか分からないの。でも、ラムなら、方法を見つけられるんでしょう!?」

 

 悔しさが滲む声だった。縋りたくない相手に、縋るしかない。その葛藤が、歪んだ表情にそのまま出ている。

 ラムは小さく息を吐く。

 

「心配しないで、。方法なら、もう思いついているわ。……でも、もう少しだけ、このままでいい」

 

 レムが何か言いかけるのを、紅の瞳で静かに制する。それから、顔を上げてスバルを見据えた。

 

「バルス。レムとエミリア様を連れて、下がりなさい。ここから先は、ベアトリス様とラムの話よ」

 

「いや、このままじゃ良くない。俺の暴食の権能なら回復できるだろ?少量の血なら問題ない・・・・」

 

 これ以上ボロボロの姿を、見ていられない。

 こんな風に、スバルに心配される程ラムはヤワじゃないのは分かっているが。

 

「話すって・・・・なんのつもりかしら?お前は、ベティーと話している暇はないはずなのよ」

 

 ベアトリスも、今のラムの状態に眉をしかめた。

 

 ラムはスバルの申し出に、一瞬だけ顔をしかめた。

 

「必要ないわ。バルスの血に頼るなんて、おぞましい。そんな真似をするくらいなら、このまま倒れていたほうがましよ」

 

 突き放す声は鋭い。それでも、それが完全な拒絶ではないことは、スバルにも分かった。頼れば、どうにかなる。ただ、ラムはそれを選ばない。

 ベアトリスを正面から見据え、言葉を重ねる。

 

「時間がないのは、お互い様でしょう、ベアトリス様。だからこそ、今話すのよ。この傷は、ラムが自分で決めて後回しにしているだけ。余計な気遣いは無用よ」

 

 レムは姉の腕を、ぎゅっと握りしめた。

 

「姉様、スバル君の血なら、レムも反対しません。……それに、レムは下がりません。姉様が倒れそうなのに、離れたくないんです」

 

 ラムは、何かを飲み込むように、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

 

「レムには聞かせたくない話をするの・・・・面倒をかけさせないで」

 

「時間が惜しい・・・・・レム。エミリアも、一旦出るぞ」

 

 口ではこう言ったが。スバルは気づいてしまった。ラムが何を話そうとしているかを。

 ベアトリスに、死に戻りについて話すつもりなのだろう。

 ラムが自力で推理した、死に戻り。正確には、スバルがラムは推理できていると想像しているだけだ。

 それを確定させる核心的な会話はしていない。間接的に、彼女は死に戻りを推理できていると確信させられているだけだ。

 だから、サテラは現れていない。

 

 そして、スバルのいないところでラムがベアトリスに死に戻りを話したらどうなる?

 ベアトリスが信じなければ、それはただの妄言と変わらない。

 そもそも、どんな会話をしたのかスバルは知るよしもない。

 少し、意味をずらして話すこともできる。だから、サテラは現れない。

 ラムが、ここまで想定しているとしたら。

 

 これを伝えることで、ベアトリスの憎悪は解消され、この戦いが終わるかもしれない。

 知られたくない。スバルは、自分の死に戻りについてどうしても他人に知られたくなかった。

 これを知れば、あの夢でのベアトリスのように、彼女は傷ついてしまう。

 それは、死より辛いものかもしれない。

 でも、これからまた生きていけるなら。ベアトリスを殺さずに済むのなら。

 受け入れるべき、犠牲だ。スバルは、この痛みを受け入れる。

 

「待ってください・・・・。姉様、レムもここにいさせてください」

 

「私もここに居るわ・・・・・あなたがベアトリスに何を話すのか、想像もできないけど…。私達に聞かれたくないことなんでしょう?そんなの、黙って従うわけないじゃない!」

 

 これは違う・・・。ベアトリスに知られるのとは違う。

 レムとエミリアにも死に戻りがバレ、スバルだけがこの場から退場するのか?

 もしも、今ラムが「バルスだけ出て行きなさい」とか言い出したらどうする?

 

 これは違う。ダメだ。許せるのは、ベアトリスに知られることまでだ。それ以上は受け入れられない。

 

 スバルは、怯えながらラムの反応を待った。

 

「バルス・・・・・。レムとエミリア様をこの場から連れ出しなさい」

 

 その言葉が聞きたかった。自らの目に光が宿るのを自覚する。

 

「・・・・・・よし、お前ら退場だ。戦いは終わったんだ後はラムが上手くやってくれるって・・・・」

 

 レムは姉の腕を両手で掴んだまま、首を横に振った。

 

「嫌です。……理由は、レムにも分かりません。でも、姉様とベアトリス様のお話が、どうしても気になってしまうんです。聞かなければいけない、大切な真実のような気がして……」

 

 迷いを振り切るように、掴む手に力がこもる。

 

「だから、レムは離れません。姉様にも、スバル君にも、お願いです。ここにいさせてください!」

 

 エミリアはスバルの前に回り込み、行く手を塞ぐように立った。

 

「戦いが終わったのは、分かった。それはいいの。でも、ラムとベアトリスの話は、私も聞く。これ以上、分からないことを抱えたままでいるのは、もう耐えられないの!」

 

 眉も唇も歪んだまま、スバルを睨みつける。声が震えていた。

 

「スバルが何かを隠してることくらい、私にだって分かる。……それでも、教えてくれないの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 何も言い返せず、内心には焦燥が積もっていく。

 心の底から恐れている。痛みを恐れている。

 死に戻りがバレるのは、間違いなく今までにない痛みだ。

 

 ベアトリスにも本当は知られたくない。でも、殺すよりはマシだ。

 なんなんだよこの最悪の2択は。

 でも、エミリアとレムは絶対にダメだ。真実を知る心の準備が出来ているようにはとても思えない。

 

「・・・・・タイム・・・」

 

 ラムに色が戻ってから、全てのことが白黒だと思えなくなった。

 絶対に、2人には死に戻りを知られたくない。

 

 スバルは、憤怒の書を開いて頁を確認した。

 

 レムの頁には”スバルがレムを残して出て行く”と書かれてある。

 エミリアの頁には”スバルがエミリアを残して出て行く”と書かれてある。

 

 ふざけるな。これで解消される憤怒は今の一瞬だけだ。

 その後真実を知って、二人がどれだけ心を痛めるのか、全て無視されている。

 

「ちょっとっ・・・!何読んでるの!?」

 

「近づくなっ!!」

 

 スバルは、尋常じゃない剣幕でエミリアを遠ざけた。

 距離を取って、次はラムの頁を見る。

 

 ”レムとエミリアを連れ出すこと”

 

 それが目に入った時、まるで勝利を確信した勇者のような表情になった。

 

「ラムとベアトリスの会話は聞かせない!抵抗するなら、憤怒の極みになってやろうか!?」

 

 これほど、恐ろしい脅しがあるか。本当にやるわけじゃないからこそ、ギリギリ許されない脅しだ。この脅しが許されないことくらい分かってる。

 それでもこれで、確実に二人は諦めるだろう。

 

 だが、スバルの想定とは真反対に、レムとエミリアからはドス黒い風格が漏れ出してきた。

 

 レムは、静かに顔を上げた。声は低く、驚くほど穏やかだった。

 

「スバル君。今、何と言いましたか。レムたちが知りたいと願うだけで、憤怒の極みで黙らせる、と」

 

 鎖を握る指が、白くなっている。

 

「あの力を、レムたちを脅すために使うんですね」

 

 その横で、エミリアの足元から、ぴきぴきと氷が這い広がった。

 

「ふざけないで、スバル。あの時の私みたいに、また誰かを壊すつもりなの? 私を、そうやって黙らせようとするの……!」

 

 瞳が揺れ、唇が震えている。怒りと悲しみが、ぐちゃぐちゃに混ざっていた。

 

「それでも、私は引かない。絶対に、引かないから!」

 

「はっ・・・・は」

 

 言葉にならない声が漏れ出た。話すことすべてが裏目に出る。

 鉄のような人間なら、こんな醜態をさらさずに済んだ。

 

 今、信じられるのは色がついたラムだけで。

 ラムもレムとエミリアが信じるを知ることを望まない。

 

 スバルは、助けを求めるようにラムの方を見た。

 

「レム・・・姉様の言うことが聞けないの?」

 

 その低い声を聴いて、スバルの側が胸が熱くなった。

 今この状況で、ラムは味方だ。

 

 レムの肩が、びくりと跳ねる。この世界でレムが最も恐れるのは、敵の刃ではない。姉に見放されることだ。スバルは、それを嫌というほど知っている。

 

「姉様……」

 

 唇が震え、瞳が揺れている。

 

「姉様の言うことなら、レムはどんなことでも聞いてきました。聞けなかったことなんて、一度もありません。……でも、これだけは、どうしても」

 

 涙がぽろりと落ちる。

 

「レムは、ここにいなければいけない気がするんです。理由は分かりません。分からないのに、離れたら一生後悔する気がして……!」

 

 白黒のレムの顔が、泣き顔のまま姉を見上げていた。色のない涙だった。

 エミリアは、そんなレムの隣に、一歩踏み出して並んだ。足元の氷が、ぱきりと音を立てる。

 

「私も、出て行かない。何があっても、ここからは絶対に出て行かないから」

 

 眉も唇も歪んだまま、スバルを真っ直ぐに睨みつける。

 

「憤怒の極みになっても、ラムに言われても、同じ。私は、ここにいる。聞くまで、絶対に動かない」

 

 声は震えていた。それでも、その決意は、氷のように揺るがなかった。

 

「だから、出て行けって言ってんだろ!なんで分かってくれないんだ!」

 

 もうこれしか言うことがない。

 

「分からないわ!」

 

 エミリアが、叫び返した。

 

「分かるわけないじゃない! スバルが何も教えてくれないのに、どうやって分かればいいの!?」

 

 目尻に滲んだ涙を拭いもせず、拳を握りしめる。

 

「教えてくれたら、分かるわよ。ちゃんと分かりたいの。……それなのに、いつも一人で決めて、一人で背負って、出て行けって言うだけなんて、そんなの、ずるいわ!」

 

 レムも、首を横に振った。

 

「レムも、姉様とスバル君が隠している真実を知りたいんです。出て行けと言われるたびに、レムは、必要ないと言われているような気がして……」

 

 言葉が出ない。喉の奥で、何かが詰まったように動かなくなる。

 

 扉の前に座ったままのベアトリスは、何も言わなかった。

 

 白黒の小さな少女は、膝の上で指を組み、視線を床に落としている。

 急かすことも、咎めることもしない。この場に口を挟む資格が、今の自分にはない。  

 そう自覚している者の沈黙だった。

 

 その沈黙が、かえって重く、全員の背中にのしかかる。

 

「貴方たちは・・・・・真実を知るには弱すぎる」

 

 ラムの低い声に、レムとエミリアは目を見開いた。

 

「姉様っ・・・・・!」

 

 反抗的に声を荒げたレムだったが、次の瞬間には膝から崩れ落ちていた。

 

「レム・・・・・?」

 

「うううぅ・・・・・・あああああ!」

 

 明らかに、ラムが何かをした。レムは全身に響く苦痛に悶えているようだ。

 

「ね・・・・姉様・・・これは、一体」

 

 これは、レムとラムの中でだけ怒っている現象。共感覚に関係する何かだろう。

 体の負担に苦しむレムとは反対に、少しラムの顔色が良くなったように感じた。

 

「何をした・・・?」

 

「いいから。バルス、今のうちにレムを連れ出しなさい・・・・・エミリア様は、あなたには無理でしょう」

 

 その言葉に、スバルはハッとする。

 自分に、エミリアを連れ出す力はないのか。

 

「そうね・・・・。スバル、私は絶対に動かないから!」

 

 心の内の不安を確定させるように、エミリアは畳みかけてきた。

 奥歯をギリッと噛んで堪える。

 

「ま・・・待ってください・・・・・・」

 

 床に倒れこみ、小刻みに体を震わせるレムの腕をつかむ。

 彼女は、すぐに睨み返してきた。それでも、抵抗力は弱く、問題ない。

 

「まずは、確実にお前から退場だ・・・・。ラムに何されてるか分からねぇけど、同時に二人は無理だからな」

 

 そう言って、スバルはエミリアの方を睨みつけた。

 こっちもどうしても引けないんだ。

 

 ガバッ!!

 

 だが、力の入っていなかったレムは、突如物凄い力でスバルの腕を振り払った。

 

「何っ!」

 

 その様子に、ラムの表情も驚愕に染まっていた。

 

「分かりましたっ!この苦しみは、きっと、角を失った姉様の負担の一部なんですね!レムは、その苦しみを引き受けられることをずっと望んでいました!」

 

「レム・・・・・どうして、動けるの?」

 

 ラムの言葉は突然弱弱しくなった。この事態を、彼女も想定できなかったのか?

 

 スバルは理解する。ラムは何かの方法、恐らく共感覚を応用して角を失った負担をレムに肩代わりさせている。

 折れた角を触媒にすれば、それはできるのかもしれない。

 恐らくは、嫉妬の世界線。プレアデス監視塔での暴食との戦いで彼女はそれに近いことをやった。

 でも、あの時はスバルの強欲の権能。コルレオニスを参考にすることで出来ていたはずだ。

 

 そうか。ラムは強化された頭脳と、スバルの傲慢の権能を参考に、これを成したのだ。

 

 だったら、尚更レムは何で動ける?

 

「姉様・・・・・今、レムは姉さまの何割の負担を感じていますか?」

 

 小刻みに体を震わしながら、妹は立ち上がった。

 

「・・・・・・・1/100くらいよ」

 

 姉の残酷な返答に、妹は強く目をつぶった。

 

「姉様は、優しすぎます・・・・・ですから、今だけは言うことを聞きません!」

 

 レムは、モーニングスターの鎖を強く握りしめて、スバルとラムを威嚇する。

 

「お・・・・・・お前・・・・」

 

「スバル君、そんなに辛そうな顔をしないでください・・・・・レムは、あなたよりずっと強い!」

 

 その言葉に、スバルの眉間の血管が、ピキッと浮き出た。

 

「私は、あの時から・・・・・・私を許していない。スバル、今邪魔をするなら・・・・・少し大人しくさせるわ」

 

 エミリアも、重く黒い剣幕で詰め寄ってくる。

 スバルは、もう一度ラムの方を見て、助けを求めてしまう。

 何か言ってやってくれ。もうスバルの言葉では、彼女たちは止められない。

 

 だが、ラムの視線はレムたちではなくスバルの方に返ってきた。

 

「やりなさい、バルス・・・・」

 

「は・・・・?」

 

 まさか、憤怒の極みを・・・・・脅しではなく本当にやれと言うのか?

 

「怖いの!?・・・・・この意気地なし!」

 

 その言葉に、眼球の血管が拡張し怒りで視界が真っ赤になった。

 そこまで言うなら、やってやるよ。

 

「お前らに・・・・この真実は知らせない!」

 

 ”レムとエミリアを連れ出すこと”

 

 この導きを実行するために、スバルは憤怒の極みになった。

 瞳が、赤く輝いていく。

 

 制御できなくなった体の中で、スバルはレムとエミリアを見た。

 二人とも、まったく憤怒の極みに怖気づいていない。

 

 この戦いを、エミリアは受け入れている。少しの笑みさえ見せていた。

 

「もし、気絶させられたら・・・私の勝ちってことにして!」

 

 レムは、ラムの負担を一部引き受けていて、戦いどころではないはずだ。

 

「姉様・・・・スバル君も・・・!止められるものなら止めてみてください!」

 

 苦しみに震える体で、強く鎖を握りしめている。

 引くつもりは一切ないようだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。